綾姫の苺畑
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 50人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/05/22 15:56



■オープニング本文

「ふう‥‥」
 額にかいた汗を黒髪の少女が拭う。
 辺りは一面の緑。しかしよく見れば赤い粒が葉の下から顔を覗かせている。少女が右脇に抱えた籠にもたくさんの赤い粒。
 そこは武天の此隅近郊に作られた苺畑であった。
「綾姫様、休憩に致しましょう」
「そうじゃな、紀江。この苺を頂きながら休むとしよう」
 七歳の少女は綾姫。呼びかけた二十歳前の娘は紀江という名前だ。
 襷をかけたりなど作業のしやすい格好こそしていたものの、綾姫の着物はかなり手の込んだものである。おいそれと一般の者が身につけられるものではない。名が示すとおり綾姫は武天の頂点、巨勢家のご息女。紀江はその侍女であった。
 綾姫は護衛のサムライ十名に収穫したばかりの苺を分けてから紀江と一緒に木陰の椅子へ腰掛ける。
「美味しいのう。やはり苺畑を作って正解じゃったな」
「はい、綾姫様」
 ほくほく顔の綾姫に紀江が頷く。二人は苺に餡蜜のタレをかけて頂いた。
 苺畑のすべてを綾姫が作った訳ではないものの、かなり手伝ったのは事実だ。土まみれになり、時には雨を心配して今に至る。
 すべては綾姫が望んだ事だ。ここは綾姫の苺畑といってもよかった。
「そういえば父様はいつ神楽の都から帰られるのじゃ?」
「明日か明後日には城に戻られるはずで御座います。闘技大会の武天杯は終了したはずですので」
「そうか。父様、この苺食べてくれるかのう」
「巨勢王様なら大丈夫ですよ」
 紀江と話しながら綾姫は思いついた。作りすぎた苺をどうしようかと悩んでいたのだが、せっかくならば武天杯をもりあげてくれた者達に振る舞おうと。
 武天杯に参加した者だけでない。その周辺で大会を成功させようといろいろと頑張ってくれた者もいるはずである。
「片づけ終わったら此隅に戻るぞ」
 武天杯を盛り上げてくれた者達を招待をする為に此隅の開拓者ギルドに向かう綾姫だった。


■参加者一覧
/ 井伊 貴政(ia0213) / 葛葉・アキラ(ia0255) / 柚乃(ia0638) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 礼野 真夢紀(ia1144) / レオ・リベルタ(ia3842) / 波佐 十郎(ia4138) / 倉城 紬(ia5229) / 神鷹 弦一郎(ia5349) / 設楽 万理(ia5443) / アーニャ・ベルマン(ia5465) / からす(ia6525) / フレイ(ia6688) / 和奏(ia8807) / 向井・奏(ia9817) / アレン・シュタイナー(ib0038) / アリステル・シュルツ(ib0053) / アルセニー・タナカ(ib0106) / ジークリンデ(ib0258) / アリスト・ローディル(ib0918) / 佐野 五右衛門(ib1145) / 孔雀院 楓(ib1226) / 黒色櫻(ib1902) / 佐屋上ミサ子(ib1934) / クリスティーナ(ib2312) / 藤嶋 高良(ib2429) / 正(ib2454) / 鳥雀(ib2455) / LOViX(ib2472) / talyzin(ib2482) / 真珠(ib2485) / 市井 宗次郎(ib2486) / @紫苑(ib2492) / 詠月(ib2494) / 五曜星(ib2503) / ノコギリ(ib2526) / 翠麗(ib2531) / 舫穗(ib2538) / 愛夢(ib2541) / スノーマン(ib2550) / ごもく(ib2553) / seama(ib2554) / 琉蘭(ib2565) / noon(ib2567) / ビザンツ(ib2571) / 峰行(ib2578) / 清河八郎(ib2588) / エレティナ(ib2591) / 山田の女房(ib2594) / さと氏(ib2616


■リプレイ本文

●快晴
 朝露に濡れた新緑の葉と真っ赤な莓。
 此隅近郊に作られた苺畑には大勢の人が集まっていた。巨勢王の娘、綾姫が武天杯に尽力してくれた者達を招待したのである。
「盛況でよかったのう」
「まだ全員ではなさそうです。さらに賑やかになりますね」
 綾姫と紀江は莓畑の様子を少し離れたところから眺めていた。
