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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 興志王は現在、各国共同での東房での戦いに関連して奔走中である。表舞台に姿を現すかどうかは別にして各所で様々な折衝をしていた。 その興志王は朱藩安州を離れる前に双子の妹達へと頼み事をする。 興味を持った深紅と真夏は開拓者ギルドに依頼を出した。そして集まった開拓者達と一緒に精霊門を通じて希儀の羽流阿出州の大地を踏んだ。 深夜の到着なので宿で休み、朝になってから動き出す。 「やはり異国は空気が違いますわ」 興志深紅は歩きながら深呼吸をした。 「こっちは天儀よりもあたたかい気がするね♪」 興志真夏はお気楽な様子で道ばたの草花に興味を示す。 興志姉妹と開拓者達は巨人ギガがいる海岸へと向かった。 「おっはよー、ギガ♪」 「おはようございます。ギガ様」 姉妹は巨人ギガと面識がある。巨人ギガが朱藩安州を訪ねた際に興志王から紹介されていた。 『深紅と真夏、おはよう』 巨人ギガも挨拶を返す。 「兄の宗末から言づてがあります。『希儀中央の海みたいな巨大湖にいってチョウザメを獲ってくれ』だそうです。あ、実際に欲しいのはチョウザメそのものではなく、メスの卵なのでお間違いのないようにとのことです」 「もちろんあたしたちも同行するよ♪ 兄ちゃんがいうには塩漬けのチョウザメの卵が美味しいんだってさ♪」 姉妹の説明を聞いて巨人ギガは頷いた。よくわからないから現地で指示をしてくれと付け加えて。 興志姉妹と開拓者達は超低速運用が可能な中型飛空船へと乗り込んだ。大地を歩くギガに合わせてひたすら陸を北上する。 山間を抜けて数日後、目的の湖へとたどり着く。 「向こう岸が見えないよ。本当にここは海じゃないのかな?」 真夏の疑問はもっともである。誰が眺めても海にしか見えない風景が広がっていた。 巨人ギガが網を手に湖へと足を踏み入れる。さっそくチョウザメ漁が始まるのであった。 |
■参加者一覧
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
和奏(ia8807)
17歳・男・志
此花 咲(ia9853)
16歳・女・志
フェンリエッタ(ib0018)
18歳・女・シ
フィーネ・オレアリス(ib0409)
20歳・女・騎
十 砂魚(ib5408)
16歳・女・砲 |
■リプレイ本文 ●湖 湖畔に佇む巨人ギガと中型飛空船。 下船したフェンリエッタ(ib0018)と上級人妖・ウィナフレッドは湖を前にして深呼吸をした。ついでに腰から上を左右に回して長く椅子に座っていた身体をほぐす。 「いつ見ても海にしか思えない湖だわ」 フェンリエッタ(ib0018)も興志姉妹と同じ感想を呟いた。 『リエッタ、あっち見てくるね』 「ウィナ、気をつけてね」 フェンリエッタに一声かけてから上級人妖・ウィナフレッドがふわふわと飛んでいく。 すでに開拓者同士が協力して周囲に敵らしき存在が潜んでいないかの確認は済んでいた。とはいえ護衛対象の興志姉妹は王の宗末と違って志体を持たない一般人である。その意味では興志王よりも注意を怠らないようにしなければならなかった。 人妖・ウィナフレッドが巡回してくれることで護衛の苦労がかなり軽減される。 (「そういえば‥‥」) 和奏(ia8807)は漁の準備を行う巨人ギガを眺めながらふと思いだす。魚類の多くはオスメスの区別がつきにくいことを。そこで飛空船に同乗していた指南役の板前に聞いてみることにする。 「どうやってオスメスを見分けするのか、ご存じですか。メダカは本で読みましたが金魚の見分けはつきませんでした。やはりチョウザメも難しいのですか?」 周囲にいた開拓者仲間も興味津々にして耳を傾ける。 「実は外見からはわからないと思ったほうがいい。