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■オープニング本文 雪景色の理穴奏生。 数日前の深夜、その風景が真っ赤に染め上げられた。ある長屋で火災が発生したのである。 失火の原因は不明。 比較的広範囲を焼きながらも死者は出ず、わずかな軽傷者のみで済んだのは不幸中の幸いだった。 だがこの寒風の季節に住処を失った者達は非常に大変だ。今は方々の親戚や友人知人のところへ転がり込んで世話になっているが、それも長くは難しい。 「是非にお力を。資金の面でご迷惑をおかけするつもりはありませんが、資材や建築の手配についてお願いしたく」 「大変でしたね。貴方自身のお怪我は?」 火災の翌日。長屋の大家は奏生城で女王の儀弐重音との目通りを果たした。そして力添えを懇願し、材木問屋や大工の手配に便宜を図ってもらう。 「雪降りがわずかな今のうちにどれだけ進められるかですね。そこで私からの提案なのですが――」 儀弐王は開拓者ギルドに依頼するよう強く勧めた。開拓者達が得意なのは力仕事だけでない。手先も器用だ。 「仰せの通り、ギルドでの依頼手続きも行います」 「三軒長屋十棟が以前の数でしたね」 「はい。空き部屋もありましたので、八棟完成すればひとまず以前の店子を呼び戻すことはできるでしょう」 「できるに越したことはありませんが、残りの二棟は春先でも」 儀弐王の指示伝達は迅速この上なかった。 大家が帰ってから半日も経たずに焼けた長屋跡の片付けが始まる。近隣の空き地に中型飛空船が着陸。炭や灰となった家々の残骸が撤去されていく。 翌朝には片付け終わった一部の土地に資材が運ばれだした。大工もやってくる。すべてが同時並行に進んだ。 急遽の募集に参加した開拓者一行も精霊門を潜り抜けて理穴奏生へ。雪降りの谷間に大急ぎで長屋が建てられようとしていた。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
リア・コーンウォール(ib2667)
20歳・女・騎
十野間 修(ib3415)
22歳・男・志 |
■リプレイ本文 ●挨拶 月下の夜。精霊門を通じて理穴奏生を訪れた開拓者一行はそのまま現地へと向かう。街は雪に覆われていたが、通りは綺麗に除雪されていた。 「ここか」 羅喉丸(ia0347)は焼失した長屋跡を眺める。残骸に覆われている土地は全体の四分の一といった辺り。整理が終わった土地には木材などの資材が置かれていた。 すでに建築が始まった区画も見かけられる。 「なるほど‥‥」 十野間 修(ib3415)が組み上がった柱と梁を眺めていると、遠くから灯りが近づいてきた。やがて提灯を手にした中年男が闇から浮かび上がる。 「もしかして開拓者かい? 俺はあんたらへの協力をギルドから頼まれた桐助だ。よろしくな」 「私はリア・コーンウォールだ。不慣れなこと故に迷惑をかけると思うが、今回、よろしくお願いする」 桐助に声をかけられたリア・コーンウォール(ib2667)が真っ先に挨拶を交わす。 「横にいる龍はシュティンだ。頼りになるからな♪」 リアが首を撫でると甲龍・シュティンが小さく啼いた。 桐助の周りに集まった仲間達も順に名乗る。 今は朝に備えて寝るが肝心だと桐助が寝床に案内した。宿代わりの飛空船は歩いて数分のところに着陸していた。 「‥‥かなりよい飛空船だな。寝泊まりだけに使うのは勿体ないぐらいだ」 リューリャ・ドラッケン(ia8037)が月光に照らされる飛空船を眺めた。とても真新しい船体で傷一つ見当たらない。 「実は兵装前の理穴軍所属飛空船だと聞かされている。儀弐王様の計らいとのことだ。中を見たらもっと驚くぞ」 扉を開いた桐助が開拓者達を船内に導いた。 多段ベットで無理矢理に人を押し込むような構造ではなく、狭いながら個室が用意されている。十部屋あるので余裕で全員がゆっくりと休めそうだ。 続いて船尾の開閉口を開いて龍三体が内部へ。船倉内には厩舎的空間も用意されている。