砂浜の綾姫
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: イベント
危険
難易度: やや易
参加人数: 22人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/07/04 17:34



■オープニング本文

「つまりじゃな。コッカカンのコォーリュ〜というのが必要だと思うのじゃ」
 七歳の少女『綾姫』は庭の木の枝にぶら下げたテルテル坊主を見上げる。聞き手は雨をしのぐ為に傘を持つ、名を紀江という二十歳前の侍女。
 ここは武天の都、此隅にある巨勢王の城庭。綾姫は巨勢王の愛娘であった。
「綾姫様、お行きになりたいのですね。朱藩の南志島へと」
「うむ。とっても行きたいのじゃ。南の楽園じゃとここにも書いておる」
 綾姫が懐から取り出して紀江に見せたのは一枚の瓦版。紀江と一緒にお忍びで此隅を歩いていた際に手に入れたものだ。
 朱藩の南方海域に連なるように千代が原諸島が存在する。その中の一つが南志と呼ばれる観光の島であった。一般にナンシジマと呼ばれている。
「ほとんどが遠浅の砂浜とのことじゃ。大ざっぱにいって東側は穏やか、西側は荒々しいそうじゃぞ。西で手作りの板に乗って波乗りする者もおるようじゃが、わらわは東で海水浴が所望じゃ」
「恐れながら。蒸し暑い日が続いていますが、いざ海に入ろうとすればまだお寒いはず。行かれるのであれば、せめて来月からがよろしいのでは?」
「わらわもそれは考えた。じゃがの。突然の予定が入っていけぬかも知れん。それによい避暑地であればもう一度訪れればよい。今回は‥‥そうじゃな、この島の南部分にある特別区域の砂浜で野外生活を楽しむのじゃ。宿泊用に島の旅館組合が『てぇんと』なるものを貸してくれるそうじゃぞ」
「それはよいお考えですが問題は残って御座います。一国の姫が他国を訪ねるにはそれなりの理由というものが必要。そうでなければおそらく巨勢王様は許可して下されぬかと」
 紀江の言葉にはっとした綾姫は腕を組んで黙り込む。そしてゆっくりと城へ向かいながら話しを続けた。
「そ、そうじゃ! 夏に向けて海岸を綺麗にせねばならんじゃろ。観光地として有名なところじゃからな。流木などを拾い集めて燃やして綺麗にすれば『コッカカンのコォーリュ〜』となろう。あの興志なる伊達男の王も泣いて喜ぶはずじゃ」
「それはよいお考えです。綾姫様」
「夕べのお膳は父様と食べる約束じゃ。そこで話してみようぞ」
「お優しい巨勢王様ならきっと綾姫様の願いを聞き入れて下さるでしょう」
 紫のアジサイが咲き乱れる側で綾姫は紀江を見上げながら大きく頷くのであった。


■参加者一覧
/ 井伊 貴政(ia0213) / 鴇ノ宮 風葉(ia0799) / 秋霜夜(ia0979) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 倉城 紬(ia5229) / アムシア・ティレット(ia5364) / からす(ia6525) / 九条 乙女(ia6990) / 向井・奏(ia9817) / フラウ・ノート(ib0009) / ジークリンデ(ib0258) / 玄間 北斗(ib0342) / シルフィリア・オーク(ib0350) / 琉宇(ib1119) / 有射 給(ib2150) / 鹿角 結(ib3119) / 観那(ib3188) / 銀太(ib3191) / 千渡 蓮(ib3287) / 無羽(ib3288) / Null(ib3290) / 村紗慧音(ib3304


■リプレイ本文

●砂浜
「流木はまだ落ちているのう」
「大体ですが最初に決めた範囲内の七割方は終わっています。綾姫様」
