サバイバル 〜満腹屋〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/10/08 03:02



■オープニング本文

 朱藩の首都、安州。
 海岸線に面するこの街には飛空船の駐屯基地がある。
 開国と同時期に飛空船駐屯地が建設された事により、国外との往来が爆発的に増えた。それはまだ留まる事を知らず、日々多くの旅人が安州を訪れる。
 そんな安州に、一階が飯処、二階が宿屋になっている『満腹屋』はあった。


「こんなはずじゃなかったのですよ‥‥」
 太陽の下、満腹屋の給仕、智塚光奈がへなへなと砂浜へとしゃがみ込む。
 乗っていた飛空船が無人島に不時着したのが半日前。朱藩国南方に位置する千代ヶ原諸島の一島のはずなので、航空路、海上航路からそれほど離れていないはずである。
 話は遡って一週間前。満腹屋に光奈の知り合いの浜茶屋から一通の手紙が届く。
 光奈の見立てでカレーに使う香辛料を大量に仕入れてもらえないだろうかとお願いが認められていた。
 天儀本島から離れた南志島で質の良い香辛料を入手するのは大変だからだ。
 光奈は安州の風信器を借りて承諾の返答を浜茶屋に伝える。数日の間に香辛料を買い集め、輸送については開拓者達に手伝ってもらうことにした。
 ギルドから借りた飛空船で海の上空をひとっ飛び。一日もあれば余裕で南志島まで到着できるはずだった。
 ところが謎の宝珠機関の不調でこの有様である。
 漂流しないで済んだのは幸いだが食料がすぐに底を突いてしまう。
 あるのは大きな樽三つ分の真水。そして浜茶屋に受け渡す予定だったカレー用香辛料のみだ。
 他には何もない。醤油、味噌、砂糖などの調味料、米などの食料も一切合切。
 包丁などの調理道具だけは空しく揃っていた。
 落ち込んでいた光奈だが、開拓者達に励まされて気持ちを奮い立たせる。
 目の前には海。そして島はそれほど大きくはないが大半が森になっていた。野草だけでなく野生動物も期待できそうである。
 光奈と開拓者達による生き残るためのサバイバルがここに始まった。


■参加者一覧
芦屋 璃凛(ia0303
19歳・女・陰
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
からす(ia6525
13歳・女・弓
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
雁久良 霧依(ib9706
23歳・女・魔
星芒(ib9755
17歳・女・武
御鏡 咲夜(ic0540
25歳・女・武
火麗(ic0614
24歳・女・サ


■リプレイ本文

●無人島
 白い砂浜にへたり込む智塚光奈に開拓者達が駆け寄った。
「まあこんなこともあるだろう。状況が完全にゼロでない分なんとかなるさ」
 からす(ia6525)が光奈に手を貸して立ち上がらせる。
「大丈夫よ光奈ちゃん、すぐ救助が来るわ」
 腰を屈めた雁久良 霧依(ib9706)が光奈についた砂を払ってあげた。立ち上がった後で優しく抱きしめる。
「折角だしこの状況を楽しみましょ♪」
 光奈の耳元で囁いて元気づけた。
「こういう時こそ余裕持って楽しまないとね」
「ひとまず、一人じゃなくてよかったですよね。が、頑張りましょう‥‥!」
 火麗(ic0614)と柚乃(ia0638)が光奈に声をかけつつ周囲の状況を再確認する。
 海岸は砂浜ばかりではなく、磯らしき岩場もあった。島の中央部は小高くなっていて森のように草木で覆われていた。
「風絶、うち不甲斐ないな。なんや、そんな眼をして‥‥」
 芦屋 璃凛(ia0303)は翼を傷めた鋼龍・風絶を思いやる。骨は折れていないようだが念のため添え木を当てて負担がかからないようにしてあげていた。
「まずは水の確保が必要ですね。残った樽の水だけだと心持たないですし」
「そや、椰子の実とかあれば助かるんやけどどこぞにあらへんか?」
 ルンルン・パムポップン(ib0234)と芦屋璃凛が水の相談をしていると、他の仲間達も同調する。
「それなら大丈夫だ」
 からすによれば食事用の水ならカミヅチ・魂流が『湧水』で用意できるという。ただ不時着の際に魂流が身体を打ちつけて調子が悪いので、洗濯や水浴びのための生活用水は確保したいと付け加えた。
「道具はともかく飛空船の調理場だと本格的な調理は難しいわよね☆ 特に炎は大事だし〜♪」
 星芒(ib9755)は提灯南瓜・七無禍と一緒に石や岩を運び始めた。仲間も手伝って簡易の釜戸を作り上げる。
「まずは塩を作りましょう」
 御鏡 咲夜(ic0540)は飛空船内から大釜を持ちだす。釜戸に設置してから、鍋など使って汲んだ海水を注いでいく。日光で蒸発させて塩分を濃くしてから火に掛けるべきなのだが、それは次から。まずは今晩の料理に使う塩を手に入れるのが先決だ。
 もう一つ釜戸を作ってから探検と食料探しが始まるのであった。


