安穏の時 〜鳳〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/03/15 13:28



■オープニング本文

 泰国は飛空船による物流が盛んである。
 その中心となっているのが旅泰と呼ばれる広域商人の存在。
 必要としている者に珍しい品や食料を運んで利益を得ている人々だ。時に天儀本島の土地にも根ざし、旅泰の町を作る事もあった。
 当然の事ながら泰国の首都『朱春』周辺にもたくさんの旅泰が住んでいた。昇徳商会の若き女社長の李鳳もその中の一人である。


 朱春近郊の飛空船基地・ボロ格納庫。
「南志島からの注文で氷の輸送?」
「そうなんです〜。もうお帰りになられましたが、先程いらっしゃいまして――」
 昇徳商会の若き女社長『李鳳』は見習いの猫族獣人娘『響鈴』からの報告を受けていた。留守の間に依頼があったので引き受けるかどうかの模索中だ。
 南志島とは天儀本島の朱藩・安州の南方にある千代ヶ原諸島の一つ。興志王の直轄地で海水浴などの夏場の保養地として有名な土地である。
 氷は夏に備えての蓄えだと李鳳もすぐに気がついた。地元の浜茶屋では特にかき氷の需要が大きい。巫女の氷霊結だけではとても間に合わないのだろう。
「今時期の山岳部ならまだまだ雪で作った氷は豊富だし、運ぶ際にも寒くてとけにくいわ。でも氷室に保存するというからにはかなりの量が必要でしょ? 中型飛空船の翔速号で一度に運べるのはたかが知れているわよ」
「先方もその点については承知していまして、氷を運ぶのには大型飛空船を用意するそうです。昇徳商会にはその大型飛空船の護衛を頼みたいと。依頼主ですが最近、空賊に襲われたそうで用心深くなっている感じでした〜」
「多少お金がかかっても安全を確保したい‥‥。そんなあたりってことね」
「夕方までに朱春の宿屋まで返答しに行く約束になっているのですけど」
 しばし考えた末、李鳳は依頼を引き受けることにした。響鈴には依頼主へ返事をしに行くついでに開拓者ギルドでの依頼も指示する。
「あたしたちも備えておかないとね。開拓者がいれば何があっても大丈夫でしょう。何事もないのが一番だけどね」
「わかりました〜♪」
 さっそく朱春へと出かける響鈴を見送る李鳳であった。


■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
アルネイス(ia6104
15歳・女・陰
からす(ia6525
13歳・女・弓
フィーネ・オレアリス(ib0409
20歳・女・騎
壬護 蒼樹(ib0423
29歳・男・志
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔
ベルナデット東條(ib5223
16歳・女・志
オルカ・スパイホップ(ib5783
15歳・女・泰


■リプレイ本文

●上空
 白い雲、青い空。
 大量の氷を載せた大型飛空船と併飛行するのは昇徳商会の中型飛空船・翔速号。
 護衛任務の為に開拓者達の協力を得て安州から南下中。目指す先は千代ヶ原諸島の南志島である。夏場の保養地として有名な島であり、氷もそれに備えてのものだ。
 のんびりとした雰囲気が漂っていたものの、開拓者達は警戒を怠らなかった。
「視界良好。空賊やアヤカシが出そうな気配もないかな。宝珠の中でも見えるか? シャオ」
 からす(ia6525)は甲板近くの展望室で護るべき大型飛空船の様子を見張っていた。お茶を啜りながら紫色の宝珠内にいるはずの管狐の招雷鈴に話しかけながら。
「連れてきてあげればよかったかなあ」
 甲板隅の縁に腰掛けながら遠方を見張っていた壬護 蒼樹(ib0423)は両腕をあげて背伸びをする。連れてきてあげたかったのは息子なのだが、お互いに家にいないことが多くて今回は誘いそびれてしまったのである。
 もう一人、甲板に待機していたのは朽葉・生(ib2229)。
(「空賊が襲ってきたのならアークブラストやブリザーストームを見舞いましょう」)
 流れてゆく雲を眺めながら朽葉生はそんな事を考えていた。
 操縦室の空いている席へと座って窓から正面を監視していたのはベルナデット東條(ib5223)だ。
「しかし依頼主。夏に向けて今から氷の準備とは、誠感心するよ」
「そうよね〜。商売人としては見習わなくっちゃ」
 たまに李鳳や王輝風と言葉を交わすベルナデットである。
 飛空船護衛の旅は何事もなく過ぎてゆく。
 南志島へと辿り着いたのはちょうど宵の口。
 李鳳が大型飛空船に乗っていた依頼主に往路護衛依頼完了の手続きをとる。これで復路の護衛までは自由時間だ。
 翔速号で一晩を過ごしながら明日からが待ち遠しい翔速号の一同であった。

