【VD】甘党な男〜満腹屋〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/02/12 17:12



■オープニング本文

 朱藩の首都、安州。
 海岸線に面するこの街には飛空船の駐屯基地がある。
 開国と同時期に飛空船駐屯地が建設された事により、国外との往来が爆発的に増えた。それはまだ留まる事を知らず、日々多くの旅人が安州を訪れる。
 そんな安州に、一階が飯処、二階が宿屋になっている『満腹屋』はあった。


 光奈と鏡子の智塚姉妹は去年のバレンタイデーの頃に不思議な体験をしている。
 満腹屋常連の交易商人・旅泰の呂のつてで秘密結社『蜂蜜の清流』の催しにゲストとして参加したのである。
 世に隠された社交場であり、ロッジと呼ばれる隠れ家は神楽の都のどこかに存在していた。
 目隠しをされた智塚姉妹は護衛として雇った開拓者達と馬車に揺られてロッジへと辿り着く。目眩く甘党の桃源郷で智塚姉妹と開拓者達は様々なチョコレート菓子を堪能する。
 最後には気を失い、何故か全員が神楽の都から遠く離れた安州の海岸の小屋の中で目を覚ます。後日、呂に話しても知らないと惚けられてしまった。
 すべては夢幻の如くである。
「えっ?」
 二度と耳にすることはないと思っていた『蜂蜜の清流』の名を光奈は再び聞いた。しかも満腹屋一階での給仕の最中に。
「もう蜂蜜の清流は存在しません。私は正会員だったギラン・ドーマと申します」
 真摯な態度の中年男性は淡々と話しだす。
 殆どの客席が埋まる忙しい最中だったので光奈はギランと名乗った男にもう一度閉店後に来て欲しいと頼んだ。
 ギランは恐縮してそのようにさせて頂きますと呟き、真冬だというのに練乳かき氷を食べて立ち去った。約束した通りの時間にギランは現れる。
「去年のあのとき、私は光奈さんと鏡子さんを正式会員にと推した一人です。残念ながら過半数の賛成を得られませんでした。お二人のお菓子に対する見識は素晴らしいのに新しい考えを取り入れようとはしなかった。蜂蜜の清流は組織としてすでに柔軟性を失っていたのです。崩壊は必然だったといえます」
 ギランはまるで難しい話をしているかのようだが、ようは甘党の集まりが解散してしまったと嘆いていただけだ。
「お、お願いがあるのです。満腹屋でこの時期だけで構いませんから、チョコレート菓子を扱ってもらえませんでしょうか? そのために必要な資金や食材は私が用意させてもらいますから」
「えっと‥‥意味がわからないのですよ。確かにわたしとお姉ちゃ‥‥もとい姉はチョコレート大好きですけど」
 ギランが光奈にした説明によると、準も含めれば朱藩だけでも二百人を越える元蜂蜜の清流の会員がいるらしい。そのうちの半数である男性が特に困っているそうだ。
 女性は気楽に甘味処へ立ち寄れる。しかし男性は世間体が邪魔をしてそうはいかない。気にしないでいられるのは女性同伴のときだけだ。
 特にバレンタイデーの時期は最悪で、甘味菓子を店先で買っただけでも嘲笑の眼で見られてしまうという。自意識過剰といわれればそれまでだが。
「一般的な甘味処と違って満腹屋ならば男性でも気軽に入れます。男が出先で甘い物を食べるには言い訳が必要なんです!」
 大人しい喋りのギランが一度だけ語尾を強めた。
 チョコレートをこれでもかと格安で提供してくれるとのことで光奈はギランの願いを受け入れる。
「うれしいですわ〜♪」
「し、死んじゃうのです〜! お姉ちゃんやめて〜」
 一番喜んだのはジルベリア系のお菓子が大好きな鏡子である。ギランが帰った後、光奈を抱きかかえて振り回していた。
 せっかくならば美味しいチョコレート菓子や料理を提供したい。光奈は協力を仰ぐべく開拓者ギルドで募集をかけるのであった。


