【墜星】波間からの射撃
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/02/27 00:21



■オープニング本文

●嵐よりの帰還
 絶え間ない風雨が、激しく叩き付ける。
 雷光が閃き、鈍い振動が大型飛空船を振るわせた。
「三号旋回翼に落雷! 回転力が低下します!」
「意地でももたせろ、何としてもだ!」
 伝声管より伝えられる切迫した報告へ、船長が叱咤する。
 その時、永劫に続くかと思われた、鉛色の雲壁が。

 ……切れた。

 不意の静寂が、艦橋を支配する。
 一面に広がるは、青い空。
 そして地の端より流れ落ちる青い海をたたえた、天儀の風景。
 美しい……と、誰もが思った。
 夢にまで見た故郷を前にして息を飲み、拭う事も忘れて涙を流す。
 帰ってきた。彼らは、帰ってきたのだ。
 嵐の壁を抜け出し、帰郷を果たした無上の感慨にふける事が出来たのは、ほんの僅かな時間。
「物見より報告、前方上空よりアヤカシの群れが……ッ!」
 絶望に彩られた一報が、緩んだ空気を一瞬で砕いた。
 天儀へ帰り着いた飛空船の進路を塞ぐように、巨大なアヤカシが文字通り、影を落とした。
「かわして、振り切れるか?」
「宝珠制御装置に異常発生。無理です、出力が上がりません!」
「二号、六号旋回翼の回転数、低下!」
 悲鳴のような報告が、次々と上がる。
「動ける開拓者は?」
 重い声で尋ねる船長へ、険しい副長が首を横に振った。
「皆、深手を負っています。満足に戦える者は……」
 答える彼も、片方の腕はない。
 それでも、帰り着かなければならない。
 旅の途上で力尽き、墜ちていった仲間のためにも。

●墜つる星
 それはさながら、幽霊船のようだった。
 嵐の壁を調査すべく、安州より発った『嵐の壁調査船団』三番艦『暁星』。
 第三次開拓計画が発令されたと聞き、「我こそは」と勇んだ朱藩氏族の一部が私設船団を組んで探索に出発したのは十月の事。
 その船団に属するらしき一隻が、嵐の壁より帰ってきた。
 朱藩の南、香厳島から届いた知らせでは、「傷ついてボロボロになった大型飛空船が、アヤカシに囲まれながら飛んでいる」という。
「このままでは海か、あるいは朱藩国内へ墜落すると思われます」
 居室より外の見える場所へ飛び出した朱藩国王の後を、説明しながら家臣が追った。
 襲っているのは中級アヤカシ『雲水母』以下、それに追従する下級アヤカシ多数。
 更に「付近の海にもアヤカシが集まりつつある」という情報も、届いていた。
 まるで獲物が力尽きるのを待つかの如く、方々よりアヤカシどもが群がってきている。
「……何をしている」
「は?」
「ギルドへ急ぎ伝えろ! 朱藩、安州よりも可能な限りの小型飛空船を出す。『暁星』を落とすな!」
「すぐに!」
 興志王の怒声に、ひときわ頭を深く下げた家臣が踵を返し、すっ飛んでいく。
 手をかけた欄干が、ミシリと音を立てた。
 大型飛空船の位置はまだ南に遠く、安州の居城から確認出来ないのがもどかしい。
 何としても、無事に帰り着かせなければならない。
 長く過酷な旅路を、彼らは帰って来たのだから。


