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■オープニング本文 「もう嫌だよ、俺」 「わかる‥‥わかるが前を見ろ。しっかりと真っ直ぐ飛ばすんだ」 輸送用中型飛空船・細波号の操船室では船乗り達が深刻な表情を浮かべていた。 そのうちの一人が目に涙を溜めながら静かに真横を眺める。 槍を握って壁際に立っていたのは狂骨と呼ばれるアヤカシだ。他にも食屍鬼や屍狼が船内を屯っている。 約一ヶ月前、僻地に預かった品を届けようとした細波号はアヤカシに襲われて乗っ取られてしまった。生き残った船乗り達はアヤカシに操船を強要される。 細波号に乗っている人間は操船室に三人、機関室に二名の計五名である。 アヤカシは二十体前後と思われた。集落や村を襲撃する度に増減しているので正確な数がわからないのである。 船長の席でふんぞり返っている食屍鬼はかつての船乗り仲間だ。狂気に支配されてすでに昔の面影はなかった。 近い将来に自分達もああなるのではと不安を抱えながら船乗り達は飛空船を飛ばす。 それから数時間後、眼下に見えた集落を襲うこととなる。 船乗り達はアヤカシの指示通りに低空飛行を行う。 甲板に立ったアヤカシ等が弓で一斉に地上攻撃。矢の雨が建物や人々へと突き刺さって針のむしろのようになる。 弓矢による遠隔攻撃を三回繰り返してから細波号は地上に着陸した。 アヤカシ等が吠えながら飛びだしていく。 船乗り達は今のうちに飛空船を飛び立たせて逃げだしたい衝動にかられる。だがそれはできなかった。 船内には数体のアヤカシが残っていた。そんなことをすれば皆殺しにされる未来しか残っていなかったからだ。 船窓から外を眺めた船乗りがアヤカシに追いかけられて逃げ惑う娘を見かける。彼にも同じ年頃の娘がいた。 「すまねぇ。本当にすまねぇ‥‥」 もう駄目だと船乗りが目を瞑ろうとした瞬間、掲げた狂骨の刃が真っ二つに叩き折られる。 次々と現れた者達に攻撃されて狂骨は瞬く間に瘴気の塵と化す。おかげで娘は命を救われた。 「人間なのにあの強さってことは‥‥。志体持ちの開拓者なのだろうか」 船乗りの想像は当たっていた。その者達は宿を借りようと集落に立ち寄ったばかりの開拓者一行であった。 |
■参加者一覧
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
ファムニス・ピサレット(ib5896)
10歳・女・巫
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●突然の事態 集落の家々には矢が突き刺さり、あちらこちらから悲鳴があがる。 鋼龍・LOに乗るフランヴェル・ギーベリ(ib5897)が『殲刀「秋水清光」』を構えた。すれ違いざまに真一文字に振ってアヤカシの髑髏を斬り落とす。 「どうしてこうなっているのかはわかりませんが、ここは助けましょう」 一晩の宿を借りようと集落に到着したばかりの開拓者達は、事情がわからぬまま戦いに身を投じた。 滑空艇・Suから飛びおりたリンスガルト・ギーベリ(ib5184)は地面に倒れる娘を抱きかかえる。 「大丈夫か? しっかりせい」 「あ、ありがとうございます」 リンスガルトは娘から手短に事情を教えてもらう。 「飛空船でアヤカシが襲撃してきたじゃと?」 娘によれば当初集落の人々は物売りの飛空船が立ち寄ろうとしているのだと勘違いしたらしい。ところが突然、上空から弓矢で攻撃してきた。 まもなく広場に着陸した飛空船から骸骨や死体のアヤカシが降り立って今の惨状となる。少し遅れて自ら飛ぶことができるアヤカシも現れたようだ。 順序だった集落への襲撃の仕方にリンスガルトは指揮する頭領がいるのではと想像する。 駿龍・ぴゅん太の背中からファムニス・ピサレット(ib5896)とリィムナ・ピサレット(ib5201)が大地に飛びおりた。 「え、えっと。ファムニス達は開拓者の一行です。みなさんに力を貸しますので手伝ってもらえませんか?」 