【踏破】鬼咲島 〜鳳〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/07/29 20:53



■オープニング本文

 泰国は飛空船による物流が盛んである。
 その中心となっているのが旅泰と呼ばれる広域商人の存在。
 必要としている者に珍しい品や食料を運んで利益を得ている人々だ。時に天儀本島の土地にも根ざし、旅泰の町を作る事もあった。
 当然の事ながら泰国の首都『朱春』周辺にもたくさんの旅泰が住んでいた。李鳳もその中の一人である。


「この間の仕事の途中で思ったんだけど」
「どうかしたの?」
 昇徳商会の女社長『李鳳』と従業員の青年『王輝風』は、中型飛空船『翔速号』内で一緒に夕食を食べていた。着陸していた場所は朱藩の首都、安州にある飛空船基地内である。
 ペットの黒い子猫ハッピーは王輝風の足下で新鮮な魚にむしゃぶりつく。
「やっぱり翔速号を能力をあげないと仕事に差し障りがあると思うの。単に荷物を運ぶだけなら今でも充分だけどアヤカシとかで世の中そのものが物騒になっているでしょ。今のままじゃ逃げるに逃げられず、いつか手痛い目に遭いそうかなって」
「確かにね。資金はどうなんだい?」
「ちょっと前に今ぐらいのお金があったら問題なかったんだけど、飛空船用の宝珠が高騰していて足りない感じ。我慢してあと一つか二つ、大きな仕事をこなさないと無理っぽい」
「小さな仕事で当分我慢するか。それとも危険を覚悟して早めに安全な状況へもってゆくか‥‥悩むね」
 李鳳と王輝風が所帯じみた今後についてを相談する。二人でいる時は社長と社員の垣根は取り払われていた。
「ん? 誰かな?」
「今頃?」
 李鳳と王輝風が物音に振り向く。夕食が終わる頃、翔速号の乗降口を叩く音が聞こえたのである。
 来訪したのは朱藩・氏族の砲術士。昇徳商会に食料輸送の仕事を頼みたいという。
「鬼咲島?」
 運び先を聞いて李鳳は驚きの表情を浮かべる。
 そこは昨今、飛空船乗りの間で噂されているアヤカシの島。朱藩の興志王が船団を率いて向かったといわれていた。
 どのような状況だとしても食料補給は必要不可欠だ。島周辺にいるはずの超大型飛空船『赤光』まで頼まれた貨物を運ぶのが願われた仕事であった。
(「この大きな仕事をやり遂げられれば‥‥」)
 李鳳は悩んだものの、食料輸送の仕事を引き受けるのだった。


■参加者一覧
守月・柳(ia0223
21歳・男・志
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
輝夜(ia1150
15歳・女・サ
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
一心(ia8409
20歳・男・弓
オラース・カノーヴァ(ib0141
29歳・男・魔
アリスト・ローディル(ib0918
24歳・男・魔
セゴビア(ib3205
19歳・女・騎


■リプレイ本文

●離陸
 まだ夜明け前の朱藩の首都、安州の飛空船基地。
 李鳳は中型飛空船『翔速号』のすぐ側で子猫のハッピーを抱える王輝風と一緒に開拓者達を迎えていた。
「無理をしようとしているのは重々承知。でもやり遂げないとならないのよ。翔速号をよくするためにも――」
 李鳳が話す事情はかなり大変なものだ。
 依頼中、船倉に満載の貨物のせいで翔速号はゆっくりと飛ばざるを得ない。同行の龍は甲板で休む他ないのだが、過積載のせいで一度に着船していられるのは四体まで。向かう先はアヤカシ跋扈する鬼咲島の上空を旋回中の超大型飛空船『赤光』。当然、危険と隣り合わせである。
「確かに食料等の補給物資は前線にとっての生命線ではあるのじゃろうが、過剰積載で落とされたら元も子もないぞ?」