●海辺の艦影
 朱藩の首都、安州にある飛空船基地。
 海辺に佇む超大型飛空船が一隻。
 艦名を『赤光』。所有するのは朱藩を統べる興志王である。
 自ら『暁星』を救出に向かうべく出航の準備が急がれていた。
「準備が整い次第、離陸させろ!」
 艦橋の席に座った興志王は足を組んで前方を睨む。
(「どうしたのものか‥‥」)
 興志王が顎に手を当てて考えるのは戦術だ。
 迫る多数のアヤカシから暁星は逃げている状況。破損が激しいとの情報が正しければ空中での航行もおそらく不安定に違いない。
 小回りの利かない超大型飛空船で近づけば、敵味方入り乱れての混戦に突入するのは必至だ。それでは遠距離射撃を得意とする砲術士の長所が損なわれてしまう。
(「幸いな事に海は比較的穏やか‥‥。暁星は海上近くを飛んでいるはず‥‥」)
 興志王は決断した。海面に赤光を着水させ、甲板からの砲術士による一斉射撃でのアヤカシ掃討を。
 乗船してもらった開拓者達には接近してくるはずのアヤカシを退治してもらう。遠距離射撃に集中する為に砲術士達の守りは散漫になると予想されるからだ。
 開拓者達のアヤカシ阻止次第で砲術士達の火力はおそらく変わってくる。
 まもなくして赤光はゆっくりと海面から離れて宙に浮かぶ。
 艦首を向けた先は南方。
 暁星救出の始まりであった。


■参加者一覧
犬神・彼方(ia0218
25歳・女・陰
雲母坂 芽依華(ia0879
19歳・女・志
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
神無月 渚(ia3020
16歳・女・サ
タクト・ローランド(ia5373
20歳・男・シ
雲母(ia6295
20歳・女・陰
トーマス・アルバート(ia8246
19歳・男・弓
キァンシ・フォン(ia9060
26歳・女・泰
エグム・マキナ(ia9693
27歳・男・弓
八神 静馬(ia9904
18歳・男・サ


