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■オープニング本文 冥越に関連して多忙の日々を送っていた理穴の女王『儀弐重音』だが、現在は王都奏生に戻っていた。 強く張りすぎれば弓の弦も切れてしまう。国を統べる重責を担っていたとしても時には休憩が必要である。 臣下達が心配して儀弐王に丸三日間の休暇を捻りだしてくれた。 (「奏生城でゆっくりとするのもよいのてすが‥‥」) 執務室の儀弐王は国内事案の報告書に目を通しながら、数日後の休暇に何をしようかと考える。 好物の甘味を食したり、部屋に引きこもってひたすら眠るのも悪くはない。 手紙でのやり取りが続いている幼なじみの波路雪絵の元を訪ねることも考えた。 しかし静かに暮らしている彼女の生活を乱すのは本意ではなかった。もう少し世間が穏やかになってからのほうがよいと案を引っ込める。 「これは‥‥」 各国に関する報告書の中に武天国の綾姫に関する記述を見つけた。 武天の都、此隅では時折妖しげな事件が発生していた。どれも綾姫を狙うようなやり口で城下へのお忍びもままならぬ状態だと書かれてある。 儀弐王は休暇の過ごし方を決めた。綾姫に会うために此隅城を訪ねようと。 但し、正体を隠して仮の姿『琴爪』として訪問するつもりである。 臣下を連れて出向けば正体がばれやすくなってしまう。 そこで儀弐王は秘密裏に開拓者ギルドへ依頼をだした。信頼できる護衛を貸して欲しいと。 |
■参加者一覧
水月(ia2566)
10歳・女・吟
からす(ia6525)
13歳・女・弓
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰
エラト(ib5623)
17歳・女・吟
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
神座真紀(ib6579)
19歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●到着 深夜の此隅城の城門前。 「理穴の儀弐王様を連れて参った。通達は既にしてあるはずだが確認して貰いたい」 からす(ia6525)が書状を手渡しながら門番頭に小声で伝える。 門番頭は市女笠を片手で軽く持ち上げる女性の顔を眺めた。即座に指示をだして仲間に城門を開けさせる。一行は何事もなく城門を潜り抜けた。 「皆様のおかげで無事に到着できました」 市女笠をとった理穴の女王、儀弐重音は護衛の開拓者達に感謝する。道中は仮の姿として琴爪を名乗っていたが、城内ならば一安心である。 「帰りもばれないようがんばるの」 『ボクも手伝うよっ☆』 儀弐王と似た旅装束を着ていた水月(ia2566)と上級人妖・コトハがにこりと笑う。 (「不審者が一人後をつけてきていたが、ただの物取り目当てだな」) からすはだぶだぶの袖の中に隠していたアームクロスボウを取り外す。再び取りつけるのは帰路に就くときだ。 「気概のある奴がいないとは。ま、帰りに期待しておこうか」 流れ者風に変装していた竜哉(ia8037)も暗器の鋼線を安全な持ち方に変える。後ろで縛っていた紐を解いていつもの髪型に戻す。ここまで一行に絡む遊び人を演じ続けた竜哉だった。 一行は城の侍女に案内された部屋でしばし待つ。するとばたばたと廊下から足音が聞こえてきた。 「お待ち申していたのじゃ♪」 襖が開くと満面の笑みを浮かべる綾姫の姿が。 