氷と賭け事 〜満腹屋〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/05/31 18:52



■オープニング本文

 朱藩の首都、安州。
 海岸線に面するこの街には飛空船の駐屯基地がある。
 開国と同時期に飛空船駐屯地が建設された事により、国外との往来が爆発的に増えた。それはまだ留まる事を知らず、日々多くの旅人が安州を訪れる。
 そんな安州に、一階が飯処、二階が宿屋になっている『満腹屋』はあった。


「確かにお呼びしたいですが、そう都合よい方がおられるとは思えませんけど」
「そこなのですよ」
 暖簾を外した閉店後の満腹屋の一階飯処。
 わずかな灯火の中、智塚光奈と姉の鏡子は卓を拭きながらお喋りである。
 話題にしていたのは、もうすぐ訪れる夏について。
 光奈が交易商人『旅泰』の呂から教えてもらった情報によると、志体を持つ巫女の中には『氷霊結』と呼ばれる術で氷を作り出せるらしい。ちなみに巫女とはいっても男性も含まれるようだ。
 光奈はどうにかして満腹屋に氷霊結が使える巫女を店員として雇いたいという。夏場に氷を扱えれば店の繁盛うなぎ登りまちがいなしである。これまでにも冬場の氷や雪を氷室でとっておいたものを使う店などがあって、とてもうらやましく感じていたのだった。
 問題は鏡子がいうように簡単に都合のよい人物が見つかるかだ。一応、光奈にも心当たりはあるようなのだが。
「前に神楽の都でがんばっている美世さんから聞いたことがあるのです。『遊界』という町でそういう人物と会ったことがあるって。確か、名前は銀政さんっていったような」
「なんだか怖そうな名前だわね。それと遊界って賭博の町だったわよね。一応、興志王が試験的に許可を出したお上のお墨付きではあるけれど」
「治安はけっこうしっかりしているって聞きましたです。『後始末団』って人達が巡回しているそうなのです。なので私が行って頼んでみるのですよ♪」
「あ、光奈さんったらずるいですわ。それがもしかして真の目的?」
 なんやかんやで光奈が遊界にいって銀政を勧誘しに行くのが決まる。満腹屋の経営者である父親からの許可も得た。ただし、光奈一人では大変なので開拓者にも銀政探しを頼む事となる。
 翌日、光奈が安州内の開拓者ギルドを訪れた。依頼手続きを終えて外に出ると光奈は空を見上げる。
 まだ梅雨の季節が控えていたが、空には夏を思われる太陽の輝きが満ちていた。


■参加者一覧
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
夏 麗華(ia9430
27歳・女・泰
フレイア(ib0257
28歳・女・魔
ブローディア・F・H(ib0334
26歳・女・魔
玄間 北斗(ib0342
25歳・男・シ
アーネスティン=W=F(ib0754
23歳・女・魔
黒町(ib2020
14歳・女・陰
花三札・猪乃介(ib2291
15歳・男・騎


■リプレイ本文

●到着
 定期飛空船で朱藩の首都、安州を出発した翌日の昼頃。
「ここが遊界なのですかぁ〜♪」
 智塚光奈は開拓者八名と共に賭博の町『遊界』へと一歩を踏み入れていた。
「さてさて‥‥この中から、人を一人探さないといけないのか。こりゃ、地道に情報を集めていくしか無さそうだね?」
 右手を腰に当てたアーネスティン=W=F(ib0754)が、右から左へと首を動かして人通り多く賑やかな往来を眺める。
「大まかな場所と迷子になった時に集る場所を決めておかんとね。おっ、ちょうどええのがおおたやん」
 斉藤晃(ia3071)は町の案内を示す看板前で立ち止まる。一同も一緒になって看板に描かれた町内の地図を確認した。
 宿が集中している界隈があったのでまずは全員で向かった。さっそく泊まる一軒を決め、迷子などのもしもがあった時はここに集合する決まりとする。
「天儀の涼しげな食べ物にも興味がございますので光奈さんの満腹屋さんに期待致しましょう。その為にも銀政さんを探さないといけませんわね」
「よろしくなのですよ☆」
 頬笑むフレイア(ib0257)に智塚光奈はコクリと頷いてみせた。
「宿に戻ったら情報をよろしくなのだぁ〜」
 特段の進捗がなくても情報のやり取りを忘れないようにしようという玄間 北斗(ib0342)の提案は全員に受け入れられる。
「あのですね――」
 分かれる前に智塚光奈が改めて銀政の特徴を語った。
 一番の外見的特徴は右頬に刀傷。他には普段から高下駄を履いている様子。年齢は三十五歳前後でおまけに独身のようだ。
「あと、人情話に弱くて涙もろいみたいなのです〜」
 銀政を知る美世から聞いた話を智塚光奈は思いだす。
 ちなみに美世は満腹屋が暖簾分けした屋台を任された人物で、兄弟姉妹と一緒に神楽の都で頑張っている女性である。過去に銀政とは意気投合して呑み歩いた経験があるようだ。
「それでは私は智塚様、斉藤様達と一緒に行動したいと思います」
 夏 麗華(ia9430)は智塚光奈、斉藤晃と共に『後始末団』を訪ねる事にする。後始末団とはもめ事が多そうな遊界の安全を司る自治警備団らしい。
「ならば私は逆転屋に向かいましょう」
 ブローディア・F・H(ib0334)が言葉にした『逆転屋』とは遊界に一軒だけの質屋だ。噂から町の裏事情に詳しそうな印象をブローディアは前々から感じていたのである。
「黒町も玄間様と、『逆転屋』で情報集めをするの‥‥近くの場所も、少し探してみる‥」
 黒町(ib2020)は玄間北斗の背中に隠れるようにしてこれからの行動を仲間達に伝えた。
(「俺が一番に見つけて、そんでもって‥そんでもって! ‥野菜とお肉が、数か月振りに食いてぇぇぇぇッ!」)
 一人、大股開きで空を見上げて両の拳を握り、心の中でご馳走を思い浮かべていたのが花三札・猪乃介(ib2291)だ。帰りに飯処『満腹屋』のお弁当を是非に持ち帰りたいと考えていたのだが、単に欲しいというのは気が引ける。ここは自分がいの一番に銀政を見つければ智塚光奈にもお願いしやすくなるというものだ。
 智塚光奈と開拓者達は遊界の町に散らばり、銀政探しを開始するのだった。