 卓に用意された皿などは自由に使ってもよい。一日中の解放になるので食事類も並んでいる。護衛警護のサムライの他に城の料理人の姿も何人かあった。
「お招きありがとう‥‥」
「おー、もしかしてわらわにくれるのか?」
 トコトコと近づいてきた柚乃(ia0638)が、両手で抱えていたもふらのぬいぐるみを綾姫に差し出す。柚乃が頷くと綾姫は嬉しそうに受け取る。
「苺、うまいぞ」
 綾姫の勧めで柚乃が苺を一つ摘んで食べてみる。酸味だけでなくそのままでもとても甘みがある苺だ。
「あの、八曜丸とヒムカに持って帰りたいの‥‥。だって‥お留守番してくれてるから‥」
「採りすぎなければよいぞ。まずはこの場のみんなに食べてもらいたいからのう」
 ペット達に苺を持って帰っていいのがわかると柚乃は喜ぶのだった。
「お招き頂きましてありがとうございます。初めまして、倉城といいます。今回は宜しくお願いしますね♪」
「わらわは綾姫じゃ。かしこまらなくてもよいぞ。今日は苺をたんと召し上がってゆくのじゃ」
 次に綾姫に挨拶したのが倉城 紬(ia5229)である。
 傍らにいる紀江とも挨拶を交わすと苺畑の状況についてを訊ねた。極一部を除いて畑のほとんどの苺が食べ頃だと綾姫は答える。
「どうしよう‥‥」
 倉城紬は練乳をかけて苺を頂こうと考えていたのだが、神楽の都や此隅では入手出来なかった。他にも同じ事を考えていた参加者は多くいる。
「どうしましたか? お嬢さん」
 倉城紬が困っている様子を見かねて井伊 貴政(ia0213)が声をかけた。
「練乳なら少し時間がかかりますが、牛乳と甘味があれば簡単に出来ますよ」
 井伊貴政は倉城紬に練乳の作り方を手ほどきした。
 ゆっくりと牛乳を湯煎で煮詰め、途中で甘味を足す。最後は冷まして出来上がりである。他に練乳を欲しがっていた参加者の分も余分に作られる。
「美味しいです♪」
 倉城紬はさっそく真っ赤に実った苺を採って練乳をつけて頂いた。そして練乳の作り方を教えてくれたお礼に苺を収穫して井伊貴政の元に運んだ。
「これは?」
「苺が入った大福です。ここに来る間に閃いたので。どうです? お一つ」
 井伊貴政からもらった苺大福を倉城紬はおそるおそる口に入れる。新鮮な苺と大福の皮の食感と味はとても大胆で、それでいて美味しかった。
 倉城紬の感想に自信を持った井伊貴政は綾姫と紀江にも食してもらう。
「これは変わった味じゃ。じゃが、うまい♪」
「ええ、姫様。とても美味しゅう御座います」
 綾姫と紀江の喜んだ様子に井伊貴政は笑顔を浮かべる。作り方を訊ねられたので、教えてあげるのだった。
 調理道具が並ぶ一角では詠月(ib2494)の姿もある。苺で何か作ろうと考えているところに綾姫が近づいた。
「苺大福の作り方を貴政から教えてもらったのじゃが、わらわではちょっと難しすぎるのじゃ。手伝ってくれると助かるのじゃが」
「俺でよければ手伝いましょう」
 詠月は綾姫の手伝いを承諾する。
 井伊貴政と倉城紬、綾姫と紀江と共に詠月は苺大福を作る。顔を粉だらけにした綾姫の顔を拭いてあげたりもしてあげた。
 別れ際に再会を願うのだが、それは日が暮れ始めた頃の出来事である。今はまだ笑顔で調理をする五人だった。
 礼野 真夢紀(ia1144)もまた調理道具を片手に奮闘していた。
「昔、姉様とちぃ姉様はこのようにやっていたと思われます。準備は整いました」
 礼野真夢紀は桶に牛乳、砂糖、そして潰した苺を入れた。よく混ぜたところで氷霊結を唱えて表面を凍らせる。それを金槌で割って細かくしようとしたところ、一人の料理人が鰹節削り用の鉋を貸してくれた。これで削る方が良いと。
 いわれた通りにしてみると見事に氷が削れていった。苺入りかき氷の出来上がりである。
「こちらは差し上げます」
「よ、よいのか?」
 礼野真夢紀は食べたそうにしていた綾姫に最初のかき氷を譲る。もう一つ自分の分を削り、二人で並んで苺入りかき氷を頬張った。
 持ってきた梅干おにぎりもちゃんと食べてお腹いっぱいの礼野真夢紀である。ジャム用としてお土産に苺を持って帰る予定だ。
 綾姫は苺畑の様々な場所に顔を出していた。
(「‥‥こんなにのんびりするのは久しぶりだな」)
 屈む神鷹 弦一郎(ia5349)は苺をもぎっては口に運ぶ。
 苺の美味しさに黙々と食べ続けていた神鷹弦一郎だが、目前の茎の間に突然誰かの顔が現れて転びそうになった。左手をついてそれは免れたのだが。
「驚かせたようですまぬ。そ、それが食べたくてのう」
 現れたのは綾姫。懸命に隙間から手を伸ばす先には非常に大きな苺がぶら下がっていた。
「こちらが食べたかったのですね」
