みんなで餅つき〜理穴〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや易
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/12/31 23:38



■オープニング本文

前回のリプレイを見る


 天儀本島の北西に広がる国『理穴』の首都、奏生にも開拓者ギルドは存在する。
 理穴・開拓者ギルドを任されているのが『大雪加 香織』である。
 理穴出身故に幼き頃は弓術を習っていたようだが現在の彼女が扱う武器は銃砲。ある時から砲術士に転身したようだが、その理由を語る事は滅多にない。
 理穴の東に広大な魔の森が鎮座しているのはあまりにも有名である。『緑茂の戦い』に勝利したおかげで浸食は後退し、現在では抑制状態になっていた。
 とはいえ過去には悲惨な現実が数多ある。魔の森に呑み込まれていった町や村、集落がどれほどあったことか。
 その理穴北東の海岸線付近に存在する魔の森内で村が発見された。
 長く魔の森に囲まれたまま存続してきたのだという。緑茂の戦いを機にして魔の森との境になる外縁が広がり、海岸付近までかなり安全に近づけるようになった。そこで取り残された人々は手紙を足に結びつけた鳩を飛ばし続けた。
 そのうちの一羽が大型飛空船『角鴟』で警戒中の大雪加に助けられる。そのおかげで五十九名が無事救出されたというのが顛末である。
 理穴の王『儀弐重音』から許可を得て魔の森に囲まれながらも呑み込まれなかった土地『遠野村』は当分の間、理穴・ギルドの預かりとなった。
 救出に続いて地上、地下と両面からの調査が行われた。その結果、地下にある石造りの迷路の正確な地図の入手に成功する。
 探索の結果、最奥で発見されたのは地底湖。そこに住まうは『湖底姫』と名乗る気位の高い女性の姿をした精霊であった。
 湖底姫は遠野村を再び人が朋友が暮らす土地に戻したいと考えていた。しかし出入りにも危険が伴う土地故に大雪加や開拓者の何名かは難色を示す。遠野村と海岸を隔てる帯状の魔の森を排除する必要が求められた。
 作戦は周到な準備の上で決行される。
 開拓者達がアヤカシを侵攻を阻止してくれたおかげで清浄の地下水の流れ変更による土地の入れ替えは完了した。帯状の魔の森は形骸化し、アヤカシは清浄の地下水によって一掃。ただ念のための焼き払いが理穴の兵によって行われた。
 しばらくして山間集落から移住を招き入れる。七十八名、十九家族が遠野村へと移住する。さらに村の今後を考えた円平は四名の若者を奏生に修行へと旅立たせた。二名の青年は船大工修行。二名の娘は漁網作りを習うために。
 同時期に円平は漁船二隻と漁網数反を購入して毛ガニ漁を開始。遠野村沿岸は毛ガニの宝庫であった。
 毛ガニを遠方で売るためには飛空船が必要なものの、新造を買う費用を用立てるのは難しかった。
 円平と湖底姫は結界外郭周辺に墜落していた飛空船を発見して宝珠回収の作戦を練る。高価な宝珠さえあれば飛空船の建造費用をかなり抑えることが出来るからだ。
 湖底姫、そして開拓者達の力を借りて無事回収に成功。浮遊宝珠七個、風宝珠六個は中型飛空船を造るには十分な数と能力といえた。造船に関しては開拓者お勧めの朱藩安州・高鷲造船所へと依頼される。
 やがて春の訪れと共に大地から子もふらが産まれた。遠野村の復興を予感させる出来事だ。
 飛空船建造が始まってまもなく訓練が開始された。円平を含めた遠野村の三名が理穴ギルドの飛空船へ乗船。長い空の生活を経験する。
 ところがある日、天候が崩れて飛空船もろとも遭難。乗船者は全員行方不明となってしまう。墜落したとの憶測も囁かれたが、飛空船はケモノの大鳥に攫われていた。開拓者の力を得て全員を巣から救出に成功。事なきを得る。
 やがて完成した中型飛空船は『希望号』と名付けられて初めての長距離飛行を行う。朱藩安州から遠野村へ。嵐に襲われたものの全員で協力して乗り越える。
 毛ガニを奏生で販売した帰りに襲われもしたが、稲刈りを手伝うためにたまたま開拓者達が乗り込んでいたおかげで撃退。空賊が使用していた青い飛空船はしばらくして遠野村の所属となった。
 ささやかながら秋の収穫を祝う宴も開かれる。開拓者達も手伝って共に楽しい時間を過ごす。
 湖底姫が凍らせてくれた湖でワカサギ釣りも行われる。寒い冬の季節であっても遠野村には楽しいことが溢れていた。
 そしてもうすぐ年の暮れ。


