危険な湯煙 〜巨勢王〜
マスター名：天田洋介
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| ■オープニング本文 前回のリプレイを見る 空と海を隔てた武天国と泰国。 二国は祭典を計画。今現在は交渉段階だが準備は着々と進んでいた。 その中の一つが刀の準備。 祭典が開催されたのなら親好の意を表して互いに贈り物を交換し合う形になる。 武天の刀剣愛好家の間では『武天十二箇伝』と呼ばれる選出が存在する。宝珠を考えず刃の鍛えに重きを置いた評価なので、刀そのものの評価とは必ずしも一致しない。しかし刃の鋭さもまた天儀刀の魅力に違いなかった。 巨勢王が選んだのは武天十二箇伝に選ばれているうちの流派『長家』。長曽禰興里を創始者としており、虎徹は国内外で有名である。 泰国へ贈る一刀を長家十六代目、長曽禰喝破に打ってもらおうとしたところ、行方不明の状況。とはいえ大凡の予想はついていた。 喝破は将棋の真剣師としての一面も持つ。いろいろとあったが開拓者達によって巨勢王と喝破の対局は果たされる。そして作刀も行われる形となった。 二人の勝敗については秘密にされた。巨勢王はわざと負けるような相手を好まない。かといって巨勢王に畏怖を抱いて手を抜いても誰にも責められはしないだろう。 しかし恐れ知らずの喝破は真剣勝負を持ちかけたはずだ。この場合の真剣とは賭け事を指す。もし喝破が勝ったとするのならば巨勢王から何を巻き上げたのか。判明するには今しばらくの時間が必要だった。 作刀を請け負った長曽禰喝破は拠点の鳥架村に戻る。この村は此隅から南の遠方に位置し、金指山の裾野に存在した。 鳥架村の側を流れる雉川ではたたら製鉄用の砂鉄の採取が可能。また炭焼きに必要な木材を上流から運ぶ手段としても用いられていた。 鳥架村には村長がいるものの、実権を握っているのは長家の当主。つまり現在においては喝破に他ならなかった。 その鳥架村が大蛇に襲われるものの、被害は最小限で済んだ。盗られた喝破愛用の鎚も開拓者達によって取り戻される。但し、作刀は予定よりも遅れ気味となっていた。 喝破の件とは別の事案で綾姫が武天を代表して泰国を訪れることとなる。土産として運ぶのは苺。綾姫の好物でもある。 航空路上でアヤカシに襲われ、秘密裏に苺へ毒を混入させられそうになるのものの開拓者達の活躍にて阻止。無事に泰国訪問は終了する。 長曽禰喝破の作刀も佳境に入ろうとしていたが、謎の遠吠えによって鳥架村には不安が漂う。守りとして開拓者の応援が定期的に訪れる最中、第二陣が滞在中に襲撃は起こった。 霧の夜、開拓者達と戦う。 角の特徴を持つ四つ足アヤカシの名は『突猛嵐』。牙の特徴を持つ四つ足アヤカシは『砕猛嵐』。爪の特徴を持つ四つ足アヤカシは『裂猛嵐』。どれも大型の馬程の巨躯を誇っていた。 その三体を率いていたのが人型のアヤカシ『御怨』。長い黒髪に身長は二メートル前後。鋭い眼光を放つ。アヤカシに性別があるのかはわからないが男性の姿だ。 開拓者達の活躍で鳥架村は無事に守りきられる。 おかげで長曽禰喝破の手によって天儀刀二振りが完成。姿見がわずかに良い一刀が真打ちとされ、もう一刀は裏打ちとして巨勢王の所蔵となる。 その後、武天と泰国を繋ぐ空路がアヤカシによって封鎖される事態が勃発。武天側は綾姫が総大将となり、両軍の飛行艦隊によって一掃された。これに関しても『御怨』が絡んでいると思われていたが、真実は闇の中にあった。 そしてようやく泰儀の海上にある『真貝小島』で武天国と泰国の式典が執り行われることとなる。 綾姫と開拓者達は早くに到着して会場の下見を行う。疑わしき事象が発見され、詳しく調べてみれば暗殺用の火薬が仕掛けられてあった。 工作したのは人の大工だがアヤカシの『御怨』に妻を誘拐されて脅迫を受けたという。