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■オープニング本文 開拓者ギルドに依頼する方法はいくつか存在する。 各地から送られてきた依頼をその国の首都ギルドが取り纏めて、神楽の都に伝達するやり方もあった。 ここは理穴国の奏生ギルド。 「これは‥‥?」 ギルド長の大雪加香織が机に置かれたある用紙に目を留める。職員が風信器で受けた依頼を書き留めたものだ。 依頼主の名は『波路雪絵』。理穴国の女王『儀弐重音』の幼なじみである。以前に彼女を巡る大きな事件が発生したので大雪加もよく知っていた。 いろいろあって波路雪絵は現在地方で暮らしている。この度、儀弐王と会うために奏生まで出かるための足と護衛を開拓者に頼みたいとあった。 (「波路殿が来られるのなら私も」) 大雪加は神楽の都に送られる依頼書の原文に自分の名前も書き加える。つまり雪絵の護衛に大雪加自ら参加することにした。 依頼日までに理穴ギルド所有の中型飛空船一隻を準備。片道半日とかからないはずなので当日のうちに波路雪絵を連れてくることができるだろう。 奏生城に逗留する間も同行。お忍びで城下に出かける際の護衛も依頼に含まれている。 大雪加は失礼がないよう事前の準備を整えるのだった。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
隗厳(ic1208)
18歳・女・シ
サライ・バトゥール(ic1447)
12歳・男・シ |
■リプレイ本文 ●飛空船内にて ふわりと雲上を飛び続ける理穴ギルド所属の中型飛空船。 開拓者一行は八時間前に理穴奏生を出立している。目的の町で波路雪絵を乗せて、ただ今奏生へ戻る最中であった。 「みなさん、飛空船を飛ばされるのは大変でしょう。お茶はどうですか?」 雪絵は台車を押しながら操船室に現れる。 「ちょうど欲しかったところです。先に頂きますね」 「どうぞ」 操船を代わったばかりの大雪加香織が雪絵から湯飲みを受け取った。大きな木彫りの器の中にはたくさんの菓子が詰まっている。 雪絵は大雪加に最近の儀弐重音のことを訊ねた。手紙のやり取りはしていたが、会うのはとても久しぶりだったからである。 「きっと以前の重音殿と変わらないと‥‥いえ、変わらぬところがあるやも知れません」 「それはどういうことでしょう?」 大雪加は会ってみればわかると雪絵をはぐらかす。お茶が飲み終わったところで操船していたリィムナ・ピサレット(ib5201)と入れ替わった。 「はい、リィムナさん。熱いですから気をつけてくださいね」 「ありがとう、この醤油せんべい、美味しいね♪」 「地元では有名なんです。ここのお煎餅屋さん。重音様の好みを考えて甘い物にしようか悩んだのですが、奏生の方がよい甘菓子があると思いまして。なら名物をと」 「重音さんならきっと気に入るよ。大丈夫♪」 雪絵の前で煎餅を囓ったリィムナがお茶をごくごくと飲む。 「二杯目は如何ですか?」 「もら‥‥あ、やめとこっかな。どうしよ」 リィムナは悩んだが結局二杯目も頂いた。 『美味しいですにゃ♪』 上級からくり・ヴェローチェも煎餅とお茶のご相伴に預かる。 「あたしがいれば、もし賊が寄ってきても平気だからね。大船に乗った気でいて、雪絵さん」 「私も噂を聞いたことがありますよ。確か小柄で袴姿の片眼鏡の少女が強いというものです」 雪絵が知っていたことにリィムナは少々照れた。 「これでしばらくよしと」 前方窓に張りついて進路確認を行っていたサライ(ic1447)が一仕事終わる。 「いただきますー」 『私もお煎餅もらうわよ♪』 サライと羽妖精・レオナールも雪絵からお茶と煎餅をもらう。 