 正月が間近に迫るとおせち料理を作るために遠野村の女性達は大忙し。その分、正月の間は楽が出来るので仕事の前倒しといった意味もあるが大変なのは間違いない。
 村の男性達にも大きな仕事が残っていた。それは餅つきである。
「これは壮観じゃの」
 湖底姫は倉から出されて軒先に並べられた杵と臼を眺めて感嘆する。全部で十二組もあってかなり離れなければ全部を視界に収めることはできなかった。
「村で使う分の餅だけでなく、お裾分けの伸し餅も作ろうかと思ってね。近辺を巡回してくれている理穴ギルドの飛空船の乗員達や理穴ギルドの方々にも渡そうかと」
 口の回りに布を巻いた遠野円平は叩きで杵と臼の埃を払う。後で水洗いをし、餅つきの当日にもあたらめて綺麗にするつもりである。
「うむ、よい心がけじゃ。儲けばかりを考えておると人は駄目になるからのう。ま、生きるためには稼がねばならぬのはよくわかっておるのじゃが‥‥」
 湖底姫は円平にうんうんと頷いた。
 寒風に吹かれても円平は湖底姫と一緒ならば春の日差しの下と一緒と感じる。それは湖底姫にとっても同じことである。
 村総出での餅つきの日はもうすぐ。理穴奏生へ立ち寄った際に開拓者ギルドへの依頼は済ませてある。
 形式としては餅つきの手伝いとして開拓者を呼ぶことになるが円平の真意は違う。一緒に餅つきを楽しんでもらえればよいと考えていた。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
御剣・蓮(ia0928
24歳・女・巫
一心(ia8409
20歳・男・弓
針野(ib3728
21歳・女・弓
鉄龍(ib3794
27歳・男・騎
神座早紀(ib6735
15歳・女・巫
衝甲(ic0216
29歳・男・泰


■リプレイ本文

●餅つきの準備
 雪積もる遠野村の広場へと中型飛空船が舞い降りる。
 下船した開拓者達は寝泊まり用の一軒家に荷物を預けると、卓に置かれていた円平からの手紙に従って近くの小屋へと向かう。
 戸を引いて中に入ると杵と臼が並んでいた。奥では餅米を研ぐ真っ最中である。
「すみません、作業がみなさんの到着時期と重なってしまって。よくおいで下さいました」
「よくきたぞ。待ちわびたのじゃ」
 円平は白い息を吐きながらも汗だくだ。湖底姫は相変わらずの涼しい顔をしていた。
「餅つきの下準備、お手伝いします。それにしてもたくさんありますね」
 腕まくりをした神座早紀(ib6735)が首を大きく動かして積まれた米俵の山を見上げる。
「そうでもありませんよ。水は姫が出してくれるので汲む必要はないし、餅米は汚れをとるめに軽く研ぐだけですから」
 円平は笑うが研いで水に浸しておかなければならない餅米の量はかなりあった。開拓者は全員で手伝い始める。
「理穴ギルドの大雪加さん達にお土産として餅を持って帰りたいと考えていたんだが、どうだろうか?」
 羅喉丸(ia0347)は杵と臼にヒビが入っていないかを確かめながら円平に話しかける。羽妖精・ネージュが不思議そうに羅喉丸の手元を覗き込んでいた。
「私もそう考えていたんです。帰りの飛空船に土産として餅を積んで運んでもらえるでしょうか。奏生で渡して頂けると助かります」
 円平もそのつもりだったという。ギルドへの贈り物として飛空船に餅を積んで帰ることが決まった。
「すごい餅つきになりそうですねぇ。これも大丈夫と‥」
 一心(ia8409)も羅喉丸と手分けして杵と臼が大丈夫か確認中。力自慢が多い開拓者なので餅つきの最中に道具が壊れでもしたら大変だからだ。人妖・黒曜は一心が話すたびにコクリと頷いていた。
「あちらに移せばよいのだな」
 衝甲(ic0216)は確認が終わった臼と杵を担いで別所の茣蓙の上へと移動させる。これから手伝う餅米の洗浄作業の邪魔になりそうだからだ。
「こうしておかないと使い物になりませんので」
 神座早紀は臼の凹みに水を張ってその中へ杵の先端を浸けておいた。明日にはちょうどよい案配で水が染みこんでいるはずである。
「鉄龍さんが餅つきするんなら、わしは返し手をやるんよ。故郷でじいちゃんばあちゃんが餅つきやってるの見たことあるし」
「それは頼もしいな。餅つきは初めてだが頑張らせてもらおう。力仕事はお手の物だ。どうすればよいのか教えてくれ」
 針野(ib3728)と鉄龍(ib3794)は一緒に仲良く餅米を研ぐ。
 研ぎ終わった餅米は桶に移されるが、その中に水を注ぐのは人妖・しづると、からくり・御神槌の役目である。
 今年遠野村で収穫された餅米の半分は今回で搗いてしまうつもりだと円平はいう。
 冬は雪に閉じこめられる土地なので娯楽が極端に少ない。少しでも村人に楽しく過ごしてもらおうと考えていた円平であった。