四メートルぐらいのチョウザメの腹を死なない程度に小さく切って判別するしかないのさ」 かなり強引なオスメス判別方法に驚く者もかなりいた。 間違って切ったオスの切り口については針と糸で縫ってから放してあげることになる。三・五メートル以下のチョウザメについては調べるまでもなく放流すると決められた。 興志王から配慮を忘れずにと指南役はいわれていたようだ。 飛空船の側で屈んでいた巨人ギガが立ち上がる。 「ギガは結構、繊細ですの」 炎龍・風月で上空を飛行する十 砂魚(ib5408)が巨人ギガを見下ろす。 巨人ギガは船倉から取りだした投網を広げていた。破れて穴が空いていないかを確かめる姿はどこか可愛らしいものがある。 やがて巨人ギガがチョウザメ漁を始めるべく湖に向けて歩きだした。 「がんばれー!」 「気をつけてくださいね」 興志姉妹の深紅と真夏が声援を送る。 巨人ギガが湖に足を踏み入れると波が立つ。どんどんと進んでいき胸元ぐらいまで湖面に浸かると動きを止めた。 「あれ? 漁はしないのかな?」 『もしかしてギガ、壊れちゃった?』 柚乃(ia0638)と宝狐禅・伊邪那が棒立ちの巨人ギガを見て心配の声をあげる。 「あれは周囲に魚が戻ってくるのを待っているのです。海辺で漁をするときも似たようなことをしていましたので」 フィーネ・オレアリス(ib0409)の言葉に柚乃達は安心する。 「時間がかかりそうなのでハーブティーでも淹れて一服しましょう」 フィーネは焚き火を用意して湯を沸かし始めていた。興志姉妹を招いて一緒にお茶とお菓子を頂く。 「ギガはまるで漁師みたいですの」 「日々の作業で学習するなんてギガって頭がいいのね」 十砂魚とフェンリエッタは湖面の巨人ギガを眺めながら饅頭を頬張った。 入水してから二時間が経過。ようやく巨人ギガが動きだす。 ゆっとりとした動きだが精密に網が湖へと投げられる。 投網を手繰り寄せつつ、後退して巨人ギガが湖畔まであがった。 網の中は大量の魚がいっぱい。チョウザメもたくさん含まれていた。 料理に使えそうな魚は先に回収する。マグロにヒラメなどを運び出してからチョウザメの選別作業に入った。 「獣化してみよっかな‥」 柚乃は宝狐禅・伊邪那との輝く変化によって狐獣人へと姿を変える。鋭くなった感覚で湖畔に転がるチョウザメの中から四メートル級を探しだす。 「尻尾側は私が持つですの」 さすがに四メートル級だと志体持ちの開拓者でも一人で持ち上げるのは大変である。担げたとしても地面で引きずってしまう。そこで十砂魚と柚乃は協力して運んだ。 「ギガ、お願いね‥」 「後は頼みましたの」 柚乃と十砂魚は四メートル級のチョウザメをギガが差しだした掌に乗せた。巨人ギガがオスメス鑑定している仲間の元にチョウザメを運んでくれる。 陸にあがって苦しんでいる小さめのチョウザメは早めに拾い上げて湖へと帰してあげた。 フィーネはアーマー「人狼」・ロートリッター弐を駆動させて単独でチョウザメを運ぶ。 「さすがにロートリッター弐よりも大きな魚だと大変ですね」 フィーネが駆るアーマー・ロートリッター弐の全長は約三メートルである。単純に並べたのならチョウザメの方が大きかった。 四メートル級のチョウザメを担いでオスメス鑑定が行われている場の茣蓙へと降ろす。四メートル級のチョウザメが並べられる景色は壮観といえた。 指南役と一緒にチョウザメのオスメス鑑定を行ったのは和奏とフェンリエッタ、そして興志姉妹である。 「鮭の卵はお醤油漬けにすると美味しいですけど、チョウザメさんの卵はお醤油漬けにはしないのです?」 包丁を片手に和奏が指南役へとふり返る。 「それも美味いかも知れないな。興志王様から聞いた話なんだが『チョウザメの卵は塩漬けがうまい。食べるときには銀のスプーンを使うな。骨や貝殻のスプーンがよい』と刻まれた石版が見つかったそうなんだ。きっと滅びた希儀の人々はそうしてたんだろう。長年食べ続けた人々がわざわざ石版に刻んでまで伝えようとしたんだから、それが一番だろってことらしい」 和奏は一応の納得をしたところで指南役にいわれた通りの箇所を切ってみる。