仕方なく犯罪に手を染めたことが判明する。 火薬は取り除かれて式典は無事に行われた。また大工の妻も開拓者達の活躍によって救い出されるのであった。 アヤカシ『御怨』の企みは武天国と泰国を繋ぐ空路上で勃発した空中戦の勝利によって事実上潰えたといえる。 真貝小島の式典会場が爆破されたのなら被害は甚大といえたが、手段としては姑息の部類に含まれる。すでに御怨は大きな手を打てるほどの手駒を持っていないと考えられた。 「頼むぞ、綾姫よ」 「父様、任せてたもれ」 知恵を働かせた武天の王『巨勢宗禅』は娘の綾姫と策を巡らす。巨勢王と綾姫はお忍びで山奥の温泉場で湯治をする計画を立てた。 刀鍛冶の長曽禰喝破も招いて温泉と将棋でゆっくりと過ごす予定だが、真の目的は御怨を誘き寄せだ。手駒が少なくなった御怨は必ず三体の四つ足アヤカシを率いて襲ってくるだろうと踏んだのだ。 綾姫はこの日のために山奥の湯治場で働く人々を巨勢王配下と入れ替えていた。親子の滞在期間は客も含めてすべてが息がかかった者達。志体持ちを増やすために開拓者も事前に配置される。 巨勢王と綾姫は早朝に飛空船へと乗り込み、わざと遠回りをして夕方頃、温泉場へと到着した。 「ふう‥‥。生き返るのじゃ」 「温泉での酒は格別だな」 巨勢親子は露天の岩風呂でゆっくりとくつろいだ。夜空には月が輝く。 その頃、山肌を駆ける三つの影。 御怨は角を特徴とした四つ足アヤカシ『突猛嵐』の背に跨っていた。右側には牙が特徴の『砕猛嵐』、左側には爪が特徴の『裂猛嵐』を従えて。 「私を虚仮にした代償、命で払ってもらいましょうか‥‥」 武天国と泰国の友好に亀裂を入れられなかった御怨は巨勢王の命を狙うのだった。 |
■参加者一覧
紙木城 遥平（ia0562）19歳・男・巫 
西中島 導仁（ia9595）25歳・男・サ 
宿奈 芳純（ia9695）25歳・男・陰 
フェンリエッタ（ib0018）18歳・女・シ 
将門（ib1770）25歳・男・サ 
蒼井 御子（ib4444）11歳・女・吟 
ライ・ネック（ib5781）27歳・女・シ |
| ■リプレイ本文 ●温泉 仰げば湯気に煙る夜月。 露天の岩風呂をいくつもの篝火が照らす。 多くの湯治客に混じり、武天国王の巨勢宗禅と娘の綾姫は温泉に浸かっていた。身体が温まったところで上がって身体を洗う。 「大変だろう。そこそこでよいぞ」 「いや、ここは全部わらわに任せられよ。父様、いくぞよ」 綾姫が巨勢王の広い背中を懸命に手ぬぐいでこする。それこそ額に汗を浮かべながら。 巨勢親子はお忍びを気取っていたが、実はこの山奥の湯治場にいるのは全員此隅城関係者である。 アヤカシへの警戒と討伐の機会を図ってかなり以前から入れ替わっていた。少数精鋭の協力者として志体持ちの開拓者も含まれる。 （「あ、綾姫が滑っ！ よかった‥‥王様が支えてくれて」） 湯に浸かるフェンリエッタ（ib0018）は微笑ましい巨勢親子の様子を眺めて時には驚き、また頬を綻ばせる。 戦いが始まっても行動に支障がないよう水着の上に湯浴みを身につけていた。 巨勢王と綾姫は自らを囮としてアヤカシの御怨が来襲するのを望んでいる。しかしそうならない可能性もわずかながら残る。 （「命を狙うアヤカシを何とかしないと、今後ゆっくりできないし‥‥」） フェンリエッタは巨勢親子の今後を考えて奮闘を心に誓う。 「次はボクの番だね。綾姫様の背中を洗ってあげるね〜♪」 「おお、頼むのじゃ。父様の背中は海よりも広くてのう。わらわはもうクタクタなのじゃ〜」 蒼井 御子（ib4444）はお供役として綾姫に付きっきりである。世話役は別にいるので通常時は遊び相手だ。湯浴み姿で温泉も一緒に頂いていた。 「お、喝破か。ちょうどよいところへ来たな。一人で呑むのに飽きてきたところだ」 「後で一局と参りましょうか。