■リプレイ本文

●戦いの火蓋
 穏やかな海面へ徐々に広がる影。
 速度を落とした超大型飛空船『赤光』が着水する。
 飛沫で艦体に輝く虹がかかるものの、乗艦する者達にそれを愛でる時間はなかった。何故ならすでに上空ではあやかしとの戦いが繰り広げられていたからだ。
 アヤカシの雲水母に捕らわれたとの連絡があった大型飛空船『暁星』だが、今でも触手の何本かが絡んでいた。勢いをつけて振り切ろうとしているようだが、今一歩のところで成し遂げられてはいない。それでも赤光よりも先に到着していた小型飛空船や龍に乗った開拓者達によって最悪の状況からは脱していた。
 灯蛾の如く暁星にまとわりつくアヤカシの群れ。
 暁星が目指すのは安州のある南方。無事逃げおおせられるかは今後の戦いにかかっている。
 もがくように推進しているせいか暁星は雲水母に絡まりながら海面近くを飛行する。破損が激しいのも含めてその動きは緩慢。赤光の海上航行でも何とかついてゆける速さである。
 赤光が空中で戦わなかったのには理由があった。巨大さ故に赤光は小回りが利かない。それに混戦となれば砲術士の真価が発揮しにくくなる。ある程度の距離があった方が砲術士は戦いやすかったからだ。
 鉄扉が開き、次々と砲術士達が甲板へ飛びだす。その中に混じり、興志王からの要請で砲術士達を護る依頼を受けていた開拓者十名の姿もあった。
「我々は暁星にまとわりつくアヤカシの排除をし、暁星の乗員の救出を目的とする。すでに取り憑いているアヤカシは上空の味方に任せて無視しろ!」
 広げた手を伸ばして号令を出したのは興志王。その後、砲術士五十名の指揮は信頼する臣下に任せて興志王は開拓者達へと近づいた。
「見た通り、甲板の臣下達は上空のアヤカシを狙って無防備だ。おそらくこれからこの赤光にもアヤカシが寄ってくる。それらの排除を頼みたい。俺も手伝おう」
 興志王は肩に担いでいた砲を手前に動かして弾を装填する。
「まずは暁星に絡む雲水母の触手に集中! 構えよし! 撃てっ!!」
 間もなく砲術士五十名による射撃が始まった。
「アヤカシの情報について改めて説明させて頂きます――」
 八神 静馬(ia9904)は斥候の砲術士から聞いたアヤカシの特徴を口頭で並べる。
 クラゲのような姿をしている通称『雲水母』の全長は約百メートル。たくさんの触手が特徴だ。他にも『皮翼竜』や『飛突魚』も確認される。その他のアヤカシがいても不思議ではなかった。
(「俺は何故こんな船に乗ってるんだ‥‥」)
 最後の相談に参加しながら今一度記憶の反すうをしていたのが、タクト・ローランド(ia5373)である。金穴でよい依頼がないかギルドを訪ねた際、非常に慌てた受付に押しつけられたのがこの仕事だ。
「よし、奴は次にあったら〆る」
 そう呟くと刀を抜いてタクトは上空の暁星を見上げる。
「ちゃんと砲術士はんを守りきらなあきまへんなあ」
 雲母坂 芽依華(ia0879)は砲術士五十名の様子を再確認した。
 興志王へ事前に頼んだ通り、甲板の砲術士五十名は三つの隊に分けられている。開拓者達も三つの班に分かれて、それぞれに担当する隊を取り囲むように位置取りをしていた。
「本当にアヤカシはどこにでもいるのですね‥‥。いつか教師に戻ったら、生徒達に伝えることにしましょう。いつになるか、分かりませんが」
 エグム・マキナ(ia9693)は射撃を浴びて落下してゆくアヤカシを目にする。
「あたし達はこちらの隊を護るのね」
 キァンシ・フォン(ia9060)は同じ開拓者・参班である犬神・彼方(ia0218)とトーマス・アルバート(ia8246)に声をかけた。
 開拓者・壱班は神無月 渚(ia3020)、八神静馬、玲璃(ia1114)、雲母(ia6295)の四名。
 開拓者・弐班は雲母坂、タクト、エグムの三名。
 開拓者・参班は犬神彼方、キァンシ、トーマスの三名である。
「その通り。さぁって‥無粋なアヤカシなんかぁに興志王達の邪魔ぁはさせねぇぞ」
 キァンシに答えながら犬神彼方は符を手にしてニヤリと笑う。
「もうすぐこの甲板も危険になるだろう。俺達が必ず守る。だから貴方達も自分の役目を果たしてくれ」
 トーマスが近くにいた開拓者・参班が護る砲術士・参隊に声をかける。装弾が終わって待機していた砲術士が応えてくれた。
「空の敵かぁ‥‥。浮いてるのとかって食えるかなぁ‥‥」
 神無月渚はサンマによく似たアヤカシを見かけてポツリと呟く。残念ながらアヤカシは食べられるものではない。無理に口に押し込んだとしても瘴気に戻って消えてゆくだけだろう。調理する暇もないはずだ。
「興志王様は遊撃でよろしくお願いします」
「わかった。俺も砲術で近づいてくるアヤカシの露払いをする。任せておけ」
 玲璃は一体のアヤカシを撃ち落としたばかりの興志王に話しかけた。
 暁星の追跡を中断して赤光へと向かってくるアヤカシは徐々に増えている。アヤカシにとってそれだけ砲術士五十名による射撃は邪魔なのだろう。
「今日は何匹落とせるだろうか、楽しみだなぁ」
 煙管を吹かしていた雲母だが頃合いを感じ、戦いに集中する。手にする弓で迫り来る飛突魚に狙いを定めて矢を放つ。
 エグムとトーマスもまた弓術でアヤカシを的にした。興志王の射撃も加わってまずは遠隔攻撃による接近するアヤカシの一掃が始まる。
 矢や弾を浴びたアヤカシの多くは海へ落ちる前に瘴気へと戻って消え去ってゆく。
 激しい戦いの中、上空で何かがあったのか、ある瞬間から赤光を狙うアヤカシが一気に増加する。遠隔攻撃だけでは抑えきれなくなったところで待機していた開拓者達の出番であった。