「これが興志王の船団から頼まれた物量なのよ。場所が場所だけに引き受ける運送屋が少ないらしくてね。これでも最初に提示された量より交渉で三割減にさせたのよ‥‥」
 もっともだと思いながら輝夜(ia1150)に李鳳は説明する。依頼書によって事前に知らされていたとはいえ開拓者達もかなりの覚悟を持って事に当たらなくてはならなかった。
「ハッピーも元気なようでなによりです。いい鳴き声ですね」
 李鳳と王輝風に挨拶した後で一心(ia8409)は子猫の頭を撫でてから駿龍・珂珀に飛び乗った。そして浮き上がり、翔速号の甲板に駿龍・珂珀を待機させてから船内へと移動する。セゴビアも同様に炎龍・エルドリアを甲板へ着船させた。
 飛空船基地へ来る前に開拓者達はすでに班分けを行っていた。
 一班、セゴビア(ib3205)と一心。
 二班、滝月 玲(ia1409)とアリスト・ローディル(ib0918)。
 三班、羅喉丸(ia0347)と守月・柳(ia0223)。
 四班、輝夜とオラース・カノーヴァ(ib0141)。
 龍を連れてきた開拓者が主であったが、オラースは鬼火玉と共にある。
 四つの班のうち一つが休養しての六時間ずつのローテーションが組まれていた。最初の休みはくじ引きで一班だ。
 完全休養の一班は別として、龍が連続して飛んでいられるのは約四時間程度。そこで護衛任務中の龍の一部は翔速号の甲板で身体を休めながらの見張りとなった。甲板が手狭な場合は、自分の龍を休ませて他のに乗り換える場合もあり得る。ちなみに交代時間の周知はブブゼラによって。敵の襲来時には呼子笛を使う約束事となっている。
 太陽が昇るのを待って翔速号が離陸すると主人を乗せた龍達が翼を広げて追随する。翔速号が水平航行に移行してから炎龍・瓏羽と甲龍・アメシストが甲板へと舞い降りた。
「強力な大砲も弾がなくちゃな、魔の島だろうとついてくぜ」
 滝月玲は瓏羽の背に乗ったまま右の拳を高く挙げる。
「行き先が鬼咲島。素晴らしい! この上なく好奇心をそそる地だ。どのようなところか」
 アリストも甲龍・アメシストの首を撫でながら鬼咲島があるはずの海の向こうを眺める。
 翔速号を囲むように飛ぶ龍は三体。
「これであの島での戦いが少しでも楽になれば」
 羅喉丸は甲龍・頑鉄を駆る。日よけとして番傘をさそうとしてみたが風が強くて無理なので翔速号の下方を飛んでいた。
「何が出ても揺るがぬ。さぁ来い、アヤカシ共‥‥」
 炎龍・風花で飛翔する守月柳の髪が靡く。
「流石に着ぐるみを着ていると、あまり寒さは感じないようじゃの」
 駿龍・輝龍夜桜で風を切っていたのは輝夜。
 その頃、オラースは鬼火玉・ゼシュカと共に翔速号の船内から各所の窓や展望室に赴いて外を監視していた。
「この船に乗っていればやがて鬼咲島だな」
 死角になっている個所には鬼火玉・ゼシュカを飛ばして確認するオラースだ。
 一班のセゴビアと一心は交代の時まで身体を休める。
「物資補給は大事な生命線。頑張っていこう! さって、お休み!」
 非常にこぢんまりとした寝室のベットに寝ころんだセゴビアは布団へとくるまった。神楽の都を離れる時、炎龍のエルドリアと間違えて鬼火玉・スフィアを連れてきてしまいそうになったセゴビアである。
 翔速号は不安定さを隠せずに時折左右にぶれながら鬼咲島を目指して飛び続けた。日が暮れても松明を焚いて航行を続ける翔速号の一同であった。

●鬼咲島
 無着陸飛行を続けて三日目。伊乃波島周辺を通過したこれからが危険航空域だと誰もが感じていた。
 翔速号の操縦は王輝風と李鳳の交代で行われていたが、過積載の為に繊細な扱いが要求される。徐々にだが疲労は確実に溜まった。開拓者達にも疲れた様子がうかがえるようになっていた。