ファムニス・ピサレット(ib5896)はリンスガルトの側に立つ娘に協力を頼んだ。 「私で出来ることがあれば何でも仰ってください」 娘は避難誘導を手伝ってくれることとなる。 その間にリィムナ・ピサレット(ib5201)は瘴索結界「念」を使い、周囲のアヤカシを数えた。 「えっとね。この辺りにアヤカシが十三体いるよ! あの飛空船には三体だね。この集落に安全なところってあるのかな? 石造りの頑丈な建物とかそういうところ」 「集会所は石垣と堀に守られています。集落の外に逃げた者もいると思いますが、大抵は集会所に立て籠もったはず。あの建物です」 娘が集会所の敷地内にある鐘楼付きの見張り台を指さした。 リィムナはさっそく大空の翼で輝鷹・サジタリオと同化する。背中からはえた輝く翼で浮かびあがり、集会所へと飛んでいった。 「妾は先に飛空船を押さえに行くぞ!」 リンスガルトは浮上させた滑空艇・Suを広場に着陸している飛空船へと向ける。 「ボクは遊撃で集落のみなさんを助けよう。LO、それでいくからね」 フランヴェルは建物の影から現れたアヤカシを咆哮で自らに誘った。建物を壊さないよう空き地に移動してから戦う。 開拓者達は集落を窮地から救うべく精力的に動き始めるのであった。 ●飛空船の中には (「襲撃には襲撃でお返しじゃ!」) リンスガルトは滑空艇・Suを弐式加速で超低空を飛ばし、地上の飛空船へと迫った。通過する直前で空中静止を作動。すばやい甲板への着船を完了させる。 番天印を投擲する準備を整えていたが、甲板でアヤカシは待ち伏せていなかった。扉を静かに開いて船内への侵入を果たす。 (「酷いありさまじゃな」) 腐臭が漂う薄暗い廊下を慎重に進む。 中型飛空船は商用としてごく普通の構造をしていた。リンスガルトは操船室に向かおうとする。 (「んっ?」) リンスガルトは物音が聞こえたような気がして踏みだそうとしていた左足を途中で止めた。 突然に顔の間近を槍の穂先が通り過ぎる。 穂先が左側の壁に突き刺さり、リンスガルトは激しく振動する柄におでこをぶつけた。 槍は右壁に空けられた直径二十センチメートル前後の穴を通過している。わずかな間に判断したリンスガルトは上半身を屈めて壁の穴より下を潜り抜けた。 間髪入れず右壁にあった扉を『脚絆「瞬風」』の硬質部分を利用した蹴りでぶち破った。すると部屋の中から廊下へと矢が飛んでくる。 しかしリンスガルトには当たらない。左右の壁を蹴ることで廊下の天井まで駆け上っていたのである。 扉枠の上辺を両手で掴んで身体を振り子のようにさせながら部屋の中へと飛び込んだ。 宙を一回転しつつ薄暗い室内の状態を確かめる。 アヤカシは二体いた。 リンスガルトは正面奥にいた骨鎧に届くよう右足を伸ばす。蹴った勢いで骨鎧を転ばせて床に左足が着いた瞬間、もう一体のアヤカシに攻撃を仕掛けた。 こちらは屍鬼であった。 「汝が頭領じゃな!」 志体持ちの遺体に取り憑いたアヤカシで知能は人並みだとされている。 リンスガルトの繰りだす脚絆の蹴りが鎧で固めた屍鬼の腕に受け流された。金属同士が激突する音が響き渡る。 転倒から起き上がった骨鎧はただの目障りでどうでもよかった。仲間のはずなのに屍鬼にとっても同様だった。 骨鎧はリンスガルトと屍鬼の打撃に巻き込まれて粉砕されてしまう。崩れて骨が床に散らばった。むわっと黒い霧のような瘴気が部屋の中に広がる。 リンスガルトは軽く咳をする。 (「これは瘴気のせいかも知れぬ。長居をするのはやめた方がよさそうじゃ。決着を急がねばな」) 八極天陣の構えから勝負にでた。屍鬼が振りかざした刀の一閃を避けて懐に入る。脇を蹴って屍鬼の姿勢を崩す。 拳に黄金色の光を纏いながら首や肩、胸元に五神天驚絶破繚嵐拳を叩き込んだ。 壁に飛ばされた屍鬼は力を失ってへたり込んでただの死体と化す。瘴気が漏れ広がったのでリンスガルトは急いで部屋を出た。 目指すは操船室である。 「邪魔じゃ」 操船室でふんぞり返っていた骨鎧一体などリンスガルトにとって敵ではない。