●春の島
「ふっふっふーマハの初陣ですよ〜♪ でも島で戦う必要はないのでカリカリしないですみそうなのですよ〜♪」
 日が水平線から昇る頃、翔速号の乗降口から勢いよく南志島の大地へと飛び降りたのはオルカ・スパイホップ(ib5783)。思わず「バカンス〜♪」と叫んでしまう程にうれしさを溢れさせていた。
「偶の骨休みとなりましょう。さあ白鳳、行っておいで」
 次に降りた朝比奈 空(ia0086)は腕に留まらせていた迅鷹の白鳳を空へと飛び立たせる。高く舞い上がり、やがて白鳳は上空で滑空を始めた。
「う〜ん、まだ風が冷たいですねぇ」
 アルネイス(ia6104)は頬に潮風を受けてちょっと首をすぼめて身体を震わせる。とはいえ身体を動かせば何とかなりそうだとテクテクと歩き出した。
「去年の夏以来ですね。南志島は」
 懐かしそうな表情を浮かべるフィーネ・オレアリス(ib0409)は、革帯付きの大きな箱を背負いながら島に降り立つ。
 箱の正体はアーマーケース。中には駆鎧のロートリッターが収納されている。アーマーケースに気がついたオルカはフィーネに近寄って興味津々に見つめた。
「滞在は今日を含めて丸二日間よ〜」
 乗降口の階段で李鳳が遊びに出かけてゆく開拓者達に声をかける。
「おさかな、おさかな〜♪」
 響鈴は黒子猫のハッピーを降ろしたフードの中へと入れて下船。
「これで翔速号はこれで万全と」
 最後に王輝風が翔速号の戸締まりを確認してから李鳳と響鈴の元へと駆け寄る。昇徳商会の三人と一匹も出かけるのであった。

●朝比奈空の散歩
「人は少ないですね。やはり繁盛の時期ではないからでしょうか」
 朝比奈空はぶらりと島内を散策する。
 店数と道の広さに比べて往来の人は少なく感じられた。それでもそれなりに店舗が開いているのは、自分達が護衛してきた者達のように到来する夏に向けて動きだしているからだろう。
「美味しそうですね。一つ頂けますか」
「あいよ! お姉ちゃん美人だからサービスだ!」
 八朔を購入した朝比奈空は海岸とは反対側の台地方面へと向かう。坂道を登ると広がるのは草原と湖であった。
「羽を伸ばせているようですね」
 上空の迅鷹・白鳳も嬉しそうである。湖面スレスレまで近づくなど思う存分に飛び回っていた。
 朝比奈空は適当に座れそうなところで八朔を頂く。その他にも貝や魚の海の幸をいくつか購入してあり、船の仲間へと持ち替えるつもりであった。
 遊び疲れた白鳳が、やがて主人の元へと戻ってくる。腕を伸ばした朝比奈空だが、留まった箇所は頭の上。
 朝比奈空が腕に移動させようとしても白鳳は知らんぷり。仕方なくそのまま翔速号に帰ったのだが、道行く人々の視線を集めること必至であった。
「‥‥何でいつもこうなのでしょう」
 朝比奈空のゆっくりとした一日はこうして終了するのだった。

●フィーネの整備
 出発前に翔速号の傷が気になっていたフィーネは、特に遊びに出かけることなく修理をすることにした。道具類は王輝風に借りて、やり方は係留所の人達に教えてもらう。
 ちなみに翔速号をよく知る王輝風は、無理に修理をしなくても大丈夫といっていた。宝珠関連も含めて大丈夫だと。しかし滞在の一日目はそうすると決めていたフィーネはさっそく取りかかる。
「鉄なら多少の凹みは裏から叩けば直るけどよ。木材はそうはいかないからな」
「なるほど‥‥。これで埋めてから色を塗れば目立たないと、そういう訳ですね」
 フィーネは係留所の整備士に教えてもらった通りに外壁部分の修理を行った。ひしゃげた部分や凹みを捏ねた特殊な粘土で埋めて乾燥するまで待つ。
 それが終わってから塗装。周囲と似た色で目立たないように仕上げてゆく。ついでに駆鎧のロートリッターも磨き上げるフィーネであった。