 やがて天儀本島の浮遊大陸が途切れて真下は雲に覆われた世界となる。最初は胡麻粒のように見えた鬼咲島だが、はっきりとした輪郭を現し始めた。
 土台となる陸の中央周辺に鬼咲島があって周囲は海に囲まれている。縁からこぼれ落ちる海水は霧となって宙に拡散し、そう遠くない日に雲となり雨粒として鬼咲島へ戻るのであろう。
 全員が気持ちを奮い起こし、休んでいた者も待機状態に移行する。
 今は昼過ぎなので夕方までには島の中央上空に辿り着けそうだが、その前にアヤカシからの洗礼が待ち受けているはずだった。襲われなければそれが一番だが、そう世の中うまくはない。
「雲に潜む蛇もいるらしいからな、気は抜けないよ」
「昨日、李鳳嬢と約束をしたからな。我が脳漿を以ってお応えすると」
 二班の滝月玲とアリストは龍を操ってわざと雲の間近を通過した。翔速号の側まで引き返してもう一度似たような大きな旋回を行おうとした時に事態は急変する。
「瓏羽! 離れろ!!」
 滝月玲は手綱を引きながら炎龍・瓏羽の横腹を右踵で蹴って合図を送る。急降下でかわして見上げると、雲から飛びだしてきた何かの正体は小雷蛇であった。
(「あのアヤカシはおそらく小雷蛇。数は二。いや三か」)
 アリストは降下気味に旋回して滝月玲と合流を図りながら口にくわえた呼子笛を強く吹いた。甲板で待機していた三班の羅喉丸と守月柳は、二班からの笛の音を合図に翔速号から龍を浮上させた。
「アヤカシは‥‥そこか!!」
 腕にはめた飛龍昇の具合を確かめた羅喉丸は、アヤカシが雲から飛びだす様子を目撃する。二班が遭遇した小雷蛇の小集団とは別のものだ。さらなる敵の来襲に羅喉丸も呼子笛を吹き鳴らす。
「まだ別のもいるようだ! 守月柳‥推して参る‥!」
 羅喉丸の甲龍・頑鉄と共に翔速号の左舷周辺へ移動した炎龍・風花を駆る守月柳は、心眼で視界に入らない存在を探り当てる。呼子笛も吹いたが同時に翔速号の操縦席窓に向けて手振りでアヤカシの存在発見を合図した。おそらく中の王輝風には伝わったはずである。
 守月柳が発見したのは人面鳥二体。滑空するように翔速号へと近づこうとしていた。
 この時点で翔速号が遭遇したアヤカシは、三体が固まった小雷蛇・壱集団、四体が固まった小雷蛇・弐集団、そして人面鳥・壱と人面鳥・弐であった。
「よしっ、行っけえ! エル!!」
 一班のセゴビアが叫ぶと炎龍・エルドリアが嘶いて呼応する。それが振り落とされんなよ!と聞こえたセゴビアだ。
「‥‥近付く前に落とします!」
 セゴビアと同じ一班の一心は弓を使って援護を開始した。駿龍・珂珀で翔速号の左前方に瞬時に位置取りして矢をかけた弦をしならせる。
 小雷蛇・壱集団が放つ雷撃の最中を飛翔する炎龍・エルドリア。迫る小雷蛇に刃を滑らせた。
 一心はセゴビアを狙って集まる小雷蛇・壱集団に乱射を決める。当然、セゴビアには当たらぬように気遣いながら。
「相手はこっちだねい!」
 雷撃を浴びながらも小雷蛇の羽を切り裂くセゴビア。
「‥‥翔速号には近付かせませんよ」
 一心が放った矢は小雷蛇の頭部へ命中し、串刺し状に貫いていった。
 翔速号が先に進むのを確認しながら一班は小雷蛇・壱集団の動きを抑えるように宙域に留まった。
 四班の輝夜とオラースはそれぞれに人面鳥を相手にしていた。
「少々疲れが溜まっておるのでな、この鬱憤は汝等にぶつけて解消することにしよう。そこ!」
 輝夜の咆哮によって翔速号へ接近しようとしていたうちの人面鳥・弐が進路を変える。
 向かってくる人面鳥・弐に対し、輝夜は駿龍・輝龍夜桜の背上で片膝立ちをして殲刀を構えた。そしてすれ違い様の間合いに回転切りを放つ。
 刻まれた深傷に人面鳥・弐に奇声を発しながら身をよじらせて荒れ狂う。さらなる追撃を加えて眼下の雲の中へと人面鳥・弐を堕した輝夜だ。