 芦屋璃凛は即席で作った銛を持って海へと飛び込んだ。
(「風絶兄さんにも、うまいもん食わしたろ」)
 鋼龍・風絶が自分は大丈夫だからと背中を押してくれたおかげで、こうやって漁にやって来られた。そうでなければ芦屋璃凛はまだ何も出来ずに途方に暮れていたところだろう。
 海の中は生命で溢れていた。魚がそこかしこで泳いでいる。
 タコを銛で突こうとしたところ、するりと逃げられて失敗。墨を吐かれてどこかに消えてしまう。
 次は大きなイカを発見してそっと近づいた。岩場の近くを通り過ぎようとしたときに先読みして見事に突く。一度コツを掴んでからは難なく仕留めていった。
 イカをたくさん獲って海岸に戻る。もう一度潜って今度は魚を狙う。
 獲た中で一番の大物は石鯛である。海岸にあがってから測ってみたところ、七十センチメートルはあった。
 最後の潜りでは鰹を捕獲。これがあれば風絶もお腹がいっぱいになると芦屋璃凛は喜んだ。


「無人島を脱出して、ちゃんと帰れるかな?」
 心細くなった柚乃が沖を眺めていると又鬼犬・白房が足に身体を寄せてくる。膝を曲げた柚乃は白房の頭を撫でてから流木拾いを再開した。
 砂浜には流木がたくさん打ち上げられている。どれも乾いていて、燃料に使うには充分である。『天狗駆』を自らにかけて砂浜をすいすいと歩く。
 雨が降ったら乾かさなくてはならないのでたくさん拾う。今日使う分は外に作られた即席の釜戸の側に置き、その他は飛空船の中へと運び込んだ。
 砂浜には流木以外にも様々なものが流れ着いている。壊れてなさそうな樽を転がして拠点に持ち帰った。
 海水を注いでも漏れなかったので、塩用の専用道具として使うことにする。
「夜や雨のときは蓋をしないと。この板でいいかな?」
 海水で満たして太陽の下に放置。蒸発して目減りしたら海水を足して濃くしていけばよかった。


「水場が見つかればそこに集まる動物も見つかりそうだけどねぇ」
 火麗は最初に目指したのはこの島で一番高い場所である。
 茂みを跳び越え樹木の間をすり抜けながら崖を登った。頂から島全体を眺めて小川を発見する。さっそく向かうと島の動物達が集まっていた。
(「途中でちらっと見かけたが、やっぱりあれは山羊だったのか。可愛そうだけど背に腹はかえられないってね」)
 水辺を発見したついでに狩りをしていく。サムライの彼女にとって山羊を仕留めるなど造作もなかった。咆哮で招き寄せつつ、上段からの『唐竹割』で一撃で仕留める。
 一人ですべてを持ち帰るのは大変なのでその場で解体する。柔らかそうな肉だけを荷物にした。
「山羊の肉は臭みがあるけど、カレーなら大丈夫だろうさ」
 拠点に戻った火麗は海水で山羊の肉を綺麗に洗う。半分は海水で満たした桶で保存。残りはカレー用の香辛料をまぶして一晩漬けておくことにした。


