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■オープニング本文 ※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 天儀本島ではある年を境にしてアヤカシの大型化が始まった。 それから五年が経過した現在、十メートルを超えるアヤカシが普通に闊歩するようになる。 王朝や各国、開拓者ギルドも単に指をくわえて眺めていただけではなかった。 駆鎧を抜本的に設計し直した十八メートル級の試作型は見事な成果を収める。やがて二十メートル級の量産が始まった。 他の対抗技術も次々と実用化される。 土偶ゴーレムやからくりが駆鎧と連動するキグルミ的巨大化技術。精霊系には精霊力注入などなど。とにかくすべての朋友に巨大化する道筋が整う。 内部に乗り込む形。背中のランドセル内で操縦。または小型風信器による遠隔操作。方法は様々だが開拓者達は朋友と共にアヤカシとの戦いの場へと赴いた。 巨大アヤカシとの戦いは激しさを増し、首都が狙われるときもある。 深夜の武天此隅が二十メートル級鬼アヤカシ六体に襲撃された。そこへ巨大朋友を操る開拓者達が駆けつける。 此隅を舞台にした激しい戦いの火蓋は切って落とされるのであった。 |
■参加者一覧
からす(ia6525)
13歳・女・弓
サーシャ(ia9980)
16歳・女・騎
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
御陰 桜(ib0271)
19歳・女・シ
岩宿 太郎(ib0852)
30歳・男・志 |
■リプレイ本文 ●此隅 燃えさかる武天の都、此隅。逃げまどう民。 風信器塔と同等の二十メートル級の鬼アヤカシ六体が破壊の限りを尽くす。 サムライの刃は役に立たず、大型飛空船から撃たれた宝珠砲は跳ね返された。武天軍の飛空船がへし折られて次々と墜落していく。 絶望の最中に次々と巨大な影が現れる。それは開拓者と共にある正義の朋友達であった。 ●からすと招雷鈴 からす(ia6525)は此隅郊外の西方の宿で休んでいた。騒がしさに目を覚まし、窓外を眺めてみれば火の手が広がりつつあった。 目を凝らすと闇と煙の向こう側に紫色の柱が見える。その柱はなぜか動いた。巨大・鬼アヤカシの脚部だったからだ。 『ヤレヤレ、あまりデカいのは趣味じゃナイんダガ?』 宝珠の中の管狐・招雷鈴がからすから状況を聞いて心の声を響かせる。 「まあそう言うな。酒は出すから」 『当然』 窓を飛びだしたからすは樋を伝い、宿の屋根へと到達する。そして大振りな動きで管狐・招雷鈴が留まる宝珠を夜空へとぶん投げた。 上昇しながら管狐・招雷鈴は宝珠から召還される。最初はからすが投げた勢いだったが、途中からは自らの飛行能力で雲の高さに到達した。 上空に留まる管狐・招雷鈴は周囲の精霊力を吸収し始める。雷雲が渦巻いて突然に天候が悪化していく。 地上へ飛び降りたからすが宿備え付けの番傘をさしたのと同時に雨が降りだした。 「追って指示を出すまでアヤカシとの戦いはしばらく任せた。私は避難誘導を優先する」 からすは小型風信器で上空の雲の中に隠れている管狐・招雷鈴と交信する。 全長八メートルにまで巨大化した管狐・招雷鈴だが、雲に擬態して姿を晒そうとはしなかった。 「慌てないで郊外に向かえばよい。