岩盤を掘り抜け
マスター名：天田洋介
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| ■オープニング本文 温泉があれば自分達が暮らす集落が貧しさから脱せられる。そう考えた男が武天国の田舎にいた。 男の名は『浅吉』。彼の穴掘り生活は去年の秋頃から始まっていた。 「今日からはここを掘るか」 浅吉は場所を決めると掬鋤で足下を掘った。 穴が深くなってからは土運びに十五の木桶を利用する。 すべての木桶が土で一杯になると縄をつけてから地上へ戻って引き上げた。用意できた縄は五本だけなので三回往復しなければならなかった。 それが終わればまた穴の底で土を掘る。その繰り返しだった。 「また井戸掘りか？ がんばるねぇ。まさか温泉じゃないよな」 一部の心ない集落民がそういって浅吉をからかう。 集落周辺では稀にかすかな硫黄のにおいが漂うときがある。浅吉が温泉が出るのではと考えた唯一の拠り所がそれだ。 集落内の土地では約十メートルの掘削で水が湧く。 ただ桶での汲み上げが大変なので利用している者は少なかった。集落内を流れる小川から水を運んだ方がはるかに楽だからだ。 浅吉が自分の畑を掘ってみたところ、結果は集落内と似たようなものであった。十メートル前後で水が湧きだした。 但し、集落内と畑から採取した水には、はっきりとした違いがある。透明度は似たようなものだが畑から採取した水は圧倒的にまずかった。 （「もっと深く掘る必要があるのだろうか‥‥。俺では今の深さが限度だ。あれ以上はどうにもならねぇ」） 浅吉は悩んだ末に応援を頼むことにした。 これが最後だと頭を下げれば何人かの集落民は手伝ってくれることだろう。しかしそれだけでは絶対的に足りなかった。 地下約十メートルに存在する硬い岩盤を掘り抜くには一度に多くの者が穴の底に潜る必要がある。 そのために今までの直径一メートル円よりも穴を広げて掘らなければならない。最低でも直径三メートル円。余裕を考えれば直径五メートルは欲しいところだ。 残土の搬出だけでなく水の掻き出しも重要になるだろう。地下十メートルで湧き出す水が掘削を邪魔をするのが目に見えていた。 「あの、温泉の穴掘りを手伝ってもらいたくてやって来たんですが――」 数日後、浅吉は風信器がある町まで出向いて開拓者ギルドへの手続きを済ます。有り金をはたいて温泉掘りの手伝いを依頼するのであった。 |
■参加者一覧
葛切 カズラ（ia0725）26歳・女・陰 
天河 ふしぎ（ia1037）17歳・男・シ 
からす（ia6525）13歳・女・弓 
リューリャ・ドラッケン（ia8037）22歳・男・騎 
サーシャ（ia9980）16歳・女・騎 
エルディン・バウアー（ib0066）28歳・男・魔 
御陰 桜（ib0271）19歳・女・シ 
鏖殺大公テラドゥカス（ic1476）48歳・男・泰 |
| ■リプレイ本文 ●到着 深夜、精霊門で武天此隅へと到着した開拓者一行は、目的の集落周辺を通過するギルドの飛空船に乗せてもらう。 飛空船は暗い草原へと着陸した。一行は船員達にお礼をいって下船する。徒歩で一時間後、朋友と一緒に夜明けの集落へと辿り着いた。 「温泉堀りですか〜〜おもしろそうですね〜〜」 アーマー収納のケースを背中に担ぐサーシャ（ia9980）が集落内をぐるりと見渡して人を発見する。近づいて浅吉の住処を訊いてみた。 「あの変わりもんのところに客が来るとはね」 浅吉の評判はかなり悪いようである。とはいえ住処の場所は教えてくれた。 「これは大分くたびれたあばら‥‥いやいや。