白いふわふわ 〜満腹屋〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/12/24 19:19



■オープニング本文

「は〜い♪ てっちり鍋、三人前なのです☆」
「追加でフグのから揚げ、もらえる? えっと、こっちも三人前」
 先日、捌き方を習った河豚の料理は大好評。給仕の光奈と鏡子は客が待つ卓へと料理を運ぶ。
 今冬の満腹屋の押しはこれで決まった。屋台で開拓者達が考えてくれた料理も頻繁に注文されている。
(「お姉ちゃん、張り切っているのですよ〜♪」)
 光奈がちらりと姉の鏡子を眺める。普段よりも精力的に仕事をこなしていた。
 十二月には鏡子がとても楽しみにしている行事がある。それはクリスマスイブのパーティだ。
 鏡子はジルベリア由来の料理が大好物。それらの中でも特に生クリームが使われた甘味に目がなかった。
 今年の満腹屋もお昼時で終了。夕方からは貸し切りにして身内のみでパーティを楽しむ予定が立てられていた。
 気がかりが一つ。
 かき入れ時に休むので売り上げへの影響は避けられなかった。付随して休みに不満を感じる客が一人もいないわけではない。ただこれを言い出したら満腹屋はずっと開店していなければならないので割り切りは必要だ。お互い様といったところだろう。
 とはいえできることならばすべて丸く収まるのが理想。光奈はよい方法はないか知恵を絞り続けた。
「そうなのです! お持ち帰りのケーキなのですよ♪」
 光奈は予約をとった上での満腹屋印のケーキ販売を思いつく。
 幸いなことに満腹屋には地下の氷室に併設された保冷室が存在する。数日ならば中間食材を劣化させず維持できた。
 二二日から生地を焼き上げて保冷。二三日の夕方には生クリームや果物で飾り付け。完成したケーキを二四日の朝から午後三時ぐらいまでに販売する。
 こうすれば満腹屋の売り上げは維持。さらに客にもクリスマスを楽しんでもらえるだろう。
「生地は大変なので、どこかのパン屋さんにでも‥‥あ、よい心当たりがあったのですよ〜♪」
 パン屋ではないが安州内のピザ屋『ボーノ』のことを思いだす。
 光奈が時々食べに行く店でとても繁盛していた。あそこの広い石窯ならケーキ生地を大量に焼くのも簡単なはずである。夜間に借りればなんとかなりそうだ。
 さらに光奈はお得意様の交易商人『旅泰』の呂にも相談する。この時期の天儀では手に入りにくい果物の入手を頼んだのである。
 少々割り増しな金額ながら泰国南部産のメロンや苺が手に入るという。他の果物も相談次第だ。
 さらに光奈は開拓者ギルドへと駆け込んだ。
「えっとお願いしますです〜♪」
 ケーキ作りの手伝い募集をかけるのであった。


■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144
10歳・女・巫
からす(ia6525
13歳・女・弓
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
雁久良 霧依(ib9706
23歳・女・魔


■リプレイ本文

●真夜中の相談
 小雪舞う深夜の朱藩安州。
 精霊門を潜り抜けて到着した開拓者一行は、白く染まる道に足跡を残しながら満腹屋を訪問した。
「よく来てくれたのです☆」
「寒かったでしょう」
 到着の時間を見計らっていた智塚姉妹は各種お茶を用意している。沸かしたばかりの湯で珈琲や紅茶、天儀茶が淹れられていく。
 開拓者達は冷えた手を容器で温めながら頂いた。