「では別室の方々にも届けて参りますね」 雪絵が台車を押しながら操船室を出て行く。扉が閉まり、しばらくしてからサライが口を開いた。 「幼馴染かぁ‥‥。僕は旅芸人育ちだから小さい頃からの友達、っていないんだよね」 空いている席にサライが腰かける。 『さびしそうな顔しないで♪ サライきゅんには私がいるわ♪』 サライは膝の上に乗ったレオナールに手にしていた煎餅を差しだす。美味しそうに囓るレオナールの姿を見て笑顔を取り戻した。 雪絵が展望室を訪ねる。すると隗厳(ic1208)が望遠鏡で遠方を眺めていた。 「隗厳様、お茶と煎餅、どうですか?」 「頂きます」 隗厳は無駄のない動きで雪絵の側にすっと移動する。急須で淹れてくれたお茶を非常に丁寧な仕草で頂いた。 「雪絵様を迎えに行く前に前乗りして、奏生の城下で楽しめそうなところをいくらか調べておきました」 「嬉しいです。今、奏生ではどのようなものが流行っているのですか?」 隗厳が懐からだした紙を雪絵は大事に受け取る。書かれていた内容に目を通す雪絵の瞳は輝いていた。 湯が冷めてしまったので雪絵は一旦給湯室へ戻る。それから機関室を訪ねた。 「確かこの扉でしたね」 一声かけてから扉を開けて中に入る。 「どうしたんだ? 雪絵さん」 「少し休憩なされたらと思いまして。お茶と煎餅を用意しました」 水平飛行中で巡航状態なので、眺めているだけで問題はなかった。羅喉丸(ia0347)と翼妖精・ネージュが休憩をとる。 「これですか? 先程、隗厳さんから頂いたんです。奏生での流行が書かれているんですよ」 「実は俺もネージュと一緒に調べておいたんだ。確かここに‥‥あったあった」 羅喉丸も奏生での流行事を記した紙を雪絵に手渡す。 「ありがとうございます。参考にさせてもらいますね♪ 重音様と何を致しましょうか」 羅喉丸は雪絵の笑顔を眺めて安心する。儀弐王との再会はきっと良きものになるだろうと。 ●再会 雪絵を乗せた飛空船はやがて雪で真っ白に染まる奏生城を眼下に捉える。 儀弐王の特別な計らいで城庭への着陸が許されていた。広い雪面に着陸し、乗降口の扉が開かれる。儀弐王はすぐ近くまでやって来ていた。 「重音様、久方ぶりです」 「庭はとても寒いです。早く中に入りましょう」 二人は言葉少なに挨拶を交わす。 儀弐王が背中を向けて歩きだすと雪絵は早歩きで追いかける。そして儀弐王の後ろ肩に積もっていた雪を掌で撫でるように落とす。 (「とも遠方より来たりて、楽しからずやか」) 羅喉丸は幼なじみ達の様子を優しい眼差しで見守る。 『いい感じですね、羅喉丸』 翼妖精・ネージュにも何となくわかるようだ。 「儀弐王様、ずっと雪がちらつく庭にいたみたいだね」 『そうなのにゃ?』 リィムナがからくり・ヴェローチェに話した通り、儀弐王は二時間も前から雪積もる城庭で飛空船の到着を待っていた。 雪絵と再会する直前、身体に積もっていた雪を払ったつもりが背中に近い部分だけ残ってしまったようだ。儀弐王が冷静さを失うのはとても珍しいことである。 「幼なじみっていいよね。くれぐれもお二人に失礼のない様にね?」 『分かってる♪ 大人しめにしとくわ♪』 サライと羽妖精・レオナールも並んで歩く儀弐王と雪絵を見守った。 「鯉は食べてはいけません。餌はあとでちゃんと届けます」 隗厳は儀弐王の許可を得て城庭の池にカミヅチ・件を開放する。凍っていても薄氷なので件は簡単に飛び込めた。 城には一人に一部屋ずつ用意されている。話し合いをするときには大雪加の部屋に集まることとなった。 「雪絵様の部屋にはできるだけ行かないようにしませんか? きっと儀弐王様が訪ねるはず。会わないと話せなかった積もる話もあるでしょうから」 大雪加の心遣いに誰もが賛成する。 「その手鞠、懐かしゅう御座います」 「今も部屋の片隅に飾ってあるのですよ。