皇龍・頑鉄、甲龍・シュティン、空龍・ルナはふかふかの藁の上に寝転がった。 アーマー「戦狼」・RE:MEMBERも収納。固定設備周辺は整備しやすい構造になっている。 「詳しい話は作業が始まる朝からにしよう。今んところは身体を休めよう。部屋はここ以外ならどれでも構わないからな」 大きく欠伸をした桐助が個室に消えていった。 「寝ましょうか。俺はこの部屋を使わせてもらいます」 十野間修がお休みの挨拶をして一室の扉を開く。他の開拓者達も個室を決めて眠ることにした。 ●建築作業開始 朝食は近所の有志が用意してくれた。 野外で煮炊きされた御飯と味噌汁で空腹を満たす。それからすぐに桐助と一緒に現場へと向かう。 「地面に線が引かれているだろ。ここに最初の一棟を建てる。次の予定地はあの辺りなんだが、まだ残骸が残っているからな。おそらくだが明日には終わるだろう。そうしたら資材が運ばれるはずだ」 桐助が大きな釘箱の上に墨絵の図面を広げて説明する。 建てる三軒長屋は平屋なので非常に簡単な造りになっていた。大黒柱はなく、角や壁になる場所に細い柱を立てて梁で繋いで骨組みにする。何カ所かは筋交いを入れて強度を確保することになるだろう。 壁面はすべて『粗壁』。柱の間に割り竹を縦横に編む竹小舞を作り、その表面に藁スサを混ぜた粘りのある泥土を塗って仕上げる。時間と手間のかかるやり方だが、これで寒さをかなり防ぐことできるはず。 屋根は『板葺』。強風の際、剥がされないように重石が必要である。 「床は木材で作って畳を敷く。竈なんかは出来合いのがあるからそれを運び込めばいい。あ、玄関と窓、作るのを忘れないようにな。慣れた職人でもうっかりしちまうことがあるのさ。土壁を壊してやり直す時間はないからな」 桐助がざっと話した後で十野間修が提案をした。 「柱と梁で箱形の骨を作ってから長屋全体を形作っていく作業手順は理解しました。ですが現物合わせで建てるのではなく、材木の寸法決めと継ぎ手の部分の加工を予め施しておいてから、組み立てるというのはどうでしょうか。任せて頂ければ俺がやります」 桐助は呻り続けて散々悩んだ。少しでも早く建てなければならない状況下で新しい工法を試すのはどうなのだろうかと。 「‥‥わかった。この一棟で試してみようか。但し、もしうまくいかなかった場合には以後、俺の言うとおりにしてくれ」 桐助の了承を得たところで長屋建築が始まった。 「ルナ、柱を抑えてもらえますか。そう、しばらくそのままてお願いしますね」 十野間修は空龍・ルナに手伝わせながら材木の加工に取りかかる。 桐助はリアと一緒に木の棒と糸を使って正確な距離を測った。地面に糸が張られていく。その際、汲んだ桶の水面を利用して水平も定められる。 「こういう作業は大好きだな。ずっとやっていたいくらいだ」 リアは地面に顔を近づけながら木の棒を地面にさして糸を結ぶ。 「うまいもんだ。こういうのは性格がでるからな」 桐助はリアの几帳面さに感心する。 柱の位置が決まるまでの間、リューリャと羅喉丸は十野間修を手伝う。やがて糸が地面に張り終わった。これが三軒長屋の実寸見取り図となる。 「そんじゃま、駆鎧の有効活用と行きますか」 柱を立てる穴を掘るために、リューリャがアーマー「戦狼」・RE:MEMBERを駆動させた。 『戦狼』の手には理穴ギルドからもらってきた鉄製の廃材が握られている。ちょうど穴掘りによさそうな円匙の形をしていた。 「まるで人のような体型の駆鎧だ‥‥」 桐助が立ち上がった『戦狼』を見上げて呟く。そして穏やかだった表情が作業を見守る間に驚きのものへと変わっていく。 『戦狼』が一回の穴掘りにかけた時間はほんのわずか。床の支柱の分も合わせて三軒長屋に必要な柱穴のすべてが三十分もかからずに掘り終わる。 「こりゃ便利なもんだ」 屈んで穴底を眺める桐助の横に『戦狼』から降りたリューリャが立つ。 「俺は駆鎧ってのは‥‥こういうのに向いていると思うんだがな」 「そうだな。俺は駆鎧は戦う道具とばかり思っていたが、考えを改めなきゃならんようだ」 感心しながらも作業は進められていく。 