【四月】ひたすらに西へ
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/04/26 00:08



■オープニング本文

 剣と魔法が織りなす世界『ジ・アース』。
 時代は中世。この世界に存在するパリの街はノルマン王国の首都である。
 ノルマン王国は広く、ドーバー海峡近くの北海に繋がる運河を通じて内陸部にブルッヘという造船の港町が存在した。
 セーヌ川に面する古き街ルーアンの領主『ラルフ・ヴェルナー』の立案によってブルッヘで新造帆船が建造される。
 ノルマン王国を護るブランシュ騎士団黒分隊長でもあるラルフは、残念ながら旅には同行出来なかった。
 ラルフの願いが託された幻のアトランティス大陸の技術が使われた新造帆船『ル・フュチュール』号は西へと旅立つ。ラルフが夢の中で見た月のエレメント・アルテイラの導きに従って。


 見渡す限りの青い海原。
 ル・フュチュール号は白波を越えて進み続ける。
「水平線‥‥。昨日も今日も、きっと明日も」
 マストの上で見張りをしていた少年『ベリムート・シャイエ』は目をこらしたが、いつもの景色と変わりがなかった。
 航海が始まってかなりの日数が経ったものの、未だ小島にすら到達していない。目指すは見果てぬ大陸のはずだが船員の誰もが疑心暗鬼にかられていた。
 船員一丸となって何度も嵐を突破してきたが、次はどうなるのかわからない。モンスターやデビルに襲われたとしても対処は難しいだろう。
 食料は残りわずか。溜めた雨水は一滴も残っておらず、腐りにくい酒で喉の乾きを誤魔化すしかなかった。
 とにかく西方へと。風を自ら起こせる新造帆船にとって凪が関係なかったのが救いである。
 約三週間前、食料が半分になった時点で引き返すかこのまま進むかどうかを決める挙手が全員参加で行われた。わずか二つ差で航海続行が決まる。ちなみにベリムートは航海続行に手を挙げていた。
「あれは‥‥鳥?」
 ベリムートは遠くの空に海鳥の群れを見つける。船長に知らせて舵がきられた。
 海鳥の群れが飛んでいたのは小島近く。ル・フュチュール号の一同は歓喜の声をあげた。さらに成果はそれだけではなかった。島の向こう側に大陸と思われる地平が広がっていたのである。
 ル・フュチュール号はひとまず島へと上陸。そこは無人島であったが、当分の水と食料を確保する。
 二日間、無人島に滞在して急ぎ出航する。間近に迫る大陸を目指すル・フュチュール号であった。


 ※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません。


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
神咲 六花(ia8361
17歳・男・陰
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
ザザ・デュブルデュー(ib0034
26歳・女・騎
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
ハッド(ib0295
17歳・男・騎
シルフィリア・オーク(ib0350
32歳・女・騎
春陽(ib4353
24歳・男・巫
ジナイーダ・クルトィフ(ib5753
22歳・女・魔


■リプレイ本文

●新大陸
「上陸するぞぉぉ〜」
「降ろせ!! 縄はゆっくりとだ!!」
 船員達の叫び声が甲板に響く。
 沖に碇泊するル・フュチュール号から白波立つ海面へと小舟二艘が降ろされた。
 一艘目に乗り込んだのは八名。デビルのバアル3世を名乗る『ハッド(ib0295)』。神咲 六花(ia8361)のもう一つの姿『ジャン・シュヴァリエ』。アトランティス経由の天界人『村雨 紫狼(ia9073)』。ザザ・デュブルデュー(ib0034)のもう一つの姿ビザンツ教会の『ポーラ・モンテクッコリ』。ル・フュチュール号を造船した二名の功労者をよく知る『シルフィリア・オーク(ib0350)』。知識欲と好奇心が旺盛な『ジナイーダ・クルトィフ(ib5753)』と他船員二名である。
