【夢々】失われた世界へ
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/01/12 19:45



■オープニング本文

※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。



 物資を大量に積み込んだ商隊の飛空船群が希儀の羽流阿出州を出立してから三日が過ぎ去る。
 それまで快晴だった空がみるみるうちに変わり、三十分後にはまるで嵐の壁が再出現したかの如く暴風が吹き荒れた。
 眼下に緊急避難可能な浮島はない。生き残るにはとにかく天儀まで辿り着くしかなかった。
 商隊は五隻の編成になっていたが、すでに散り散りの状態。護衛の開拓者達が乗り込んでいた飛空船も酷い状態になっていた。
 天井と床がひっくり返るのは普通の出来事。瓶に閉じ込められて、まるで振り回されているかのような有様である。
 船内の誰かが叫んだ。左舷の安定翼が破損したと。
 これまで奇跡的に操船されていた飛空船だが、激流に翻弄される笹舟と化す。
 後は吹き飛ばされるだけ。柱に掴まって堪え忍ぶぐらいしかやれることはなくなった。
 昼間のはずなのに真の闇に近づいていく。
 次第に揺れが収まっていくにつれて、各自の緊張の糸が切れた。やがて全員がその場で気を失ってしまう。
 時が経ち、船窓から射し込む光で最初の一人が気がついた。それからは起こし起こされて全員が目覚める。
 幸いなことに死亡や行方不明者、大怪我を負った者はいなかった。
 船窓から眺められるのは鬱蒼とした森の景色。飛空船はどこかの浮島に不時着したようだ。
 状況を確かめるべく外へとでてみる。よく育った樹木はともかく草はシダ類が殆どを占めていた。
「あれは龍? い、いや違うぞ!」
 商隊の一人が腰を抜かして尻餅をつく。十数メートル先に立っていたのにもかかわらず、それははっきりと見えた。
 成長した杉の大樹よりも背の高い動物が歩いていたのである。
 誰かが『恐竜』と呟いた。太古に生きていたとされる巨大生物だと。
 このとき遭難した誰もが気づいていなかった。恐竜が支配する『儀』に自分達が迷い込んだ事実を。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
雁久良 霧依(ib9706
23歳・女・魔
サライ・バトゥール(ic1447
12歳・男・シ


■リプレイ本文

●巨大トカゲ
 トカゲのような表皮をまとう巨体が歩く度に地面を通じて振動が伝わってくる。幻ではない恐竜がそこに存在していた。
「うわあ‥‥」
 両手を胸の前で合わせたサライ(ic1447)は瞳を輝かせて恐竜を仰いだ。
 鋭い牙に爪、その圧倒的重量感は魅せるものがある。姿形からして肉食恐竜なのは間違いない。ティラノザウルスか、もしくはそれに類する恐竜だろうとサライは推測する。
 羅喉丸(ia0347)が樹木の幹を交互に蹴りつつ上昇し、高い位置の太枝へと跳び乗った。
 高所から眺めると周囲にいたのはその恐竜一体だけではない。種類は様々だがはっきりと目視できるだけでも三体。『アメトリンの望遠鏡』を覗くと遠くに群れらしき集団も見かけられた。
(「強大なトカゲに、木々か。まるで自分が小人になったような気分だな」)
 羅喉丸は以前に恐竜と接触したことがある。ホノカサキの塔での出来事であったが、これほどの大勢ではなかった。
(「恐竜に加えて、もし魔戦獣まで棲息していたのなら‥‥」)
 この儀がホノカサキの塔と同じ生態系とは限らないが、よくよく慎重に行動しなければならないと心に刻みつける。
 リィムナ・ピサレット(ib5201)は巨木の幹に隠れつつ、そっと枝葉の間から覗き込んだ。
(「でかっ! でも‥‥」)
 恐竜はどうやらお腹いっぱいの様子である。口元が汚れていてお腹が少々出っ張っている感じがした。さらに大きなげっぷをする。
(「倒した方が安全なんだよね」)
 『黄泉より這い出る者』を打とうとしたリィムナだが、その手を止めた。独断専行はまずいと判断し、まずは仲間と相談して今後の恐竜対策を決めることにする。
「大きいわねえ‥‥。あれが食べられるなら食糧問題は一気に解決ね♪」
 雁久良 霧依(ib9706)は丸焼きを思い浮かべながら、遠ざかっていく恐竜の背中を見つめて呟いた。
「もう大丈夫だ。他のも去ったようだ」
 地面に飛び降りてきた羅喉丸が安全を宣言する。ひとまず全員で今後の話し合いが行われた。
 まずは食料と水の確保。これについては即座に全員一致で最優先事項と決まった。基本、開拓者四名の務めとなる。
 拠点を何処にするのかについては意見が分かれた。不時着の飛空船に留まるのか、安全な場所を探して移動するのかどうかだ。
 決が採られ、不時着の飛空船に留まる案が半数以上の挙手を得る。今の段階で修理を諦めるのは時期尚早であるし、助けが来た場合によい目印となるといった判断からだ。
「飛空船の修理は船員さんたちに任せるねっ♪」
「僕たちは周辺の調査ですか。とにかく水が欲しいですよね。恐竜だって飲むはずだし、近くに水飲み場があると思うんですけど」
 リィムナとサライが時折呻りながら意見を交換する。
「調査に出かけるとしても、この場の警備もしないとまずいな。恐竜はまた来ると考えるべきだろう‥‥」
「あれと戦うとすれば私たちの出番ね。二人ずつの班分けをして交互に調査と警備をするのはどうかしら?」
 羅喉丸と雁久良も意見を交わす。
「あのね。大人しそうなのはそのままでいいと思うんだけど――」
 リィムナは話し合いの場が解散する前に提案した。今後、獰猛な肉食恐竜が飛空船に近づこうとしたときには速やかに退治するべきだと。
「恐竜の生態が野生動物と同じだとすれば、離れた場所で倒す必要がありますね」
 サライは近場で獰猛な恐竜を倒した場合、屍肉を食らうスカベンジタイプの別恐竜が集まる危険性を説いた。そこでできるだけ飛空船の墜落地点から遠ざける努力をした上で倒すことも決められる。
「そうだ。雁久良さん、あれを頼めるだろうか?」
「そのつもりよ♪ お任せあれ♪」
 羅喉丸と雁久良は飛空船を中心にして辺りを散策する。
 雁久良が一定間隔の土地に『ムスタシュィル』を仕込む。これを施しておけば雁久良には侵入者が即座にわかる仕組みになっていた。

