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■オープニング本文 朱藩の首都、安州。 海岸線に位置する鍛冶を主体とした街である。 代を引き継いだ現在の興志王によって急激な開国が行われ、それにより内政は混乱していた。 不安を抱えた中、理穴の東部にある魔の森で繰り広げられているアヤカシとの戦いに朱藩はこれまで積極的に関わろうとしていなかった。物資は供給していたが、武力援助は消極的であった。 それがここに来て興志王は大きく舵取りを変える。 開拓者達の活躍によって大アヤカシとの戦いに持ち込めるかも知れないという気運が高まってきたからだ。 このまま黙していると天儀本島において将来的に朱藩が軽んじられる可能性が高まっていた。 興志王も含めて朱藩は砲術士の国といってよい。当然ながら砲術によっての戦いの支援が決まる。 大量の兵を送るにおいて飛空船は不可欠なのだが問題が持ち上がっていた。 安州には飛空船駐留基地が存在し、国が直接管理する飛空船も多数ある。しかし不安定な内政を考えるとすべてを振り分けるのは不可能で、必要な兵と物資を送るには民間の飛空船も借りなければならなかった。 だが突然の開国を断行した興志王のやり方に反感を覚える小氏族は少なくない。当然そのような小氏族と繋がりのある商人は飛空船の貸し出しを躊躇う。 そこで折衷案として、第三者の立場となる開拓者が飛空船を借りた形にして同行する事となる。その為の依頼が神楽の都ではすでに行われていた。 結果、商人から借りた大型飛空船二隻、国が用意した超大型飛空船一隻が船団として向かう事となった。運ぶ兵は百名。飛空船を操る操縦者達や開拓者を除いた数で、そのほとんどが砲術士である。 兵は三隻に振り分けられて、余った空間には食料などの物資が積まれる予定だ。 昼夜を問わず、飛空船駐留基地では急ぎ準備が行われた。 |
■参加者一覧
志藤 久遠(ia0597)
26歳・女・志
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
鳳・陽媛(ia0920)
18歳・女・吟
天目 飛鳥(ia1211)
24歳・男・サ
吉田伊也(ia2045)
24歳・女・巫
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
御神村 茉織(ia5355)
26歳・男・シ
アリア・レイアロー(ia5608)
17歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ●旅の始まり 朱藩の首都、『安州』飛空船駐留基地。 夜明けと共に旅立つ為に離陸の最終点検が行われていた。 並ぶ篝火の側に立ち、三隻の飛空船に乗り込んでゆく大勢の砲術士を見守っていたのは開拓者八名である。 アヤカシとの戦いに挑む百名の砲術士を無事に理穴まで送り届けるのが彼、彼女らに課せられた使命だった。 商人から借りた大型飛空船は二隻。その船名は『緑鷲号』と『千鳥二号』。朱藩が管理する超大型飛空船の船名は『桜瀬』という。 緑鷲号と千鳥二号が運ぶ砲術士の兵数はそれぞれ二十五名、桜瀬は五十名が収容される。物資も積み込まれる為に船内に余裕はなかった。旅客用ではないので当然といえば当然なのだが。 砲術士百名の他に飛空船を動かす人員や開拓者達も三隻に分かれる。 大型飛空船・緑鷲号へは志藤 久遠(ia0597)、アリア・レイアロー(ia5608)、吉田伊也(ia2045)の三名。 大型飛空船・千鳥二号へはルオウ(ia2445)、御神村 茉織(ia5355)、鳳・陽媛(ia0920)の三名。 超大型飛空船・桜瀬には葛切 カズラ(ia0725)と天目 飛鳥(ia1211)の二名。 開拓者八名は挨拶を交わした後でそれぞれの飛空船へと乗り込んだ。 朝日が昇る中、千鳥二号が浮かんだ。そして緑鷲号、桜瀬と続く。 飛空船三隻が目指すのは北方。 理穴の国、緑茂の里周辺の戦場であった。 ●緑鷲号 「噂では様々な思惑が絡み、利益が絡んでいるように聞きました」 緑鷲号個室の窓戸を開いて地上を眺めてから振り返りざまに仲間へ話しかけたのは志藤久遠である。 