■参加者一覧
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
フェンリエッタ(ib0018
18歳・女・シ
セフィール・アズブラウ(ib6196
16歳・女・砲
八塚 小萩(ib9778
10歳・女・武
伊波 楓真(ic0010
21歳・男・砂
遊空 エミナ(ic0610
12歳・女・シ
火麗(ic0614
24歳・女・サ
紫上 真琴(ic0628
16歳・女・シ


■リプレイ本文

●チョコ
 精霊門で深夜に来訪した開拓者一行は満腹屋二階で睡眠をとった。
 起きてからは店を手伝う。昼過ぎには夕方用の仕込みのために満腹屋は一旦暖簾を下ろす。
「届いたばかりのチョコなのです☆ それでは‥‥あれ?」
 智塚光奈が店内まで押してきた台車には大きな木箱が載せられていた。木箱の蓋は釘で打ち付けられており、鏡子が裏手から道具を持ってきてくれる。
「任せろよなー」
 ルオウ(ia2445)が鏡子から鏨と玄翁を受け取ると蓋をこじ開けた。
「いい香り‥‥」
 蓋が開けられた瞬間、フェンリエッタ(ib0018)が何度も瞬きをする。彼女だけではなかった。チョコレートの香りに誰もが心を揺り動かされた。
「袋でいくつか分けられています」
 セフィール・アズブラウ(ib6196)が木箱から取り出した袋は全部で四つある。
「まろやかな味じゃな。ミルク入りにちがいないぞ♪」
 八塚 小萩(ib9778)が味見した袋の中身はミルクチョコレートのようだ。
「見た目ですぐにわかりました」
 伊波 楓真(ic0010)が開いた袋にはホワイトチョコレートが詰まっていた。
「この苦さ‥‥。味を調節したいときはこのチョコを使ったらいいかも」
 遊空 エミナ(ic0610)が試食したのはビターチョコレート。
「これは一般的なチョコだねぇ」
 火麗(ic0614)が試食したチョコレートには程良い甘みが感じられる。
「どれも湯煎が必要だね」
 紫上 真琴(ic0628)がいう通り、どの袋のチョコレートも欠片ばかりで調理が必要である。そのまま出すには形が悪すぎた。
「これの倍の量が毎日届けられるのですよ〜♪ なのでたっぷり試作してくださいなのです☆」
 光奈は今日と明日を試作期間とする。店の出入り口にはすでに『近日チョコの菓子か料理を提供!』の告知が貼られていた。
 給仕の手伝い中、いつから始まるのか客に訊ねられた開拓者もいる。
「うちの叔父様や親戚の男性陣は大の甘党が多いけど、ギランさん達みたいな悩みとは無縁だわ。全然人目を気にしないもの」
「別に男が甘味を食しても恥じる事は何もないと思うのじゃがのぅ」
 フェンリエッタと八塚小萩は首を傾げつつ味見を続ける。
 全員がすべての味見を終えたところで作る菓子や料理の案を膨らます。やり方は様々だが試作は始まっていた。

●ルオウ
(今年はエリナくれるのかな‥‥)
 そんなことを考えながらルオウは露天が並ぶ一画を散策した。蕎麦などの定番の他に菓子の屋台もいくつかある。
「んー。チョコかー。天儀だと一般的じゃない気がするよな」
 ざっと見たところ露天でチョコレートを扱っている商売人はごく少数に留まる。天儀菓子のほうが多く目についた。
(「餡の代わりにチョコいれてみるとか?」)
 買い食いをしつつルオウは考える。
「たい焼きやどら焼きにチョコを入れたらどうかな。チョコ味の羊羹とかもありじゃないか?」
 ルオウは満腹屋に戻って光奈に相談を持ちかけた。
「たい焼きは金型が必要なので無理なのですよ。どら焼きなら何とかなるかも。チョコの羊羹も出来そうな気もするのですけど」
「そっかー。どうしようかな」
 相談の結果、ルオウは智塚姉妹の全面協力の元でチョコ羊羹に挑戦することにした。
 ようは寒天を使ってぷるぷるとした食感を保ちつつ固めればよい。
 二日間をかけてルオウと智塚姉妹は三十種類の配合を試す。冷やし固める方法についても工夫を繰り返した。
 土産用のチョコレートは動物の型抜きを利用。味は普通のチョコレートとミルクチョコレートの二種類を用意する。
 湯煎で融かして型に入れればよい。こちらの調理は仲間との協力によって徐々に完成度が高まっていくこととなった。