●水辺の壬護蒼樹
「長閑ですね、水蓮君」
 壬護蒼樹はミヅチの水蓮を連れて島中央の湖周辺を散歩する。ふわふわと壬護蒼樹の膝下あたりを飛ぶ水蓮は壬護蒼樹の周囲をぐるりと回ってから湖面へと向かう。
 しばらく水蓮を湖で遊ばせてあげようと壬護蒼樹は借りてきた釣り竿を取り出した。適当な岩に座って釣り糸を垂れる。
「おっと! 入れ食いです!」
 手応えを感じて竿をあげると、釣り針にかかっていたのは鮎。それからあっという間に鮎が十匹以上も釣れる。
「いいお土産ができてよかった‥‥あれは?」
 蔓で鮎を腰に吊しながら歩く壬護蒼樹は、帰りの坂道で川途中の滝を発見する。鍛錬を忘れていたとさっそくふんどし一丁になる。
「つ、冷たいですけど‥‥おいしくご飯を食べる為にも、志士としての本分を果たす為にも‥‥肥って大好きな奥さんに捨てられない為にも」
 まだまだ冷たい川の中に入って滝に打たれた壬護蒼樹だ。水蓮は凍えそうな顔をした壬護蒼樹の近くで楽しそうにはしゃぎ回る。
 水蓮と一緒に水泳もこなした壬護蒼樹の唇は紫色に染まっていた。これはたまらないと川岸に転がる乾燥した流木で焚き火の暖をとる。
「美味いなあ。あ、運動した分、これでちゃらかも知れない‥‥」
 ついでに焼いた鮎にかじりついてから気がつく壬護蒼樹であった。

●ベルナデット東條と人妖芙雪
 ベルナデットは人妖の芙雪を連れて店舗が並ぶ通りを散策していた。
(「ベル怪我してるし大丈夫かしら? まぁ、いざとなったら私が守るけどね!」)
 人妖の芙雪が隣りのベルナデットを見上げながら心の中で呟く。この島まで辿り着くまでに何事なかったのが幸いである。
「此処は楽園だな。アヤカシと戦ってた日々がまるで嘘のようだ‥‥」
 人々の顔が特に明るいのは普段からアヤカシの脅威とは縁遠いからだろう。
 身寄りのない自分を育ててくれた亡き師にも、この風景を見せたかったとベルナデット考えていると芙雪に窘められる。芙雪を含めた親しい人々がたくさん自分の回りにはいると思い直すベルナデットだ。
「結構、いけるな」
「お土産に買っていかない?」
 ベルナデットと芙雪は一見の茶屋に入ってみたらし団子を頂く。それから湖方面へと向かう。
 途中、焚き火中の壬護蒼樹とすれ違って焼き鮎も頂いた。湖に到着してからは小舟を借りて水面へと繰り出す。
「思ったより寒くないな‥‥」
 しばらく水の流れに任せて小舟に寝転がり、空を見上げて過ごすベルナデットと芙雪であった。

●オルカの鍛錬
「えい!」
 木の幹を相対する敵に見立ててオルカは剣を構える。
 泰拳士たるオルカなので拳で語るのは慣れているのだが剣技となると勝手が違う。それ故に人目に付かないよう林の奥で練習を続けていたのである。
 木の葉が舞うように剣を振る。
 拳闘と絶対的に違うのは足運び。よく剣は拳の延長だといわれるが、間合いが違えば当然動き方も変わった。
 青い芽がつきはじめた枝をうさ耳が掠める。伸ばした右腕の先が仮想敵の左肩を貫く。
「拳の練習はいつもしてるんだけどこっちは全然だからね‥‥。でも体を動かすのって楽しいよね♪」
 ちょっぴりヘトヘトな足取りで切り株へと腰掛ける。水筒の蓋を開けて口に当て、一気に喉を潤すオルカであった。

