兄の恨み 妹の願い
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/12/09 01:31



■オープニング本文

 その夜の理穴・奏生開拓者ギルドは非常に静かであった。
 外来の者は一人もおらず、受付が並ぶ広間には職員達のみ。日が落ちれば自然と減るものだが、それでも五時間にも渡ってこの状況は珍しい。
 職員の誰もが欠伸をこらえながら依頼者を待ち続けていた。
 そんな折、勢いよく扉が開かれる。
 走ってきたのか娘は息を乱していた。歳は十五前後。清潔にしていたが着ていた服は酷く傷んでいて継ぎ接ぎだらけである。
「どう‥‥どう、すれ‥‥」
 娘は受付の応対場を見つけると早足に近づいた。
「本日はどのようなご用件で」
「あの‥‥さんを止め‥‥願い‥‥‥‥」
 受付の職員には呼吸が乱れていて娘の話しがよく聞き取れなかった。
 受付とは別の職員がお茶を淹れて持ってくる。そして娘に飲むのを勧めた。
 娘は深呼吸の合間にお茶で喉を潤す。
 暫しのち、ようやく話せるようになる。依頼として語られたのは娘の兄についてだ。
 兄妹は五年ほど前、山深い故郷の集落を逃げだした。
 両親が事故で亡くなったのを境にして集落の人々から酷い仕打ちを受けたからである。兄妹はすべての財産を奪われて家畜のように働かされたという。
「ですので兄は自分達が逃げだしたとは決して認めませんでした。俺達はすべてを奪われて追いだされたのだといっていました‥‥」
 方々を点々としながらようやく奏生から十数キロ先の山中に住み着いた。
 兄妹で力合わせて暮らしていくうちに故郷の集落への恨みも薄らいだ。そう娘は考えていたのだが兄はそうではなかったらしい。
 体調が悪くなった兄を半ば無理矢理に麓の町医者へ診せたところ、不治の病だと診断される。
「どうやら医者との会話を兄に聞かれていたようなんです。‥‥兄は翌日、手紙を残して小屋から消えていました」
 娘宛の手紙には集落の者達への復讐の決意が認められていた。
 娘の兄が生業としていたのは猟師。罠と弓矢で獲物を仕留めていたという。
「愛用の弓矢も小屋には残っていませんでした。私もあの集落の人達を恨んでいます。不幸になればいいのにと思うときもありますが、それでも自ら手を下すのは違うと考えています。どうか兄を探して思い留まらせてください。それが無理なら無理矢理私のところに連れてきてもらえれば‥‥でもあまり酷くはしないで頂けると‥‥」
 最初は受付の顔を見ていた娘だが徐々に俯いていく。
「これしかないのですが、大丈夫でしょうか‥‥」
 娘が開いた皮袋に入っていたのはわずかなお金である。
「こちらでも引き受けられますのでご安心を」
 受付は優しい声をかけてから急募の依頼書を作成するのであった。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂
ケイウス=アルカーム(ib7387
23歳・男・吟
宮坂義乃(ib9942
23歳・女・志
七塚 はふり(ic0500
12歳・女・泰


■リプレイ本文

●理穴の首都、奏生にて
 雪がちらつく深夜の理穴奏生に一頭の龍が舞い上がる。
 轟龍・赤紅を駆る笹倉 靖(ib6125)は仲間達が飛空船の出発準備を整えている間に確かめたいことがあった。
「こりゃ立派な門だ」
 依頼人の娘『白花』から聞いた町医者から事情を聞くためである。
 訪ねようとしたが門横の番人部屋には誰もいない。多くの人の命がかかっているので、勝手に中へと足を踏み入れた。
 庭を歩いて屋敷に近づくと人影が見える。提灯を持つ男は屋敷まで案内した門の番人なのだろう。門番部屋に誰もいなかったのはそのせいである。
 笹倉靖は灯籠の裏に隠れて様子を窺う。高熱がでた子供を心配して父親が連れてきたらしい。深夜の診療が終わって門番と共に親子が帰って行く。
 町医者は笑顔で見送る。だが親子が見えなくなった途端に口の端をあげた。
「ちょいと深刻なことをいってやれば、高価な薬が売れる売れる。ちょろいもんだ。しかしこんな夜更けに迷惑この上ない」
 悪徳の呟きを耳にした笹倉靖は飛びだして町医者の胸ぐらを掴んだ。
「酷えやつだな。おめぇは」
「な、なんだ貴様!」
 笹倉靖は松吉を診察した日のことを町医者から聞きだす。
 騙しやすいと判断して付き添いの白花に嘘をついたと白状した。松吉は不治の病ではなくただの風邪。だが容態が悪くなれば本当に命を落としかねないらしい。
「その嘘のせいで‥‥」
 世間の噂では名医で通っているので腕は確かのようだ。笹倉靖は町医者の目を睨みつけつつ事情を丁寧に説明した。
「わ、わかりました。は、放してください‥‥」
 町医者が松吉の症状に良く効く薬の無料提供をいいだすのに、大した時間はかからなかった。