蹴りを繰りだして瞬く間に倒してしまう。 「汝等は‥‥人のままのようじゃな」 室内に残っていたやつれた様子の三人を眺めてリンスガルトが呟いた。 「そ、そうです。機関室にも二人います。アヤカシに捕らえられて無理矢理に飛空船を動かされていたんです。ど、どうか助けてください」 一人の男が懇願し、残り二人は深く頭を下げる。 「そうか。苦労したのじゃな。この飛空船は瘴気が濃すぎる。外の物陰に隠れておれ。この辺りのアヤカシは妾達がすべて倒しておるはずじゃからな。仲間に救出を頼んでおくが、その前に危険を感じたら集会所へと向かうのじゃ」 リンスガルトは機関室に立ち寄って残り二人も救出。五人の飛空船乗員を連れて船外へと脱出する。 自らは飛空船の外装をすいすいとよじ登って甲板へ。滑空艇・Suに乗り込んで仲間の応援に向かうのであった。 ●救出 ファムニスは逃げ遅れた集落民を探しだしては集会所へと導いていた。 老婦を背負うファムニスが突然に立ち止まる。 「親切なお嬢さんや。どうかしたのかい?」 「とっても、き、危険なのがいるんです。向こうに辿り着くまで声を立てず、しっかりと掴まっていてくださいね」 ファムニスは途切れた垣根からそっと覗き込む。 『瘴索結界「念」』でわかっていたが目視で再確認したのである。 二十メートル程度しか離れていない道ばたで朧車が彷徨いていた。見つかって追いかけられると非常に厄介だった。 朧車が後ろを向いている間にこっそりと道を横断する。ファムニスは気づかれずに済んでほっと胸をなで下ろす。 これまでに七人の集落民を集会所へと送り届けていた。 集会所はファムニスの双子の姉であるリィムナが護っているので留守にしても安心である。最初に知り合った集落の娘も看護でがんばっていた。 「もう少しで集会所です‥‥!」 ファムニスは背中の老婦に話しかけた瞬間、心の中でしまったと叫んだ。高い蔵が両側に建ち並ぶ一本道で前と後ろをアヤカシに挟まれたのである。 まだアヤカシ側は気づいていないようだが、ばれるのは時間の問題。一人なら蔵の壁をよじ登ることは簡単だ。またどちらかを突破することもできるだろう。しかし老婦を連れたままだと非常に難しい。 この状況で待ち時間が長い『精霊砲』を使うのは博打だった。一撃で倒せなければ状況が更に悪化するからだ。 じりじりと距離が縮まって、ついに後方のアヤカシに気づかれる。 一か八かファムニスはまだこちらに気づいていないアヤカシ『食屍鬼』がいる方へ老婦を背負ったまま駆けだした。 「無茶はいけないよ。ファムちゃん」 そのとき上空から鋼龍・LOに乗ったフランヴェルが現れる。 「ここはボクに任せて今は先に行って」 「フランさん! あ、ありがとうございますっ」 LOを駆るフランヴェルが食屍鬼を抑えてくれた。ファムニスはその間に狭い隙間を通り抜ける。 集会場が見えてきたところで鷹のアヤカシに襲われたが、出迎えの駿龍・ぴゅん太がクロウで戦ってくれた。 「ぴゅん太、ありがとう」 龍に二人乗りの状態だと襲われたときに戦えない。そこでぴゅん太を先に集会所へ返していたのである。 「おばあさん、もう大丈夫ですっ」 「ありがとうねぇ」 集会所に辿り着いて老婦を娘に預けたファムニスはぴゅん太に加勢した。 「リンスちゃんからの伝言だよ! 広場に着陸している飛空船の近くに五人が隠れているからよろしくって」 集会所上空で犬神と戦うリィムナが眼下のファムニスに告げる。 鷹のアヤカシを倒したファムニスはぴゅん太を駆って広場へと飛んでいった。 伝言の通りに飛空船乗員五人が小屋の中で隠れていた。 「すぐに痛みは引きますからね」 ファムニスはひとまず全員に閃癒を施す。 龍に二人乗りして集会所まで順に連れて行くやり方は老婦のときと同じ理由で使えない。ただ先程よりも状況は好転していてアヤカシの数はかなり減っている。 「全員で行きましょう」 ぴゅん太に上空を警戒してもらいつつ、まとまって集会所を目指す。 途中、『精霊砲』を使う機会が一度だけあった。