オスであったために二針縫って巨人ギガに後を任せる。 生命力がつよいので陸上にあがってかなり経つのにちゃんと生きている。巨人ギガはオスのチョウザメを楽々と持ち上げて湖へと返してくれた。 「これメス、かな?」 「うむ、間違いないな」 フェンリエッタが最初に調べたチョウザメはメスであった。キャビアは後でまとめて取りだすのでわかるように茣蓙の上に並べておかれる。 「な、なんか怖いですわ」 「あたし平気だよ。そこ抑えていてね」 興志姉妹も協力してオスメス鑑定を頑張る。 作業は順調に進んだ。 四メートル級のメスチョウザメが二十本集まったところで鑑定作業は終了となる。網に残った魚はすべて巨人ギガが湖へと戻してくれた。 続いてキャビアを取りだす作業に移る。膜を破かないようにして袋状のキャビアが腹部から取りだされた。 「二十体ですとキャビアはどのくらいの量になるのでしょうね」 「大体、体重の一割五分って辺りだな。以前、量ってみたらそうだった」 フィーネの疑問に指南役が答えてくれる。五百キログラム前後になると考えられた。 「これなら苦になりませんわ」 深紅がキャビアの入ったフルイを湖面につけて軽く揺らす。時折指先で崩しつつ優しくばらけさせた。 その際に不純物も取り去る。湖のおかげで綺麗な水には事欠かなかった。 「魚の卵って宝石みたい‥‥。イクラも綺麗だけど、チョウザメの卵も独特だわ。ここまで大きくなるのにはきっと何年もかかるわよね」 フェンリエッタもフルイの中のキャビアに見取れる。鈍い光を放っていて本物の宝石のようであった。 巡回から戻っていた人妖・ウィナフレッドもキャビアを見て瞳を輝かせていた。 「卵の袋や、悪い卵を除けば良いですの? 調理と言うよりも、加工ですの」 十砂魚もフルイを手にしてキャビアを洗う。 炎龍・風月は十砂魚の側で寝転がる。 しばらくして炎龍・風月にも仕事ができた。指南役が四分の一に切り分けたチョウザメの肉を飛空船まで運ぶ役目である。 甲板まで運べばそれでよい。船倉まで運ぶのは船員の仕事である。 翼を広げて浮かんだ炎龍・風月はチョウザメ肉を爪で掴み、飛空船まで飛んでいく。 「一部は調理に使ってみたいのですが、構わないでしょうか?」 和奏が二本分のチョウザメを調理に使いたいと指南役に頼んだ。彼だけでなく他にも挑戦したいと考えていた開拓者は多かった。 「そりゃ構わないが不味いって話があるから期待しないようにな」 もしも余った場合でも開拓者が責任を持って処理する約束で使ってよいことになる。朋友にも食べてもらうことになるだろう。 その他のチョウザメ肉は畑の肥料として使われる。炎龍・風月による運び込みが済んだところで中型飛空船は空へと浮かび上がった。 巨人ギガの歩行に合わせた往路とは違い、飛空船は全速で羽流阿出州方面へと飛び去る。宵の口には戻ってくれるので問題はなかった。 「これ‥卵、なのですよね‥?」 『けっこうたくさんあるわね』 柚乃はキャビアを見ていたたまれない気持ちになったのも確かだが、綺麗と感じたのもまた事実である。 宝狐禅・伊邪那妖は特に気にせず誰も見ていないところで一粒だけつまみ食いをする。気に入ったようで、ぱっと明るい表情を浮かべた。 綺麗になったキャビアは布巾を敷いた木箱の中へと集められる。 「塩の量は非常に厳密なんだ。慎重に‥‥」 指南役が適量の塩を振ってしばらく時間が置かれた。塩分のおかげで余計な水分が抜けて味が引き締まる効果があった。 その間に大鍋で湯を沸かしてたくさんの小壺を煮沸する。 数時間後、キャビアから水分が出たところで再度フルイにかける。水分を切ったところで乾かした直後の小壺に詰めた。最後に封をして出来上がりである。 すぐに試食してみたいところだが数日を待って塩がなじんだ頃がよいようである。キャビアは羽流阿出州に戻ってからのお楽しみとなった。 ●チョウザメの肉 飛空船は予定よりも早めに帰ってきた。 マグロやヒラメの夕食を作りつつ、開拓者はチョウザメ肉の調理に挑戦する。 