キグルミ大学祭
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/11/15 12:54



■オープニング本文

 十一月三日から六日の間、泰国の帝都『朱春』に程近い泰大学では大学祭が開催される。
 二日の午後過ぎ。ギルドの依頼を受けた開拓者一行は依頼主の女学生に注文の品を届けた。大きめの木箱に納まっていたのは珈琲豆や紅茶葉である。
 朱春の街まで出かければどちらも手に入るのだが、女学生は多種に渡る品を比較的少量ずつ希望していた。それには神楽の都での購入が一番。掛かる費用や移動の手間、知識などを勘案してギルドに依頼したらしい。
「これです、これ。助かりました♪」
 木箱を受け取ったおかっぱ頭の女学生が開拓者一行に握手を求めた。
 紅茶はアールグレイなどのフレーバーティが一通り。珈琲は産地と煎り方が違う豆が揃えられている。
 女学生とその仲間達が学科棟の一室を借りて開くのは『キグルミ茶屋』だ。
 全員が着ぐるみ姿で客を持て成す趣向のようである。茶屋に隣接する関係者専用の部屋にはそのための着ぐるみがずらりと並んでいた。
「着ぐるみ作りに集中しすぎたせいで紅茶と珈琲の手配が遅れてしまったわけで。みなさんのおかげで無事に初日を迎えられそうです」
 その日、開拓者一行は一般学生用の寮で一晩を過ごす。日程には余裕があるので大学祭を見学していくことにした。
「みなさんも着てみませんが?」
 大学祭初日。開拓者一行は女学生に『キグルミ茶屋』への参加を誘われる。興味を持った開拓者達は各々に好みの着ぐるみを選んだ。
 給仕としてやることは簡単。着ぐるみそのものになりきって客を卓へと案内し、注文を受ける。そして飲食物を運べばよい。
 一つだけ重要な役割が。おどけたり、格好良かったり、またはドジであってもよいのだが、客への自己アピールは必須だ。
 普段は学生ばかりの泰大学に外部の人々が来訪する。『キグルミ茶屋』はまもなく開店であった。


■参加者一覧
玄間 北斗(ib0342
25歳・男・シ
リンカ・ティニーブルー(ib0345
25歳・女・弓
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
鏖殺大公テラドゥカス(ic1476
48歳・男・泰


■リプレイ本文

●着ぐるみ選び
 泰大学祭初日。紅茶珈琲の納品を済ませた開拓者一行は女学生達に誘われてキグルミ茶屋に参加することとなる。
 飾り付けられた客室の隣にある控え室には着ぐるみがずらりと並べられていた。世話係の女学生は好みの着ぐるみを選んでよいという。
「これは猪、あっちは猫。どれも学生さん達の力作揃いでおいらも負けてられないのだぁ〜」
 玄間 北斗(ib0342)は一歩進んでは立ち止まって着ぐるみを一体ずつ眺める。全部を鑑賞してから自分よりも先に忍犬・黒曜の変装へと取りかかった。
「黒曜も一緒にたぬきさんになろうなのだぁ〜♪ 持ってきた荷物の中に‥‥あったのだぁ♪」