「無理はするな。魚獲りは元気になってからでいい」
 からすは拠点から近い引き潮でも海水に満たされた磯の岩場でカミヅチ・魂流を休ませる。
 樽の水は今日明日の分は充分に残っていた。仲間を安心させるために『湧水』について触れたのだが、急ぐ必要はない。
 からすは内陸へと足を踏み入れる。第一の目的は洞窟の発見。第二には淡水の発見。第三に食料確保だ。
 途中で火麗と遭遇し、小川の位置を教えてもらう。そこで洞窟探しに専念することにした。
「この茂みから風が吹いているような‥‥」
 拠点からそれほど離れていない崖面で洞窟を発見する。近くを何度か通りがかっていたというのに茂みのせいで気がつかなかった。灯台もと暗しというやつである。
(「よし」)
 その後、崖の上から滑空して飛ぼうとするオオミズナギドリを見つけた。地面からは飛び立てないようで確保は容易だ。
(「水辺にいけばカエルやヘビもいるだろう。緊急時には必要だ」)
 解体したオオミズナギドリ三羽を腰にぶら下げて拠点へと戻る。
 野草もいくつか採集していた。キノコは毒を想定して手をつけていない。詳しい人物でさえ別の土地だと間違えてしまうのがキノコの判別だからだ。
 採集した中には野生のアケビもあった。甘味は心身共に癒やしてくれる。
「しばらくの我慢だ」
 からすとしては茶が欲しいところだがこればかりは仕方が無かった。


 御鏡咲夜は森の木々の間をすり抜け、ときに高く跳ねて眼下を見下ろす。
 武僧の修業のおかげで山野での生活は得意。さらに『天狗駆』があれば大通りを散歩している程度の気軽さである。
「こちらはクルミですね。あちらのは食べられるのでしょうか?」
 秋の草木には様々な実がなっていた。食べられるかわからない実は仲間に訊くために少量採集して持ち帰ることにする。
 地面を覆うたくさんの大きな葉が気になって試しに抜いてみた。土の中から自生のゴボウが姿を現す。
「これはよいものを見つけたのかも知れません」
 御鏡咲夜は拠点に戻って仲間に応援を頼んだ。
 又鬼犬・白房や迅鷹・蓬莱鷹が高枝からクルミを落とす。
 ゴボウは柚乃と手分けして引き抜いた。
 提灯南瓜のロンパーブルームと七無禍が落ちたクルミを拾い集めてくれた。


「海に潜った後とか美容と健康の為にも体や髪を洗いたいもの」
 火麗が見つけた小川までの経路を確立させたのがルンルンである。
 上級迅鷹・忍鳥『蓬莱鷹』と同化した上での『韋駄天脚』とニンジャの技はこういうときに素晴らしい力を発揮する。
 志体持ちでも片道十五分は掛かるところを谷に橋をかけて整備した。おかげで光奈でも拠点から片道五分でたどり着けるようになる。
 食料探しにも力を入れた。
「蓬莱鷹ちゃん、あの木の実をお願いです」
 ルンルンは頭上の椰子の実を『蓬莱鷹』に落としてもらう。続いて柿の木も発見した。
「渋くないように‥‥!」
 恐る恐る食べてみたルンルンだが笑顔を浮かべる。甘柿であった。帰り道、水辺で鴨を見つけて鴨を仕留めた。シャモの巣から卵も頂く。
「今晩はシーフードカレーなのですよ〜☆」
 ルンルンが拠点に戻ると光奈と仲間達がカレーを作ろうとしていた。
「カレーは美味しいのでいくら食べても、あっ、でもお米が無いのです‥‥」
 御飯がないことを思いだしたルンルンは肩を落とす。ふと活け締めにされた石鯛が視界に入って思いついた。
「閃いちゃいました! これ使ってもいいですか?」
「構へんで。必要ならまた獲ればええからな」
 ルンルンは芦屋璃凛から譲ってもらった石鯛を三枚におろして少しずつすり鉢に入れる。御飯の代わりに大きめの団子を作るのであった。

