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■オープニング本文 武天国の凡百村には無謀な青年が二人いた。ジルベリアから渡ってきた一冊の書物のみを頼りにして新しい商売を始めようとしていたのである。 その本の名は『ジルベリア職人のこだわり』。ジルベリアの田舎にあるいくつかの職業を紹介した内容だった。 「よし。今年の豚は丸まる太っていてうまそうだ。これなら何とかなる‥‥いや必ずやってみせる!」 畜産を営む燃吉は去年よりも倍の豚を育てていた。 「収穫した大麦とホップを使うときがようやくきましたね」 農家の青彦は一年前から準備を整えてようやくすべてが揃う。 凡百村には温泉があるのだが正直にいって有名ではない。理穴国境に近いので冬には雪景色も楽しめるのだが湯治の客は年々減る一方だった。 温泉に加えてうまい食事があれば客が増えるのではと考えて、ソーセージとビールの提供を思いついたのである。 本気の二人だが師匠はおらず、結局のところ頭でっかちの素人に過ぎない。必要な品はすべて揃えたものの中々実行に移せなかった。 「どうやら開拓者ってのはアヤカシを倒すだけじゃないらしいな。ギルドを覗いた者によればお店の手伝い募集とかも結構しているとか」 「中には専門の職人顔負けの腕利きがいるようです。ビールやソーセージを実際に造ったことがある方もいるんじゃないでしょうか」 相談した燃吉と青彦は開拓者を招くことにする。ソーセージかビール造りを手伝ってもらい、技能を持っていれば指南してもらいたいと考えていた。 翌日、二人で近くの町へと出向く。風信器を使って開拓者ギルドに依頼するのであった。 |
■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072)
25歳・女・陰
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
からす(ia6525)
13歳・女・弓
十野間 月与(ib0343)
22歳・女・サ
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
七塚 はふり(ic0500)
12歳・女・泰
シンディア・エリコット(ic1045)
16歳・女・吟 |
■リプレイ本文 ●村へ 「あんたたち、も、もしかして開拓者かい?」 「よく来てくださいました」 開拓者一行が遠くに村を見つけると道脇にいた二人の青年が声を掛けてきた。 二人の名は燃吉と青彦。開拓者達を凡百村に招いた依頼者である。挨拶を交わしてから村の作業場まで一緒に向かう。 ソーセージとビールの作業場は隣り合うように建てられていた。 「ソーセージは壱棟だぜ」 燃吉と壱棟に入ったのは北條 黯羽(ia0072)、礼野 真夢紀(ia1144)、からす(ia6525)、十野間 月与(ib0343)、フランヴェル・ギーベリ(ib5897)の五名だ。各自が連れてきた朋友達も一緒に棟内へ。 「ビールはこちらの弐棟で造ります」 青彦が弐棟の扉を開いて中へと誘う。羅喉丸(ia0347)、七塚 はふり(ic0500)、シンディア・エリコット(ic1045)の三名が潜り抜けた。 上級羽妖精・ネージュと人妖・リデル・ドラコニアも弐棟に入る。身体の大きな駿龍・アズラクは外でお留守番であった。 ●ソーセージ 「何事も始めるときは不安を感じるもんさね。あ、勝手に見させてもらうからな」 北條黯羽がさっそく壱棟内を一通り回る。必要な道具類や香辛料などは揃っていた。しかし肝心の豚肉は見当たらない。 「豚はもう解体してあるぜ。冷たいところで少し寝かしたほうがいいってあったんで、氷室で保管中なんだ」 窓に近づいた燃吉が藁葺き屋根の氷室を指さす。 何にせよ豚肉がなければ始まらない。氷室の見学ついでに全員で取りに行く。 『ぶたさん、ふつうにたべてもおいしそうなのに』 オートマトン・しらさぎは鈎に引っかけられている一頭丸ごとの豚肉を眺めて呟いた。 「本来はソーセージってくず肉利用だしね‥‥。まぁそれは目をつぶりましょ」 礼野達の会話を耳にした燃吉が焦った様子で身体を寄せてくる。 「そ、そうなのか?」 「えっと――」 後ずさりながら礼野は説明した。