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■オープニング本文 理穴にとって国土東部に蔓延っていた魔の森が形骸化した初めての冬はこれまでと違う意味を持つ。 アヤカシの驚異が完全に去った訳ではない。だが以前と比べれば雲泥の差といえた。 魔の森に呑まれる恐怖から故郷が解放されたのなら、新しい商売を始めようといった気概も出てくる。 白峰村は夏の終わりからこれまで観光の準備を整えてきた。 宿泊施設を新築。山の斜面を利用したスキー場を整備。雪遊びが存分に出来る平地の確保。ワカサギが釣れる湖の準備など。 ただ世間にこれらのことがまったく広まっていなかった。訪れるお客は日に数人のみ。どうにかして宣伝出来ないかと村の衆は知恵を絞る。 「そういや何年か前、この村も開拓者の世話になったな‥‥」 一人が開拓者のことを話題にする。 やがてこういった結論に達した。他の儀まで飛び回る開拓者が村の楽しさを体験してくれたのならば相当の宣伝に繋がるのではないかと。 さっそく村の代表者は風信器を使って開拓者ギルドに依頼を出す。 内容は理穴東部の魔の森の壊滅に尽力してくれた開拓者に感謝したいというもの。 宿泊費などはすべて無料。寸志も出す。その代わり気に入ってくれたら白峰村での話を世間に広めてもらいたいとのことだ。 雪で真っ白に染まっている白峰村は開拓者の訪問を待っていた。 |
■参加者一覧 / 羅喉丸(ia0347) / 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 不破 颯(ib0495) / 七塚 はふり(ic0500) / ジーク・シャドー(ic0600) / ヴァーナ(ic1329) / レイブン(ic1361) |
■リプレイ本文 ●のんびりとワカサギ釣り 雪に覆われた白峰村はどこもかしこも真っ白。凍った湖では釣り人が多く見かけられた。 「手応えはまだだな。結構厚いものだ」 『もうすぐじゃぞ、羅喉丸よ。気張るがよい』 羅喉丸(ia0347)が螺旋状掘削道具を回転させて人妖・蓮華が氷面を見守る。二人は協力して氷上に穴を二つ開けた。 さらに寒さ避けとして借りた天幕を張る。これでワカサギ釣りの準備は終了。木製の椅子に並んで座って釣り糸を垂らす。 「円平さんにはいい事を教えてもらったな」 羅喉丸は以前に理穴の遠野村でワカサギ釣りをした経験がある。その時の経験でワカサギの回遊を予想して穴の位置を決めていた。 その予想はばっちりと当たった。 釣り糸を垂らしてまもなく羅喉丸が四尾、人妖・蓮華が三尾を釣り上げた。 「蓮華、帰ったら旅館の人に頼んで揚げてもらおうか。きっと美味いぞ」 『そうじゃのう、妾のために頑張るのじゃぞ』 羅喉丸と人妖・蓮華は忙しい。外したワカサギを桶に入れる。そして釣り針に餌をつけて再び穴の中へ。水中のワカサギの群れが留まっているうちが好機である。 二人は忙しく釣り竿を上下させた。その度にたくさんのワカサギが釣り上げられる。 やがて日が暮れる頃、二人は旅館へと戻った。たくさんのワカサギを旅館の者に渡して調理してもらう。 「そうそう、ワカサギといえば天ぷらだな」 『頂くのじゃ。この塩をつければよいのか?』 「塩でも醤油でも好きなに食べればいい。‥‥うん、こりゃ美味い」 『こら、師匠よりも先に食べるんじゃ‥‥しかし美味いものじゃの〜♪』 羅喉丸と人妖・蓮華は一風呂浴びて身体も心もさっぱり。浴衣に袖を通して膳の上に置かれたワカサギの天ぷらを肴にして天儀酒を嗜んだ。 釣って食べて呑む。羅喉丸と人妖・蓮華は滞在の日々の殆どをワカサギ釣りに費やしたのだった。 ●ワカサギ釣りと料理 礼野 真夢紀(ia1144)と上級からくり・しらさぎが初日に行ったのがカマクラ遊び。完成貸し出しのカマクラの中に火鉢を持ち込んで暖まりつつ餅を焼いた。 