その前の景気づけに頂きましょう」 巨勢王は岩風呂にやって来たばかりの長曽禰喝破を見つけて手招きをする。男二人で湯に浸かりながら酒を酌み交わす。 湯治場の外縁でも警戒は行われていた。 （「月が不気味に感じられます。今夜が怪しいですね」） 紙木城 遥平（ia0562）は変装した巨勢王配下と共に湯治場周辺の警備を担っていた。 交代で巡回を続けており、警戒を怠らない。 表向きには自警団として盗賊に対抗するのを役目としていたが真の敵はアヤカシ。対アヤカシ用の訓練を積んできた者達ばかりだ。 一般的にアヤカシに対するには志体持ちの身体能力がなければ難しいといわれている。それは正しいのだが命をかけて一矢報いるのであればやりようもある。 湯治場の敷地内にはいくつか見張り台も建てられていた。 「御怨が来るとすれば山の頂方面からか。もしくは麓からだろうか‥‥」 将門（ib1770）は半分を暗闇に覆われた山の斜面を眺めながら考える。 遠方が望める見張台ではあったが、針葉樹の林によって近場の岩風呂は覗けない位置関係になっている。もっとも志体持ちの将門がその気になれば施設の屋根を跳び越えて一分以内に岩風呂までたどり着けるだろう。普通の者なら地上を走って十分前後といったところだ。 御怨の襲来があるとすれば、島での火薬爆破のような卑怯な策を用いたものか、それとも少い数での一点突破かどちらかだろう。目的は巨勢王と綾姫の双方、またはどちらかの殺害が考えられる。 通常なら百人を越える鍛えた集団相手に数体での一点突破はあり得ないが、強力なアヤカシならやりようによっては成立する作戦といえる。 岩風呂を管理する人員の中にも開拓者の姿はあった。 「こちらへどうぞ。手ぬぐいを含めて必要は品はすべてこちらで用意しています」 西中島 導仁（ia9595）は温泉の管理主任に扮装していた。 脱衣場の監視から始まって岩風呂で使う道具類の管理を仕切る。とはいえあくまで温泉宿の真似事なので巨勢親子の身の安全が第一である。 アヤカシの襲来を確認したのなら囮としての巨勢親子の役目は終わる。巨勢王は戦いたがるかも知れないが西中島は抑えてもらうつもりでいた。 （「すべて見知った者ばかりですね。化けているかも知れませんので注意は必要ですが‥‥」） ライ・ネック（ib5781）は女性用脱衣場の管理人を任されていた。 混浴の岩風呂だが着替えに関しては男女別々。また男性用もそうだが、脱衣場は各人の武器装備の隠し場所にもなっていた。 （「問題は生じていません」） 予め決めておいた合図でライは西中島とやり取りする。機会を見計らって作業するふりをしながら岩風呂内の巡回も行う。 岩風呂は露天になっていたが、針葉樹の林と柵によって囲まれた閉鎖空間である。その柵は宿奈 芳純（ia9695）の願いによって数日前に一部が白く塗られていた。 薪割りの響きが温泉に浸かる綾姫の耳にまで届く。その音を立てていたのが宿奈芳純だ。 （「何やら不穏な空気を感じます。瘴気が濃くなっているような、そんな感じが‥‥‥‥」） 炊事場で使う分の薪割りを終えた宿奈芳純は、遠くの暗闇を眺めながら耳をそばだてるのだった。 ●陽動のアヤカシ 何の前触れもなく事態は急変した。 湯治場外縁の地面から突如腐乱した動物の死体に宿ったアヤカシが現れたのである。崩れかかった熊や猪、狐のアヤカシが湯治場の人々を襲った。 別所でそれぞれに警備を行っていた紙木城と将門は巨勢王配下の者達を指揮して直ちに対応する。湯治場のすべての者はサムライの修練を積んだものばかり。簡単に倒される者は一人もいなかった。 「これぐらいではどうということ‥‥‥‥いや、あまりにも手応えが無さ過ぎるな。これは！」 外縁西側の将門が呟いた。たった一振りの刀傷で倒した瘴気を吹き出す猪のアヤカシを見下ろしながら。 