「駆鎧は効率的に動かさないといけないからな。さて今のうちに」 羅喉丸が地面で俯せになり、穴底の土を増減させて深さを調節する。リア、リューリャも同じようにしていた。 地表の糸の位置から一定の深さにする必要があったからだ。上に置く柱が傾かないよう礎石を水平にするのも求められた。 「よし。こんなもんか」 皇龍・頑鉄は口に咥えた礎石を羅喉丸に渡す。 桐助は十野間修を手伝う。 穴底の準備が整ったところでリューリャが『戦狼』を再び動かした。 リア、羅喉丸、十野間修、皇龍・頑鉄、甲龍・シュティン、空龍・ルナが穴に差し込んだ柱を支える。 そして『戦狼』が柱同士を繋ぐようにして器用に梁を填め込んでいく。桐助は釘打ちで仮止め担当だ。 (「こりゃ楽だな」) 桐助が心の中で呟く。こうすれば少々の歪みがあっても仮組みの段階で全体に分散されるので問題は起こりにくかった。何より早い。 全体の仮組みが済んでから全員で穴の隙間を土で埋める。踏み固めるのは龍達の役目。後は骨組みが外れないように本番の釘で打ちつけていく。 「信じられないな」 暮れなずむ頃には柱と梁による骨組みが完成する。 「疑ってすまなかったな」 「いえ、俺こそ。駆鎧があっての工法なのがよくわかりました。ですがこれでうまくいきそうですね」 桐助と十野間修が肩を組んで骨組みを眺めた。 「どれだけ必要かわからないが、とにかくたくさん割っておこう」 リアは日が暮れるまでに竹小舞用の竹をナタで割り続ける。仲間達も明日に備えて作業を進めた。 夕方には有志達が作ってくれた炊き出しの御飯を食べる。銭湯に出かけて日中の汗を洗い流す。 帰り道には小腹が空く。桐助が奢ってくれた屋台の二八蕎麦を食べてから飛空船で就寝するのであった。 ●決断 二日目の朝が訪れる。 どんよりとした雲が気になるものの、朝食を済ませた一同は大工仕事を始めた。 「昨日と同じように材木を加工していきます。一人での作業ですと一日で一棟分ができるかどうかといったあたりです」 十野間修は鋸を担いで資材の山に埋もれる。 昨日に続いて空龍・ルナに木材を抑えてもらう。寸法を測って墨で線を引いて鋸で切った。鉋をかけ、玄翁とノミを使って継ぎ手部分を彫っていく。 屋根部分の組み立ては桐助と羅喉丸が担当する。 「龍はいうことをとてもよく聞くんだな。おかげで忘れ物をしても一々上り下りしなくて済む。それに自由に動く梯子代わりにもなるし」 「頑鉄、誉められているぞ」 羅喉丸が視線を送ると皇龍・頑鉄が桐助に吠えて応えた。 丁寧に合わせながら板を打ちつけても、わずかな隙間は空いてしまう。板の間に藁を挟んでさらに土壁用の泥土で埋めていく。 泥土は粘り気のある土と藁スサを混ぜて作られたもので左官屋から購入したものだ。 土壁作りはリューリャとリアが担当する。 「この作業も面白いな。シュティン、もっと竹を持ってきてくれ。リューリャ殿、そっちはいるか?」 壁を作る空間に割り竹を縦に並べて仮に固定。次は横に並べながら荒縄で結んでいく。最初は結び方に迷ったが徐々に慣れてきた。 「これで十二面分できあがったな。俺はぼちぼちと泥土を塗るとしよう」 「わかった。竹は任せて頑張ってくれ」 リューリャはリアに竹小舞を任せて左官用のコテを手に取る。縦横に組まれた竹小舞に泥土を塗り込んでいった。 まずは片面のみだ。反対側を塗るのは乾燥してからになる。泥土は想像していたよりもずっしりと重くて大量に使う。資材置きの場所から持ってくるだけでも苦労した。 志体持ちのリューリャでさえそうなのだから一般人はそれ以上だろう。 「‥‥そうか。この手があったな」 リューリャは『戦狼』を動かして資材置き場にある泥土入りの木箱をまとめて運び込んだ。 それだけでなく降着姿勢に工夫を凝らす。ギガントシールドをお盆代わりにして木箱を持ち上げさせておく。これで屈まずに泥土を手元へと補充でき、かなり作業効率があがった。 「リューリャ殿を担いであげてくれ」 リアが甲龍・シュティンにリューリャを手伝わせることも。