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■オープニング本文 理穴国包恵山の麓に鍋貸村はある。 普段は猟師しか奥まで立ち入らない包恵山だが秋の季節は違う。たくさんの栗の木が自生し、松茸を始めとしたキノコ類が豊富に採れるからだ。猪を始めとした野生動物が棲んでいるので獣肉にも事欠かない。 九月の初旬。茸狩りをするために山を登った村人が命からがら逃げ帰ってきた。 「く、熊じゃ。熊がおった」 「熊など毎年のことじゃろ。そりゃ怖いが、遭いとうなければ鈴でも鳴らしておれば平気じゃ。まさか忘れてしまったわけじゃあるまいに」 「そうではない、腐りかけの熊なんじゃ。たまたま風下にいて酷い臭いに気がついたんじゃよ。んでこうして戻って来れた。そうでなければ今頃‥‥」 「そりゃアヤカシでねぇか。東の魔の森がなくてから見かけなくなったというのに、どこぞから迷い込んだのかの」 急遽村人達は集会を開いた。そしてアヤカシと思しき熊退治を開拓者ギルドに頼むことで意見が一致する。代表者が風信器のある隣村へと出かけて連絡を取った。 「見かけられたアヤカシっぽい熊は一頭だけじゃ。詳しく調べてみんとわからんけんども、おそらく他にはいねぇと思うべ。前にもアヤカシが現れたことがあんけんども、他からやってきたからのう。あの山には『瘴気』っていうのが少なめらしいんで、間違いねぇよ」 目撃者の証言によれば、アヤカシと思しき熊の身長は二メートル弱である。成人男性の胴程度の太さがある幹を一撃でへし折っていた。熊が吠える声を聞くと足が震えてしばらく歩けなくなったという。 目撃者が生還できたのは単に運がよくて熊に気づかれなかっただけだ。 実りの期間は非常に短い。鍋貸村の冬支度のためにも早いアヤカシ熊退治が望まれた。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
御陰 桜(ib0271)
19歳・女・シ
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)
10歳・女・砲
星芒(ib9755)
17歳・女・武
宮坂義乃(ib9942)
23歳・女・志 |
■リプレイ本文 ●アヤカシの熊 開拓者一行は数日の旅路を経て鍋貸村を訪れた。 「んだよ。あれから山に入れんで困っとるんや」 熊・妖を目撃した村人達に当時の状況を詳しく聞いてから包恵山を登り始める。 「まずは普通じゃない熊狩りからね! そうしないと落ち着かないし」 「さっさと腐れ熊を探して、サクッとヤっちゃいましょ♪」 叢雲・暁(ia5363)と御陰 桜(ib0271)の頭の中はその後に控える山の幸のことで一杯であった。彼女達だけがそうなのではない。他の仲間達も同様だ。 「この時期、冬眠に備えて食糧を探してる熊と遭遇っていうのはよくあることだが‥‥」 『腐りかけは流石に嫌ですわ』 宮坂 玄人(ib9942)と上級からくり・桜花が斜面を登りながら周囲を見回す。 理穴国は寒い地方なので景色は秋色に染まっている。残っている緑はほんのわずかで紅葉の佇まいが感じられた。 「アヤカシの熊たろーを退治したらつけようっと」 星芒(ib9755)は熊避けの鈴を村人から借りている。腰にぶら下げるのは熊・妖を倒してから。今は鳴らないよう布を詰めて荷物の中にある。 相棒銃を持ち、大猪の毛皮をまとって隣を歩いているのは上級からくり・朽無だ。その姿はまるでマタギのようだ。 