集落の為に温泉を掘ろうとする感心な男の心意気に感心したからこそ、ここを訪れたのだからな」 鏖殺大公テラドゥカス（ic1476）がそう呟いてしまったのも仕方がなかった。 強風が吹いたら倒れそうなほどのあばら屋である。多数のつっかえ棒がその印象をさらに強めていた。 『肝心の温泉が出なきゃ骨折り損のくたびれ儲けだぜ。なんとかしてやりてぇな』 テラドゥカスの頭の上に座る羽妖精・ビリティスが唸る。 「おはよう。僕の名は天河ふしぎ。依頼で来た開拓者一行だよ！」 天河 ふしぎ（ia1037）が元気に玄関の戸板を叩く。 戸板が開かれて男が現れる。 「遠路遙々ありがとう。俺は浅吉というもんだ」 浅吉は一行を住処に招き入れず他の家屋へ案内する。空き屋を借りているそうなので一行はそちらに寝泊まりすることとなった。 百聞は一見に如かずということで、一番近い場所にある集落内の温泉掘り跡を見学する。 「底までは見えませんね」 エルディン・バウアー（ib0066）が温泉掘り跡の穴を覗き込んだ。 「温泉を掘り当てて名物、そういうわかりやすいの好きよ」 葛切 カズラ（ia0725）は試しに小石を投げ入れてみた。数秒の後に水音が聞こえてくる。 依頼書に記されていたが浅吉が改めて説明する。 地表から底までは約十メートル。岩盤が邪魔していて浅吉単独ではそれ以上掘ることができなかった。 現在、温泉ではない普通の水が湧いている。一メートル前後の水が溜まっているようだ。 浅吉は縄をつけた桶を穴に投げ入れて水を汲んでみる。みんなで試し飲みをしてみると濁りのない普通の水であった。 （「あれは」） アーマーケースを椅子代わりにして座っていた竜哉（ia8037）が気づく。遠巻きに集落民達がひそひそ話をしていた。 浅吉もそれに気づいていたようで肩を狭めて背中を丸くする。 「俺は馬鹿は嫌いだが‥あなたのような形振り構わない大馬鹿は嫌いじゃない」 「ありがとうよ」 竜哉の言葉で浅吉が元気を取り戻す。 しばらくして先程の集落民達とは別の女性一人が近づいてきた。 「浅吉さん、その方々が開拓者なの」 どうやら浅吉と恋仲の女性のようである。名は菜花という。浅吉と一行のためにお握りを持ってきてくれた。 ちょうどお腹が空いていたので岩などに座って食べることにする。 「掘削現場では湯を沸かす準備をしておきたいね」 からす（ia6525）がお握りを口に運ぼうとして手を止めた。 『主殿、いかがなされた？』 土偶ゴーレム・地衝がからすを心配する。 からすはほのかな硫黄のにおいを嗅いだ気がする。そのことを一同に話す。浅吉も似たような経験を持っていた。 「においがあるってことは温泉と繋がった隙間があるがどこかにあるってことだな」 竜哉の発言に全員が同意する。 硫黄のにおいを辿れば温泉の湧く場所がわかる。そう誰もが考えた。 「桜殿、よろしく頼む」 「わかったわ。桃、温泉の臭いが強いとこ分かる？」 からすに頼まれた御陰 桜（ib0271）が闘鬼犬・桃に硫黄のにおいを探らせる。どうやら北西の方角から風に乗って流れてきたようだ。 「集落から北西方面にはなにかありますか？」 エルディンの質問にしばらく考えてから浅吉が答える。 「北西に思い当たる節はないな。ただ北にある俺の畑にも穴を掘ったことがある。思いつくのはそれぐらいか」 かなり大雑把ではあるものの、集落の北方一帯があやしいのは確かなようである。一行は菜花のお握りを食べた後で浅吉の畑へと向かった。 ●においの元 浅吉の畑に到着すると全員が温泉掘り跡の穴を覗き込んだ。 集落内にあった穴と大差はなかったが、浅吉によれば湧き出ている水の味が決定的に違うという。こららでも穴から汲んで水を飲んでみる。 「これは頂けない」 からすの呟き通り畑の水はとても不味かった。