「朱藩も商人も大変なようです。この緑鷲号と千鳥二号は商人からの借り物ですし、アヤカシの襲撃があったのなら国の管理する桜瀬で防ぎたいところですね」 吉田伊也も志藤久遠が開けた窓から外を覗き込む。 話題にした千鳥二号は並ぶように飛んでおり、桜瀬は斜め前方に浮かんでいた。つまり超大型飛空船・桜瀬を先頭にして三角形を描くように大型飛空船・緑鷲号と千鳥二号は追随していたのである。 「出発の時は忙しそうだったので邪魔をしないように控えましたが、後でちゃんと船員さん達に挨拶をしに行くつもりです。砲術士の方々にも独特の戦闘方法を教えてもらいましょう」 志藤久遠と吉田伊也もアリアと一緒に船内を探索することにする。船乗り達と砲術士二十五名には挨拶をし、さらに戦いの際にどのように動くかを検証する為だ。 戦いとはアヤカシの襲撃。理穴の緑茂の里方面に近づけば近づくほど危険は増大する。巨大な飛空船が三隻、飛行していれば嫌でも目立つからだ。 (「貴重な戦力の砲術士、必ずや送り届けましょう」) 朱藩の兵士である砲術士と挨拶をしながら志藤久遠が心の中で覚悟を呟いた。 「朱藩の銃は特別だと聞きましたが――」 アリアは砲術士達とお茶をしながら雑談を交わす。狭い船内での戦い方を聞いて自分達の作戦の中に組み入れようと考える。 操舵室を除いて窓はわずかにしかなく、いくら遠隔攻撃に有利な銃を使えるとはいえ一度に戦闘に参加出来る数には限界があった。 屋根に小さな展望室代わりの甲板部分はあるのだが、自分達が飛びだして戦うかも知れないのでここでも制限がかかる。一つの船で十名程度応援が得られれば御の字であろう。 ちなみによい天候の日にゆっくりと飛行するなら甲板でくつろげる。しかし今は先を急ぐ状況なので、可能な限りの速度が出されていた。 「よろしくお願いいたします」 「あ、えっと、よろしく」 吉田伊也は両手で砲術士の手を握りしめながら瞳を合わせる。丁寧に一人一人挨拶をしてゆく。 吉田伊也にも砲術についての考えがあったが、口に出すのは控える。専門家にはそれ相応の自負があるからだ。へそを曲げられたりしたら大変である。 理穴までは遠くて日数がかかる。しかし誤解を解くにはとても短い。いつ何時アヤカシに襲われるかも知れない状況での仲違いは致命的になり得た。それより心を近づけるのを優先したのである。 挨拶と船内の確認が終わるとアリアは船底付近の床窓付近で眼下を見張った。 志藤久遠は甲板に設置された、とても小さな見張り部屋で周囲を観察する。飛行可能なアヤカシを見張る為と仲間達が乗船する千鳥二号と桜瀬の確認も含まれている。 吉田伊也は船乗りから飛空船が破損した時の応急修理の仕方を習う。あまりに大きな穴が空けば積んである物資や、または人すらも落ちてしまうだろう。強い風が吹き込めば飛空船の姿勢が崩れて失速してしまうかも知れない。 戦いと応急修理のどちらを優先するかは、その時になってからの判断だ。 三隻の飛空船は日が沈んでも、月夜の中で飛行を続けるのだった。 ●千鳥二号 「そうなのですか。千鳥号は墜落して壊れたけれど荷物も人も無事で、その幸運にあやかってこの飛空船の名を千鳥二号にしたのですね」 鳳・陽媛は千鳥二号の操舵室にいた。船長と雑談を交わしながら、ここ半日の報告を行う。 視界に敵と思われる影はなし。ただしほんの一瞬だけ怪しいと思われる飛行物体を御神村が確認している。 船内にいる砲術士二十五名は窮屈さに不満を抱えているだろうが、それを口にしたり態度に出したりはしていなかった。今の所、順調といってもよい。 その頃、御神村は甲板の見張り部屋に待機していた。前方は操舵室の船乗り達に任せてもっぱら左右と後方に視線を置く。 船乗りも一人見張り部屋いたので、手分けして遠くを望む。雲が下に見える景色はやはり新鮮である。 「こっちは元気だ。異常なし」 定期的に御神村は船乗りから借りた鏡を反射させて緑鷲号と桜瀬に合図を送る。声が届くはずもないが、そこらへんは心意気だ。 当然ながら何事も起きない時間はとても暇である。仲良くなった砲術士がたまに差し入れを持って見張り小屋を訪ねてくれる。見張りの船乗りと一緒にいろいろな話しをする。