元気よく歩くルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)の中心にして羽妖精・大剣豪が飛び回っていた。 「なべかしむらって面白い名前だよね。山のタヌキとキツネが怪我をした旅人にゴハンを作ってあげるためにお鍋を貸してって頼みにくる昔話があるんだって♪」 『ボクはでっかい刀を貸してほしいな♪』 ルゥミと大剣豪が愉快に笑う。 「あたいはでっかい大砲がいいな! とにかくレッツゴーだよ大ちゃん!」 仲間よりも先に進んだルゥミは高い樹木に登って遠くを見渡す。包恵山は想像していたよりも崖や谷が多かった。 しばらくして羅喉丸(ia0347)が歩みを止める。 「山道沿いにある根元から三つに分かれたブナの大木‥‥。目印代わりの傷もあるし、この辺りのようだ。村人がアヤカシらしき熊を目撃したのは」 仲間達も立ち止まった。村人によるとその場から見える遠くの崖上に異臭を放つアヤカシの熊が立っていたという。 ここを集合地点にして熊・妖を探すこととなる。 「白房、臭いでわかったら教えてね」 天狗駆を自らに付与した柚乃(ia0638)は熊・妖の捜索を開始する。これなら険しい斜面を駆ける又鬼犬・白房を難なく追いかけられた。 「蓬莱鷹ちゃん、お願いしますね」 ルンルン・パムポップン(ib0234)は上級迅鷹・忍鳥『蓬莱鷹』に上空から探ってもらう。自らは超越聴覚で熊・妖を探すつもりである。ついでに山の幸の穴場探しも忘れない。もちろん実際に収穫するのは退治の後だ。 全員が散らばって一時間が過ぎた頃、御陰桜が連れていた闘鬼犬・桃が熊・妖の臭いを発見した。 「桃、よくやったわ♪」 (『とても嬉しいです』) 御陰桜が桃の頭を撫でて褒める。 御陰桜は地面に落ちていた枯れ葉を使って狼煙をあげた。それに気がついた仲間達が集まる。 熊・妖が見つかったのはそれから五分後のことだ。又鬼犬・白房が茂みに吠えると隠れていた熊・妖が吠えながら姿を晒す。 「これは‥‥さすがにきついな」 大抵のことには動じない羅喉丸だが熊・妖の腐臭は凄まじかった。 触れたりすれば後が大変。そこで近接戦闘を得意とする者は控えて遠隔攻撃の術を持つ仲間に任せることにする。 闘鬼犬・ハスキー君が『咆哮烈』、宮坂玄人が『猫弓』、桜花が『相棒魔槍砲「アポ・カテキル」』、朽無が『相棒銃』で威嚇攻撃をした。その間に柚乃がアムルリープで熊・妖をしばし眠らせる。 咆哮に似た吠えが使われないうちに大急ぎでその場から遠ざかった。 すでに遠方で待機していたルゥミと大剣豪が動きだす。 『みんな離れたよ』 高く飛んで状況を監視していた大剣豪がルゥミに合図をだす。 「わかったよ、大ちゃん。いくね!」 視界は良好。ルゥミは『ルゥミちゃん最強モード!(M)』を発動させた。『マスケット「魔弾」』から放たれた猛進の銃弾が熊・妖を貫く。 腹に大穴が空いた熊・妖が枯れ葉の地面へと倒れた。しばらくして煙のような瘴気が立ち上った。残されたのは熊の死骸である。 「よいしょっと。もうアヤカシじゃなくなったし、せめてこれぐらいはね」 ルンルンが熊の死骸に土を被せて弔ってあげた。 「これで気づいてくれるよね♪」 星芒が天に向けて狼煙銃を撃つ。鍋貸村の人々にいち早く熊・妖の退治を報せるのであった。 ●羅喉丸 開拓者達は村人達に山の幸がどうなっているのか、退治のついでに確かめて欲しいと頼まれていた。各自散らばって狩りや山菜採りに取りかかる。 「念のため、一回りしてみるか。ネージュ、色んなものが見れるかもしれないぞ」 『楽しみですね、羅喉丸』 羅喉丸は上級羽妖精・ネージュを連れて山を一回りした。 