●水辺
 今日のところはリィムナと羅喉丸の壱組、雁久良とサライの弐組に分かれる。まずは弐組が留まって飛空船周辺の警護。壱組が食料確保と調査に出発した。
「恐竜とはいえ生き物には水が不可欠だ。どこかに大きな‥‥あれは?」
「すぐに見つかってよかったねっ。降りようか♪」
 飛び立って五分後。皇龍・頑鉄に跨がる羅喉丸と滑空艇・改弐式・マッキSIを駆るリィムナは上空から川を見つける。
 さっそく引き返して頑鉄に縄付きの樽を積んで再び川へ。
「頼むぞ頑鉄。御前がいてくれて助かるよ」
 ゆっくりと飛ぶ羅喉丸が縄を伸ばして川面に樽を触れさせた。
「よいしょっと♪」
 樽を川に沈めるのはリィムナの役目。ぽんと叩いてひっくり返す。七割ぐらいが水に満たされたところで蓋を閉じて上空の羅喉丸に合図を送った。
 二人で一樽ずつ運ばなかったのは安全を考えてである。樽を使った水汲みを三度繰り返したところで調査を再開。ここからは川の下流を目指す。
「ちょっと待っててね♪」
 リィムナは地図を描くために時折、速度を落とした。
「いないな‥‥」
 その間、望遠鏡を取りだした羅喉丸は、はぐれた飛空船がいないか注意深く周囲を観察する。
「海の湾‥‥ではないな。湖か」
「おおきいねっ♪」
 やがて川の下流に遠くからでもわかる水辺が見えてきた。
 更に棲息する生き物達も。先程見た個体よりも大きな全長二十メートル超えの水棲業龍が何頭も浮かんでいる。
「この竜は草や藻を食べているみたいだし、やさしそうだね」
 きょろきょろとリィムナが辺りを見回す。巨大な湖だけあって、集まっている恐竜たちも多種多様である。
「羅喉丸、食料にするのならどれが美味しいと思う?」
「ん〜、そうだな。持ち帰ることも考えればあまり大きいのは大変だな。それにどうせなら美味い方がいいが恐竜の味は知らないからな。そうだ‥‥あれなんてどうだ?」
 羅喉丸は大空を飛ぶ鳥の群れを指さす。
「あ、大きな鳥がたくさんいるね。でも翼に爪があるし、コウモリ? 翼竜っていうには羽毛が生えているし、だからやっぱり鳥なのかな?」
 食べてみるのが手っ取り早いと二人は途中で考えるのを止めて狩りを開始した。
 羅喉丸が『火炎弓「煉獄」』で大鳥一羽の脳天を狙い射つ。リィムナが錐もみ落下する大鳥をマッキSIで掬うように拾い、全速力で飛び去った。
 群れを引き離したところで頑鉄が獲物の大鳥を爪で掴む。そのまま飛空船の墜落地点に戻る。
「お帰りな‥‥すごく大きな鳥だね」
「これ、美味しそうよね♪ リィムナちゃん、偉いわ♪」
 雁久良とサライは湯を沸かすために火の準備をしていた。さっそく大鳥を捌き、野外で焼き始める。
「お塩、これしかないけれど使っちゃうわね」
「海か岩塩がどこかにあればいいな」
 サライと雁久良が肉を貫いた木棒を回す。破損した鉄棒を何本か突き刺したおかげで、巨大な鳥肉は中まで熱が通って程よく焼けた。
 漂う美味しそうなにおいに誰もが腹を空かせる。分け合って肉を食べるときに商人の何人かが涙を零す。あまりの美味しさに張っていた気持ちが緩んだようだ。
「お腹がいっぱいになったら順番で眠ろう♪」
「そうだな。食って寝て、まずは元気になるところからだ。疲れていると怪我もしやすいからな」
 リィムナと羅喉丸が率先して見張りを引き受ける。まだ太陽は高かったが、作業を切り上げて休むこととなった。
「えっと‥‥」
 見張りの間、リィムナは忘れないうちに地図を清書する。
 飛空船の墜落地点と川の位置、そして下流の湖はできるだけ正確に。方位は飛空船に備えつけの磁石を取り外して調べたので正確なはず。
「湖と川が繋がる場所から東の方角に山があったな」
「だとすると川はこっちに続いているのかなっ?」
 リィムナと羅喉丸は海がありそうな方角を予想して地図に注意書きを加えておく。食事の最中に塩の話題が出ていたからだ。
 その地図は明日調査に向かう弐組へと引き継がれた。