●豪華な食事
「今日のところは準備をがんばるとして‥‥光奈ちゃん、明日は私と一緒にお魚獲りしましょ♪」
「お魚獲りは霧依さんにお任せするのです☆ 潜るのはそこそこできるので海底の貝拾いを頑張るのですよ〜♪」
 雁久良と光奈はお喋りしながら枝と縄を使って魚獲りの罠を作った。
「あたしも海での食材獲り、混ぜてね♪」
 海水を煮詰めていた星芒も参加を希望する。明日は三人で海に潜ることとなった。
 罠は砂浜に打った杭に縄で繋いでおく。潮の満ち引きした後がお楽しみである。
 流木や食材が揃ったところでカレー作りに腕を振るう。
「実はカレーも水からではなく、だし汁を使うと美味しくなるのです☆」
 光奈は最初に魚のアラや身が少ない貝を使ってだし汁を作ろうとする。
「さすが満腹屋の娘ね♪ どんなカレーになるのか楽しみよ♪」
 雁久良は網の上で軽く焼いたアラや貝を器に移して光奈に渡す。一部の食材には黒胡椒を振りかけておく。頃合いになったらさらに塩を振って網で焼くつもりである。
「お塩はひとまず完成♪ コリアンダーをお願いね♪」
 星芒は提灯南瓜・七無禍に手伝ってもらって香辛料を粉にした。
 野草の中でカレーに使われたのはゴボウである。
「これでけっこう味が変わるのですよ」
 光奈が香辛料を調合してカレー粉が完成。バターの代用には鴨の脂を使う。
 カレーの具はイカや魚、ホタテなどの貝類、そしてゴボウでまとめられた。御飯の代わりとして石鯛のすり身を丸めた団子が用意される。
 日が暮れても提灯南瓜のロンパーブルームと七無禍のおかげで暗闇にはならない。『闇への誘い』があればさらに明るくなった。
 せっかくなので野外に卓を運んで晩御飯を食べる。
「それでは頂きますです☆」
 光奈がサジでカレーを一口。その笑顔がすべてを物語った。
「すり身のお団子、大当たりですね♪ また料理の腕が上がったような気がしちゃいます〜♪」
「御飯のことすっかり忘れていたのですよ〜」
 ルンルンと光奈はお喋りに興じる。迅鷹・蓬莱鷹は夕方頃に自前で獲ったお魚を頬張っていた。
「椰子の実、きいとるで」
 芦屋璃凛は光奈にカレーの隠し味として椰子の実ジュースを使ってもらった。
 辛味の中に隠された甘味が風味を引き立てる。具のイカも最高。一部は塩焼きにして卓の上に並べられていた。
 お替わりをした芦屋璃凛は皿を持って鋼龍・風絶の元へと向かう。
「明日はカレーの他に肉の丸焼きに挑戦や。他にも作りたいもんがあるんやけど、小麦粉がないんでどないしよかと思ってるんやで」
 芦屋璃凛は鰹を囓る風絶に話しかけながら二杯目のカレーを頂く。
「白房、美味しい? カレーは美味しいよっ♪」
 柚乃に話しかけられた又鬼犬・白房が元気に吠える。食べていたのは山羊の肉。生肉を美味しく頬張っていた。
 いざとなれば柚乃が『解毒』の術を持っているので一同はとても心強かった。
「大分良くなっているな」
 カレーを早くに食べ終えた、からすは海水溜まりで休んでいるカミヅチ・魂流を見舞う。海魚を美味しそうに食べる姿を眺めて気持ちを楽にする。
「光奈ちゃん、食べている? はい、これどうぞ♪」
「お肉! ありがとなのです☆」
 雁久良が光奈の前に皿を置く。鴨の炙り肉は塩胡椒しただけなのにとても美味しかった。
「あう☆ 舌の上でとろけるような味なのですよ〜♪」
 光奈はカレーに続いて鴨の炙り肉もぺろりと平らげてしまう。
「明日のカレーも楽しみにねぇ。山羊に鴨、それにオオミズナギドリと豪華なお肉揃いだから。カレー粉を塗す前に潰したアケビを塗っておいたから、より柔らかい肉に仕上がっているはずさ。あとは酒があれ‥‥おっとこれはいわないのが華か」
「明日もがんばってお腹を空かすのです☆」
 光奈の返事に火麗が大笑いした。
「島を脱出した暁には満腹屋さんでお食事を頂ければと」
「是非になのです☆ やっぱり最初はそぅ〜すのお料理がいいかな。お好み焼きやたこ焼きがお勧めなのです☆ 味付き炭酸水を奢っちゃうのですよ〜♪」
 満腹屋の料理に興味を持っていた御鏡咲夜に光奈がいろいろと説明する。その多くは開拓者達の協力によって揃えられたものだ。
「私も興味あるなっ♪ 満腹屋さん♪」
「星芒さんもお店に是非来てくださいな♪」
「数日したら私が今日のとはちょっと違う『し〜ふ〜どカレー』を作るからね。カニやエビ風味のやつ♪ それとウニも♪」
「早く食べたいのです、星芒さんのカレーも♪」
 光奈は無人島を話題にしながらも感じていた不安をすっかりと忘れていた。