●漁師との出会い
「これって」
 浜辺を歩いていたアルネイスが突然立ち止まった。
 あったのは魚の絵が描かれた地引き網の宣伝立て看板。さっとジライヤのムロンを召喚すると看板を指差す。
「ムロンちゃん、地引き網漁の体験をしてみませんか?」
「むーん、魚は食えるのだ?」
 ムロンはアルネイスを見上げる。
「ええ、獲った魚はその場で焼いたりして食べて良いらしいですよ〜」
「おお! ならばさっそく行くのだ♪」
 さすがにすぐには始められなかったので、アルネイスはムロンを元に戻す。そして看板に記された浜茶屋へと出向く。
 浜茶屋には偶然にも、からすと朽葉生の姿もあった。
「早朝に地引き網が出来ると聞いたので訪ねてみたのです。ヤタなら魚を探してくれそうですし」
「私もそう。シャオと戯れるのにもちょうど良さそうだと思って」
 朽葉生とからすも地引き網に乗り気だ。さっそく明日早朝の予約をとった三人である。
 夕暮れ時に翔速号へと戻り、昇徳商会の面々や仲間達に地引き網についてを説明すると全員が賛成してくれる。早めに就寝し、地引き網に備える一同であった。

●地引き網
 翌日、太陽が昇る前に一同は地引き網が行われる海岸へと足を運んだ。
「魚のいそうな海域を探してくれませんか? その場所の上空で留まっていて下さい」
 朽葉生は迅鷹のヤタにお願いして空に飛び立たせる。
 白みかけた空をしばらく舞ったヤタはやがて小さな円を空中で描き始めた。漁師を乗せた二艘の小舟がその下へと向かって網を放つ。
 その間に開拓者の何人かは朋友を召喚する。
「シャオ、”出て来い”」
 発光するからすが持つ宝珠。
 いきなり輝く何かが空へと昇ったかと思うと砂浜に落ちた。まるで雷のような様子であったが、砂煙の中から現れたのは、からすの管狐であった。
「我が名は管狐‥招雷鈴。コンゴトモヨロシク‥」
「よろしくお願いしますね〜♪」
 管狐の雷鈴が丁寧に一同へ一礼する。正面にいた響鈴が何度もお辞儀を繰り返す。
「その登場は?」
「初対面には衝撃を与えねばな、と」
「『同化し多少なりと援護』してほしい」
「委細承知」
 管狐の雷鈴は跳びはねて、からすの武器と見立てた篭手とさっそく同化する。意味はないのだが雰囲気の問題であった。
「これから引くのだ?」
「そうです、ムロンちゃん」
 アルネイスもジライヤのムロンを召喚する。でしーん、でしーんとでっかい足跡を砂浜につけながら、波打ち際まで歩いて確認すると戻るムロンだ。
「ハンドカノンがあれば大漁ですよ〜♪」
 駆鎧・Machaを起動させていたのはオルカ。
 海中に沈んでいる網の両端を海岸から引っ張ることで地引き網は成立する。二艘の小舟が海岸へと戻ると網の両端が一同に預けられる。
 一同は二手に分かれて網を握った。
「行くわよ!」
 李鳳のかけ声と共に網が引っ張られる。
「こう見えても力持ちなんですよ♪」
「お魚、いっぱいお願いします〜♪ がんばるぞ〜♪」
 後ろで網を引っ張る響鈴にお願いされたフィーネだ。
(「この先に海の幸がたくさんあるかもと思うと力なんか抜くのが難しいです」)
 みんなの動きに合わせて網を引く壬護蒼樹の顔には自然と笑みが零れていた。ミヅチの水蓮も嬉しそうに壬護蒼樹と同じく身体を前後に揺らす。
「発射ー!」
 ある程度、網が海岸に近づいたところで駆鎧・Macha姿のオルカがハンドカノンをぶっ飛ばす。弾を落とした先は網より沖。これによって驚いた魚が海岸へと近づいてくれる。
(「翔速号と大型飛空船は大丈夫でしょうか?」)
 網を引きながらも飛空船を心配する朝比奈空である。
「ムロンちゃん、がんばってくださいねぇ〜」
 アルネイスはジライヤのムロンが引く様子を眺めていた。当のムロンは早く魚の姿が見たいと我慢しきれなくなる。
「面倒くさいのだー! おりゃーなのだ!」
「ちょっとちょっと!」
 ムロンが早く引くせいで他の者達もつられてゆく。駆鎧・Machaのオルカも参加して何とか破綻せずに引き揚げたものの、ぐったりと疲れてしまう者もいた。
