|
■オープニング本文 飛空船は様々な場面で活躍している。時にアヤカシと戦うため、人や物資を各地へと運ぶ役目も重要だ。 各国を結ぶ飛空船の便も就航されている。 一般的な人々にとっての遠距離移動の手段は海上の船か、もしくは飛空船だといっても差し支えがなかった。 「てめえら、騒ぐんじゃねぇぞ!」 「死にてぇか! そこのガキと女!」 ある日、乗客として紛れ込んでいた空賊共に大型飛空船『かもめ』が乗っ取られる。船員十五名、乗客五十一名が人質となった。 空賊の要求は最新鋭の攻撃型飛空船との交換である。 やり取りはあくまで上空で。攻撃型飛空船を運んできた船主側の受け渡し役と、『かもめ』に乗っている空賊共が入れ替わることで成立する。 その後は開放すると脅迫状には書いてあるが、信じている船主側の者は誰もいなかった。おそらく『かもめ』に爆薬を仕掛けているか、もしくは受け取った攻撃型飛空船で墜落させるつもりだと。 『かもめ』の船主は開拓者ギルドに依頼する。引き渡し役を開拓者に委ねた。 優先すべきは第一に乗客の命、第二に船員の命、第三に『かもめ』である。 開拓者一行は攻撃型飛空船を離陸させる。空賊に指定された天儀西部の海面上空を目指すのであった。 |
■参加者一覧
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
ミーリエ・ピサレット(ib8851)
10歳・女・シ
雁久良 霧依(ib9706)
23歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●上空にて 開拓者一行が乗り込んだ攻撃型飛空船は天儀西部海上を目指す。空賊が指定してきた空域に到達したのは指定日の午後過ぎである。 天候は晴れ。そこかしこに白雲が浮かんでいた。 展望室ではミーリエ・ピサレット(ib8851)と忍犬・クリムゾンが見張っていた。身長が足りないので踏み台を利用する。 「よいしょっと♪」 隣の船窓前へと踏み台を移動させて上にあがり、さらに背伸びをして覗き込む。クリムゾンは忍犬の身軽さで窓枠に掴まった。 ミーリエもクリムゾンと同じようにできるのだが、今は非常時ではないのでお淑やかを保つ。 「早く人質の人を助けようね♪ どこにいるんだろう? ‥‥‥‥クリムゾン、どうかした?」 ミーリエは他の船窓を覗き込むクリムゾンが小さく吠えたのを知る。急いで踏み台を抱えてクリムゾンと同じ船窓から外を眺めた。 船備えつけの望遠鏡で眺めると白雲から船尾らしき物体がはみ出している。 踏み台から飛びおりたミーリエは急いで伝声管にしがみついた。 「空賊に乗っ取られた『かもめ』は南東の大きな雲の中に隠れているみたいだよ。まだ遠いけど――」 伝声管に話しかけることで船内の仲間全員にできるだけ詳しく状況を伝える。 (「頭隠して尻隠さずとは空賊らしい。もうすぐ接触か。細工を急がなくてはな」) 動力室の竜哉(ia8037)は装置の扉を開けて上半身を潜り込ませていた。暗い狭い空間をランタンで照らしながらやっていたのは動力線への細工である。それから五分ほどですべてを仕掛け終わった。 「全部空賊のいいなりになっていたらいけないよな。交渉は相手に舐められたら終わりだし。菫青、頼んだぜ」 甲板の羽喰 琥珀(ib3263)は空龍・菫青の嘴に巻物を銜えさせる。羽喰琥珀に頷いた菫青は翼を広げて大空に飛び立つ。 菫青は数分で帰還。銜えていた巻物はない。羽喰琥珀の指示通り『かもめ』の甲板へと落とされていた。 巻物には人質にされた乗員と船員の全員を甲板に集めるようにと認められている。そうしなければ攻撃型飛空船を引き渡さない旨も。 