●真っ白な世界
 翌朝。弐組が出かけてまもなく、上空から大地に向けて一筋の閃光が輝いた。雷を浴びた巨体の肉食恐竜が煙をまといながら大地へと崩れ落ちて地響きが鳴る。
「驚いちゃったわ。冷や汗ものよね」
「突然に立ち上がられると怖いですね」
 滑空艇・カリグラマシーンに乗る雁久良と駿龍・フェリドゥーンを駆るサライが飛んでいる最中、涎まみれの大口を空けた肉食恐竜に跳びかけられたのである。
 不時着地点からそれなりに離れていたので放置。二人は川の水を樽に汲んで飛空船へと届けた。その後、壱組から受け取った地図を引き継いで海を目指す。
「念のため、暗視を使っておきますね。あ、小型の竜も結構います」
「美味しそうなのがいたら教えてね♪」
 昨日食べた大鳥の丸焼きはとても美味しかった。
「あそこに転がっている岩、あれ恐竜ですよ。よく見れば目があります」
「うそっ?! ほんとに?」
 サライの言うとおり、しばらく観察していると岩がもっそりと動きだす。
「‥‥信じられないわ。さっきの恐竜といい、より注意を払わなくちゃいけないわね」
 湖上空を通過。湖の水が流れでる川を探しだしてそれを辿っていく。約一時間後、想像していたよりも早くに水平線が見えてきた。
 しかもご褒美のような場所を発見する。
「あの海岸の砂浜、真っ白ですね」
「下りてみましょうか」
 真っ白な地面は非常に固かった。そこは海水が蒸発してできた自然の塩田。塩の塊がそこら中に転がっていた。
「これは幸運ね♪ これで調味料の基本は何とかなったわ♪」
「よかったです‥‥えっ‥‥? えええっ?!」
 話している途中で突然に雁久良が脱ぎだしてサライは慌てふためく。
「海辺でこの格好はちょっと野暮ったいし」
 雁久良はそこらにあった葉っぱや蔓を使って器用に身体を覆う。
「ビキニっぽいのが出来たわ♪ ここ蒸し暑いし丁度いいわね♪ どう?似合うかしら♪」
「ど、どうって‥‥」
 雁久良にウインクされたサライは顔を真っ赤にさせる。
 サライも雁久良につき合って身軽になった。そして二人で泳いで海の食材を探す。滑空艇・カリグラマシーンは駿龍・フェリドゥーンが留守番して守ってくれた。
(「綺麗な海‥‥」)
(「普通っぽい青魚もいるけど、すごい形のもいるし」)
 飛空船の備品にあった水中呼吸器を使って二人は長く水中に潜った。やがてカジキマグロによく似た魚竜を見つけて二人で獲ろうとする。
 雁久良が囮になっておびき寄せ、岩の影に隠れていたサライが鮪もどきの脇にしがみつく。サライが素早く『苦無「烏」』で頭天を突くと徐々に大人しくなった。
 全長が四メートルを越えていたので、とても運びきれない。その場で解体し、余った分はフェリドゥーンの豪華な昼食と化す。
「お塩に鮪っぽいお肉が手に入ったわ♪」
「これで野菜か果物があれば‥‥あ、あそこに! 少し引き返しましょう!」
 飛空船に戻る途中、サライが『暗視』でアケビによく似た木の実を発見する。
 いくつかの実に小鳥が啄んだ跡があったので食べられると判断。一つを半分にして二人で囓るとほんのりとした甘味が口内に広がった。
 アケビもどきも持てるだけ収穫して持ち帰る。
 帰還後、雁久良とサライが休憩している間に仲間達が調理をしてくれた。
「味も鮪っぽいわね♪ 脂の部位は他の調理にも使えそうだし、よかったわ」
「あ、普通に美味しいですね!」
 鍋にされた鮪を頂き、そして食事の締めにはアケビもどきを頂く。
 二日間の成果で食料に関してはやっていけそうな手応えを全員で感じ取る。
 後は飛空船が直れば帰還の道も開かれるのだが、そううまくはいかない。安定翼そのものを新規に製作する必要に迫られていた。
「材料の木はたくさんあるんだ。落ち込む必要はないぞ」
「鋸やノミ、釘が船底から見つかったよ♪」
 互いに励ましあい、飛空船の修理が進められる。
 生木は本来工作に向かないのだが、ここは一時しのぎとして仕方なく使われる。それでも乾燥していそうな樹齢の高い老木を選んだ。
 安定翼は比較的小さめだったので丸太の一刀彫りで作られる。全体のバランスを考えて破損した側だけでなく左右共に。商隊の中にいた元木工職人が担当するのであった。