それにしてもこのお煎餅、美味しいですね」 「気に入って頂いたようで嬉しゅうございます」 「次の茶は私が淹れましょう」 その日の晩、久しぶりに会った幼なじみ達は夜遅くまで語り合ったという。 ●歌舞伎鑑賞 羅喉丸と隗厳が調べてきた市中の出し物から雪絵が選んだのは歌舞伎の芝居である。すでに歌舞伎小屋はたくさんの観客で賑わっていた。 横一列で二升分を借りて幕が引かれるのを待つ。 「このお話、とても観たかったんです。儀‥‥いえ、琴爪様」 「風来坊が悪徳庄屋を懲らしめる内容ですか」 リィムナの案で雪絵だけでなく全員が儀弐王のことを琴爪と呼んだ。変装していても儀弐王は目立ちやすいので偽名で通すことにする。 その分、リィムナは隠すことなく敢えて目立った。自分が光になって注目を集めること で儀弐王や雪絵の存在を影に留める作戦である。 「あの人ってもしかして、開拓者の?」 「そうそう。にゃんをつけるからくりを連れているって聞いたことがあるわ」 リィムナの名は理穴奏生にも広まっていた。 『あ、幕の内弁当ですにゃ』 「始まるまでまだ長いから食べよっか♪」 からくり・ヴェローチェが見つけた売り子をリィムナが呼び止める。 「ご購入ありがとうございます。あ、あの、こちらの錦絵に書いてもらえませんか?」 「いいよ♪」 リィムナは売り子に求められて錦絵に名前を残した。その様子を眺めていた近くの観客達が『やはり』と声をあげる。 (「あたしがいるのをわかっていて絡んでいるならず者は、滅多にいないはずだからね」) 幕の内弁当を食べながらも周囲に目を配る。観劇の最中、薄暗い観客席で徘徊するスリがいると聞いたことがあった。 『ヴェロは何かあったら、人形祓でお二人を守りますにゃ♪』 「頼りにしているからね」 リィムナはからくり・ヴェローチェが竹製の容器から注いでくれたお茶を受け取る。 (「事件が発生しても儀弐王と雪絵様に気づかれることなく済ませたいものです」) 暗闇での監視役は『暗視』が使える隗厳が担当。幕が引かれて芝居が始まっても歌舞伎小屋の中で動き回っている輩に注視した。 『サライきゅん、ちょっと――』 「どうかしたの?」 羽妖精・レオナールがサライの耳元で囁く。『超越聴覚』で耳を澄ませていたところ、男性二人組によるよからぬ会話が聞こえてきたという。 「隗厳さん、あの人達を監視してもらえますか?」 「わかりました。黒ずくめの二人ですね」 サライに隗厳が頷いてみせる。『暗視』で集中的に監視していると男性二人組の片割れが動いた。そして観客の懐から財布を盗みだす瞬間を目撃する。 隗厳から聞いた翼妖精・ネージュが羅喉丸とリィムナの耳元で囁く。二人は儀弐王と雪絵を邪魔しないよう静かに枡席を離れた。 「あんたたち、あたしはリィムナ。知っているよね」 リィムナが背後から声をかけるとスリの男性二人組は逃げだそうとする。 「ちょっと待ってくれ。まだ話しは終わっていないようだからな」 出入り口付近で待機していた羅喉丸がスリ二人組の前に立ちはだかった。 「まあ、いいよ。今日だけは見逃してあげる。だけど顔はばっちり覚えたからね」 リィムナが見せた財布は先程二人組が観客からスリ盗ったものだ。気づかれない間に『ヴォ・ラ・ドール』で取り返したのである。 羅喉丸が身体をずらすとスリ二人組は隙間から慌てて外へ。リィムナは再びの『ヴォ・ラ・ドール』で持ち主に財布を返した。 羅喉丸とリィムナは錦絵を購入してから枡席へと戻る。 芝居が終わった後、羅喉丸は開拓者一同からだといって儀弐王と雪絵に錦絵を贈るのであった。 ●甘い物 一行は往来を歩いて次の場所へ。 「歌舞伎は楽しんでもらえたのだろうか?」 「心配しなくても大丈夫です。