【初夢】地底湖の謎を暴け
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/01/14 20:34



■オープニング本文

※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。


 天儀歴一○一三年、一月一日。武天在住の宝珠研磨師が画期的な宝珠の利用方法を世に発表する。
 それは改良型風信器と組み合わせることで完成する写実絵と明瞭な声を同時に伝えられる『てれびじよん』なるもの。さらに絵と音を記録再生可能な『びでーおきゃめーら』もお披露目となった。
 革新的発明だと絶賛した交易商人・旅泰が出資を申し出て二ヶ月後に発売。瞬く間に売れて一○一三年十二月には武天での家庭普及率が一割を越える。
 街頭てれびじよんでや所有している家に押し掛けて視聴する者も多かった。実質的には武天人口の八割がてれびじよん放送に夢中になったといってよいだろう。
 当初、てれびじよん放送を行っていたのは旅泰出資の『儲かりまっかてれび』一局のみであったが、ここにきて風向きが変わる。
 万商店出資の『万屋放送』が一○一四年一月一日から放送開始されることになったからだ。
「え? 企画を開拓者が考えるんですか?」
「はい。その方がおもしろいものが出来ると思いまして」
 万屋放送は番組制作の企画募集を開拓者ギルドに依頼。その中のいくつかが採用されて実際に番組が作られることとなった。
 そのうちの一つが企画書表題『地底湖に大怪物?! ナマズか大地龍か、はたまた幻のミネッシーか! 開拓者探検隊が挑む!』である。
 武天の三音山脈には鍾乳洞が存在するのだが、その奥に地底湖が眠ると噂されていた。その地底湖に巨大生物が棲息するらしい。その謎に迫るというのが番組の趣旨だ。
 鍾乳洞には吸血蝙蝠、毒蛇などが棲みついているので簡単にはたどり着けないとされている。
 開拓者探検隊はこの世の神秘を暴くべく洞窟の入り口がある三音山脈の麓へと向かうのであった。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
北条氏祗(ia0573
27歳・男・志
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
フランヴェル・ギーベリ(ib5897
20歳・女・サ


■リプレイ本文

●探検隊
 この世の不思議を暴くべく選りすぐられた開拓者達。彼、彼女達を乗せた飛空船は霧深い三音山脈の麓に到着した。
「異様スペシャル探検隊整列!! お願いしますっ♪」
 隊長のルンルン・パムポップン(ib0234)のかけ声で『異様スペシャル探検隊』と書かれた幕を背景にして隊員が横一列に並ぶ。
「はい。ここで一区切り。次からは一人ずつ撮りますよーぅ♪」
 撮影係のペケ(ia5365)は臨場感を出すためにわざと三脚を使わずきゃめーらを構えていた。
「特派員の鈴木透子です」
 鈴木 透子(ia5664)が自己紹介をした後で他の隊員の口元へマイクを差し出す。
 まずは羅喉丸(ia0347)からである。
「未知のものに挑むのは心躍る。楽しいものだ」
 彼からは自己紹介の他に先程立ち寄った村での調査も語られた。
 その時の映像が差し込まれる。
 鍾乳洞の話をしているうちに泣きだす老婆。幼い息子が神隠しに遭い、一週間後に鍾乳洞の入り口付近で発見されたことがあるという。話しを聞きたかったが老婆の息子は青年になって村を去っていた。
「何かがあるかわからないからな」
 北条氏祗(ia0573)は背負う荷物を前にして心意気を語った。
「俺はサムライのルオウ! よろしくなー」
 ルオウ(ia2445)は自分がてれびじよんに映るのを何より楽しみにしている。
 神楽の都での放送開始は半年後。これから撮られる作品は武天だけでなく各地で放送される予定である。
「みなさんの期待に応えて、是非に地底湖の秘密を暴きたいですね」
 フランヴェル・ギーベリ(ib5897)が身につけていた背負子には目立ちすぎない大きさで『満腹屋』の朱色文字が描かれていた。
 満腹屋は朱藩安州の宿屋兼食事処。だが数ヶ月前、武天此隅に二号店を開店したので宣伝にと探検隊に様々な品々を無料で提供してくれたのである。
 そしてルンルン隊長の番が回ってきた。
「絶対に見つけますよ♪ 10フィート棒もバッチリ準備しているんだからっ!」
 サファリルックと呼ばれる服装のルンルン隊長はフランヴェルが手渡してくれた棒を掲げてみせた。
 ルンルン隊長がきゃめーらから見えないところ右手で合図を出す。すると幕が落ちて霧の向こうに鍾乳洞の入り口が現れる。
 ここで一区切り。この後に続く映像はすでに立ち寄った村で撮られていた。
「では村での出来事をふり返ってみましょう」
 村人が川の中で大皿を使い金探しをしている姿を背景にして特派員の鈴木透子がマイクを握りしめる。
「それではプレゼントクイズ、この武天の金堀衆の方からの出題です。地下資源の豊富な武天の人たちは、古くから鉱山に関わっていまいした。そんな彼らの中で守り神とされたある生き物がいます。それは何でしょう?」
 鈴木透子は川の中の村人達を手を振ってから出題を続ける。
「ヒントは洞窟のなかで、その生き物をよく見ることがあったからだそうです。だけど、あたしはちょっと苦手かもしれません」
 応募要領は番組の最後でと締めくくられた。
 元に戻って鍾乳洞入り口前。
「はい。OKですよー♪ 次は鍾乳洞に探検隊が初めて入るところを撮りますね〜。私は先に洞窟に入っていますー。照明も私が持ち込みます〜っ♪」
 ペケが入ってしまったら探検隊が初めてではないのではないかといった疑問が浮かび上がるが問題はない。
 ペケは撮影係で舞台の黒子のようなもの。探検隊の勘定には含まれていなかった。そういうことにしておいて欲しい。