●後始末団
 銀政探しのきっかけとして後始末団の屯所を訪ねた者は多かった。
 組となった斉藤晃、夏麗華、智塚光奈の三人。個々にフレイア、アーネスティン、花三札も足を運ぶ。
「組織の力を使うのが常套手段やろ。ちょいと邪魔するでぇ〜」
 先頭の斉藤晃が出入り口となる戸を叩いて全員が中へと入る。
「実はなのですけど――」
「右頬に刀傷を持つ男? そりゃ半年に十人は見かけたぜ。まあ、右か左かなんてまでは覚えてねぇから、正確にゃ半分ぐれぇなんだろうけどよ。高下駄までは記憶にねぇなあ〜。後で他の団員にも聞いといてやるけど期待はすんなよ」
 智塚光奈が銀政の特徴を並べて訊ねると一人の団員が茶をすする合間に教えてくれた。
「それらしき人物はたくさんおられるようですね。どう致しましょうか?」
「やはり一人ずつあたるしかないのですよ」
 夏麗華と智塚光奈が小声で相談すると隣にいた斉藤晃が腕を組んで頷いてみせる。
「だとしたら銀政って人物は有名ではないってことだね。そうそう、私を含めたここにいる者はちょいとした人探しをしているだけでね。荒事はしないから安心してくれ」
 アーネスティンは取り調べの調書に銀政の名が残っていないかの確認を団員に頼んでみたが、そこまでの協力は出来ないと断られた。
 誰か団員がいる時ならばアーネスティン自身が屯所で調べるのはやぶさかではないようだ。ただ、そうなると実際の捜索には携われなくなってしまう。考えた末、アーネスティンは調書の名前探しはあきらめる。
「この遊界で賑わっている食堂や飲み処はどちらになるでしょう? そちらで頬に刀傷がある人物を見かけられたことは?」
「そういうとこでも喧嘩は起こるからな。まあ、何人かは見かけたこたぁあるぜ」
 フレイアは団員から人気の飯処を教えてもらう。人は誰でも空腹になるし、それに銀政がまだ遊界にいるとすれば滞在期間は非常に長い。自然と評判の店も知っているだろうというのがフレイアの狙いだ。
「馬とか犬を競わせる賭場を教えてくれ! それと美味い弁当、売ってるところ知らねぇかな?」
 花三札はひとまず一個所の賭場に長居して調べるつもりでいた。その為の情報を団員から教えてもらう。やけに美味しい弁当への質問が熱心なように感じられたのはおそらく智塚光奈の思い過ごしであろう。
 六名は後始末団の屯所からさらに分散して銀政探しを続けるのだった。