ちなみに船主からの情報によれば、この攻撃型飛空船に搭載されている宝珠砲二門は準備から最短二分で砲撃できるようだ。慣れてない者達でも五分程度で可能らしい。 操舵を預かっていた雁久良 霧依(ib9706)はわざと弧を描いて遠回りをし、接触までの時間を稼ぐ。 「青い光の狼煙‥‥、仕方が無いわね」 それも空賊側が撃った退去指示を示す狼煙銃の合図によってお終いとなる。雁久良はしばらく水平飛行が保たれるよう操舵を固定してから席を立つ。 非常用の梯子を登って甲板へとあがると仲間が全員揃っていた。自分の滑空艇・カリグラマシーンも運ばれてある。 「あ、『かもめ』から龍っぽいのが飛び立ったよっ」 望遠鏡で『かもめ』を監視し続けているミーリエが指さす。 「うーんと。あ、いるな」 羽喰琥珀が眼を凝らしてみれば『かもめ』の上に小さな点が三つ浮かんでいた。 ●大型飛空船『かもめ』 ミーリエが望遠鏡で大型飛空船『かもめ』甲板に乗客乗員が集められているのを確認する。全員かどうかを知る術はないが、ここはそうだと信じるしかなかった。 開拓者達も移動を開始した。 雁久良が駆る滑空艇・カリグラマシーンへと竜哉は一時的に乗せてもらう。 羽喰琥珀は空龍・菫青の手綱を握って大空に浮かんだ。 ミーリエは船主から借りた駿龍で飛ぶ。もちろん忍犬・クリムゾンも一緒である。 開拓者達はゆっくりと『かもめ』に移動。途中で龍に乗った空賊共とすれ違う。 「‥‥まったく、にやにやと笑っていけ好かないわね」 雁久良がふんっとため息交じりに呟く。 空賊の龍は全部で十体を数えた。二人乗りしている龍もいたので、全部で十数人が攻撃型飛空船に移ったことになる。 開拓者達もまた『かもめ』へと向かう。竜哉は途中で輝鷹・光鷹と『大空の翼』による同化を果たして着船する。 「よかった。全員無事みたいだ」 菫青の背中から飛びおりるように甲板へと降り立った羽喰琥珀はほっと胸をなで下ろす。乗客や船員達はやつれてこそいたものの誰もがしっかりと歩けるようである。 「怪我はしている人はいないかしら? 遠慮せずに名乗りでてね。優しく治療してあげるわ」 雁久良はわざと露出度の高い服装で甲板の人々に声をかけた。 (「あの壁にもたれて座っている男‥‥怪しいわね」) 長い間人質にされていた者なら色気を目の当たりにしても反応は薄いはず。気持ちに余裕が感じられる人物は空賊に違いないと雁久良は見当をつける。 「これとこれ。どっちでもいいから似た臭いがあったら教えてねっ」 ミーリエはこっそりと二つの小袋を忍犬・クリムゾンの鼻へと近づけた。 小袋の中身は火薬と導火線の燃えかすである。クリムゾンが臭いを混同しないよう誰にも気づかれないよう眼下の海へと投げ捨てた。 続いて各所を歩き回って爆弾を探す。秘密裏に事を進めたのは空賊が間者として乗客達に紛れ込んでいる可能性があるからだ。 竜哉は船員に案内を頼んで機関室へと向かう。何カ所かに爆弾が仕掛けられているとして、ここには必ずあると踏んでいたからだ。 密閉された機関室にかすかだが焦げる臭いが漂っていた。 「やはりあったか。常道だからな」 さっそく発見して導火線を途中で千切り、爆発を未然に防ぐ。一つだけとは限らないので案内の船員の力も借りて隈無く調べる。 その頃、雁久良と羽喰琥珀は空賊と思しき男性二名をそれとなく見張り続けていた。 (「確かに態度が変だよな。少しずつそわそわし始めたし。普通の助けられた立場だったら安堵しているところだよな。爆弾のことは知らないんだから」) 羽喰琥珀が目の端で捉える。怪しい男性二名は少しずつ遠ざかっていく攻撃型飛空船をかなり気にしていた。また『かもめ』に備え付けの龍の近くから離れようとはしなかった。 