 二艘目にも八名。ベリムートを含むかつての『ちび』さんを気にかけている『柊沢 霞澄(ia0067)』。イスパニアへ嫁いだハーフエルフの騎士『アーシャ・エルダー(ib0054)』。元レンジャーのハーフエルフ忍者『ルンルン・パムポップン(ib0234)』。様々な知識を持つ天界人の『春陽(ib4353)』。今回の船旅を通じて騎士を目指す少年『ベリムート』。加えて船長と他船員二名がル・フュチュール号から乗り移った。
 船長は特別枠として、全員が新大陸への一番乗りを賭けて船上でのくじ引きを勝ち抜いた強者達だ。
 すでに一番乗り勝負は始まっていた。どちらも小舟とは思えない速度で激しい水飛沫を上げながら海岸へと邁進する。櫂を持つ手を止めることなくただひたすらに。
 一艘目は波頭に乗ったまま跳ねるように砂浜へと滑りながら着地。二艘目は全員が途中から浅瀬の海の中へ降りて走って上陸を果たす。
「一番のりじゃ〜!!!!」
 砂浜で両手を腰に当てて反り返り誇ったのは一艘目に乗っていたバアル3世。ル・フュチュール号内ではジンルイ名のハッドで通っていた。
「いや、俺の方が早かったぜ」
 二艘目に乗っていたベリムートも負けてはいなかった。ハッドとベリムートはオデコをくっくけあってぐりぐりと押し合いながら『俺だ』『我輩だ』と譲らない。
 どちらの小舟が先か、誰が一番に上陸したかの真実は誰にもわからない。もしも知っているとすれば月のエレメント・アルテイラだけだろう。航海の記録には二艘に乗った十六名が最初の上陸者と記される事となる。
 お遊びはここまでとして、小舟二艘で何度も往復し人と物資を船から浜へと運んだ。
 ル・フュチュール号に残った船乗り達は一週間後の第二陣探検に参加予定となる。
 砂浜に残っているのはこれからの一週間、新大陸を探検する第一陣に選抜された者達だ。冒険者ギルドに関わりのある十一名は第一陣に属していた。ベリムートも元冒険者なのでこの中に含まれる。
 砂浜からあがった高台が拠点と定められた。今日のところは近場を調査し、遠出は明日から行われる。
「雨はしばらく降りそうもありませんね‥‥」
 柊沢霞澄はあまよみで知った結果を仲間達に報せる。立ち寄った島で補給したおかげで水に余裕はあるものの、やはり現地での供給も確保しておくべきだと意見がまとまった。周囲調査で優先されるべきは水源の発見となった。
 さっそく探検が始まる。拠点からあまり離れない約束で今日のところは自由に探る。
「ありがとう。へぇ〜幸運のお守りか」
「何かあるかわからない土地ですので‥。このお守りが、貴方を守ってくれますよう‥」
 柊沢霞澄はベリムートにお守りのラビットレッグを渡す。少しでも危険から遠ざかるようにと。
「魔法の箒よーし、巻物よーし、食べ物も夜営道具もバッチリ持ったから、探検に出発なのです」
 ルンルンは枝から枝へと飛び移りながら森の中へと消えていく。
「来たぜアメリカ!!」
 桃代龍牙は崖に立つと両手両足を思いっきり伸ばしながら海原に向けて叫んでみた。故郷とは似て非なる世界だとわかっていても心の奥から込み上げてくるものがあった。
 新天地アメリカ大陸の発見。これは西欧において歴史的な転換点となる出来事であろうと。
 天界人といえばもう一人、村雨紫狼もそうである。
「これがあの探検家の航海と似たもんだとすれば、きっと南アメリカ気味なとこだよな!」
 大木の天辺に登ったスカジャン、Tシャツ、ジーパン、そしてスニーカ姿の村雨紫狼が左手で庇を作って辺りを見回す。
「ざんねんっ」
 アトランティスのメイディアとノルマン王国のある世界を繋ぐ月道には制限があって撮影機材を持ち込めなかった。それさえあればこの素晴らしい景色を撮っておけるのにと村雨紫狼が呟く。見渡す限りの地平線に何一つ人工物は存在していないように思える。
「ってアーーーー!!」