脂身や内臓も含めて豚肉を効率的に使うのがソーセージという加工法だ。大きな肉の塊部分を保存食にしたい場合はハムにするのが普通だと。 「確かに書いてないわねぇ〜。ソーセージのことは詳しいけど、付随する情報はばっさりと。ジルベリアの人にとっては常識過ぎてぽっかりと抜けている感じだね」 月与は燃吉から借りた『ジルベリア職人のこだわり』の頁を捲った。礼野も見せてもらうがソーセージの章に肉全体の活用に関する指摘は一つもない。 「‥‥よし! やっぱり呼んでよかったぜ。開拓者はすげぇな」 燃吉は衝撃を受けたようだがすぐに立ち直る。 『開拓者はなんでも屋アル』 燃吉に答えるような口ぶりで提灯南瓜・キャラメリゼが呟いた。 「まあ、なんでも屋だよね。アヤカシと戦っているだけじゃないのだよね実際」 「どんなこと、普段はやっているんだ?」 からすは開拓者についてかいつまんで燃吉に話す。元々は遺跡発掘が任務だったはずだと。 「なんでも屋だから色んな場所にいける知っている」 からすの言葉に燃吉がより心強さを感じた。 氷室から壱棟へと一頭分の豚肉が運び込まれる。 「これはこれでよいのだけど、屠るときの豚の血を使ったソーセージがあるのさ」 「そういえば‥‥」 フランヴェルがブラッドソーセージに触れると燃吉が再び本に目を通す。確かに簡単ながら血を混ぜ込んだソーセージの記述がある。 『血を使うなんて素敵ね‥‥』 ブラッドソーセージの話題を耳にした人妖・リデル・ドラコニアがうっとりとした表情を浮かべるのであった。 ●ビール (「‥‥ビールとは酒類なのでありますか」) 七塚は弐棟内の設備を眺めながら心の中で呟いた。 ビールのことを『しゅわしゅわする』飲み物と聞いていたので、興味を引かれて参加した次第。しかし酒を嗜むにはまだ若い七塚。ソーセージ作りに参加しようとも考えたが、ついつまみ食いしてしまいそうである。悩んだ末、ビール造りに参加する。 まずは全員が真っ白な作業服に着替えた。シンディアは長い髪をまとめて結い上げてから大きめの布で包み込んだ。 「みなさんが来てくれるとわかってから麦芽だけは手をつけています」 青彦が案内しながらビール醸造の流れを説明してくれる。 「多少の力仕事はできると思うから、そちらを手伝うわ」 シンディアは俄然張り切った。駿龍・アズラクと一緒に役立てそうな仕事があったからだ。 棟内には井戸が常設されていたが、ビールそのものには山の石清水を使う予定である。アズラクで空中を往復すれば悪路を通らないで済む。 「無我夢中になってやっていれば存外何とかなるものさ」 「は、はい」 羅喉丸は青彦の肩を叩いた後、神楽の都で購入してきた品を作業台に並べる。 「自分が武術を習ったときは師匠の動きを手本として、自分が目指すものが何かをイメージしながら鍛錬をした。同じものをソーセージの仲間にも持たせてあるから、今頃味見をしている頃だろう」 羅喉丸の勧めで既製品の試食が始まった。ビールはしばらく氷室に置き、頃合いでソーセージを茹でる。 ビールは酔わないように小さな湯飲みに一杯だけ。七塚は気分を味わうために泡だけ舐めた。 「やはりビールとソーセージは合います。うまくいけば‥‥いや、絶対にうまくいきます。いかせます」 青彦が改めて決意表明をする。止まったままだった大きな水車がようやく動きだした、そんな感じであった。 ●ソーセージ作り 『良い料理作るには良い素材からアル』 提灯南瓜・キャラメリゼがすり鉢に香辛料を入れてスリコギを回す。 「もう一匙、こんなものか」 からすは粉末になった香辛料を天秤で量っておく。 「行者大蒜、っていう野草の方が見た目良いと思うんですけど」 「確かどこかで見たような‥‥」 礼野が描いた絵を眺めながら燃吉がしばし唸る。いきなり外へ飛びだしていくと、すぐに戻ってきた。手にしていたザルには乾燥した行者大蒜がたくさん乗っている。春先に収穫したものらしい。 『ぶたさん、ぶたさん』 オートマトン・しらさぎは丸ごとの豚に包丁を入れていく。あばら骨を使うので綺麗にとっておいた。 月与は上級からくり・睡蓮と一緒に薪を割る。ビール側と合わせてこれでもかと湯を沸かす必要があった。 「いろんな木を用意してあるのね」 燻製用の木材も用意されている。サクラを始めとして様々な種類が揃っているが、今は木材のままだ。 