『‥イソベヤキ、できた』 「こちらも丁度いい感じ♪ 食べましょうか」 礼野とからくり・しらさぎはお餅を食べながらカマクラの出入り口の向こうに広がる雪景色を楽しんだ。 山の斜面は真っ白だがそびえ立つ針葉樹の緑歯がわずかに姿を覗かせている。空からは常に雪が舞い落ちていた。野外を歩いていると知らぬ間に肩に積もっている程である。 カマクラを楽しんで夜は温泉に浸かる。 翌日はソリ遊びを楽しんだ。二人乗り用で勢いよく滑り降り、雪煙を巻き上げる。 「は、速すぎないかな?」 『‥シタかまないでね、はねるから』 絶叫しつつも二人は三往復も滑る。 一度は大転倒して雪まみれになったが、二人とも怪我はない。雪面に頭から刺さっていたしらさぎを礼野が引き抜く一幕もあった。 午後になってからはワカサギ釣りを楽しんだ。道具を貸してくれた地元の人に教えてもらった通りに釣り糸を垂らした。 『‥たくさん、つれたらいいな』 「そうですね。ワカサギは小さいですから量がないと料理も出来ませんのでがんばりましょう」 二人して釣果は大漁。その日の夕食はワカサギの天ぷらを中心としたものとなった。お腹一杯に食べたところで寝る前にもう一度温泉に浸かる。 『‥ユキすごいね。きれいね。でも…』 「どしたの、しらさぎ?」 『‥ワカサギいがい、ごはんめずらしいものないね。むしろしっそ?』 「あ〜‥‥」 湯に浸かりながら、からくり・しらさぎの感想に礼野が苦笑いをする。 ここ数日、ワカサギを除いて食べたすべては極普通のものばかり。礼野と一緒に精進した成果で有能な調理アシスタントとなっていた、しらさぎにとっては不満足なものだったろう。 「雪深いとね〜。新鮮な野菜とかお魚とかどうしても難しいよね〜」 『‥おなべ、トクチョウあるとたのしい?』 「ほうとうとか煎餅汁とか?」 『‥きのう、サカグラがあった』 最終日、地元の酒粕を手に入れた礼野はからくり・しらさぎに手伝ってもらいながらイシカリ鍋を作る。 鮭の身は手に入らなかったので大量のワカサギの身をつくねにして代用。カマクラに持ち込んで二人で鍋をつついた。この鍋の作り方を記した感謝の手紙を村のご意見箱に投函しておく。 余った酒粕は甘酒に。飛空船の出発まで雪景色を楽しんだ礼野としらさぎであった。 ●朋友達と (「親睦にもなるかなって来たけれど‥‥」) 山頂行きの飛空船から下りた柚乃(ia0638)は雪景色を見回す。先程までいた村はまるでおもちゃのように小さい。なだらかな白い雪の斜面に気分が高揚してきた。 「来てよかったかも‥‥」 『楽しみ、楽しみ』 からくり・天澪はソリを頭の上まで持ち上げて運んでいた。柚乃は手綱を掴んでソリを引きずる。 「くぅちゃん、滑るからこっち来て‥」 ソリに腰掛けた柚乃は提灯南瓜・クトゥルーを呼び寄せる。雪が珍しいのかクトゥルーはふわふわそわそわしていた。 ソリ一号には柚乃と提灯南瓜・クトゥルー。ソリ二号はからくり・天澪とすごいもふら・八曜丸が乗り込んだ。 嬉しそうに声を上げながら雪の斜面を下るソリ一号と二号。途中でふわりと雪面から浮きつつ、十分後には平地へとたどり着く。 盟友達も楽しかったようで日が暮れるまでソリ遊びに興じた。 露天風呂はとても広く、全員で一緒に入っても余裕がある。柚乃を中心に並んで湯船に入って肩まで浸かり、鼻歌を唄う。 二日目にやったのは雪遊び。完成貸し出しの大きめのカマクラを借りて、その横で雪だるま作りをする。 『こっち、頭』 「じゃ胴体を作るね‥」 からくり・天澪と柚乃がそれぞれに雪玉を転がして徐々に大きくしていった。仕上げはクトゥルーと八曜丸の役目。炭をはめ込んで目鼻を作って完成である。 やがて雪合戦が始まった。 『も、もふー!?』 もふら・八曜丸は迫る巨大な雪玉に円らなお目目を大きく見開いた。提灯南瓜・クトゥルーが『怪奇現象』で失敗の雪だるまを放り投げてきたからである。 すっぽりと雪玉が身体に収まって八曜丸は雪だるま姿になってしまった。ぷんぷんと怒った八曜丸はしばらく提灯南瓜・クトゥルーを追いかけ続けたという。 夕食はカマクラの中で。