「おー、助かるのじゃ」
 神鷹弦一郎は茎を摘んで綾姫の小さな掌に大きな苺を近づけてあげた。おかげでうまく掴めた綾姫は大きな苺をもぎって食べる。一口では食べきれずに笑顔で何口にも分けて。
「お招き下さってありがとうございます」
 神鷹弦一郎は微笑みながら綾姫にあらためて挨拶をする。そして綾姫としばらく世間話を交わした。
「粒々を一個ずつ歯ですりつぶす感覚が堪らないわね」
 頭の上に苺の葉っぱを乗せたまま屈んで苺を食べ続けていたのは設楽 万理(ia5443)である。
 品質のよい栽培された苺を大盤振る舞いするところなどは流石天儀最大の氏族の長たる巨勢家、などと考えていた設楽万理は頭の上に何かが触るのを感じる。
「葉っぱがついておったぞ」
「あ、綾姫様?!」
 葉の根本を指先で持ってクルクルと回していたのは綾姫。設楽万理はすぐさま立ち上がると弓術師の氏族たる自己紹介をする。
「かたくならなくてよいぞ。これを苺につけるとうまいのじゃ。万理と申す者もつけてみよ」
「これは美味しいですね」
 綾姫が持っていた練乳入りの器に苺をつけて設楽万理は頂いてみる。練乳の器を設楽万理に渡すと綾姫はまた別の場所へと移動してゆく。
「よし、いっぱい食べるぞー!」
 腹ごなしに苺畑を回りを二周してから五曜星(ib2503)は苺狩りを開始する。
 朝食代わりの瑞々しい苺。
 一つ食べ、二つ食べ。いくらでもお腹に入りそうな気分で苺を頬張る。
 採ったばかりの新鮮な苺は格別であった。洗ってからよりもそのままの方が味が濃いと他の参加者から教えてもらったのでそのまま頂く。
「これをつけてみると美味しいぞ」
「どんなもの? 試してみよう」
 通りすがりの綾姫がくれた練乳の器に苺をつけて食べてみる。そのままもいけるが練乳付きもなかなかだ。
 しばらくして参加者達が作った苺料理が卓に並べられると、ご相伴になった五曜星である。
「みなさんがどうしているか、少し見てから始めましょう」
 ごもく(ib2553)は畑に到着してからしばらくの間、参加者達の様子を眺めていた。どのようにしたらよいのかを把握してから苺狩りの開始である。
 それでも苺を前に迷い始める。
「美味しそうな苺です。でもどれから食べたらよいのでしょうか?」
「赤く熟れているのはどれも美味しいぞ。わらわが育てた苺じゃからな」
 ごもくに声をかけたのは綾姫である。どれも美味いといいながらも、綾姫は食べ頃の苺を見繕ってくれた。苺を褒められたのがとても嬉しかったようだ。
「ありがとうございますね」
 にこりと頬笑んでごもくが感謝すると綾姫は照れた表情を浮かべるのだった。
「どうかしたのじゃ? 考え込んでおるが」
「苺の菓子を考えているんだ」
 調理道具が置かれている一角に戻った綾姫は、からす(ia6525)に声をかける。
 からすは摘まれた苺でいっぱいのカゴをじっと見つめ続けていた。真似する綾姫だがすぐにあきてしまう。
 この場にある道具や食材を考慮にいれて、やがてからすが動き始めた。
 主に小麦粉とバターで丸い生地を作って石組みの簡易窯で焼く。出来上がるまでにカスタードクリームを作り上げる。風味が増すようにジルベリアのお酒も隠し味に入れられた。
 薄く切った苺を焼き上がった生地の下に敷いてカスタードクリームを入れ、さらに苺でたくさん飾り付けると苺タルトの出来上がりである。
「な、なんかすごいのじゃ! ほれ、紀江も見てみぃ」
「姫様、苺がたくさんですね」
 ジルベリア式の赤いチェックがらのテーブルクロスが敷かれた卓の上の苺タルトに綾姫が注目する。
「やあ、お茶は如何かな」
 綾姫だけでなく周囲の参加者も集まってくる。からすは淹れたて紅茶を苺タルトと共に振る舞った。
 その頃、和奏(ia8807)は苺畑の景色を外側から眺め続けていた。栄える緑の葉っぱに赤い苺の実に見とれていたのである。
「いただきます」
 ようやく動き出した和奏は畑の中に入り、蔕を摘んだ状態で苺を一粒頂いた。行儀が悪いと誰かにいわれないかドキドキしていた和奏だが今はこれが礼儀だ。とがめる者は誰一人としていなかった。
「これは父様に食べさせるのじゃ。今夜戻ってくるかも知れんのでのう」
「それは楽しみですね」
 近くで苺を摘み始めた綾姫と和奏は少しお話しをする。
 お腹がいっぱいになると「ごちそうさまでした」といって和奏は食べ終えた。
 昼になる少し前、苺の味を充分に楽しんだアレン・シュタイナー(ib0038)は持参したリンゴを剥き始める。
「む? なんだ苺に飽きたのか? そんなにリンゴを見つめて」