「とても寒いし、風邪をひいてしまったのかな? 大丈夫だといいんですけど」
 光奈は紅茶を飲みながら来られなかった開拓者の身を心配する。
 ともあれ今回の依頼の肝はクリスマス販売用のケーキである。それぞれに考えてきた案を披露した。
『ヒカリもなにかケーキ、おもいついた?』
『ケーキ、まだよくしらない。でもミナが作ってくれたプリンだいすき』
 オートマトン・しらさぎとからくり・光は仲良く並んで卓についた。それぞれ食べたいケーキがあるらしく、会話のやりとりで案が研ぎ澄まされていく。
「わたしは光が好きなプリンを作ろうと思っているのですよ〜♪ そのままにするか、生地を足すかは悩み中なのです☆ 礼野さんはどんなのにするつもりなのです?」
「えーと、まゆは聞いた話のケーキを作ろうかと。ジルベリアの方だったかな? 冬に使う薪を模したケーキがあるんだそうです」
 光奈に話しを振られた礼野 真夢紀(ia1144)が卓に置いた紙へと絵を描き始める。
「確かにこれって薪みたいだわ」
 礼野の絵を覗き込んだ鏡子が感想をもらす。
「チョコレートクリームとロールケーキでこの『薪のケーキ』を再現できないかなって」
「チョコのケーキ、いいですね〜♪」
「それと、これはケーキじゃないんですけど‥‥パンに胡桃とかドライフルーツなんか一杯入れて焼く日持ちする菓子パンがあるんですって」
「形はどんなのなのです?」
 礼野は首を傾げる光奈の前でこちらの絵も描いた。
「パーティなんかやって一杯お客さんが来る人用に、ケーキだけじゃちょっと足りない時一切れずつ切り分けられるように『木の実と干し果物のパン』を用意できればと」
「確かにお喋りが盛り上がってパーティの時間が長くなれば必要になるのですよ」
 白熱の会話を交わす礼野と光奈を、しらさぎは途中からじっと見つめ続けた。その視線に気がついた礼野が「よい案ある?」と声をかける。
『あのね、まゆき、「スポンジぶぶんよりクリームだけのたべたい」っていうの。スポンジつかわない‥‥イチゴのあじのくりーむだけかためるの、できない?』
 礼野はしらさぎの案を聞いてしばらく考え込む。
「‥‥試してみようか。そのケーキ」
 先程、光奈がプリン云々といっていたのをヒントに礼野は調理法を思いついた。
「ケーキを売ったらパーティなんだよね。すっごく楽しみ♪」
『う、うん、僕も手伝うよ!』
 リィムナ・ピサレット(ib5201)もケーキの案をお絵かきして一同に伝えようとする。
 人妖・エイルアードが用意した紙にさっそく描きだす。作る過程も表現したので絵は全部で六枚に達した。
「わかりやすいのです〜♪」
 光奈ができあがった順から絵に目を通した。そして完成後にリィムナの口から解説が行われる。
「まずクレープ生地の上にたっぷり生クリームを塗って、それを何枚も重ねてミルクレープを作るんだ♪ 上に生クリームとフォンダンを使って、サンタ帽被ったもふら様の顔を象ったデコレーション♪ この絵みたいにねっ♪」
「この赤い部分はどうやるのです?」
「そこは全てイ・チ・ゴ♪ 鼻と黒目はそれに適した果実、葡萄やベリー系がいいかな? 瞳の茶色部分はカラメルソース、口はチョコソースで描くよ♪ 顔がなるべく立体的になる様に注意するつもりなんだ♪」
「いい感じのケーキなのですよ♪ 名前は決まっているのです?」
「えっと『ふんだん! もふクレープ』なんてどうかな♪ ふんだんとフォンダンを掛けてみた♪」
「おー♪」
 リィムナと光奈のやり取りを聞いて一番目を輝かせていたのは鏡子である。エイルアードが鏡子の顔の前で手を振ってみても身動き一つしなかった。