●ギルドにて
「依頼人の白花さんだったね。お兄さんは無事に連れて帰るよ、安心して待ってて」
「は、はい」
 ケイウス=アルカーム(ib7387)は飛空船の準備を心配そうな表情で見つめる白花に声をかけた。
「特に近道があれば多少険しくてもよいから教えて欲しい」
「近道‥‥そういえば――」
 訊ねたのは兄の松吉が選択すると思われる麓から集落への道筋についてである。白花は幼い頃に兄妹で見つけた細道を思いだす。
 ケイウスの次に白花へ話しかけたのは七塚 はふり(ic0500)だ。
「白花殿は兄上の松吉殿をどうお呼びしているのでありますか?」
「えっと、普段はお兄ちゃんといっています」
 さらに松吉がすぐにわかる白花の持ち物を貸して欲しいと頼む。
「唯一手元に残ったお母さんの形見ですから、お兄ちゃんもすぐにわかると思います」
「この櫛、大事に預からせてもらうのであります」
 七塚は白花の櫛を布で丁寧に包んでから大事に懐へと仕舞った。

●離陸
「よし。戻ってきたな」
 快速小型船内の操船室で待機していた羅喉丸(ia0347)は前屈みになって前方の窓を覗き込んだ。戻ってきた龍騎乗の笹倉靖が甲板に降りたのを確認する。
 すでに点検は終えて小型船の起動宝珠を駆動させていた。
「出力あげてくれ」
『わかった。すぐにやる。そのまま飛んでもかまわない』
 羅喉丸が伝声管で機関室の宮坂 玄人(ib9942)とやり取りを行う。離陸の報を告げる鐘を鳴らした三十秒後、静かに小型船を浮かび上がらせて前進させる。
「兄さんのことは俺達に任せてくれ」
「お願いします!」
 クロウ・カルガギラ(ib6817)は滑走中の小型船を追いかける白花に声をかけた。彼女の足が止まったところで乗降口の扉を閉める。
 兄妹がかつて住んでいた集落の山は奏生から遠い地にあった。それでも飛空船を使えば造作もない。夜が明ける頃には到達間近となる。
 ただあまりの吹雪にそのまま近づくのは困難だった。仕方なく麓に着陸し、そこからは登山と相成った。