正門以外からもいくつか出られるぞ」 管狐・招雷鈴が擬態する雲が頭上から去ると雨は止む。からすは逃げまどう民衆に声をかけて兵士の元へと誘導した。 『ハン、図体ダケのデカい鬼如きガ、賢将たる狐ニ勝てるモノカ!』 紫色の鬼アヤカシの頭天目がけて管狐・招雷鈴が雷を落とす。 大気を切り裂きながら稲妻が走った。煤けながらも紫鬼アヤカシが手にしていた平たい鉄棒を投げてきた。 管狐・招雷鈴は身体を反らして避ける。平たい鉄棒は宙で弧を描いて紫鬼アヤカシの手元へと戻っていく。 『オオ、やるではナイカ!』 感嘆の声を上げつつ管狐・招雷鈴は飯綱雷撃の攻撃を緩めない。最初は煤けていただけの紫鬼アヤカシが徐々に黒こげになっていった。 「シャオ、『来い』」 頃合いと感じたからすが小型風信器で管狐・招雷鈴を呼び寄せる。 広場へと着地した管狐・招雷鈴は一度本来の姿に戻ったあとで、からすが放り投げた愛弓と同化を果たす。出現した巨大弓『暗呪冥殺』は精霊力や瘴気の区別もつけずすべての力を掻き集めた。 からすは雷撃を受ける度に紫鬼アヤカシが両手などで隠していた喉元を狙う。 「今だ」 無月によって巨大な矢が赤く染まる夜空へと放たれる。 アヤカシの喉元を貫いた矢は黒い宝珠のような玉を挿していた。巨大鬼アヤカシの力の源はこれであった。 黒い宝珠のような瘴気球が粉々に砕け落ちる。 管狐・招雷鈴が元の姿に戻ると精霊力が霧散し雨となって降り注ぐ。おかげでこの一帯は鎮火へと向かうのであった。 ●サーシャとアリストクラート 「これはまた、色とりどりのカラフルな連中が大きな体で攻めてきましたね〜〜」 大型飛空船甲板のサーシャ(ia9980)はアーマー「人狼」改・アリストクラートへ乗り込む直前にそう言葉を発した。 迅速起動で発進を早めつつアーマーの稼働開始。火薬式射出板に簡易固定されたアーマー・アリストクラートは爆発の力で推進して夜空へと飛びだす。 同時に大型飛空船の後部扉が開放。アーマー「人狼」改によく似た大型アーマーが投下された。 「合体ですよ〜〜」 サーシャは風宝珠の推力を利用して同調させる。大型アーマーの開放された胸部へと収納されて合体を果たした。各部接続を示すランプが点灯。下方風噴出をしながら大通りへの着地に成功する。 「いましたね。赤い鬼アヤカシですか〜〜」 巨大アリストクラートを操縦するサーシャは盾を構えつつ、一気に敵の懐へと攻め入ろうとした。しかし赤鬼アヤカシが岩を詰め込むことで砲弾を形成する特殊大砲を放ってくる。 盾に命中した岩の砲弾は巨大アリストクラートの進みを止めるのに充分な威力を秘めていた。操縦席内のサーシャは急停止の衝撃に身体を大きく揺さぶられる。 「あれは‥‥」 さらに近くに逃げ遅れた此隅の住民も発見。その者達の避難が終わるまでサーシャは身動き出来ない状況となる。 岩の砲弾の勢いは凄まじく頑丈なはずの盾が歪んでいく。五発目を受けきったところで崩壊してしまった。 その後は巨大アリストクラートの機体で受け止めるしかない。岩の砲弾は容赦なく巨大アリストクラートを痛めつける。 右胸部装甲が吹き飛んで左腕で防御。その左腕の装甲も剥がれ落ちると背中を向けて耐え続けた。 「逃げましたね。よし!」 サーシャは周囲に民衆がいないのを確認して最大火力で攻撃に転じた。 機体出力の上限を決める装置をカットし、残存する練力をすべて叩き込む覚悟で前進する。岩の砲弾を避けながら大きく跳ねた。 