【結晶】サンタ 〜春華王〜
マスター名：天田洋介
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| ■オープニング本文 前回のリプレイを見る ●聖夜の三連星 ジルベリア由来のこの祭りは冬至の季節に行われ、元々は神教会が主体の精霊へ祈りを奉げる祭りだった。 とはいえ、そんなお祭りも今では様変わりし、天儀本島や各国でも趣向を凝らしたジルべリア風のクリスマスが催されている。 そんな折。 「今年もこの季節がやってきた…」 神楽の港で。吹き上がる風に揺られるこの時期にしては寒すぎる格好の赤い帽子をかぶった若い青年。サンタ帽子がなければ、サンタクロースだとは気付かない。周囲の痛い視線もなんのその、それに従うようなそぶりで、マッチョなトナカイらしき男が2人、同じように風に吹かれている。 奇異の目で見られたことは言うまでもない。 ● 深夜の寝静まった泰大学の芸術寮。常春も布団の中で寝ていた。 「えっ‥‥どうしたんだろ？」 目を覚ましたのは突然に眩しさを感じたからだ。窓戸の隙間から射し込んでいた光はとても強烈であった。 寝ていた同室の学友は身体を揺らしても目を覚まさない。まるで凍らされたかのように。 音を立てないよう注意深い足取りで窓へと近づく。窓戸に手を掛けようとすると何故か勝手に開いた。 寮の二階部屋だというのに窓外では人影の輪郭が浮かびあがる。 頭に赤白のサンタ帽を被った上半身裸の男が両腕を広げた妙なポーズをとった。彼は宙に浮かぶ不思議なソリに乗っていた。 「‥‥えっと、何のご用ですか？ こんな夜更けに」 常春は寝ぼけていたので頭が働かない。 半裸の男を前にしてここは全力で逃げるべき状況なのだが、そうせずに一般人に対するような態度をとってしまう。 「そなたに協力を頼みたいのだ。この国を統べる者として。とはいっても国を動かせといった大それたものではない。まー、なんだ、少し手伝ってくれたらそれでいい」 半裸の男が話す内容は要領を得なかった。しかし聞いているうちに何となくわかってくる。 ようはクリスマスイブの夜に贈り物を子供達へ届けてもらいたいらしい。人手が足りないようだ。贈り物は半裸の男が用意するし、空飛ぶソリも貸してくれるという。まさにサンタクロースの伝説そのものである。 「トナカイでなくてもソリを牽くことはできる。例えばもふらでも大丈夫だ。自分自身でも構わないが、それらへんは臨機応変だな」 「クリスマスイブの夜は大学の講堂でパーティがあるんです」 「それが終わってからでも充分だ。なあ、頼むよ」 「そうですね‥‥。子供達が笑ってくれるのなら」 最後は土下座をしそうな勢いで頼まれた。ぼんやりしていたせいもあって常春は『はい』と答える。 サンタクロースを自称する半裸の男はソリで遠くの夜空へと去っていく。ちなみにソリを牽いていたのはトナカイの角のかぶり物をしたやはり半裸の男二人だった。 戸板を閉めようとした瞬間に目を覚ます。常春がいたのは布団の中である。 さっきまで見ていたのは夢だと思いながら身体を震わす。寝返ると窓戸が開いて寒風が部屋に吹き込んでいた。 |
■参加者一覧
柚乃（ia0638）17歳・女・巫 
玲璃（ia1114）17歳・男・吟 
伊崎 紫音（ia1138）13歳・男・サ 
パラーリア・ゲラー（ia9712）18歳・女・弓 
ルンルン・パムポップン（ib0234）17歳・女・シ 
雁久良 霧依（ib9706）23歳・女・魔 
七塚 はふり（ic0500）12歳・女・泰 
ノエミ・フィオレラ（ic1463）14歳・女・騎 |