●雪の登山
「これはもう真冬だな」
 乗降口から下船したばかりの羅喉丸が襟元を片手で握って塞ぎながら呟く。
 吹雪いているせいで遠くは望めなかった。夜が明けているはずなのに周囲は薄暗く、目指す山裾は殆ど窺えない。
 徒歩で新雪の山を登るのは大変なので一行は飛んで向かうことにする。但し、暴風の影響を極力緩和できる地上から数メートルの高さで進むことを選ぶ。
 龍や翔馬を連れてきた開拓者達はそれらに乗騎した。ケイウスは笹倉靖の後ろに乗せてもらう。七塚は羅喉丸の背中にちょこんと収まった。
 上級迅鷹・ガルダは自力で飛翔。人妖・てまりも低空限定ながら充分飛べるのだが、クロウの世話になる。
 小型船のおかげで予定よりも一日以上早く到達したことになる。とはいえ松吉の病状や集落への襲撃のことを考えると時間的余裕はまったくなかった。
「義助、高度には充分気を付けろ。間に合わせるんだ」
 宮坂玄人は跨がる嵐龍・義助に話しかける。
「俺も妹だからな‥‥。だから、絶対に止める」
 地表から十メートルを指標としてそれを越えないように手綱を捌く。
 短絡させつつも道沿いに飛び続けたのは突然の暴風に備えてである。姿勢を崩しても無理せず滑空して軽く足を着けば簡単に修正ができた。これが樹木の上を飛んでいたのなら簡単にはいかない。
 特に雪面への着地回数が多かったのが轟龍・赤紅。もっとも暴風のせいではなく背中に乗せていた人物が問題だった。
「大人しく乗ってないと落とされるぞ、こいつ荷物と主人以外は落としていいと思ってるから」
「俺って荷物以下‥‥!?」
 ケイウスは松吉の暴走を早く止めたいと焦りつつ、笹倉靖の背中にしっかりと掴まっていた。するとケイウスを毛嫌いしている赤紅はより激しく暴れる。
「不幸中の幸いというべきなんだろうな」
 クロウは風雪の寒さに耐えながら、これが悪いことばかりではないことに気づいていた。
 余程近くを通り過ぎない限りは松吉が自分達一行を目視することは不可能である。それは隠密で先回りできることを示していた。
(「復讐か。やられたらやり返すのは当然のことだけどさ‥‥」)
 クロウにも思うところはある。
 復讐がそのものが悪いのではない。そうしなければ先に進めない者もいるだろう。『目には目を歯には歯を』は正しい一つの見識だ。だが後先を考えない松吉のやり方には同意しかねた。
 ケイウスが白花から聞いた近道の上空を通過して再び本道と合流する。徒歩の場合、約三十分の短縮に繋がるようだ。
「あれは‥‥?! と、止まって欲しいのであります。地面に降りて欲しいのでありますよ」
 七塚が突然に叫んで全員が空飛ぶ速さを落とす。本道から少し外れた荒れ地に一旦着地した。
「これを見かけたのでありますよ。足跡であります」
 本道に近づいた七塚が雪面を指さす。降りしきる雪のせいで消えかけていたが、間違いなくかんじきの足跡が残っていた。
 大きさや沈み方からいって一人の足跡だと推測できた。通り過ぎたのではなく、行ったり来たりしてこの周辺に罠を仕掛けた様子が窺える。
「猟師の罠なら地面へ設置する型が主力のはず。頼むのであります」
『さ、寒いわ。まったく人妖使いが荒いわね』
 七塚は吊り橋付近に罠が仕掛けられていないかの調査をてまりに頼んだ。人魂でリスに化けたてまりが雪面をかける。
 雪が降りしきる土地なのにリス程度の重さで仕掛けが働いていたら役に立たない。てまりが夜目を併用しつつ探っていく。
『ここ、変な窪み方しているわよ』
 てまりが場所を示してから遠ざかった。
「思いっきりいくのであります」
 七塚がダーツを取りだして投擲すると雪面が崩れだす。落とし穴は他愛もない悪戯の類いではなく、底には尖った竹が何本も仕掛けられていた。
「討ちもらした集落民が落ちるのを想定していたはずなのですよ。間違いないのであります」
 七塚とてまりは周辺の罠をすべて潰してから吊り橋方面に向かうことにする。
 松吉が抱く憎悪の象徴を目の当たりにした本隊は先を急いだ。白花から聞いた話によれば谷に架けられた集落に続く吊り橋はもうすぐであった。