シュティンの背中に跨がったリューリャが高い位置に泥土を塗っていった。 休憩時、リューリャは桐助にどれくらいで泥土が乾燥するのかを訊ねる。 「一日、二日経てばそれなりに固まる。そうしたら裏面を塗ってくれ。完全に乾くのは一ヶ月後だな。職人によっては一年かかるという奴もいる」 「どう考えても間に合うはずがないな」 「無理な力を加えなければ大丈夫だ。壁になるべく触らないようにして住んでもらおうじゃないか。大家も店子に説明するだろうし。木板だけの壁だと寒すぎるんだ。せめて荒土壁じゃないとな」 「わかった。緊急の事態だからな」 昼頃から粉雪が舞っていたが徐々に本格的な降りとなった。夕方の仕事終わりには全員が心配するものの、杞憂で終わる。 三日目の朝は晴れていた。一晩かけて一、二センチメートルほど積もっただけで済んだ。その日の仕事は積雪の除去から始まる。 「すまんが雪かきを頼んだぞ。全体の進みが知りたいんでな。ついでに順調だと報告をしてくるわ」 桐助は担当外の進み具合を確認しに出かけていく。 「頑鉄、雪を捨てるのはあの辺りだ」 円匙で掬った雪を羅喉丸が大八車に載せていく。八割方溜まると皇龍・頑鉄が引っ張って捨てにいってくれる。 「ルナも頼むぞ」 十野間修は資材の上に積もった雪を麻袋にまとめていく。そして空龍・ルナの『荷鞍』に膨らんだ麻袋を積んだ。 飛翔したルナは宙返りをして雪捨て場に麻袋を落とす。着地して麻袋をついばみ、中の雪を空にしてから十野間修の元へと戻っていく。 「昨晩のうちに麻布を被せておいてよかったな」 リアは建築途中の骨組みから大きな麻布を外す。麻布は開いた麻袋を何枚もつなぎ合わせたものでかなりの大きさがあった。 雪を包み込むよう巾着状にして縄で結わえる。それを甲龍・シュティンに運んでもらう。 「現場から少し外れているが‥‥この辺りもやっておこうか」 リューリャは『戦狼』を駆動させて一気に雪かきを行う。風向きのせいか五センチメートル前後、積もった通り道があったからである。 今はまだ許容できるものの放置すると後々面倒。そうなる前に除去しておく。 一時間もかからず雪かきは終わった。桐助が戻って昨日の続きに取りかかる。 竹小舞は二時間程度で全面完成。泥土塗りは順調。屋根部分は午前中に終わり、作業は床へと移行する。 木材の継ぎ手加工は二棟目分が完成。三棟目分に手がつけられる。 乾燥待ちの泥土塗りが一部残ったものの、夕方までに一棟目が粗方完成した。 「ここから見えるように他の三軒長屋も順調だったぞ。あと三、四日で六棟は確実だ。うまくいけば七棟といったところか。俺達が二棟を完成させれば、全部で八棟の目標は達成できる」 桐助が一棟目を眺めながら開拓者達に状況を語る。 「専門の職人達には七棟分を頑張ってもらうとしまして――」 「これ以外に二棟建てれば、十棟になるな」 十野間修と羅喉丸が十棟完成を口にする。 「十棟か。どうせやるなら達成したいところだ」 「そうだな。是非にやるべきだ!」 リューリャとリアも以前に建っていたのと同数である十棟を完成させたいという。 「‥‥わかった。全力を尽くそうじゃないか。だとすれば二棟同時にやった方が効率がいいぞ。明日の早い時間に継ぎ手の加工は終わるんだろ?」 「その通りです」 桐助が十野間修に確認をとる。作業手順を変更して二棟同時に建てることにした。 早くに大雪になれば二棟分は未完成で終わってしまうだろう。だがうまくいけば十棟完成にまでこぎ着けられる。 日が暮れてからも作業したい気分にかられるが、充分に休むのも仕事のうち。食事と銭湯の風呂を済ませ、一同は早めに就寝するのであった。 ●差し入れ 四日目からの二棟同時建築は間違いなく効率はよかった。 材木加工が終わった十野間修は竹小舞と泥土塗りを手伝う。 作業そのものは間に合いそうなのだが、泥土塗りには乾燥が必要だからだ。乾燥の時間を計算に入れると竹小舞はかなり早めに終わらせる必要があった。 