| ■リプレイ本文 ●講堂へ 本日はクリスマスイブ。夕方に近づくにつれてパーティが開かれる講堂へと向かう学生の数は増えていく。 常春と学友達も芸術寮をでて講堂を目指す。 「常春様ー」 「春、よく来たね」 遠くから常春に駆け寄る人物の名は秀英。普段は天帝宮で春華王の影武者をしており、常春からは『春』と呼ばれていた。 彼を手紙で招いた女性は体調が悪くて寮で療養中。彼は女性を見舞うといって今度は寮を目指して走り去っていく。 講堂に着くまでの間、常春が昨晩見た夢が話題になる。 「すべてが変だったよ」 「サンタ帽を被った半裸の男性と、半裸のトナカイ男ですか‥‥怪しすぎます」 とても寒いはずなのに柚乃（ia0638）は頬から一粒の汗を垂らす。 ちなみに柚乃の後ろを歩く、ものすごいもふら・八曜丸はパーティでご馳走が食べられると涎を垂らしそうになっていた。『ひょっこり』で出現中の玉狐天・伊邪那は背中の上で呆れ気味だ。 「大変でしたね。ボクが寝ている横でそんな夢を見てたなんて」 「不思議な話なのにゃ♪」 常春の話しを聞いていた伊崎 紫音（ia1138）とパラーリア・ゲラー（ia9712）がくすりと笑う。 「そのせいですっかり目が覚めてしまったよ」 常春は苦笑いをしつつ冗談めかす。 「もしかしてこんな方々ではありませんでしたか？」 玲璃（ia1114）が懐から取りだした人形に常春が眼を見開いた。 「そう、これ。こんな感じの人達だよ」 玲璃が常春に見せたのは『人形「トライアングル・サンタ」』。 「あまり信じたくはありませんが精霊の一種かと」 「そうなんだ‥‥」 この時点は常春を含めて全員が半信半疑であった。 「もしそうだったとしたら、サンタニンジャになって子供達にプレゼントを届けちゃいます！」 ルンルン・パムポップン（ib0234）は常春の前を歩きながら躍るように小気味よく回ってみせる。 （「上半身裸の殿方が夢の中に‥‥？ 常春様‥‥夢に見るほど、半裸の男性がお好きなのですか‥‥？ そんな‥‥」） 黙って聞いていたノエミ・フィオレラ（ic1463）は鼻息を荒くしていた。 「それならそうと早く言って下さればいいのに！」 突然に迫るノエミに常春が後ずさる。 「私、そっちの方は詳しいんです！ 殿方同士の睦み合いの作法など、資料は沢山持ってます！ ぜひ参考に！ ていうかお会いになる際はぜひ、お傍で眺めさせてください！ あ痛っ！」 雁久良 霧依（ib9706）が暴走するノエミのお尻をぺしっと叩く。 「ノエミちゃん、そんな訳ないでしょ♪」 「‥‥そ、そうですよねっ失礼しましたっ」 はっと我に返るノエミである。 「さっきの人形といい、精霊の類である可能性はあるわね。それにしても素敵な夢ね♪ 私もその半裸マンみたいに常春君に夜這いかけちゃおうかしら♪」 「霧依さんも冗談きついなー」 常春の前で微笑む雁久良は小声で本気かもと呟くのであった。 ●クリスマスパーティ 学友達と一緒に向かった玲璃だが、実は三時間ほど前に講堂付近を訪ねていた。パーティで振る舞われる料理準備のためである。 講堂に一番近い寮の食堂で他の学科の学生達に混じって調理の腕を振るう。 「せっかく機会ですし、みなさんには私が作った泰風クリスマス鍋を味わってもらいましょう」 きらりと輝く泰包丁で豚肉を薄切りにし、朝びきの丸鶏を切っていく。頃合いに水を張った泰鍋で湯を渡す。鶏ガラを煮て出汁をとろうとする。 他の食材の下拵えも忘れない。空心菜、青梗菜、きのこ類などなど。 ここで調理は一旦終了。時は現在に至る。 玲璃は一旦学友達と別れて調理の続きを行う。 鶏ガラの出汁を温め直しつつ、泰国で葫とも呼ばれる大蒜を泰包丁で薄切りに。隠し味として紹興酒も入れる。濃くなりすぎないよう水も加えつつ煮立たせた。 頃合いに切った食材を投入し、鍋の七割方が完成。後は熱が通るの待つだけ。鍋と七輪を台車に載せて講堂へと向かう。 会場は学生達によって音楽に包まれている。学友達は全員で一つの卓を囲んでいた。 