●松吉の説得
 七塚と分かれて数分後、吊り橋が見えてきた本隊は安全な場所へと着地する。谷を挟んだ向こう側に集落は存在していた。
「集落民の皆殺しを狙うのなら寝静まってからだろうな。だとすれば、今は姿を隠しているはずだ」
 羅喉丸は雪に覆われた森を指さす。杉の木は緑を残していたが落葉樹はまるで枯れているようである。
「森の中に隠れていても心眼ならおそらく見つけられるはずだ。俺に時間をくれ」
 『心眼「集」』を習得している宮坂玄人が率先して松吉探しを開始する。この辺りにも罠が仕掛けてあるかも知れず、拾った枝で探りながら森へと分け入った。
「罠の可能性か。吊り橋も探っておくべきだろう。集落の人々に気づかれぬようこっそりとやるとしよう」
 皇龍・頑鉄に乗った羅喉丸が吊り橋の下側を飛びながら確かめる。他の何人かも縄や木材に異常がないか点検を行った。
「少し見てきてくれますか?」
 ケイウスの指示で迅鷹・ガルダが集落の偵察に向かう。戻ってきたガルダは穏やかな様子。惨事は発生していないようだ。
 念のためケイウスは『超越聴覚』で集落に聞き耳を立てた。どんなに強くても風にはわずかに止む瞬間がある。待ち続けると集落から親子の笑い声が聞こえてきた。
(「どうしてその優しさを兄妹に‥‥」)
 やるせない気持ちを抑えつつ、音から察せられる集落の状況を仲間達に伝える。
 吹雪のせいで野外にでている集落民は皆無。いたとしても薪を取りに家の周囲から離れることはない。
 家々から聞こえてくる声は穏やかなものが多かった。松吉が自分達よりも先行して集落に潜り込んでいる状況はなさそうだ。これで森に隠れている可能性が高まる。
「国によって差異はあるんで一般論だがな。ギルドで聞いたところによれば、もう何年前のことなんで集落民への罰は難しいそうだ。松吉については人殺しを実行しない限り、沙汰はないだろうといってたが、まあ――」
 笹倉靖が出発前に神楽の都のギルドで調べてきたことを仲間達に伝える。
 吊り橋に仕掛けられた様子はなかった。
 放置するとは考えにくく、これからなのか、または松吉の体調が悪化して手を付けられなかったのだと想像する。
「罠はすべて外して埋めてきたのであります」
 そうこうするうちに七塚とてまりが合流を果たす。それから数分後、宮坂玄人が戻ってきた。
「森の中にある崖に洞穴があった。その中に誰かが隠れている。冬眠中の熊もあり得るが‥‥おそらくは松吉だろう」
 宮坂玄人の案内によって全員揃って森の中へ。
 龍や翔馬を連れて行こうか迷ったが、樹木のせいで動きにくいので置いていくことにした。その代わり、吊り橋の番人役を任せる。松吉が現れたら怪我をさせないで捕まえるようにと重々言い聞かせておく。
 開拓者達が洞窟が望める位置で立ち止まった。
 必要以上に刺激しないようにとケイウスは『詩聖の竪琴』を取りだす。吹雪の中、手袋代わりに巻いていた包帯を解き、素手で『安らぎの子守唄』を奏でた。
『見えるわ。あの特徴は松吉さんね』
 しばらくすると、暗視を用いていたてまりが洞窟の出入り口付近で人影を見かける。
「妹さんは、復讐なんて喜ばないよ」
 思わずケイウスが叫ぶと矢が飛んできた。強風の最中だというのにケイウスの髪先を掠めて枯れ木の幹に突き刺さる。
(「並の腕ではないな。どうであれさすが理穴は弓術士の国だ」)
 銃砲を扱う砂迅騎のクロウが感心する。距離は二十メートル程度だがこれだけの風の中で曲射を用いてき高精度弓射ちは至難の業だからだ。
「復讐を遂げたとして、あんたはそれで良いかもしれないが、残された妹さんはどうなる? 村人全員に復讐を果たしたとき、あんたは大勢の人を殺した殺人鬼だ。そしてそんな事件が起きればその噂はすぐに広まるだろう」
 ケイウスの次に説得を試みたクロウにも矢が飛んできた。それでも怯まず、最後まで言い通す。
「妹さんは殺人鬼の妹として生きていかなければならなくなる。それはあんたも望む所じゃ無いだろう!」
 珍しく声を荒らげたクロウ。思うところがあったのか洞窟からの弓攻撃はひとまず止んだ。
「まあ、なんだ。一言だけいわせてくれ。俺達は開拓者だ。松吉っていったかな。あんたの妹さんの白花に頼まれて来たんだが‥‥その妹、ボロボロになりながらギルドに駆け込んできたそうだぜ」
 笹倉靖は言いたいことだけを松吉に投げかけてケイウスに任す。
「不治の病は町医者の嘘なんだ。俺の親友がそれを確かめている。憎い相手の為に妹を悲しませるなんて絶対おかしいよ」
 松吉からの反応がなくてもケイウスは真っ白な景色の中で叫ぶように訴えた。
「彼女の今一番の望みは君が無事に戻ること、だよ」
「うるさい!!」
 ケイウスの言葉に被せるようにして洞窟から初めて罵声が届く。
「何が判る! 俺の、俺達の気持ちの何がわかるっていうんだ!! 知ったような口を聞くんじゃない!!」
 その後、激しい咳が続いた。松吉の体調の悪さが窺える。
「復讐がそんなにも大切か。たった一人の妹を白花さんを泣かせてまでやることか!」
 羅喉丸はあらん限りの声で自らの気持ちを投げかけた。
 洞窟内から弓矢を手にした青年が飛びだしてくる。
 白花のいっていた通りの容姿。間違いなく松吉であった。
 枝に留まって待機していたガルダが木を揺らして雪を落とす。松吉の背中に大量の雪が被さったが、それでも彼は止まらなかった。
「あいつらを‥‥俺は‥‥」
 病人とは思えない足の速さで松吉が雪の上を駆ける。
「ダメったらダメなのであります!」
 瞬脚を使った七塚が追いついて松吉の背中へと抱きついた。そのまま二人で雪の坂道を転げ落ちたが谷に落ちる寸前で止まる。
「くそ! 放せ!」
「これを見るのでありますよ!」
 暴れる松吉に見せようと七塚は白花から預かった櫛を取りだす。雪面に落ちたそれが視界に入って、松吉はようやく大人しくなった。
 まもなく仲間達が松吉と七塚を取り囲む。
「まずはこれを飲め。あの町医者からぶんど‥‥いや、もらってきた薬だ。少しは楽になるはずだぞ。あいにく水はねぇが」
 雪面に跪く松吉に笹倉靖が薬が包まれた紙を差しだす。
「龍に乗れば麓まですぐだ。麓には飛空船がある。それで白花さんがいる奏生に行こう」
 上着を羽織らせた羅喉丸に松吉が首を横に振った。
「‥‥一つだけ‥‥親父が大切にしていた木彫りの人形があったんだ。親父自身が彫った儀弐王の木像なんだ。俺の弓好きは親父譲りで‥‥その親父は儀弐王をすごく尊敬していた。木像があれば諦められる。きっと長の家にあるはず‥‥」
 松吉はそういって薬を飲んだ後で気を失ってしまう。羅喉丸がおでこに触ると熱が酷かった。
 開拓者達は相談の末に木像の入手を決める。
 集落の長に事情を説明して譲ってもらおうかとの意見もでたが、最終的には何も伝えずに失敬することとなった。
 互いにもう交わらないのが幸せ。それぞれが別の人生を歩む。それが一番だと。
 長の屋敷の目立つところに儀弐王の木像は飾られていた。難なく入手した一行は急いで下山して小型船で奏生への帰路に就く。
 笹倉靖は閃癒で松吉の体力を回復させた。これで病気が治るわけではないが、快復の手助けにはなる。
 松吉はうわごとで白花の名前を何度も呼ぶ。両親と思われる名前も繰り返し呟いていた。