誰が飲んでもこの意見は覆らない。 茶に詳しいからすによれば水といってもいろいろな種類があるという。土壌が水に大きな影響を与えているらしい。 「温泉のにおいはどうかしら？」 御陰桜が闘鬼犬・桃の鼻に水を汲んだ桶を近づける。桃は悩んだ仕草を見せつつ小さく吼えた。犬の嗅覚を持ってしても硫黄のにおいがするかしないか微妙なところらしい。 一同は浅吉の畑を基点として周囲を探索してみる。 「僕はハテナに手伝ってもらいながら水掻き出しの秘密兵器を作るからね」 天河とからくり・ＨＡ・ＴＥ・ＮＡ−１７は、におい探索を仲間達に任せて家屋に戻っていった。浅吉も桶や縄の用意などで集落に帰る。 「どうしたのです？」 エルディンが大空に飛ばした上級迅鷹・ケルブが十分も経たないうちに戻ってきた。 迅鷹に硫黄のにおいがわかるはずがない。そこで変わった何かがあれば教えて欲しいとエルディンは指示していた。 エルディンは空に飛ばした迅鷹・ケルブが示す方角へと歩んだ。しばし進んだ先で大岩を発見する。 複雑な形状をしていたが一番高いところで十メートル前後。エルディンが歩いて一周するのに一分強はかかるほどの大きさである。 集合時間になって合流した仲間達にエルディンが岩の存在を伝えた。他に手がかりがないこともあってその場の全員で大岩を調べに向かう。 「ここはシノビの出番だわね♪」 御陰桜が闘鬼犬・桃と一緒にわずかな大岩表面の突起を利用してするすると駆け上がった。 大岩の上部では亀裂が走っていた。 「桃、どう？」 御陰桜が訊ねると闘鬼犬・桃は力強く吼える。稀に集落まで漂う硫黄のにおいはこの大岩の亀裂が大元になっているようだ。 「どれぐらい硬いか調べようか」 「それがよさそうですね〜」 竜哉はケースを展開させてアーマー「人狼」改・NeueSchwertを取り出す。同じくサーシャはアーマー「人狼」改・アリストクラートをケースから出現させた。 二機とも起動して岩の破壊を試みる。 アーマー・アリストクラートは『豪剣「リベンジゴッド」』を叩きつける。 アーマー・NeueSchwertはドリルで突き刺す。 どちらのやり方でも岩を削ることはできた。但し撤去するには時間がかかり過ぎることも判明する。 竜哉がアーマー・NeueSchwertの『ドリル』を『相棒魔槍砲「ピナカ」』と交換したとしても大きな違いはない。おそらく二ヶ月はかかると考えられた。 ●相談 初日の夜、開拓者が休む家屋に浅吉が訪れて相談が行われる。 大岩を退かせられない以上、周囲に穴を掘るのが最善の策だと意見はまとまった。 「岩をくり貫いた湯船とか良さそうですけれどね」 エルディンがさらさらと想像を絵に起こす。岩を景色と見立てて神の御使いっぽい像を彫るといった案もだされる。 『温泉が出たら足湯をやろうぜ』 「気は早いが夢を持つのは悪くない」 羽妖精・ビリティスはテラドゥカスの肩の上に座って両足をぶらぶらさせた。 掘削の順番を含めた役目の割り振りについても詳細に決められる。 「みなさん、できましたよ」 家屋には菜花もいて料理を作ってくれた。雉鍋と根野菜のごった煮が晩飯のおかずとなる。 「はい、浅吉さん」 「いつもありがとうな」 浅吉と菜花が恋仲なのは誰が見ても明らかだ。 開拓者達は明日からの穴掘りに備えて早めに就寝するのであった。 ●掘削開始 「午前中には秘密兵器が仕上がるからね」 『そうしたらそちらにお邪魔するでございまする』 家屋に残る天河とからくり・ハテナに見送られて一同は出発する。大岩の場所まで徒歩で辿り着いた。 「ここにしよう」 浅吉が四隅となる場所に杭を打ち込んだ。そして杭を繋ぐようにして線を引いて地面に四角が描かれる。 掘り進める場所はここ。