「最後に仕上げです。塩少々、ごま油も‥‥これで完成です」 「美味しそうだね。さっそく食べてもいい？」 玲璃が作った鍋を常春が最初に味わう。 「みんなも食べてみなよ。濃厚な鶏ガラの味だね」 卓には様々な料理が並んでいたが、最初に平らげられたのは玲璃の泰風クリスマス鍋である。 「こちらも少し前に作っておいたものです」 玲璃が用意していたもう一品はクリスマスプディングだ。 「メリークリスマスなのにゃ♪」 パラーリアが改めて呟いた祝いの言葉が様々なところで連呼される。 笑顔の常春をじっと見つめながらパラーリアは心の中で呟いた。「春くんと一緒に楽しめるなんて幸せなのにゃ」と。 「これがないと始まらないわよね♪」 雁久良がどこからかスパークリングワインを調達してきた。さっそくコルク栓を抜くと勢いよく飛んでいく。 『もふっ？！』 肉籠包を頬張ろうとした八曜丸の鼻先をコルクが掠める。 「もう、八曜丸ったらお行儀が悪いわよ」 床に大の字になって転がる八曜丸をドレス姿の柚乃が起こした。 状況を目の当たりにしていた伊邪那が事情を話す。柚乃はくすりと笑いつつ、八曜丸にケーキをとってあげる。 スパークリングワインはグラスへと注がれた。真っ白なドレスに身を包んだノエミがグラスに唇をつける。 料理だけでなく酒も美味しい。だがどうしてもノエミは常春を視線で追ってしまう。 （「ああ‥‥やはり素敵です‥‥食べちゃいたい‥‥」） 妄想を脳内で巡らせていたノエミだが、常春が振り向いたところで我に返る。数歩、歩み寄ってお喋りを楽しんだ。 「そういえば先日、兄の話をしましたね。兄は国許で父を補佐しています」 「ノエミさんの父様もさぞ心強いだろうね。最近は会ったの？」 「私は長くジェレゾの学院で勉学に励んでいたので兄とはしばらく会っていないですね‥‥。寂しくは無いですよ、偶に手紙が来ますし」 「手紙は嬉しいね」 話している途中で新たな料理が運ばれてくる。そのうちの一品にノエミは見覚えがあった。 「あ‥‥このケーキ、大学祭の屋台で食べました。とても甘いんですよ♪ 召し上がってみてください‥‥」 皿を手に取ったノエミはケーキを刺したフォークを常春の口元に近づける。 「美味しいですか？」 「‥‥うん。すごく美味しい。ちょうどいい甘味だよ」 常春の口の端にクリームがついたのでノエミはフキンでぬぐい取ってあげた。 この頃、ルンルンは卓から離れて講堂内の個室にいた。 （「いつ渡そうかな？ 今だとちょっとお邪魔みたいだし、やっぱりパーティが終わったあたりがいいかも」） 袋から取りだしたのは編み終わってまもないハートマーク付きのマフラーである。編み目が微妙にバラバラで崩れていたが心は込められていた。 「やっぱり、賑やかな方が楽しいですよね」 「こうやって観ると自画自賛だけどなかなかだね」 食事が一段落してから伊崎紫音と常春は会場内を歩き回ってみる。自分達が描いた絵を話題にしている学生達がいて気恥ずかしくなりながらも嬉しかった。 「あれ？」 伊崎紫音は硝子窓の向こう側から誰かが覗いているような気がする。確かめてみるが誰もいない。 「紫音さん、どうかしたの？」 「サンタ帽を被った人が窓外にいたような‥‥きっと気のせいですね」 伊崎紫音と常春は学友達が待つ卓へと戻っていった。 ●奇襲 賑やかなパーティは終わる。常春と学友達は芸術寮への道を辿った。 「ぬこにゃん、どうしたのにゃ？」 朋友達がそわそわし出した直後に雪降る景色が一瞬白んだ。誰もが眩しくてその場に立ち尽くす。 徐々に視力が回復してきた常春は気づく。手にしていた提灯が何者かを照らしていたことに。 「まさか‥‥」 昨晩に夢の世界で対面した半裸の男達がそこにいた。 「常春さん、下がってください」 伊崎紫音は目を瞬かせながら落ちていた竹箒を拾う。