●続く日々
「綺麗な海ね♪ この暖かさならまだまだ泳げそう♪」
 『ビキニ「ノワール」』を纏った雁久良が海に飛び込む。水を掻く指には『ネイルリング「真紅」』の宝珠が光っていた。
「日差し、強いのですよ♪」
 光奈は雁久良から借りた白いワンピース型の水着姿ですいすいとカエル泳ぎ。
「ひゃー!」
「あ、ゴメンね。光奈ちゃん、驚かせちゃったかな?」
 突然に光奈の目の前に浮かんできたのは『水着「モノトーン・プリンセス」』姿の星芒だ。彼女が握る『大槍「シャタガンター」』の三叉に分かれた穂先にはタコが三段重ねで突き刺さっていた。
 どうやって獲るのか光奈は一緒に潜って見せてもらう。
(「秘技っ星芒クリティカルぅ!☆」)
 宝蔵院を使った星芒が素速く槍を獲物に突き立てる。投げても手首と槍の柄を荒縄で結んであるのでいつでも手繰り寄せられた。
(「私もいいとこ、見せておこうかしら♪」)
 泳ぐスズキを発見した雁久良は泡を出しつつ小声で唱えてアムルリープで眠らせてしまう。起きる前にナイフで仕留めて手に入れた。
「わたしも頑張るのですよ〜♪ 大きく息を吸ってぇ〜〜」
 光奈は素潜りでアワビやサザエを次々と拾う。
 その頃、柚乃は無人島の頂に登っていた。
「この見晴らし、すごいねっ。形がわかれば助かった後でどの島かわかると思うの」
 寄り添う又鬼犬・白房に話しかけながら木炭で絵を描き始める。島の全景を描いておけば役に立つ。白房は絵描きに集中する柚乃の代わりに周囲を警戒してくれた。
「今晩は約束通り、野生肉のカレーだよ。たんと召し上がれ」
「イカの丸焼きや野生肉の塩焼きローストや。ココナッツジュースの煮込み料理もあるで!」
 晩御飯は多種の肉を使用したカレーと肉料理が並んだ。
「あ、すごいのですよ、これ!」
 一口食べた光奈がしばし固まる。動きだした後は食べ終わるまで手が止まらない。
 鴨に山羊、それにオオミズナギドリといった肉がごったに使われていたのにとても美味しい。
 肉料理も素晴らしかった。カレー味にしない範囲で香辛料を臭み消しに使ったようだ。醤油や味噌がない状態でココナッツを調味料とした煮込み料理も光奈の好みである。
「光奈さん、こちらも食べてみてください」
 御鏡咲夜が置いた皿には裏ごしした茹で山芋にクルミを和えたものが盛られている。
「柔らかくてやさしい味の中に隠れている歯ごたえのあるクルミの濃厚な味‥‥。満腹屋でもだしたいのです☆」
 光奈は御鏡咲夜が作ったこの一品もとても気に入るのであった。