一辺を約五メートルと定めたのはエルディンのストーンウォールの活用を見据えてのことだ。 当初は円で考えていた浅吉だが四角でも支障はなかった。効率の方が余程大事である。 「まずは私からいかせてもらいますね〜」 サーシャが動かすアーマー・アリストクラートは『豪剣「リベンジゴッド」』を大地に突き刺した。 何度も繰り返すことで硬い地面を柔らかくなる。その上で『シールド「グラン」』を掬鋤代わりにして大地を掘り起こした。 練力の減りを計算しつつ、ちょうどよい頃合いで竜哉が動かすアーマー・NeueSchwertと交代する。 「最初はこうやって、岩盤に到達したら違うやり方を用いよう」 掘る方法は基本サーシャと同じ。ドリルで地面を柔らかくしたところでアダマントプレートで土を掬って遠くへと投げた。 竜哉とサーシャのアーマーによって五メートル辺の正方形の穴は一気に四メートルまで掘り進められる。 練力の回復を考慮に入れなければならないのでしばらくアーマーの稼働はお休みとなる。ここからは人力と小柄な朋友の出番となった。 「地衝、『埒を開けよ』」 『御意』 からすは土偶ゴーレム・地衝を送り出す。 地表から四メートルの底までは斜面が用意されていて徒歩で下りることができる。ツルハシを抱えた地衝が足取り軽く穴の底に消えていった。 「只管掘るのみ！」 大きめの鋤鍬を担いでテラドゥカスも下りていく。 四メートルより下はひとまずニメートル前後の穴を掘ることとなる。その作業は土偶ゴーレム・地衝とテラドゥカスが受け持つ。 『任せるでござる！』 「このぐらいなんでもないわ！」 土偶ゴーレム・地衝とテラドゥカスの意気込みは凄まじい。 「私たちもがんばりましょうか」 「溜まらないうちに運んでしまおう」 箱形の台車に土を詰めて地上まで運ぶのはエルディンとからすの役目である。浅吉と菜花も土運びに汗を流した。 「私は掘るのを手伝うからハッちゃんは土運びをお願いね」 上級人妖・初雪に一声かけてから天河も穴掘りを手伝う。 土偶ゴーレム・地衝とテラドゥカスが大雑把に掘った穴を綺麗に削っていくのが天河の役目であった。 上級人妖・初雪と羽妖精・ビリティス、そして迅鷹・ケルブは自分たちの能力を発揮して土を地上へと運んだ。 人妖・初雪は土が入った桶を抱えて浮かびあがる。高さに制限はあったものの、斜面を中継すればかなり簡単に上がることができた。 羽妖精・ビリティスは土の中に混ざる小石を集めた。小石は温泉井戸を完成させるために必要な材料となる。 急降下した迅鷹・ケルブは土が詰められた桶を掴んで地上まで運びだす。 「面倒だけど温泉のために頑張らなきゃね」 御陰桜も台車で土運びである。 闘鬼犬・桃は地上での見張りを一手に引き受けてくれた。御陰桜の言いつけを守り、不審な存在を掘削現場周辺に近寄らせなかった。 「お待たせ。ハテナ、ここに設置するよ！」 『イエス、マイキャプテン』 天河とからくり・ハテナは荷車に大がかりな道具を載せてやってくる。そして穴の上部を橋渡すように滑車付きの釣瓶を設置した。 滑車には桶が取り付けられた縄が通される。水が湧いてきたらこれで掻きだす。 土運びに関しては今のところ人力の方が効率がよい。もっと深くなってきてからが秘密兵器の出番だと天河は考えていた。 「そろそろ一服しよう。茶菓子もある」 からすの一言で休憩時間となる。 たとえ疲れない身体であっても魂はそうはいかない。そのことをからすはよく理解していた。 人妖・初雪が手伝って湯を沸かす。茶が淹れられて煎餅や饅頭などの菓子も並べられた。 「ケルブもこちらなら食べられるでしょう」 エルディンは迅鷹・ケルブに干し肉を与える。座るエルディンの膝の上に乗り、迅鷹・ケルブはまるで甘えているような仕草をした。 