「飽きてはいないぞよ。たくさんのリンゴじゃな。しかも形がかわいいのう」
 卓に両手をかけて顔の上半分をのぞかせていたのは綾姫だ。綾姫のいう可愛い林檎とはウサギの形に切られたものを指す。
「良かったら食べるかい? 調子に乗って剥きすぎてな」
「一つ、もらうぞよ」
 アレンがウサギ型の林檎を綾姫の掌にのせてあげる。じっと見つめ続ける綾姫の様子にアレンは微笑みを浮かべた。
「そのウサギ、かわいいですね」
「そうじゃろ。そこのアレンなるものが作ったものじゃ。器用なものよのう」
 うさぎ型の林檎を食べようか迷っていた綾姫にエレティナ(ib2591)が声をかける。エレティナは苺の入ったカゴを卓に置いて綾姫の隣席に座った。
「よかったら、この苺も食べてください」
「では、頂くとしよう」
 エレティナはアレンから林檎をもらうと苺を勧める。一人で食べるのには採りすぎたと感じていたところだ。
 エレティナは苺をどうしようかと考えていたところ、他の卓に並んでいた苺料理が目に入る。
「そうだわ! 残りはケーキにしましょう!」
 ぱあっと顔が明るくなったエレティナは吹っ切れた。そして美味しそうに苺を頂き始める。食べきれなかった分の苺は住処に持ち帰ってケーキに使う事にした。
「ん〜、うまい〜♪」
 左手を腰に当て、右手に持ったカップを飲み干したのがnoon(ib2567)である。普通の苺はすでに充分に食べた様子だ。つまり最後の締めとして頂いてるようだ。
 その様子をじっと見続けていたのが綾姫。途中から気づいたnoonとのにらめっこが始まってしまう。
「何を飲んでいたのじゃ?」
 しびれを切らした綾姫の一言でにらめっこは終了した。
「これか? これは苺牛乳というものだぞ」
「えちご、ぎゅうぎゅう?」
「違う。いちごぎゅうにゅう、だ。ちょっと待ってろ」
「もしかして作ってくれるのかのう」
 noonは大きめの器に牛乳を注ぎ、甘い練乳を加える。さらに蔕をとった苺を入れて勢いよくかき回して出来上がりである。中の苺は程良くつぶれていた。
「美味しいのじゃ!」
「そうだろう」
 額に汗をかいたnoonの隣で綾姫は美味しそうに苺牛乳を飲み干す。スイカのジュースもうまいものだとnoonは綾姫に教えるのだった。
「こんな天気の良い日に新鮮な苺と酒が飲めるなんて運が良い」
 木陰に陣取った峰行(ib2578)は自前の酒をくいっと喉に通した。
 苺を摘みに酒という趣向はまさに酒肴である。くだらない言葉遊びだと自分の中で完結させた峰行は大いに笑った。
「おー、こっちに来て‥‥とは思ったが」
「どうしたのじゃ」
 峰行は通りすがりの綾姫を呼び寄せてはみたものの、さすがに相手は子供である。酒の相手には厳しい。雑談をしながら苺のみを食べさせた。
「どうしてここにいる者達は寝ているのじゃ?」
「酒が過ぎて酔っぱらってしまったようだ。やっぱり宴会で飲む酒は美味いからな!」
「まるで父様みたいなことをいうのだな」
「ほう、父様といったらあの巨勢王の事か?」
 峰行はしばらく綾姫の話す巨勢王の話を肴にして酒を嗜んだ。
(「新政権樹立に使える者がはたしているかどうか‥‥」)
 何やら物騒な事を考えながら苺狩りに参加していた者もいる。その人物とは清河八郎(ib2588)。
 しかし小春日和の苺畑。
 真面目な話をするにはほんわかとしすぎている。何人か強面の者も混じってはいたものの、そういう話を切り出す雰囲気ではなかった。試しに切り出してみたところ、笑い話にされてしまう。
 話のタネに苺は食べたがわずかな数である。今日の所は世事を知る為に武天の実状を聞くに留める清河八郎であった。
 とにかくひたすら食べていた志士の女性は@紫苑(ib2492)。
 近くに誰かが通り過ぎる度に「ゆっ○りしていってね!」と声をかける。つけているマスクに秘密があるとかないとか。真実は不明であった。
「綾姫様、お初にお目にかかります」
「おー、確かにわらわは綾姫じゃ。そなたは何者ぞ?」
 ようやく綾姫を見つけたジークリンデ(ib0258)は挨拶を交わす。元気な綾姫はあっちにいったりこっちにきたりなど神出鬼没なところがあった。
「変わった食べ物だのう。ぷるんぷるんしておる。先程飲んだ苺牛乳とも違うようじゃ」
「はい。苺のジュレというものです。どうぞお召しあがれ」
 ジークリンデが作った苺のジュレを綾姫は匙ですくって舌にのせる。あっという間に食べたところからいって綾姫は気に入ったようだ。
「巨勢王様はどのような方で?」
「父様か。とっても大きいお方じゃ。身体だけの話ではないぞ――」