 まずはたれたぬき柄の風呂敷を外套風に被せてそれっぽさを演出する。着ぐるみと違ってたぬき耳っぽいカチューシャなら息苦しくないだろうと頭に装着させた。
 玄間北斗は黒曜の姿を眺めて何度も頷く。
「動かないで欲しいのだぁ」
 仕上げに化粧を施す。筆に墨をつけて耳や目の周りを黒く塗って完成である。
「着ぐるみ茶屋と聞いてたから持ってきていたのだぁ♪」
 玄間自身はとっておきの明るめの茶色をした丸っこい着ぐるみを纏った。顔の部分は丸く切り取られていて表情がはっきりとわかる仕様だ。ここにふんわりほわほわのたれたぬきコンビが揃う。
「あたいはリンデンバウムと一緒に宣伝でもしてみようかね‥‥‥‥羅碧孤?」
 リンカ・ティニーブルー(ib0345)はたくさんの着ぐるみを順に眺めているうちに目の色を変えた。足を止めて思わず手に触れたのはアヤカシを模した着ぐるみである。
 彼女にとって縁深い存在『アヤカシ羅碧孤』にそっくりな着ぐるみだった。緑色の毛並みをした四本尾の妖狐。ある意味においては恋敵であったらしい。
(「若葉‥‥あなたのことを覚えている人は、私達だけじゃなかったみたい‥‥。あなたの姿を借りて人の輪の中に、人と人のふれあう中で過ごしてくるわ。それが、人の中で生きることはできないと諦めて、死んで行ったあなたへの供養になると信じて‥‥」)
 心の中で呟いたリンカは緊張の表情を解いてこれにすると女学生に声をかける。
 毛並みからいって暖かそうで外回りをするのによさそうだ。リンカは立てられていた屏風の裏で薄着になって着ぐるみの中に入ってみた。
「ラ・オブリ・アビスでもいいんだけど、どうしようかな? サジ太はどう思う?」
 リィムナ・ピサレット(ib5201)は肩の上に乗る輝鷹・サジタリオに話しかけながら着ぐるみを選んだ。悩んだ末に決めたのは小熊の着ぐるみである。
(「寒そうだから外では着ぐるみを着ようっと。客室では身軽がいいからラ・オブリ・アビスがいいかな。そうすればお茶やお菓子が食べやすいし♪」)
 試しに着てみると小熊の着ぐるみは丁度良い着心地だ。小熊のリィムナは軽やかな足踏みをしてクルクルっと躍ってみせる。
 鏖殺大公テラドゥカス(ic1476)と羽妖精・ビリティスの二人組は何かと騒がしかった。
『お前の体に合う大きさの着ぐるみがあってよかったな。テラドゥカス!』
「‥‥わしに、これを着ろというのか?」
 ビリティスが胡座をかいて乗っていたのは巨大パンダの着ぐるみである。
『仕方ねえだろ、サイズ合うのそれっきゃねえんだから♪ 依頼はもう受けちまったんだし、大人しくそれ着てくれ♪』
「お前が勝手に受けたのだろうが! ‥‥だが帰るわけにもいくまい。やむを得ぬな」
 おずおずと中に入ろうとするテラドゥカス。その姿を眺めてビリティスはぷっと吹きだしつつ、自分用の着ぐるみを物色する。
『そうそう、こういうのを探していたんだぜ』
 ビリティスは極楽鳥の着ぐるみに決めた。色鮮やかな羽根がとても煌びやかで格好良かった。
「いらっしゃいませ♪」
 ぼちぼちと客がやって来たようで控え室に挨拶の声が届く。開拓者や朋友達も給仕をすべく、女学生達と一緒に客室へと飛びだしていくのであった。