そのまま赤鬼アヤカシの左肩口に右足を蹴り当てる。特殊大型砲を落とす赤鬼アヤカシの顎に勢いよく肘を振り切った。 さらに蹌踉ける赤鬼アヤカシへ右の豪剣が唸る。鬼の鎧が次々と剥がれて大地へと落ち、埃を巻き上げた。 「これで最後ですよ〜〜」 オーラを溜めた豪剣が青白く発光する。咆哮のような機体音を発しながら巨大アリストクラートはヴォルフストラークを決めた。 真っ二つに斬り裂かれた赤鬼アヤカシが倒れて地面を激しく揺らすのであった。 ●ルンルンと蓬莱鷹 時は遡って二時間前。神楽の都の郊外にある秘密基地に報が入った。武天此隅に巨大アヤカシが襲来したと。 「どんな巨大な敵がやってきても、私と蓬莱鷹ちゃんが居れば、絶対負けないですよ。任せてくださいっ!」 ギルド長官から指令を受けたルンルン・パムポップン(ib0234)は、地下格納庫へとシューターで滑り降りる。 地下格納庫には巨大化過程を経た上級迅鷹・忍鳥『蓬莱鷹』が待っていた。 「三つの僕に命令なんだからっ!」 二つ足りないような気がするものの、ルンルンは気にしない。迅鷹・蓬莱鷹の頭の上に飛び乗る。 小型風信器を使って迅鷹・蓬莱鷹に指示をだす。地下格納庫の天井が開き、海原の渦潮を通り抜けて夜空へと舞う。巨大化した迅鷹・蓬莱鷹は凄まじかった。わずか二時間後には武天此隅上空まで辿り着いてしまう。 「蓬莱鷹ちゃんは鳥目だから私が確認してあげますね。いたいた、あの青い鬼アヤカシが敵ですっ!」 ルンルンは低空飛行した一瞬に飛び降りる。そこは此隅ギルド付属の風信器塔の頂付近であった。 「いけっ蓬莱鷹ちゃん! がんばれ蓬莱鷹ちゃん!」 迅鷹・蓬莱鷹がスカイダイブで急降下しつつ、青鬼アヤカシへの攻撃を開始する。 青鬼アヤカシが投げる真っ黒な瘴気玉を避けながら嘴を青鬼アヤカシの肩口に突き刺す。両方の足爪を相手の身体へと食い込ませながら嘴を引き抜いた。 青鬼アヤカシもやられてばかりではなかった。迅鷹・蓬莱鷹の右翼を掴んで乱暴に放り投げる。 地面に叩きつけられた迅鷹・蓬莱鷹は風信器塔の根本でぐったりと気絶してしまう。 「蓬莱鷹ちゃん! 起きるのですっ!!」 ルンルンは小型風信器で必死に声をかける。 嘲笑を浮かべながら迫る青鬼アヤカシ。手には先程とは比べものにならない程の大きな瘴気玉を発生させていた。 暗視を使い、狙い定めたルンルンはエペタムを投擲する。立て続けに青鬼アヤカシの目へと命中。視力を奪われた青鬼アヤカシがもがき苦しんだ。 「ニンジャ合体です、蓬莱鷹ちゃん!」 ルンルンが小型風信器で声をかけると、目を覚ました迅鷹・蓬莱鷹が高らかに鳴いた。 満身創痍ながら対の翼を広げて迅鷹・蓬莱鷹は夜空へと浮かび上がる。此隅ギルドの風信器塔をかすめた瞬間にルンルンが飛び降りた。 空中で身体を丸めたルンルンは迅鷹・蓬莱鷹の腹部羽毛の中に収まる。ルンルンが『ニンジャ合体』と名付けた特殊な同化はここに成功した。 「私が蓬莱鷹ちゃんで、蓬莱鷹ちゃんが私。一つになった喰魔は無敵なんだからっ!」 ルンルンは自分と迅鷹・蓬莱鷹が同化した姿を『喰魔』と呼ぶ。 練力が転化したエネルギーフィールドが喰魔の周囲に発生する。青鬼アヤカシが喰魔の実力に気がついたときにはもう遅かった。 喰魔の突進で青鬼アヤカシの身体が次々と消し飛んだ。翻っては攻撃を繰り返し、青鬼アヤカシはまるで穴だらけのチーズのようになる。 青鬼アヤカシが両膝を地面に落としたとき、ルンルンは同化を解いて迅鷹・蓬莱鷹の頭の上に立つ。 