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■オープニング本文 ※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 それは突如、朱藩国安州沖に現れる。 最初に発見したのは鰹漁船の漁師達だ。急いで港へ戻って報せたが誰も信じてくれなかった。 数時間後、それが海岸線に近づいてきて、ようやく真実が明らかになる。 海上に浮かんでいた船は全長三百メートルを越えていた。排水量で超大型飛空船『赤光』の八から九倍はありそうである。 「さすがに空は浮かばねぇ普通の船だよな‥‥」 新しい物好きの朱藩国王・興志宗末が海岸に駆けつけた。さっそく龍で飛び、巨大船へと向かう。 甲板に降りると変わった服装の船員達に囲まれる。 「だ、誰なんだ?」 「俺は朱藩の王、興志宗末だ。この船の責任者、船長に合わせろっ!」 言葉は通じた。怯えながらも船員の一人が興志王と臣下達を案内してくれる。 (「海上の船の中にわざわざ泳ぐ場所? 一体、これは何なんだ?」) 興志王は自らの目を疑う。船長室に辿り着くまでの間、見たことがない施設が瞳に飛び込んできた。 「日本の船主へ届けるために航海していたところ嵐に遭いました。空が晴れたら何故かこちらの世界にいたというわけでして、とても困惑しております」 「そりゃ、こっちも困惑中だ。ところでこの船、空に浮かぶのか?」 「ご冗談を。飛行機はありませんので」 「船が空を飛んでも不思議じゃねぇぞ。窓から外を見てみな」 船名は『クルーズ・ドルフィン』。乗客三千名に船員五百名、計三千五百名を乗せることができるという。但し、遭難時乗っていたのは船員のみで二百名前後のようだ。 興志王は船長に今後の安全を保証する。さらに燃料や食料の補充も約束した。その上での対価として施設の利用を望んだ。 交渉は成立してクルーズ・ドルフィンは朱藩国に所属することとなる。 そして三ヶ月後、ついに船旅が開催される運びとなった。高額にもかかわらず乗船希望者が殺到。乗船札の入手は競争率五十倍にまで膨らんだ。 やがて当日。小型飛空船四隻が港とクルーズ・ドルフィンの甲板を往復する。乗客の顔ぶれの中には開拓者の姿もあった。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
ユリア・ソル(ia9996)
21歳・女・泰
ニクス・ソル(ib0444)
21歳・男・騎
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
七塚 はふり(ic0500)
12歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●興志王御一行 安州沖に停泊する豪華客船『クルーズ・ドルフィン』はただ今乗船手続きの真っ只中である。 豪華客船は大きすぎるために寄港が難しかった。そこで渡しの手段として飛空船六隻が使われる。ちなみにこれらの飛空船は豪華客船とつかず離れず随行して護衛の任務に就く。 甲板は広く中型飛空船が同時に二隻着船可能。早朝から引っ切りなしに往復して乗客達を送り込んでいた。 昼の十二時を前にして最終の飛空船が甲板から飛び立つ。まもなく出港の合図である汽笛が鳴り響く。 「何度乗ってみても不思議な船だぜ。動きだしたはずなのにちっとも揺れやしねぇ」 朱藩の王、興志宗末は操船室から高見の見物と洒落込んだ。 大きな硝子窓の外に広がる景色は想像力豊かな絵師達が描く未来都市を思わせる。実際、この豪華客船一隻で町一つ分といってよいだろう。 興志王の双子の妹、真夏と深紅も船窓の側で甲板上の競技施設を眺めていた。 「この船って木材はほんのちょっとだよね。どうやって海に浮いているのかな? 