 巨勢王についてを訊ねられたので峰行と話した時を思いだしながら綾姫は語るのだった。
「少し遅くなりました」
 苺畑に到着したばかりの佐屋上ミサ子(ib1934)は荷物を置くと深呼吸をした。
 初夏の陽光に涼やかな風。その風にのって苺の甘い香りが漂ってくるような気がする。
 背をかがめて苺を摘みとってから一度、周囲を見回す。普段やりなれない行動なので、ちょっとだけ気恥ずかしかったのである。
 苺を囓ってみた佐屋上ミサ子は目を丸くした。
「!! 〜〜ちょっと酸っぱいッ‥‥」
 たまたまであったのか、よく熟れていなかったのか、佐屋上ミサ子が食べた苺は酸味が強かった。
「酸っぱいかのう。わらわにはちょうどよいのじゃが」
「あなた、もしかして――」
 いつの間にか側にいた少女が佐屋上ミサ子を見上げている。名を聞けば巨勢王の娘、綾姫だという。
 綾姫が参加者達が作った練乳があるというので佐屋上ミサ子は卓までついてゆく。カゴに摘んだ苺に練乳をつけて頂くと程良い酸味と甘味となる。
 持参した大福の中に苺を入れて食してみたりなど堪能する佐屋上ミサ子である。
 ご機嫌な様子でお茶を飲み終わると、今度は神楽の都で待つ相棒の甲龍の土産として苺を摘み始めるのだった。
「イチゴがたくさん食べれるっていうからきたのに、なんでこんなとこ歩かなきゃいけないの‥うー。眠いよー」
 クリスティーナ(ib2312)は前屈みに両手を前でぶらぶらとさせながら千鳥足に歩き続ける。
「もーう、つーかーれーたー!」
 と叫びながら顔をあげでみると緑色の畑に多くの人々。苺畑はクリスティーナの目前にあった。
 元気になったクリスティーナは駆けだして苺畑に飛び込んだ。
「イチゴたくさん! これ、たくさん食べてもいーんだよねっ!?」
 まるでお星様が瞳の中にあるようにキラキラさせながらクリスティーナは近くにいた参加者に声をかける。
「ええ、たくさんお食べになって下さいね」
 その参加者は紀江だったのだが、クリスティーナが知るはずもなかった。お目付役の紀江がいるという事は当然、綾姫が近くで苺狩りを楽しんでいた。
「あっ?! ダメ、そのイチゴはクリスんだよー!」
「そんなことはないぞよ。わらわのじゃ」
 クリスティーナと綾姫が同時に大きな苺へ手をかける。
「むー、だったら‥‥ジャイケンでどっちのか決めよ!」
「負けないのじゃ」
 じゃーいけーんぽーーん!!と二人で叫んで互いに手を出す。クリスティーナがグー、綾姫がチョキ。クリスティーナの勝ちである。
 クリスティーナは笑みを浮かべてさっそく食べようとするものの、綾姫の丸まった背中が気にかかった。
 少しだけ考えた末、苺を二つに割って片方を綾姫にあげる。
「んー、おいしーっ!」
「やっぱり美味しいのじゃ」
 クリスティーナと綾姫は二人で仲良く一つの苺を食べたのであった。
「〜♪」
 藤嶋 高良(ib2429)は摘んだ苺をカゴに入れながら鼻歌を歌う。すでに苺を満足に頂いていた。後は神楽の都で待つ朋友達へのお土産である。
「やっぱり美味しい苺だね」
 ポイっと一個の苺を藤嶋高良は頬張ってみる。
「ご機嫌のようじゃのう」
「これは綾姫。挨拶の際にお話しした通りに朋友の為に少し苺を頂いています」
「ではわらわも手伝うとするか」
 藤嶋高良の為に綾姫も苺を摘んでくれた。十分に採れたところで綾姫に感謝する藤嶋高良である。
「よいしょっと」
 苺を充分に食べた後、正(ib2454)は参加者達のお手伝いをしていた。
 腕に覚えがある者達が料理に使う分の苺を集める。出来上がった料理は卓に並び、一部はお土産になっていた。苺そのものを持ち帰る者も多い。
「このまま普通に終わればいいんだけど‥‥」
 和やか雰囲気の中、正は心配になる。ただそれは杞憂に終わりそうだ。事前に綾姫護衛のサムライ達が周辺を調べ尽くしたおかげかも知れなかった。
「苺はまだまだあるぞ。特に商売をしているわけでもないのでな。一部の者が独占さえしなければいくらでも持ち帰ってよい」
 正が首にかけた手ぬぐいで汗を拭っていると足下から声が聞こえてくる。そこには腰に両腕をあてて周囲を見回す綾姫がいた。
「皆の者への苺狩りのがんばり。よろしく頼むぞ」
「これぐらいなら僕でも役に立てると思いまして――」
 正が差し出した苺を一つ食べて綾姫は笑顔で頷くのだった。
「イチゴは自然が一番なにょ♪」
 真珠(ib2485)は朝ごはんとして苺をいっぱいに食べた。
 そして昼ごはんも苺の山盛りも頂いた。お腹がぽくぽくになってさすがに苺も飽きたかと思われたがそんな事はない。胃袋が無理なだけで苺を食べる気で満々だ。
「満腹♪」