 輝く太陽の下、水着姿の綾姫と侍女の紀江が拾い集めていたのは砂浜に流れ着いた小枝である。
 開拓者達と共に飛空船に乗って南志島に到着したのが昨日。
 四日目早朝に帰りの飛空船へ乗り込む予定なので、明日の夕方までが掃除に費やせる時間となっている。それを待たなくても順調に終わりそうなので綾姫はほっと胸をなで下ろした。
 すべては頑張っていた開拓者達のおかげであった。
「広い海は気持ちいいどすねぇ‥‥」
 狐獣人の銀太(ib3191)は丸太状の流木を肩に担いで砂浜を歩いていた。横を向くと広がる青い空と海。そして緩やかに押し寄せては返す波間が広がる。
「どないしはった? なんや、僕にも手伝えることありますやろか?」
 銀太が通りがかりに声をかけたのは綾姫と紀江だ。
「ちょっと頑張りすぎてのう。枝を入れすぎて籠を背負えなくなってしまったのじゃ。ま、小分けに運べばよいのじゃが」
 籠を担ごうとするものの綾姫は立ち上がれずに砂浜へ尻餅をついたままだった。紀江は自分の籠を背負って立ち上がってはいたもののフラフラしている。
 そこで銀太は綾姫の分の籠を背負って運んであげた。綾姫は紀江が担いでいる籠を後ろから支えながら進む。
 綾姫と紀江の微笑ましい姿をよそ見をしていた銀太に波が襲いかかった。
「ああ、やってしもた‥‥尻尾が海水で重い‥‥」
 かかったのはほんの少しであったが、しっくりとこない銀太である。やがて集合地まで辿り着き、流木や枝を降ろす。
「助かったのじゃ」
 綾姫は急いで『てぇんと』場から戻ってくると銀太に飲み物を手渡す。日差しが強いので倒れないようにと水の類はたくさん用意されていた。
 もう一つ、濡れた尻尾が少しでも早く乾くようにと綾姫はふかふかの布で銀太の尻尾を拭いてあげる。
「さてと、もう一度がんばりますどすねぇ」
 尻尾が乾いた銀太は柑橘系の飲み物を飲み干し、再び流木拾いに戻っていた。
「これ重いかな」
 琉宇(ib1119)は身体に合った大きさの流木を抱えて運ぶ。
 いつもなら手放さないリュートだが、今は大切にてぇんとの管理人へ預けてある。傷つけたり壊したりしない為だ。油紙を途中に挟んで何重にもくるんであるので潮風にも大丈夫。演奏の機会がある時だけ取り出すつもりでいた。
(「こっちにくるのかな‥‥」)
 水着姿の開拓者の女性とすれ違うと琉宇はドキドキしてしまう。普通の水着ならまだしも、さすがにものすごいセクシーな格好の女性には近づかずに遠回りをした琉宇であった。
 そんなセクシーな格好の女性の一人、ジークリンデ(ib0258)はようやく見つけた綾姫に駆け寄る。挨拶をしようにも飛空船に乗った頃からこれまでによい機会がなかったのだ。おずおずとした態度なのは大胆な水着に自信がもてなかったからである。
「掃除の後で冷菓子を作りたいと考えています。是非、ご賞味してもらいたいのですけれど」
「それは是非所望したいものじゃ」
 綾姫と話したジークリンデは張り切って海岸掃除を再開した。自分が担当した周辺をとっとと終わらせて料理に着手する為に。
「そろそろ運ぶね♪」
「わらわも一緒に行くのじゃ」
 途中から綾姫等に加わったのがワンピースの水着姿のフラウ・ノート(ib0009)である。腰に巻いた布をなびかせながら綾姫と一緒に小枝が入った籠を運んだ。
 煮炊き用の燃料として使う分として小枝の一部は別にする。少し濡れているぐらいなら砂浜に広げておけばすぐに乾いた。掃除の目処がつけば食事の手伝いもするつもりのフラウである。
「これは綺麗な青だな」
 海岸掃除の合間に貝殻を見つけては腰に下げる袋に仕舞うのは、からす(ia6525)。後で手を加えて装身具にするつもりでいた。
