そ〜すぅ屋台〜満腹屋〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/04/15 00:24



■オープニング本文

 朱藩の首都、安州。
 海岸線に面するこの街には飛空船の駐屯基地がある。
 開国と同時期に飛空船駐屯地が建設された事により、国外との往来が爆発的に増えた。それはまだ留まる事を知らず、日々多くの旅人が安州を訪れる。
 そんな安州に、一階が飯処、二階が宿屋になっている『満腹屋』はあった。


「そ〜すぅ♪ そ〜すぅ♪」
 唄いながら店内の卓を拭くのは給仕の智塚光奈。満腹屋を営む両親と共に姉の鏡子と一緒に働く日々を送っていた。他にも板前の智三と見習いの真吉が勤めている。
 開拓者達のおかげで料理品目が増えた。それが光奈のご機嫌な理由である。
 残念ながらジルベリア発祥のパンケーキやクッキー、金柑ジャム入りパンは満腹屋の客層とは合っていなかった。男性が多いのでどうしても力がつきそうな食べ物が好まれるからだ。それでも鏡子の強い推薦でお品書きには載せられていた。
 光奈が大好きなジルベリア産の黒いソースと小麦粉が使った料理も壁に大きく書かれている。
 ほっかほっかの『そ〜すぅ肉まん』は寒い季節に合っているので、そろそろお終いになる。
 『そーすぅ味タコ入り焼き』は煎餅の型を流用していたので一個の大きさに問題があった。出来れば一口の大きさにしたいところだ。
 香ばしい『ソース焼きそば』はすでに光奈の大好物である。そしてそれをパンに挟んだ『焼きそばパン』は持ち帰りの手みやげにちょうどよかった。
 溶いた小麦粉を焼いて丸く平べったくした二枚の間にキャベツや肉を挟んだ『お好み焼き』も豪快で非常に食べ応えがある。両面にはソースがたっぷりと塗られていた。
 ソースは使われていなかったものの、野菜や肉の餡を皮で包んで揚げた『丸揚げ』もとても美味しい。食材そのものは餃子に似ていたが、揚げたおかげで独特のパリパリ感がある。
(「屋台で売ったらどうなんだろ?」)
 光奈は店の奥で腕を組んで考える。
 新しい料理はどれもそれなりに注文はあったものの爆発的な売れ行きではなかった。
 これから迎える夏と秋は祭りなどの催しが数多く行われる。ここは満腹屋の出張として屋台をやってみようかと光奈は考えた。食材置き場にはまだまだ小麦粉の袋が山になっている。
「光奈さん、それはだめですね」
「あうっ!」
 光奈は父親の義徳に相談するのだが強く反対されてしまう。大事な娘を身近に置いておきたい親心なのだろう。ただ、他の者に屋台を任せる分は構わないという譲歩を光奈は引き出した。
 光奈が屋台で売った方がいいと考えていたのは三種の料理。
 『そーすぅ味タコ入り焼き』用の丸い窪みがたくさんある鉄板は発注済みでもうすぐ届くはずである。
 『ソース焼きそば』は鉄板付きの屋台があれば何とかなりそうだ。パンもあらかじめ用意しておけば焼きそばパンもすぐに作れそうである。
 『お好み焼き』も『ソース焼きそば』と同じ鉄板付き屋台があれば大丈夫であろう。
 光奈は屋台を手配し、そして応援を頼む為に開拓者ギルドへ向かう。
 まずはソース料理の屋台が流行るかどうか開拓者に手伝って試すつもりの光奈であった。


■参加者一覧
天津疾也(ia0019
20歳・男・志
設楽 万理(ia5443
22歳・女・弓
日向 亮(ia7780
28歳・男・弓
燕 桂花(ia9429
20歳・女・泰
木下 由花(ia9509
15歳・女・巫
ハイネル(ia9965
32歳・男・騎
フレイア(ib0257
28歳・女・魔
ラムセス(ib0417
10歳・男・吟