宝珠は使っていないんだって」 「真夏ちゃんったら昨日からそればかりですわね。確かに気になりますけれど」 興志姉妹にとって豪華客船はすべてが新鮮さに満ちている。新しい物好きの興志王にとっては城よりも大きな宝箱といえた。 豪華客船は一週間かけて理穴奏生の沖へと向かう。奏生沖では下船自由で三日間の停泊が行われる。それが終われば朱藩安州沖への回遊航路だ。 「二週間ちょっとでこの船の施設、大急ぎで全部遊べるかどうかってあたりだな」 後は船長に任せて、興志王はさっそく船内設備を楽しむことにする。 「あ、兄ちゃんっ!」 「抜け駆けはずるいのですわ」 興志姉妹は一人操船室を立ち去ろうとしていた兄を慌てて追いかけるのだった。 ●二人で過ごす優雅な時間 「こちらで御座います」 飛空船で甲板に下りた羅喉丸(ia0347)と大雪加 香織(iz0171)は複数のボーイの案内で客室へと向かう。 他の乗客達と一緒にエレベーターと呼ばれる箱形の移動装置で上階へと移動。船の中だというのに予約した客室に辿り着くまで約二十分を要す。 羅喉丸と香織の案内は最後になった。羅喉丸から乗船札を預かったボーイが共通鍵でドアを開けた。そして専用のカードキーを二人分手渡す。 「それではごゆっくりお過ごしくださいませ。何かあればフロントまで御連絡下さい。そちらに電話が御座います」 ボーイは香織にパンフレットを手渡して去っていく。 二人きりになった瞬間、羅喉丸と香織は互いを見て顔を綻ばせた。 「エレベーターに乗っている間、足元が妙な感じになりましたね」 「頑鉄に乗って急上昇したときに似ていたかな。何にせよ楽々だったが」 二人は一緒に客室内を探検する。 寝室には大きなベットがあり、リビングにはテレビや冷蔵庫が完備されていた。さらに簡易な台所や風呂もある。 「何だか夢のよう‥‥」 「クルーズ・ドルフィンはあの赤光よりも大きいそうだ。中々信じられなかったが、飛空船が甲板に下りたときに確信したよ」 バルコニーにでて見下ろすと海面までがとても遠い。まるで高い崖から海面を覗き込んでいるような気分になる。 手荷物はほんのわずかだったが、それは事前の預け入れが可能だったからだ。衣服などが仕舞われた葛籠は客室の片隅に置かれていた。中を確かめると間違いなく二人の物である。 「はい、羅喉丸さんのパンフレット」 「パンフレットの案内図に客室の位置と番号を書き込んでおこう。迷子になるかも知れないからな」 「まるで地下洞窟に潜っているみたいね♪」 「ま、似たようなものかも知れないな」 二人で大笑いした後で着替えを済ませる。客室に続いて船内の大冒険が始まった。 エレベーターだけでなく、エスカレーターと呼ばれる動く階段で移動してショッピング区画へ。 「まるで小さな街みたいだな。それにこの輝きはすべて宝珠なんだろうか?」 「パンフレットによれば電気と呼ばれるもので動いているみたい」 どこもかしこも煌びやか。水晶の宮殿に迷い込んだ気分でショーウィンドーを眺める。 やがてジュエリーショップに立ち寄った。 「この赤い指輪、とてもきれい。ほら、中にお星様があるみたい」 羅喉丸は香織が気に入ったルビーの指輪を購入して贈る。 「これ、羅喉丸さんに絶対似合うわ」 香織から羅喉丸への贈り物は腕時計だ。文字盤にルビーが填め込まれていて、香織の指輪と対となる。 「羅喉丸さん‥‥あの、ほら?」 「んっ? そうだな。そうしようか」 道行くカップルの殆どが腕を組んで歩いていたので、羅喉丸と香織も倣う。 落ち着いた感じの喫茶店に入って紅茶とケーキを注文する。本屋で手に入れた詳細な船内ガイドを参考にこれから何処に行こうかと相談した。 「このショートケーキ、とても美味しいです。信じられないほどの柔らかさで‥‥」 「どれ‥‥本当だ。きめ細かいこのふわふわ感。これまでに食べたことがない食感だな」 紅茶もとても香り高くて素晴らしい味がする。 