●逆転屋
「ここですね」
 ブローディアは胡散臭そうな看板を掲げる店舗を眺めた。この遊界で一軒のみ営業が許されている質屋『逆転屋』である。
「いろいろと置いてあるのだぁ〜。きっと質草だったものなのだ」
「たくさん‥‥ある‥‥」
 玄間北斗は黒町と一緒に先に入ったブローディアの後をついてゆく。
「旦那様にお嬢さん方。お客様、大歓迎ですがな!!」
 揉み手をしながら現れたのは逆転屋の主人『田野吉』である。
「ちょっとお仕事で人捜しをしているのだ。質入れに銀政さんって人が来たりしてないのだ? 右頬に刀傷があるのだぁ」
「‥‥なんや客とちゃうんかい」
 玄間北斗の話す内容から人捜しをしているのを知ると途端に田野吉が不機嫌になった。とはいえ将来の上客になるかも知れないと考え直す。
 一度背中を向けた後で振り返った田野吉は笑顔を浮かべていた。あまりに不気味なせいで黒町はすっぽりと玄間北斗の背中へ隠れてしまう。
「そやな。覚えとらんやさかいにこん逆転屋の常連やあらへんな。いや待ってぇな‥‥。銀政って名前かどうかは知らんけども、お客様を連れてきた刀傷の旦那は何度か見かけたような‥‥高下駄、履いておったような‥‥」
「きっとその人なのだぁ〜」
 田野吉から有力な情報を得た玄間北斗はさらに詳しく訊ねる。
 強面な顔と不釣り合いな行動が印象的で田野吉は頭の隅っこで覚えていた。
 銀政らしき人物は見ず知らずの者に対してとても親切だったようだ。足に怪我をした者を背負い、医者を探して町中を駆け回った噂もあるらしい。
「町を歩いていれば銀政様を見かけるかも知れません」
 玄間北斗と田野吉のやり取りを聞いていたブローディアは、銀政と出会ったのなら智塚光奈が困っていると話を持ちかけてみるつもりで店を出て探しに向かう。
「光奈さんに報告‥‥」
「それがいいのだぁ〜。もうすぐ夕方なので宿屋で待っているのが一番なのだ」
 黒町に玄間北斗は笑顔で頷くのであった。

●銀政は何処に
 到着して二日目。
 早朝から銀政探しは続いていた。

「料理人はなさっていないようですわね」
 フレイアは昨晩、酒場や食事処で探してみたものの銀政は見つからなかった。ただ一人のお喋りな女中と知り合えたおかげで遊界の料理人で銀政らしき人物がいないことがわかる。世間というのは狭く、ましてや町一つの料理人の世界。銀政の特徴を持つ料理人は聞いたことがないという。
 氷作りの腕前を買われて銀政が料理人として雇われていたのなら、智塚光奈の行動は引き抜きになってしまう。そうであるなら、いくら安州から離れた地だとはいえ面倒な事になりかねない。そうはなり得ないようでほっとしたフレイアである。
 引き続き情報を絞り込みながらフレイアは銀政を探すのだった。

(「銀政様はどこに?」)
 ブローディアは賑やかな遊界の往来を練り歩きながら銀政を探す。男共がブローディアを見ては振り返るのだがそれはお構いなしに。
 途中、道の一角でからくり芝居をしている見せ物があって立ち止まった。ブローディアは観賞しながらも、時々振り返って銀政らしき人物が通り過ぎないかを確認するのであった。

「やれやれ。分かってはいたけど、流石に骨が折れるね」
 アーネスティンが待機していたのは古書店の中である。店内の窓から見えるのは医者の屋敷。
 銀政は行き倒れの病人怪我人をよくあの屋敷へと連れてくるらしい。ちなみに医者に聞いてみたが銀政の住処は知らなかった。
 医者の屋敷で待たせてもらうのも手だが、それよりも古本に興味津々でたまらなかったアーネスティンだ。賭け事は早々に切り上げてもうやらないつもりである。それよりも本の確認の方がよっぽど重要事項だ。
「しまった。屋敷もちゃんと見張らないといけないな」
 ついつい本に夢中になってしまうアーネスティンであった。

「うおおおっ!」
 往来を土煙をあげながら駆けていたのは花三札。
 昨日は犬を競わせて順位を賭ける賭場で銀政を探したのだが埒があかなかった。そこで今日は足で情報を稼ぐ手段に出たのである。
 方法は簡単。
 後始末団から銀政らしき人物の情報を得たらその場に駆けつけて確認する。または宿に戻って書き置きや仲間が戻っていないかも点検。新たな情報が得られたのなら再び疾走する繰り返しだ。
「とにかく足。足で稼ぐぜ!! ガキの短ぇ足で何処まで走り切れるか‥試してみるかな、っと!」
 花三札は遊界の風となるのだった。