「この辺りの紅葉は本格的だな。北の大地だけあって理穴の冬は早く訪れるのだろう」 色づいた草木の葉を眺めているとアケビを発見する。さっそく割ってネージュと食べてみる。ほんのりと甘かった。 小川を覗き込んでみれば鮎らしき影が動いている。水を飲みにきた雉の群れも発見した。 「獲物としてはどちらがいいと思う?」 『釣り竿や網があれば鮎がいいと思いますが、今はありませんので』 「そうだな。雉なら大勢で食べれるしな。手伝ってくれ」 『喜んで』 『魔剣「レーヴァテイン」』を手にした羅喉丸が瞬脚で雉の側に近づく。 羽ばたいて飛び立とうとした雉にはネージュの妖精剣技・舞が炸裂する。わずかな間に合計で四羽の雉が手に入った。 処理を済ませて再び散策。するとネージュが枯れた倒木に生えているたくさんの茸を発見した。毒々しいのは避けて採集するがそれでも素人には区別がつきにくい。 「村の人に食べられる茸かどうか訊いてみよう」 『それがいいですね』 包恵山を一通り歩いたところで下山しようとする羅喉丸とネージュであった。 ●柚乃 「村人さんに教えてもらったの。栗の木がたくさん自生しているところがあるんだって」 柚乃は又鬼犬・白房に話しかけながら山中を歩いた。あらためて自らに付与した『天狗駆』のおかげで悪路もへっちゃらである。 『もふっ』 どこからか声が聞こえてきて足を止めて振り返る。誰もいなかったが白房の様子がおかしい。柚乃には何となく察しがついた。 三十分後、柚乃と白房は栗の木が生えている場所へと辿り着く。地面にはたくさんの毬栗が落ちていた。 「村で借りた下駄に履き替えてっと。こうやって踏めば‥‥栗が見えた♪」 柚乃は毬栗の中から栗の実を取りだすのに成功する。 白房の両前足にも別の下駄を括りつけた。さすが頭のよい又鬼犬。見よう見まねで毬栗を器用に割ってくれる。 先にたくさんの毬栗を割ってから中身の栗を拾う。落ちていたすべてを拾うと持ってきた袋が一杯になった。 「そろそろ帰ろうか。やっぱり栗御飯がいいかなっ♪」 柚乃と白房が立ち去った後で、もこもこした物体が茂みから現れる。それはもふらの八曜丸。柚乃が留守番を言い渡したはずの朋友だった。 八曜丸も栗を拾おうとしたがすべて割られた毬栗しか残っていない。そこで栗の木を揺らして枝からぶら下がる毬栗を落とそうとした。 『もふ、痛いもふ〜!!』 棘だらけの毬栗がたくさん降ってきて八曜丸は大わらわ。涙目で倒れていると周囲が暗くなる。 「こっそりついてきているし。もう食いしん坊ね」 『もふ‥‥』 柚乃が八曜丸を起こして土埃を払ってあげた。 調理を手伝えば栗御飯をあげるといったら大喜び。一緒に鍋貸村まで下山するのであった。 ●叢雲暁 「アヤカシの熊狩りが終わったら味覚狩りなのね!」 『ハイキングなのね! キノコ探すのは得意なのね!』 張り切る叢雲暁に呼応して闘鬼犬・ハスキー君が元気よく吠えた。一人と一頭は疾風のような素速さで山の茂みへと姿を消す。 「まずはキノコ、松露イってみよ〜〜♪」 叢雲暁が片腕を挙げつつ勢いをつけて谷間を跳び越える。ハスキー君も難なく追いかけて途中から前を走った。 『豚よりもうまく松露を探すって評判なのね!』 わずかな時間で黒松の群生域を探し当てる。地面に鼻を擦りつけるようにしてハスキー君が香り高い松露を次々と発見。叢雲暁がそれを拾っていく。協力し合って袋を松露で一杯にした。 「夏が過ぎていい感じに盛ってきた熊とか猪とかがいれば最高だね! 味噌鍋にしてやる為に!」 叢雲暁は崖の端に立って見下ろしていると熊を見かけた。