今度は安全な距離から命中させて、ぴゅん太と協力。トゲトゲのローズウィップを撓らせて倒しきる。 飛空船乗員の五人も無事に集会所へと送り届けるファムニスであった。 ●強固な護り 娘がいっていた通り、集会所には多くの集落民が避難していた。 「もしあたしが気づかないうちにアヤカシが侵入してきたら、この呼子笛を鳴らして教えてね」 「わかりましたのじゃ。どうかお気をつけて」 リィムナはこの集会所をアヤカシの魔の手から護ろうとする。集落の長に呼子笛を預けると石垣の塀にのぼって堀を跳び越えた。 水で満たされた堀の幅は四メートル。塀の高さも考慮に入れれば跳び越えることは難しい。志体持ちのリィムナだから簡単にできただけだ。 野盗や盗賊が相手ならこれで万全なのだが相手はアヤカシである。 「仲間が来たら入れてあげてねっ!」 「わかっているさ」 リィムナは櫓の上に立つ見張り番に手を振った。 アヤカシが容易に渡れないよう木製の橋は外されている。出入りが必要なときには長い渡し板をかける必要があった。 開拓者の龍がいれば二人乗りして飛んでもらう手もある。 「今は見当たらないけど油断は禁物だね。サジ太もそう思うでしょ」 リィムナは『瘴索結界「念」』で瘴気の塊を探りながら集会所の堀に沿って巡回する。 時折、遠くから激しい物音がリィムナの耳に届く。アヤカシが今も集落を徘徊している証拠である。 フランヴェルやリンスガルトがアヤカシを近づかせないよう奮闘しているはず。おかげで集会所はアヤカシが次々と押し寄せる状況ではなかった。 輝鷹・サジタリオには集会所上空を飛んでもらう。 定期的にリィムナの肩に留まってアヤカシが近くにいるかどうかを静かに態度で教えてくれた。激しく鳴いて知らせるのは緊急のときだけである。 「大体どのくらいいるのかな?」 飛翔型のアヤカシは別にしても、中型飛空船一隻に乗り込める頭数はそう多くはない。すべてを足しても二十前後だろうとリィムナは推測していた。 (「この瘴気は二つ‥‥。ちがう。まとまっているからわかりにくいけど三体だね」) リィムナは『瘴索結界「念」』でアヤカシらしき瘴気の存在を察する。すぐに歩きから走りへと切り替えた。 上空で監視していたサジタリオも気づいたようで同じ地点へと向かっている。 (「屍狼だ」) リィムナは堀と石垣の塀を越えられる前に勝負を決めようと先に戦いを仕掛けた。 自らを囮として晒しつつ、薄緑色に輝く燐光が舞い散らせながら唄ったのは『魂よ原初に還れ』だ。 リィムナを襲おうと駆けた屍狼三体が途中で勢いがなくなった。外傷はないものの、リィムナの唄が体力を削り取ったのである。繰り返し唄って屍狼三体を倒しきった。 その直後、サジタリオが鳴く。リィムナが屍狼三体にかかりっきりになっている間はサジタリオがアヤカシの接近を見張っていた。 堀と塀を易々と越えようとしていたのは、浮遊する巨大な犬の頭だけのアヤカシ『犬神』である。 「きて! サジ太」 リィムナがサジタリオを呼び寄せた。『大空の翼』で同化して空中へと浮かび上がる。 犬神は呪声で惑わせつつ、リィムナに噛みつこうとした。 丁度ファムニスが逃げ遅れた集落の人を連れてきたので鷹睨で時間稼ぎを行う。 集落の人々に被害が及ばない状況まで待った上で勝負を仕掛ける。『黄泉より這い出る者』で一気に呪い倒す。 ファムニスが出かけた後に集会所を襲ってきたのが死竜であった。 リィムナは再びサジタリオと同化し、光の翼で戦いを挑んだ。鋭い牙を剥きだしにして迫る死竜を躱し、鷹睨で時間を稼いで塀の上に立つ。 「しつこいのは嫌いだからねっ!」 瘴気ブレスに警戒しつつ『魂よ原初に還れ』を繰り返す。 啼いて騒ぐ死竜。最後には地面へと墜ちて潰れてしまう。 「リィムナ姉さん!」 「ファム、やったね♪」 飛空船乗員五人を連れて戻ったファムニスとリィムナは抱き合って喜ぶのであった。 ●最後に残ったアヤカシ 「どれだけいるのでしょうね」 上空のフランヴェルが手綱をさばいて鋼龍・LOを急旋回させる。 