 みんなが海岸掃除に頑張っている頃、木陰の枝の上に隠れてサボっていたのが鴇ノ宮 風葉(ia0799と向井・奏(ia9817)の二人。
 すべてはのんびりとする為だが、妻の向井奏が常に寄り添っているのでそれは出来なかった。
「‥‥ま、たまにはこーいうのもいいかな」
 鴇ノ宮は目を細めて呟く。ちなみに向井奏を妻として慕うが鴇ノ宮も女性である。
 組になって効率的に作業を進めていた開拓者もいる。九条 乙女(ia6990)、シルフィリア・オーク(ib0350)、倉城 紬(ia5229)、礼野 真夢紀(ia1144)、秋霜夜(ia0979)、玄間 北斗(ib0342)達だ。
「ちぃ姉様とも良く海に行った序でに掃除をしましたのです」
「そうなのだ。ゴミ拾いは良い事なのだぁ〜」
 集まった流木などを選り分けていたのは礼野と玄間北斗。
 日焼けが気になるので礼野は巫女袴姿で作業を行う。玄間北斗はなんとモコモコした『たれたぬき』の着ぐるみ姿で流木を載せたソリを引っ張っていた。汗びっしょりになりながら頑張る二人だ。
「昨日もそうでしたけど、今日も狸の着ぐるみです? 暑くありません?」
「だ、大丈夫なのだぁ‥‥と思うのだぁ」
 小枝の山を抱えて運んできた腰布付ワンピース姿の秋霜夜は足下がふらつく玄間北斗に声をかける。倒れてしまう前にと持っていた水を差し出す。
「霜夜ちゃん、助かったのだぁ〜〜』
 ごくごくと玄間北斗は一気に飲み干すのだった。
「さてともう一がんばり‥‥あちっ!」
 玄間北斗に頷いてから作業に戻る秋霜夜だが時折大きく跳びはねた。さすがに日差しで焼けた砂浜を素足で歩くのは熱いようである。
「これぐらいでよさそうですぞ」
 さらし姿の九条乙女は大きな流木を斧で割って燃料の用意をしていた。容姿は女性、実は男性らしい。明日行うつもりの作業だったが、それでは間に合わないと聞いてただ今頑張っている最中である。
 割った木材は夕方に備えて井形に組まれた。その作業を担っていたのが倉城紬だ。
(「九条さんの邪魔にならない様に」)
 ひっそりと、だが必ず九条乙女の側にいた倉城紬である。
「ちょっと覗いてこようかねぇ」
 掃除が一段落してから調理をする一角に向かったのがシルフィリア。
「もう少し濃い味がよいですかね あ、シルフィリアさん」
「手伝おうか。人数が多いから大変そうだし」
 鍋からあげたお玉で味見をしていた井伊 貴政(ia0213)はシルフィリアと目が合う。
 さっそく野菜切りを手伝ってもらうのだが、シルフィリアのつまみ食いに井伊貴政はクスリと笑う。
「はい、あ〜ん」
 切ったばかりの果物を井伊貴政はシルフィリアの口元に運ぶのだった。ついでに作ってみた果汁入りのお酒を試飲してもらう。
 調理とは別の意味で夕べの食事に貢献しようとしていた者もいる。
 潜って海産物を手に入れようと奮闘していたのはアムシア・ティレット(ia5364)と銀狐獣人の鹿角 結(ib3119)の二人であった。
 それぞれに離れた場所で海中を探ろうとしていた。
(「ご飯、とってくるっ。‥‥ヒトデいた」)
 真っ黒な布で出来た薄服を纏うアムシアは海水をかき分けて底へ底へ。見つけたヒトデをつい愛でてしまうが、ハッと我に返る。食べられる物を探さねばと。
 多数の貝と海藻を手に入れて持ち帰るアムシアである。
「これでいいですね」
 鹿角結は流木の中から曲がりの少ない頑丈そうな枝を見つけて先端を削る。出来たのは簡易の銛兼串。これで魚を仕留めようという寸法だ。
 さっそく海に入ろうとすると砂浜は焼けるように熱いのに非常に冷たかった。我慢して潜り、漁を始める。そして海中の景色に目が覚めるような思いをする。
 踊るような魚の群れ。色とりどりな魚もいれば、食すのによさそうなものも泳いでいる。
