|
■オープニング本文 朱藩の首都、安州。 海岸線に面するこの街には飛空船の駐屯基地がある。 開国と同時期に飛空船駐屯地が建設された事により、国外との往来が爆発的に増えた。それはまだ留まる事を知らず、日々多くの旅人が安州を訪れる。 そんな安州に、一階が飯処、二階が宿屋になっている『満腹屋』はあった。 「これでよしなのです☆」 給仕の智塚光奈は満腹屋一階の戸口にかかる暖簾横に告知の紙を張り出した。 十二月二十四日は昼食時の営業でお終い。夕方からは借り切りなので御免なさいといった内容。二階の宿屋についても二十四日から二十五日にかけてはお休みである。 当日行うのは満腹屋縁の者だけのクリスマスパーティ。そのために光奈はわざわざ鉢植えのもみの木まで用意していた。 「今年も開拓者さんたちにはお世話になったのですよ〜♪ 是非に来てもらいたいのです☆」 光奈は空いた時間にギルドへ出向いて募集をかける。 記述は開拓者にクリスマスパーティの準備を手伝ってもらいたいといったものだが真意は違う。一緒にクリスマスパーティを楽しんでもらいたいと考えていた。 「もう楽しみで仕方ありませんわ♪」 光奈以上に喜んでいたのは姉の鏡子である。心なしか声も料理を運ぶ足取りも軽やかだ。 鏡子はジルベリア系のお菓子類が特に好物。それらがたくさん並ぶであろう今パーティは夢のような催しといえた。 「やっぱりでっかい焼いたお肉料理は外せないのですよ〜♪ お刺身もあっても構わないかな?」 「構いませんわよ。ですが生クリームのケーキは絶対ですわよ」 指折り数えて当日を待つ光奈と鏡子であった。 |
■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
ユウキ=アルセイフ(ib6332)
18歳・男・魔
三条院真尋(ib7824)
28歳・男・砂
遊空 エミナ(ic0610)
12歳・女・シ
火麗(ic0614)
24歳・女・サ
紫上 真琴(ic0628)
16歳・女・シ
ベアトリス・レヴィ(ic1322)
18歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●もうすぐ 手伝いの開拓者八名が満腹屋にやって来てからすでに数日が経っていた。 二十三日の宵の口。最後の客がお勘定を済ませると暖簾を下ろす。 クリスマスパーティを楽しみにする者達にとって店仕舞い後からが本番である。 一同は主に二手へと分かれた。パーティ用料理の仕込みをする組、飾り付けの準備をする組といったところだ。 満腹屋は明日二十四日も開店するので店内の飾り付けはまだ出来ない。そこで飾りそのものを作ったり、もみの木の飾りつけに手をつける。 「結構重いのなー。光奈、ここでいいかなー?」 「助かったのですよ〜。さすがに日が暮れてから裏の倉庫での作業は寒すぎるのです」 ルオウ(ia2445)が裏の倉庫に置いてあった『もみの木』を智塚光奈が待つ板場の休憩所へと運んでくれた。 「私よりも少し大きいくらいかな?」 遊空 エミナ(ic0610)はもみの木の高さを確認してから手帳を取り出す。 「どんな飾り付けかちゃんと調べてきたんだよ、えっとね‥‥。ツリーの天辺には、大きなお星様でしょ。白とか赤いふわふわした物とか、それときらきらした飾り――」 「ふむふむ‥‥」 遊空の読み上げを聞きながら光奈は自分の知識と照らし合わせる。 「――あとねクッキーを袋に入れてつるすんだって。なのでお菓子持ってきたからね。お土産のクッキーもあるんだ」 「クッキーは知らなかったのですよ☆ えっと折り鶴は?」 「折り鶴‥‥てっ?」 「飾りといえば折り鶴なのですよ〜♪ ほら、たくさん折っておいたのです☆」 光奈が持ち上げた箱を首を傾げた遊空が覗き込むとたくさんの折り鶴が詰まっていた。 折り鶴は違うと羽妖精・カントも思ったが、うまく言い出せずおろおろし出す。 「この折り鶴、綺麗だねっ。大きいのや小さいのもあるんだっ。どんな感じに配置しようかなっ♪ お菓子は私も持ってきたんだよ♪」 「大中小あるのです☆」 ひょいと現れた紫上 真琴(ic0628)が光奈の折り鶴の一つを摘んだ。