近くを通り過ぎていく大量の矢。集落内に散らばった狂骨や骨鎧がフランヴェルとLOを狙い射つ。 うんざりとしていたフランヴェルだが、アヤカシ側から居場所を示してくれれば探す手間がなくなる。矢の出所に降りては一体ずつ倒していく。 途中からはリンスガルトも手伝ってくれたおかげで大分楽になった。彼女からの情報によれば首領と思しきアヤカシ屍鬼はすでに討ったという。 何らかの方法で他のアヤカシ等に命令が下されていたとするならば朗報である。少人数ならばともかく指揮がしっかりしない集団などただの烏合の衆に過ぎないからだ。 それでも単体で強い敵がいるかも知れず、フランヴェルはアヤカシを見つけだしては慎重に倒していった。 集会所を中心にして円を描くように飛んでいたが、徐々にそれを大きくしていく。やがて集落の外にまで達するようになる。 上空からの見逃しがなければすべてのアヤカシを退治し終えたこととなる。フランヴェルは集会所で仲間達と合流しようと手綱をしならせた。 その直後に轟音が聞こえて辺りを見回す。 「首がない巨人のアヤカシ‥‥。首無しですか」 首無しは頭部がない故に見ることができないアヤカシ。つまり誰かに誘導されなければ周囲にある物を手当たり次第壊すだけの存在だ。 首領のアヤカシ屍鬼が倒されたことによって命令が途切れ、集落から外れていたのかも知れない。だが彷徨っているうちに偶然にも集落に舞い戻ってきた。 あくまでフランヴェルの想像である。 どうであれこのまま放置しておけば集落の建物が手当たり次第壊されること必至であった。 「集落のみなさんを悲しませないためにも頼みましたよ、LO」 フランヴェルは地上に降りたLOに首無しの相手をさせる。LOは龍鎧などを駆使して首無しの攻撃を抑え込んだ。 その間にフランヴェルは咆哮を繰り返して首無しを集落から引き離そうとする。 作戦は成功。フランヴェルの雄叫びに導かれて首無しが集落から離れていく。 (「このアヤカシを倒すには苦労しそうですね」) 一気に決着をつける必要を感じて『殲刀「秋水清光」』を構え直す。 LOが首無しの攻撃を一手に引き受けてくれた。その隙に『柳生無明剣』を敵の背中へと叩き込んだ。しかし再生の能力のせいで削れる体力はわずかに留まった。 LOと共に奮闘していると仲間達が加勢に現れる。 「フランヴェルよ。力を貸すのじゃ!」 滑空艇・Suから飛びおりたリンスガルトが全力の『五神天驚絶破繚嵐拳』を首無しの脇腹に叩き込んだ。 「こいつが最後だね!」 遠方に立つリィムナは『黄泉より這い出る者』による呪いを送り込む。首無しは身体をくねらせて藻掻き始める。 「フランさん、ファムニスもお手伝いしますっ」 リィムナと並んで立つファムニスは『精霊砲』を使う。精霊力を注がれた首無しが大地に膝をつけた。 「これでお終いにしましょうか」 フランヴェルは渾身の『柳生無明剣』を首無しの腹に食らわせた。分身した切っ先が首無しに引導を渡す。 首無しが土埃を巻き上げながら大地に倒れる。やがて瘴気に還元していく。 アヤカシが倒されて集落はようやく静けさを取り戻した。 ●葬送 アヤカシからの襲撃を受けた時点で五名の集落民が亡くなっていた。弔いの場に開拓者達も参加させてもらう。 日程に余裕があったので開拓者達はしばらく集落に滞在する。疲れを癒やしつつ、破壊された家屋の再建を手伝った。 飛空船で集落に立ち寄った商隊に頼んで飛空船乗員五人を先に此隅の開拓者ギルドへと送り届けてもらう。 瘴気感染の疑いがあったからだ。今のところ症状はなかったが念のためである。 アヤカシに乗っ取られた飛空船は集落の外に運ばれて焼却処分にされた。 組み込まれていた宝珠に関しては飛空船乗員五人の意向で集落の所有となる。 脅されていたとはいえアヤカシに手を貸したのは事実。せめてもの罪滅ぼしとして集落の復興に使って欲しいとのことだった。 「どうか安らかに」 集落を立ち去る際にファムニスは墓の前で巫女として弔う。それを見守るフランヴェル、リィムナ、リンスガルトであった。 |