●兄妹の未来
 松吉が昏睡状態になってから何日も過ぎ去った。
 特別に借りた奏生ギルドの一室で白花が看病を続ける。四日目の早朝に松吉はようやく目を覚ました。
「白花‥‥?」
「お兄ちゃん!」
 布団に横たわる松吉に白花が抱きつく。看病を手伝った開拓者達が次々と部屋に集まりだす。
 白花の口から開拓者達に助けを求めた経緯が説明される。近くの棚には儀弐王の木像が置かれていた。
「これお父さんが彫った木像だよね」
「そうだ。本当に手に入れてくれたんですね。ありがとうございます。これがあれば俺はもう‥‥」
 白花が松吉に手渡そうとして儀弐王の木像を床に落としてしまった。
『輝いているわ。何これ?』
 室内の全員が茫然としたものの、人妖・てまりだけが冷静に輝く小塊を拾い上げて七塚に手渡す。
「黄金であります。鋳造物ではなくおそらく川などで拾った自然物でありますね」
 七塚の掌にのった小塊を全員が注目する。木像の内部に隠されていたのは間違いなかった。
「それなりの金額にはなるだろうさ。後で換金場所を教えておこうか」
「これは間違いなく二人のものだ。木像は単純な割れ方だから接着すればいい」
 クロウと羅喉丸が壊れた儀弐王の木像を拾い集めて松吉の枕元に置いた。
 七塚から受け取った黄金の小塊を松吉が白花に見せる。兄妹は黄金が隠されていたことをまったく知らなかったようだ。
「松吉殿、妹を大切にな」
 宮坂玄人がもらってよいものかと悩んでいた兄妹双方の肩に両手を置く。
 奏生ギルドの配慮により、兄妹の滞在が一週間延長された。
 去り際、笹倉靖とケイウスは兄妹の将来について言葉を交わす。
「住処を整えたり、身の支度すれば消えてしまう程度の金額だしな。あれぐらいは目を瞑っても構わないだろうさ。元々二人のものだし。人生長いしこういう風にいいことあるし、それにあっちには罰があるもんじゃねぇの」
「なるほど、因果応報かぁ‥‥」
 集落の人々は何も知らない。気づくとすれば儀弐王の木像がいつの間にか紛失した程度だろう。
 依頼において誰も死ななかった。そして兄妹の未来に少しだけ光明が射す。万事が幸福に包まれたとは言い難いが、好転したのは間違いない。
 深夜、帰りの精霊門を潜り抜ける開拓者一行は兄妹の未来を語り合った。