 上陸に舞い上がって忘れていた『保存食』の用意を村雨紫狼は思い出す。テントや寝袋などはちゃんと持ってきていたのに、すっかり頭の中から抜け落ちてしまっていた。
 結局、仲間達の周到な準備のおかげで事なきを得るのだが、思い出した瞬間の村雨紫狼は身震いする程に生きた心地がしなかったようだ。
 飛行アイテムで上空から偵察を行う者達もいた。空飛ぶ絨緞で飛ぶベリムートとシルフィリア。魔法の箒に跨るジャンである。
「新鮮な水と食料を確保しなきゃいけないしね」
 ベリムートに空飛ぶ絨緞の操縦を任せたシルフィリアが大地を見下ろす。
「ベリムート、向こうにいってみようか。さっきサーチウォーターで探ってみたんだ」
「そうなんだ。行こう」
 ジャンの向かう先にベリムートが進路を変える。海を背にして内陸部を目指す。
 ジャンとベリムートは共通の友人を持っている。そのような縁も含めて未知の世界に憧れた過去の自分とベリムートが重なり、ジャンは航海への参加を決意したのだった。
 果てなき広大な大地に踏み入れた印象は全員の気分を高揚させていた。
「これぞ、シャカイケンガクというヤツじゃぞ〜。うむ? あれは?」
 リトルフライで空中に浮き上がりながら地図を描いていたハッドに、ベリムートが操る空飛ぶ絨緞が近づく。
 空飛ぶ絨緞の方が地図も描きやすいとシルフィリアに誘われてハッドは乗り込んだ。ベリムートとハッドの意地の張り合いが再燃の兆しを見せるとシルフィリアが収める。
「あれじゃないかな?」
 ジャンの指摘通りに湖は存在した。森の中にひっそりと佇むように。
「降ろしてくれる?」
「了解」
 シルフィリアの言うとおり、ベリムートは湖畔へと着陸させる。
「ブレスセンサーで調べたところによれば、やはり水辺には動物がたくさん棲息しているようじゃな〜。もちろん植物もじゃ」
「高低差の少ない場所さえわかれば歩いてでも拠点から湖まで辿り着けるはずだよね」
 ハッドとジャンは小川から拠点までの道のりを示す地図作製を開始した。
 ベリムートは一旦魔法の絨緞で拠点へと戻るとポーラとアーシャを連れてくる。
「ここですか。動植物が繁栄してるところは。美味しそうに見えなくても意外と美味しいのもあったり〜するのですよね! 張り切っていきましょう!!」
 ベリムートとお喋りしながらもアーシャは右へ左に上へ下へと観察に忙しい。その様子にベリムートと顔を見合わせたポーラがクスリと笑う。
「それにしても、ふふ。すっかり追い越されたわね」
「え?」
「伸長、ね」
「そういえば最近伸びたかも」
 ポーラとベリムートは大はしゃぎのアーシャの後をついていく。観察した内容を記帳しながら。
「いっただっきまーす!」
 さっそく見つけたトゲトゲがついた実を躊躇なく囓るアーシャ。ポーラとベリムートが止める間もないほどの素早さだ。
「だ、大丈夫かしら?」
「結構美味しいかも♪」
 心配するポーラをよそにアーシャはもう一つ頂いた。それから二十分後、草原でうずくまるアーシャの姿が。
「う〜ん、お腹がごろごろごろします‥‥。あう〜、ポーラさん、助けてください〜〜」
 早速、ポーラに解毒をしてもらうアーシャだ。
 これが一回目として全部で十七回、アーシャはポーラの解毒の世話になる。
 悠久なる食の歴史は初めて口にする勇者がいてこそ成り立つ。そう考えるからこそアーシャは食べる前から毒消しは使わなかった。
「あまり無理はしないで。死んだら旦那さん悲しむよ」
「は〜い♪」
 飲み水をカップに汲んできてくれたジャンに感謝するアーシャである。
 ルンルンとジナイーダもそれぞれに湖周辺を調査していた。海から比較的近くで一番大きな自然物であるし、方角を示したベリムートの書き置きを拠点で見たからである。
「これでもし黄金郷とか新しい月道なんか見つけちゃったら‥‥一攫千金です。それでなくても王宮に呼ばれたりなんかしゃって」
 ルンルンが黄金郷や月道の他に注意していたのは原住民の存在である。足跡に注意し、時折ブレスセンサーやバイブレーションセンサーで周囲を探った。
「いないようですねぇ。いても不思議ではないのですけど。う〜ん」