 お日様の当たるところにゴザを敷いてお昼寝をしながらお腹が空くのを待つ。夕ごはんとしても苺を食べまくるつもりである。
(「あれは綾姫ちゃん?」)
 寝返ったところでチョコチョコと歩いていた綾姫が真珠の視界に入った。
「そっちより左上のがおいしいなのよ。大きくて、あっま〜いイチゴにょ」
「ふむ。これか?」
 特に熟した苺を真珠は綾姫に教えてあげる。
「なるほど。これは特にうまいのう」
 囓った綾姫はパッと笑顔になる。それから近くにいた紀江も呼んでしばらくゴザの上で綾姫と雑談を交わす。
 お腹が空いてきたところで真珠は立ち上がり、太陽に向けて右の拳を繰り出した。
「た〜っくさん食べれるように、いっぱいい〜っぱい頑張ろう!」
「おー!」
 真珠の勢いに綾姫も呼応する。紀江は小さく手を挙げたのみに留まったのだが。
 正と合流し、お土産用の苺狩りも綾姫達と頑張る真珠であった。
(「めんどくさいが、依頼だし仕方ないか」)
 土産用の苺狩りを手伝う市井 宗次郎(ib2486)は、いっぱいのカゴを調理道具が置かれた付近まで運んだ。とはいえ疲れるのは御免なのでゆるゆると往復する。
「俺様が苺狩りをするのは珍しいことだぞ」
「そうなのですか。ところでお腹が空いたのではありませんか?」
 カゴを受け取った紀江が市井宗次郎を卓に招く。そしてお茶と苺大福が振る舞われるのだった。

●山へ
 苺畑に顔を出さずに山へ向かった者もいた。talyzin(ib2482)がそうである。
「とりあえず、向こうの丘を目指そう」
 何故、綾姫の苺畑でなく山を目指したのかは当人のみしか知り得ないのだが、とにかくtalyzinは野生の苺狩りをした。知り合いの料理屋のおばさんがジャムを作るための注文らしい。
 talyzinが此隅に戻ったのは夕暮れの頃であった。

●アリストとアキラ
「姫君の主催とはな。天儀の催しにはつくづく驚かされる」
 あきれ気味のアリスト・ローディル(ib0918)は道の先を行く葛葉・アキラ(ia0255)の背中を眺めながら歩いていた。
 他の参加者より少し遅くに此隅を出発した二人である。すでに苺畑での催しは始まっているはずだ。
 苺畑が見えるとアリストが駆け出す。
「アリストちゃーん! こっちやで☆」
 葛葉アキラは思いだしたように振り返ると大きな声でアリストを呼び寄せようとする。やれやれといった感じでほんの少しだけ早歩きになるアリストである。
 まもなく二人は苺畑に辿り着いた。
「折角来たからには気合い入れて苺狩るで! なあ、アリストちゃん」
「ちゃん付けはやめろ。それにしても苺狩りなんぞ初めてだ」
 なんだかんだいいながら二人は仲良く並んで屈み、葉の下に隠れている苺を見つける。
「書物で読んだが、茎を指で摘み直角に引くと傷みにくいそうだぞ」
「さすが、アリストちゃん♪」
 とりあえず二人は一粒ずつ苺を手にとってみた。
「苺は多年草で‥‥お、甘い」
「これはうまいで!」
 気に入った二人は苺をとって黙々と食べ始める。しかししばらく経っても食べる勢いが弱まらない葛葉アキラの様子にアリストは呆れ顔を浮かべた。
「なんや? 人の顔を見つめくさって。‥‥ははぁーん。寂しかったんやな。安心しな。うちはアリストちゃんのこと、忘れておらへんで。ハイ、あーん☆」
「そんなはずないだろ。どれだけ食う気だ。食・い・過・ぎ・だ」
 アリストは葛葉アキラが差し出す口元の苺をしばらく眺める。
「ふふ‥やっぱアリストちゃん、大好きやわ〜♪」
 仕方ないといいながらも、葛葉アキラの指から苺を食べてくれた。
 それからまもなく綾姫が現れて挨拶を交わす機会が訪れる。
「なあ、綾姫ちゃん。苺もろって帰ってええかな?。うち、苺のジャム、作りたいねん」
「独り占めしなければかまわんぞ。存分に楽しむがよい」
「ええ娘やなあ。綾姫ちゃんは」
「こ、こら。頭を撫でるでないぞよ」
 葛葉アキラはアリストには聞こえないようになるべく小さな声で綾姫に相談した。作ろうとしていたジャムは今日の記念として、後日アリストに渡そうと考えていたからである。
(「え? アリストちゃん、態度みょうやわ。どないしたん?」)
 アリストの元に戻った葛葉アキラはまじまじと見つめられる。
「おい。汁がついてる。違う、口元だ」
 アリストが親指で葛葉アキラの唇を拭う。思わず顔を赤らめてしまう葛葉アキラであった。

●ふしぎと奏
 天河 ふしぎ(ia1037)と向井・奏(ia9817)も、ゆっくりと苺狩りに参加した者達である。
「綾姫様の苺畑は何処でゴザルか」
「もうすぐのはずよ。この道の先だって聞いたから」
