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■オープニング本文 朱藩の首都、安州。 海岸線に面するこの街には飛空船の駐屯基地がある。 開国と同時期に飛空船駐屯地が建設された事により、国外との往来が爆発的に増えた。それはまだ留まる事を知らず、日々多くの旅人が安州を訪れる。 そんな安州に、一階が飯処、二階が宿屋になっている『満腹屋』はあった。 満腹屋には常連客がたくさんいる。 「豚玉そ〜すぅお好み焼き、おまちどおさまなのです☆」 そして給仕の智塚光奈が常々不思議と感じる男性の常連が何人かいた。 昼頃に来店するのは仕事場が近くなのだろうから理解できる。ただ夕方にも殆ど毎日顔をだすのは何故なのか。 独り身ならごく普通の行動だが、光奈が気になる人達は全員が家庭持ちである。 各家庭の事情なので深くは追求しなかったものの、そのうちの一人に相談されたことで事情が判明した。 「いい嫁なんだ。でもな、飯だけはまずくてよ。少しぐらいなら愛があるから、おいらも食べらぁ。でもちょっとやそっとじゃないんだ。なあ、光奈ちゃん。うちの女房に料理の仕方を教えてくれねぇかな?」 「え? わたしが教えるのです?」 一人が相談すると我も我もと光奈に頼む常連客が続出する。 光奈は断り切れず、仕方なく一度だけお料理教室を開くことに。光奈もどれだけ美味しくないのか少々興味があったことも事実である。 ちょうど店を畳んだばかりの飯処が近くにあってそこを借りた。居抜きで次の借り手を探しているので調理道具が一通り揃っていたからだ。 表向きは無料のお料理教室であったが、様々な諸経費は嫁を送りだす常連男性客が出し合う。 満腹屋の料理が習いたいといって女性客も何人か混じることになった。但し、本当の理由は伏せられる。 一人で教えるのは荷が重いので開拓者達にも手伝ってもらうことに。光奈はさっそくギルドを訪ねて手続きをとった。 |
■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
国乃木 めい(ib0352)
80歳・女・巫
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
サライ・バトゥール(ic1447)
12歳・男・シ |
■リプレイ本文 ●明日の準備 お料理教室が開かれる前日深夜、開拓者一行は朱藩安州の地を踏んだ。 「ご苦労様なのですよ〜♪ 部屋の中、暖かくしておいたのです☆」 どこにも立ち寄らず満腹屋を訪ねると智塚光奈が出迎えてくれた。朝まで仮眠をとり、午前からお昼にかけては一階食事処を手伝う。 「さて暖簾を仕舞いましょうか」 客がひけたところで鏡子が暖簾を下ろして準備中の札をかける。 料理人達が休憩と夕方からの仕込みをする時間帯に、開拓者達と智塚姉妹は本格的な打ち合わせを行った。 「参加者の名簿に目を通させて頂きました。妙齢の奥様もおられるとすれば、少々厄介ですね」 「国乃木さん、どうしてのなのですか?」 国乃木 めい(ib0352)の発言に光奈がきょとんとした表情を浮かべる。 「相手がお料理上手の光奈ちゃんやみなさんだといっても、余り若い子達にあれこれと指摘されるのは‥‥と言う方も居られるでしょうし‥‥」 なるほどと光奈だけでなく他のみんなも頷いた。 こういうのは感情の結果なので理屈は通りにくい。時間が掛けられる状況なら打開策もあるが一日限りのお料理教室で信頼関係を結ぶのは至難の業だ。 「その通りですわね。ではそのような方々の指導は国乃木さんにお任せしてもよろしいかしら?」 「はい。微力ながら手伝わせて頂きます」 国乃木は鏡子からの要請を快く引き受けた。 (「風邪が流行っていますからね‥‥」) 他に国乃木が気になっていたのは一緒に来るはずだった孫の友人のことである。光奈も体調を崩したのではないかと心配していた。 「奥さんにも言い分はあると思うけど、料理が不味いって結構深刻な問題だよねぇ。やっぱり家でも美味しいもん、食べたいし」 胸の前で腕を組みつつ、リィムナ・ピサレット(ib5201)が呟く。