手負いらしき鹿を追いかけている。ハスキー君と一緒に全速力で駆け下りて鹿と熊の間に割って入った。 「弱肉強食、お鍋祭りだね!」 『なのね!』 野生ではたくましくなければ生きていけない。熊が鹿の捕食を試みたように、叢雲暁とハスキー君も熊を獲物として狩った。 「重いけどこれぐらい大丈夫だね」 『楽しみなのね!』 担いだ熊肉は重たかったが心は躍る。ご機嫌な叢雲暁とハスキー君は山の斜面を下るのであった。 ●ルンルン 「蓬莱鷹ちゃん、赤松の葉っぱは冬になっても緑色のままですから」 ルンルンは熊・妖の探索中に発見した自然薯を掘りだそうとしていた。その間、迅鷹・蓬莱鷹に上空から探してもらったのは赤松である。 しばらくして自然薯を掘りを終えたルンルンは蓬莱鷹の案内で松の群生場所を訪ねた。外れが三回続いたものの、四個所目で大当たりを引く。赤松の根元を覆っていた枯れ草をそっと退けると松茸が生えていた。 「この重量感‥‥まさにお宝発見なのです!」 村人に教えもらった通り、松茸の根元についた土は採った場所に落としておく。こうすることで来年もまた生えてくるらしい。 次々と松茸が見つかって狂喜乱舞の状態となった。籠が一杯になったところで鼻歌を唄いながら歩いていると丘陵の向こう側で土煙が舞い上がる。 「あれは?」 眼を凝らすと羅喉丸と羽妖精・ネージュが猪を追いかけていた。ただ荷物が邪魔なせいで追いつけずにいるようだ。 「蓬莱鷹ちゃん、韋駄天脚なのです!」 蓬莱鷹と同化したルンルンが山道のど真ん中で立ちふさがった。突進してきた猪をふわりと避けつつ右側面に蹴りを食らわせる。 姿勢を崩した猪が道から逸れて大木の幹に激突。よろよろとしながらも猪はまだ動く。 「雉を捕獲済みなのだが、せっかく猪を見かけたのだな。助太刀、大いに助かった」 追いついた羅喉丸が猪に止めを刺した。 「こうやって猪が獲れてよかったです♪」 転がっていた太い枝に猪の四つ足を縄で縛り付ける。二人で飛脚籠のように猪を担いで鍋貸村へと戻るのであった。 ●御陰桜 「秋の味覚といえば松茸や栗よね。そうそう、桃が好きな甘藷が自生してるところもあるらしいわよ♪」 御陰桜と闘鬼犬・桃は村人に教えてもらった山中の集落跡を目指す。 「朽ち果てた建物‥‥きっとここよね」 集落跡は川のすぐ近くにあった。川辺を歩いているうちに蔓と葉が砂地を覆う場所へと辿り着く。 「もしかして」 御陰桜が蔓を掴んで引っこ抜いてみればサツマイモが連なって現れる。それを見た桃が跳びはねて喜んだ。 「栗や松茸はみんなに任せて甘藷採りを頑張ろうかしら」 『桜様、大賛成です』 蔓を引っ張る度にサツマイモがゴロゴロと砂地に転がった。籠や袋などに詰めるだけ詰めてすぐに下山する。 仲間達の帰りを待つ間に焼き芋を作ることにした。すでに村人が続けていた枯れ葉の焚き火があったのでその後を引き受ける。 積もった熱い灰の中に濡らした天儀紙に包んだサツマイモを押し込む。集めた枯れ葉で焚き火を続けた。 「そろそろいいわね」 数時間後、御陰桜は焚き火の中から焼き芋を取りだす。 「桃〜、お芋焼けたわよ〜♪ 大きいの二つあげるわね」 『いい匂いです』 いつの間にか桃は御陰桜の足下で尻尾を振っていた。 「まだ熱いから、待てよ!」 『はい』 桃が姿勢正したまま十五分経過。意地悪ではなく本当に熱かったからである。 「もうイイわよ♪」 『頂きます』 御陰桜も焼き芋を頂く。 本来は天日干しした方がよいのだが、十分な甘味で思わす頬がほころんだ。桃も気に入ったようですぐに食べてしまう。 