 湖の水は十分飲料に耐えうる。しかし仲間達以外に人は見かけなかった。
 真水が手に入る比較的海の近くという立地は住むのに好条件に思われるものの、他に要因があるのかも知れないとかんがえるルンルンだ。
 暗くなる前に全員が拠点へと戻って知り得た情報を突き合わせる。夕食の用意は柊沢霞澄が下ごしらえをしておいてくれたおかげですぐに用意出来た。
 船長を含む第一陣・一班はここから南西へ、冒険者ギルドに関わりのある十一名は第一陣・二班として北西方向を目指す事になった。
「月がよく見えるわ」
 ジナイーダは焚き火を囲む仲間達に唄おうと提案する。探索計画の発端となったルーアンの領主ラルフが夢に見たという月のエレメント・アルテイラに捧げる歌を。
 楽器が弾ける者に合わせて唄って手拍子をする。上陸最初の夜はこうして更けてゆくのだった。

●謎の遺跡
 徒歩で隈無く調査をするのか、それとも遠くを目指すべきか。
 狭く深くか、広く浅くか。人数的に広く深くの調査が選択出来ない以上、どちらかにしなければならなかった。
 第一陣探検隊・二班全員の意見を集約して採られたのは飛行アイテムの活用による探索方法である。上空から調査対象が見つからない以上はひたすらに北西の方角に飛び続ける。日没三時間前には必ず着陸して拠点を設置し、その上で周辺の調査を行う。一言でいえば広く浅くを選択したのだった。
 結果、上陸から二日目までの探検は順調に進んだ。
 動植物や鉱物の調査、必要ならばサンプルを収集する。地図作りも丁寧に行われた。
 どのような場合でも未知なる危険に備えて必ず三人以上で行動する。拠点から離れてよい距離は最大五キロメートルと縛りを設けて。
「このゴツゴツした木の実、茹でると美味しいかったです!」
「生で食べてはいけません‥‥」
 日が暮れる前には必ず拠点へと戻って互いに成果を公表する。新しい発見で場が盛り上がって寝付かれない日々が続いた。見るものすべてが新鮮に感じられた。
 そして三日目の昼頃。
 全員で飛行中。
「何か迫り上がったものが‥‥見えるような、見えないような」
 遠くにそびえる存在に真っ先に気がついたのは桃代龍牙であった。
「でけぇな‥‥‥‥。でけぇぞぉ〜〜おい!!!!」
 村雨紫狼は叫んだ。近づくにつれてその巨大さに気がついたからだ。
 それは地面から垂直に切り立った台地『テーブルマウンテン』。地表から三十メートル程度浮かべる飛行アイテムでは到底辿り着けない高さを誇っていた。
「あれ! あれ見て!! すごいよ!!」
「どうしたんです?」
 絶壁に沿うように飛んでいると今度はベリムートが声をあげる。服を引っ張られた桃代龍牙が振り向くと視界に収まるのは絶壁だけ。ベリムートが指し示す先を見上げてようやく理解した。
「滝‥‥。まるで天から落ちてくるような」
 あまりの高さ故に滝の水が途中から霧となって降り注いでいた。陽光の加減で突然虹が現れる。
「こんな景色があるなんて‥」
 柊沢霞澄はじっと空を見つめるうちに何故かほろりと涙が零れる。
「あ、えっと、あう〜〜〜! 誰か交代して〜〜」
 天上の滝をゆっくりと眺めてみたいアーシャであったが、安全を考えると空飛ぶ絨緞に集中しなければならなかった。ベリムートに交代してもらったアーシャは感謝しながら両手を合わせて目を輝かせながら滝を見上げた。
「シル姉さん、少し近づいてみよう」
「了解っ。こんな経験、滅多に出来ないからねぇ」
 それぞれに空飛ぶ箒に跨っていたジャンとシルフィリアは滝の真下を通過してみる。仲間の元に戻ってくる頃にはびょしぬれになっていたが、二人とも笑顔で非常に喜んでいた。まるで雲の中を飛んでいたようだと。
「これだけ特殊な地形だと非常に珍しい植生になっていてもおかしくないわね。興味あるわ。とても」
 興味津々のポーラの一言は全員の心の内を表していた。
「台地の上には何があるのか。是非、この旅の記録に残したいわ」
 深き興味と同時に月道があるかも知れないとジナイーダは希望を抱く。山はいろいろあれど、これほどに平地が広がっていそうな場所など想像だにしなかったジナイーダだ。興味が心の器からあふれ出てくる。