●フェンリエッタ
「ただいまー」
「おかえりなさいなのです☆」
 買い物から帰ってきたフェンリエッタは籠の中身を光奈に見せる。
「干し果物っていろいろとあるのですね〜。葡萄と柿はすぐにわかりますけど」
「これは苺。桃やイチジクもあるし、柑橘系のも買ってきたの♪」
 フェンリエッタと光奈は各干し果物の一粒を半分ずつにして味見をした。
「チョコレートのマフィンもいいし、干し果実入りのゼリーをチョコの中に閉じ込めたものって可愛いと思うな。お酒を入れてちょっぴり大人の味とか」
「形はどんな感じなのです?」
「パリッとした小さな器型のチョコの中に砕いたビスケットを敷いて、その上にゼリーやクリームやムースを入れたり果物を添えたり、ね」
「美味しそうなのです〜♪」
「抹茶ムースも合いそうかなあ」
「お姉ちゃんも喜ぶのですよ〜♪ あ、噂をすれば」
 フェンリエッタと光奈が話しているところへ鏡子も加わった。
 餃子の具の代わりにチョコレートを使う料理案がフェンリエッタから出される。
 試しに作ってみるととても面白い味に仕上がった。オレンジピールが爽やかな風味を醸し出している。
「普通の餃子をお店で提供しているので簡単に出来そうですわ」
「そのときには間違わないようにしないとね♪」
 フェンリエッタの冗談に智塚姉妹が笑う。
 その他にチョコレートとチーズのピザも提案される。こちらもなかなかのもの。味の調節をしつつ試作が繰り返された。
 手が空いた時にはお土産のチョコレート作りを手伝うフェンリエッタであった。

●セフィール
「余り甘くは、むしろスパイシーになるかもしれませんね」
「ビターチョコはこれぐらいで足りますか?」
 満腹屋が終わった夜。メイド服姿のセフィールは鏡子を助手にして試作を始める。
 彼女が日中に買い集めた品はとても変わっていた。
 アプリコットジャムや蒸留酒、赤葡萄酒はわかる。しかし黒胡椒、ローリエ、タイム、ナツメグといった調味料はとても不思議だ。さらに牛すね肉をどうチョコレートと組み合わせるのか鏡子は興味津々な目でセフィールを見つめる。
「甘いだけがチョコレートではありませんよ」
 セフィールが最初に取りかかったのは時間がかかる『牛すね肉チョコレート煮込』である。
 牛すね肉を先程の食材や調味料、ビターチョコで長時間煮込む。出来上がりを待つ間にセフィールはザッハトルテを作り始めた。
「オペラも作りたかったのですが、手が込みすぎますし」
 事前に用意した直径十センチメートル前後の円形のスポンジの間に蒸留酒を加えたアプリコットジャムを挟み込んだ。そしてグラサージュの技法で表面を艶よくチョコレートで覆う。
 余ったチョコレートはホットチョコドリンク用の材料として再利用する。
「このような感じです。店内でもホールでお持ち帰りして頂いてもよいでしょう」
「素晴らしいですわ♪」
 ザッハトルテとホットチョコドリンクを楽しんでいる間に牛すね肉チョコレート煮込も出来上がった。
「変わったお味ですわ。ですがちゃんとチョコの風味が残っています」
 鏡子の驚きの表情を見てからセフィールもフォークで牛すね肉を頂いた。思い通りの味に仕上がっていて一安心するセフィールであった。