●垂れ幕宣伝
 棟の屋上まであがった羅碧孤の着ぐるみ姿のリンカは、待機させていた甲龍・リンデンバウムに乗って上空へと舞い上がる。
「まだ朝だというのに結構な人出ね」
 眼下の様子を確認した上で紐を引くと丸まっていた垂れ幕が伸びた。即興で描いたにしては見事な出来映えの『キグルミ茶屋』の宣伝文が風にそよぐ。
「リンデンバウム。腕の、いえ翼の見せ所よ」
 リンカの手綱捌きと指示に従ってリンデンバウムは低空をゆっくりと滑空する。速く飛ぶのも大変だが、失速しないぎりぎり低速度飛行もまた難しいものである。
 多くの人の目に留まるべく垂れ幕が揺れないように注意が払われる。
 垂れ幕による宣伝はひとまず一時間ほどで切り上げて給仕の役に就く。午後の頃にもう一度飛んで新たな客を呼び込もうとリィムナは考えるのであった。

●たれたぬきと妖狐
「いらっしゃいませなのだぁ〜♪」
 たれたぬき玄間はぽてぽて歩きで女性客二人がついた卓へと向かう。その後ろをたぬき黒曜が歩調を合わせてついて行く。
「あ、たぬきさんのコンビなんですね〜」
「かわいい〜。えっと犬さんよね? タヌキ犬さんこんにちは♪」
 たれたぬき玄間とたぬき黒曜は息を合わせて尻尾を振ってみせる。たれたぬき玄間の尻尾は内部に隠された紐を引っ張ると動く仕組みになっていた。
「タヌキコンビでご注文取りなのだぁ♪」
 女性客二人が卓に置かれたお品書きに目を通す。
「紅茶といってもいろいろとあるのね」
「ケーキの絵、かわいいよね〜♪ それではたぬきさん、まずはミルクティを――」
 たれたぬき玄間が羽根ペンで帳面に注文を書き取ってから口答で繰り返した。
「それでは少々お待ちくださいなのだあぁ〜♪」
 言葉の語尾が切れた瞬間、たれたぬき玄間の姿は一瞬でその場から消える。
「あれ?」
「あ、たぬき犬さんもいないよ」
 女性客二人は驚いて目を丸くする。屈んで卓の下を確認しても、たぬきコンビの姿はどこにもいない。
 それから数分後、厨房がある店の奥からお盆を持ったたれたぬき玄間が現れた。たぬき黒曜は四本足でついてくるだけであったが、どこか自慢げな様子だ。
「お待たせなのだぁ♪」
 たれたぬき玄間が注文の品を丁寧に卓へと並べていく。
「それではごゆっくりどうぞなのだぁ〜♪」
 たれたぬき玄間に合わせて、たぬき黒曜が小さく吠える。再び一瞬で女性客二人の前から姿を消すたぬきコンビであった。
 甲龍・リンデンバウムに乗っての告知から戻ってきたリンカも給仕を担当する。
「いらっしゃいませ」
 羅碧孤風着ぐるみはすらりとしたシルエットをしていて格好がよかった。頭部につけるのは狐耳のカチューシャのみ。主に化粧で表現されている。
 目元は妖美で鮮やかに。狐を印象づける髭が頬に描かれていた。リンカが動く度に頭部につけたカチューシャの狐耳が揺れる。
 襟首や袖口には緑毛のファーが高級感を醸しだす。御尻ではトレードマークの四本の尾が軽やかに動く。
「――で頼もうか」
「あらあら、それでは相方さんが物足りなくはなくて?」
 羅碧孤リンカによる客対応はお高くとまっていた。
 席への案内の際に係の者が客達に言い含めてあるので問題はない。それ故に卓上には料理のお品書きの他に給仕の特徴表も置かれている。彼女に注文した時点で客は了承済みといことだ。
「これならきっと満足してもらえるわ。では早速」
 羅碧孤リンカは帳面の一枚を破るとダーツの針に刺した。そして厨房側の壁にぶら下がる的目がけて放り投げる。見事ど真ん中に命中。客達から驚きの声があがった。
 着ぐるみの給仕達はときに寸劇で客達を笑わせることもある。
「わざとではないのだぁ〜。同じ注文の品だったから間違えて先に持っていってしまったのだぁ。許して欲しいのだ」
 たれたぬき玄間は羅碧孤リンカの背中を追いかけながら事情を説明する。実際には失敗をしておらず、あくまで演技。客には迷惑をかけていなかった。
「狸は嫌いなの。余り側に来ないで貰えないかしら?」
 黄宝狸と羅碧孤の対立を思わせる会話を交わす。
「おいたが過ぎるようなら‥‥お仕置きをしないといけないかしら‥‥ねぇ〜」
 羅碧孤リンカが立ち止まって、たれたぬき玄間へと振り返る。彼女の鋭い目つきは、たぬき黒曜の背中の毛を逆立たせた。
「い、痛いのは嫌なのだ。他のことならするのだぁ」
「そうね。ならダーツを当てたら今回だけ許してあげるわよ」
 不敵な笑みを浮かべた羅碧孤リンカが壁の的を指さす。さっと取りだしたダーツの矢を、たれたぬき玄間の掌の上に落とす。
「もし当てなかったら大変なのだぁ‥‥」
 ぶるぶると震えるたれたぬき玄間。中々投げられず、仕舞いには自分の尻尾を踏んでずっこけてしまう。
「これで大失敗‥‥あら?」
 転んだたれたぬき玄間の手から離れたダーツの矢が宙に大きな弧を描いた。ギリギリで天井にはぶつからずになだらかに落下。ダーツの的へと命中する。
「やったのだぁ〜♪」
「ふ、ふんっ! まぐれのようだけど当たりは当たりね。許してあげるわ。仲良くするのはこれから一時間だけよ」
「酷いのだぁ〜。ずっと仲良くしようなのだぁ〜」
「嫌ならそれすらしないけど」
 羅碧孤リンカがたれたぬき玄間を軽く小突いてコメディ感を演出。客達に笑いが巻き起こるのであった。