●目印
(「この恐竜はきっと不味いに違いな‥‥‥‥知らぬ間に目利きができるようになってしまったか。たった数日だというのに」)
 シダの葉に隠れてやり過ごす羅喉丸は、目前を通り過ぎていく恐竜を眺めながら心の中で呟く。
 墜落して五日目。この地で生きていくための知識は得られたといってよい。
 羅喉丸は離ればなれになった他の飛空船捜索を本格化させる。但し、食料探しと同時に行う。組を入れ替えて、今はサライと一緒に行動していた。
 この場所に下りたのは樹木がまとめてなぎ倒されていたからだ。飛空船が墜落した跡のような、そのような景色に見えたのである。
「羅喉丸さん、これを見つけましたよ」
 茂みの中から現れたサライは破片を手にしていた。
「俺達が乗ってきた飛空船とは違う色が塗られているな。墜落地点からかなり離れているし」
「僕もそう思います。この先を探してみましょう」
 倒木の間を歩いている途中で全長二メートル前後の青い恐竜と遭遇する。二人であっという間に倒し、食べられそうな部位だけを確保した。
 残念ながら五十メートルほどで倒木はなくなり、地面に墜落の形跡は残っていなかった。
「墜落しかけて、再浮上したということかな」
「だとすればここから北西の方角に飛んでいったのかも」
 二人は龍で飛びながら明日はどの方角に探しに行くかを相談する。ついでに周囲で一番高い樹木の頂に真っ赤な布を縛っておく。
 その布には自分達の飛空船が墜落した地点を示す絵が描き込まれていた。