●開拓者・壱班
「五匹目!」
 雲母は頭上へと次々と矢を放ち、アヤカシ共が間近に迫るまでに深手を追わせてゆく。完全に倒しきる事はせずに止めは仲間に任せた。その方が効率的だったからである。
「さぁーて、ズバズバ行きますかぁ」
 神無月渚は迫るアヤカシを見上げながら強く踏み込む。跳んで刃を輝かせ、砲術士・壱隊を襲おうとした飛突魚のヒレが回転しながら甲板に落ちた。まもなく崩れるように消えて去る。
「逃がしません!」
 八神静馬も高く跳ぶと鍋ふたの盾を構えて逃げようとする飛突魚を抑え込んだ。飛突魚が蹴鞠のように甲板の上で撥ねる。機会を逃す事なく神無月渚が止めを刺す。
「すぐにお掛けします」
 玲璃は次の敵に備えて神楽舞を踊り「速」を仲間達に付与する。一息つく暇もなく新しいアヤカシが襲来して戦いは続く。仲間が倒れてしまわないように、神風恩寵や解毒による回復も忘れない玲璃だ。
 開拓者・壱班が護る中、砲術士・壱隊は雲水母の触手一本に攻撃を集中させていた。
 暁星に絡んでいるうちの一本の根本に狙いを定めて射撃を集中する。簡単には成し遂げられなかったものの、戦いの中盤には切断に成功した。
 千切れた触手が勢いよく落下して海面で飛沫をあげる。すぐに崩れて跡形もなく消え去っていった。
 射撃に怒ったのかはわからないが、アヤカシの赤光への攻撃は激しさを増す。その分だけ暁星にまとわりつくアヤカシが減ったのは幸いといってよいものかも知れない。
「死地を潜り抜け、困難の数があるほど覇王として君臨するに相応しい‥‥。十九匹目! 二匹、そっちに任す!」
 砲術士達の発射音に続いて矢を放った雲母が叫んだ。まるで落下しているかのように上空から飛突魚が降り注いできた。
「砲術士さん達には触らせすらさせません!」
 傷つきながらも八神静馬は退かずにアヤカシの攻撃を受け止める。射撃の間を縫うように砲術士達の上を跳んで襲ってくるアヤカシを払った。
「『赫月』の実力。見せてやるよぉ!!!」
 神無月渚は犬神彼方が弾いたアヤカシを上段から一気に刀を振り下ろして二つに割る。縦に横に斜めにと次々となますにしてゆく。
「サムライのお二人を順番に回復します」
 玲璃は神楽を踊る。そして傷ついた仲間を治療して戦線に戻す。
 火薬の臭い漂う大型飛空船『赤光』の甲板上は紛うことなき戦場であった。

●開拓者・弐班
 開拓者・壱班が奮闘している時、隣の弐班もまたアヤカシとの激しい戦いに身を投じていた。
「力押しは苦手なのですよね‥‥やれやれです」
 エグムは呟きながら次の矢を用意する。
 飛突魚や皮翼竜の攻撃は続いていたが、赤光側に大きな破綻は起きていなかった。砲術士五十名は上空のアヤカシに射撃を続けている。開拓者十名と興志王は迫るアヤカシを退けた。
 すべてが順調に感じられるものの、それでも油断できない事をエグムを始めとして弐班の誰もが心に刻んでいた。
「そのまま消えろ」
 タクトが投げた手裏剣が砲術士・弐隊の頭上で弧を描くと、飛突魚のヒレを切断して戻ってくる。
 さすがに甲板に迫るアヤカシも砲術士が構えている時には射程の範囲内には入ってこなかった。撃ち終わりの隙を主に埋めていたのがエグムの矢とタクトの手裏剣である。
「任せといてなあ」
 雲母坂は遠隔攻撃によってそれてきたアヤカシと対峙する。ぐらついている頭上の飛突魚に刀を突き刺し、そのまま振り切って真っ二つに斬り割いた。
 赤光が波飛沫をあげながら、上空の暁星を追跡し続ける。
 開拓者・弐班に護られながら、砲術士・弐隊が狙いを定めていたのは大型飛空船・暁星に近づこうとする黒い雲のように見えるアヤカシの集団。
 未だ暁星をアヤカシ共はあきらめておらず、執拗に追っていた。今では完全に雲水母の触手から逃れていた暁星だが、再び捕まってしまう危険とは背中合わせであった。
「あれは‥‥」
 二体の皮翼竜がまとまって、砲術士・弐隊の中央へと落下するように突っ込んでくる。エグムは即射で当てて皮翼竜一体の軌道を変えた。
「ちっ」
 さらにタクトの手裏剣が別の皮翼竜の翼をもぎ取る。その際、打剣を使ったのはいうまでもない。
「逃さへんのや‥‥」
 皮翼竜の落下点を見定めた雲母坂は一旦刀を鞘に収める。そして雪折による抜刀が煌めいて皮翼竜に深い傷を負わせた。
 追い打ちでタクトが早駆で回り込み、止めの一刀を甲板を這いずる皮翼竜共へ次々と打ち込むのだった。