●餅つき
 翌日は快晴。村の男達で小屋前の空き地の雪かきをしてから餅つきが始まる。村の女性達が共同の炊事場で蒸した餅米の蒸籠を荷車に乗せて運んできた。
 杵と臼は全部で十二組。
 開拓者からの搗き手は衝甲、鉄龍、一心、羅喉丸。返し手は神座早紀と針野。朋友達も協力する予定。円平は搗き手、湖底姫は返し手として参加する。
「それでは開始します。用意してくださいー」
 円平のかけ声で全員が持ち場についた。
「鉄龍さん、充分に温まったはずなのさ」
「三回、入れ替えたから充分だな」
 針野に言われた通りに鉄龍は臼に張っておいた湯を捨てる。針野が蒸した餅米を荷車まで取りに走った。
 すぐに戻ってきた針野は臼の上で蒸籠をひっくり返す。蒸籠、すのこ、布巾の順に取り除くと湯気立つ熱々の餅米が臼の中に現れた。
「熱いうちに仕上げないとな」
「めっさがんばるっさね!」
 鉄龍はさっそく湯に浸けておいた杵で餅米を押すように捏ねてゆく。搗くのは米粒を大まかに潰してからだ。針野は温めるための湯を取り入ったりなどの補助に奔走する。
「熱いので気をつけてくださいね」
 神座早紀も蒸籠を運んだ。からくりの御神槌や月詠も餅米入りの蒸籠運びを手伝ってくれた。十二すべての臼に蒸された餅米が入れられて餅つきが本格的になる。
「こうして杵の先で体重をかけてまずは潰す。最初から搗いても出来損ないの餅しか出来ないから注意しなくてはな」
 羅喉丸は羽妖精・ネージュに話しかけながら杵の先端で餅米を潰す。ネージュは宙を飛びながら興味津々に眺めていた。
「搗く段階になったら、やってみますか?」
 一心も臼の中の餅米を杵で潰していた。訊ねられた人妖・黒曜はコクリと頷く。返事に間がないところから考えて、黒曜は餅つきをとてもやりたいようである。
「おっとすまないな。大丈夫か?」
 衝甲は杵で真剣に餅米を潰すあまり周囲に注意が行き届いていなかった。近くで眺めていた小さな女の子を押して転ばしてしまったのである。
 杵を離して急いで立ち上がらせたものの、女の子は泣いてどこかに消えてしまう。悪いことをしたと思いながら衝甲は作業を再開した。
「仕事が丁寧だね」
『シヅ、これ大好きなの』
 その頃、針野が連れてきた人妖・しづるは村の女性達に混じって餅に絡める食材作りを手伝っていた。特に草餅用のヨモギをすりつぶすのに熱心であった。
 時間が経過し、餅米を潰す作業が進んだ。
 頃合いと感じて真っ先に搗き始めたのが鉄龍である。振り上げた杵が臼の餅に突き刺さった。
「杵は振り回すんじゃなくて落とすんだったな」
「ほいさー、鉄龍さん。じいちゃんがそういうてたんよー」
 鉄龍が搗いて針野がぬるま湯で湿らせた手で臼内の中央で餅米がまとまるように折り返す。よどみない二人の動きが連続した。