●八塚小萩
「大勢の男が甘味を求め立ち寄る様になれば世間の認識も変わるかもしれぬのぅ」
「大繁盛なのです☆」
 八塚小萩と光奈は地下の氷室からチョコレートを必要分だけ運び出す。調理場に戻ると焼きまんじゅうの調理にとりかかった。
「蜂蜜の清流が解散していたとはのぅ。ロッジでの至福のひととき‥‥今思い出してもよだれが出てくるわ!」
「もう一度行ってみたかったな」
 どぶろくに小麦粉を混ぜて生地を作る。蒸かして素饅頭を作って竹串に刺す。それに味噌ダレを塗って炭火で炙った。
「どうじゃ。あつあつで柔らかくて甘くてうみゃいのじゃ♪」
 八塚小萩は智塚姉妹と一緒に本来の焼きまんじゅうを味わう。
「熱々なお饅頭、冬にぴったりなのですよ〜♪」
「予め作っておけるのは楽ですわ」
 八塚小萩は新たな串刺しを炭火で炙る。先程と違ってタレは塗られていない。
「チョコをつけてから焼くと焦げて苦くなるかもしれぬのでの」
 八塚小萩が炙りたての串を湯煎のチョコレート鍋へと潜らせた。
「チョコ焼きまんじゅうの出来上がりじゃ!」
「おおっ!」
 八塚小萩からチョコ焼きまんじゅうを受け取った智塚姉妹はふはふしながら頂いた。
「甘いのです♪」
「こ、これですわ!」
 智塚姉妹が開いた瞳を輝かせる。
「チーズフォンデュというがあるじゃろ? あれにヒントを得たのじゃ」
 どーんと胸を張る八塚小萩。ちなみにフォンデュの技法を使うつもりの開拓者は他にもいた。
 チョコドリンクの他に煎茶や珈琲の用意も必要だと八塚小萩は説く。それはそうと自らもチョコ焼きまんじゅうを口にした。
「うっみゃー! うみゃい! 最高なのじゃ!」
 八塚小萩は両手に串を持ってチョコ焼きまんじゅうを堪能するのであった。

●伊波楓真
「皆さんがどんな物を出すのか気になりますね」
 伊波楓真は昼食時、一緒の卓に座った開拓者仲間に話題を振る。
「俺はチョコ羊羹だぜー」
 ルオウがくれた羊羹は確かにチョコレートの味がした。
「私の一つはチョコのマフィンよ。干し果物入りの」
「奇遇ですね。僕も使おうと思っていたのです」
 フェンリエッタのマフィンを食べた伊波楓真はその味に感心する。
 他の仲間の菓子や料理も口にする機会はそれからもあった。
「炬燵に蜜柑とよく言いますよね。その蜜柑の皮を利用するべきだと僕は思うんですよ!」
「わたしもたくさん食べるのです☆」
「料理の他にもつまみに‥っと横道にそれましたね」
「蜜柑の皮、持ってくるのですよ。食べる前にまとめて剥いた皮なので綺麗なのです☆」
 伊波楓真は光奈が持ってきた蜜柑の皮を茹でて柔らかくした。さらに別鍋の沸騰させた砂糖水の中に入れて煮る。
 それを一晩か二晩干して砂糖の代わりにチョコレートの粉をまぶした。オレンジピールならぬ蜜柑ピールチョコの出来上がりである。
 他にもチョコレートを練り込んだぷちガトーショコラ。
 ホワイトチョコレートで作ったブロンディには苺の干し果物が使われている。
 チョコトーストはその名の通り、パンにチョコレートとチーズをのせてオーブンで焼いたものだ。簡単に作れるので板前にも好評である。
「ジルベリアのお酒と合わせて食べられたよいのてすけど」
「蒸留酒は調理で少しだけ使う分には平気ですけど、飲食用として提供するのは高すぎて難しいのです」
 伊波楓真は光奈につき合って酒屋を訪ねる。味見をしつつ赤葡萄酒を選ぶのであった。