●恐いばかりではない
「味見、味見っと♪ ‥‥これってお店でお金とれる美味しさじゃない?」
「すごーい! 塩胡椒をちゃんとしたみたいだ」
「この実を潰したら香辛料になったのよ♪」
「もしかして胡椒のご先祖様かな? お芋も茹で終わったよ〜♪ そろそろ皆を呼ぶね♪」
 雁久良とリィムナが作った料理が食卓へと並べられる。食事はただ腹を満たす段階から美味しい料理へと変化を遂げていた。
「恐竜だらけの危険な儀だが、見方を変えれば食料だらけの土地ともいえるな」
「あ、この水甘い。どうやって作ったんですか?」
 羅喉丸とサライは料理を頂きながら今日拾った破片のことを仲間達に話す。
 他にも生存者がいれば心強い。慌てないで地道に探していこうといった感じで報告の会話は終わる。
 雁久良とリィムナは食料探しに湖へと向かった。今晩のおかずとして巨大貝を確保。それからしばらくは自由な時間を過ごした。
「こんな景色、芸術学科の皆が見たらどう思うかしら? 特に常春君なんか目を丸くして驚くわね♪」
 雁久良は湖面に浮かぶブラキオサウルスを描こうと紙の上に筆を滑らせる。
「やっほー♪ うわぁっ!」
 ブラキオサウルスの頭の上で手を振ろうとしていたリィムナが足を滑らせた。
 そのまま首に沿って背中まで滑りつつ、跳ね上がった尻尾で宙に放りだされる。湖に落ちるかと思えば今度はアパトサウルスの背中に落ちた。
「もう心配させてくれちゃって」
 安堵のため息をつく雁久良。リィムナは照れ笑いをしていた。
 帰り道、地上から激しい音が聞こえてリィムナと雁久良は滑空艇の高度を下げる。
「あの石みたいな頭。確かパキケファロサウルスだ」
「何かすごいわね。ぶつかり合っているし」
 ちょうどパキケファロサウルスが頭突き対決をしている最中であった。
 その隙をついて巨大なネズミみたいな恐竜が巣から卵を盗もうとしている。リィムナは反射的に巣へと飛び降りて巨大ネズミを追い払った。
 巨大ネズミが鳴きながら去っていったせいで、リィムナの存在がパキケファロサウルスに気づかれる。
「えっと‥‥」
 引きつりながら笑うリィムナに二頭のパキケファロサウルスがじりじりと近づく。
「ちょっとまずいかも」
 雁久良はもしもに備えて『アークブラスト』を放つ体勢をとる。
 ところがパキケファロサウルスは特に襲うことなく、リィムナを首に乗せて巣から地面へ下ろしてくれた。
 空中から下りてきたマッキSIに乗ってリィムナが手を振る。どうやら二頭は番いだったようだ。頭突き対決は今後の子育てで言い合っていたのかもと二人は笑う。
「むにゃむにゃ‥‥柔らかい‥‥」
「お休みなさい。リィムナちゃん」
 夜、リィムナと雁久良は一緒の部屋で休んだ。ちなみに泰大学芸術学科の寮でも同室である。雁久良が頭を撫でるとリィムナはすやすやと寝息をたてるのだった。

●合流 そして
 やがて安定翼の修復が完了した。全員が飛空船に乗り込んで試験が行われる。
『左の安定翼、良好よ♪』
『右の安定翼も大丈夫♪』
 伝声管を通じて雁久良とリィムナの報告が操船室に響いた。
「甲板付近に異常は無いな」
「船底でも異常は見つかりませんでした」
 龍騎の羅喉丸とサライは飛空船を外側から目視で確かめる。外壁は酷く傷んでいたものの、見かけだけで強度に支障はなさそうであった。
 試験は終了。一旦着地して休憩をとる。
 他の飛空船をどのようにして見つけようか、自然に話し合いが始まった。まもなく遠くの空に見覚えのある輪郭をした影が浮かび上がる。
 羅喉丸はすかさず望遠鏡を取りだして影に向けた。
「‥‥間違いない。離ればなれになった商隊の飛空船だ」
 羅喉丸は飛空船二隻を確認。着地中のこちらの飛空船に気づいたようで、まもなく降りてくる。
 再会を喜び合う一同。合流した二隻には残りの商隊全員が乗っていた。
 開拓者達が乗っていた飛空船を除く四隻はまとめてこの儀に不時着したという。故障した四隻の飛空船の部品を寄せ集めて二隻を飛ばせるようにしたらしい。
 樹木の頂に縛りつけておいた布が役立ったようで、描かれていた絵を頼りにやってきたとのことだ。
「大変だったわね。もう大丈夫♪」
 雁久良は『レ・リカル』で負傷者を治療した。
「はい。これ美味しいよ」
「たくさんありますからね」
 食糧事情が悪かったらしく、二隻でやって来た者達は全員腹ぺこだった。リィムナとサライはあり合わせの食材で鍋を作って全員に振る舞う。
「三羽で間に合うか?」
 それだけでは足りないだろうと羅喉丸が弓で大鳥を調達してくる。こちらも即座に調理されて料理に化けた。
「あ、この子達は食べ物じゃないので」
 サライは放し飼いのパキケファロサウルスを眺めていた商隊の者達に注意を促す。
 リィムナが連れてきたパキケファロサウルスはサライのお気に入りでもある。是非に故郷で飼いたいと連れて帰るつもりでいた。
 数日かけて充分な食料を確保する。晴れた日の朝、三隻の飛空船が恐竜の儀から飛び立つ。
 商隊の一人が目印となり得る浮島を覚えていて、それを基準に空路が決められた。不安を覚えながら暗雲の狭間を飛び続ける。
 そして二日後。三隻は見覚えのある希儀の上空に到達。生還を果たした。