●パンダと極楽鳥
『テラドゥカスもっと愛想良くしろよ♪ 可愛いパンダちゃんなんだからよ♪』
「そ、そうはいってもな。慣れぬことゆえ」
 極楽鳥ビリィが、ぱんだテラドゥカスを後ろからつつく。
『ほら、来たぜ。‥‥いらっしゃいませ♪ 注文はお決まりでしょうか♪』
 極楽鳥ビリィは天井近くを旋回しながら卓についた客達に愛想を振りまいた。
「ぬぅ‥‥、メェエエ〜ご注文をどうぞ‥‥」
 着ぐるみの外側から眺めても、ぱんだテラドゥカスがガチガチに緊張気味なのは一目瞭然である。
「メェって羊? 羊は見えないけど」
「いや、パンダなのだが。あの白黒の生物はこのように啼くのだ。実はこの間、アヤカシに操られたパンダを助けたのだがな――」
 ぱんだテラドゥカスは客からの質問に堅苦しい説明で答える。極楽鳥ビリィによるハリセンが飛んできたとかこないとか。
 それでも生真面目が取り柄の、ぱんだテラドゥカス。注文取りはちゃんとこなす。
 対応に困ったときにはパンダの啼き声で切り抜けた。注文が書かれた紙は極楽鳥ビリィが受け取って厨房まで運んでくれる。
 注文の品を運ぶのは極楽鳥ビリィの役目である。
『はい。ふわふわクリームのケーキ、おまちどおさまです♪ どうぞレモンティと一緒にお召し上がりください〜♪』
 普段とはまったく違う口調で応対する極楽鳥ビリィの姿に、ぱんだテラドゥカスの心中は複雑だ。
(「‥‥まあいい。わしは元々の大きさに着ぐるみも加わって横幅がありすぎるからな。駆け回ったりすれば迷惑この上ないはずだ。速攻の対応はビリィに任せよう」)
 ぱんだテラドゥカスは人や物とぶつからないよう注意して店内を歩き回る。
「あ、パンダだぁ。かわいい〜♪」
「あ、ずるい。わたしも〜」
 ぱんだテラドゥカスは入店したばかりの家族連れの子供達に懐かれた。茣蓙が敷かれた床に腰を下ろして目線を低くする。
「メェエエエエ〜♪」
 子供達の笑顔で緊張が解けた。ぱんだテラドゥカスの啼き声が綺麗に響く。パンダ、パンダと喜んでくれたので、子供達を抱きかかえて席まで運んであげる。
 ぱんだテラドゥカスは注文のパンケーキに生クリームの絞りでデコレーションを施す。パンケーキの丸い形とクリームの白さを活かしてパンダの顔が描かれた。
「あ、パンダさんがぱんだ〜♪」
「食べるのもったいないけど、おいし〜♪」
 子供が口の周りに生クリームをつけながら美味しそうにパンダパンケーキを頬張る。
『やるじゃねぇえよ。テラドゥカス』
「‥‥うむ。わしが本気を出せばこんなものだ」
 極楽鳥ビリィはぱんだテラドゥカスを褒めちぎるのであった。

●小熊のダンス
 棟の出入り口側には人だかりができていた。そこから歌声とリズムにのった足音が響き渡る。
「おいしい珈琲と紅茶〜♪ お饅頭とケーキもあるクマ〜♪ キグルミ茶屋においでなさいクマ〜♪」
 小熊姿のリィムナが唄い踊る。バイラオーラを使って人々の興味を惹きつけながらキグルミ茶屋を宣伝していた。
「ものすごいステップ。あ、木の枝まで跳んだ。すご〜い!」
「この建物の中にあるみたいよ。着ぐるみのお店。喉渇いたし寄ってみようか」
 出入り口付近の壁に貼った案内図にはキグルミ茶屋までの案内図が描かれてある。リィムナの一押しで興味を持った人々が棟の中へと吸い込まれていく。
 あまりに繁盛しすぎても追いつかなくなってしまう。頃合いで切り上げて、小熊リィムナも給仕を手伝うことにする。
 店内での給仕は着ぐるみを使わず、ラ・オブリ・アビスで自身を小熊だと思わせた。その方が動きやすいし、無理に厚着をする必然もないからだ。
「珈琲クマ〜♪ ケーキの上にはメロンシロップ漬けクマ♪ 甘くてとろけちゃうクマ〜♪」
 クルクル回りながら卓に御茶や甘味を運んだ。元気よく去って行く途中ですってんころりんと床へと転ぶ。
「あ、クマさんが?!」
 客達の間から心配の声が呟かれた。
「大丈夫クマ♪ ほほいクマ〜♪」
 すくっと立って身体を動かして元気をアピール。一転して笑い声がわき上がる。
 昼を過ぎた頃から徐々に混んできた。忙しくなっても楽しい雰囲気を盛り上げるのは忘れない。
「サジ太、いくクマ〜♪」
 小熊リィムナが輝鷹・サジタリオと同化してみせると客達から感嘆の声があがる。背中に光の翼を生やした小熊が天井付近を飛翔する。
「蜂蜜たっぷりの紅茶クマ〜♪ ほっぺた落ちちゃうクマ☆」
「ありがとう、小熊さん」
 料理を運ぶだけではなかった。食べ終わった食器類を素速く片付けるのも給仕の役目である。
「空飛ぶ小熊クマ〜♪」
 すいすいと飛んで運んで卓の上を綺麗にすれば、すぐに次の客を迎えられた。
「このお団子、美味しい♪ あっ!」
 客がカップに肘をぶつけて卓から落としそうになることも。
(「すすいっと♪ はいクマ♪」)
 小熊リィムナは瞬時に『夜』を発動させる。静止した時間の中で零れた珈琲を掬うようにカップを手にとって卓上へと戻す。
「あれ? わたし、カップを落とさなかった?」
「いや、そこにあるし」
 どうやら卓を挟んで座っていた相手も気づかなかった様子である。小熊リィムナはクスリと笑いつつ、足取り軽く食器を片付けるのであった。