「敵に闇目玉はいなかったか。だがしかし!!」
 風吹き荒ぶ甲板の上に立ったオラースはアストラルロッドを突きだした。その先に漂うのは仲間の護りを潜り抜けてきた人面鳥・壱。
 突如現れる雪風。
 最後の防壁としてブリザーストームを人面鳥・壱に見舞う。
「頼むぞ!!」
 単発的に現れる小雷蛇の足止めをしてくれたのがオラースの鬼火玉・ゼシュカだ。全身体当たりの突進で翔速号に近づくのを遅らせてくれる。
 時間稼ぎさえしてもらえれば輝夜かオラースの四班が仕留めて翔速号には取り憑かせなかった。
「行かせるわけにはいかない!」
 羅喉丸が突如雲海から現れた人面鳥に向かって甲龍・頑鉄を反転させる。そのまま接触し、見事頑鉄の頭突きが決まって人面鳥が空中でふらついた。
「虚仮威しもそこまで‥」
 守月柳が機会を逃さずに炎を纏わせた長脇差で人面鳥の翼を刻むのだった。
「ここまで来ると雲は大してないな。海面に近いせいもあるかも知れないが」
 二班のアリストは滝月玲と共に先行し、鬼咲島を囲む海原の上空に辿り着いていた。
「あれが『赤光』?」
 島の上空にポツンと見える点を見つけた滝月玲が呟くと炎龍・瓏羽が一啼きする。
 翔速号が受けた依頼は超大型飛空船『赤光』へ食料貨物を届ける事。目的の飛空船がようやく見える位置にまでやってきた事に滝月玲はほっと胸をなで下ろす。
 引き返して状況を翔速号の仲間達へ知らせようとした時、海の中から『何か』が飛びだしてきた。すかさずアリストがアムルリープを唱えて『何か』を眠らせる。
「飛び魚‥‥かな? いや違う」
 滝月玲は炎龍・瓏羽を操って近づき観察した。眠りながら落下していたのは飛び魚によく似たアヤカシの炉縁魚だ。
「雲の中に潜んでいるアヤカシを避ける為にとはいえ、海面スレスレを飛ぶのも危険だな」
 アリストは李鳳へ知らせる為に甲龍・アメシストを反転させた。滝月玲も炎龍・瓏羽を操って翔速号へと戻る。
 すでにあらかたのアヤカシは退治し終わり、単発的な襲来を処理するのみの状況になっていた。
 翔速号の甲板に降りた二班のアリストと滝月玲は操縦室へと向かい、李鳳と王輝風の二人に詳しい状況を口頭で伝える。
「空にもアヤカシ。海にもアヤカシ。魔の島とはよくいったものだわねぇ」
 話しを聞いた李鳳は腰に手を当ててため息をつきながら前方窓へと振り返る。まもなく翔速号も鬼咲島を囲む海の上空へと辿り着いた。
「高度に気をつけないとね」
 偵察の内容を踏まえて王輝風は翔速号を操縦する。可能ならばアヤカシとの戦いは出来るだけ避けた方がよいからだ。
 それからもはぐれアヤカシが翔速号を狙ってきたものの、一度に現れたのは一体か二体。開拓者達からすれば取るに足らない敵であった。
 出発時に巫女を雇って欲しいと李鳳は滝月玲に頼まれたのだが、それはさすがに無理があった。代わりに翔速号に積んでいた符水を一定数だけ提供する約束をしていた。その符水を使って治療を行う余裕もある。
 巨体故、近くにあるように見えた調査船団『朱』の旗艦超大型『赤光』だが、実際にはそうではなかった。ようやく辿り着くとその巨大さがわかる。
 浮かんでいる位置は鬼咲島の中央よりも東側の位置にある駐屯地の上空。東西に島を分断する川より北側だ。『朱』の調査飛空船と一緒にゆっくりと旋回しながら駐屯地の護りに就いていた。
 李鳳が旗を振って合図を出すと赤光から龍騎乗の砲術士が来訪する。書状の確認を終えるとさっそく物資の搬入が行われる。
 翔速号は赤光の動きに合わせての航行を開始した。
 両船の間に頑丈な縄が張られて滑車によって貨物が赤光へ搬入される。
「エル、皆と仲良くやってるねい。終わったら沢山ご飯あげるからねっ」