「まずは小手調べでいこうか」
 衝甲は餅つきの仕方について腹案を持っていた。まずは普通に搗いてみて手順を身体に覚えさせてから試すつもりである。
「はい、臼を外さないよう慎重にね♪」
 神座早紀は村の若者の餅つきを手伝った。そして途中から子供達が交代で杵で搗くことに。餅を返しながらやさしく教えてあげる。
「こ、これぐらいだいじょうぶ‥‥」
 背伸びをして杵の柄を長めに持ってふらふらと蹌踉めく男の子。
「せいのおうでぇ!」
 仲良し二人組で一緒に杵を持ち、餅を搗く女の子など様々である。
「これでいいのか?」
 からくり・月詠も餅つきに挑戦する。杵を片手で持ちながらも正確に搗き続けた。
「そういえば聞き忘れていましたが、この杵と臼は此処の物ですよね。餅つきは毎年行ってたんですか?」
 杵を振り上げた一心が隣で餅を搗く円平に話しかける。
「半分が以前からの備品ですが、実際に使っていたのは一組か二組でした。魔の森に囲まれていた頃には今ほどの収穫は無理でしたから。新しい杵と臼は船大工の二人が作ってくれたものです」
 餅を搗きながら答える円平は笑顔である。こうして気兼ねなく餅つきが出来るようになったことが何より嬉しいのだろうと一心は想像する。
「結構楽しいものだな。餅つき、気に入ったぞ」
 湖底姫の餅の返しは初めてとは思えないほどうまくて、目にした誰もが感嘆の声をあげていた。
 最後の仕上げに近づくと一心は人妖・黒曜にも搗かせてあげる。
「それでいい。もうすぐです」
 一心と黒曜が一緒に杵を持ってぺったんぺったん。一心はなるべく黒曜の動きに合わせた。羅喉丸と羽妖精・ネージュのところもだ。
「やってみるか、ネージュ。大丈夫だから」
 仲良く杵を持って餅を搗く羅喉丸とネージュである。
 一回目に搗かれた餅は村の女性達の手によってすべて伸し餅にされた。二回目も同じく伸し餅。三回目は鏡餅にも使えるように平べったく丸められる。
 最後の四回目の時、衝甲は計画を実行に移そうとする。しかし迅鷹・大鵬と煌きの刃で合体しようとしたものの出来なかった。スキルの活性化を忘れていたのである。
「俺としたことが‥‥」
 落ち込んでいると服の裾を誰かが引っ張った。衝甲が下を見てみればさっき倒してしまって逃げていった女の子の姿があった。
「さっきはごめんなさい‥‥。あんなところに立っていたあたしがわるかったです」
「いいや、俺が悪かった。怪我はないか?」
 それから女の子は衝甲の餅つきを手伝ってくれる。
 彼女の名前は静香。返し手をからくり・月詠が担当してくれた。途中で衝甲が静香に手を貸して一緒に餅を搗く。
 やがて四回目の餅つきも終了。これにて蒸された餅米がすべてなくなった。