「残りのお芋はみんなにあげるから食べちゃだめよ♪ その代わり明日早起きして焼きましょうか。それに持って帰ってお家でも食べればいいわよね♪」 ウインクする御陰桜を見上げながら桃は嬉しそうに吠えるのだった。 ●ルゥミ 「退治のあとは山の幸を竹籠いっぱいに収穫しようね!」 『おー!』 ルゥミと羽妖精・大剣豪が大きな竹籠を背負って山道を登り始める。収穫したいと考えていたのは栗と茸、おまけで銀杏だ。 『ルゥミ、これとこれ、どうかな?』 「あ、毒キノコだ。こっちはヒラタケだから美味しいよ♪」 ヒラタケにナメコ、シイタケにブナシメジなど包恵山には豊富な茸が自生していた。村人に教えてもらった毒茸は避けて集める。 ルゥミが背負っていた竹籠はたくさんの茸ですぐに一杯になった。 「このにおい‥‥」 ルゥミはにおいに誘われて銀杏の木を発見した。地面に落ちている銀杏の実は熊・妖ほどではないが、それなりの異臭を放っていた。 手袋を填めたルゥミは大きく深呼吸する。大急ぎで銀杏の実を麻袋に詰めた。大剣豪もルゥミを倣って同じように集める。 次に銀杏が詰まった麻袋を岩から湧き出る清水にさらした。袋の上から揉んで腐りかけの果肉を取り除いてしまう。大事なのは種の部分だからだ。 綺麗に洗った銀杏は大剣豪が背負う竹籠に仕舞う。 『こんなに食べ切れるかな♪』 「銀杏だけでもおいしい炊き込み御飯ができそうだね♪ でも栗も欲しいんだけどな〜」 わくわくしながら鍋貸村に戻ると仲間が栗を手に入れていた。 炊き込み御飯には十分な量の栗があったので山に戻らず調理を手伝うことにする。村人に借りた包丁で栗や銀杏の皮を剥く。 『薪はこれぐらいかな』 釜戸の番を担当した大剣豪が御飯を炊いてくれる。栗、銀杏、茸の炊き込み御飯の完成はもうすぐであった。 ●星芒 「さあ、ここからが本番ね〜☆」 星芒は鈴の音を鳴らしながらからくり・朽無を連れて山の奥へと分け入った。 新たな収穫の穴場を見つけようと普通の人では中々立ち入れない場所を探す。志体持ちの身体能力に加え、自らに『天狗駆』をかけてあるのでどんな悪路もすいすいと進んだ。 朽無は途中で手に入れたアケビを食べながら安全なところで星芒の帰りを待つ。 「こんなところで梨の木を見つけちゃった☆ あ、こっちは葡萄の木かな。乾燥して干し葡萄になっているなんて不思議♪」 果物の木が多く自生していてる一帯を発見して星芒が瞳を輝かせる。朽無の元に戻った星芒は太めの木を二本伐採して橋の代わりに谷へと架けておく。 別所ではクルミの木を発見。木に登らなくてもたくさんのクルミが地面に落ちていた。 手袋をしてそれらを拾い、水辺で果肉の部分を剥いてしまう。図らずもルゥミが収穫していた銀杏と似たような作業であった。 「これぐらいでいいかな♪」 たくさんの梨、クルミ、葡萄を旅装行李に詰めて山を下りる。 たまたま茸の自生域も見つけたがすでに荷物が一杯なので諦めた。その代わりに仲間が収穫してきた茸の選り分けを手伝う。 クルミは山菜の和え物に使った。梨はみずみずしくてそのままで充分に美味しい。干し葡萄はとても甘く、村の子供達にあげると大好評だった。 ●宮坂玄人 『これ以上、山の食料を荒らさせない為にも成敗ですわ!』 熊・妖との戦いの最中、宮坂玄人にはからくり・桜花が魔槍砲を撃つときそう叫んだように聞こえた。 正確には『の食料』の部分は聞こえなかったのだが、心の叫びとして伝わってきたのである。それだけ桜花が山の幸を楽しみにしていると宮坂玄人は考えた。 山道で遭遇した柚乃に教えてもらい、栗の木の自生地域に足を運ぶ。奥にも栗の木が育っていたのでそこで桜花と一緒に栗を収穫した。 