そしてここがいいかな、それともここがと折り鶴をもみの木に近づける。 「そうね、折り鶴はやっぱり飛んでいる感じがいいよねっ♪」 遊空はジルベリアに折り鶴があるかどうか迷ったが、そんなことはどうでもいいことに気がついた。羽妖精・カントも楽しければそれでいいと考え直す。 板場の仲間にも声をかけるとたくさんの者がお菓子を持ってきていた。これから調理するつもりの者も。 「巾着とか縫うの大好きですわ」 集めたお菓子は鏡子が作った布袋に入れてもみの木のツリーにぶら下げることにする。 一人変わった作業をしていたのはベアトリス・レヴィ(ic1322)だ。明日のためにと、こっそり手配した蝋燭を満腹屋へと運び込んでいた。 「さすが光奈さんお勧めの呂さんね。天儀でこれほどの蝋燭を入手してくれるなんて素晴らしいわ」 誰もいない倉庫で木箱から蝋燭を手にとってベアトリスはうっとり。試しに鬼火玉・キャンドルに火を点けてもらう。 一言で蝋燭といっても使われる材料によって種類がある。ベアトリスが望んだジルベリアの蜜蝋蝋燭はすばらしい輝きと香りを放ってくれた。 板場でも着々と下準備が行われていた。 「満腹屋さんでのお料理は、伝手で大抵の食材が揃うのがほんっと嬉しいのよねー」 地下から戻ってきた礼野 真夢紀(ia1144)はほくほく顔。満腹屋の地下一階には氷室と適度な寒さの冷蔵室がある。お肉はちょうどよい熟成具合。またこの季節には手に入りにくい泰国産から輸入された野菜類の在庫も豊富である。 『マユキ、ナニつくる?』 上級からくり・しらさぎが冷蔵室から運んできた食材を作業台の上に並べた。 「うん、去年のクリスマスの料理作りで教えてもらったものをにしようと思っているの。ミートローフでしょ、にんじんのグラッセ、ポテトサラダ。他にも蒸しプリン 、辛い丼のスープとテュルク・カフヴェスィも。今日のうちにジンジャークッキーと林檎のタルトも作らないと」 『‥‥りょうり、たくさん』 「あ、それと‥‥お米でチーズリゾットも作ろうかな」 『りぞっと?』 「えっとね――」 礼野は簡単に説明する。チーズを使ったジルべリア風のお粥だと。 その頃、ユウキ=アルセイフ(ib6332)は板場の石釜に薪をくべていた。鏡子がパンを焼き終えた後を引き継いだのである。 「店内の飾り付けは明日がんばるとして、一度は試しておかないとね」 ユウキがパーティ用に考えていたのは『冬野菜大盛りピッツァ』『大根と白菜の冬野菜パスタ』『林檎のデザートピッツァ』だ。このうち今日は冬野菜大盛りピッツァを作ろうとしていた。 使うのはチーズ、希儀産オリーブオイル、トマトソース、捏ねた生地、玉葱、ブロッコリーの芯、レンコン等々。他にはトッピングとしてソーセージも。味のアクセントとして塩コショウも忘れない。 ピザの下ごしらえは問題ないのだが、気になっていたのは石釜の性能である。 焼き上がったばかりのピッツァにオリーブオイルを回し掛けて出来上がり。ユウキは柱の後ろから様子をうかがっていた鏡子に気がついた。招いて一緒に試食してもらう。 「きょ、鏡子さん、何か変な味でしたか?」 自分自身ではよい出来だと判断していたピッツァだが、鏡子が涙を零しているのに気がついた。 「いえ‥‥美味しくてのうれし涙ですのでお気になさらず」 ジルベリア料理好きの鏡子にとって感無量のようだった。 より正確にいえばユウキは希儀料理指南書を手本にしたのでピッツァはジルベリア風ではない。しかしこの際どうでもよい点といえる。 三条院真尋(ib7824)は光奈とパーティのことを話しているうちにようやく気がついた。自分達の参加が望まれていることに。 「え、光奈さん、私達もパーティに参加して良いの?」 「もちろんなのです〜♪」 三条院はあくまで裏方のつもりでパーティの参加を考えていなかった。そうとなればよりやる気が出てくる。 鳥の香草詰め物丸焼きの準備を整えると三条院は早めに就寝した。夜明け前に起きて魚市場に出かけるためだ。新鮮な寒ぶりやマグロ、イカや海老を買い求めようと考えつつ布団の中に入って眼鏡を外す。 (「イセエビがあればグラタンも作りましょう‥‥」) 闇に目が慣れて天井がぼんやりと見えるようになる前に吐息を立てる三条院であった。 パーティ当日は鍋を作ろうと考えていた火麗(ic0614)は必要な食材の点検が終わると裏の倉庫へと向かう。到着するとランタンを天井からの鈎に引っかける。 「お茶の葉はこれとこれでいいね。天儀酒はこれがいいかな。ワインは‥‥‥‥あったあった。光奈はここにあれもあるっていってたんだけど‥‥」 火麗は木箱の蓋を開けたり棚の奥を覗き込んだりする。そしてようやく目的の火酒を発見した。ジルベリア産でとても強い酒である。 台車に載せて移動。一部の酒は地下の冷蔵室で冷やされるのだった。 ●準備 そして二十四日。昼の書き入れ時を過ぎてから店仕舞い。戸口の前に大きな『今日はお休み』の看板が置かれる。 「ここでいいかしら?」 「もうちょっとだけ上がいいのですよ」 空龍・カルマの背中に乗った三条院がクリスマスリースを飾るために柱へと釘を打つ。光奈の指示に従って位置が決められた。 クリスマスリースは小枝や葉で作られており、さらに南天やかわいい布で彩られている。他にはヤドリギが各所へと置かれた。 「リースは魔よけになるんだって」 飾り付けを手伝う遊空の言葉に羽妖精・カントが頷いた。これは一点の曇りもなく正しいようだ。 しかしその後が悪かった。 「プレゼント持ってきてくれる赤くて白いおじいさんが居るから、ツリーにお願いすればいいのかな? これからも美味しいご飯が食べられますようにっと」 「サンタさんは知っていましたけど、それは初耳なのです。わたしもやるのですよ〜♪」 光奈を誘って遊空がクリスマスツリーに手を合わせて願った。羽妖精・カントは止めようとしたものの、結局のところあたふたするだけで終わってしまう。 店内の飾り付けも本格的に始まった。調理担当でも直前まで作業がない者達は一緒に手伝う。 満腹屋一同も当然協力。光奈と鏡子はもちろん両親である義徳と南。板前の智三、真吉に銀政が店内を駆け回る。 「へっへー、パーティーなんて久しぶりだぜぃ♪」 ルオウは『友なる翼』で迅鷹・ヴァイスと同化して天井の梁までひとっ飛び。脚立か龍の背中を利用しなければ届かない位置に軽々と手を触れる。 「光奈もやってみっか?」 「で、出来るのです?」 光奈は迅鷹・ヴァイスと同化して宙に浮かんだ。 浮遊感を楽しんだものの仕事はちゃんとこなす。数日前に描いたサンタクロースの絵を飾り付けた。ちなみに武天の巨勢王に似たサンタクロースである。 紫上真琴が描いたサンタクロースも飾られた。こちらは風格のあるどっしりとした白髭のサンタクロースだ。 紫上真琴は卓の一つに羽妖精・ラヴィ専用の座る場所を確保する。 「ラヴィ、ちょっとこの辺に特等席作っておいたよ」 座布団の上に舞い降りた羽妖精・ラヴィがちょこんと座る。座布団には刺繍でクッキーなどのお菓子が描かれていた。 「私のお手製なんだけど、まだ要修行かなあ」 考えていたよりも日数がかかってしまったことを紫上真琴は反省する。しかし羽妖精・ラヴィはお菓子があると大喜び。お礼に紫上真琴の頬へキスをした。 ベアトリスは黙々と卓の上に蝋燭を飾っていた。最初は誰も気に留めなかったものの、さすがに蝋燭が一所に三十本も並べば異様さに気がつく。 「べ、ベアトリスさん、このたくさんの蝋燭はなんなのです?」 「ファイヤボールと鬼火玉は正義よ。そして蝋燭。とにかく火、明り、炎よ! クリスマスといえばこの飾り付けが命だわ!」 光奈がベアトリスを後ろから羽交い締めにして止めようとがんばる。開拓者も手伝ってようやくベアトリスの暗躍は食い止められた。 「わ、わかったわ。仕方がないわね。‥‥でも調理に火は必要よね。板場はどうなっているのかしら?」 「えっと――」 一つの卓に照明用の蝋燭は二つまで。それと卓の一つにならキャンドルで文字を表現してよいことに。これがベアトリスとみんなとの約束になった。 礼野は手間がかかる料理が多かったので板場に隠って作業を続ける。それでも、からくり・しらさぎと一緒に大忙し。 