●遊空
「目指せチョコ布教!」
「おー! なのです☆」
 調理場の遊空と光奈は気合いを入れたところで小麦粉を捏ね始める。
 スポンジ生地をオーブンで焼き、お土産用のチョコレートに使うクッキー生地にも取りかかった。
 スポンジの荒熱がとれたところで用意したチョコレートとバタークリームを挟み込む。大人の風味付けとして蒸留酒も使われた。
「老若男女関係なく食べられるように広めたいな」
「男の人向けで始まった企画ですけど、きっとそれだけでは収まらないはずなのです☆」
 チョコケーキの味は上出来。
 焼き上がったクッキーは刻み干し果物入りのチョコレートでくるむ。これならば持ち帰り用にもぴったりである。
 せっかくなので仲間がいる満腹屋二階の部屋へ持って行くことに。鏡子にも声をかけた。
 囲炉裏で沸かした湯を使って珈琲や紅茶が淹れられる。牛乳は小鍋で温められた。
「エミナのケーキ、おいしいね。大人の味って感じかな?」
 紫上真琴がフォークでチョコケーキを頂く。
「こっちのクッキーも自信作なんだ」
 遊空が勧めたクッキーも紫上真琴は頬張った。クッキーの歯ごたえとチョコき甘みが口一杯に広がる。
「‥‥うーん、やっぱり幸せ♪」
 遊空は仲間と食べるお菓子の味に頬を綻ばせる。チョコレートは人を幸せにする力がある。そう感じずにはいられなかった。

●火麗
「皆でワイワイ言いながら食べられるチョコフォンデュがいいんじゃないかな」
「大賛成なのですよ〜♪」
 火麗が作る料理が決まったところで光奈は裏の倉庫に向かう。そして湯豆腐用の鍋に小さな火鉢を探し出す。
 冬の時期、生の果物はどうしても高価になる。光奈によれば泰国産のバナナとパイナップルなら手に入るという。
 バナナは紫上真琴が使うので火麗はパイナップルを選んだ。他にもクルトンやパンも準備する。
「フォンデュは美味しいのです♪」
「たまりませんわ♪」
 智塚姉妹がチョコフォンデュを楽しんでいる側で火麗は赤葡萄酒を嗜んだ。ビターのチョコレートを摘みにして。
「これでもいいよねぇ。酒なら男でも気兼ねないだろうし」
「お店としても楽なのです☆」
 火麗と光奈は相談してチョコ付きの赤葡萄酒のお品書きを増やすことにする。智塚姉妹も赤葡萄酒を頂いた。
 お土産用のチョコレートだが、火麗の案も加えられる。もふらさまを筆頭にした相棒チョコが作られることになった。
「やっぱ甘味は別腹よ」
 本来のバレンタインデーの意義は棚の上に置いておく。火麗は智塚姉妹と一緒に試食と題したチョコレートの夜を堪能するのであった。

●紫上真琴
 紫上真琴が智塚姉妹の協力を得て作ろうとしていたのはチョコバナナである。
「そろそろやるね」
 紫上真琴は湯煎で溶けたチョコレートの中へ割り箸に刺したバナナを潜らせた。取り出して少し間を置くとチョコレートが固まる。
 それらをくっつかないよう特製お盆の上に並べて地下の氷室へと運び込んだ。しばらく冷やせばチョコバナナの出来上がりである。
「ひゃっこくて美味しいのです☆」
「夏場なら特に売れるかも知れませんわ」
 チョコレートをくるめたばかりのものと、よく冷やしたものを食べ比べてみる。
「私も冷やした方が好きかな」
 三人とも同意見で冬場でも冷たいチョコバナナを提供することとなった。三十分程度冷やすのが最適のようである。
「チョコドリンクと一緒に頂けば関係ないのですよ♪」
「光奈さんは賢いですわ♪」
 光奈のいう通りにすると冷たさは確かに関係なくなった。
「エミナにも食べてもらおうっと♪」
 紫上真琴は遊空にもチョコバナナを食べてもらう。
「ホットミルクも合いそうよね」
 遊空の意見も採り入れてチョコバナナはチョコドリンクとホットミルクの二種類のセットが用意されることになった。
 紫上真琴はセットのおまけ用として、みんながチョコを食べて喜んでいる姿を小さな紙片に描いた。メッセージが書ける隙間を残しつつ。

●そして
 チョコレート菓子や料理が日替わりで満腹屋のお品書きに載せられるようになる。
 土産用チョコ関連は毎日用意。チョコドリンクなどの飲料は期間中ずっとである。
「期待以上です‥‥ううっ」
 ギランは期間中、毎日満腹屋に顔を出す。泣きそうになりながらもチョコレートの菓子や料理を食べ終わった後は笑顔を浮かべていた。
 男性客だけでなく女性客も増えたように感じられる。満腹屋にとっても利することが大きかった今回の依頼であった。