●行け行け
 ここからは撮影映像を適当に繋げた粗編集である。
 ナレーション役は特派員の鈴木透子。略してナレ。普段は使わない断言口調で迫力を出す。
「探検隊、いくぜぃーーー!」
 真っ先にルオウが鍾乳洞へと足を踏み入れた。
 何故か洞窟の奥に入ってもほんのりと明るい。松明を掲げて探検隊は奥を目指す。
「未知のものに挑むというのは楽しいものがあるな。ん? あれは! ルオウ隊員、止まれ!!」
「んっ?」
 羅喉丸が先頭を歩いていたルオウを呼び止めた。
『そのとき、洞窟に潜む闇の存在が牙を剥いた!』
 ナレに続いてルオウの足下がズームアップ。そこには蠢く数々の蛇が。
「毒蛇に違いありませんね」
 フランヴェルがヘルムの宝珠光を点灯させて一蛇を観察する。毒蛇が大きく口を開けて牙をあらわにする映像が映し出された。
「天井にも気をつけてね。上から蛇が狙ってるって聞いたもの」
 ルンルン隊長の指示に従い、探検隊はゆっくりとした足取りで毒蛇を踏まないよう進んだ。
 しかしそれでおとなしくしている毒蛇の群れではなかった。次々と天井から落ちてくる。
『突如、探検隊を襲う毒蛇の群れ! 為すすべもない探検隊危うし!』
 慌てる隊員達の様子にナレが緊張を高めた。
「大丈夫、蛇は尻尾から落ちてくるから手で払ってねっ」
 ルンルン隊長の言葉の続きに誰かが『あ、それは』と発する。本編集ではどちらの発言も別の台詞に差し替えられることになるだろう。
「くっ‥‥こいつめ!」
 北条氏祗が首に巻き付いた毒蛇に苦しみつつ、ようやく外して遠くへと放り投げた。
 全員が無事に毒蛇がいない場所までたどり着く。奥で待機していたペケが全員の到着を撮影し終えた。
「はーい。ここのシーン、OKですよーぉ♪」
 最後にペケの声も入ってしまったが、ここも削除になるだろう。とにかく最初の関門を無事切り抜ける。
 一瞬の雑音と乱れた映像を挟みつつ、鍾乳洞内での奇妙な場面へと変わった。
「違いますっ! ミネッシーはもっと首が長いはずなのです! 村にあった古文書にもそう描かれてあったんだからっ――」
 ルンルン隊長の前には巨大魚が横たわる。目的のミネッシーではないと彼女は地下水脈の流れを指さして断言する。
 本来ならばこの前に巨大魚捕獲の場面があるはずなのだが、諸事情で今は付け加えられていない。
 断じて巨大魚が勝手に地下水脈から飛び出したところに遭遇したのではなかった。激しい巨大魚の捕獲場面は本編集の際にお披露目となるだろう。
「よい食材が手に入ってよかったよ。大丈夫、この満腹屋の辛い粉を使って煮込めばどんな食材も臭みが消え、まろやかな風味溢れる高級食材に変わるんだ♪」
 フランヴェルは木製の容器を手にしてウィンクして微笑んだ。
 木製の容器には丸に『辛』の文字。これは最近満腹屋が売り出した『辛い丼』の粉である。スパイシーで即効性の臭み消しにぴったりの逸品だ。
 本日の夕食は巨大魚の身を具とした辛い丼。炊いたお米と一緒の皿に盛ってみんなで頂いた。
「もっと大味かと思ったけど、うめぇなー。おかわり!」
 ルオウはあっという間に二皿目を頂いた。一緒に入っていたジャガイモと人参は村人がくれたものである。
「これが地底湖の主ではないとすれば、本物は一体どのような姿をしているのだろうな」
「この魚よりも大きいのは間違いない」
 羅喉丸と北条氏祗がミネッシーは全長十五メートルはあるのではないかと推測する。
『隊員達の心に不安が過ぎる。しかし誰もがすぐに力強い決意の表情を浮かべて辛い丼を腹の中へとかき込んだ!』
 ナレの鈴木透子も滑らか。
「この魚の肉の一部は辛い丼粉でまぶして臭みを抜いた後で焼くそうです。明日のお弁当になるでしょう」
 隊員役としての鈴木透子もちゃんと映像の中で活躍していた。
「これぐらい撮ればいいですよねーっ♪ さてと私も頂きます〜♪」
 ペケがきゃめーらを置いて辛い丼を食べ始める。きゃめーらを止めるのを忘れたためにペケの太股を撮し続けていた。
 その映像に鍾乳洞奥からの低いうなり声が録音される。
「まさしくミネッシーが咆哮に違いありませんっ!」
 声だけだがここでもルンルンが断言。
 本編集ではペケの太股映像は差し替えられて、ミネッシーと思しきうなり声は使われることになるだろう。