「ちっとぐらいさわらせてくれてもええやん‥‥」
 ずぶぬれで頭にたんこぶを作りとぼとぼと歩いていたのは斉藤晃。
「えっちなのはいけないのですよ」
「そうです。斉藤晃様」
 振り返って軽蔑の眼差しを斉藤晃に向けたのが智塚光奈と夏麗華。
 挨拶といって斉藤晃が夏麗華に後ろから抱きついたのがすべての発端だ。何度か目のお触りをされていた夏麗華がついに怒り、斉藤晃を用水路に落とした上に重機械弓で射掛けた。最後には謎の洗濯タライが頭に落ちてきてたんこぶである。
 三人は適当に見繕って暖簾を潜った。そこは『ちんちろりん』と呼ばれる賽子賭博の賭場である。
「ほならいっちょやろか」
 斉藤晃が張り切って勝負を始めた。賭ながら場を取り仕切る親と会話を試みる。
 智塚光奈と夏麗華はたくさんの客の中から銀政を探す。勝負を休んでいる者に銀政の特徴を告げてみるといくつかの情報が得られた。斉藤晃も親から銀政がいそうな場所を引き出す。まとめてみると飛空船が離着陸する広場で銀政は多く見かけられていた。

「賭け事も‥‥していたみたいだけど‥‥銀政さんって人助けをたくさんしていた‥‥」
「聞いた話からすると銀政さんはそういう人なのだぁ〜」
 料理店の片隅で黒町と玄間北斗は食事をしながらこれまでの情報をまとめていた。逆転屋に出入りしていた客に話しかけてさらなる情報を得ていた二人である。
 銀政は賭け事で一文無しになった者の世話もしていたらしい。とはいえ本人の為に余程がなければ金は貸さなかった。逆転屋で最低限の持ち物を売らせて帰りの路銀が手に入るようにしていたようだ。その金まで賭け事に使わないように町の外まで見送ることがほとんどだったという。
 玄間北斗と黒町は食事が終わると一旦宿に戻り、得た情報を仲間宛として書き置きを残す。そして町の出入り口となる北門へと向かう。
 遊界と外界を繋ぐ門は東西南北にあり、さらに各地を繋ぐ飛空船が離着陸する広場も存在する。
 銀政が毎日困った人を世話しているかどうかは別にして、果たしてどこに現れるのか? 博打の町『遊界』らしく最後は運任せだと話しながら玄間北斗と黒町は北門を出入りする人々を見張るのだった。

●そして
 斉藤晃、夏麗華、智塚光奈は自ら得た情報で飛空船の広場に銀政の出現を待っていた。
 玄間北斗と黒町は北門で既に待機済み。
 宿に戻って書き置きに気づいた花三札は仲間達への報せに走る。その結果、ブローディアは南門、フレイアは西門に向かう。アーネスティンは花三札から事情を教えてもらった上で医者の屋敷の見張りを続行する。
 花三札は最後に東門へ辿り着いた。
 宵の口、篝火照らす北門付近で黒町が銀政らしき人物を発見する。やはり、すってんてんになった者を帰らせている途中であった。
 玄間北斗が話しかけて銀政だとはっきりとした。宿まで来てもらい、後の説得は智塚光奈に任せる。
 合間に食事として用意されたものは満腹屋のソース料理だ。フレイアが調理場を借りて再現したのである。ソースは智塚光奈が持ち歩いていたものが使用された。
 当然、他の開拓者達もご相伴にあずかる。
 ものすごい勢いで食べる花三札もすごかったが一番周囲を驚かせたのは黒町の喋りだ。寡黙な普段からは想像出来ないほど、食べ物を語る時の黒町は饒舌であった。
「妙な使命感に燃えちまっていたんだが、そろそろ人助けも頃合いだと思っていたところさ。美世の紹介だし、ここはいっちょ料理人ってのも悪かぁねぇ。ま、巫女なんだけどもよ。何であれ必要とされるのはいいもんだ。よろしくな」
「みなさん、銀政さんをよろしくなのです☆」
 智塚光奈の説得は成功し、銀政は安州の満腹屋に住み込みで働く事となる。
 さっそくフレイアは銀政に手伝ってもらって料理を作ってみた。氷霊結を使ってのジュレ作りである。苺のものと梅のものが出来上がる。
「これからの季節にとってもいいのですよ〜♪」
 その美味しさに智塚光奈も大満足だ。お土産として安州で待つ姉の鏡子の分も用意されていた。
 遊界の滞在も終わり、一行は定期便の飛空船で帰路に就く。行きと違って銀政と一緒に。
 別れ際に焼きそばパンが手みやげとして開拓者達に贈られた。日持ちしないので今日明日にも食べてもらいたいと伝えながら智塚光奈が手渡す。
「ありがとうなのです☆ 満腹屋は氷の料理もがんばるのですよ〜♪」
 開拓者達の姿が見えなくなるまで、智塚光奈は満腹屋の店先で手を振り続けるのであった。