「ルンルン忍法ですいすい〜っと登っちゃえないかな? よし! 挑戦です!!」
 試しに壁面へ掴まってみるルンルンだがあまりに張り付いた苔の多さに降参する。山登りの装備を完璧に備えれば何とかなりそうだが元冒険者でも現状では無理だ。
「どこか登れるところがきっとあるぞよ! 今度こそ一番乗りじゃ!」
「せめて掴める岩場になっていれば登れそうだな」
 ハッドの言葉にも一理あると、これまでいがみ合うばかりであったベリムートも賛成する。
 テーブルマウンテンの絶壁に沿って飛び続けてようやく登れそうな箇所を見つけた。切り立っているのでやはり飛行アイテムは使えそうにないが、自力なら何とかなりそうである。一行は裾野で野営をする。
「精霊さんが天気が悪くなると教えてくれました‥‥」
 宵の口の食事後、柊沢霞澄があまよみで明日の昼過ぎから雨が降ると仲間に告げた。
 残り日数を考えると明後日には帰り始めなければならなかった。つまりテーブルマウンテンを登る機会は明日のみである。
 挙手をとると全員が山登りに賛成してくれる。夜明けの寸前から登り始めようと早めに就寝する一行であった。

●台地の上には
「皆さん、落石には注意してくださいね!」
 四日目。ルンルンが先頭になって一行はテーブルマウンテンを登った。
 きつい傾斜ながらも踏ん張れる足場がある所はまだ楽だ。先行する身軽な者に縄を垂らしてもらわなければ登れない絶壁もある。モンスターやデビルの出現にも注意を払わねばならなかった。
「ボーケンはいいのう」
 ちなみにハッドはリトルフライのおかげで多少の無理が利く。とはいえ乱気流が発生していたので単独で上まで登り切るのは無理だったのだが。
「あの蔓に掴まれれば楽だよねぇ。ちょっと待っててね。よしっと」
 シルフィリアが巻物によるプラントコントロールで蔓を寄せて手すり代わりにしてくれる。
(「いざとなったら眠らせてしまえばよいかしら」)
 何かに襲われるような非常事態になった場合、ジナイーダはアムルリープを使って時間稼ぎをしようと考えていた。絶壁ならともかくちゃんとした足場のあるところならば負けはしないだろうと。
「ベリムート、左側の注意をよろしくね」
「了解」
 ジナイーダはベリムートを子供扱いにはせずに必要な仕事を任せる。
「やったのじゃ〜〜」
 テーブルマウンテンの一番乗りはハッドであった。全員が登り切った頃には雨が降りしきっていた。
 雨雲のせいで暗かったがそれなりに視認出来る。テーブルマウンテンの上はまるで大地を切り取ったかのような草木溢れる景色が広がっていた。
「‥‥この足跡は?」
 桃代龍牙が屈んで地面に残されていた足跡を眺める。馬の蹄のようだが、どことなく違う気もする。パッドルワードを使ってみたが、降り続けている雨のせいでうまくいかなかった。
「馬がいんのか。っていうことは人も‥‥。半裸で褐色ボインでフンドーシな原住民たんがががっ! うぉぉっ〜何だ、毒の吹き矢か!!」
 キョロキョロと辺りを見回す村雨紫狼のオデコを掠める矢。一気に緊張が走った。
「危害を加えるつもりはありません!」
 ポーラが叫ぶと茂みから何者かが顔を出す。
「ケンタウロス‥‥」
 シルフィリアの呟きの通り、矢を放った原住民は神話に出てくる若い男性のケンタウロスのようだ。人の上半身に馬の下半身をもつデミヒューマンである。
 様々な言語で話しかけても会話は通じなかった。そこでテレパシーで考えを読みとってみる。シルフィリア、アーシャ、ルンルンがテレパシーを扱える道具を使ってみた。
 先に第一陣探検隊・二班側が構えていた剣などの武器を引っ込める。
「危害は加えないのでじっとしていてくださいね」
 ポーラがゆっくりと近づいて擦り傷を治してみせると若い男性のケンタウロスの表情が明るくなる。彼の後をついてゆくと、そこには小さな集落があった。
 通された小屋で長老らしきケンタウロスと一同は面会する。
(「ほう‥‥。まるで神のようなお姿の客人じゃな」)