開拓者、商飛空船の船乗り、朱藩の砲術士とそれぞれ立場が違うので、互いに初めて聞く話題が多くあり、退屈しないで済んだ。 千鳥二号へ乗り込んだ開拓者の一人、ルオウは船底にある開閉式の穴から下を覗いて監視を続ける。 「アヤカシのカラス野郎とか、急上昇して襲ってきそうだしな」 胡座をかきながら腕を組んで目を凝らす。 注意を怠るような真似はしないが、この旅が始まったばかりの頃を思いだしていた。 砲術士に見せてもらった銃は朱藩特製であった。火薬と玉を砲身の先から入れるのは極普通だが、発火が火縄ではなくて火打ち式になっていた。 低空飛行の時、試しに誰もいない草原に向けて撃たせてもらう。慣れていないせいもあるが、一発撃つのに時間がかかったのが印象に残った。 (「俺にはこいつがあるからな」) そう心の中で呟いてルオウは珠刀の鞘を握りしめる。 その他に全員で船内にあった風の宝珠を見学させてもらう機会も得られた。一つだけでなく複数が取り付けられていて、これによって千鳥二号は浮かび推進していると船長から説明を受ける。 飛空船三隻はすでに武天上空を飛行中である。進路を東よりにして数日すれば理穴の圏内に入る予定になっていた。 ●桜瀬 超大型飛空船・桜瀬は五十名の砲術士を運んでいた。 桜瀬一隻で最大百名の収容が可能だが、補給物資の搭載や運用する船乗り達、同行する開拓者達を含めると非常にぎりぎりの状況にあった。 (「砲術士一向様ごあんな〜〜い」) そんな状況だが、葛切カズラは満足した表情で眺める。 何故ならこの砲術士達がいれば、緑茂の里での強大なアヤカシとの戦いが有利になると考えていたからだ。大火力が理穴の戦いでは望まれていた。 (「一人たりとも欠ける事無く送り届けられるよう全力を賭す事を、この刀にかけて」) 天目飛鳥もまた砲術士を戦いの場に届けなくてはならないと堅く誓っていた。 見張りに関しては砲術士達にも応援を頼んで様々な配置で行われる。二人の開拓者だけで済ませられる程、桜瀬は狭くなかった。 「そんなことが‥‥」 「初耳だね」 天目飛鳥と葛切カズラは一人の砲術士からの話しを聞いて同時に声を発する。 飛空船駐留基地の離陸前に耳にした噂として興志王も自ら理穴に出陣するつもりらしいと、その砲術士は語った。それが今回と同規模の砲術士を引き連れての行動なのか、それとも今回の百名と合流した上での作戦なのかまではわからなかったが。 そもそも噂なのだから信憑性はとても薄かった。 桜瀬は三隻の中で一番先頭を飛んでいた。航空路を決めるのも自然に桜瀬の役目となる。 飛行が続けられるうちに、次第に空飛ぶ怪しい存在の確認が増えてくる。正体がアヤカシだとすれば、すでに目を付けられていると考えた方が自然になってきた。 武天から理穴上空に入った頃、その疑念は現実のものとなる。 渡り鳥の群れと思われていたものが、実は人面鳥の集団であったのが確認される。 非常体制の決断を船長が下す。 激しく鐘が鳴らされる中、鏡の反射を使って緑鷲号と千鳥二号にも状況が伝えられた。 時は夕暮れ時。これから太陽が沈んで夜の帳が下りようとしていた最中であった。 ●雲の上での戦い どの飛空船でも窓から砲身を迫り出させ、迫り来る人面鳥に向かって砲術士による一斉射撃が始まった。 アヤカシが狙うのは決まっていた。飛空船の心臓部である宝珠だ。特に浮遊用の宝珠を破壊せしめれば、飛空船は墜落を免れない。開拓者達は全力を持って阻止しなければならなかった。 朱藩の砲術士達の連携は見事で、次々と撃ち抜かれた人面鳥が墜落してゆく。わかっていた事だが、船内は狭くて動ける砲術士は限られている。 それ故に飛来してくるすべての人面鳥を撃ち落とす事は叶わなかった。しかしこのような状況の為に開拓者達が乗船している。 大型飛空船・緑鷲号に取りついた人面鳥は二羽。 砲術の煙が漂う室内に人面鳥が押し入ってくる。二羽はそれぞれ別の窓から侵入した。 たくさんの砲術士がいたものの、魅了や呪声にかかる者はいない。人面鳥二羽は天井付近を飛び、弓術士を爪で攻撃しながら宝珠が設置されている動力室を目指す。 動力室へと続く廊下で開拓者三名は立ち塞がった。 「しばらく一羽を抑えますので」 力の歪みを使った吉田伊也は人面鳥一羽の身体を捻りあげる。