青鬼アヤカシが火災を巻き込みながら大爆炎を起こした。 「これが伝説のニンジャの力なのです!」 鷲の嘴が広がった瞬間を切り取ったポーズを取るルンルン。迅鷹・蓬莱鷹の鳴き声が此隅に響き渡るのであった。 ●御陰桜と桃 「黄色い大きなアヤカシ、あのまままっすぐ歩くと此隅城に着いちゃうかも」 屈んだ御陰 桜(ib0271)が闘鬼犬・桃(もも)の首もとをさすりながらお願いをした。どうかあの黄鬼アヤカシを倒して欲しいと。 闘鬼犬・桃が力強く吼えると逃げる民衆とは逆の方向へと駆けだす。聳える黄鬼アヤカシの背中を目指して。 「桃、変身よ」 御陰桜が小型風信器で話しかけると闘鬼犬・桃の首にある受信器に声が伝わる。 闘鬼犬・桃はこれまで溜めていたオーラを一気に開放した。 虹色の輝きは膨張し、それに合わせて闘鬼犬・桃の身体も巨大化する。開拓者ギルド提供の伸縮性カタナを取りだして口に銜えた。 『この動き、あなたに見切れますか』 大通りを駆け抜けて黄鬼アヤカシの背中へと飛びかかる。カタナの刃で傷つけて爪痕も残す。闘鬼犬・桃の存在に気がついた黄鬼アヤカシは持っていた槍型の武器を振り回した。 「ふ、ふたつ?」 ここで御陰桜と闘鬼犬・桃は気がついた。 黄鬼アヤカシは首の上の頭とは別に腹部にも顔面を持っていたのである。 「桃、右よ!」 小型風信器で指示に従って闘鬼犬・桃は怯まず攻撃を続けた。高く跳んで落下の勢いのまま、カタナで黄鬼アヤカシを斬り裂く。 時には足を狙って転ばせてから首元を噛み切ろうした。しかしいくら攻撃しても内部から盛り上がる瘴気によって傷口が治ってしまう。 『これだけやって倒れないとは‥‥』 闘鬼犬・桃は焦る。これほどの回復力を誇る敵とこれまで戦ったことはなかった。それは御陰桜にとっても同じである。 「アレってもしかして‥‥?」 戦いを観察していた御陰桜が気がつく。 黄鬼アヤカシの上半身と下半身が独立しているように見えたからだ。 「あれを使うときよ。いつも頑張ってるんだから桃なら出来るわ。終わったらすぺしゃるこ〜すでもふもふシてあげるからね♪」 御陰桜は小型風信器で闘鬼犬・桃を励ます。ためらっていた闘鬼犬・桃だが勇気を取り戻した。 『未だ成功したことはありませんが、あの技に賭けるしかなさそうですね』 意を決した御陰桜は黄鬼アヤカシと距離をとる。そして一気に駆け寄りながら影分身の術を発動させた。 ぶれた闘鬼犬・桃が二体に分かれて黄鬼アヤカシへと迫った。 一頭は頭部へ。もう一頭は腹部の顔面へと銜えたカタナを突き立てる。 闘鬼犬・桃が離れると黄鬼アヤカシは砂で作られた人形のように崩れ去った。瘴気は次第に消えてなくなっていく。 『流石に疲‥れ‥まし‥た‥』 影分身が解けるのと合わせて闘鬼犬・桃は力尽きた。目を閉じてその場に転がる。 「おつかれさま、さすがあたしの自慢のわんこね♪」 駆け寄った御陰桜は疲れて眠る闘鬼犬・桃を抱えて近くの軒下へと移動する。そして目が覚めるまで優しく抱きしめてあげるのであった。 ●エルディンとケルブ 深夜の暗闇に一筋の輝きが現れる。 エルディン・バウアー(ib0066)の腕から飛び立った上級迅鷹・ケルブは光を放ちながら巨大化を果たす。一旦、超低空を飛んでエルディンが乗ると高く上昇した。 「これこそが神の采配。与えたもうた裁きの力です」 エルディンはケルブの背中に存在する『聖堂』へと身を委ねる。