『がんばる』 からくり・しらさぎは見事な包丁さばきで下ごしらえを手伝う。 「ちょっとだけ薄いかな?」 礼野は鳥の出汁と辛い丼の香辛料を合わせたスープを味見した。塩を足してから一度火から遠ざける。後で温め直すことで味が具によく染みこむ寸法だ。 「ピッツァは下ごしらえさえしておけば、焼きあげるのはほんの数分だからね」 ユウキは食材を切りそろえると今度は生パスタ作り。麺状だけでなくいろいろな形に仕上げる。 三条院は板場が空いた機会を見計らい、早朝に買い求めた海産物を刺身包丁で切っていった。完成品はパーティまで冷蔵室で保存される。 よいイセエビが手に入ったのでグラタン作りも。焼き上げる直前まで作ってから三条院は店内の飾り付けに戻った。 火麗が作る料理は少し変わっていた。酒に合う鍋を作っていたが、龍のための料理も用意していたからである。 「これなら裏庭でも楽しんでもらえるかね」 巨大な飯炊き釜で煮ていたのはおでん。龍が食べるので一つ一つの具がとても大きい。ちなみに出汁を利かせていたが非常に薄い塩味に仕上げられていた。 ●パーティ 日が暮れるのを待ちに待ちわびたベアトリスと鬼火玉・キャンドルは、ようやくの機会を得る。 「クリスマスといえばこの飾り付けが命だわ!」 鬼火玉・キャンドルの火の粉で点けた蝋燭を持ったベアトリスが嬉々として灯して回った。卓の一つに並べられた蝋燭に火が点くと文字が浮かび上がる。 「メリークリスマス!」 光奈のかけ声はその文字と一緒。全員が祝いの言葉を口にした。クリスマスパーティがここに始まった。 びったりと合わせられた卓の上には料理がたくさん並べられていた。 「腹一杯食うぜぃ! ヴァイスも食えよなー」 真っ先にルオウが鳥の香草詰め物丸焼きにかぶりつく。迅鷹・ヴァイスもお腹が空いていたのか専用のお肉をついばんだ。 「一番食べたいものを先に頂かないとお腹一杯になってしまいそうなのです☆」 「光奈さんのいう通りだわ」 智塚姉妹も食の戦へといざ出陣。光奈は気になっていた礼野が作ったミートローフを自分の皿に移す。さらに三条院の刺身も小皿へと盛った。 鏡子はいきなりデザートから。最初に口にしたのはチョコレートの入ったメレンゲ菓子だ。 「光奈ちゃんも真尋さんのお刺身を狙っていたんだね」 光奈がミートローフで幸せを噛みしめていると紫上真琴が正面の席へと座る。 「お刺身いけますです☆ お鍋も美味しそうなのですよ〜♪」 「火麗さんが作った辛みそ入りの鶏肉と白菜の水炊きだって。よそってあげるね」 紫上真琴と光奈は刺身と鍋を頂いた。刺身は舌の上で踊り、鍋の具は程良い辛さと熱さで身体が温まる。紫上真琴が用意した鮭のおにぎりもとても美味しかった。 羽妖精・ラヴィも特等席の座布団の上で刺身を食べていた。寒ブリをとても気に入ったのだがすぐに無くなってしまう。 「お刺身はたくさんあるわよ。冷蔵室からもってきたわ」 「真尋さん、ありがとうね。ラヴィよかったね。まだ寒ブリあったよ、ほら」 三条院が卓に置いた新たな刺身盛り合わせから、紫上真琴が寒ブリの刺身をとって羽妖精・ラヴィの皿に分けてあげる。落ち込んでいたラヴィはいきなり元気に。寒ブリでほっぺたを膨らませるのであった。 「このパスタ、美味しい」 礼野は『大根と白菜の冬野菜パスタ』の味に感心する。 「さあ、ピッツァ最初の一枚目だよ」 ユウキが焼きたての『冬野菜大盛りピッツァ』を卓に並べた。パスタの味で期待を大きくした礼野が最初の一枚を頂く。 「歯ごたえがとてもいい感じ‥‥」 礼野が注目したのは熱せられているはずなのにピッツァの上で新鮮な印象の野菜類である。高温による短時間の調理だからこその食感がそこにあった。 辛い丼風スープを配膳し終わって戻ってきたからくり・しらさぎに、礼野はピッツァを勧める。 「このため‥‥この日のために‥‥ああ、幸せ‥‥」 鏡子はピッツァだけでなく林檎のデザートピッツァに林檎のタルト、飲み物としてテュルク・カフヴェスィといった感じで堪能し続ける。にんじんのグラッセの甘みには驚かされていた。 「ベアトリスさん、スープが冷めてしまうのですよ」 「え? ‥‥わかったわ。