上級人妖・エイルアードもまったく同じ姿勢でうんうんと頷いてみせた。 「アル=カマルの料理ならいくらかわかりますが‥‥。今回は天儀の料理を覚えるつもりもあるので基本通りに作りますね」 「あ、サライさんにはお願いしたいことがあるのですよ〜」 サライ(ic1447)と光奈が相談している間、羽妖精・レオナールは二人の頭上を旋回しながら聞き耳を立てる。 『そうねぇ♪ 美味しいのを沢山作れるようになってね〜♪ 楽しみにしてるわ♪』 サライと光奈の会話が一段落したところでレオナールがウィンクする。 「レオナも習ってよ‥‥」 サライとレオナールのやり取りに一同の間に笑いが起こった。 リィムナはエイルアードが荷物の中から取りだした筆記用具を受け取る。 「光奈さんからどの料理を作るかは聞いておいたからね」 『僕も写すの手伝うよ』 リィムナとエイルアードは予めレシピを用意するつもりでいた。 一部の料理はレシピがすでにあったので、食材の分量を家庭用に再計算して書き直すだけで済みそうである。 レシピ化されていない料理は光奈や鏡子、満腹屋の料理人達に口述してもらって新たに書き起こさなければならなかった。 優先順位が高いのは『味噌汁』と『お魚の煮付け』。それから『お好み焼き』と『鍋料理』。満腹屋のカレー『辛い丼』も。参加者が希望している料理も用意する。 冬だからこそ選ばれた料理もあった。今が夏場なら教える料理も変わってきただろう。 国乃木は夕方からの再開店後に明日のお料理教室に伴侶が参加する常連の旦那衆から話しを聞いた。 「どうやら、今までの調理法の延長で料理に何かを足せばうまくいくと考えているようなんだ‥‥」 「それは大変ですわね」 国乃木は愚痴っぽい話をされてもずっと笑顔のままだ。 (「わたくしではとても真似できませんわ」) その様子を離れて眺めていた鏡子が感心する。 サライとレオナールは二階の部屋で香辛料を作っていた。 「カリー、えっと満腹屋では辛い丼だったよね。香辛料の配合表はリィムナさんが書いているレシピに載るみたいだけど、満腹屋でも小売りするみたいだよ。明日分の粉は僕たちが頑張ろう」 『ずっとスリコギを回しているの疲れたわ‥‥』 「次はこっちの鉢もお願いするね」 『‥‥‥‥』 脱兎の如く窓から飛び去ろうとするレオナールをサライがっしりと掴む。 「こ、今晩、添い寝してもいいから」 『‥‥なら仕方ないわね』 鼻歌交じりに香辛料を粉末にするレオナールを眺めて、サライは安堵のため息をつくのであった。 ●お料理教室 そして翌日。近所にある閉店した食事処を借りての満腹屋主催お料理教室が開催された。 先生役は開拓者三名。そして光奈と鏡子である。 「みなさん、よろしくお願いしますです。満腹屋の智塚光奈なのです☆」 光奈の挨拶もそこそこにまずは参加者達の料理の腕を計ることになった。三十分を目安に最大一時間で完成する料理を各自に作ってもらう。 (「あの砂糖の量、お汁粉でも作るのかな? えっ、もしかして大根のお味噌汁?! あ、鍋なんだ。でもすき焼き風にするとしても多すぎるよね‥‥」) サライはものすごく豪快な鍋作りを目撃して冷や汗を垂らす。羽妖精・レオナールは興味津々な瞳で眺めていた。 (「つい口を挟みたくなりますが、今は我慢しないといけませんね。参加者同士で味見をすることで、わかることもあるでしょうし」) 国乃木は壁沿いの椅子に腰かけて料理教室の全体を観察する。ちなみに忍犬・山水は余計な野次馬が現れないよう出入り口の外での番犬を任されていた。 リィムナと人妖・エイルアードは参加者が自由に作った料理を率先して試食する。 「ん〜甘すぎかな?」 『こちらのは独創的な味ですね』 あからさまな表情や態度にだすことはせず、できるだけやんわりと表現して伝えた。他にも『ちょっと辛すぎるみたい』『火を通しすぎてるかも?』といった感じで答える。 参加者同士の試食が進んでいくうちに言葉数が少なくなっていった。お互いの料理が美味しくないことを自覚していく大切な機会である。 会話が弾んでいるのは満腹屋の料理を習うために参加した一部の者達の作業台のみだ。 