そこはまさに神の祈りを捧げるための清き空間であり、不思議なことに天地が定まっていた。 『ところで神父様、何をどうすればいいのかしら?』 迅鷹・ケルブのたおやかな声が聖堂内で響き渡る。うっすらと目の前に浮かぶ人化したケルブは十六歳前後の少女の姿をしていた。 「この此隅を破壊せんとする神敵を倒すのです。私とケルブが力を合わせましょう」 『神父様の言うことですもの、間違いないですわ』 橙鬼アヤカシを発見した迅鷹・ケルブはエルディンの指示通りに攻撃する。 嘴を開いて金色の怪光線を放ち、橙鬼アヤカシが持つ盾を蒸発させた。激しく翼を羽ばたかせて針のような鋭い羽根を敵へと飛ばす。羽根が突き刺さった橙鬼アヤカシがあたふたしている間に爪痕を深く残した。 それでも倒せる気配は感じられなかった。エルディンはさらに神への祈りを捧げる。 「おお神よ、私とケルブに勝利を!」 その言葉を合図にしてエルディンの精神は迅鷹・ケルブへと吸い込まれた。友なる翼によって同化を果たし、エルディンとケルブは一つの思念となる。 虹色の輝きが増して鷹の姿から天使のように変化した。 真っ白な布を身体に舞う巨体の少女が銀髪を夜風に靡かせる。背中に生える二対の翼が宙を舞わせてくれた。 天使・ケルブの出現に驚いた橙鬼アヤカシが引き抜いた樹木を投げる。天使・ケルブは樹木を軽く払って急降下した。 蹴りを鬼の肩口に一発。そのまま後ろへと倒れ込む橙鬼アヤカシに両膝蹴りをかます。 それでも橙鬼アヤカシは消沈しなかった。身体を波打たせて天使・ケルブを跳ね返す。 次には橙鬼アヤカシの首を刈るように回し蹴りを決める。再度鬼が倒れたところで左腕を取って関節技によって締め上げた。 『ちょっと〜、私の服を汚さないでちょうだい!』 「おお、ケルブよ、もう少しお淑やかにお願いします」 同化しているのでどちらが主で従かはわからないものの、もう少しスマートに戦うことで意見が一致する。 天使・ケルブが両手を合わせて左右に開くと光の剣が出現した。その剣を持ってして天使・ケルブは橙鬼アヤカシへと挑んだ。 橙鬼アヤカシが振り回す斧を避けてさらに踏み込む。敵の懐へ入り込むようにして光の剣で胴を真っ二つに斬った。 二つになった橙鬼アヤカシはただの瘴気の塊と化した。 天使として一心同体のエルディンとケルブが喜んでいると北東の方角に光球が打ち上げられた。それは巨体朋友専用の狼煙銃による救援要請である。 天使・ケルブは早速現場へと向かった。 ●岩宿太郎?とほかみ 時は遡り、天使・ケルブが救援要請に気づく約二十分前。 「チクショウやっぱでけぇ! 何食ったらあんなでかくなるんだ!」 広場の丘に立つ岩宿 太郎(ib0852)は此隅の街を闊歩する黒鬼アヤカシを眺めて叫んだ。 「だがこっちも対抗はできる! いくぞほかみ、兵器管制はまかせろー!」 岩宿太郎が振り向くと身体中に兵器を取り付けた巨大鋼龍・ほかみが立っていた。空を飛ぶのが難しい程の重装備である。 「もう少し右、ちょい左戻してくれ!」 岩宿太郎は鋼龍・ほかみの長い尻尾を駆け上る。そして右肩上で大宝珠砲の照準を合わせた。放った砲弾は見事に命中。黒鬼アヤカシが爆炎に包まれる。 急いで左肩へ移るとあらためて照準を合わせ直した。しかし今度は大外れ。大急ぎで腹部の竜巻発生装置に向かおうとしているうちに足を滑らす。 「うぁっ! し、死ぬ?!」 四転五転して何とか立ち上がったものの、岩宿太郎はすごい勢いで鋼龍・ほかみの尻尾を駆け下りた。 