宙での姿勢を崩した人面鳥が廊下の壁へと激突して軋み音を響かせる。 「止めは志藤さん、頼みます!」 気合いを入れて集中したアリアは理穴弓を構えて矢を放つ。狙ったもう一匹の人面鳥の左目に見事命中する。さらに二射の矢を人面鳥の身体に突き立てた。 「助かります」 床付近まで低下した人面鳥を志藤久遠は流し斬った。さらに一刀を加えて仕留める。吉田伊也が抑えていた人面鳥も仕留めると船内に潜入した敵はいなくなる。 緑鷲号の開拓者達は甲板に出て自らを囮にし、まだ夜空を飛んでいる人面鳥に戦いを挑む。そして緑鷲号の隣を飛行する千鳥二号の甲板でも開拓者と人面鳥との戦いが繰り広げられていた。 「きやがったぜ! 人面鳥がうようよと!!」 刀を構えたルオウが咆哮を使って複数の人面鳥を引き寄せた。 「まずは遠くで叩くことが重要」 白弓の弦を引き、勢いよく矢を飛ばしたのは御神村。接近戦になるまでにどれだけ敵に手傷を負わせられるかが勝利の鍵となる。 「おめえらの相手はこのルオウ様がしてやるよ! 真っ向、唐竹割ぃ!」 最初に向かってきた人面鳥に対して両手で握った刀を上段から振り下ろす。翼を斬られた人面鳥が甲板へと転がった。 他の人面鳥の攻撃を受けてもルオウは構わずに止めを刺した。それから次に寄ってきた人面鳥と戦う。 「そこの船員の人達、避難をしてくださいね。ルオウさん、今すぐに治しますね」 鳳・陽媛は神楽舞の神風恩寵でルオウの傷を癒す。さらに神楽舞の「速」と「防」での補助も忘れない。 砲術士達の支援の中、月に照らされた千鳥二号の開拓者三名の戦いは続いた。 緑鷲号と千鳥二号の戦いも激しかったが、一番の巨体を持つ桜瀬に侵入しようとする人面鳥の数は殊の外多い。 載せている物資や乗船数を考えれば、同じ一隻を落とすならば超大型飛空船・桜瀬の方が成果は高くなる。人面鳥でもその程度の計算は出来るようだ。 巨大さ故に死角が多いものの、兵の人員輸送も考えられていただけあって桜瀬は攻撃手段に工夫が凝らされていた。窓は銃が使いやすいように設計されていたのである。 ただ、五十名もの砲術士が活躍出来るほどの余裕はなかった。代わる代わるに砲術士達は射撃を続ける。 「狙うはやはり翼か。当たれば墜落しないまでも、追ってくるのが難しくなるだろうからな」 「それではいきましょうか♪」 天目飛鳥は砲術士達の戦い方を確認すると、葛切カズラと共に階段を駆け上る。狙い撃つのは砲術士に任せて甲板を目指す。 超大型飛空船だけあって桜瀬の甲板は他のそれよりかなり広い。言い換えれば人面鳥が取りつきやすい環境ともいえた。 突起した障害物もあるので砲術士が狙いにくい位置もある。それらを根こそぎ倒そうと天目飛鳥と葛切カズラは甲板に立った。 「そこか! 人面鳥!!」 刀に炎魂縛武の真っ赤な炎をまとわせた天目飛鳥は、心眼で確認した物影に隠れる人面鳥へ斬りかかる。 するとかわすために人面鳥が甲板から浮き上がった。 「急ぎて律令の如く成し、万物尽くを斬り刻め!」 葛切カズラが打った式が月夜の空を駆け抜ける。鏃の姿をした符が刺さると人面鳥の大量の羽根が風に舞って飛んでゆく。 姿勢を崩した人面鳥の額に天目飛鳥が完全なる一撃を喰らわせる。 一旦戻った天目飛鳥は葛切カズラと背中を合わせてから心眼を使った。 「私達、天儀の空も〜俺の海〜〜♪って感じ?」 「そんなところか。次は向かって左の支柱付近に隠れている奴だ」 「わかったわ」 「では行くぞ」 囁くように言葉を交わした後で隠れている別の人面鳥を狙うのだった。 戦いは約二時間後に終結する。 一部怪我を負った弓術士がいたものの、ほんの軽いもので命にかかわるものではない。飛空船三隻の被害も非常に軽微で済んだ。飛行しながらの修理で充分である。 それから一日後に飛空船三隻は目的の森の中に作られた簡易基地へと着陸した。緑茂の里からそれほど離れておらず、砲術士百名はすぐに友軍と合流する事になるだろう。 次々と下りてゆく砲術士達が飛空船に残る開拓者達に手を振ってくれた。開拓者の多くも手を振り返す。 物資も降ろされ、休む間もなく飛空船三隻は再び空へと浮かびあがる。そして朱藩への帰りの空の旅が始まるのであった。 |