そして常春と半裸の男達の間に立って壁となった。 「このひと？たちはだれなのなのにゃ？」 パラーリアは目をこすりながら常春を後ろへと引っ張る。 「貴方達、何者？ 常春君が夢で見た人物とそっくりみたいだけど」 雁久良が果敢に半裸の男達へと迫った。 「人々は私たちのことをサンタクロースと呼んでいるようだ。春‥‥ではなく、常春に贈り物の配布を頼みたい。その約束は交わしてあるのだが」 サンタ帽の半裸男は筋肉をアピールしながら事情を説明した。雁久良は思わず手を伸ばす。 「いい体してるわねぇ♪ 配布は私たちが一緒でもかまわないのね？」 雁久良の問いに半裸の男達は大きく頷いた。 ノエミはあまりの非現実感に目が点になっている。 （「きっと精霊様ですよね‥‥」） 熟考した上でようやく納得がいく。 ルンルンは両の瞳にお星様を輝かせる。 「常春さん、一緒に配って回りましょう！ 私達の共同作業です。可愛いサンタさんになぁれ☆」 そういって『ルンルン忍法「花の鍵」』を使い、サンタクロースに変化した。 「いいことしてるみたいだし、みんなで幸せになれればきっとすてきなのにゃ♪」 パラーリアも大賛成である。神仙猫・ぬこにゃんもそうらしく、髭と尻尾をピンと立たせた。 「そうだね。手伝おう。いや是非にやらせてもらおうか」 常春は半裸の男達に歩み寄り、改めて協力を承諾する。 「あの、常春様。あともう一歩、もう一歩寄ってもらえませんか？ ぴたっと！」 「えっ？」 普段の調子に戻ったノエミは常春に無理な注文をして、また雁久良にお尻をペシッと叩かれた。 「少しだけお待ちを」 玲璃は急いで芸術寮へ。数分後には衣装を抱えて戻ってくる。 「こちらでよろしければ使ってください」 寒くないよう玲璃はトナカイ帽子やトナカイ服を提供する。常春は感謝して貸してもらう。 半裸の男達に導かれて泰大学敷地内の林に入ると、そこには大きめのソリが何台も。 「贈り物がたくさん載せられていますね」 「これは配布しがいがあるわ」 伊崎紫音と雁久良がソリの荷台を覗き込む。 「減った贈り物は勝手に増えるが気にしないでくれ」 サンタ帽の半裸男はソリの使い方を一通り教えた。牽引するのはトナカイでなくても構わない。朋友で充分。その気になれば人力でも大丈夫だという。 「そういうことなら。八曜丸はトナカイ役をやってらもらえる？ 後で美味しいもの、奢るから」 柚乃は『ぐっ』と掌を握りしめた。 『おいら頑張るもふ！ ご褒美のご馳走楽しみもふっ』 『あたしは只の襟巻き〜、んでサボりもふらの監視ね♪』 もふら・八曜丸と玉狐天・伊邪那も俄然やる気になっている。 「ここは『謎のご隠居さま、サンタさんになる』でいきますね。いや、いくのじゃ。ほっほほほっ」 柚乃は『ラ・オブリ・アビス』で真っ白な神仙猫に変化する。 特定の朋友がいない常春はその時々で学友達のソリに同乗させてもらうことにした。 しばらくして雪舞う夜空にソリが次々と舞い上がる。目撃者も当然いたはずだが、明日には忘れるか飛空船だったと思い込むことだろう。 イブの夜はまだ始まったばかりであった。 ●翁の白猫 「はいよ、八曜丸っ！」 『もふっ！』 翁の白猫に扮した柚乃が手綱を軽くしならせる。もふら・八曜丸が走りだすとソリは自然に空へと舞い上がった。 『すごいわ。ほんとに飛んでるし』 翁の白猫の襟巻きとして肩に乗る玉狐天・伊邪那が眼下を眺める。ソリは雪降る朱春の夜空を駆けるよう飛んでいた。 翁の白猫、八曜丸、伊邪那、誰もがそれらしく赤白のサンタの格好をしている。 家々を回り、窓戸を開けて侵入。閂がかかっているときには伊邪那も手伝ってくれた。 大抵は静かに贈り物を置いて帰れるのだが、たまには目を覚ます子供も。 「誰？」 「起きてしまったか。