先程もお二人で嬉しそうに劇中のできごとを話題をしていましたから」 羅喉丸と大雪加が儀弐王と雪絵の後方を歩く。 「本日は目立って構いません」 隗厳はカミヅチ・件を出現させて同伴させていた。こうすることでよからぬ者達を威嚇し、荒事から遠ざけることができると考えたからである。 「こちらカミヅチだとか。初めて見ました」 「私は覚醒からくりですが、カミヅチとの組み合わせは割と天儀でも珍しいみたいですね。今までの依頼でうっすら感じていたことですが」 隗厳は雪絵をカミヅチ・件の背中に乗せてあげた。 目指していたのは羅喉丸が儀弐王に推薦した甘味処である。 『羅喉丸、席の予約を再確認しておきました』 「助かるよ。それなりの人数だからな」 翼妖精・ネージュが甘味処まで一足先に飛んで戻ってきた。 さすが甘味好きの儀弐王なので、市中の甘味処はすべて把握している。それでもつい最近完成したばかりの新作菓子までは把握していなかった。 「こちらが一年ほど前に開店した希儀風菓子店『ロゼ』です」 「お忍びで一度だけ来店したことがあります。少し変わりましたね」 羅喉丸の説明を聞きながら琴爪が看板を見上げる。一般的な木造建築の店舗だが、所々の意匠は希儀風に仕立てられていた。 飲み物については隗厳の見立て。お菓子の注文は羅喉丸に任せられる。 「チョコレートのホットドリンクです。そしてこちらは柑橘系味付き炭酸水になります」 隗厳が頼んだ飲み物は二種類。 まず炭酸水を飲んだ雪絵が瞬きを繰り返す。儀弐王はホットドリンクである。 雪絵だけでなく誰の目にもわかるぐらいに儀弐王は微笑んだ。 (「香織様はこのことを仰っていたのですね」) 雪絵は思う。 天儀に平和が訪れようとしている。長く儀弐王の両肩にのし掛かっていた重石が少しずつ退けられているのだろうと。 続いて給仕によって運ばれてきたのはシュークリーム。どれも小粒で一皿に八つ並んでいた。 「下調べのとき、これを食べたらやみつきになってしまってな。ネージュも大好きなようだ」 『とてもおいしいですよ』 羅喉丸とネージュに勧められて儀弐王と雪絵がシュークリームを頂く。 中身は一つずつ違う。カスタードに生クリーム。チョコレート風味に苺ジャムが混ぜられたものなど。甘味には主に樹糖が使われていた。 『サライきゅん、いらないなら私がもらってあげるわ♪』 「大事に食べているんだよ、美味しいから。それにレオナの皿のシュークリーム、まだ残っているじゃないか」 羽妖精・レオナールとサライのやり取りを見て雪絵が思わず吹きだしそうになる。その雪絵を見て儀弐王が再び微笑んだ。 ●楽しいひととき 奏生城での晩餐の後、リィムナとサライが舞台を披露する。奏生へ前乗りの際に二人はこの準備と練習をこっそり行っていた。 『はじまりですにゃ♪』 からくり・ヴェローチェによって幕が引かれる。すぐに舞台袖から白と黒の動物が現れた。 「あれはもしや‥‥」 「泰国のパンダという動物です。熊のようですがあの愛らしさでとても人気があると聞いています」 雪絵と儀弐王が眺めていたパンダはリィムナが『ラ・オブリ・アビス』で化けていたものだ。 (「楽しんでもらっているみたい♪ よし、ここはジプシーの心得で頑張るよっ♪」) パンダと化したリィムナは『洋傘「ブルーローズ」』を片手にピョコピョコと歩いた。ときに転んでみたりと愛想を振りまく。 「よし、場は温まったみたい」 舞台袖から広間を覗き込んだサライは受けているのを確認した上で鞠を手に取る。そして阿吽の呼吸でパンダ・リィムナに向けて山なりに鞠を投げた。 傘の上に乗る鞠。 「ほい、ほい、ほいさっさっ♪」 鞠は一つだけでなく次々と飛んでくる。五つの鞠が円状の列を成して傘の上をぐるぐると転がり続けた。 「重音様、ほらあんなに」 「私でも無理ですね。あれは」 儀弐王と雪絵が舞台に釘付けである。 