 長老の考えをテレパシーで読みとってわかったことはいくつかある。ケンタウロスは本来この周辺には住まわないようだ。何か宗教上の理由があるようだが、詳しくはわからなかった。
「これはキャンディーぞよ」
「うわはぁ〜」
 ハッドは仲良くなるきっかけを作るためにベリムートと一緒に原住民の子供達へと飴をあげた。
「半裸ぽくて美人だけど、ううっ残念だZEっ! ん? これくれるのか?」
 残念ながら村雨紫狼の恋愛の範疇からケンタウロスは外れていたようだ。それでも優しくされれば悪い気はしない。ケンタウロスの娘がくれた羽根で作った帽子を被ってみる。
「興味深いわ。これは何の記録かしら?」
 ジナイーダは集落の片隅に建つ石碑に刻まれた象形文字に見入った。読めないが後で検証できるよう出来るだけ多くを書き写す。
 桃代龍牙がムーンロードで調べてくれたが、残念ながらこの周辺で月道は見つからなかった。但し、この石碑にヒントが眠っているのかも知れない。
 桃代龍牙、アーシャ、ポーラは初めて接触した若い男性のケンタウロスに食物倉庫を案内してもらう。
「途中でもアーシャさんが見つけたようだけど、一種類だけでなくいろいろな根野菜があるんだな」
 桃代龍牙は興味深く見学する。後にジャガイモ、サツマイモと呼ばれるものが含まれていた。
「これって食べてみていいですか? OK? いっただきます〜」
 アーシャが口にしたのは乾燥した穀物の粒。後にトウモロコシと呼ばれるものだ。石のように固くてほろりと涙を流す。
「少し頂いてよろしいですか?」
 ポーラは芋類とトウモロコシをいくつか貰い受けるとさっそくアンチセプシスで防腐処理を施した。重いのでアーシャと桃代龍牙も荷物として受け持ってくれる。
(「帰り、どうしようかと迷っていたので助かります! なるほど、ここなら楽ですね」)
 ルンルンはケンタウロスにここまで登ってきた経路よりも安全で簡単な帰りの道筋を教えてもらう。嬉しさに思わず握手を求める。
 ちなみに自分は巻物のテレパシーを使い、ケンタウロスには仲間から借りたリングを使ってもらった結果だ。理解してもらえるまでに三十分に渡る手振り身振りを行った汗だくだくのルンルンであった。
 歓迎されたようで一晩集落に泊めてもらう事となる。
「未知の食材に知らない料理‥‥。これは貴重な体験です‥‥」
 柊沢霞澄はケンタウロスの女性達の調理を手伝う。焼いた石の上で焼くトウモロコシパンには興味津々である。スープにもトウモロコシの粉が使われていた。
 夕食には第一陣探検隊・二班から提供された食べ物も並んだ。
(「オモチ‥おいしいよ?」)
 ジャンはベリムートと一緒にケンタウロスの前でお餅を食べてみせる。おそるおそる口にしたケンタウロス達だ。
「ここのお酒は一体何で出来ているんでしょう?」
 ケンタウロスに注いでもらったお酒をアーシャは一気に呑み干す。
 互いの故郷の歌を唄い踊って交流をはかる。宴は夜遅くまで続くのであった。

●そして
 翌朝、教えてもらった順路で第一陣探検隊・二班はテーブルマウンテンを下山した。時間が残っていなかったこともあり、帰りは夜を除いて殆ど飛行アイテムの上で過ごす事となる。
「ようやく戻れたな。チュンチュクチュン号に」
「ル・フュチュール号だよ」
「細かけぇことは気にすんな!」
「何ヶ月も乗ってきた船なんだけど」
 ベリムートの突っ込みを村雨紫狼は大笑いで誤魔化す。
 無事戻った第一陣探検隊・二班は先に戻っていた一斑の船長に探索結果を報告する。逆に一斑が発見した遺跡についても教えてもらった。
 やはり月道はこの新大陸にありそうである。問題なのはあまりに広大な点だ。前もっての知識を持つ天界人を除いて、どれだけの広大な土地と遭遇したのかを真に理解している者はいなかった。
「最初に立ち寄った島は悪魔島がよいぞよ。そう名付けるべきなのじゃ」
 ハッドの進言が船長に聞き入られたのか。それは大分後にならないとわからない。
 まだまだ新大陸の謎は深い。月道探しの旅はここからが本番であった。