■リプレイ本文

●準備
 夜が明けたばかりの満腹屋。
「屋台の手伝いによく来てくれたのです〜。まずはこっちなのですよ♪」
 智塚光奈は開拓者達を裏手の庭へと案内した。そして停めてあった三台の屋台を披露する。
「昨日の夕方届いたばかりの屋台ですけど、道具類は揃っているのです。でももし足りない物があったら買ってきて欲しいのですよ。その分のお金はちゃんと別にお支払いするのです〜☆」
 道具のいくつかを手に取りながら光奈は屋台の基本的な使い方を説明した。薪や炭などの燃料は満腹屋の在庫がたくさんある。小麦粉やソース、基本食材を除く特別なものに関しては市場などで買ってきて欲しいという。
 開拓者達はそれぞれに手伝おうと考えていた屋台へと分かれた。
 『ソース焼きそば』の屋台にはハイネル(ia9965)と燕 桂花(ia9429)。さらに焼きそばパン用のパンを焼く係としてフレイア(ib0257)も加わる。
 『そーすぅ味タコ入り焼き』の屋台には設楽 万理(ia5443)。『お好み焼き』の屋台は日向 亮(ia7780)が担当する。
「そーすぅ味タコ入り焼き、ソース焼きそば、お好み焼き。どこの屋台を手伝いましょうかね〜。何処もたのしそうなので、ねこのても借りたいところのお手伝いをしますねっ♪」
「そうですねぇ〜。ここは悩むのです」
 笑顔で『ねこのて』を振り回す木下 由花(ia9509)は、光奈と相談した上で『そーすぅ味タコ入り焼き』の屋台に参加した。光奈は日向亮の手伝いとして『お好み焼き』の屋台だ。
「任せてや」
「頑張るデス」
 天津疾也(ia0019)とラムセス(ib0417)は宣伝の担当。大いにソース料理を広める役目を引き受けてくれた。
「必然、鉄板を積んでいる屋台は重いな」
「うぉ! ハイネルさん、こ、小指だけなのですよ!」
 重いといいながら屋台の取っ手の部分を小指のみで持ち上げて牽いてみるハイネルの姿に光奈は驚嘆した。開拓者が志体持ちであるのをすっかり忘れていた光奈である。
「あたいは炒め料理は得意しふ☆ まずは仕込みの方をやるしふかね〜☆」
「さすがの手さばきなのです☆」
 光奈が見守る中、張り切る燕桂花は包丁を手に取って洗ったばかりのキャベツを切り始めた。まな板との小気味よい音が響く。基本食材は調理方法を覚えていた光奈が予め用意しておいたものだ。
「満腹屋さんは屋台による暖簾分けを?」
「私の一存というのがホントのところなのですよ。こんなに美味しい料理はたくさんの人に広めないとって♪」
「ふふ、盛況なご様子で何よりです」
「パンはなかなか手に入らないので助かるのです〜。そうだ、お姉ちゃんがパン作りを見学したいっていってたのですよ」
 フレイアはパン作りの為、夜になったら満腹屋の調理場を借りられるよう光奈に頼んでおいた。
「これね。光奈ちゃんがそーすぅ味タコ入り焼きのために特別発注した鉄板というのは‥‥」
「一口大を追求したらこの大きさになったのです」
 丸い窪みがたくさん並んだ鉄板を設楽万理が光奈と一緒に眺める。
「新しいこの穴ぼこ一杯で焼くデス?」
 雛形を以前に考えついたラムセスも背伸びしながら変わった鉄板を見つめる。
「まずは焼いてみますよ〜♪」
「ぶっつけ本番で出来る気はしないわ」
 木下由花と設楽万理は熱した鉄板の前に立った。
 光奈とラムセスは客が座る側で様子を眺める。油を鉄板になじませた後、木下由花と設楽万理は溶き粉を流してそーすぅ味タコ入り焼を作り始める。
 最初はうまくいかなかったものの、段々とうまくなってゆく。その過程で『そーすぅタコ焼き』と名前を変更したのは、長すぎて覚えにくそうだったからだ。
 安心したところで光奈はお好み焼きの屋台に顔を出す。明日から光奈は日向亮と一緒にお好み焼き屋台の切り盛りする予定である。
「これがソースか‥‥。なるほど」
「ねっ! 色は似ているけどお醤油とは全然違うのですよ」
 日向亮は光奈にお好み焼きの作り方を教えてもらう。
「うわっちち! ふぅ。この、裏返す作業にはコツが要るな‥‥」
「形を崩さないのは大変なのです〜」
 特にお好み焼きをひっくり返すのは慣れが必要で日向亮は少々苦戦する。光奈も得意ではないので一緒に頑張った。ちなみ練習の過程で出来た料理は、みんなのまかない料理となる。
(「やっぱり椅子に乗らないと鉄板の上がきちんと見えないデス‥‥」)
 背伸びした時を思いだしながらラムセスは羽根ペンを手にする。宣伝用の歌作りを始めたのだ。
「楽しそうな歌なのですよ♪」
 ラムセスがリュートに合わせて唄うと光奈も一緒に口ずさむ。
「旦那、ちょいとこいつをもらっていきますでー」
「おー、構わねぇよ」
 客引きは明日からということで天津疾也は仲間の準備を手伝った。今は調理場で智三から天かすをもらって裏庭へと運ぶ。
「これで足りると思うのですよ〜」
「ずっしりとした銭の重さやー。ええのお」
 さらに光奈から革袋入りのお金を預かり、足りない食材を市場へと買いに走った天津疾也であった。