わしは白い神仙猫の翁じゃが、今はさんたくろ〜すじゃ」 子供は寝ぼけていたのか、すぐに横になって寝入ってしまう。昨晩の常春と一緒である。 翁の白猫は贈り物を枕元に置いて急いで立ち去った。 『次はあの家よっ。横付けして』 『もふら使いが荒いもふっ』 『そんなこといっていると美味しいお料理あげないんだから』 『それは嫌もふっ。がんばるもふ〜！』 さすがは伊邪那。八曜丸の扱い方を心得ていた。 ●龍が牽くソリで 「贈り物がたくさんあるなら、できるだけ多く回りたいですね」 「男の子と女の子用の贈り物がちゃんと用意されているなんて。あんな格好をしているのに、もしかして真面目なのかも」 伊崎紫音がソリに轟龍・紫を繋げていると常春が手伝ってくれた。 贈り物の配布前に担当の区域が決められる。そしてイブの夜空へ。伊崎紫音も紫が牽くソリで夜空を駆けた。 「思っていたよりもわくわくしますね。紫も何だか張り切っているし」 紫の後ろ姿を眺めながら飛ぶのはとても新鮮に感じられる。背中に乗って飛ぶのとは全然違った。 「パーティーのチキンを、少し貰ってきたので、帰ったらあげますね」 伊崎紫音に答えるように紫が大きく吠える。とても嬉しいらしい。 （「男の子には木製おもちゃ。女の子には服がいいですかね」） そっと家に忍び込み、担いできた白袋の中から贈り物を選んで枕元に置く。 子供がいない家庭に迷い込んでしまうことも。それでも妊婦がいれば話は変わる。 「メリークリスマス。産まれてくるお子さんにプレゼントです」 将来の母親の枕元に赤ん坊が着られそうな服を置いていく。 訪問した家が百軒を越えたので充分と判断し、泰大学へと帰還。芸術寮に隣接する厩舎で紫を休ませる。 「骨に気をつけてくださいね」 伊崎紫音は焼いた鶏肉を美味しそうに食べる紫をしばし眺めて癒やされる。その後、学友達と一緒に半裸の男達とさよならを交わして寮の部屋へと戻った。 「流石に夜通しでしたから。少し、寝ますね」 「そうだね。さすがに眠いね」 伊崎紫音と常春はそれぞれの布団で横になりながら今日の出来事を話題にした。 先に常春が寝入る。やがて伊崎紫音も寝息を立てて夢の中へと落ちていった。 ●暖かくてぽっかぽか 「春くん、ぬこにゃんよろしくね〜」 「任せて」 パラーリアと常春は駿龍を繋げたソリに乗り込んで朱春の夜空へ。 「ぬこにゃんが膝の上に乗っているおかげかな。寒くないや」 「ぽかぽかのもふもふなのにゃ♪」 着ていたサンタクロース服のおかげか、ぬこにゃんのおかげなのか、雪降る夜空を飛んでいるのに大して寒くはなかった。 ソリに残る役割の常春が縄を放って垂らす。パラーリアが縄を伝って屋根に下り、家屋へと忍び込んだ。庭が広くて簡単に入れそうな家屋は常春も同行する。 「お兄ちゃんは春くんに似ているのにゃ♪」 「妹さんはパラーリアさんに似ているね」 小声で話すパラーリアと常春。すやすやと寝ている兄妹の枕元に贈り物を置いて立ち去った。 「ぬこにゃん、お願いだよ〜」 「頼むね。よし、これで贈り物は落ちないから」 厳重な戸締まりだが通風窓がある家は、ぬこにゃんの出番。わずかな隙間から家の中へと入り込んで贈り物を置いてきてくれる。 「春くん、これクリスマスプレゼントなのにゃ」 「開けてもいい？ ちょうど新しいのが欲しいなって思ってたんだよ。ありがとう、描きやすそうだなあ」 中身は絵画用の筆である。常春は翌日、ミトンの手袋をパラーリアに贈った。 「もう一つなのにゃ‥‥」 ソリに並んで座っていたとき、パラーリアが常春にキスをする。頬なのか、唇だったのか、それは二人だけの秘密であった。 ●サンタニンジャ 「蓬莱鷹ちゃん、お願いしますね！」 ルンルンが手綱を握るソリが動きだす。 「大丈夫かな？」 常春の心配は杞憂で終わる。半裸の男達がいっていたように翼を広げた輝鷹・忍鳥『蓬莱鷹』は余裕でソリを牽いてくれた。 