柚乃が持っていた栗は料理の分としては必要充分だった。しかし土産として持ち帰るには少なかったからである。 「他の人にも安心して来られるようにしないとな」 宮坂玄人は時折人魂で式の雀を飛ばして周囲を探る。アヤカシが隠れていないか念のための探索だった。 ついでに発見した茸を収穫。戻ってから村人に聞いてみるとウスヒラタケと呼ばれる茸であった。 夕食前に焼き栗作りに挑戦した。皮に穴を空けてから焚き火の中へと放り込む。御陰桜が作ってくれた焼き芋を食べながら暫し待つ。 焼く環境が整っていたので想定していたよりも早くに焼き栗が完成する。 『玄人様! この栗、とっても甘いですわ!!』 「ああ、甘いな。これを持ち帰れば兄と師匠も喜んでくれるだろう。採ってきたウスヒラタケは鍋に使われるらしいぞ」 宮坂玄人と桜花は焼き栗をほくほくと食べながら晩御飯を楽しみにするのであった。 ●山の幸 包恵山の幸で作った晩御飯はとても豪華であった。集会所で村人達と一緒に頂く。 自然薯をつかったとろろ汁。雉と茸、そして山菜の味噌鍋。 栗、銀杏、茸の炊き込み御飯。栗だけの炊き込み御飯も用意された。 松露と熊肉を使った味噌鍋。松茸入りのシシ鍋。松茸は土瓶蒸しや焼き松茸にも使われる。 栗の一部は甘露煮に。食事の締めは好みで焼き芋と焼き栗だ。果物好きには干し葡萄や梨がある。 『雉の味噌鍋、とても美味しいです♪』 「それはよかった。こっちのシシ鍋と食べ比べてみるか。‥‥う〜ん、甲乙つけがたいな」 羅喉丸とネージュが茶碗を持ちながら二つの鍋を食べ比べる。 「白房と八曜丸、行儀よく食べるのよ。お替わりしてもいいけど、がっつくのはなしね」 柚乃と一緒に八曜丸が栗御飯を頂いた。白房は雉と熊の肉を鱈腹食べてご機嫌である。 「この臭みがなくて熊肉、当たりだね! きっと木の実ばかり食べていたんじゃないかな」 『美味しいのね!』 叢雲暁と闘鬼犬・ハスキー君は松露と熊肉を使った味噌鍋に舌鼓を打つ。主に生肉を食べたハスキー君だが鍋も冷ましてから味わった。 「シシ鍋に栗御飯。美味しい! ‥‥ほら蓬莱鷹ちゃんにも」 ルンルンは多彩な料理を楽しみつつ迅鷹・蓬莱鷹に生肉をあげる。熊肉、雉肉、それに猪肉とどれも食べ放題だ。 「桃、焼き芋だけでなくてお肉も食べてみてね♪」 『おいしいです』 御陰桜も山の幸を大いに味わう。松茸の土瓶蒸しに焼き松茸。松茸御飯は明日の朝食として用意されることになった。 『お替わり食べてもいい?』 「もちろんだよ。たくさん食べてね♪」 ルゥミと羽妖精・大剣豪は栗、銀杏、茸の炊き込み御飯をたくさん食べた。小柄な身体なのに二人とも四杯も平らげたという。 「村の人に感謝されちゃった♪」 星芒は晩御飯の前に梨、葡萄、クルミが自生する場所を村人達に教える。特に梨はあまりの美味しさに村人の間で評判になっていた。 『雉とキノコ、そして山菜の味噌鍋、持ってきましたわ』 「この鍋にはウスヒラタケが使われているそうだ。よい香りだな」 宮坂玄人とからくり・桜花は鍋を一緒に頂く。最後まで桜花が食べていたのは焼き栗である。余程気に入ったのだと土産の配分として栗を増やしてもらう。 翌朝、山の幸をお土産にもらった開拓者一行は帰路に就いた。理穴奏生行きの飛空船がある町に向かう途中でお昼御飯にする。 「これ、寮に戻ったらみんなに作ってあげたいな。特に――」 ルンルンは松茸御飯のお握りを食べながら大切な人を思い浮かべる。焼き芋もとても美味しい。 翌日にはそれぞれの住処に戻り、家族や友人、恋人と山の幸を楽しむのであった。 |