●パン
 満腹屋一階の営業が終わった夜、フレイアは調理場を借りてパン作りを始める。
「こ、こうすればよろしいので?」
「ええ、その調子。しばらく捏ねて頂けるでしょうか」
 フレイアがパン作りをすると聞いてお手伝いをする鏡子だ。そのつもりはなかったのだが満腹屋の仕事が終わった夜ならば時間的な問題はない。パンの作り方に興味津々の鏡子である。
「一度発酵させて、もう一度捏ねてガスを抜くのはより美味しくするためですわ」
 鏡子に教えながらフレイアがパンを捏ねてゆく。一人で作るのは大変なのでとても助かっていた。
「これでよろしいですね。販売初日の売れ行き次第ではもっと作らなくてはなりませんけれど」
 焼きそばそのものの味が濃いので口の中で喧嘩をしないようにフレイアはパンの味を控えめにする。
 せっかくの機会なので固めのパンも焼いておく。後で細かくし、パン粉を作るつもりであった。

●花吹雪と屋台
 翌朝、準備と練習をこなした一同は屋台を牽いて街へと繰り出す。相談の上、三台の屋台とも固まって商売をする事となる。
「花見スポットは予め調べてあるわよ。心配いらないわ」
 設楽万理が案内した安州内の広場は見事であった。立ち並ぶ桜の木は満開で、まだ日が昇ったばかりだというのに多くの花見客でごった返している。
 屋台もすでにいくつか出店していた。特に団子の屋台が長い行列をなしている。
「ほな、さっそく始めよっか!」
「屋台が一杯並んでるのはお祭と似ていて楽しそうデス。いい匂いが一杯集まってすごく素敵な所デス‥」
 天津疾也とラムセスは屋台の準備が整ったのを確認してから宣伝を開始した。
「さーらっしゃい! らっしゃい! そーすぅたこ焼き、ソース焼きそば、お好み焼きやでー!! 食べたら病み付き、満腹になってほっぺが落ちてまうで、おひとついかがやー?」
 天津疾也は他の屋台の邪魔はせずに道行く人々に声をかける。方角は屋台から風下に向かって。ソースの焦げる香ばしい匂いを味方につける作戦だ。
「♪ おいしいそぉすぅいかがデス?
   外国産まれのこおばしい、素敵な匂いのぴり辛そぉすぅ、
   ころころたこやき、ジュウジュウ焼きそば、何が入ったお好み焼き♪
   満腹屋さんの屋台デス、とってもおいしい屋台デス〜 ♪」
 ラムセスは天津疾也から少し離れたところでリュートを奏でる。散る桜の花びらの最中で歌い続けた。
 次第に満腹屋の各屋台にもお客が並び始めた。初めての料理にいぶかしむ者がほとんどであったが、とてもよいソースの香りが最後の一押しをしてくれた。
「この熱気、まるで蒸し風呂だ。これを続けていれば間違いなく痩せるな」