「この弱さの単体アヤカシなら、普通の人でも集団で戦えば勝てそうなぐらいですね‥‥」 外縁東側の紙木城も将門と同様に敵が弱すぎるとの印象を持つ。 二呼吸の後、暴風のような轟音が天から響き渡る。離れた場所にあった将門と紙木城だが二人とも同時に夜空を見上げた。 月を横切る三つの影。三体の四つ足アヤカシの姿だ。後に足跡によって判明するが、この時二十メートル前後の大跳躍で四つ足アヤカシは移動していた。 三つの影が目指していた方角には巨勢王と綾姫がいる湯治場の岩風呂が存在していた。 知るや否や将門は柵をよじ登って家屋の屋根の上を跳ぶように駆ける。別所の紙木城も全速をもって土塊を後方に弾きながら岩風呂を目指す。 （「黒い影の一つに誰か跨っていたような‥‥。おそらく御怨か」） 将門の勘は当たっていた。被さるようにしていたのでわかりにくかったが突猛嵐の背中に乗っていたのは御怨である。 （「気づいているはずですが念のために‥‥」） 紙木城は風のように駆けながら緊急の報せとして口に銜えた呼子笛を何度も鳴らす。 将門と紙木城が三体の四つ足アヤカシを視認してからここまでほんのわずかな時間しか経っていない。 動物の死体に宿ったアヤカシはこの時点ですべて退治されたわけではないが、変装している湯治場のサムライ達に任せれば問題はなかった。 何名かの志体持ちのサムライも将門や紙木城と同じように巨勢王や綾姫を守るべく岩風呂を目指していた。 ●五分間の攻防 岩風呂に突然、何かが飛び込んでくる。それによって爆発したように水飛沫が舞い上がった。 「巨勢王、ここは任せて欲しい！」 名刀菊一文字を手にした西中島が岩風呂から上がったばかりの巨勢王へと近づいて盾となる。そして滝のように降り注ぐ飛沫の中から飛び出すように襲ってきた角先を刀で弾いた。 「こちらが安全です。隠れてください」 すでに岩風呂内へと到着していた宿奈芳純は白い柵の側に『結界呪符「白」』によって見分けにくい白い壁を出現させた。 蒼井御子は宿奈芳純の招きに従って綾姫を白い壁の裏側へと隠す。 「綾姫様はここで待っていてね。すぐに片づけてくるから」 「うむ。父様と喝破殿もよろしく頼んだぞ」 自分が戦力にならないのを承知していた綾姫は素直である。仲間の指示がない限り白い壁の裏に留まり続けてくれるであろう。 「視界を邪魔する飛沫はこれで！」 湯からあがったフェンリエッタは隠し持っていたシークレットナイフで瞬風波を放つ。風が一直線な空中の道を拓いて飛沫を弾き飛ばす。 殆どの篝火は温泉の飛沫で消えてしまったが一つだけ炎が残る。 篝火に照られていたのは巨大な馬ほどの四つ足アヤカシ『突猛嵐』、『砕猛嵐』、『裂猛嵐』の三体。人型の御怨の姿もあった。 湯面が低くなった岩風呂の中を牙、爪、角が駆ける。喝破を襲う裂猛嵐の鋭い爪を水蜘蛛で湯の上を駆けつけたライが忍刀で受け止めた。 「巨勢王の元に！」 「すまん！」 ライのおかげで喝破は命拾いする。そして身を守るために脱衣場へと隠してあった愛刀を手にした。 岩風呂は巨体のアヤカシが高みから飛び込んだせいで湯が通常の三分の一に減っていた。互いに場を移す機会はなくここが戦場となる。 一般の湯治客を装っていたサムライも、隠してあった刀や槍を手にして巨勢王、綾姫、喝破を守る。 「みんな、がんばってね！」 蒼井御子は手に付けていたブレスレット・ベルを鳴らして共鳴の力場を形成させた。震える空気が敵の勢いを削いでゆく。 「構わぬ！ 私が許す！ そこにいる愚鈍な王を殺せ！ はらわたを喰らえ、喰らいつくせ！！」 湯の中に立つ御怨が狂気に瞳を輝かせながら巨勢王を指さす。 突猛嵐、砕猛嵐、裂猛嵐が巨勢王を倒すべく一斉に攻撃を仕掛けてくる。 角を奮って迫る突猛嵐に西中島は真空刃で応戦するがそれでも勢いは止まらなかった。傷つきながらも迫る突猛嵐の角を西中島は刀の峰で受けながら力で対抗する。 