船内ガイドによれば映画館は複数存在していて、上映される作品が数日おきに変わるらしい。喫茶店をでた二人はその足で映画館へと向かう。 「あの幕の向こうにスクリーンと呼ばれる大きな布が張ってあって、後方の映写機から投影されるらしい‥‥。さっぱりわからないが、そういうことだ」 「はい、ポップコーンでもどうぞ♪ どんなものなんでしょうね。そういえば呼び込みの紙に描かれていた主人公、羅喉丸さんに似ていますね」 二人でポップコーンを摘まんでいると上映開始を告げるブザーが鳴って館内が暗くなる。黒子がいないのに大きな幕が左右に分かれてスクリーンが露わになった。 そうやって冒険活劇映画は始まった。主人公は拳法使いの男性で、預かった大切な品物を遠方に届けに行く内容である。 「映画とは写真が動くものと聞いていたが、これほどのものとは」 「すごい! あの主人公って志体持ちなんでしょうね」 追っ手の妨害を次々と退けて主人公の旅は続いていく。内容は単純ながらコミカルな動きに二人は魅了された。 「こういったものが個人で撮れたら面白いだろうな」 「写真を写す装置はすでにありますし、きっと遠くない未来にできると思いますよ」 深く考えずに羅喉丸が子供達の成長を撮ってみたいと呟くと、香織が耳を真っ赤に染める。二人はすでに結婚の約束を交わしていた。おそらく数年後には夫婦となるだろう。 夕食は出航以前から予約しておいたレストランで頂いた。 「あのバイオリンの音色、素晴らしいですね」 「すばらしい曲だな」 沈む夕日を眺めながら食事をしつつ、二人でクラッシック音楽に耳を傾ける。 次の日にはプールで泳ぐ。別の日にはテニスにも挑戦した。そうやって二人だけの楽しい時間が過ぎていく。 深夜、二人で甲板を散歩していると夜空に流れ星が現れる。 「‥‥よし。香織さんも祈ったようだが?」 「きっと‥‥羅喉丸さんと同じことです」 羅喉丸に身体を沿わせて肩に頭を乗せる香織であった。 ●いつかの思い出 汽笛が鳴ってまもなく豪華客船は動きだす。 バルコニーに立った七塚 はふり(ic0500)と秀英は、遠ざかっていく安州の沿岸を眺める。 「潮風が心地よいでありますね、秀英殿。紅花殿も大喜びであります」 「この旅を申し込んでよかったよ。こうしてはふりさんと一緒にいられるし」 旅券札の手配をしたのは秀英である。 競争率が高そうだったので多めの応募をしたようだ。結果として手に入れられた旅券札は三枚だった。 (「自分の知らないうちに予約をとってくださるとは心憎いでありますよ。これで半月ほど一緒であります。秀英殿、大好きであります」) 紅花を一緒に連れて行くことを勧めたのは、はふり自身である。 秀英と紅花は長い間、生き別れになっていた。再会してからも一緒に過ごした日々はほんのわずか。少しでもよい思い出になればと考えてのことだ。 「兄ちゃんとはふりさん、もうプールで泳げるってさ」 それまでフロントに電話していた紅花がバルコニーに現れる。 まずはショッピング区画に立ち寄って水着を調達。それから屋外プールへ。乗船時には安全のために閉じていた屋根が開放されてプールが露わになっていた。 「これはなんだろう。見張り台かな?」 秀英がプールサイドに聳え立つ太い柱をあおいだ。 「看板によると飛び込み台でありますよ」 「面白そうだねっ!」 はふりと紅花が秀英の背中を押しながら階段を上った。 「わ、私も男ですから!」 意を決した秀英が勢いよく跳ねて真っ逆さまに落ちていく。偶然かも知れないが、頭からの様になった飛び込みを成功させる。 「ひゃっほー!」 紅花はまるで猫のように空中回転を決めながらプールへと飛び込んだ。他の客達から歓声があがるほどの見事さである。 「ご兄妹でさすがなのでありますよ」 はふりは踏み台で高く跳び、弧を描きながらプールの中へ。深い水底に片手が触った。 (「水底から見る太陽は不思議で綺麗でありますね‥‥」) 自然に浮き上がるのに身を任せる。