 雁久良 霧依(ib9706)は礼野とリィムナが作るケーキの説明を一通り聞いてから自分の予定を伝える。
「ケーキ作りのお勉強もしたいわね♪ これからは、我が君や仲良しなみんなのために料理やお菓子を作る機会も増え‥‥って」
 はっとした表情を浮かべて雁久良が閉じた口を掌で隠す。
「まだおおっぴらにはしない方がいいかしら♪ 詳しいことは内緒♪ 乙女には秘密が付きものなの♪」
「意味深なのですよ〜♪」
 光奈が雁久良に顔を近づけながらにやりと笑う。雁久良は一瞬だけ視線をそらすが、すぐに戻して光奈にウインクする。
『乙女かどうかは兎も角』
 そこへ提灯南瓜・ロンパーブルームの突っ込みが。
「‥‥何か言ったかしら♪」
 腕を伸ばした雁久良のネイルリングがロンの頬を突いた。
『何も申し上げておりません、ははは』
「ロンちゃんもお手伝い宜しくね〜♪」
 雁久良の微笑みにロンが乾いた笑い声をあげる。彼女も作りたいケーキを絵に描いて説明を試みた。
「ケーキはココアパウダーを練り込んだ生地で生クリームを巻くの。こんな風にロールケーキを作って、生クリームで包み、上にカットしたフルーツをふんだんにのせちゃうわ♪ つまり礼野さんと同じ薪のケーキだけど味や色が違う『薪のケーキ』ね。名前はどうしようかしら?」
 雁久良は砂糖細工でサンタクロースやトナカイも作る予定だという。
 ケーキ作りの相談が終わったところで、光奈が開拓者達を二階の一室に案内する。一同は朝までぐっすりと休むのであった。

●下準備
 本格的な量産の前にまずはケーキの試作を試みる。
(「がまん、我慢ですわ」)
 鏡子は手伝ったものの、試食には手を付けなかった。折角の機会なのでパーティの夜に味わおうと。
 この後、鏡子はケーキの予約取りに邁進する。
 店外に貼り紙をして宣伝。荷車牽きのもふら・もふもふりんと一緒に市場から帰ってくると大量の注文を抱えていた。
 事前に食材の手配を整えて二二日を迎える。
「お世話になるのです☆」
 光奈を先頭にして一同はピザ屋『ボーノ』へと足を運んだ。石窯を使わせてもらうためである。
「さって粉は全部、任せてね♪」
『ぼ、僕は容器を準備します』
 小麦粉を篩にかけるのはリィムナが一手に引き受けてくれた。人妖・エイルアードはそれをせっせと手伝う。小麦粉が篩にかけて粉雪のように降り注ぐ。
「卵は任せてもらえるかしら」
 鏡子は鶏卵割りを担当。割った殻に黄身を移しつつ、白身と分離させていく。その手早さは目を見張るものがある。
「鏡子さん、卵の扱いがうまいですね」
「休みの日にはケーキを作ること多いから♪」
 礼野は鏡子から白身の器を受け取った。白身は氷室から持ってきた氷入りの箱で冷やしてから調理に使う。氷霊結の技を持つ礼野がいるので氷が足りなくなっても大丈夫である。
 ここから先は次々と食材を投入しつつ、泡立ての道具でかき回す作業が続いた。
 礼野の右側にはオートマトン・しらさぎ、左側にはからくり・光が立ち、一緒にかちゃかちゃと音を立てる。
「泡立ては腕痛くなるのよねぇ。クリーム作りのときも泡立てなくてはいけないし」
『しらさぎ、へいき。ヒカリもへいき』
 泡立てはしらさぎと光に任せて礼野は焼く作業を担当することに。薪のケーキは薄めに平たく焼いたスポンジ生地が必要となる。
 光奈が調達してくれた鉄器に生地を流し込んで石窯へ。焼き上がったスポンジ生地はくっつかないようにしながら重ねておく。
「実際に巻くのは明日になるけど楽しみよね」