「ご無沙汰しておりました、綾姫様」 儀弐王が座を整えて丁寧に挨拶。はっと思いだしたように綾姫も挨拶を返す。秀才ながら綾姫はまだまだ子供である。 儀弐王と綾姫の会話に区切りがついたところで、雪切・透夜(ib0135)がお伺いを立てた。 「実は野外での料理を考えてきました。庭で行っても大丈夫でしょうか?」 「お庭番には伝えておくのじゃ♪ 追って指定する場所で頼むぞよ」 綾姫は即答で許可をだす。 「私からもお願いがあります。氷室、もしくは氷霊結を使える方をお貸し頂ければと。氷菓を作る所存です」 「そちらも話しを通しておくのじゃ。朝に連絡を入れさせようぞ。楽しみなのじゃ♪」 エラト(ib5623)の希望も聞き入れられる。 ちなみにエラトの分だけでなく全員が使用した食材は帰り際に同等品が補填された。当然ながら城の食材も使いたい放題である。 「やあ綾姫、会えて嬉しいよ♪」 「おー、フランではないか♪ どこに隠れておったのじゃ♪」 スーツ姿に着替えたフランヴェル・ギーベリ(ib5897)は綾姫の手を取ってジルベリア式の挨拶をする。 (「いろいろあって城から出られん綾姫さんも、これで元気になるやろな」) 神座真紀(ib6579)ははしゃぐ綾姫を微笑ましく眺めた。部屋の片隅に座っていた侍女と小声でやり取り。庭のプールはいつでも使える状態だとのことである。 「それではまた明日」 「朝食は皆と一緒に頂くつもりなのじゃ」 遅くなる前にお開きとなる。儀弐王と開拓者達は宛がわれた部屋で就寝するのであった。 ●朝 「おはようなのじゃ♪」 早朝、開拓者達が広間に足を運ぶとすでに綾姫が座についていた。 「朝から豪勢やな」 朝御飯として運ばれてきた膳を見た神座真紀は思わず声をあげる。牛肉を使った料理は晩餐用として充分に通用する豪華さだからだ。 「春音も行儀ようするんやで」 羽妖精・春音が美味しそうな朝食に目を輝かせる。一気に目が覚めたようである。 「おはようございます。みなさんお早いですね」 儀弐王が現れたところで食べ始めた。 『お水で遊ぶですぅ』 「水遊びは素敵なの」 春音と水月が城のプールを話題にする。その会話は綾姫と儀弐王の耳にも届いた。 「重音様、実は庭にプールなる水浴び場を用意したのじゃ。川や海のようにとはいかんが、泳いで涼めるぞよ」 「それはよいですね。暑さが堪える午後に遊ばせて頂きましょう」 儀弐王は綾姫が用意した水着の中から気に入った水着を選ぶ。午前の残りは書物を読んでゆっくりと過ごした。 ●昼寝 「綾ちゃん、ここは涼しいの」 「よい場所じゃ。気がつかなかったぞよ」 水月に続いて綾姫が庭の木陰で寝転がる。 引っ込み思案の水月は会うまで綾姫と仲良くなれるかどうか心配していたが、それは杞憂に終わった。挨拶してから短い時間で意気投合して一緒に遊ぶ。 二人でごろんと寝転がり、涼みながらお喋りを楽しむ。 「いつもは猫寝入りでのんびりごろごろ‥‥。とても気持ちよく眠れるの。素敵なの」 「それはよいのう。実は今日が楽しみ過ぎて昨晩、よく眠れなかったのじゃ♪」 しばらくして綾姫は寝てしまう。 水月も猫寝入りでぐっすりとお休み。昼御飯に合わせて起きるつもりである。 その頃、人妖・コトハは城内を探検していた。 (『お昼ご飯も豪勢みたいだねっ☆』) 天井裏の穴からこっそりと板場を覗き込んだ。 お昼はウナギの蒲焼きのようである。美味しいそうなにおいが天井裏まで漂ってきた。 サムライの技を磨くための道場で試合を見学したあとで儀弐王の部屋へと向かう。窓の上にある庇に乗って逆さまになりながら室内を覗こうとする。 (『!』) 覗いた瞬間に儀弐王が振り向いたのでコトハは頭を引っ込めた。儀弐王の勘、恐るべしである。 お昼の時間になり、広間に移動したコトハは水月の隣に座る。厚くてふわふわの鰻重をはふはふと頂くのであった。 ●水遊び 朝食後、からすは綾姫の許可を得て庭のプールを訪れた。 「好きに遊んでいいよ」 小さな水の容器からミヅチ・魂流が飛びだす。ぐるっと一周泳いだところで水面から顔をだして、からすを見上げる。 からすは喜ぶ魂流にこくりと頷いてからプールから立ち去った。 板場を借りたからすは甘味の調理を開始する。西瓜やメロンなどのフルーツを綺麗に切っておく。それに理穴名産の樹糖を基本にして作ったシロップをかけた。 氷室で冷やしながら保存しておけば、ほどよく染みこんで美味しくなるはずである。 (「この暑さだと相棒も涼をとりたいだろう」) 氷室には氷が豊富。食料庫には砂糖漬けの果物が大量に保存されていた。これでかき氷を作るのに必要な食材が揃う。 からすは様々な砂糖漬けの果物を使ってかき氷用のシロップを用意する。 仲間との兼ね合いもあって、実際に提供したのは二日目になった。 ●西瓜糖 「自由に飛んでいていいからな」 竜哉は上級迅鷹・光鷹を空に飛ばして自由にさせる。 それから西瓜糖を作るための準備を始めた。板場の外に屋根付きの釜戸があったのでここを借りる。 「よい陰殻西瓜だな。詰まった音がする」 竜哉は包丁で西瓜の皮を剥いた。最初はざっくりと削るように。途中からは林檎の皮剥きの要領で。 漉し布を敷いた大鍋の中に剥いた西瓜を投入。『鋼線「墨風」』を大鍋の上で躍らせて、真っ赤な西瓜の身を細かく切り刻む。 大鍋が一杯になるまで四個分の西瓜を消費した。少しだけ時間を置いてから漉し布をまとめるように持ち上げて果肉から水分を絞り尽くす。 次に釜戸に火を熾した。使った薪は理穴国から持ち込んだものである。 焦げつかないように西瓜の果汁を煮詰めていく。やがて西瓜独特のにおいが甘いものに変わる。とろみがでてきたところで大鍋を釜戸から外す。 「まずはかき氷に使えるかも知れんな」 あら熱がとれたところで小分けにして氷室の中へ。仲間達も氷菓を用意しているので、ちょうどよい機会に出すつもりの竜哉であった。 ●二つの氷菓 「みたらし白玉羹と果物水まんじゅうを作るので、手伝いお願いしますね」 エラトは上級からくり・庚と共に板場の一所を借りていた。ここは併設されている氷室に一番近い調理台である。 最初に取りかかったのが、みたらし白玉羹。 庚が鉢の中の白玉粉をかき回す。エラトは横から少しずつぬるま湯を足していく。こうして耳たぶぐらいの柔らかさの生地ができあがった。 その生地を千切って小さく丸めていく。ある程度できたところで沸騰した湯に投入。浮き上がってきたら氷水で冷やす。 氷は城勤めの巫女が提供。氷霊結で桶の水をさっと凍らせてくれた。 エラトが桶から大きな氷を取りだして布で包む。庚が拳で砕いて氷粒ができあがる。 氷粒は白玉作りだけでなく他の板前達にも利用した。夏場なので氷室への出入りは極力減らした方がよいからである。 白玉ができたら、次は寒天と水を入れて鍋を熱した。かき混ぜ続けて沸騰させたところで樹糖を加える。煮詰めたところで適量の麦芽水飴と醤油を足す。 小分けの容器に白玉と一緒に入れて氷室で冷やせば完成である。 果物水まんじゅうは陰殻西瓜とメロンが使われた。エラトと庚は身を取りだして食べやすい大きさに切る。 