「えっと、まずは天儀料理に欠かせない甘辛な味付けの基本、お水、お醤油、砂糖の割合のお話なのです☆」 光奈が醤油と砂糖での味付けの注意点を語った。引き続いて鏡子が鰹節、煮干し、昆布を使った出汁のとり方を説明する。 「じゃあ、この中から作りたい料理を選んでねっ♪」 『筆記用具もありますので、写してくださいー』 お料理教室の壁にはリィムナとエイルアードによって満腹屋のレシピが貼りだされていた。約二十分の余裕がとられて、その間に参加者達はレシピを写していく。 早くに書き終わった参加者達用としてサライはあるものを用意していた。それは『アダナケバブ』と『バクラヴァ』である。 「どちらも故郷のアル=カマルでよく食べられている料理なんです」 『はい、は〜い♪ 並んで並んで〜♪』 二つの料理の味は両極端。『アダナケバブ』はスパイスがとても効いた辛い肉料理。反対に『バクラヴァ』はとてつもなく甘い菓子だ。 「あ、鼻につーんときますね。あ、後からもっと強烈に‥‥」 「美味しいけど、天儀の人が食べるならもう少し、抑えめのほうが」 「こちらにかかっているのは蜂蜜かしら?」 「かかっていない部分の味が好みだわ」 参加者達が大辛と激甘を試食して感想を言い合った。 (「そうです。個々の好みがこれだけ違うんです」) そのやり取りを聞きながらサライが心の中で呟く。そして会話に織り交ぜてさりげなく人のために作る料理にはそれ相応の味付けが必要ではないかと説いた。 『私は激辛も激甘も大好きよ〜♪』 いつの間にかレオナールも双方の料理をパクパクと食べている。 「もう、そんなに食べちゃって。本番の料理も試食もしてもらいたいのに」 『運動してくるから大丈夫よ♪ ついでにサライきゅんも食べたいわ♪』 「い、今はそういうのダメだからっ」 サライの肩に乗ったレオナールは誰にも気づかれないよう耳たぶを甘噛みするのであった。 ●年輩の女性 (「あの方は確か‥‥」) 国乃木は昨日、話しを聞いた常連客の伴侶を教えることになった。自分よりも三十ほど若くて五十路ぐらい。とても落ち着いているように見える。 「咲さんですね。先程、お味噌汁を頂かせてもらいましたわ」 「そのお味噌汁なのですが‥‥」 料理相談というよりも身の上話といった感じで国乃木による指南は始まった。咲の旦那は常識の範囲内ではあるものの、塩辛いものが大好きだという。 「あの人の健康を考えまして、家で食べるときぐらいはと半年ぐらい前から味噌汁の塩気を少なめにしたんです。そうしたらだんだんと箸をつけなくなっていって‥‥。近所の噂で満腹屋さんによく顔をだしていると耳にしまして‥‥」 咲は旦那の身体を心配するあまり、塩気の少ない家庭料理を用意した。旦那はそれで満足できずに外食の機会を増やす。 外食の機会が増えたので咲はさらに家庭料理から塩気を少なくしていく。そうやって悪循環が発生していたようである。 「そうですね。塩分の代わりに出汁に工夫を加えてみては如何でしょうか。塩麹も組み合わせれば塩気を減らしても美味しく食べられるのですが‥‥」 初期の段階ならともかく、行くところまでいってしまった現在だと悪循環から抜け出せないと国乃木は気づいた。 「もとい。よい出汁の使い方は覚えて頂きますが、まずは普通になさってみては?」 「普通‥‥ですか?」 食卓を敬遠するようになってしまった旦那の気持ちを元に戻すためにも、国乃木は普通に塩を使った料理作りを勧める。 料理に対する信頼が回復できたところで、塩麹などを使って少しだけ塩分を控えめの料理を作ればよい。 「そうですね。性急過ぎたのかも知れません。私は‥‥」 「いえ。旦那さんのお身体を心配してのことですから。きっと真心は伝わりますよ」 国乃木は簡単な出汁のとり方として、粉末にした煮干しや干し昆布を鍋の湯に溶かしてみせた。 「鍋のときはこれぐらいの荒っぽさで出汁をとった方が美味しかったりしますからね」 「確かにお味噌汁も美味しいですし、こちらの海鮮鍋の風味は素晴らしいです」 一緒に作った鍋を国乃木と咲で味見。ここにお手軽な満腹屋料理の家庭版ができあがった。 満腹屋のレシピから外れていたものの、甘味が強すぎる料理を作りがちな参加者にも国乃木は解決方法を伝授する。 