●開拓者・参班
「俺自身の心の弱さに‥‥今こそ打ち勝たなくては‥‥」
 そうでなければあの人を越える事なんてできないとトーマスは心の中で呟いた。
 弓を構えて見上げる先には青く澄んでいる空に浮かぶ黒い滲み。大きく揺らぎながら暁星は飛び続け、その後方を雲水母と小型のアヤカシの群れが追いかける。
 赤光の追走もそろそろ限界にきていた。いくら暁星の破損が酷くても空を飛ぶのと海上を進むのでは天と地ほどの差がある。海上航行で暁星を追いかけられるのはここまでだと興志王も考え始めた。
 開拓者・参班が護る砲術士・参隊も成果をあげている。特に雲水母の動きを阻止したのはかなりの功績だ。
 ここから先は赤光にまとわりつくアヤカシの一掃である。
「これで!」
 数歩の助走をつけたキァンシが甲板に降りようとした飛突魚に手甲で覆った拳を捻り込んだ。普段はおっとりとしたキァンシだが、こういう事情の時は別である。
「これで大体倒したか‥‥」
 斬撃符でアヤカシを払う犬神彼方は大きく肩で息をする。かなり疲れた様子であった。攻撃だけでなく仲間達の治療も行っていたからだ。あらかじめ想定していたが、思いの外解毒は面倒であった。
「側面に取り憑いているアヤカシの掃除を手伝ってくれるか?」
 遊撃で戦っていた興志王が参班の三人に協力を求める。大体は倒されたが、赤光にまとわりつくアヤカシが少しだけ残っていたのである。
(「やれる」)
 窓にへばりつく皮翼竜の背にトーマスが放った矢が刺さる。興志王と協力し、次々と取り憑いているアヤカシ共を剥がしてゆく。
「任せてね!」
 キァンシは器用に壁伝いに走って拳でアヤカシを薙払った。
「一緒ぉに戦えて光栄至極、で御座いました」
「助かった‥‥。後は上空の者達に委ねよう」
 犬神彼方が治癒符で興志王を癒す。
 超大型飛空船『赤光』は離水の準備を始める。赤光は先回りをして暁星の着水予定海域で待機すると興志王が指示を出す。
 今はアヤカシの殲滅よりも暁星乗員の命を優先する事が大切であった。

●そして
「海中より新手のアヤカシが!」
 監視の一人が艦橋の席についたばかりの興志王に報告する。
「ここでもたもたしている訳にいかねぇ! 波間に向けて水平射撃だ!」
 興志王の指示が伝声管によって各部に伝えられる。
「どうした、敵はまだ残ってるぞ? 興志王率いる朱藩の砲術士の力がこの程度ってことはねーよな?」
「見ておきな! 俺達の底力を!!」
 タクトに声をかけられた砲術士がさっそく朱藩銃を構えて狙う。
 甲板にいた砲術士も加えて八十七名による一斉射撃はすさまじい轟音を響かせた。
「こりゃいいもん見せてもらった」
 タクトが掌で目の上に庇を作って望む。他の開拓者達も遠くを眺めた。大量のアヤカシ共が次々と瘴気へ戻って消えてゆく。
 海中から赤光まで到達したアヤカシはわずか六体。開拓者達が片づけると赤光は予定通り離水する。そして朱藩の首都『安州』へと艦首を向けた。
 日が完全に沈む前に赤光は着水予定海域に着水して暁星の到達を待った。着水してからの顛末を詳しく知るのは他の救出者達である。
 すべてが終わった後、開拓者達は興志王の持てなしによる数日の休息をとった上で神楽の都へと帰っていった。顔に微笑みを、または心の中を満足で満たして。