 セゴビアは炎龍・エルドリアに声をかけながら貨物の木箱に滑車を取り付けてゆく。かなり船倉内が空いたので仲間ひしめく甲板から一部の龍を移動させたのである。
 搬入が終わるまで開拓者の一部は龍と共に赤光の甲板で待機していた。赤光に辿り着くまでにそれなりの無理をしたのですべての龍が休む必要があったからだ。
 搬入作業は大して時間もかからずに終了する。
(「多分次は‥‥」)
 翔速号内での警戒任務にあたっていたオラースは甲板後部展望室から沈む夕日を眺める。思わず涙が零れかけて天空に視線をあげた。どうやら今後セゴビアとの行動が途切れるようだ。
「ここが鬼咲島か。奇妙な土地だ」
 アリストは李鳳の許可をとって甲龍・アメシストで鬼咲島の駐屯地へと降りてみる。日が暮れる直前であったが、篝火や着陸している飛空船に搭載されていた宝珠の輝きによって真っ暗闇ではなかった。円を描くように『朱』の飛空船は着地していて安全圏を確保している。
 一歩でも駐屯地を踏み出せば、そこはアヤカシのテリトリー。いつ襲われてもおかしくない状況だ。
 森の茂みから異様な殺気が放たれているのが誰にでも感じとれた。潜んで駐屯地を窺っているアヤカシはかなりいるのだろう。
「怖がらなくても平気です。ほら、珂珀もいますし」
 一心は翔速号の船倉内で王輝風から預かった子猫のハッピーに餌をやっていた。駿龍・珂珀も一緒に全員で干し肉で腹を満たす。場所がどこであれ、どのような状況であれ、腹は空くものだ。そして食べてこその明日の命である。
「俺達はいつだって一緒だからな、安心してお休み」
 滝月玲は今晩だけ赤光の艦内に泊まらせてもらう。炎龍・瓏羽に充分な食料を与えて近くの藁の山の上に寝転がる滝月玲だ。
 赤光内は広くてたくさんの乗員が働いていた。空に浮かぶ飛空船の中とはとても思えないと様子だと滝月玲は心の中で呟く。
「さて、これでようやく半分か。じゃが、行きに比べれば帰りは多少はましかの」
 空いた船倉内を眺めた輝夜は眠る駿龍・輝龍夜桜の様子を確認してからベットへと向かう。
 アヤカシ跋扈する鬼咲島とはいえ、興志王率いる調査船団『朱』と一緒である。無理に警戒任務を行うよりも明日からの帰路に備えて身体を休めた方がよいと李鳳が指示を出していたからだ。輝夜は久しぶりにぐっすりと眠りに就いた。
「帰りも頼んだぞ」
 羅喉丸は翔速号の甲板に立てた日時計の棒を確認してから船内へと戻る。行きとは違って鬼咲島から離れるまでが危険なのに間違いはなく、あらかじめの点検である。もちろん甲龍・頑鉄の調子も確認済みだ。
「風花、よくやってくれた‥‥」
 今晩の守月柳は炎龍・風花の側で休んだ。翔速号の船倉の片隅で寄り添いながら深い夢の中へと落ちてゆくのだった。

●そして
「遙々ありがとな!」
 翔速号が駐屯地上空を離れる時、龍騎乗の砲術士達が途中まで見送ってくれた。『朱』所属の団員達なのだが、その中には朱藩の興志王の姿もある。
「興志王様!! あ、危ないから、は、早く戻ってえぇぇ〜〜! 他国の王とはいっても万が一があったら、あしたたち‥‥」
 目を丸くして驚いた李鳳は窓の外にいる興志王に手振り身振りで赤光へ帰るようにお願いする。だが何処吹く風と興志王は宙返りなどをして気楽な様子であった。
 幸いといってはおかしいのだが、帰り時のアヤカシ襲来は興志王を含む砲術士達が戻ってからの出来事となる。
 貨物を降ろしたおかげで翔速号の船体が軽い事もあって李鳳は逃げるのを選択する。
 速い駿龍を駆る一心と輝夜だけが翔速号と平行して飛び、その他の開拓者達は船倉か甲板で待機を続けた。三時間後には鬼咲島圏内からの脱出を果たす。
 朱藩の首都、安州にある飛空船基地まで大事は起こらずに依頼は終了する。
 食料が詰まった貨物をすべて送り届けた開拓者達は満足そうな表情で神楽の都へと戻るのであった。