「よいお茶、ありがとうね〜」 葛切は人妖・初雪が淹れたお茶で喉の渇きを癒す。 初日は四メートルまでの大穴に加えてさらに五メートルの小穴が掘り終わる。九メートルまで達した穴底の地面はじゅくじゅくと水気を含んでいた。 これ以上掘ると水が吹き出すといったところで作業は終了となった。 ●難関 二日目は小さな穴を広げる作業に費やされる。夕方には九メートルまで掘られた五メートル四方の穴が仕上がった。 三日目。ここから先は一気に掘り進めるべく連携が求められる。 「速攻でいきますね」 サーシャが動かすアーマー・アリストクラートが剣を突き刺して地面を柔らかくした上で盾で一気に掘り返す。 「えっさ」 「ほらさ」 穴底にはテラドゥカスと土偶ゴーレム・地衝もいて、掘り返された土を縄付きの桶に詰めていく。 天河とからすは滑車に通された縄を引っ張って土いっぱいの桶を地上まで引き上げた。 からくり・ハテナとエルディンは桶の土を箱付きの台車へと移す。台車の土は浅吉と菜花によって遠くへと運ばれる。 作業はだんだんと辛くなっていった。疲れもそうだが多量の水分が含まれた土がとても重かったからである。 途中から地上の土運び人員は一部交代となる。葛切と人妖・初雪、御陰桜が張り切って土を運んだ。 迅鷹・ケルブと羽妖精・ビリティスは土の中から小石を拾い集める作業に徹する。 アーマー・アリストクラートによる掘り進めが岩盤にまで到達した。待機していた竜哉がアーマー・NeueSchwertを駆動させる。 勢いよく溢れでる湧き水。 土と一緒にテラドゥカスと土偶ゴーレムは桶に入れ続ける。やがて水ばかりになって桶で汲んだ方が早くなってきた。ここで汲む作業から岩への攻撃に転じる。 「掴まれ！」 竜哉のアーマー・NeueSchwertが穴底へと縄を投げ入れた。サーシャのアーマー・アリストクラートがそれに掴まる。 （「これでどうだ！ まだ底が抜けぬか！」） （「主殿、湯が沸いても拙者なら平気だろうといってたでござるが、まさか本気だったとは」） 水に沈みながらもテラドゥカスと土偶ゴーレム・地衝が岩盤を叩き続ける。 「そろそろ危ない」 これまでと判断したからすの呼びかけによってそれそれの身体に結ばれた命綱が引っ張られる。テラドゥカスと土偶ゴーレム・地衝は穴底から引き揚げられた。 「これでよしっと」 天河とからくり・ハテナは作業の邪魔にならないよう釣瓶の移動を完了させる。 穴の底に飛び降りたアーマー・NeueSchwertがドリルを岩盤に突き立てた。一メートルほどの穴を開けたところでドリルを地上へと放り投げる。 ドリルを受け取ったアーマー・アリストクラートが、今度は『相棒魔槍砲「ピナカ」』を穴底へと落とす。 相棒魔槍砲を受け取ったアーマー・NeueSchwertは水底にあるドリルで開けた穴に向けて砲撃を繰り返す。 アーマー・NeueSchwertが完全に水没。だがアーマー・アリストクラートが垂らした縄に掴まる。まもなく地上まで引き上げられた。 この後はまるで戦闘のような様相を呈した。 「もっと割れてよね〜」 葛切が召還した岩首を穴の底へと叩き落とす。衝撃音からわずかに遅れて地表面を遙かに越える水飛沫が舞い上がった。 「これでどう？」 御陰桜が落とした焙烙玉の後、凄まじい地響きが起こる。 「逃げ、逃げろぉ！！」 浅吉が何度も叫んだ。 立った今噴き上がった水流は蒸気を纏っていた。一斉に離れる一同。アーマーを駆る竜哉とサーシャはわざと遅く動いて盾となる。 しばらくして熱水の噴き出しは止まった。遠くから観察すると五分休止して二分噴くのを繰り返していた。 最初は二十メートル近く飛んだ熱水の飛沫も、穴に熱水が溜まっていくうちに勢いを失う。