「さて、俺のお勧めとしては二種類あるさね。唐辛子系の香辛料を入れた辛いソーセージと、糯米を混ぜ合わせるコトで醗酵を促すコトで完成する酸味のあるソーセージだぜィ」 北條黯羽が唐辛子をすり鉢とスリコギで粉にしていく。その量はかなりのもので側にいるだけでも鼻がむずむずとする。 上級人妖・刃那は人妖の清掃術を使ってさっと後片付けをこなしてくれた。 フランヴェルは燃吉と一緒に豚の放牧場へと足を運んだ。 「解体とか平気なんです?」 「ボクはあちこち放浪していた時にソーセージ作りをやったことあるし、開拓者になってから、依頼で退治したケモノの解体をやってるからね」 フランヴェルはあっという間に豚一頭を気絶させた。血を綺麗に抜くために実際に解体するのは壱棟に戻ってからである。 倒れた豚を見て人妖・リデル・ドラコニアが舌なめずり。 豚肉が追加されたところで、それぞれに考えてきたソーセージを作り始めた。必要な氷は礼野が氷霊結で用意してくれる。 「よし、こんなもんか」 北條黯羽は香辛料をたっぷりの捏ねた豚肉を搾り袋に入れる。取りつけた羊腸の中に詰めていった。一定の間隔でクルクルと捻っていく。 「次は糯米入りさね。片付け、頼むぜィ」 北條黯羽が次に詰める身を用意している間、刃那が汚れた器具類をせっせと洗う。しばらくして糯米入りのソーセージも詰め終わった。 礼野も二種類のソーセージを用意する。 一つは把手としてあばら骨が付いたソーセージ。挽肉に脂を加え、香辛料で味を調えた身を羊腸に詰める。 「こうやって作るんだ。おっと、書き留めておかないと」 「豚の血は火にかけてある程度煮詰めてから使います。鉄分豊富なんですよ」 礼野がゆっくりと鍋の中身を混ぜる様子を燃吉は観察した。 赤身の部分は使わず、内臓を挽いたものに小麦粉を繋ぎとして加える。もちろん適度に豚の血も。臭み消しとして香辛料を多めに入れるが、礼野にはさらにあるものを加えた。それはチーズである。 「そのうち伝手ができれば、ということで今回はお試しです」 「チーズでさらに旨さを引きだすのか。それとも臭み消しなのか?」 燃吉は適したチーズの種類を礼野から教えてもらう。 キャラメリゼは豚肉と氷を一緒に混ぜていた。 「手が冷たいのは我慢せよ」 氷で肉を脂を冷たくするのが捏ねる際の要点だ。水分が足りないとソーセージのできあがりが固くなってしまう。冷やしながら水分が足される氷はとても都合が良かった。 『良い素材作りは苦難の道アル。それを持ってしての至高の味アルネー』 キャラメリゼと同じように仲間達も氷を足しながら材料を練っていく。粘るようになったら終了。残っていた氷は取りだす。 絞り袋担当はからす。キャラメリゼは八分程度に詰めながら捻っていく。こうして氷、挽肉、塩、砂糖、香辛料入りのソーセージができあがった。 「お茶を提供しよう。菓子も用意した」 休憩時はからすが淹れた茶と甘い菓子で一息ついた。弐棟の仲間達にも、からすは茶を提供する。 「なんだか順調過ぎて怖いぐらいだ」 燃吉はこれまでの心配が嘘のようだと語った。 再開してから燃吉が注目したのは月与の作業である。 「真っ赤だし、しかも肉は粗挽きみたいだ」 「これは寒いところにびったりの香辛料の利いた辛いソーセージだよ。辛さを加減すれば旨味を残したまま、体の芯までぽかぽか温まってお酒のつまみにも丁度いい味に仕上がるしね」 月与はオリーブオイルと唐辛子、そしてパプリカを多めに使ったソーセージ『チョリソー』を作る。 「そこにある帳面、持っていっていいからね」 月与にいわれた燃吉が作業台に置かれていた帳面を手に取った。 「羊腸の扱い方について。ソーセージ作りは土地の寒暖を考慮に‥‥こ、これは!」 帳面には『ジルベリア職人のこだわり』の内容を補足した文章が記されていた。彼女の作業が少々遅めなのはこれを書いていたからだ。 「ハーブと岩塩だけのソーセージも作るつもりなので楽しみにしていて欲しいね」 「あ、あの‥‥」 燃吉はまだ早いと思いながらも月与に感謝の気持ちを伝えた。 フランヴェルとドラコニアが作っていたのも礼野と同じブラッドソーセージ。だがこちらはよりたくさんの豚血が使われていた。 踏み台に乗ったドラコニアが大鍋を巨大ヘラでかき回す。 