船内の板場に集まったフィーネ、和奏、フェンリエッタがチョウザメ肉に包丁を入れた。 塩分が濃い汽水の湖だったので、生でも平気と判断しそのまま食べてみる。 「鮫といってもあの独特のにおいはありませんね」 フィーネがいうように鮫独特の嫌なにおいはまったくしなかった。それなりに時間が経っているのに関わらずである。フェンリエッタと和奏も同様の感想を持つ。 「見た感じも淡泊な白身魚にみえるけど‥‥どうして不味いって話しになったのかしら?」 フェンリエッタは船倉に道具を取りに行く。そのとき見かけた指南役に聞いてみた。 「チョウザメの肉? ああ、食べたことはないんだ」 指南役が以前に湖調査をした際、同行者がチョウザメの肉を食べて腹を壊したという。とても不味かったといっていたので、そのまま信じてしまったようである。 腹を壊した同行者は他にも野生肉を食べていたので原因はそちらの可能性が高い。 表現の間違いとして『腹痛』を『不味かった』とすり替えてしまう人がいてもおかしくはなかった。 「風月、貴方は鮫肉食べてみます?」 声が聞こえてフェンリエッタと指南役が振り返く。船倉内の厩舎で十砂魚が炎龍・風月にチョウザメの生肉を餌としてあげていた。 炎龍・風月が美味しそうに食べているところから、指南役もチョウザメ肉に興味を持つ。一般的な鮫肉ならば人間以外の動物でさえ嫌がるのが普通だからだ。 フェンリエッタが指南役を連れて板場に戻る。 丁度、和奏が大きな壺にチョウザメ肉を入れようとしていた。 「キャビアではありませんが、チョウザメ肉を醤油漬けにしてみようかと思いまして。いけそうな気がしています」 和奏が羽流阿出州で買い求めた醤油の大壺にチョウザメ肉の塊を沈める。この状態ならば保存が効くはず。後は味としてどのくらいの漬け込みが適切かを確かめるだけである。 「これならいけそうです。もう少しで焼けます」 フィーネはハーブや胡椒で下味をつけたチョウザメ肉をバターで焼いてムニエルに仕上げた。 試食した誰もが驚きの表情を浮かべる。 「それじゃあ希儀の名物作り、一緒に頑張りましょうっ♪」 腕まくりをしたフェンリエッタが調理を開始する。 「どうしたの?」 まもなくへろへろに疲れた人妖・ウィナフレッドが戻ってきた。暴れていたケモノのバッタと戦って勝ったと胸を張る。 フェンリエッタは人妖・ウィナフレッドのためにも料理を作り上げる。お刺身に塩焼き、魚醤を基本とした鍋の具にもチョウザメ肉を使った。 夕食時にはチョウザメ肉の料理も並べられる。まずいという噂を聞いていた船員達はなかなか箸をつけようとしなかった。 最初にチョウザメ肉の刺身を頂いたのは柚乃である。 「美味しい‥‥」 『柚乃、ずるい。あたしにもちょうだい』 柚乃が宝狐禅・伊邪那に小さく切った刺身を食べさせてあげる。伊邪那が喜んで食べる姿を見て船員達も興味を示す。 「こんなに美味しいお肉なら風月がお代わりするはずですの」 十砂魚は魚醤鍋のチョウザメ肉を頂いた。口の中でほろりと身が崩れてとても美味しかった。淡泊な味なので汁が染みこむとちょうどよい。 「肉が食べられるなら無駄は少ないですね。よかった‥‥」 和奏もチョウザメ肉の刺身を口にする。 「肉の保存には塩を利用する他に燻製にするのもよさそうです。それとあれだけしっかりした皮なら鞣せば革製品に使えそうな気もします」 フィーネは試食の時よりも工夫を凝らしたチョウザメ肉のムニエルを頂く。 「兄ちゃんはキャビアの味は知っていても、このお肉の味は知らないんだね」 「美味しいと知ったらきっと悔しがりますわ」 深紅と真夏もチョウザメ肉の料理を次々と食べていた。舌がこえた二人でも充分に満足できる味のようだ。 いつの間にか船員達もチョウザメ肉の料理を美味しく頂いていた。 夕食後、フェンリエッタは興志姉妹に連れられて巨人ギガの元へと向かう。 巨人ギガの頭部には毒味用として味覚を理解する機能が備わっていた。フェンリエッタが作ったチョウザメ肉の塩焼きが人妖・ウィナフレッドによって口に放り込まれる。 