「凄く綺麗です‥‥。夜空の雪、街の灯り‥‥」 「クリスマスのおかげかな。普段よりも灯火が多いね」 しばし夜空を滑るソリを堪能する。もちろん贈り物の配布も忘れてはいない。 その前にルンルンは常春に贈り物をした。 「一緒に過ごせて幸せです‥‥あの、これ私からのクリスマスプレゼント、寒くなってきたから風邪とか引かないようにって」 「ありがとうルンルンさん。暖かいな」 さっそく常春はルンルンが贈ってくれたマフラーを首に巻く。 担当区域上空を旋回し、子供がいそうな家の見当をつける。そして貧しそうな家庭を優先して配っていった。 「さすがだなあ」 ルンルンが忍び込む間、常春はソリで待っていた。大抵の場合、ぱっと消えて再び現れるまで一分以内の早業である。 「サンタニンジャはすごいね」 「えへへっ‥‥♪」 常春に誉められてルンルンは照れ笑いをする。 （「だって少しでも常春さんと一緒にいたいから‥‥」） 少し寒いと呟いて隣の常春との距離を縮める。すると常春は巻いていたマフラーの半分を解いてルンルンの首にかけた。 「まだ寒い？」 「うううん。これで寒くないのです」 寒空の下だが二人はとても暖かい。後日、常春はルンルンにマフラーのお礼として腕輪を贈った。 ●クリスマス狂想曲 「さてと、これでよし♪」 雁久良はソリに繋げた滑空艇・カリグラマシーンへと乗り込んだ。 「操縦は任せて。ロンちゃんは主に配布をお願いね♪」 『お任せあれ。防寒対策も私がやりましょう』 雁久良は大胆にもミニスカサンタ服である。提灯南瓜・ロンパーブルームが贈り物を確認したところで出発。夜空を滑るように飛んだ。 「これで描いた絵の通りになったわね♪ あ、常春君が地上で手を振っているわ」 雁久良は常春に手を振り返す。 やがて子供がいそうな家に到達。雁久良がソリを横付けしている間にロンパーブルームが忍び込む。 「あら、大人の悲鳴だけど怖がらせちゃったかしら？」 たまに家の中から大声が聞こえてくることも。だが気にしない。半裸の男達の話によれば明日の朝には忘れているからである。 焦って戻ってきたロンパーブルームを乗せて上昇し、暫しほとぼりが冷めるのを待ってから再開する。 早めに配り終えた雁久良は寮の食堂でスープを作った。 「温かいネギスープよ。暖まるわよ♪」 戻ってきた学友達に振る舞う。 「わあ、助かったよ。霧依さん」 常春はさっそくネギスープを頂いた。 「常春君には他にもプレゼントがあるのよ」 「これはネギ？」 「そう。羊毛で作った長葱型抱き枕よ♪ ふかふかして暖か♪ 愛嬌のある顔も作ってあるのよ♪」 「このネギの顔は‥‥霧依さん？」 「え？ 私を抱っこして寝たい？ まあ正直ね♪」 「わっ？！」 雁久良は抱き枕ごと常春を抱きしめる。 「ただ今、戻って参りました」 「ばっちり配り終えましたよ。ＢＬがよく頑張ってくれました」 玲璃とノエミは殆ど同時に帰還した。半裸の男達も一通り配り終えた様子である。 「私に？」 ノエミが目を血走らせながら常春に袋を手渡す。 「ぜ、是非に着てもらいたく。とても暖かいんですよ♪ お召しになった姿を見たいです！」 「私も、常春君が着てるとこがぜひ見たいわ♪」 ノエミと雁久良に迫られた常春は断れなくなる。それはノエミ渾身の白の猫耳ニット帽、ベスト、猫尻尾付ショートパンツ、肉球手袋・靴下の一式であった。 常春はとても恥ずかしそうにしていたが、雁久良とノエミはとてもとても満足していた。 後日、常春は二人と出かけて彼女達が気に入った服を贈る。 「とても助かった。贈り物に関わった者達はきっと今夜のことを忘れるに違いない。だが君たちは特別。覚えているはずだ」 夜が明けないうちに半裸の男達はソリに乗って去っていく。 一同は楽しくて忙しいクリスマスイブを過ごしたのであった。 |