 しばしして目的を思いだした鹿角結は獲物を手作りの銛で突き始める。魚やタコで網が一杯になると砂浜にあがった。
 たくさんの獲物に喜ぶ鹿角結であったが、寒くて歯の根は合っていない。急いで流木を燃やしている場所で暖をとるのだった。

●夕べまでのひととき
 二日目の掃除が終わる。身体を休めたり、または夕べの宴の準備をするなど各々が自由な時間を過ごす。
 そんな中、琉宇は仲間を誘った。
「友だちで遊ぶよ」
 琉宇がいう『友だち』とは球の事だ。遊びのルールは二つの組に分かれてそれぞれの陣地に運び入れる。その際、友だち一つにつき二人で運ばなければならない。投げるのは反則である。
「行きますよ。砂浜を駆けるのは足腰の鍛錬にも繋がります」
「張り切ってやるのだぁ〜」
 秋霜夜に誘われて参加した玄間北斗はたれたぬき柄の甚平を羽織っていた。二人は小回りを利かせて縫うように友だちを運んでゆく。時に敵の邪魔をして友だちを奪う。
「頑張る!」
「友だちは友だち」
 アムシアと琉宇は波が打ち寄せる近くを駆け抜けた。少しでも相手に邪魔をされないように。
「きゃっーち」
 友だちが海に流されてしまった時にはアムシアが水蜘蛛で拾ってくれる。
「なかなか難しいものじゃのう」
「綾姫様、左から邪魔者が参ります」
 綾姫と紀江はあたふたと逃げ回る。
 飛び入りの参加もあって友だちによる球技は盛況であった。

●夕暮れ、そして宵の口へ
 からすは夕日がよく見える岩場に腰掛けていた。集めた貝殻に穴を開けて糸を通して装身具を作る。
「何をしているじゃ?」
 ひょっこりと岩下から顔を覗かせたのは綾姫である。
「貝殻でアクセサリーを作っている。やってみると結構楽しいぞ」
 麦藁帽子の鍔を持ち上げた、からすは綾姫を招いて完成したばかりの貝殻の首飾りを贈った。
「ありがとうなのじゃ。それにしても綺麗な夕日じゃのう」
 笑う綾姫の笑顔が夕日に染まっている。
 からすは心の中で呟いた。血溜りの様な海に映る歪んだ姿は、今まさに倒れ伏す様。静かにゆっくりと墜ちてゆくその姿は、しかしとても美しいのだと。
 言葉として、からすが発したのは最後の『美しい』のみであった。
 やがて楽しい夕べの時間は始まる。
 流木で組まれた大きな井形に火が点けられて巨大な灯火となった。
 リュートの梱包を解いた琉宇はさっそく奏で始める。音が上がるときに、切らずに繋げて演奏し、南国風の雰囲気を醸し出す。
「真夢紀ちゃん、美味しいのだぁ〜」
「よかったです。もっとたくさん食べてください」
 玄間北斗は礼野が作った真っ赤なかき氷を一緒に頂いた。氷霊結で作った氷を削り、甘味を加えた赤い紫蘇のタレで作られたかき氷である。
「こいつはいけるねぇ」
 シルフィリアには果実酒を凍らせて作った特別製のかき氷を用意した礼野だ。一同はさらに様々な貝を網焼きにして頂く。
 シルフィリアは礼野にもらった氷で果実酒を冷やす。そして調理に頑張ってくれた井伊貴政を誘う。
「これは美味しいですね」
「そうかい。もっと呑みなよ」
 一仕事終えた井伊貴政は残りの時間をシルフィリアと過ごす。セクシーな水着姿のシルフィリアにどぎまぎしているのを隠しながら。
 ちなみに井伊貴政が用意してくれた料理は様々である。
 串焼きはタレに漬けたものと、味付けを自由につけられる状態のもので二種類。具の組み合わせを考えれば二種類では済まない多様さだ。焼くのは各人に任せられる。
 それに味噌汁を始めとする海産物の鍋物が五種類。米は白飯と魚を入れた炊き込みご飯の二種類。焼きおにぎりも並べられていた。
「頑張ってくれたから、たくさん食べるのじゃ」
「おおきに。うわぁ、何や食べるのもったいないわ」