「何だかこれが一生の仕事のように思えてきたぞ」 竹同士を縛るのに集中しすぎたリアは桐助がだした休憩の合図を聞き逃す。作業を続けているとしばらくして何かが肩に触る。 「今いいところなんだ、シュティン。邪魔を‥‥いや、これは人の手か」 振り返ると見知らぬ謎の女性が立っていた。 「飛空船にお汁粉を用意しています。一緒に食べませんか?」 「お汁粉‥‥いや、甘い物はちょっと‥‥いや大分ダメだな」 「甘い物はお嫌いですか。では醤油おせんべいもありますが、どうでしょう?」 「醤油せんべい!」 醤油せんべいなら食べたいとリアは謎の女性と一緒に仲間達が待つ飛空船へ。船内にはもう一人、別の女性がいる。 「儀弐王様、突然いなくなられたので驚きました」 「せっかくならば冷めないうちに食べてもらおうと思いまして。リア殿はお汁粉はいらないそうです。大雪加殿は――」 リアは会話を聞いて一瞬のうちに多くのことを理解した。 「じょ、女王の儀弐重音殿に気を遣わせてしまったようで」 「よいのです。みなさんに喜んでもらうために来たのですから。はい、この醤油おせんべい、美味しいですよ」 リアに儀弐王が醤油おせんべいが入った器を手渡す。お茶も淹れてくれた。 他の開拓者や桐助はのんびりとした様子でお汁粉を食べている。 「大雪加さん、ありがとう。ものすごく身体が温まるな」 「あの、はい‥‥。よかったです」 恋人同士の羅喉丸と大雪加は人目があるとき、どうしても畏まった話し方をしてしまう。二人きりのときはもう少し砕けた感じになるのだが。 「長屋の火災の原因はわからないそうだな。思い当たる節がないのか、それともありすぎるのか?」 餅を呑み込んだリューリャが儀弐王に質問する。 「どの火元なのかの特定が難しかったからなのです。この季節、寒さで火を扱わないわけには参りませんので」 「夜間の警邏などを増やした方がいいかもな。店子も怖がっているかも知れないし。一回刻まれた災害の恐怖ってのは消え難いからな」 儀弐王は奉行所に伝えておくとリューリャに答えた。 「できることなら全棟の完成後、さらに手を入れたかったのですが‥‥。さすがにそこまで大雪は待ってくれなさそうです」 「きっと店子のみなさんが工夫されます。完成を待ち侘びて見学しに来る店子の方がおられると大家殿が仰っていました」 十野間修も儀弐王と短いながらお喋りをする。 ちなみに龍達にもお肉と魚介の差し入れがある。お腹いっぱいに食べたシュティン、ルナ、頑鉄はこれまで以上の働きをみせるのだった。 ●完成に向けて そして五日目、六日目と過ぎて七日目になる。 これまでも断続的に小振りの雪は降っていた。だが午後から降り始めた雪は本降りを予感させる。 雪を想定してすべての屋根は完成していた。 残る大仕事は泥土による左官作業のみ。リューリャとリアが作業を進める。 桐助は玄翁と釘を手に各棟を点検して回った。 羅喉丸と十野間修は三棟すべての部屋に畳を担ぎ入れる。 厚い雪雲のせいで夕方を待たずに辺りは暗くなっていく。 「これでいいだろ」 「ばっちりだ」 提灯が照らす室内でリューリャとリアが道具を置いた。宵の口に泥土塗りが終わる。 外を眺めると雪は本降りになっていた。 「最後に塗った面は内側だから雪の影響も少ないはずだ。後は俺が責任を持つから心配するな。みんなの頑張りのおかげで完成だ!」 桐助は開拓者達に感謝する。 全員で銭湯に行き、桐助が贔屓にしている料理屋に立ち寄って三棟の完成を祝った。職人達の七棟も完成したようである。 「おかげで暖かく過ごせる人たちがいます」 深夜、開拓者達が帰る際には桐助だけでなく儀弐王と大雪加も見送ってくれた。 (「志体はいずれ消えるだろう、それは別に良い。その代わりとして、こういったものが将来の助けになれば良い」) リューリャは『戦狼』に乗ったまま精霊門を通過する。 翌日から以前の店子を優先した入居が行われた。八棟分はすぐに埋まる。しばし日を置いてから二棟分の入居募集が行われることだろう。 開拓者達の協力のおかげで多くの家族に団らんが戻ってくるのであった。 |