●どんと行こう
 翌日分の映像も粗編集。しかもナレはまだ一部のみだ。
 世の中には日常から突如、非日常に切り替わる瞬間がある。
 すでに世界の謎の探求という非日常に身を置いていた探検隊だが、数分後に凄まじい衝撃の未来が待ちかまえていた。
「黒いなー。何でだ?」
「何でしょう。焚き火からは遠いし、松明はまだつけていないので夜光虫で照らしてみますね」
 ルオウと鈴木透子が岩の上の巨大魚に違和感を持つ。
 夜行虫が近づくうちに巨大魚の姿が闇の中からはっきりと浮かび上がった。しかし何故か真っ黒。それもそのはず。たくさんの蝙蝠が集っていたからだ。
 一斉に巨大魚から飛び立つ蝙蝠の群れ。不意打ちを食らった探検隊は右往左往する。
「ボクの斬撃、見切れるか!」
 即座に刀を構えたフランヴェルは二天をもってして活路を開いた。
「これが現地ガイドの知恵です! ‥‥でも効かない?! て、撤退!」
 10フィート棒を振り回して蝙蝠を払っていたルンルン隊長が叫んだ。暗視が使える彼女を先頭にして探検隊は鍾乳洞の奥へ向かって駆ける。
 途中、鈴木透子は蝙蝠に消されてしまった夜行虫を再出現させた。
「ちゃんと撮るの、無理ですーっ!」
 ペケが抱えていたきゃめーらは時折何かしらを撮していたが、揺れが酷くて判別は難しかった。ここ辺りの映像は録られた音だけが使われることになるだろう。
「吸血蝙蝠かどうかわからないが、片っ端に倒すか? 俺達なら簡単なはずだが」
「それはまずいと思いますよ。後でちゃんと蝙蝠が鍾乳洞内に棲んでいる映像を撮りなおさなくてはならないでしょうから」
 誤解を生みそうなので羅喉丸とフランヴェルの会話部分は削除対象である。
「われわれはまさに窮地に陥っています。三音山脈の鍾乳洞はまさに地獄といってよいでしょう」
 走りながらも鈴木透子の状況解説を忘れなかった。
 ちなみに鈴木透子はまったく怯むことなく、自分を襲おうとした蝙蝠を10フィート棒で叩き落とす。
「一瞬だけ見えたけどあの蝙蝠たち、巨大魚の血を吸ってみたいだぜー。本物の吸血蝙蝠じゃねーかなっ?」
 ルオウの発言の後、全員が三十秒ほど無言になった。
「‥‥蝙蝠がいないところまで逃げて、それから立てなおしちゃいますっ!」
 ルンルン隊長の指示通り、探検隊はそのまま走り続けた。
「光っている?」
 まもなく北条氏祗が遠くに輝く何かを発見する。
 近づいてみれば壁面に繁殖した輝く苔。蝙蝠が追ってくる気配はもう感じられなかったので、ここで休憩することとなった。
「んっ?」
 羅喉丸が鍾乳洞の曲がり角の向こう覗いて気がつく。その先に広がっていたのは光り苔に照らされる地底湖を含めた巨大な地下空間であった。