『にゃっにゃ♪ パンダにゃんすごいのにゃ♪』 『いい調子よっ♪』 はしゃいだヴェローチェと羽妖精・レオナールが声援をおくる。 袖からささっと現れたサライは『バラージドレス「サワード」』に着替えていた。傘から跳ねる鞠を一つずつ受け止めていく。 両肩、両手で四つ。最後に頭の天辺で受け止めて決めのポーズ。儀弐王と雪絵だけでなく仲間達や臣下の者達からも歓声を浴びた。 芸事はそれでは終わらなかった。 パンダ・リィムナとドレス姿のサライが躍る。二人とも身軽な動きで宙を舞う。白黒のまん丸が跳ね、漆黒のドレスの裾が広がる。 『私も混ざっちゃうわ♪』 レオナールも参加して華を添えた。透明化で突然現れたりといったトリックを披露する。 「応援してくれてありがとうっ♪」 「楽しんで頂けたなら幸いです♪」 最後にリィムナとサライがご挨拶。ヴェローチェによって引かれて終幕と相成った。 ●思い出の料理 雪絵が故郷に帰る前日の夜。一同はもう一度、城下を訪れた。 「何とか発見できてよかったな」 「方々探したのですが中々見つかりませんでした」 羅喉丸と隗厳が儀弐王の頼みで探しだしたのは蕎麦の屋台である。空き地でぽつりと営業していた。 「琴爪様、こちらは何だか懐かしい感じがします」 「あのときの屋台がそのまま残っていたとは私も思っていませんでしたよ」 雪絵は儀弐王のこの言葉で気づいた。十五年ほど前、こっそり二人で城下へ出かけた際に立ち寄った二八蕎麦の屋台なのだと。 「なるほどね〜♪」 「お菓子じゃないから何でだろうと思ったけど、そういうことなんだ」 儀弐王と雪絵のやり取りを聞いて、リィムナとサライも何故蕎麦なのか合点がいく。 「まさかあのときのべっぴんさんお二人が女王様御一行様だったとはねぇ。これまでの人生の中で一番驚いたよ」 白髪が目立つ屋台の店主が小声で話しかける。 肩寄せ合いながら全員が座った。 最初の二杯は儀弐王と雪絵の注文。儀弐王が海老入りの掻き揚げ蕎麦、雪絵がお揚げの入ったきつね蕎麦である。 「あのとき、こうしたんですよね」 「そうです」 食べる前に互いの具を半分に割り、片方ずつを交換した。 「雪絵が一味唐辛子をかけたので私も真似をしたら、とても辛くて」 「そうでしたね」 楽しくお喋りする儀弐王と雪絵を眺めながら開拓者達も蕎麦を頂く。 「ネージュ、それ本当に全部食べられるのか?」 『勢いで頼みましたが無理みたいです』 卓上に立つ翼妖精・ネージュの目の前におかれた丼はとても大きかった。 「あの四分の一、私が食べましょうか? 羅喉丸さんも四分の一食べれば半分になりますし」 「そうしてもらえると嬉しいな。香織さん」 ネージュが食べる前の丼から羅喉丸と大雪加は少しずつ自分の丼に蕎麦を移す。 『私はサライきゃんからもらった小鉢の分で充分よ♪』 「ってレオナ。ボクの分、すごく減ってるよ!」 サライは羽妖精・レオナールにクロケット蕎麦の半分を食べられてしまう。もう一杯注文したのはいうまでもない。 『リィムナにゃん、お蕎麦おいしいのにゃ♪』 「二人の思い出の蕎麦だと聞くと余計に美味しくかんじるよねっ♪」 食べている合間、からくり・ヴェローチェは湯気で曇ったリィムナの『片眼鏡「斥候改」』のレンズを拭いてあげた。 「城に戻りましたら美味しい魚があります。雪絵様が件のために買ってくれた鮪があるそうです」 隗厳は大人しくしているカミヅチ・件に話しかけてから蕎麦を頂く。 「ごちそうさま」 お腹いっぱいになった一同は奏生城へと戻った。 翌日、儀弐王に見送られながら雪絵が帰路に就く。開拓者達は彼女を送り届けるために飛空船を離陸させる。 「あの重音様が冗談をいわれたのですよ」 飛空船内の雪絵はことあるごとに儀弐王を話題にして終始笑顔であった。 |