●もう一つのシーフードカレー
 島に不時着して三日目。
 沖の波間でドカンと爆発したのは提灯南瓜・七無禍が投げた南瓜爆弾である。離れていた仲間が近づいて海面に浮かんだ海魚を採集した。
 引き潮の際に砂浜も爆発させて隠れていたエビを確保。磯では自らの手でカニを獲った。仕掛けた罠にもカニはかかっていた。
 カミヅチ・魂流は島の周辺を泳げる程度に快復する。三メートル級のオオマグロを獲ってきて一同を驚かせた。
 これだけで当分の食料は困らないくらいだが放っておくと腐ってしまう。トロの部分は早めに脂として利用し、赤身の部分は海水漬けにしたあとで燻製に加工した。もちろん獲れたてのときはお刺身を充分に堪能する一同だ。
「カニとエビのうま味が重なっていてすごいのですよ☆ この間のシーフードと違うのです〜♪ 甲乙つけがたし♪」
 星芒が作ったし〜ふ〜どカレーの濃厚な甲殻類のうま味に光奈が仰天する。
「たくさん食べてね♪ まだまだあるから♪」
 一同も舌鼓を打つ。茹でてほぐしたカニとエビの身に海鮮のうま味を含んだカレーをかけて頂くのであった。

●予期せぬ出来事
「ひゃっ!」
 五日目の深夜。飛空船内で寝ていたルンルンが跳び起きて悲鳴を上げた。仲間達も次々と目を覚ます。ルンルンの声で起きたわけではなかった。
 提灯南瓜の七無禍とロンパーブルームが天井近くで漂っていたおかげで室内はぼんやりと明るい。
「雨漏りですね」
「こりゃ酷いで」
 柚乃と芦屋璃凛が掌で天井から滴る雨を受け止める。
「不時着したときに船体が歪んで隙間ができたんだろうねぇ」
 火麗が船窓を開くと激しい雨音が各自の耳に飛び込んできた。
「これまで天気の日が続いていて気づきませんでしたね」
 御鏡咲夜が雨漏りの落下地点に食器を置いていく。仲間達もそれを手伝う。
「どうしましょうかね」
「このままじゃ眠れないわね。かといって今からの屋根修理は大変だし」
 星芒と雁久良がそれぞれの提灯南瓜を見上げながら唸る。
「私が見つけた洞窟で一晩過ごすのはどうだろうか? 天幕を運び込んであるので今からいっても大した手間をかけずに眠れるだろう」
 からすの妙案に全員がのった。薪用の流木が濡れないようにしてから洞窟へと移動する。
 洞窟の出入り口は地面から十数センチメートルほど高かったので水溜まりが流れ込みにくかった。さっそく天幕を洞窟内に設営し、雨漏りの騒ぎから一時間後には全員が再び眠りに就く。
 翌日、ルンルンが飛空船の屋根を直してくれた。
「まさか雨に起こされて驚くなんて‥‥ニンジャの道は険しいのです。あれ、もしかしてこれって‥‥」
 ルンルンは玄翁で打ちながら釘を加工して釣り針を作ることを思いついた。糸は天幕の一部をほぐして手に入れればよい。
 こうして海に入らなくても魚が獲れるようになった。

●突然に
 救助の到来は意図せずに果たされた。釜戸から立ち上る煙を救助の合図だと勘違いした親切な商用飛空船が無人島に着地してくれたのである。
「あ、ありがとうございますです‥‥」
 もちろん助けてもらいたかったのだが、あまりの呆気なさに気が抜けた光奈が尻餅をついた。
 商用飛空船の行き先はちょうど南志島だった。報酬を払って積み荷の香辛料を載せてもらう。
 光奈と開拓者達は積み荷と一緒に南志島へ。少々目減りしてしまったが香辛料を無事に届け終わった。旅客飛空船に乗って朱藩安州へと戻る。
 不時着した飛空船はギルドに修理回収してもらう。開拓者達がなくした食料は光奈が買い直す。この頃だと怪我した朋友達は全快していた。
「どうぞ、お腹いっぱいに食べてくださいなのです☆」
 光奈は開拓者一行を満腹屋に招いて食べ放題で持て成す。

 これが光奈と開拓者達が体験した無人島不時着の顛末である。