●ミネッシー
 目的の地底湖に辿り着いた探検隊はミネッシーの姿を撮らえるべく準備を整えた。光り苔だけでは心許ないので宝珠光ライトも設置する。
 ここまできゃめーらは一台のみだったが予備の三台も作動させる。
「さーて、ナニが出てくるのでしょうか? いろいろ噂されていますけど、私はミネッシーがいいなーっ♪」
 ペケが抱える一台は探検隊を中心に撮すためのもの。その他の三台は様々な角度から撮れるよう三脚に固定してレンズを地底湖へと向けられた。
 一つの宝珠で記録出来るのは三時間のみだ。
 ペケだけでは大変なので隊員も交代で担当。最初は北条氏祗が記録宝珠を交換してくれた。
『凪の海のような水面に時折、波紋が現れるのは何故か?! 果たしてミネッシーは? 大ナマズは? 大地龍は現れるのか!』
 鈴木透子のナレも冴え渡る。
「ケモノだったら何か食ってるはずだよなー?」
「精霊が正体ということもありえますね」
 ルオウが湖面に釣り糸を垂らす横でフランヴェルは宝珠光ライトを微調整する。
「原住民、いえ村人達に伝わる伝説によれば同様のミネッシーがここから三里も離れた地上の湖で何度か見かけられたそうなんです。つまり地底湖と地上の湖は地下水脈で繋がっていて、ミネッシーが行き来しているのではということなんですけれど――」
 ルンルン隊長が難しい表情で湖面を見つめる。映像は徐々に近づいて顔のアップとなった。
「湖畔で寝ていて起きたら、ミネッシーが見つめていたとかあったな‥‥」
 羅喉丸は伝説に倣って岩の上で昼寝をしてみる。有り体にいえば自ら餌になる行為だ。もちろん食べられたくはないので、あくまで寝たふりである。
 二日目は何も起こらなかった。
 三日、四日と経過する。
 全員の疲労が溜まってきた五日目。湖面にこれまでにないほどの波紋が生じていた。
 湖面から水飛沫を纏いつつ柱のような何かが突然飛び出す。
 それは無機物ではない。間違いなく生物の質感をしていた。
「これが地底湖の主か‥‥」
 見上げる羅喉丸だが暗くて頭の部分が確認できなかった。首らしきものは湖面からゆうに十メートルは伸びていた。
「これを向けてみましょう」
「どうだ?」
 フランヴェルと北条氏祗がそれぞれに宝珠ライトを持ち上げてミネッシーの頭部を照らす。
「こ、この機会を逃していけませんですーぅ!」
 きゃめーらを抱えるペケは必死に後ろへと下がった。あまりに大きくて水際だとミネッシーの全貌が撮せなかったからだ。
「こっちだぜ、ミネッシー!」
 ルオウは咆哮を使ってミネッシーの注意を自らに向けさせる。少しでも長く撮影出来るようにと。
「ちゃんと顔を確かめないと!」
 ルンルン隊長はきゃめーらの一台を担ぐと水蜘蛛で湖面を走る。そしてミネッシーの首に辿り着いて懸命に登った。
「あれ?」
 しかし途中で首を捻ったミネッシーに銜えられてしまう。
『隊長、絶体絶命! どうなってしまうのか?!』
 ナレの叫びも絶好調。映像の中の鈴木透子は生きたままの魚を掴んでミネッシーへと投げつけた。
 探検隊が釣った魚は岩場の一部を塞いだ簡易生け簀の中で活かされていた。魚に気づいたミネッシーはルンルンを放り出して生け簀に頭を突っ込む。
 まとめて魚が食べられたことに満足したミネッシーはゆっくりと湖の底へと沈んでいくのだった。

●そして
 地上に出た探検隊は夕日を背にして鍾乳洞を立ち去る。
「そう、私達は確かに見ました、この地底湖に幻のミネッシーは存在していたのです」
 ルンルン隊長が立ち止まり、鍾乳洞へと振り向いてから再び歩き出す。
 ミネッシーの映像は確かに撮られた。しかし光量不足で暗くて頭部は判別しにくかった。湖面から伸びる首ははっきりと映っていたが作り物のようにも見える。
 これらはきゃめーらの性能不足であり、決して撮影に奮闘した者達の手抜かりではない。

 冒頭付近で鈴木透子が出したプレゼントクイズの正解は『ムカデ』である。正解応募者のうち三十名にミネッシーのぬいぐるみが贈られたという。