『素敵、素敵過ぎるわ‥‥』 新鮮な豚の血に香辛料を加えて煮詰めていった。 「こんなものでよいかな」 フランヴェルが豚の内臓や舌などを挽き終わる。仕上がった豚血と小麦粉を混ぜてソーセージの中身を完成させた。 「依頼書に茹でて燻製すると書いてしまったけど、どうやら逆が普通みたいなんだ。香りを楽しみたい場合はそれでいいらしいけど。好きな方でやってくれ」 燃吉が木材をナタで刻んでスモークチップを用意する。サクラ、ナラ、クルミ、リンゴの木材が用意されてそれぞれに好みのチップで燻す。 ソーセージの第一弾はその日のうちに完成するのであった。 ●ビール醸造 「失敗は成功の母という。まずはやってみるのが一番だ」 羅喉丸の意見を心に刻んだ青彦はいろいろなビールを造ってみようと考える。 うまくいった条件で次回から醸造すればよい。幸いなことに本格的な冬まで材料と時間には余裕があった。 麦芽は青彦が数日前から発芽させて天日干しにしていたものを使用する。 開拓者の滞在期間を考慮に入れるとそうしなければ間に合わなかったからだ。その意味でも開拓者達に背中を押されたといってよい。 「ではさっそく汲んでくるわ」 「出来るだけ揺れないように‥‥わっ!」 駿龍・アズラクに跨がったシンディアと青彦が飛び立つ。青彦が一緒なのは石清水の場所を教えるためだ。 からくり・マルフタが汲んできた石清水と井戸水の味を確かめた。さらに七塚が石けんを使って泡立ちで比べる。 「石清水は軟水でラガーに合うであります。井戸水は硬水で黒ビールに適しているとそうでありますよ」 七塚とマルフタの検査によってそれぞれに適した水を使う。ラガーを多めに試すのでシンディアは何度も水を汲んでくれた。 「本にもある通り、水は煮沸するのがよいのでありますよ」 七塚は率先して湯を沸かす。使用する水だけでなく、ビールに関わるすべての道具は熱湯に通された。 「煎り方でも味が変わるそうだ。浅煎り、深煎り、試してみるか」 『もう少し火を強くしますね』 羅喉丸が木べらで大鍋をかき回して乾燥麦芽を焙煎する。釜戸番の上級羽妖精・ネージュは火加減を調節した。 焙煎した乾燥麦芽と水を合わせて煮だす。熱さを一定に保ちながら仕上げ、最後に布で濾す。こうして麦芽汁ができあがった。 各自、思い思いの作業を行う。そして翌日。 「これが苦みになるのであります」 「熱すぎず冷たすぎずだな」 七塚と羅喉丸が大鍋に入れた麦芽汁にホップを投入した。熱しながらかき回していき、途中で砂糖を少しだけ加える。 ネージュが頃合いに薪をくべた。 「パンと同じなんて不思議ね」 「ビールに適した種もあるらしいんですが、それは追々研究するつもりです。今回はパン屋さんから譲って頂いたこれでやります」 シンディアと青彦は発酵させた練り麦粉『パンの種』をぬるま湯に溶かす。 マルフタが醸造槽に熱湯を注いで綺麗にする。蓋もすべて満遍なく熱湯で洗い流した。 ホップを除いて湯に溶かしたパンの種を加えてかき回す。それを醸造槽へと移した後で煮沸済みの冷水を注いだ。丁度良い濃さにしつつ一気に冷たくする。 これで最初の仕込みは一通り終了したが、黒ビールにはわざと井戸水を使う。焙煎した麦やフレークなども麦芽に混ぜられていた。 「ネージュ、上手くいくといいな」 『ええ、幸運がありますように』 すべての醸造槽に宙を舞うネージュが『幸運の光粉』を振りかける。良く発酵してビールができますようにと祈りを込めた。 「不思議な気分であります」 日々、七塚は醸造槽に耳を当てる。ずっと聞いていたいような気分が落ち着く音がしていた。 ●若ビール完成 そして 若ビールのまま飲もうと考えたが泡がないと寂しすぎる。若ビールを樽詰めにする際に試飲用の特別樽をいくつか用意した。 砂糖をわずかに足して三日置く。開拓者達が帰路へと就く日の朝にビールとソーセージの試食は行われた。 「それなりに仕上がっていますね」 青彦が冷やした樽から容器にビールを注ぐと泡立つ。ソーセージも卓に並んで試食が始まる。 「若ビール? 年齢が若いの、かしら? 熟成の度合いや発酵の時間のこと?」 「若ビールは最初の発酵が終わったものです。これは三日ですが二次発酵をしたので正しくは若ビールとはいえないかも。かといって完成品でもありませんのでなんといったらよいのやら」 シンディアの質問に青彦が真摯に答えた。 