『うまい、あの魚の味はこうなのか』 巨人ギガに喜んでもらえて嬉しく感じるフェンリエッタであった。 ●キャビア 復路も巨人ギガの歩調に合わせて中型飛空船は飛ばされた。数日後、羽流阿出州へと辿り着く。 開拓者一行は興志姉妹に招待されて羽流阿出州の料理店に足を運ぶ。指南役の料理人が経営している店である。 醤油漬けにされたチョウザメ肉はオリーブオイル焼きにされる。それにたっぷりのキャビアが添えられた。 他にもキャビアはジルベリア系の料理に多数使われて並べられる。キャビアは塩気と独特な食感を加えるのにちょうどよい食材であった。 『キャビアを使った料理。うん、まあまあね』 柚乃よりも宝狐禅・伊邪那の方が強く料理に興味を持つ。普通といいながらもパクパクと食べていた。 (「イクラのようで、そうでもないようで‥‥」) 柚乃もキャビア入りのパスタを頂く。食感はイクラに似ていたが味は確かに違っていた。 (「こうしてチョウザメさんのお肉も頂ければ少しは‥‥」) 和奏は興志姉妹にチョウザメ漁の今後についてを訊いてみる。 「兄様はその辺りをちゃんと考えていますわ」 「そうだよ。兄ちゃんに任せておけば大丈夫。うん、おいしい〜♪」 興志姉妹によれば、興志王は樹木伐採の施行と同じように漁にも制限をつけるつもりらしい。今回の依頼はキャビア漁の現状を知るための調査の一面もあった。 (「信用しているのですね。深紅さんと真夏さんを‥‥」) 和奏は安心して料理を食べることにする。 鷲獅鳥・漣李についてだが、帰路の飛空船内で炎龍・風月のお肉をお裾分けしてもらったら美味しそうに食べていた。肉食や雑食の朋友用の食料としても使い道はありそうである。 「ウィナ、今回の依頼でのお仕事、ご苦労様。たくさん食べていいからねっ♪」 フェンリエッタと一緒に人妖・ウィナフレッドもテーブルについていた。フェンリエッタが食べる様子をしばらく観察した後で自らも皿に手をつける。 チョウザメ肉とキャビア、どちらも気に入ったようでナイフとフォークを握りながら笑顔で頂いていた。特に薄い無発酵パンの上にキャビア乗せて食べるのが好みのようだ。 「こちらの一品は私がお願いして並べさせて頂きました」 フィーネが示したのはチョウザメ肉を燻製したものである。身が締まることで淡泊な味に旨みが加わっていた。保存性がよいので燻製もチョウザメ肉活用の一つの選択である。 フィーネが葡萄酒と一緒にチョウザメ肉の燻製を頂いてみた。肉との相性がよかった。しかしキャビアと葡萄酒は生臭くて最悪だった。 「兄ちゃんもおなじこといってたよ。でも辛口の天儀酒なら合うっていってたかな」 「せっかくなのでどうでしょう。天儀酒も用意できますが」 興志姉妹のいう通りにフィーネは天儀酒でキャビアを試してみる。 興志王の見識は正しく、この組み合わせならどちらも美味しく頂けた。 「機会があれば、私の姉も紹介させて頂こうと思いますの」 十砂魚が自分も双子だというと特に真夏が強い興味を示す。 「ほんと! 双子の姉妹ってなかなかあったことがないんだよね。そのときにはよろしくね♪」 十砂魚と真夏は双子の妹の立場で意気投合する。 「う〜ん美味しい♪」 食事の最後はフェンリエッタの希望で焼きおにぎりとお刺身のお茶漬けで締めくくられる。好みでキャビアも添えられた。 贅沢かもといいながら人妖・ウィナフレッドはあっという間に食べてしまう。 「希儀は本当に未開の地ですし、何があるかわくわくしますの」 食事が終わって料理店から出た際、十砂魚は笑顔でそう呟いた。 『いつでも、手伝う』 海岸にいた巨人ギガに別れの挨拶をし、時間を見計らって精霊門へと向かう。 旅に使用した中型飛空船は羽流阿出州にそのまま残される。 「みんなありがとう〜。兄ちゃん、キャビアよろこぶよ〜♪」 「チョウザメ肉の醤油漬けと燻製も兄様に届けさせて頂きます」 手伝ってくれた開拓者には興志姉妹からお土産としてキャビアが贈られる。 興志姉妹は朱藩の首都、安州行き。開拓者一行は神楽の都へと帰るのであった。 |