『かもめ』の船長に訊ねたところ、離陸時からの乗客二名で間違いないようだ。但し、襲撃を手引きするために乗り込んでいた場合もあり得る。 雁久良は途中から怪しい男性二名の監視を羽喰琥珀に任せた。 (「油断させるために女性というのもあり得るのかも」) 他にも空賊の間者が紛れ込んでいる場合を想定して動く。雁久良は女性客達の会話に参加して事情を探る。 ミーリエはクリムゾンの鼻を頼りにして爆弾の設置場所を発見した。 「こんなところに仕掛けるなんて、空賊もマメだよね。クリムゾンもそう思うでしょ」 そこは後部安定翼付け根の狭い空間だった。翼が破損して丸ごと交換しない限り、誰も立ち寄らない屋根裏のようなところである。 「よし、他も念のために回ろうね♪」 ミーリエは牙で導火線を噛みきったクリムゾンの頭や喉を撫でてあげた。粗方は調べ終わっていたが船内の巡回を再開する。 開拓者達が『かもめ』に乗り込んでから十五分が過ぎ去った。 拳ほどの大きさまで遠ざかっていた攻撃型飛空船から狼煙銃の赤く輝く弾が撃たれる。それを合図にしたかのように怪しい男性二名が龍へと駆け寄ろうとした。 「やっぱりお前らなのか」 「聞きたいことがありますわ」 即座に対応した羽喰琥珀と雁久良は怪しい男性二名を龍へと近づけさせなかった。周囲の乗客を人質に取られる前に抑え込む。 「いいから離せ! し、死にたくねぇ!!」 「あと少しで爆発するんだ!」 喚き散らす空賊二名の足を蹴って激しい勢いで甲板に倒す。そして縄で縛り上げる。 「爆弾が仕掛けられていたのはわかってたからなー。お前らがこうして残っていたのも監視のためってばればれなんだけど」 「空賊のお仲間が立てたこの後の作戦を私達に教えるべきだわ。そうしないとお二人さんも本当に死んじゃうわよ〜」 察しはついていたものの、空賊二名の口から直接情報を引きだす。爆破が失敗した場合、やはり攻撃型飛空船の宝珠砲で『かもめ』を墜落させる二段構えの作戦のようだ。 羽喰琥珀と雁久良は甲板にいた全員に各自の部屋へと戻るよう指示をだした。 竜哉は機関室で修理を手伝っていた。 「これで大丈夫そうだな。あとは頼んだぞ」 空賊によって一部の動力線が入れ替えられたり細めのものと交換されていたのである。竜哉自身が攻撃型飛空船へと細工を施したのと似たようなものだ。 (「腹の探り合い‥‥上等だ」) 竜哉は機関室のことを船員に任せる。戦闘に備えて甲板へと繋がる非常用梯子を登り切るのであった。 ●殺られる前にやれ それまで止まっていた風宝珠が作動。大型飛空船『かもめ』は回頭して攻撃型飛空船とは反対の方角に船首を向けた。 空賊側もこの行動そのものは警戒していないはずである。問題となり得るのは『かもめ』に残してきた間者の空賊二名が戻らない状況だ。 開拓者達にとっては空賊の頭がいつ間者の空賊二名に見切りをつけるのかが焦点になっていた。 「近づいてきたよ! すごい、ものすごい勢いだよっ!」 ミーリエは望遠鏡から目を離すと大声で仲間達に報告する。伝声管へと駆け寄り、船内にも状況を伝えた。 『かもめ』は現状で出せる最大の速さで空賊が操る攻撃型飛空船から逃れようとしている。 攻撃型飛空船が『かもめ』との距離を縮めようとしている理由は明白だ。慣れない飛空船の宝珠砲で遠距離を命中させるのは至難の業だからである。 威力こそ凄まじいものの、宝珠砲の命中率は決して高くはない。超近距離からでなければ命中させるのは難しかった。 じりじりと距離が縮められていく。 竜哉は輝鷹・光鷹と同化して背中に光の翼を生やす。 雁久良は滑空艇・カリグラマシーンに乗ってふわりと浮上させた。 羽喰琥珀が手綱をしならせると吼えた空龍・菫青が甲板から飛び立つ。 