「なるほど。まだ未熟成で、これからゆっくり熟成していくのね♪」 一口ビールを飲んだシンディアが瞬きを繰り返す。 「刺々しい味といわれたけど、ちゃんと美味しいわ。もっと鮮やかな琥珀色になるなんて。‥‥凄く見てみたいわ。いつかしら?」 「容器に詰めたものをお渡しします。一ヶ月ぐらいしてから飲むときっと美味しいですよ」 「好みなら贔屓にするわ。でも妹はまだ十一歳だし‥‥今度彼氏でも連れてくるわ♪」 シンディアは青彦とのお喋りを楽しんだ。ちなみに駿龍・アズラクは余った豚肉にありついて大満足である。 「ソーセージ、まずはこれからなのであります」 七塚が焼いた骨付きソーセージにかぶりついた。熱で活性化した脂と肉のうま味が口いっぱいに広がった。 マルフタも七塚の真似をしてソーセージにかぶりつく。 「せっかく作ったのですし‥‥味見だけ、味見だけであります」 七塚がラガービールと黒ビールの泡を舐めてみる。 ビールを飲んだのはあくまでマルフタだ。そういうことにしておく。 「ネージュ、どうだうまいか?」 『ソーセージとビール、どっちもおいしいです♪』 羅喉丸と羽妖精・ネージュもビールとソーセージを楽しんだ。 羅喉丸としては大麦を荒く砕いた黒ビールが美味しい。足した麦の煎り方は中間がよさそうだ。おそらく完成してもその印象は変わらないだろう。 ネージュは行者大蒜入りソーセージが特に気に入った様子である。 「昨日、作ったリングイッサというソーセージさ」 フランヴェルが燃吉の前に皿を置いた。焼いたばかりのリングイッサだ。 「う、まい!!」 食べた燃吉が叫んだ。 「どうだい、口のなかに肉汁が溢れるだろう! 吸うとどんどん汁が滲み出てくるよ♪ この芳醇な味ときたら‥‥!」 フランヴェルが説明する横でリデルもリングイッサに齧り付く。 『すごいわ‥‥。癖になりそう!』 もちろんブラッドソーセージの味も確かめる。新鮮な血を使ってすぐに火を通したおかげで生臭さはまったくなかった。旨味のみである。 「ビールも未完成とは思えない風味だ」 『朝だというのに‥‥はむはむ‥‥ビールをもう一杯!』 フランヴェルとリデルはお腹いっぱいに堪能する。 礼野と月与はビールを飲みながらソーセージを食べ比べた。 「まゆちゃんの作ったブラッドソーセージってチーズ入りなんだ!」 「チョリソーの辛さでビールが進みます。焼いたハーブソーセージも美味しいです。やっぱり塩気が強いものが好まれますね」 和気藹々としているのは朋友達も同じ。からくり系の睡蓮としらさぎも仲良くビールとソーセージを楽しんでいた。 礼野は他のお摘まみも燃吉と青彦に提案する。 卓には枝豆、そして豆腐がある。ジャガイモとソーセージと玉葱の炒め物も美味しそうだ。ビール煮の料理法は書き残しておく。 『肉に酒。ベストパートナーネ』 「朝からだと少々後ろめたいところがあるが、こういうのもたまにはよいだろう。それはそうと料理には使わないのかい?」 『まずは素材の味を楽しむネ。それから考えるアル』 「それもそうだ。行者大蒜入りソーセージを頂くとして、ブラッドソーセージも食べてみようか」 からすと提灯南瓜・キャラメリゼはすべての料理を一通り食してみる。 『簡単アルが如何カ?』 キャラメリゼは板場を借り、一品を仕上げて燃吉と青彦の元へと持っていく。ソーセージを小さく千切り、唐辛子と塩胡椒で味付けたものだ。 「これって好みの味付けにできるよな」 特に燃吉が気に入ってくれる。彼は極度の辛いもの好き。辛い唐辛子ソーセージをさらに辛くしたものをお願いして作ってもらう。 「さすがに失敗したものもあるさね。だがこっちのはうまいな」 北條黯羽は辛い唐辛子入りソーセージと糯米入りソーセージを摘まみにしながらビールの味を確かめた。 未完成のビールとはいえこの段階でもよくわかる。良し悪しの評価を燃吉と青彦に伝えた。 「失敗しても及第点といったところまで、腕を磨くつもりです」 青彦の言葉は力に満ちている。これなら大丈夫だと北條黯羽は心の中で呟く。 「風の噂を聞いたら呑みに来るンで、二人とも頑張ってくれよ?」 「はい!」 燃吉と青彦の確固たる意思が込められた返事が室内に響き渡った。 試飲試食の朝が終わる。開拓者一行はほろ酔いと満腹気分で帰路に就くのであった。 |