水面に顔をだすと秀英が近くで待っていた。 「向こう側まで競争しませんか?」 「よし、負けませんよ!」 はふりはこのとき忘れていた。秀英が志体なしの普通人であったことを。 「ぷはーっ」 はふりよりもかなり遅れて秀英がプールサイドに辿り着く。 「‥‥つい本気をだしてしまいました」 「飛び込んだまでは格好良かったのになー」 へなへなの秀英をはふりと紅花がプールサイドのベンチへ寝転がらせる。はふりはウェイターにトロピカルカクテルを注文して秀英と紅花に飲んでもらう。 ゆっくりと日光浴を楽しみながら秀英の回復を待つ。 プールの後、はふりは兄妹をカジノに誘う。一旦客室へと戻り、スーツとドレスに着替えて会場に乗り込んだ。 紅花が両替しているとき、秀英がスロット台の区画へと近づいていく。 「もしや興志王様?」 「よおっ! って誰だっけ? どこかで会った気はしているんだが?」 秀英が声をかけた人物は興志王だった。興志王ははふりのことを覚えていたが、秀英には首を傾げた。 「あ、はふりさんだよね」 「こちらの船に乗られていたのですわね」 真夏と深紅の登場に、はふりが焦る。興志姉妹は春華王の影武者だった頃の秀英と直接会ったことがあるからだ。 「お二人には是非にカジノを案内してもらいたいのですよ」 はふりは真夏、深紅を誘う。もちろん紅花も一緒である。 秀英は興志王とスロットに興じることにした。 「ルーレットって簡単そうだね」 「ルールはとてもわかりやすいですわ」 興志姉妹はルーレットに興味を持つ。 「あのディーラーのトランプ捌き、見事であります」 「ポーカーだねっ。昔よく船乗りをかもってたよ」 はふりと紅花はルーレットの隣で行われていたポーカーゲームに参加する。 「ストレートであります」 「フォア・カードだよ」 野生の勘を発揮する紅花と理詰めで追い込むはふり。真剣勝負のような濃密な時間を二人で過ごす。 女性四人がスロットの区画へ戻ったとき、ファンファーレが鳴り響いた。 「おやジャックポット‥‥。車が当たりましたか。強運でありますね秀英殿は」 この後に観た映画で似たようなシーンがあって、さらにびっくりのはふり、秀英、紅花の三人だった。 数日後、船内のホールでダンスパーティが開かれる。流れるようなピアノの弾きに合わせて歌手が唄う。 紅花は興志王に誘われて中央へ。秀英に誘われたはふりもダンスに加わった。 「ワンピースは少し子供っぽかったかしらん」 「そんなことはないよ。はふりさんは何でも似合います」 はふりは秀英の瞳がわずかに曇ったことに気づく。 「どうされました?」 「あのクリスマスの日を思いだしてね。はふりさんが風邪を引いて看病をした‥‥」 「そんなこともありましたね。懐かしいであります」 「あれは残念でしたね」 はふりが秀英の胸元に顔を埋めるようにして二人の距離を縮める。 「自分は今夜、秀英殿と踊れてうれしいのであります」 クリスマスパーティでは踊れなかったが、そのおかげで互いの距離が縮まったともいえる。今こそは存分にダンスを楽しんだ。 その後はバーで語らう。 ちなみに紅花は興志王達とカジノにリベンジを仕掛けていた。後で聞くと満腹屋の光奈もいたという。 「そういえば秀英殿はどうして春と呼ばれていたのでありますか?」 「よく覚えていないんだ。確かあの方とお会いしたのが春だったからだと思う」 「影武者のお仕事はいかがでした?」 「最初はわけが分からなくて‥‥夢中で勉強をしたっけ。途中からは結構楽しかったよ。いつばれるかと冷や冷やだったけどね」 お酒を飲みながらのお喋りはとても弾む。 やがて就寝の時間となる。 「秀英殿‥‥」 真夜中に目が覚めたはふりは秀英の寝顔をずっと眺めていた。 ●熱々の恋人同士 「ボーイさん、ほら旅券札ちゃんとあるよ♪」 「それでは旅券札と交換に鍵をもらえるかな?」 