火鉢にのせた大鍋をみんなで囲う。 日が暮れてくると提灯南瓜・クトゥルーが『闇への誘い』を使った。 「神楽に戻ったら、呉服屋で宣伝しましょうね‥。ギルドもいいかも。依頼で疲れた心身の癒しにいかがですか? ‥と」 『ここ、いいところ』 ほんのり明るいカマクラの中で柚乃と朋友達は和気藹々と語らう。 雪遊びを存分に楽しんだところで旅館へと戻る。露天風呂で身体を暖めて就寝。最終日にもう一度ソリを楽しんでから帰路に就くのであった。 ●みんなで 「雪‥‥。これが雪?」 神楽の都からの送迎飛空船で白峰村に到着したレイブン(ic1361)は舞い散る雪を手のひらにのせた。 上空から見下ろした際、村が白く染まっていたのはわかっていたが、それが雪のせいとはまだ信じられなかった。 アル=カマル出身のレイブンにとってはとても不思議な景色が広がっていた。 「話には聞いていたが、雪って本当に冷たい物なのね‥‥」 レイブンの呟きを聞いて近くを通り過ぎようとしたヴァーナ(ic1329)が立ち止まる。 「席は離れていましたが、私もあの飛空船に乗っていました」 ヴァーナとレイブンはお互いが開拓者だとわかって挨拶をした。 「砂漠の夜にもまして冷えるとか信じがたかったのですけれど、この肌寒さからするとその通りのようですね」 レイブンは小隊の仲間が貸してくれた毛皮の外套を纏っていたが、それでも震えが止まらなかった。 「雪には思い出があります。亡き主人とも、何度か暖炉の火を囲みながら雪降る夜を過ごしましたね。あ、こちらのようです」 ヴァーナが話している途中で旅館へとたどり着いた。中に入ると暖炉のおかげでとても暖かい。 話している間に意気投合したレイブンとヴァーナは客室を隣同士にしてもらう。 このままではまずいとレイブンは旅館から防寒具を貸してもらう。その時、スキー道具一式を借りようとしていた七塚 はふり(ic0500)と出会った。 「暖かい服を借りようとしていたのだけどあなたは?」 「これから『うぃんたーすぽーつ』の『すきー』をやってみるのでありますよ。初めてなのでどうなるかわからないところが不安であります」 斜面を滑って遊ぶスキーと聞いてレイブンも興味が沸いてくる。せっかくの機会なのでヴァーナも誘って三人でやってみることにした。 三人分のスキー道具を借りて暖かい格好で野外へ。白峰村が用意した飛空船で山頂まで運んでもらう。 「これが銀世界というやつでありますか。ここまで見事な雪景色を見るのは初めてであります。‥‥とはいえ、ゆるやかな下で練習するのがふつうだと今更ながら気がついたのであります」 七塚はしばらく他のスキーヤーの動きを観察する。 「飛んだわ」 「速いですね」 レイブンとヴァーナも七塚と一緒に見学。大体わかったところでスキー板を靴へと取り付けた。 「百聞は一見に如かずであります」 七塚を先頭にして一斉に滑り始めたが大失敗。十メートル前後で全員が雪を巻き上げつつずっこけた。 「あら、どうされました?」 そこへ地元の女性案内係が声をかけてくれる。一通りの基本を教えてもらって再挑戦。まずは板をハの字にして滑ってみた。 全員が転倒せずに無事滑走。二回目は板を揃えて踏みつける力加減のみで雪の上を滑った。 (「綿のような水の姿とはこのことを指すのですね」) 前方を滑る七塚とヴァーナの雪煙がレイブンからよく見える。それは綿のようにも喩えられよう。元が水だとは信じがたいほど柔らかく感じられた。 スキー滑りは楽しいが時間が経つと身体が冷えてくる。食事処はたくさんあったので、そのうちの一つに入って休憩をとった。 七塚がお品書きを眺めていると『ワカサギ天ぷらうどん』の札が。全員で注文し、しばらくして湯気立つ丼が運ばれてくる。 「カリカリの歯ごたえ、きっと揚げたてであります」 うどんの上にのっていたワカサギの天ぷらがとても美味しかった。七塚は別注文でワカサギの天ぷらを一皿頼んでみんなで頂いた。 一日目はスキーを楽しんだが二日目は雪遊びとなる。 