「そのためにはスポンジ生地をたくさん作っておかないと」
 雁久良と礼野はスポンジ生地を焼き続ける。ちなみに雁久良の生地にはココアパウダーが混ぜられていたので茶色かった。
 シュトーレン作りも合間に行われる。
 生地の中に干し葡萄などのドライフルーツ、煎ったクルミなどのナッツを入れて発酵を二度繰り返す。千切って形を整えて石窯で焼く。熱いうちに溶かしバターを塗って日持ちする菓子パンの出来上がりである。
『なかなか難しいですなぁ』
「ロンちゃんうまいわね。こっちの手が空いたら私も作るから」
 雁久良が砂糖細工を担当する提灯南瓜・ロンパーブルームを誉める。熱で溶けた砂糖の塊を鋏などの道具を使って器用に形を整えていく。
「よし、ここからは鉄板と勝負だよ!」
『しょ、勝負だよ!』
 粉篩いが終わったリィムナとエイルアードはクレープ生地を焼いた。熱した鉄板に油をさっと塗り、道具を使って円状の生地を描く。
 薄いので焼けるのはすぐだ。それを箸で掬って繰り返す。
 エイルアードは皿を置いたり、食材を運んだりで大忙し。リィムナの周囲を飛び回る。
「これだけ作れば大丈夫なのです☆」
 光奈は手の空いたところを手伝う。
 気がつけばもう深夜。各種生地や完成品は荷車に載せて満腹屋へ。一部を除いて殆どは保冷室へと運び込まれた。

●ケーキ販売
 二三日はケーキ完成の追い込み日である。
『クリームつのたてるから、マユキかざりつけ、おねがい』
「そこの桶の水、凍らせておくから」
 礼野はスポンジ生地にオートマトン・しらさぎが作ったチョコレートクリームを乗せて巻いた。外側にも塗り、次々と『薪のケーキ』が仕上がる。
 もう一つの苺とクリームだけのケーキも作っていく。こちらの実作業は光奈とからくり・光がやってくれた。プリンも同時に作っているようである。
「こうやって切れば‥‥雪に周囲を覆われた切り株みたいに見えるわ♪ あ、名前思いついたわ。『切り株銀世界』なんてどうかしら♪」
『よいですね。では仕上げにサンタを置きましょう』
 雁久良と提灯南瓜・ロンパーブルームもケーキ作りに余念がない。
「よし、もふらの絵を描いて‥‥『ふんだん! もふクレープ』の完成♪」
『リィムナ、すごいよ!』
「注文によると、これを三十個作らないと。もしもの予備とパーティ用も必要だし」
『えっ! そんなに? フォンダン、もっと作らないと』
 大忙しでクレープを巻くリィムナと人妖・エイルアードである。
 二四日の販売はリィムナとエイルアードが店頭に立つ。ラ・オブリ・アビスでもふらに化けて引き渡しを行う。余分に作った分はその場で販売も行った。
「ふんだん! もふクレープ三個入り、お待たせもふよ〜♪」
『えっとお会計は‥‥』
 鏡子が取ってきた予約数はすごかった。大量に注文してくれたお客には光奈や他の仲間が安州を走り回って届ける。
「おまたせ、私もがんばるわよ♪」
「さ、寒くないもふ?」
 もふら・リィムナは目をまん丸にして驚いた。雁久良がミニスカサンタ服で店頭に現れたからだ。
「ロンちゃんが火鉢を持ってきてくれるから大丈夫よ♪」
 雁久良に少し遅れて火鉢を抱えたロンパーブルームが現れた。
 受け取りの予約客が増えてきて列ができる。店頭販売も好調。それでも予定の午後三時には完了する。
 普段なら夕方までの一時的な暖簾下ろしになるところだが、本日の満腹屋は完全終了。板場ではパーティに向けての調理が始まっていた。

●クリスマスパーティ
 日が暮れた頃、開拓者一同と満腹屋の全員は店内に集まった。
「はっぴぃくりすますぅ♪」