甲板に降り立ったリィムナ・ピサレット(ib5201)とフランヴェル・ギーベリ(ib5897)はさっそく豪華客船内を探検した。客室に向かうのは後回しである。 「うぉわー、広いね♪」 「ワオ、これは凄い。どういう仕組みなのかさっぱり分からないよ♪」 白スーツ姿のフランヴェルがリィムナを肩車しながら歩いた。 まず驚いたのはどこもかしこも太陽の下のように明るいことだ。そして装飾として使われている部分を除けば殆どが鉄と石でできている。 「アルミ?」 「コンクリート?」 船員に聞いてみると鉄と石に似た別の何かが使われているようだ。 屋内屋外のプール、カジノ施設、映画施設、ショッピング区画、屋台から高級店までを含めた各種飲食施設、劇場、テニスコート、ミニゴルフ場、宮殿のような大広間、異世界のことが綴られた本が一杯の図書館、巨大浴場なとなど。目移りして選ぶのに迷ってしまう。 「これ板の中の絵が動いているよっ♪」 「壁に何か書いてあるね。‥‥これはゲームを遊ぶための機械で、格闘ゲームという遊戯のようだね。ゲーム機は各部屋に設置済みらしい」 ショッピング区画で見つけたゲームソフトを購入。その他にも面白そうな品や美味しそうな食料を買い込んでいるうちに三時間が過ぎ去る。 荷物が増えてきたので探検を一時中断して客室に行くことに。 「うわぁ、いい部屋だねっ!」 予約したのはロイヤルスイートと呼ばれる客室で、非常に設備が充実していた。 「ベットもふかふか!」 「お酒がすでに常備されているんだね♪」 とても広い寝室で屋根付きの華美なベットを発見。跳び乗ったリィムナを優しく包んでくれる。 リィムナの横にフランヴェルが寝転がった。枕元のスイッチを押してみると自動的にカーテンが開いていく。バルコニーの向こうには青い空と海原が広がっていた。 「えっと‥‥広いベットが一つだけってことは‥‥一緒に寝るんだよね♪」 呟いたリィムナの頭を包み込むようにしてフランヴェルが抱きしめる。しばらく二人きりの時間を過ごしたあとでプールに出かけた。 リィムナが衣装室で着替えたのは『前掛ビキニ「海祭」』。胸の部分は小さな赤い前掛け、下半身は白地の黒猫褌といったセパレートタイプの水着である。 フランヴェルは先程のショッピング区画で購入した泳ぎやすいワンピースタイプの水着を着用した。 「海水ではなくて真水なんだね。これは驚きだ」 「フランさん、競争だよっ♪」 まだ人が少ないプールに二人はかけ声合わせて飛び込んだ。 (「くっ、流石に速いなっ」) 折り返しでのわずかな失敗が勝敗を分ける。 「えへへ、あたしの方が速かったよっ♪」 「おめでとう、君の勝ちさ♪。一番おいしそうなドリンクを奢るよ♪」 リィムナが選んだメロンジュースはとても大きなグラスで提供された。 「甘くて冷たい♪」 「とても美味しいねっ♪」 一杯のドリンクを二人で楽しむ。グラスに挿された二つのストローは螺旋状に絡まってから平行に分かれている。ストローで飲むと自然に互いが見つめ合う仕掛けだ。 充分に泳いだあとで、次に向かったのは映画館である。 「えっと‥‥あっ! これにしよう!」 「ボクにはわからないから任せるよ」 いくつかの映画の中かはリィムナが選んだのはアニメ映画だった。ポスターによると煌びやかな鎧を付けた美少年達が女神を護って悪と戦う内容らしい。 お菓子とコーラを飲みながら待っていると館内が暗くなる。やがて映画が始まった。 「‥‥これ、パラパラ漫画の原理かな?」 リィムナが誰にも聞こえない小声で呟いた。以前にパラパラ漫画を制作した経験から想像したのである。 銀幕の世界では鎧の美少年達の戦いが始まった。 「危ない!」 フランヴェルが突然に立ち会り、リィムナの前で両腕を広げる。周囲の客から浴びせかけられる視線。フランヴェルは誤魔化しながら椅子に座り直す。 「そうだった。