 それでも網の中には誰も興味があるものだ。
「へぇ‥‥結構網にかかるものだね」
 仲間達と一緒にベルナデットも網の中を覗き込む。大小、様々な魚が獲れていた。特にスズキとイカが美味しそうである。
 さっそく獲れたばかりの魚介類での磯料理の時間が始まる。漁師によってすでに火は熾されていた。
 包丁で捌き、網の上で焼いたり鍋で煮込む。必要な他の食材はからすと響鈴が用意してあった。
「焼けて開いたところにちょっと醤油を垂らして〜」
 アルネイスはまず砂浜で獲れたハマグリを焼く。
「うまいのだ〜、うまいのだ〜☆ あ、それはもう焼けてるのだー」
「イカ、美味しいのですよ〜」
 そしてムロンと一緒に焼きイカも頂くアルネイスだ。
 からすは、大きなスズキのワタをとって串刺しにし、塩を擦りこんでグルグルと二本の柄の上に渡して回しながら焼く。
「上手に焼けましたー」
 と勢いよく振り上げた勢いで、からすが持っていた串からスズキが抜けて宙に舞う。
 そのまま砂地に落ちるかと思いきや、管狐の招雷鈴が跳びはねてガッシリとマルカジリキャッチ。
「美味い! やはり焼き魚は焼きたてが至高!」
 スズキの丸焼きは招雷鈴のものとなるのだった。
「どうぞ。美味しい?」
「ニャー!」
 フィーネは足下にいた黒子猫のハッピーにカレイの刺身をお裾分けする。
「それはよかったわ」
 喜ぶハッピーの頭を撫でるフィーネであった。
「やっぱり‥‥うまい‥‥月並みな言葉だけどうまいなあ〜。次はっと」
 白飯の丼を片手に次々と魚料理を摘んでいたのが壬護蒼樹。
 スズキやカレイの刺身。小魚の天ぷら。桶に焼いた石を入れて似た味噌風味の鍋。大食漢の壬護蒼樹の様子にミヅチの水蓮は目を丸くする。
「せっかくの地引き網です。浜茶屋や宿との連携を考えたらどうでしょうか?」
「そういう手もあるな」
 朽葉生は料理を頂きながら漁師達との会話を弾ませる。
 ベルナデットが美味しく食べている最中、人妖の芙雪は他の朋友達と会していた。
「危ないときは、いざとなったら守ってあげないとね」
 言葉が通じる相手だけでなく、そうでない朋友ともうち解けた芙雪だ。特にミヅチの水蓮とは気が合った。
「そんなところで話していると食べ損なうぞ。ほら、たくさん焼けている」
 ベルナデットは手招きで朋友達を呼ぶ。そして食欲のある朋友には料理を配った。
「ふっふっふー 網の上は戦場なのです! 気を抜いたものが負けるのです〜‥‥!」
 気合いを入れて網の前に陣取っていたのがオルカ。箸をカチカチと鳴らしながらマスクの下の瞳で焼け具合を観察する。
「ソコッ!」
 オルカが焼けたばかりのカレイにシュッと箸を伸ばす。
「頂きます〜♪」
 ところが響鈴に取られてしまった。ウサギ獣人と猫獣人の勝負。この時ばかりは猫獣人の響鈴の勝ちであった。
「あ‥‥゛あ゛あ゛あ゛あ〜〜!!! ぼ、僕の〜!! それ、僕のだよ〜!!」
「うみゅ?」
 どうやら響鈴にはオルカが死角になっていたようだ。
「うう‥‥いいもんマハと遊んどくもん‥‥」
「ごめんなさい〜。ほ、ほら、まだまだたくさんあるので。今焼きますから〜」
 響鈴はオルカをなだめながら網の上に魚を置いてゆく。これがきっかけで仲良くなるオルカと響鈴であった。
(「大丈夫のようですね」)
 朝比奈空は周囲を一度見回ってから料理に箸を付けた。獲れたての魚の刺身はとても歯ごたえがよかった。迅鷹・白鳳にもたくさんのお魚を食べて満足そうだ。
「如何かな?」
 一通り食べ終わった頃を見計らい、からすが全員分のお茶を煎れてくれる。
「落ち着くね」
「ほんと。よかったわ」
 お茶を飲む王輝風が李鳳と視線を合わせて頷く。


 翌日、翔速号は大型飛空船の護衛として島を去る。運んできた氷の代わりに柑橘系を載せていた大型飛空船であったが、往路とは比べものにならない軽さなのでそれなりの速度が出せた。
 朱藩の首都、安州に辿り着いたところで護衛依頼は終了した。