 光奈が音頭をとってクリスマスパーティは始まる。
 満腹屋の料理が一通り並んでいた。さらに雉の丸焼き等のクリスマスならではの料理も参加者達の食欲を誘う。さっそく切り分けて小皿に盛られていく。
「パーティいいもふ。一杯食べるもふ♪」
『おいしいもふ。毎日こうなら満足もふ〜☆』
 店内にいたもふらは何故か二体。
 一体は鏡子が世話をするもふもふりんである。そしてリィムナもラ・オブリ・アビスをかけ直してもふらの姿をしていた。
 ローストビーフの皿を持った人妖・エイルアードがもふら・リィムナの横に座る。
「ローストビーフももらうもふね。う〜ん、うまいもふ♪」
『そんなに食べたらケーキが入らないんじゃ‥‥』
「大丈夫! 甘いものは別腹もふ! しゅわしゅわの甘い炭酸もたくさん飲むもふ! 氷が浮いていて豪華もふ〜♪ ぐびぐび! ぷっはー♪」
『そんなに飲んだらまたおね‥‥むぐぐっ』
 もふら・リィムナが焼いた骨付き肉をエイルアードの口に突っ込んだ。
「余計なこと言わないでご馳走食べるもふ〜♪」
 手足をばたばたさせていたエイルアードだが、落ち着いて味わってみるととても美味かった。そこへ雁久良と灯南瓜・ロンパーブルームが現れる。
「は〜い。フグのから揚げおまちどうさま♪」
『ボーノから頂いたピザをこちらで焼いてみました』
 雁久良とロンパーブルームが運んできた料理を見て、もふら・リィムナが両目に☆を輝かせる。ほっぺたを膨らませて次々と頬張った。
(「私が年長さんみたいだし♪ 小っちゃい子が一杯で幸せよ♪ ふふっ」)
 一通り配り終えたところで雁久良はもふら・リィムナの正面に座る。
『これは美味いですな〜。何種類ものチーズを使っていると聞きました』
 ピザを頂いたロンパーブルームも瞳をピカリと輝かせた。
 オートマトン・しらさぎとからくり・光も給仕が一段落して卓に着いた。それぞれ一通りの料理を小皿に盛って味を確かめる。
『ヒカリがつくったサラダ、おいしい』
『しらさぎのお好み焼き、たくさんたべる』
 からくり系二体の仲むつまじい様子を眺めながら礼野と光奈も並んで座っていた。
「あう♪ 礼野さんと一緒に作った岩塩焼きのローストビーフ、美味しいのですよ♪」
「よい出来でよかったです。そうだ、このお肉の岩塩の産地はどこか教えてもらえると嬉しいんですけど」
 光奈と礼野が料理を食べ進める中、鏡子は殆ど口にしていない。気になった銀政が声をかける。
「身体の調子でも悪いのか?」
「いえ、何でもありませんわ」
 途中で二人のやり取りに気づいた光奈は銀政をそれとなく誘いだす。
「お姉ちゃんのことですけど――」
「そういうことか」
 柱の陰で光奈が銀政に耳打ち。おそらく鏡子はこの後のケーキをたくさん食べるために料理を我慢しているのだと伝えた。
 納得した銀政は食事については触れないようにして鏡子とお喋りを楽しむ。
 楽しい宴は続いたが、食事は一段落して早々にケーキの雰囲気になる。使い終わった食器などが片付けられ、卓には新たにケーキが並べられた。
「はい。たくさん食べていいからね」
 礼野がしらさぎの前に『苺クリーム』の容器を何個も置く。
「光にはたっぷりプリンなのですよ♪ 生クリームをかけて食べるとよいのです☆」
 光には光奈がプリンを運ぶ。お皿に盛ってから生クリームで飾れば出来上がりである。
 しらさぎと光は苺クリームとプリンを一つずつ交換。まず最初に食べたかったケーキを頂く。しらさぎと光はとても幸せそうだ。
「これが『ふんだん! もふクレープ』!」