現実ではないといってたよねっ」 恥ずかしそうにしていたフランヴェルにリィムナが微笑んだ。 「守ろうとしてくれたんだよね‥‥。ありがと」 恥ずかしそうに囁いたリィムナの手をフランヴェルが握りしめる。 「今の技、フランさんの奥義そっくりだったね♪」 「確かに、ボクの轟嵐刃にそっくりだ♪」 映写の後、リィムナは異世界から来た技師に質問して原理を教えてもらう。やはりパラパラ漫画と同じ原理だった。 技師によると格闘ゲームも似たような仕組みで映像を作りだしているらしい。客室に戻った二人はゲーム機にゲームソフトを挿入して遊び始めた。 最初は適当な操作だったが、次第に必殺技の出し方がわかってくる。 「よしっ!」 「負けちゃったね。これで七連敗かな?」 いつの間にか窓の外は日が暮れていた。その日は電話でのデリバリーピザで晩御飯を済ませる。就寝前に二人でお風呂に入った。 「汗の匂いも素敵だが、石鹸の匂いもいい♪」 「今、何かいった?」 「いや、なんでもないよ。それではシャワーをかけるからね♪ 少しだけの我慢だよ」 「うんっ♪」 リィムナはフランヴェルに隅々まで身体を洗ってもらう。風呂からあがった後はドライヤーで髪を乾かしてくれた。 「ん〜幸せ♪」 フランヴェルはリィムナの髪を梳かしながら可愛いと心の中で呟く。 「あ‥‥フランさん、あたし‥‥その、おむつ、忘れてきちゃった。おねしょしたら大変だよね‥‥」 着替える途中で気づいたリィムナは顔を真っ赤に染めた。 「おむつがない? じゃ、ボクがショッピング区画で買ってくる♪ ちょっと行ってくるよっ♪」 フランヴェルは疾風のように出かけていく。わずか十分ほどで戻ったフランヴェルはリィムナにおむつをあててあげる。 「パウダーをぽんぽんして‥‥と、これでいいね♪」 「ありがとう、フランさん。これ、すごく肌触りいいよ!」 リィムナがベットの上で飛び跳ねて喜んだ。 フランヴェルは背中を向けて大きなため息をついた。理性が吹き飛びそうになったのを必死に抑えた様子である。 「おやすみ」 やがて二人は倒れ込むようにしてベットの中へ。フランヴェルは優しくリィムナを抱きしめてそっと唇を交わす。 「愛してるよ‥‥」 「フランさん‥‥大好き‥‥」 リィムナがフランヴェルの首筋に強く口づけをする。 「これは、何もできないな♪」 そう呟いたフランヴェルに、はにかむリィムナだった。 ●船上の結婚式 ニクス・ソル(ib0444)とユリア・ソル(ia9996)が豪華客船『クルーズ・ドルフィン』に乗船したのには理由がある。 「伝を駆使して手に入れただけあるわね♪」 「噂には聞いていたが、これほどとは」 二人の船上結婚式が執り行われるのは出港の五日目。三度目の結婚式はニクスの要望によるものだ。 もちろん船内の施設にも充分に魅力を感じている。船内を回りながら二人で数日間の予定を立てた。 海の景色を眺めながらの優雅な食事を楽しんだ後、ユリアの希望でカジノ施設を訪ねる。 「どのゲームが面白いのかしら?」 ユリアは背中が大胆に開いたレッドベルベットドレスに着替えていた。 自然と周囲の男性達の視線が彼女に集まる。隣を歩くニクスに注がれたのは嫉妬の視線だが、当人はまったく気にしていなかった。 「俺のことは気にせずに」 賭け事はしない主義のニクスなので、ユリアが楽しんでいるのを後方から傍観することに徹する。彼女は充分に強いが、いざとなれば身を挺して守ることも厭わない。 「まずは小手調べに」 ルーレットに参加したユリアは交換したコインを赤に賭けた。ニクスが差し入れてくれたブラッディマリーを飲みつつ、気を張らずに雰囲気を楽しんだ。 勝ったり負けたりが続く。そろそろ切り上げる時刻となる。 「それでは、ここに全部」 最後にまとめて賭けた16番が当たり、コインが何倍にも増えてしまう。 「この場の皆に一杯ずつ奢るわ」 ユリアはコインの殆どをボーイに渡す。そして飲み物を分けるように頼んでその場を去った。 