「メリハリのある味付けをすればよいのです」 「えっと、どうすれば‥‥」 「おでんの大根のようなものです。出汁の味こそ染みこんでいますが、あれを頂くと箸休めになって口の中が落ち着きますよね。味付けの濃い料理は素朴な味の食材を合わせることで美味しくなります。ですから小麦粉の皮で包んでみてはどうでしょうか?」 「あ、とても美味しそうです!」 よくなったのは今回の料理だけではなかった。この参加者は今後の指針になる助言を得たのである。 一時間後、完成した甘味を国乃木が試食。そのときの笑顔がすべてを物語っていた。 ●レシピ通り リィムナが面倒をみる参加者達は写したレシピ通りに調理を開始する。 「アレンジは基本ができるようになってからね。まずはきちんとレシピ通りに作ろう♪」 どちらかといえばリィムナの役目は指南役というよりも監視役に近かった。 素直な参加者が大半だったものの、手強い奥様も混じる。天邪鬼な性格なのか意地でも一手間加えたいようで、リィムナの隙を見て分量を変えようとしていた。 「これはね。こうやって切ればいいんだよっ♪」 「あ、は、はい。そうですね」 リィムナは背中に目がついているかのように、そのような者達の一足一投足を把握。変えることができないよう声をかけていく。まるで『だるまさんが転んだ』状態だ。 人妖・エイルアードもリィムナを手伝う。天井付近でふわふわと浮かぶながら見張りを怠らない。 『これお塩ですよ』 「あ、本当だ。‥‥確認したつもりだったのに」 慌てん坊の参加者が塩と砂糖を間違える寸前であった。大きく容器に名前が書いてあるのにも関わらず。どうやら焦るとだめな様子である。 リィムナが落ち込む慌てん坊参加者に近づいた。 「あたし、美味しくしよう、美味しくしようと思っているうちに頭の中が真っ白になっちゃって‥‥」 「それだけ旦那さんのこと大好きなんだね♪」 リィムナの一言で慌てん坊参加者の両頬が真っ赤に染まった。慌てん坊の若妻は千紗という名だ。 「あたしも一緒に作るよっ♪ そうだ。千紗さんも一つ一つの作業をする度に深呼吸をしてみたらどうかな?」 「深呼吸‥‥?」 リィムナは千紗と一緒にお好み焼きを作り始めた。冷ました出汁で小麦粉を溶き、食材を混ぜて鉄板で焼いていく。 「吸って〜」 「すぅ〜っ」 「はいてぇ〜」 「はぁ〜」 調味料を間違いがちな参加者は千紗の他にもいる。彼女達も一つの作業が終わるごとに深呼吸をして心を落ち着かせた。 (「焦っていただけの奥さんも多かったんだね♪ 慣れてくれば深呼吸もいらなくなるだろうし」) リィムナは参加者達の調理を手伝いながら、自分も満腹屋の料理を学んでいった。 ●アル=カマルの料理 ぐつぐつと煮える鍋。 「お魚料理も奥が深いですね」 サライは自ら下ろした魚で煮付けを作る。 『ばっちりよ。さすが私のサライきゅん♪』 「あ、レオナ。それまだ半生だよ」 参加者達と一緒に天儀の料理をレシピ通りに完成させていく。 その最中、サライは参加者達がこれまでどのような調理をしてきたのかを聞かせてもらう。怪談よりも恐ろしい身の毛のよだつ実話ばかりだったので、そっと心の奥底に仕舞っておいた。 (「鱗やワタをとらずに煮付け‥‥‥‥。相手によっては離婚を考えるところですね‥‥」) 鍋の作り方も覚えたところで、サライは光奈から頼まれていた辛い丼を作り始める。 辛い丼の作り方を覚えるためだけに参加した者もいるらしい。それだけ人気があるメニューのようだ。先に野菜類を切っておいてもらったので下拵えは万端に整っていた。 「えっと。アル=カマルのカレーはさらさらとしているのですが、今日は満腹屋さんのレシピ通り、とろとろのカレーを作ってみます。さらさらのレシピはあそこに貼ってありますのでよかったら写してください。香辛料を調合したカレー粉はすでにあります。配合の仕方はレシピにもありますが、後日満腹屋さんで手に入れられるようです」 サライはカレーのルーのためにフライパンを熱する。 「手順は複雑そうに見えますが、覚えてしまえば簡単ですからね。玉葱は丹念に炒めてもよいのですが油で揚げてしまう荒技も結構使えますよ。