「斬り込みの最初は支援するからね!」 援護射撃を担当したミーリエが『弓「漏刻」』を構えて矢を放った。攻撃型飛空船の空賊側も銃砲や弓矢で攻撃を仕掛けてくる。 空を舞う開拓者三名はそれらの攻撃を避けつつ攻撃型飛空船へと近づく。攻撃型飛空船は先程まで乗っていた船である。死角になり得る位置取りも心得ていた。 「どんな武器でも技でも、己がそれに熟達していなければ唯の飾りにしか過ぎないさ」 それでも完全なる安全はあり得ない。竜哉が『フォルセティ・オフコルト』によるオーラの障壁をアイギスシールドに纏わせて仲間への攻撃を受け止める。 竜哉はそのまま右舷面へと絶壁渡りのように取りついた。そして銃身が出ている銃眼のの隙間を狙って『ソードウィップ「ウシュムガル」』を突き立てる。手応えを感じ、船内から悲鳴があがったのと同時に引き抜く。 (「これで他の空賊も銃眼の側に立つのを怖がるはずだ」) 竜哉は乗降用扉まで飛翔して船内へと突入した。その直後激しい砲撃音が鳴り響く。扉から身体を乗りだして外を確認すると『かもめ』は無事である。 攻撃型飛空船には宝珠砲が二門搭載されていた。砲撃音から察するに放たれたのは一門のみ。 竜哉は知る由もないが、この砲撃は羽喰琥珀と雁久良を狙ったものだった。第一宝珠砲台を担当する空賊の砲手が焦ったのである。 開拓者達にとって好機が訪れた。 「もう一つの砲を優先しようぜ!」 「それがいいですわね。それでは!」 羽喰琥珀と雁久良はまだ一発も撃っていない第二宝珠砲台に狙いを定める。 「甲板の空賊や宝珠砲台もまとめて標的よっ。デリタ・バウ〜発射!」 先に射程の長い攻撃方法を持つ雁久良が仕掛けた。 『デリタ・バウ=ラングル』の詠唱終了の瞬間に魔法陣が宙に浮かび上がる。 幾筋もの灰色の光条が攻撃型飛空船へと突き刺さり、空中に大量の破片をばらまく。木片はもちろん剥がれた装甲鉄板も眼下の海面へと落下していった。 「まだ撃とうとしている奴がいるぞ!」 空賊が一人、床が抜けそうな第二宝珠砲台で撃つのを諦めていない。 「雷だ、菫青!!」 羽喰琥珀が声をかけながら菫青の脇腹を軽く二回両方の踵で蹴った。呼応した菫青が口を大きく開いて一筋の雷撃を放つ。 輝きが第二宝珠砲台へと突き刺さる。まもなく砲台が船体から千切れて落下。攻撃型飛空船の左舷に抉られたような跡ができあがった。 羽喰琥珀と雁久良は先送りした第一宝珠砲台破壊に取りかかる。次弾装填はまだ終わっていなかった。 ミーリエは駿龍に騎乗して『かもめ』を飛び立っていた。攻撃型飛空船へと差し掛かり、忍犬・クリムゾンと一緒に甲板へと飛び降りる。 甲板は第二宝珠砲台を含めて攻撃した雁久良の『デリタ・バウ=ラングル』によって凄まじい有様である。それでも二名の空賊が待ち構えていた。 「大人しくしていればいいのにっ!」 ミーリエが素速く放った『手裏剣「鶴」』が空賊の右腕に突き刺さる。構えようとしていた銃砲が甲板へと転がった。 クリムゾンが『ダッシュアタック』での空賊とのすれ違いざまに『忍犬苦無』を振るう。足をやられた空賊が傾いた甲板の上で滑っていく。 ミーリエは非常用の梯子穴に潜り込んで耳を澄ます。超越聴覚で操船室内に空賊が二人いると判断した。 クリムゾンも一緒に梯子を使わず左右の壁を蹴りながら一気に降下。操船室の床へと着地する。 「どうしてここに?」 「それはミーリエの台詞だよ」 ミーリエとクリムゾンは操船室の空賊二名をあっという間に倒しきった。 激しい衝撃が襲って船体が大きく揺れる。それは羽喰琥珀と雁久良が第一宝珠砲台を完全破壊したからだ。 「このままだと落ちちゃうっ!」 ミーリエは急いで席に就いて操舵を行う。