二日目に楽しもうとしたのは室内プールである。 「んっ? いないな。先に行くといっていたんだが」 ニクスがプールサイドを一周してもユリアは見つからなかった。念のため野外の飛び込み台付きのプール周辺も探してみたがユリアの姿はない。 どこかで寄り道しているのだろうと考えたニクスは一人プールへと飛び込んだ。 プールの中でニクスの視線を避け続けていたユリアが行動開始。潜水する白ビキニ姿のユリアがニクスの後方からこっそりと近づく。 最後は水面を飛びだしてニクスの背中にしがみついた。ユリアはイルカになったような気分だが、ニクスは鮫に襲われた心持ちだったに違いない。 「お、驚いたよ。ユリア」 「ニクスを驚かすのは結構大変なのよっ♪」 水面に浮き上がって顔をだした二人はしばし笑った。そして二人でプールサイドへとあがる。ユリアはニクスの前で腰を捻ってスタイルを見せつけた。 「綺麗だ‥‥」 ニクスはわずかに照れながらもユリアの目から視線を外すことはなかった。その後は優雅に泳いだり、プールサイドでくつろいで過ごす。 宵の口、ユリアがバーで一人飲んでいるとナンパ男が近づいてくる。 「お一人ですか? 君のような素敵なひとが一人でなんて見る目のない男が多いようだ。ぜひ私と一杯付き合ってくれませんか?」 そうナンパ男が声をかけるとユリアは畏まって片方の手を胸元まであげた。 「あいにく私は結婚してるの。指輪が見えるでしょう? 本当に、私の旦那様にそっくりで残念なのだけど‥‥」 ナンパ男の正体はニクスである。お互いにわかっていての冗談のやり取りだったが、途中でユリアが笑いを堪えきれなくなる。 「はは、いろいろと楽しんだね。乾杯しようか」 ユリアの隣に座ったニクスが彼女と同じワインを注文した。 「結婚してても女性として魅力的に見える?」 ユリアはニクスの肩にしな垂れかかって囁く。 「ああ、当然だ。俺は君以上に魅力的な女を知らない」 互いの息が肌に触れる距離で二人は見つめ合う。 「あら、証明してくれなくちゃ」 ユリアがニクスの首に手を回して口づけをする。 「ああ、当然だ。俺は君以上に魅力的な女を知らない」 ニクスは真剣な眼差しでユリアを抱きしめてから口づけを返した。 ついに五日目となる。 船上で仲良くなった乗客達を招いての結婚式が執り行われた。 この日のための様々な準備はオートマトンのシンが執事としてこなしてくれる。また船員達の接客作法をここ数日間で学んでいた。 神父の代わりに結婚式を進行してくれたのもシンであった。 「綺麗だ、とても」 ニクスは花嫁衣装を纏ったユリアを眺める。 薔薇をモチーフにした青いマーメイドウェディングドレス姿のユリアは、どこから見ても美しい。 「青薔薇の花言葉は『奇跡』よ。ニクスはほんとロマンチストよねっ♪」 「妻の綺麗な姿は何度でも観たいものだしね。もっともユリアが綺麗じゃなかったことなんて、一度もないのだけれど」 これまでの結婚式はすべてユリアが希望したもの。ニクスが望んだのは今回が初めてである。 「私は神は信じてない。だから、貴方に誓うわ、貴方を愛してるわ、ニクス」 「愛してるよ、ユリア。絶対に離したりするものか」 指輪の交換に続いてニクスとユリアは誓いのキスを交わす。 放たれた白鳩が青い空に飛んでいく。楽団による演奏を聴きながら、二人は幸せへの道をまた一歩進んだのであった。 ●船旅の成功 豪華客船『クルーズ・ドルフィン』は予定通り出港七日目に理穴奏生沖に辿り着いた。 帰りの航路は海が少々荒れたものの、船体の巨大さ故にびくともしない。乗船客達は快適な時間を過ごせたようである。 下船する際には誰もが名残惜しそうな表情を浮かべて、クルーズ・ドルフィンを眺めたという。 「この体験はこの船でしか味わえねぇな」 処女航海の成果に興志王は大満足する。クルーズの開催は今後も定期的に行われることとなった。 |