片栗粉と砂糖味の炭酸水を鍋に入れて木べらを使って弱火でかき回す。 生地が透明になって粘りが出てきたら小分けの容器に半分注いだ。少し間を置いてから切った果実を中央に置き、さらに注いで閉じ込める。 果物水まんじゅうは一時間以上冷やせば完成であった。 ●涼しい氷菓 「工夫をしたいところだね」 フランヴェルも果物、炭酸水、寒天を使った氷菓を用意しようとしていた。 果物には砂糖漬けの桃とサクランボを使う。葡萄も使いたかったが酒精を飛ばした香り付けとして葡萄酒を加える。 「上手くいくといいのだけど」 エラトとは違って果物は内部に閉じ込めずに甘い炭酸水だけを寒天で固める。その代わり半分を固めてところで炭酸水を足し、もう一度溶けた寒天を足して閉じ込めてみた。 氷室で冷やしている間に桃とサクランボを飾り切りにしておく。 使う容器は城にあった高価な特別なガラス製だ。眺めているだけでとても涼しげである。 冷やし終わった炭酸水の寒天固めを器に移して果実を飾った。白玉団子や甘いシロップをかけてできあがりである。 「これなら綾姫と琴爪さんに楽しんでもらえそうだね」 フランヴェルは試食してみる。甘味が口に広がると同時に舌の上で炭酸が弾けていた。 「おっと忘れていたね」 午後のプールに備えるべく部屋に戻る。荷物の中から水着を取りだすのであった。 ●仲良く 「調理の時間がちょうどええ感じにとれてよかったわ。さてと王さん達のために甘味を作らせてもらおかな」 神座真紀は板場で下拵えを始めた。 羽妖精・春音が運んできた鶏卵を割って卵黄を用意。それに樹糖と苺ジャムを足してよくかき混ぜる。 「沸騰せんように暖めた牛乳を少しずつ混ぜていくんがコツなんやで」 じっと眺めている春音に説明しながら神座真紀は手を動かす。 「樹糖は儀弐王様んとこの謹製。そして苺ジャムは綾姫の畑謹製や。これらを使うんがミソやね。こう、二人の絆みたいな?」 ふわふわと浮かぶ春音が神座真紀の説明を聞きながら喉をゴクリと鳴らす。 考えてきたやり方でジェラート作りは難しかった。 そこで神座真紀は氷室管理人の巫女に協力してもらう。 器ごと氷霊結でゆるめに凍らせられた中身をヘラでかき回して空気を含ませる。それを何度か繰り返してふんわりとした氷菓を作りだした。 「どうや?」 『おいしいですぅ♪』 春音が味見した後で神座真紀も一口。これならば儀弐王と綾姫にも満足してもらえると自信を持つのであった。 ●水浴び 「一番乗りなのじゃ♪」 フリルを靡かせて綾姫がプールへと飛び込んだ。 待ち望んだ午後の水浴びになって綾姫は大はしゃぎ。朱色のワンピース水着でじゃぶじゃぶと泳いだ。 「わずかな日数で仕上げたとは思えませんね」 儀弐王は黒のビキニスタイル水着を身に纏う。 「ぎ‥‥琴爪様も入るのじゃ♪」 綾姫が手を振ると儀弐王がプールサイドを蹴って跳ねた。水しぶきがほとんどあがらない見事な飛び込みに綾姫が目を丸くする。 城庭とはいえ野外だと誰の耳に入るかも知れない。一同はこの場の儀弐王のことを琴爪と呼んだ。 「ここはとってもいいところなの」 水月は木陰のプールサイドでお昼寝。人妖・コトハはプールに飛び込んで綾姫と水かけっこをして遊んでいた。 潜水中の儀弐王は隣を泳ぐミヅチ・魂流と目が合う。暗黙の了解で次の折り返しから競争が始まった。 「どちらも速いのじゃ」 当然といえば当然なのだが魂流が勝利する。しかし儀弐王もかなりのもので、大きく引き離されたりはしなかった。 「お疲れだ、魂流。勝利の祝いとしてどうだ?」 からすは魂流にレモン汁を加えた炭酸水を飲ませてあげた。