これね」 キャンドル文字を眺めてうっとりとしていたベアトリスは光奈が声をかけてようやく辛い丼風スープを口に含んだ。 飲んでその味に表情を変える。辛い味が火や炎のイメージと重なったらしい。それからは他の料理も食するベアトリスだ。 『りょうり、おいしい』 からくり・しらさぎは特に珍しい料理を選んで食べる。イセエビのグラタンに関してはしばらくエビの頭とにらめっこしてからであったが。 『‥‥シラナイりょうり、おおかった。マユキのも』 「うーん、そういわれると」 礼野はこれまでのことを思い出す。今回作った料理には、からくり・しらさぎを迎える前、または他の朋友を依頼に連れ出したときにのものなどいろいろである。 『‥‥オシエテもらう、ゼンブつくれるようになるの』 「来年の冬カタケ本はクリスマス料理特集にしようかしら?」 しらさぎへの料理伝授方法を一考する礼野であった。 「ねー、エミナ。何か美味しそうなものある?」 「これ鏡子さんが作ったケーキだって。形が綺麗。丸太小屋はチョコレートね」 紫上真琴と遊空は鏡子が独学で作ったジルベリア風ケーキを頂く。ほんのりとお酒の香りの漂う大人向けの味に仕上がっていた。 ちなみに羽妖精・カントは遊空に食べてと頼まれた生のトマトを大口でパクリ。遊空はどうやら苦手なようである。 「火麗さんの鍋、大好評なのですよ♪」 「ありがとな。光奈の作ったシチューも美味いな」 火麗は火酒をちびちびとやりながら様々な料理を楽しんでいたところ、通りがかった光奈に鍋を誉められる。誰も見ていなければ小躍りしたところ。それほど内心は嬉しかった。 (「あいつらもそろそろ食べきっただろうな」) 火麗は思い出したように立ち上がって龍達がいる裏庭へと出向いた。最初に用意した分の器は見事に空。新たなおでんを保温中の大釜から移してあげる。 「ほら、食べてみるか? あ〜んって口を開けてみな」 火麗は悪戯心で箸で摘んだ大根を駿龍・早火の頭に近づけた。大根が口の先が触れると早火は熱くて首を折り曲げる。 「ごめん、ごめん。少し冷めてから食べてくれ」 火麗は空龍・カルマや駿龍・ちひろにもちゃんと分けてあげてからパーティに戻った。すると歌と踊りが始まっていた。 「光奈さんも一緒に、ね♪」 「え?」 ユウキに腕を引っ張られた光奈は卓が片づけられた広い空間へと誘われる。 横笛を吹きながらユウキが光奈に視線を送った。 少しの間の後で光奈は踊り始めた。羽妖精のカントとラヴィは光奈の周囲を飛んで場を盛り上げてくれる。 カントに誘われて遊空も踊ることに。光奈と一緒に笛の音に合わせ、足踏みを揃えてクルリクルリと回った。 この時間になると食べるものは全体的にデザート系へと移行。鏡子のように最初からデザート狙いの者はわずかである。ちなみに鏡子は蒸しプリンの三個目を美味しそうに食べていた。 やがてユウキの笛の演奏と共に踊りが終了。 次は三条院の番。ハープを奏でながら自らが唄う。火麗のリクエストは大人の雰囲気の歌である。 「俺はまだまだ食べられるぜぃ! このチーズリゾットってうまいよなー」 「わたしもさっき食べたのですよ。美味しくてほっぺた落ちちゃいました☆ 礼野さんはさすがの腕なのですよ〜♪」 ルオウは踊り疲れて休む光奈と談笑。光奈はワインを口にしていた。 光奈の今年最大の思い出は希儀への旅だと語る。様々な食材の発見が特に印象に残ったそうだ。 三条院が披露したハンカチで花などの様々な物を隠す手品を一番喜んでくれたのは銀政である。 「双六で遊ばないかな? ほら『カブキ者、安州食い倒れの巻』。満腹屋のマスがあったから持ってきたんだけど」 「まるで興志王様みたいなのですよ♪」 最後は遊空が持ってきた双六で遊んだ。パーティは深夜遅くまで続いた。 開拓者は翌日の満腹屋の片づけを手伝ってから帰路に就く。 「ありがとうなのです☆」 「嬉しいですわ」 別れ際、礼野は智塚姉妹にスノードロップの耳飾りを贈る。感謝した姉妹はさっそく耳飾りをつけてみた。 開拓者達はそれぞれに持ち寄ったお菓子を分けてお土産とするのであった。 |