結果は相打ち。互いに弾け跳んだ形となったが西中島はすぐに起きてもう一度真空刃を叩き込んだ。 砕猛嵐と対したのはフェンリエッタである。 激突した砕猛嵐の牙とフェンリエッタの黄金刀『アキケナス』が火花を散らせる。 隠してあったアキケナスを綾姫が投げて渡してくれたおかげでフェンリエッタは全力で戦えた。 ライは裂猛嵐の連続爪攻撃を避けながらも御怨を視界の隅に置く。御怨が奇策を用いて巨勢王か綾姫を襲う危険があったからだ。 御怨がにやりと笑った瞬間、何かをしでかそうとした素振りをみせる。しかし宿奈芳純が放った式『黄泉より這い出る者』が邪魔をした。 「どれだけ手間取っているのか！ 王さえ殺ってしまえばまだまだわたしにも機会があるというのに！！」 黄泉より這い出る者の攻撃に耐えた御怨が大声で四つ足アヤカシ達を叱咤する。 その時、柵を跳び越えて将門が現れた。殆ど同時に紙木城が脱衣場の屋根から浴場の岩の上へと着地する。 「御怨と申す者よ。自ら出向いて戦おうとする心意気はアヤカシにしては天晴れじゃ。しかしこの状況‥‥この岩の湯船に着いた直後にわしを殺められなければ失敗じゃろうて」 巨勢王が手にしていたのは喝破が打った武天刀である。泰国に贈られた兄弟刀の裏打ちの方だ。 「人ごときが偉そうに語るなど‥‥」 御怨は浮かべていた嘲笑を表情から消し去る。そして冷淡な瞳を輝かせた。 御怨の側まで下がった三体の四つ足アヤカシが身体を寄せ合う。すると一体に変化した。 「殺れ」 御怨が指さした巨勢王目がけて猛嵐三体の塊が一直線に駆け抜ける。それでも開拓者達に抜かりはなかった。 蒼井御子が黒猫白猫で周囲の仲間全員の命中と回避を高める。 フェンリエッタの瞬風波、西中島の真空刃、ライの手裏剣、紙木城の白霊弾の順で猛嵐三体の塊の勢いを削ぐ。 その間に宿奈芳純は御怨が余計な行動を起こさないよう再び式『黄泉より這い出る者』を打つ。 「生憎だったな。死に場所を見誤ると見苦しいだけだぜ？」 将門が放つ分身する刀の切っ先が猛嵐三体の塊の前脚部を斬りとった。身体から離れた部位が宙を舞いながら黒い霧のような瘴気に還元してゆく。 脚を無くした猛嵐三体の塊が床に転がった。こうなってしまえば開拓者達にとって倒すのは容易である。 「巨勢王よ！ この恨み絶対に忘れぬ！！」 御怨は猛嵐三体の塊を見捨てていち早く姿を消した。 巨勢王は追いかけようとしたライを止める。この場での戦いは終了したのだといって。 まもなく猛嵐三体の塊も含めて残るすべてのアヤカシが湯治場から一掃された。 ●そして 翌日。警戒は続けられたが、全員でゆっくりと温泉に入り直す。 「そうきたか！」 「これで約束の酒、頂きますぞ」 巨勢王と喝破は湯に浸かりながら酒と将棋三昧だ。 「今日こそはゆっくりあったまりましょ♪」 「昨日は邪魔が入ったからのう〜。ふぅ〜生き返るの〜♪」 フェンリエッタと綾姫は岩風呂の中で頭に手ぬぐいをのせてご機嫌である。 「無事でよかったよね♪」 蒼井御子はフェンリエッタ、綾姫と合流して三人で鼻歌を歌い始めた。 「倒しきれませんでしたが、御怨にもう手下はいないはずですね」 「あの言葉‥‥巨勢王の命を諦めたようには思えないな」 紙木城と西中島は背中を流し合いながら戦いを思い出す。 「耐えたといっても黄泉より這い出る者はかなり効いていたはずです」 「御怨は倒せない相手ではないということか」 宿奈芳純と将門は御怨の強さについて語り合う。 「綾姫様、葡萄と葡萄ジュースがありますがどちらがよろしいですか？」 「おお、両方頂こうぞ！」 気を利かせてくれたライのおかげで葡萄と絞り立ての葡萄ジュースが岩風呂に差し入れられた。酒が呑めない者は秋の味覚を堪能しながら温泉に浸かる。 数日後、疲れをとった開拓者達は巨勢親子と共に帰路へ就くのであった。 |