●至福のひととき
 給仕として参加した開拓者達にも休憩時にはお茶と甘味を楽しむ機会がある。
 控え室の玄間北斗とリンカは紅茶の香りに包まれていた。
「茶葉選びに間違いなかったのだぁ〜♪」
 玄間北斗はぱくっと饅頭を頬張り、そして紅茶のカップを手に取る。
「お客さんたち、寸劇を結構楽しんでくれたようね。午後も頑張りましょうか」
 ダージリンを飲んだリンカは次にフォークでケーキを頂く。程よい甘さの果実がケーキの風味を引き立てていた。
 忍犬・黒曜はハムの切れ端を頬張る。パンサンド用の余りで山盛り皿になっている。
 屋上待機の甲龍・リンデンバウムは寿司屋台からもらったマグロの余りを食べていることだろう。
 それにしても美味しいと玄間北斗とリンカは女学生達を誉める。聞けばどうやらこのような商売を本格的にやりたい野心を持っているようだ。
「頑張るのだぁ〜♪」
「きっとうまくいくわ」
 玄間北斗とリンカは女学生達を応援する。休憩が終わると再び着ぐるみを纏って店内へと出て行く。
 入れ替わりに休憩をとったのがテラドゥカスと羽妖精・ビリティスである。
『さてと客が注文するのを見て、食べたいもんを決めておいたんだぜ! 甘いもんをたらふく食べようぜテラドゥカス、あたしに任せろよ!』
「わかった。注文は任せよう」
 ビリティスがすでに準備していた注文書の切れ端を女学生に渡す。しばらくして控え室の卓にカップと皿がずらりと並べられた。
 泰国の小籠包にジルベリア風のケーキ、さらに天儀本島の団子など色とりどりだ。
『うめぇ。これりゃうめぇぞ! テラドゥカスお前も食え! 食え食うんだ、ほらほらこれとこれ。まだ隙間があるな‥‥。ついでにこいつもだぁ!』
 ビリティスがテラドゥカスの口へと次々と甘味を詰め込んだ。テラドゥカスは身体を反らせしつつ、不意打ちの口いっぱいの食べ物を何とか飲み込む。
「ぜぇぜぇ‥‥ぜぇ――。一度に口に詰め込むな!」
『わりぃ、わりぃ。気にすんな。つい食べさせたくなってよ」
 落ち着いたところでテラドゥカスは珈琲のカップを手に取った。香りを楽しんでから飲んでみる。
「うむ、よい味だな」
『すげぇよな!』
 反省のないビリティスをテラドゥカスは放っておく。何はともあれ温かいうちに食べた方が美味しいものもある。
 テラドゥカスとビリティスはお茶と甘味を存分に楽しんだ。
 リィムナは休憩時も客室で過ごす。
「母さん、小熊さんが食べてるよ」
 子供達が注目する中、小熊リィムナはケーキをパクリと頬張る。
「僕は甘いものと飲み物大好きクマ〜♪」
 そして蜂蜜入りのアールグレイをゴクリと飲み干した。近寄ってきた子供達と楽しく歓談する。
「これ食べる?」
「ありがとうクマ! とっても美味しいお団子クマ〜♪」
 食べさせてくれたお礼としてお膝してあげる。反対にだっこされたり、もふもふされたりなどのスキンシップも。
「サジ太もどんどん食べるクマ〜♪」
 小熊リィムナが梁に留まる輝鷹・サジタリオを小魚の干物で呼び寄せた。肉球の掌からサジタリオが美味しそうに啄む姿に子供達が目を輝かす。
「これも美味しいよ〜♪」
 子供達も真似をして小魚を差しだす。サジタリオもお腹いっぱいに食べるのであった。

●そして
 キグルミ茶屋での一日はあっという間に過ぎ去る。
「おかげさまでお客様が引っ切りなしにやって来ました♪」
「ものすごく助かったです☆」
 別れ際に女学生達から寸志が手渡された。
 開拓者達が受け取ったのはそれだけではない。胸の中にはたくさんの思い出が詰まっていた。