「ほかみ! 尻尾の先を少しだけあげてくれ!!」 岩宿太郎の指示通りに鋼龍・ほかみが尻尾を動かす。しかしやりすぎたようで岩宿太郎は風で飛ばされた瓦版のように夜空を舞った。 何とか鋼龍・ほかみの頭にしがみついたものの、今度は黒鬼アヤカシが巨大弓矢で狙ってくる。鋼龍・ほかみが矢を避ける度に岩宿太郎はぶん回された。 「こ、これしきで負けるわけには‥‥」 岩宿太郎は何とか腹部の竜巻発生装置に辿り着く。 照準を合わせて作動装置を動かす。しかし大事なことを忘れていた。この兵器を使うときには命綱を付けなければならないことを。 竜巻攻撃は見事、黒鬼アヤカシを遠くに吹き飛ばす。 「し、しまっ‥‥!」 しかし後悔先に立たず。岩宿太郎は落下して地面でぺしゃんこになった。それはもう見事なほどに。 (「なんてこった! ご主人が殺されちゃった!」) 黒鬼アヤカシに攻撃が当たったことを喜んでいた鋼龍・ほかみだが、岩宿太郎の状態を知って顔を青ざめさせる。 (「あんなボロクズじゃもう再起不能だぁ‥‥。このクソ重い兵器どうすりゃいいのよー! 捨てたいけど私前足とか軒並みみじか‥‥うあぁぁぁこっち来たぁぁぁ!!」) 涙目で後ずさる鋼龍・ほかみ。起きあがった黒鬼アヤカシが睨みながら鋼龍・ほかみに迫ってきた。 (「助けてー! 誰か助けてー!! チクショー誰か龍語わかってよー!!」) 叫んでいる間に両耳横へと取り付けられていた砲筒に気がついた。危機のときにはここにあるピンを抜けと岩宿太郎がいっていたことを思いだす。 鋼龍・ほかみは短い武器だらけの重い腕を持ち上げて、何とかピンを引き抜いた。すると耳をつんざくような激しい発射音が聞こえる。 耳横に取り付けられていたのは巨大朋友用の狼煙銃だった。神頼みをしていたその時、まさに神々しい存在が夜空から舞い降りてくる。 『か、神様?』 『ほかみちゃん、助けに来たわよ!』 天使・ケルブが鋼龍・ほかみに声をかける。 『‥‥あ、ケルブさんだ! ケルブさんたすけてー!』 しばらくして迅鷹・ケルブだとわかり、鋼龍・ほかみは喜んだ。 『え、なに? 翼? 合体!? と、とにかくこの兵器ぶっとばしちゃって! 邪魔なの! 飛べないの!』 鋼龍・ほかみが必死に訴えると天使・ケルブは同化を止めて巨体な迅鷹・ケルブへと戻る。エルディンは背中の聖堂内に精神が戻された。 地上の鋼龍・ほかみに空中から舞い降りた迅鷹・ケルブが同化する。すると三対の翼をもつ二つ頭の『合体鷹龍ほかみケルブ』に姿を変えた。 白羽毛と龍鱗が混じる翼が大きく羽ばたく。迫ってきた黒鬼アヤカシを掬うように持ち上げて地面へと叩き落とす。 『ゴッドパワー全開。神に代わってお仕置きです!』 こうなれば勝ちは決まったようなもの。聖堂内のエルディンも安心していた。 「あれ? えーと、太郎殿? どこへ? まあ、いいですね、太郎殿のことですからきっと無事でしょう」 のんびりと構えたエルディンは高みの見物を決め込んだ。 まもなく勝負は決する。 合体鷹龍ほかみケルブが黒鬼アヤカシを此隅郊外へと弾き飛ばし、その上で全武器を一斉放射した。武器の発射は遠隔による多数の羽根で行われる。 黒鬼アヤカシは粉々になって雲散霧消した。 六体の巨体朋友と開拓者達のおかげで武天此隅は守られた。 此隅の民衆は朝日を浴びながら去りゆく何体かの巨大朋友の姿が消えるまで手を振り続けたという。 |