昨日と同じ三人でカマクラを借りると近くで村の子供達が雪合戦をやっていた。 「子供は風の子であります」 七塚は張り切って雪合戦に参加させてもらう。 レイブンとヴァーナは長閑に雪合戦を鑑賞しつつ火鉢で餅を焼いた。 子供同士でも本気になると凄まじいもの。多数の雪玉が空中を飛び交い、たまにカマクラにも飛んできた。 そこはさすが開拓者。レイブンとヴァーナは手刀で雪玉を地面へと叩き落とす。 「敵は強かったのであります」 雪まみれで真っ白になった七塚が子供達を連れてくる。焼けたお餅をあげてみんなで頂いた。 子供達が帰ってた後もカマクラでくつろぐ。夕方には近くの食事処で鍋を頼んでカマクラまで出前してもらう。 旅館とカマクラからでは眺める雪景色が全然違って見える。もちろんカマクラからの方が風情があった。 三人とも鍋と火鉢で身体を温めながら雪見を楽しんだ。 食事が終わった後、ヴァーナが『河乙女の竪琴』を奏でる。 (「そういえば雑音が消えて、私の楽の音の響きがより一層際立つのが好きなんだって、床から微笑んでくれましたね」) ヴァーナは弦を弾きながら主人のことを思い出す。 七塚とレイブンが目を閉じてヴァーナの調べに暫し耳を傾けた。 夜遅くならないうちに三人は旅館へと戻る。 就寝前、レイブンは村のご意見箱に投函するための自分の体験記を書き記す。今後の村の発展に役立てばよいと考えていた。 ●村の状況 「ここか。確かに雪深い地だな‥‥」 送迎の飛空船から降り立ったジーク・シャドー(ic0600)は故郷の景色と白峰村を重ね合わせる。 ジークは開拓者達の行動も含めて村全体を観察するつもりでいた。そうすることで観光で活性化を図る白峰村の役に立てると考えたからである。 旅館に荷物を預けた後で、まずはスキー場などの遊興用斜面を見学する。 頂上付近まで運んでくれる小型飛空船のおかげで観光客は最小限の労力で滑走を楽しめる。それはよいのだが今以上に客が増えるのならば、並び用の縄張りなどが必要と感じられた。 (「ここから長く眺められたのなら最高だろうに‥‥もったいないな」) 加えて頂上付近の施設の貧弱さが気になった。平地は村そのものなので設備は整っていたが、頂上付近にはないに等しい。 高所から暖かな施設内で雪景色が眺められたのなら、利用する観光客は多いはず。飛空船用の高価な窓を使わなければならないだろうが元はすぐにとれるだろう。 食べ物については釣りも楽しめるワカサギが名物になっていた。しかしそれだけでは弱いのは確かである。 ワカサギ釣りを多くの観光客が楽しんでいるのは間違いない。 天ぷら以外のワカサギを使った新しい料理が求められているとジークは想像する。ただ専門外故に提案は避けて提起のみに留めるつもりだ。 村人の仕事ぶりにはやる気が感じられる。不慣れなところもあるのだが熱意があれば問題はないとジークは特に記そうとはしなかった。 ジークが特に気になったのは村の暖房についてである。 これに関しては多くの旅館で暖炉が利用されていた。部屋の間仕切り部分に設置することで各部屋すべてが暖まる仕組みだ。 「なるほど‥‥効率的だな」 ジークは村の暖炉職人と話す機会を得た。 暖炉の煙を外に逃がす煙突についても工夫がなされているという。 各部屋の天井裏を巡って空気を温めてから排出される仕組みになっていた。その分、複雑な形状になってしまうのだが掃除を想定して予め開閉口がいくつも作られている。 気になるのは燃料の木材だと暖炉の職人が呟いた。現状は間に合っているが、今以上の消費となると山の回復が追いつかないのではと心配する。 ジークは職人に植林を薦めた。針葉樹ならば比較的早くに育つ。よいことを聞いたと職人にジークは感謝された。 ジークは滞在の間に書き留めた報告書を村に残していった。写しの一部はギルドの掲示板の片隅を借りて張り出す。どれだけ白峰村が楽しい観光地なのかの宣伝も忘れずに。 ● 開拓者達は何らかの形で白峰村に貢献する。答えがわかるのはまだ先の話だが、うまく行くことを願う参加者達であった。 |