裏方に徹するつもりなので普段の格好のままである。 一口目は非常に驚いていたが嫌いではないようだ。魂流は容器内の炭酸水を飲み干す。 (「清酒ではないが、これが大丈夫ならビールでも問題ないだろう」) 機会があれば泡立つエール系も呑ませてみようと、からすは心の中で呟く。 雪切透夜と上級からくり・ヴァイスは少し遅れてプールにやってきた。 『‥‥主よ、どれだけ用意がいいのだ。気にかけていただくのは嬉しいが‥‥』 「こんなときだからね。一緒に遊んでくるといい」 ヴァイスがつけていたのはワンピースの水着。雪切透夜はこの瞬間を切り取ろうと絵を描く道具を手にしていた。 「おー来たの。こっちなのじゃ♪」 プール内の綾姫が投げたボールをヴァイスが受け取る。ボールをコトハに放りながらヴァイスもプールの中へ飛び込む。 寝ていた水月も加わって水中内鬼ごっこが始まった。 (「いい絵が描けそうですね」) 雪切透夜はプールサイドに腰を落ち着けて絵筆をとる。 綾姫は満面の笑み。儀弐王は相変わらずの淡々とした表情だが動きによどみがない。二人とも楽しんでいた。 『えいっ!』 「ふふん♪」 羽妖精・春音が投げたボールを綾姫が見事に受けきった。 追い詰められた春音だが、水月の影に隠れて何とか逃げ切る。 水中鬼ごっこが終わって白いワンピース姿のフランヴェルがボールを預かった。 「LO、いくよ!」 フランヴェルがボールを投げた相手はプールに入っていた鋼龍・LOである。見事、鼻で受け取ってボールを水面に落とさない。 「ハハ、上手い上手い♪」 「お見事じゃ♪」 次にフランヴェルから勧められた綾姫がボールを投げた。明後日の方向に飛んでいったものの、LOは見事キャッチに成功する。 儀弐王も投げたがLOが動いたのはほんの数センチメートル。それも姿勢が揺れただけであって修正したわけではない。見事、LOの鼻にボールが乗っかった。 「琴爪さん、すまへんな」 「いいえ。かわいい羽根妖精ですね」 疲れた春音はプールサイドにあがった儀弐王の膝の上で寝てしまう。 「ちょいと早いけどお礼いわせてな。ありがとうって。綾姫さんが喜んでいるとあたしも嬉しいんや」 「私も楽しんでいますので」 神座真紀と儀弐王は木陰で涼みながら世間話に花を咲かす。 しばらくしておやつの時間となった。 「こちらはとても熟れたメロン。そして西瓜糖のかき氷だ」 「果物水まんじゅうとみたらし白玉羹です。どうか冷たい間に召し上がってください」 竜哉とエラト、そしてからくり・庚が運んできた氷菓をみんなで楽しむ。 「武天、陰殻、理穴の合作でございます。なんてね?」 「あの薪はこれに使ったのですね」 竜哉の一言で気がついた儀弐王が、かき氷を一口頂く。何故三国なのだと首を傾げていた綾姫に儀弐王が説明してあげた。 「みたらし白玉羹、なかなかじゃな♪」 綾姫はみたらし白玉羹をお替わりする。 (「それにしても西瓜糖を作ったときは暑かった。保天衣と背水心がなかったら大変だったな」) 役目を終えたと感じた竜哉は団扇片手にプールサイドに座って涼むことにする。 綾姫に誘われたエラトは水着に着替えて一緒に遊んだ。 儀弐王が此隅城に滞在できるのは三日間。綾姫は明日もプールで遊ぶ約束を儀弐王と交わすのであった。 ●二日目 翌日の水遊び中に振る舞われたのは、からすとフランヴェルの甘味である。 「樹糖シロップをかけたフールツ盛り合わせだ。かき氷のシロップは何種類かあるので注文を受け付けよう」 からすは最初に儀弐王と綾姫の注文を受ける。 