 我慢してきた鏡子がついにケーキを頂く。甘味と酸味のハーモニーに酔いしれながら一気に食べきってしまう。
 味わって食べるのは二個目からということで、まずは一通りのケーキの味を確かめる。
「実はお二人のケーキを食べ比べたいと、ずっと思っていましたの」
 鏡子の前に礼野の『薪のケーキ』と雁久良の『切り株銀世界』が置かれた。
 薪のケーキはチョコレートクリームを塗ったスポンジが巻かれて丸太の年輪を表現している。外側はチョコレートクリームや粉砂糖で美しく飾られていた。
 切り株銀世界はスポンジ生地そのものにココアパウダーが混ぜられていて茶色かった。それに白いクリームが巻かれている。薪のケーキとは対照的な形といえた。外側には雪を思わせる生クリームが塗られ、サンタやトナカイの砂糖細工が笑顔を誘う。
「美味しいですわ‥‥あ、もう‥‥なんだか‥‥‥‥」
 比べるといっていた鏡子だが、食べ始めるとそれどころではなくなる。そんな姉を見守りながら光奈もケーキを味わう。
 プリン、苺クリームに続き、薪のケーキと切り株銀世界を半分ずつ。更にもふクレープも。普段はあまり似ていない光奈と鏡子だが、甘い物を食べたときの笑顔はそっくりである。
「喜んでもらえてよかったかな」
「そうね。料理人冥利に尽きるわ」
 礼野と雁久良もお互いのケーキを食べ比べた。
「そうそう、とっておきがあったの♪ あれっ?」
 雁久良が抜いたスパークリングワインのコルクが勢いよく飛んだ。
『危ないですね〜』
 ロンパーブルームの顔にぶつかったと思えたが見事口元で受け止める。
『これは美味いですな〜』
 そんなロンパーブルームはリィムナが作った『もふクレープ』に夢中。すでに三個目を食べていた。
「みんなのケーキ、美味しいもふ♪」
 もふら・リィムナが平らげた皿を積み上げていると雁久良がぴたりと隣に座る。
「お供えケーキも歓迎もふよ♪ あ〜んもふ♪ 食べさせると幸せになるもふ〜♪」
「はいもふら様、あ〜ん♪」
「もふぅ〜♪」
「あら可愛い♪」
 雁久良がフォークで掬った切り株銀世界をもふら・リィムナがぱくりと頂く。
(「リィムナちゃんの飲み過ぎ、今日は大目に見ましょう♪」)
 いつもは注意するところだが今日は飲みたいだけ飲ませてあげる。翌朝、布団に朱藩の地図を描いたかどうかは定かではない。
『‥‥美味しい!』
 エイルアードもケーキを食べる手が止まらなかった。そうこうするうちにリィムナがバイラオーラを自らにかけて踊りだす。もふら姿で軽快な足踏みを披露する。
『よーし僕も踊っちゃおう!』
 エイルアードも参加。二人とも片手にはフォーク、もう片手にはケーキがのった小皿を手にしていた。踊りながらパクリと頂く。
 卓で応援している一同からもお供えケーキとして食べさせてもらう。
「わたしも踊るのですよ〜♪ このクレープは特別に作ったメロン入りなのです☆」
 もふクレープを片手にもった光奈も参加。口の周りを生クリームで真っ白にしていた。
『まゆき、きっとみんな食べたい』
「そうね。少し分けてもらいましょうか」
 しらさぎと礼野は鏡子に相談する。
 お土産分のケーキは保冷室にあるので元々それを渡すつもりだったという。戻ってすぐに食べれば大丈夫。礼野はよく知っていたが、木の実と干し果物のパンならもっと持つはずである。
 クリスマスパーティは大いに盛り上がった。最後には木の実と干し果物のパンを摘まみながら時が過ぎる。
 予定のある開拓者はその日のうちに精霊門で帰って行く。
 そうではない開拓者達は急いで帰らずにもう一晩泊まる。住処に帰ったのは翌日の夜であった。