クリムゾンが出入り口の扉の前に座って番犬と化す。 ミーリエよりも先に攻撃型飛空船に突入していた竜哉は、各所の動力線を切断しながら機関室へと辿り着いた。 機関室に足を踏み入れた竜哉を剣先が襲う。 「まったく油断も隙もないな」 竜哉は慌てず騒がず攻撃を避けきった。 次にアイギスシールドによる『シールドノック』で空賊を壁へと弾きとばす。二度目の弾きで船窓を突き破って外へと放りだした。 「血やらなにやらで汚したら悪いからな。できるだけだが」 竜哉は気にせず機関室の点検を開始する。 爆薬の仕掛け方から想像すると空賊は機関室の宝珠を破壊しようとしていた。不利な戦況から、もう一度『かもめ』を奪取する作戦に切り替えていたに違いない。 「機関室は俺が取り戻した。そこに誰かいるか?」 『ミーリエちゃんがいるよ♪ クリムゾンも一緒だよ♪』 味方に死者をださず、空賊が支配していた攻撃型飛空船の重要な二個所を抑えた時点で開拓者側の作戦が成功したといってよかった。 攻撃型飛空船の内部点検に羽喰琥珀と雁久良が加わる。ミーリエは操船室で操舵を続けた。 まもなく寝室で空賊の頭が発見される。 「た、助けてくれ! 金ならいくらでもやる!!」 空賊の頭が醜態を晒す。厳つい巨体を震えさせながらベットの下に隠れていた。 「部下のほうがまだ手応えがあった」 竜哉が『シールドノック』で空賊の頭を勢いよく弾きとばす。船窓が小さかったので外に飛びだすには至らない。心中で残念がる竜哉だ。 「あ、こいつ!」 それでもまだ空賊の頭は逃げようとする。羽喰琥珀が投げた投紐に足に絡ませて転倒。床に顔面をぶつけて鼻血を垂らす。 「まったく世話が焼けるわね」 雁久良は空賊の頭を毛布で簀巻き状態にしてから縄で縛り上げた。 空賊の頭が何かしでかさないよう見張ったのはクリムゾンだ。ずる賢い相手に惑わされることなく役目を全うするのであった。 ●そして 捕らえられた空賊は頭を含めて五名となる。 「僭越ながら私が代表して。開拓者のみなさん、助けて頂いて非常に助かりました。ありがとう御座います。このご恩は一生忘れません」 危機的状況を回避した後、船長から感謝の言葉があった。 そしてあらためて全員の安否が確認される。乗客や船員達は命こそ取られなかったものの憔悴しきっていた。 「元気になるにはやっぱり食い物だよなー。俺にできることがあれば手伝うから頼むよ」 「ミーリエもそうだと思うよっ!」 心配した羽喰琥珀とミーリエが船員達に相談を持ちかける。 「空賊の奴ら、食い散らかしていったが‥‥何とかなるだろう。いや何とかするさ」 船員達は任せてくれと快く引き受けてくれた。 あり合わせの食材で様々な炒飯がこれでもかと作られる。羽喰琥珀とミーリエは御飯を炊いて手伝う。 「ゆっくりなら大丈夫だろう」 「機関室はお願いね。操船は私がするから」 竜哉と雁久良は攻撃型飛空船を操って大型飛空船『かもめ』に随行させる。宝珠砲台二基を失っていたが飛行そのものには支障なかった。 「出前、お待ちー!」 『かもめ』で作られたばかりの炒飯は空龍・菫青に跨がる羽喰琥珀によって攻撃型飛空船に届けられる。 二隻の飛空船は丸一日をかけて武天国の西海岸沿いへと到達した。郊外に着陸させて町で風信器を借り、連絡をとる。 二日後には船主が手配した中型飛空船三隻がやって来た。 「全員助かったのが何よりです。壊れた船は直せばよい。しかし人の命はそうはいきませんからね」 空賊共を引き渡した後、船主が開拓者達を労う。 後のことは任せて開拓者達は帰路に就いた。乗客達と一緒に中型飛空船へと乗り込んで武天此隅へ辿り着く。 深夜、神楽の都行きの精霊門を潜り抜けるのであった。 |