「急ぐ必要はないでゴザルよ。苺畑は逃げないでゴザル。急いで転んだら痛いでゴザルー」
「そうよね。落ち着いて行こう。いい天気だし、一緒に来られてよかったね」
 親友同士での苺畑の来訪を楽しみにしていた二人である。ちなみに女性のような容姿をしていたが天河ふしぎは男性だ。一見だけなら仲の良い女性同士なのだが。
「奏、奏、凄いよ、一杯なってる‥早く行こっ!」
 苺畑を遠くに見つけた天河 ふしぎ(ia1037)は両手を挙げながら跳びはねる。そして向井・奏(ia9817)の手を取って駆け出した。
「‥‥あっ」
 でんぐり返しをするかの如く地面を転がる天河ふしぎ。向井奏も巻き込まれていつのまにか大の字になって寝転がっていた。
「わわわ痛っ‥‥はっ、奏大丈夫?」
「ふしぎ殿‥‥お約束過ぎでゴザル‥‥」
 向井奏は地面に頭を打って涙目である。天河ふしぎは謝りながら向井奏の顔を覗き込む。ハプニングはあったものの大事はなく、二人は無事に苺畑へと到着する。
「食すでゴザル!」
「苺、食べるよ!」
 二人ともたくさんなっている苺を前にギランギランと瞳を輝かせた。
 まずは本能のままに食べ続ける。そのままでも頂いたが、綾姫が配っていた練乳もつけてみた。
 太陽の恵みで育った真っ赤な苺をお腹いっぱいに食べた二人である。
「今日は一緒に来てくれて嬉しかった‥‥これは、お礼なんだぞっ。はい、あーんして」
 天河ふしぎが向井奏の口元に一粒の苺を運んだ。どこもかしこもカップル同士で流行っているようだ。とはいえこの二人は親友同士なのだが。
「ふむ、美味いでゴザルな」
 向井奏はためらいなく天河ふしぎの指から苺を直接食べる。ただし、その手ごとガブリとだ。
 ちょっとイジワルをして向井奏は歯をきりきりとしてみた。その直後、反射的に天河ふしぎのグウパンチが繰り出されたのだが、それが当たったのか避けたのかは二人のみが知る。
 とにかく天河ふしぎと向井奏は苺を堪能した。行きと同じように帰り道も二人で仲良く歩むのであった。

●レオとアリス
(「こ、これってある意味初デートですよねッ!?」)
 レオ・リベルタ(ia3842)は隣を歩くアリステル・シュルツ(ib0053)を横目で眺める。
 アリステルはいつものような男装や鎧姿ではなく、軽やかで素朴な町娘のような格好をしていた。そのせいかレオはいつもより胸の高鳴りを感じる。
「ほら、小鳥が飛んでいるよ。いい景色だ」
「え? そ、そうですっ」
 ぎごちなかったものの二人は優しい時間を過ごす。ただレオの気がかりは消沈したアリステルの様子だ。
 最近、元気がないアリステルをレオは心配していた。
 畑に到着するとさっそく苺狩りを始める。だがレオは用事を思いだしたとアリステルに告げた。
 すぐに戻ってくるといってレオはアリステルの側から立ち去る。そしてこの付近をよく知るであろう綾姫に声をかけた。
「それならば、あっちの方角の草原にあるぞよ」
「ありがとうですっ」
 全力で駆けて戻ってきたレオは汗をかき、肩で息をしていた。その様子にアリステルは驚きの表情を浮かべる。
「どうしたんだ?」
 アリステルが不思議に思うのも無理はなかった。
「こ、これ‥‥。綺麗だったので」
 レオがアリステルに贈ったのは春の野花で作った冠。出来れば花束をと考えていたのだが、さすがに野原で様になる大輪は手に入らなかった。
 レオはアリステルの頭に野花の冠をのせる。
「ありがとう、レオくん。苺いっこ、とっといたんだ。一緒に食べよ?」
 そういって苺を加えた唇をレオに近づけるアリステル。その後は二人だけの秘密である。
 苺を堪能した後でレオは泰拳士らしい演舞を披露する。その様子を頬笑んで観賞したアリステルであった。

●波佐と佐野
「今日は苺狩りを楽しむッスよ♪ な、五右衛門?」
 苺畑が見えてくると波佐 十郎(ia4138)は隣を歩く佐野 五右衛門(ib1145)の頭の上にポンと手を乗せて笑う。
「兄上と一緒にいっぱい食べるでござるよ」
 佐野 五右衛門(ib1145)は兄貴分として慕う波佐十郎にうんうんと頷いてみせた。
(「兄上と一緒にお出かけなんて、拙者は幸せ者でござる‥‥」)
 心の中で佐野五右衛門は呟く。身長差からすると非常に歳の離れた二人に見えるものの、実はそれほどでもなかった。ちなみにどちらも男性だが、佐野五右衛門の容姿はまるで女の子のようである。
「五右衛門はそこで待ってろ」
 畑に到着すると跳びはねるように苺狩りを始める波佐十郎。言いつけ通り、おとなしくその場で苺を摘みながら待つ佐野五右衛門。