●熱々のお餅
 搗きたての餅は冷めないうちに集会所へと運ばれた。
 並べられた卓には村の女性達の手によって餅に絡めるための食材が揃えられてある。
「あった。これさえあれば何もいらないぐらいだ」
 衝甲はからめる食材の中に枝豆に甘みが加えられたすりつぶしたものを発見する。これを搗きたての餅にかければずんだ餅の出来上がりである。
 搗いている途中で静香が調理中の村の女性達に頼みにいってくれたので、ずんだ餅の元は山盛りに用意されていた。
「うまい!」
「おいしいねー」
 衝甲は静香と一緒にずんだ餅をお腹いっぱいに食べる。
 神座早紀は子供達に囲まれながらお餅を頂く。
「喉に詰まりやすいので気をつけてね。それでは頂きます♪」
「いただきま〜す♪」
 搗きたてもおいしいが一度固くなったものを焼き餅にするのもまた一興。餡を包んだお餅を火鉢で炙って頂いたりも。使用したこし餡と粒餡については神座早紀が昨晩のうちに下拵えをしておいたものである。
「この緑色がかかったお餅、大好き♪」
「ずんたったぁ〜モチっていうんだぜ」
「え? ずんだだ〜んモチじゃないの?」
「そうだったけ?」
 ずんだ餅は神座早紀の周囲でも好評で子供達が美味しそうに頬張っていた。
 からくり・月詠もこんなものかという感じで餅の一つを頬張り、さらにもう一つへ手を伸ばす。
 羅喉丸は卓の前に並べられたたくさんの皿を前にして『よし』と呟く。
「たくさんの種類を食べてみたいので半分ずつにするか?」
 半分といった羅喉丸だが自分を四分の三、羽妖精・ネージュを四分の一とする。欲張りなのではなく身体の大きさを考えてだ。二人して搗きたての餅で頬を膨らませる。
 羅喉丸が神楽の都で買ってきた豆類、砂糖、大根、きな粉などが役に立っていた。あんころ餅にきな粉餅、ずんだ餅も食べて大根卸しをかけた餅を食べた頃にはお腹がいっぱいになる。
「今年も終わりか、色々あったがこうして餅を食べてゆっくりしていられるのだから、いい年だったな」
 もう食べられないと座りながら後ろへ微妙に傾く羅喉丸とネージュの姿はそっくりである。お互いに気がついてくすりと笑う。
 一心は人妖の黒曜と一緒に搗きたての餅に砂糖醤油をつけて頂いていた。
「つきたてはやっぱりちがいますねぇ。なんでしょう、これは」
 意図しないのに非常に伸びる餅がおかしくて一心がくすりと笑った。黒曜もどこか嬉しそうである。
 餅をたくさん食べたあとで羅喉丸のところの羽妖精のネージュが黒曜を誘いにくる。
「雪だるまを外で作るのか。いっておいで」
 そういって一心はネージュと黒曜を送り出す。
 鉄龍と針野は七輪を前にして餅を頬張っていた。搗きたての餅以外にも焼き餅を楽しむために。
「醤油砂糖はやっぱりうまいんね。次は‥‥んっ〜きな粉にするんよ」
「そろそろ海苔を巻いた磯辺焼きが出来上がるぞ。その前に納豆が食べたいのだが」
「ほいさ、鉄龍さん。ここにあったんよ」
「ありがとうな。このもちもちとした食感‥‥たまらねえなあ」
 鉄龍と針野のお腹が満腹になるのはまだまだのようだ。
 人妖・しづるとからくり・御神槌もお餅を楽しんでいた。
「御神槌ちゃんは、好きなお味はあるのかな?」
 しづるの質問に御神槌が首を横に振った。
「えっと、シヅもお手伝いするから、御神槌ちゃんの好きなお味、探そ! これとか‥‥あ! これとかも、どうかな。ぜんぶ美味しいんだよっ」
 しづるが指さしたものをかけて御神槌は少しずつ餅を頂いてみる。
「どれが好き?」
「‥どれも美味しくて、その‥選べないよ」
「あのねあのね、シヅの一番おすすめなの、草餅なの。御神槌ちゃんも好きになってくれると、嬉しいな」
「ちょっと待って」
 御神槌はあらためて草餅を食べて味を覚えた。そしてこれが美味しいと答える。しづるは御神槌の手を握って大いに喜んだ。
 丸めた餅は豚汁の食材の一つにもなる。
 大鍋で作られた豚汁が終わったところで楽しい餅つきの宴は終了。後かたづけをしてお開きになる。
 その日の夜、遠野村にいた誰もがお餅を楽しく食べる夢をみたという。

●そして
 伸し餅と鏡餅の一部はギルドへのお土産として開拓者達が乗ってきた中型飛空船へと積み込まれる。
 一部の包み紙には針野の案により、で紅白の紐で結ばれてさらに遠野村の名前が記された。
「それではお土産をよろしくお願いしますね。今年もお世話になりました。来年もよろしくお願いします」
 帰りの時、円平と湖底姫が見送ってくれる。
「感謝の気持ちとしての、伸し餅。確かにお預かりいたしました」
 船倉扉を閉じた一心が円平に頷いた。
「心のこもったお餅、きっと皆さん喜んでくれますよ!」
 最後に神座早紀の言葉が円平と湖底姫に届く。まもなく飛空船が浮上。開拓者一行は帰路に就いた。
 理穴の首都、奏生に到着した開拓者一行はギルドに立ち寄って遠野村の近況を語る。そして遠野村からの感謝の贈り物としてたくさんの餅を手渡す。
「これはよいものを頂きました。ギルドの皆も喜びます」
 大雪加を始めとした理穴ギルドの全員が遠野村の人達に感謝する。もちろん運んでくれた開拓者達にも労いの言葉をかけるのであった。