 綾姫が焼いてくれた串焼きを手にして銀太は目を丸くする。じっと綾姫に見つめられる中、肉の部分をガブリと頂く。美味しいと伝えると綾姫はうむと嬉しそうに何度も頷いていた。
「こういうのは、このような年になっても‥‥心弾むものですね」
「よかったですね。皆様、とても楽しそうです。よろしければ綾姫様の処へもお顔を出して下さいな。ではまた」
 採った魚を焼きながら鹿角結は側にいた紀江と言葉を交わした。焼き上がると欲しがる仲間に分けて自らも頬張った。
「父様はそんなことをいっておられたのか。何ということじゃ」
「ええ。巨勢王様はとても豪快なお方ですね」
 ジークリンデは出来たばかりの柑橘類のジェラートを綾姫と頂きながらお話しをする。金属製の鍋にフローズの冷気を利用して作りあげたものだ。
 どことなく巨勢王と綾姫の目の輝きが似ているとジークリンデは感じる。考える時に顎へ手を当てる仕草も何となく。
「うまひぞぉ!!」
 がつがつと食べまくっていたのは九条乙女。鼻の穴に千切った布きれが詰められていたのは日中の鼻血祭りのせいだ。目前には魅惑の曲線。左右にもセクシーバディ。特に日中は天国状態で血液が沸騰したのであった。
「次の串焼きが焼けましたよ」
「あひがとぉ。あとへ、みぃひぃんなへ、せんこうはなひをひよう!」
 倉城紬は九条乙女に料理を運ぶ。
 その倉城紬を手伝っていたのがフラウだ。
「一緒に食べようね」
「あ、頂きます。綾姫さんが食べていてとても美味しそうだったんです」
 バカスカ食べる九条乙女の世話をしながらもフラウは自分が食べるのも忘れない。塩焼きにした魚を倉城紬と二人で笑いながら熱い熱いと頂いた。
「水か、茶か。どちらが良いか?」
 この頃から、からすは酔いつぶれた者達を介抱し始める。
「うりゃです!」
 宴も盛り上がり、もふらの面をつけた秋霜夜が泰拳の演舞を披露する。両腕についた鈴が鳴り響く。
「可愛い鈴の音じゃが、本人の動きはすごいのじゃ」
 綾姫が感心する中、近くにあった木の幹をうまく使って宙をより高く舞い、突きや蹴りは刺すが如くの秋霜夜である。
「うまい!」
 覆面の下を見られないように仲間達と少し離れたところで料理を頂いていたのがアムシアだ。やはり自分が獲ってきた海産物は最高である。
 その頃、宴には参加せず岩場で夜釣りを楽しんでいたのが鴇ノ宮と向井奏の二人。
 正確にいえば釣り竿を持っていたのは鴇ノ宮のみ。しかも釣り針が曲がっていて魚が引っかからない仕様なので真に釣りといえるかは定かではない。
「昼もそうだったけどよく寝ているな」
 日中と同じく向井奏が鴇ノ宮の膝の上に頭をのせて寝ていた。決して悪い気分ではなく、鴇ノ宮は愛おしい向井奏を時折撫でる。
「うふふ、あなた駄目でゴザルよこんなところで溢れるワイルドさ――ッ!」
 突然、ワケのわからない寝言を向井奏が口走る。プツンときた鴇ノ宮は向井奏の背中に肘鉄を喰らわせた。
 目を覚まし、がばっと起きあがった向井奏。夢の続きのまま鴇ノ宮を持ち上げて海へと投げ込んだ。
「愛して、そおい!」
 海面から顔を出した鴇ノ宮に向井奏は声をかける。にっこりと笑った鴇ノ宮は精霊砲を放つのだった。
 愛の形はいろいろである。他人が手を突っ込むと火傷をする程に。

●そして
 宴が終わった後、各人分かれて『てぇんと』で休んだ。
 てぇんと内で玄間北斗は九条乙女に大変な目に遭わされたようだが、それは本人同士の問題だ。ちなみにすんでの所で何事なかったようだが。
「静かな波音。これもまた良し」
 からすは一人てぇんとを抜け出して海辺の月見酒を楽しんだ様子だ。
 三日目の午前中には決められた範囲の掃除はすべて完了する。残りを二日目のような楽しい時間を過ごした一度は眠りに就いた。
 そして四日目の早朝。綾姫達と一緒に飛空船へ乗り込み、南志島を後にした開拓者達であった。