 戻ってきた波佐十郎の身体には苺の葉や茎がそこら中についていた。どうやらどこかでこけたようだ。
 とにかく互いがとった苺を食べ始める。
「兄上、もっといっぱい食べるでござるよ‥‥♪」
「お、わかっ‥‥た。お、美味しいッス!」
 佐野五右衛門は波佐十郎に苺を勧め続けた。呑み込むのを待たずに次から次へと。
 その中にはブヨブヨの苺が混ざっていたのだが、波佐十郎は黙って呑み込んだ。そのせいでお腹を壊して厠へ駆け込むはめになるのだが、それは後の出来事だ。
 波佐十郎が頬をリスのように膨らませてふらふらとする横で、佐野五右衛門は苺を食べ始める。兄上である波佐十郎が摘んできた苺をだ。
「おぃひぃふぇござふ!」
 波佐十郎と同じく頬を膨らませながら食べる佐野五右衛門。とても嬉しいそうに、もひもひと食べ続けた。
 うっ、と佐野五右衛門が喉に苺を詰まらせる。よろけた拍子にぶつかった波佐十郎も口の中に残っていた苺が転がり、喉の途中で止まってしまった。
 息ができずにもがく二人。
「おっと、すまんのう。ちょっと急いでおるでのう」
 その時、チョコチョコと走ってきた綾姫が二人とぶつかる。肩が触った程度だが、おかげでそれぞれの苺は胃の中へと納まる。
 綾姫は急いでいたのか、二人の呼吸が楽になった頃にはすでにいなくなっていた。
 命拾いをした波佐十郎と佐野五右衛門は顔をつきあわせて笑うのであった。

●お茶会の席
「お姉、知ってる? イチゴって食べ過ぎるとお腹が冷えるんだよ」
 アーニャ・ベルマン(ia5465)は苺を呑み込むように食べるとフレイ(ia6688)に話しかける。そして次の苺を口に運んだ。
「ほどほどにね」
 そうはいいながらも自分が摘んだ苺を二つ、アーニャが持つ皿に乗せてあげるフレイだ。
「これは食べすぎじゃないもん。普通だもん」
 にこりと笑いながらフレイがくれた苺をニーニャは頬張った。
「あ、タナカさん。こっちこっち」
「こちらにいらっしゃいましたか」
 大きなカゴを抱えたアルセニー・タナカ(ib0106)をアーニャは呼び寄せる。彼はベルマン家の執事である。
 タナカは苺狩りを楽しみながらも、これから始まるお茶会の用意をしていた。
「イチゴ狩り、私こういうの初めて」
「楽しそうで何よりです。まもなくお茶の支度が終わりますので、お二人とも先程のテーブルにお越し頂けるようお願いします」
 白い手袋をはめた右手を胸にあてて会釈をしたアルセニー・タナカは二人の側を立ち去る。
「あ、あの‥‥お茶のテーブルを用意していると聞きました。御一緒させていただいても、構いませんか?」
 おずおずと現れたのは黒色櫻(ib1902)。卓の方でタナカが用意していた紅茶の香りに惹かれたのである。
「もちろん一緒に楽しみましょう。そうだ、お姉。綾姫さんと紀江さんも誘おうじゃん」
「それがいいわね。綾姫にはご招待の御礼を申し上げたいところだから」
 綾姫と紀江の招待を決めたアーニャとフレイはさっそく二人を探す。
「先に行って参ります」
 黒色櫻は摘んだ苺をタナカの元へと届けに向かった。
「せっかくですから一緒にお茶しませんか。タナカさんが淹れてくれるお茶はとても美味しいのです」
「お茶に招いてくれるのか。是非、参加させてもらうのじゃ。行くぞ、紀江」
 アーニャの誘いを綾姫はすぐに承諾した。二人の様子を眺めていたフレイと紀江が頬笑む。
 四人が卓を訪れた頃、すでにお茶の用意は済んでいた。
 ジルベリア風に飾られた卓にティーカップが並ぶ。
 こっそり黒色櫻が触ってみるとカップは温かかった。これから注ぐ紅茶が冷めないように事前にお湯につけられていたようだ。
 タナカがポットから紅茶を注いだ。使われた葉はタナカ自身がブレンドした特別製。今回は苺に合うような香りが選ばれている。
「美味しい‥‥。綾姫様、苺狩りを開いて頂き感謝します」
 ほっと一息をついた黒色櫻が綾姫にお礼をいう。
「大したことはしていないのじゃ。気にするでない。楽しんでくれれば、わらわも嬉しいのじゃ。それにしてもこの紅茶は美味しいのう。見事な紅茶じゃ」
「お褒めいただいてありがとうございます。この日のために用意させてもらいました」
 綾姫に礼を尽くすタナカである。
 お茶会はやわらかな時間に包まれた。他の参加者が提供してくれた苺大福や苺のタルトも卓に並ぶ。お茶会を聞きつけて参加する者も次第に増える。
 和やかなまま、夕日の訪れと共にお茶会は終了した。それは同時に苺狩りの終わりでもある。
 夕日の中、お礼をいって此隅へと歩いてゆく参加者達。
 綾姫は最後の片づけを紀江と共に手伝ってから此隅の城へと戻るのであった。