あ、丸のままではだめです。ちゃんと表皮を剥いて切ってくださいね」 サライは軽快な語り口で参加者達を楽しませながら手を動かしていく。時折、参加者と交代して手伝ってもらう。 「ジャガイモは擦って溶かし込み、あとで茹でたジャガイモを具として足すのが満腹屋さんのやり方のようです。面倒なら擦らずに大きめのジャガイモを入れるのもよいでしょう。そちらが好きという方も多いですし。あと煮込めば味がよくなるというものではないんです。わざと火から下ろして冷ますことも大切ですよ。そうすることで味が具材に染みこんで深みが増すんです」 慣れた手つきで作業としてのカレーが完成。火から下ろして冷ましている間にサライはケバブを作る。 再び温め直す作業はカレー作りに熱心な参加者達に任せた。 「ここまでなのです〜♪」 一時間後、光奈が調理終了の合図をだす。そして全員での試食が始まった。 ●そして 「そうそう。この味なのです☆」 「よく出来ているわね」 光奈と鏡子が各作業卓を回って味見する。 「味噌は生で食べても大丈夫ですから、無理に煮立たせる必要はないのですよ〜♪」 「その通りですわ。鍋料理は別にしても、味噌汁なら仕上げに溶かすぐらいが美味しいの。このお味噌汁はよい感じね」 基本、誉めて誉めまくる。自信が持てない故にあれこれといじくり回し、終いにはとんでもない味にしてしまう参加者が多かったからだ。 国乃木は試食をしつつ、料理に関する談義を妙齢の方々と交わす。 「肝の臓が弱った方には鶏や豚の肝臓を食べるとよいといわれていますね。医食同源といいます。牛乳に漬けると肝臓の臭みが薄まるので覚えておくと役に立ちますよ」 表向きの態度は別にしても旦那の健康を気遣っている主婦は多かった。若者達がいうところの『ツンデレ』に似たものなのかも知れない。 「辛い丼はとても好評のようなのです☆」 「みなさん、美味しいって」 光奈とサライが辛い丼を美味しそうに食べる参加者を見守る。辛い丼のよいところは使う香辛料の配合が決められているところだ。 「カレー粉の小売り、がんばってくださいね」 「はい、なのですよ〜♪ もしかして大きな商売になってしまうかも♪」 光奈の冗談を聞いてサライが笑う。 お料理教室が終わり、教える側だった一同は満腹屋に戻った。 サライは夕方からの一階食事処を手伝いつつ、来店した旦那衆にお料理教室での出来事を伝えた。 「僕が感じるところ、奥さん達はちゃんとみなさんのことを考えていますよ」 「そうだといいんだが」 「なんだかんだといって世話してくれるのは、愛情があるからです。倦怠期になって惰性とか腐れ縁とか、そういった愚痴をいっていたとしてもですよ。お話するだけで解ける誤解はありますから」 「よくわからんが、とにかく料理を誉めるところから始めるつもりだよ」 サライの言葉を素直に聞き入れる旦那は多かった。 「愛ゆえの行為だとしても隠し事や我慢は良くありませんよ」 『そうよねー。サライきゅんがあんな本やこんな本を部屋に隠してるのも良くないわよね〜♪』 「そういうこと、言わないでったら!」 『あ、顔が真っ赤だ〜♪』 サライがお盆を振り上げて飛んで逃げる羽妖精・レオナールを追いかける。 リィムナも旦那衆とお話しをした。 「忙しいとは思うけど休みの日なんかは一緒に台所に立って、料理を作ってみるのがいいんじゃないかな?」 「う〜ん。おいらが料理かい?」 「無理には勧めないけど味見すれば失敗も避けられるよ。それにお互いの、どんな味が好きなのかも分かると思うし。共同作業で愛が深まるんじゃないかな♪ 料理の出来る男性って素敵だと思う♪ 奥さん惚れ直すかもよ?」 「考えてみるよ」 良いか悪いかは別にして台所に立つのを嫌がる男性は多い。 それでもリィムナは手応えを感じていた。世間に内緒でも一緒に料理を作ろうとする旦那はいるだろうと。 満腹屋のレシピはしばらく一階飯処の片隅に置かれることとなった。その間、妻に頼まれた旦那が写していく機会も多く見かけられる。 一週間後、開拓者達の元に光奈からの手紙が届く。文には夫婦で来店してくれることが増えたと認められていた。 |