「蜂蜜もよいが、わらわは樹糖が大好きなのじゃ♪」 「また贈らせて頂きますね」 仲良く食べる二人の姿を眺めて、からすは頷く。魂流も柑橘系の炭酸水をかけたかき氷を口にしてヒレをばたつかせていた。 「ギーベリ殿の氷菓は手間がかかっておるの〜♪」 「とても綺麗な仕上がりです」 綾姫と儀弐王はガラス容器に盛られた炭酸寒天をスプーンで頂く。果物と一緒に頂くとより美味しかった。 「喜んでもらえてうれしいよ」 フランヴェルは二人の前で丁寧に挨拶をした。仲間達にも大好評。余分に作ったつもりがすべてなくなってしまう。 その後、フランヴェルはプールサイドで日光浴を楽しんだ。 (「みんな可愛らしいね」) 楽しく遊ぶ少女達を眺めながらフランヴェルは穏やかな微笑みを浮かべる。 水遊びが終わった魂流が、からすの元へ戻ろうとした。魂流は水をプールのものと入れ替えてから容器に戻って自ら蓋を閉じた。 深夜、からすは容器を眺める。眠る魂流は今日の遊びを夢心地に楽しんでいるように微笑んでいた。 ●バーベキュー 二日目の晩御飯は庭で頂くことになる。 その前の準備として雪切透夜は綾姫と儀弐王を誘って燻製作業を行う。からくり・ヴァイスはメイド服姿でお手伝いである。 「透夜殿よ。これらは何の木かや?」 綾姫が山になっていた小さな木片を掌で掬う。 「林檎の木のチップです。とてもよい香りがしますよ」 雪切透夜は手順を説明する。道具としては林檎のチップの他に網と上部に穴を開けた木箱、七輪が用意されていた。 野外料理用の道具も一通り揃えられていたが、これはバーベキュー用である。 「まずは七輪の炭に火を熾しますね」 「私がやりましょう」 儀弐王がわずかな時間で炭火を熾してくれる。 「生のソーセージにチーズじゃな。これは茹で卵か。燻製とは面白いものをやるのじゃな」 綾姫は網の上に食材を並べた。途中から儀弐王が綾姫を手伝う。 「今日のは保存のためではなく風味をつける燻製のやり方です」 雪切透夜が七輪で林檎のチップを炙る。すると煙が立ち上って網の上の食材が燻された。より煙が充満するよう食材を囲うように木箱を被せておく。 途中からヴァイスが七輪の火加減を調節する。 燻製にかかる時間は三十分程度。用意した食材すべてを燻すために三回繰り返す。 待ち時間にバーベキューを用意した。ニンニクと醤油に浸けた肉がこの場に運び込まれる。 日が暮れた頃、仲間達を招いてバーベキュー・パーティが始まった。 「焼いた燻製ソーセージが美味しいぞよ♪ ゆで卵はどうじゃな?」 「ほんのりとした香りがとてもよいですね。酒の肴に燻製チーズはよさそうです」 綾姫と儀弐王が楽しんでくれて雪切透夜は満足する。 鋼龍・LOや迅鷹・光鷹が美味しそうに肉の塊を頬張る。 人妖・コトハと羽妖精・春音は焼けたお肉取り合戦に負けてしょんぼり。神座真紀と水月が捕獲した自分の分を分けてあげる。 バーベキューの〆は神座真紀のジェラートだ。 「食事の締めくくりは甘味が一番やで♪」 神座真紀が用意したピンク色の氷菓が全員に手渡される。 「この味は樹糖と苺ジャム、そして牛乳じゃな♪」 「私と綾姫様の好物を使った氷菓ですね」 綾姫と儀弐王はあっという間に食べてしまった。 三日目の楽しい時間もあっという間に過ぎ去る。 「また来て欲しいのじゃ♪」 「綾姫様、それではまた。ご機嫌よう」 深夜、理穴一行は帰路に就いた。数時間後には無事に奏生城へと到着する。 その後、国を隔てた綾姫と儀弐王の部屋には楽しいプールでの一幕が切り取られた絵が飾られたという。 |