二時間後には穴から熱水が零れだす現象へと切り替わった。 「充分だな」 手袋をはめたからすが流れてくるお湯を確かめる。少し熱めだが湯揉みをすれば充分に温泉として使えそうであった。 「ついに‥‥」 浅吉は地面に座りながら泣いて喜んだ。 「せっかくですしね」 エルディンは温泉が出ること期待して術を控えていた。 温泉が湧きだした今、ストーンウォールを使って存分に湯船を作り上げる。仕上げとして小石を隙間に詰めて粘りの強い土で目地止めをする。 一晩が過ぎて三日目。穴の周囲の零れたお湯が集まるように溝を掘ってストーンウォールの石版を利用して水路を作り上げする。 湯が流れ込む先はエルディンが作った湯船である。 『テラドゥカス！、苦労した甲斐があったな。あたしにゃ丁度いい大きさの風呂桶だな♪』 羽妖精・ビリティスはテラドゥカスに持ってきた桶へと湯を移してもらう。服を脱いでどぼんと飛び込んだ。 『いいお湯だぜ！ へへ、セクシーだからって見惚れんなよ？』 「何を言っておるのやら」 セクシーポーズをとるビリティスを見てテラドゥカスが首を横に振る。 テラドゥカスは湯船に足をつけてみた。とても心地よく、よい温泉地になる予感がした。 「岩に座るがいい」 『かたじけのうござる』 からすは土偶ゴーレム・地衝を岩の上に座らせてお湯で背中を洗ってあげる。細部に詰まった土を綺麗にとってあげた。 「龍が入れるぐらいの温泉があればきっと賑わう」 「私もそれを考えていました」 からすとエルディンは足湯をしながら相談する。 それを浅吉にも伝えておいた。朋友が入れる温泉があれば開拓者の需要が見込めるだろうと。 エルディンは頑張ってくれたお礼として温泉の湯で迅鷹・ケルブの身体を洗ってあげる。 「きっと『きゃっ、神父様の前で湯浴びなんて照れるわ！』とか思っているかも知れませんね♪」 エルディンは呟くと迅鷹・ケルブは顔を赤くして横を向いた。 「あったかいです〜」 「これで依頼人の生活も良い方向に向かうだろう」 サーシャと竜哉もアーマーでの作業を終えてから足湯に浸かる。 土嚢を用意して流れ出る温泉の流れを調節したのである。生活に使う小川に温泉水が流れ込むのはよいことではないからだ。 足湯では我慢できず、入浴した開拓者もいる。但し目立たぬよう夜に寝静まってから。 「ハッちゃん、こっちにおいで。ほら恥ずかしがらずに」 葛切は恥ずかしがる人妖・初雪を温泉に招いた。真っ赤な顔をする初雪を可愛いといいながら抱きつく葛切である。 「仲間もいってたけど、朋友が入れる湯船があったらもイイんじゃないかしら♪ 色んな深さがあるとなおいいわ♪」 御陰桜は闘鬼犬・桃と一緒に温泉へ浸かる。その後で身体を綺麗に洗ってあげた。 作業の間中、闘鬼犬・桃は野生動物が近づくのを阻止してくれていた。 「これを楽しみにがんばったんだ♪」 『浸かっても、ハテナには良さが？』 天河とからくり・ハテナが同時に肩まで温泉に入る。 「‥‥って、ちょっ、ハテナ」 湯から上がった岩場で身体を洗おうした際にアクシデントが起こった。それを詳しく知るのは天河とからくり・ハテナだけである。 ●そして 開拓者達は滞在できるぎりぎりまで作業を行った。そうして温泉用の水路が完成する。 近くに温泉が出たことで集落は大騒ぎになっていた。小川の水が汲める範囲で集落は湯出し口付近に移転することになるだろう。 「ありがとう。みなさんのおかげで温泉を掘り当てることができた」 浅吉が菜花が一行に深々と頭を下げる。 「温泉宿ができたら菜花君が女将だね」 天河の一言に菜花が顔を赤くする。 一行はお幸せにと二人に声をかけてから神楽の都への帰路に就くのであった。 |