 春先のぽかぽか陽気に加えて鉄板からの熱気。日向亮はそれぞれの手にテコを持ち、お好み焼きをひっくり返す。練習は十分で滅多に失敗はしない。
 光奈は具が入った混ぜる直前の容器を屋台の隅に並べた。仕上げとしてソースを塗り、鰹節や青のりを振るのも光奈の役目である。
「はい〜。お好み焼き二枚なのです〜♪」
 割れにくい木の皿に乗せてお好み焼きの完成である。持ち帰りや遠くへ持って行くお客には竹の皮で包んだものを渡す。またはお皿などの器を持参してもらった。
「よし、さらに二枚焼けた。‥‥次は三枚?」
「いえ、四枚の注文なのですよ」
「ふぅ、目が回るような、というのはこのことか‥‥」
「ガンバ、なのです☆」
 額に汗をかく日向亮と光奈。お好み焼きの屋台は順調である。
 ソース焼きそばの屋台も盛況だ。
「しふしふやきやき☆」
 燕桂花は華麗な手さばきで麺を鉄板の上でほぐしながら焼いた。すでに麺は一度茹でて熱を通してあるので長時間焼く必要はなかった。かけたソースを絡めながら水気を飛ばす。具は主に豚のバラ肉とキャベツ。バラ肉には脂の旨みを、キャベツには甘みを期待する。
「完成しふ☆」
 最後に青のり、削り節をかけ、紅生姜ものせて完成だ。
「二人前、おまちどうさまですわ」
 フレイアがお客とのやり取りをしてくれる。屋台に積んできた簡易な椅子だけでは間に合わない。近くの岩などに座って食す客も多かった。
「算定、今はこれに集中するのがよいだろう」
 ハイネルもまた焼きそばを焼いていたが、隣の燕桂花とは少し違っていた。こちらは焼きそばパン用の濃い味である。普通の焼きそばが忙しくなれば燕桂花を手伝うつもりだ。
「持ち帰るには、こちらがよろしいですわ」
 濃いめの味付けをした焼きそばをフレイアがパンに挟んで仕上げてくれる。作り置きしておけるのが焼きそばパンの良い点であった。
 そーすぅタコ焼きの屋台も忙しくなってゆく。
「新感覚のそーすぅ料理を、おためしあれ〜!!」
 木下由花は扇子を仰いで周囲にソースの香りを漂わせる。鉄板の周囲はとても熱いので設楽万理と交代でタコ焼きを作っていた。焼いていない時は下ごしらえか給仕役である。
「三人前お待ちどうさま♪」
 お代を頂くと木下由花は深々とお辞儀をして見送る。
「クルクルっと。ここは弓術士の器用さで!」
 設楽万理は先端が尖ったキリを使ってひっくり返すのが効率がよいと昨日の試行錯誤の際に発見していた。
 旗袍姿の設楽万理が溶き粉を流し、切ったタコやキャベツ、天かすなどを入れた後で丸く返してゆく。ソースを塗り、青のりを振りかけて完成である。
 満開の桜の下、好評な滑り出しをした満腹屋の屋台だった。

●幼なじみ
 準備の一日を含めて五日目。屋台を出す最終日も花見客で広場は盛況である。
 客寄せをしていたラムセスと天津疾也は給仕として手が足りない屋台を手伝った。とはいえ機会を見つけてはラムセスがリュートを奏で、天津疾也は声を張り上げて人寄せをする。
 そんな中、天津疾也に声をかける女性が一人。
「そこのお兄さん、光奈ちゃんを知らないかしら?」
「知っとるでー。お知り合いやろか?」
 焼きそばを運んでいる途中の天津疾也は、お好み焼きの屋台へと振り向いて女性に光奈のいる場所を教える。
 女性は後ろに五人を引き連れてお好み焼きの屋台を訪れた。
「あ、美世さん〜。手紙を読んで来てくれたのですね〜」
「お久しぶりね、光奈ちゃん。甘えさせてもらって妹と弟も連れてきたわ」
 光奈は訪れた女性を美世と呼んだ。
「任せてほしいデス」
「お願いするのです。ちょっとだけお話しがあるのですよ」
 光奈は給仕をラムセスにお願いしてお好み焼きの屋台を離れる。そして美世にソース屋台の説明を始めた。
 光奈と楢崎美世は幼なじみである。美世が連れてきたのは妹三人と弟二人。全部で六人の兄弟姉妹だ。一年程前に両親が亡くなり、美世一人で全員を食べさせている。妹や弟も働いてはいるのだが、得ているお金はほんのわずかであった。
「満腹屋の屋台展開を手伝ってもらえると助かるのです〜♪」
「気をつかってくれてありがとうね。こちらこそお願いするわ。今働いているところ、給金が少ない上に旦那がスケベで困っていたのよ」
 相談はすぐに結論が出た。今日のところは様々な雑用を引き受けてくれる。
 屋台が終わった後、満腹屋の裏庭で開拓者達からソース料理の手ほどきを受ける兄弟姉妹だ。ちなみに長女である美世が十五歳。長男が十三歳。三つ子の妹が十一歳。次男が八歳である。
「これがクロケットっていう揚げ物ですか〜。そ〜すぅも合うのです♪」
「本当に。知らない料理がこの世界にはたくさんあるのね」
 宵の口が過ぎた頃、フレイアがパン粉で作ったクロケットを閉店後の満腹屋で振る舞った。光奈と鏡子の姉妹は仲良くクロケットを頂く。試しにパンに挟んで食べてみて、とても美味しいと感じた光奈である。
「喜んで頂いて私も嬉しいですわ」
 好評な様子に頬笑んだフレイアだ。
 当然ながらソース焼きそばやお好み焼き、そーすぅタコ焼きも卓に並んでいた。
「そ〜すぅ屋‥‥じゃなかった、満腹屋を手伝うのも何度目かしらね?」
 自分が作ったタコ焼きを爪楊枝で刺して頬張りながら設楽万理は数える。
(「痩せたかな?」)
 日向亮は仲間達から見えないようにお腹をつまんでみた。少しは痩せたかも知れないが、これから食べるソース料理でおそらくちゃらになるだろう。
「大変だったしふね〜」
「蜂蜜入りの飲み物、どうぞなのです♪」
 ペッタンと卓へと上半身を伏せていたのが燕桂花。光奈が持ってきてくれた飲み物を頂く。熱い鉄板との格闘はかなり大変だったが、やり遂げた充実感でいっぱいである。
「また、そーすぅ味の料理を楽しみたいですね〜」
「とってもいいのです☆」
 木下由花は光奈と並んでソース味の料理を確かめるように食べた。どれもよい出来で口に運ぶと笑顔がこぼれる。
「結論、焼きそばパンの売れ行きは考えていた以上だったな」
 ハイネルは腕を組んで忙しかった時間を思いだす。
「100文‥‥200文‥‥。くく、金のなる音は最高やなあ。たまらんわ」
 金勘定が終わってから食べ始めたのが天津疾也。今回の黒字で光奈が用意した屋台や道具類は速くも償却済みとなった。食材代や依頼代までには至らなかったが、それだけ好評だった。非常に儲かったといってよい。
「もう一度、あの歌聞きたいのですよ」
「わかったのデス。夜だから静かめにやるデス」
 最後に光奈のリクエストでラムセスがリュートを奏でながら唄う。その歌声に誰もが桜の景色を思いだすのであった。