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■オープニング本文 朱藩の首都、安州。 海岸線に面するこの街には飛空船の駐屯基地がある。 開国と同時期に飛空船駐屯地が建設された事により、国外との往来が爆発的に増えた。それはまだ留まる事を知らず、日々多くの旅人が安州を訪れる。 そんな安州に、一階が飯処、二階が宿屋になっている『満腹屋』はあった。 普段は一階の飯処を手伝っている智塚光奈だが二階の宿屋を手伝うこともある。 「わたしに料理を届けて欲しいとのお客様からの注文なのです? 珍しいのです」 「よろしく頼むな、光奈。女性のお客さんだから心配は無用だ」 父の義徳から頼まれて光奈が客室に料理を運ぶこととなった。 満腹屋二階宿屋の基本は素泊まりで食事は外で食べてもらうのが流儀。客は一階の飯処で済ませるのが殆どだ。 客室に料理を届けてもらうには別途料金が必要なので、利用する宿泊客は非常に限られていた。親しい大人数の泊まり客で鍋を囲むときを除けばであるが。 「失礼するのです〜。ご注文のお食事を届けに参りました♪」 「どうぞ」 光奈は宿泊客の返事を聞いてから襖を開けて客室へと入る。父がいっていた通り、客室に泊まっていたのは女性一人のみであった。 (「? どこかで見たことあるような、ないような‥‥」) 行灯の薄暗さの中でも、とても綺麗な女性だとわかる。 歳は二十代半ばぐらい。それにしてもどこかで見たことがある顔だと思いつつ、光奈は注文の『そぅ〜すぅイカお好み焼き定食』の膳を並べて立ち去ろうとした。 「光奈さんですよね? 少し訊ねてもよろしいでしょうか? この安州の食べ物全般についてとてもお詳しい方だと聞き及んでいます」 光奈は驚きながら私でよければと答える。 しかし会話の間にせっかくのお好み焼きが冷めてしまうのは給仕として、食いしん坊としてとても心苦しかった。仕事が残っているので半時程したら戻ってくると女性客に了解を得てから客室を後にする。 「もしかして‥‥」 光奈は急いで自室に戻り、浮世絵の収集箱を開けた。演芸の役者絵が主であったが、中には各国有名人の絵もある。 「そっ、そっくりなのですよっ!」 その中の一枚が女性客にうり二つ。 それは理穴の女王・儀弐重音であった。ちなみに宿泊名簿には『琴爪』とだけ記されていた。 そんなはずはない、でももしかしてと自室の中央をぐるぐると回りながら考えている間に時は過ぎ去る。 光奈は約束通りに再び客室を訪れた。 「この安州に幻のサツマイモを使った天儀菓子があるとつい最近知ったのですが‥‥そちらの菓子店はすでに閉められておりました。金時屋といった屋号のお店です」 「知ってますです。金時屋さんは三、四年ぐらい前に店仕舞いされたのですよ。年輩夫婦のお店で‥‥よいサツマイモが手に入らなくなって満足な味のお菓子が作れなくなって止めたのです。わたしもとても好きだったので残念だったのを覚えているのですよ」 光奈は知っている限りのことを女性客の琴爪に話す。 金時屋が取り寄せていたサツマイモが穫れる畑は山崩れのせいで全滅してしまった。種芋の一部は無事だったものの、掘り返した土地で再び育てても以前のサツマイモのようにはならなかったという。 「実はお待ちしている間に思い出したのですが、理穴にも甘くて美味しい品種のサツマイモがあります。それで今一度、金時屋のご夫婦にお菓子を作ってもらうわけにはいかないでしょうか?」 「詳しくはないのですけど、すでに安州には住んでいらっしゃらないようなのです‥‥‥‥そ、そうなのです! 開拓者なら探すのも得意なのできっと見つけてくれるのですよ〜♪」 もう一度、光奈も金時屋の天儀菓子を食べてみたかった。そこで琴爪に協力することを決める。 翌日、光奈は満腹屋常連の旅泰の呂に頼んで理穴へと飛んでもらった。もちろん琴爪が指定したサツマイモを手に入れてもらうためである。 さらに光奈と琴爪はギルドに依頼を出す。二人は開拓者の力を借りて金時屋の夫婦を探そうとするのであった。 |
■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
ペケ(ia5365)
18歳・女・シ
十野間 月与(ib0343)
22歳・女・サ
三条院真尋(ib7824)
28歳・男・砂
七塚 はふり(ic0500)
12歳・女・泰
紫上 真琴(ic0628)
16歳・女・シ
九頭龍 篝(ic1343)
15歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ●集合 精霊門が利用出来るのは深夜零時。真夜中の朱藩安州に降り立った開拓者七名は満腹屋の二階に泊めてもらった。 囲炉裏で暖まりながら野菜たっぷりの鍋で空いた小腹を満たす。光奈と琴爪も一緒に雑談を交わした。 「どれも素晴らしい錦絵であります」 七塚 はふり(ic0500)は光奈が浮世絵を収集していると聞いて見せてもらった。 捲る途中で目に留まったのが理穴女王・儀弐重音の浮世絵である。七塚がちらりと横目で琴爪を眺めた。 「いやいやいやいや、王様がこんなところにいらっしゃる訳ないであります」 「どうかしたのです?」 七塚は他人の空似でありましょうと呟いて光奈との浮世絵談義に花を咲かせた。 「‥‥世の中、自分とソックリな方が七人はいるって言いますからねぇ。って言うか有名人とソックリさんなのはお得感があってチョッピリ羨ましいかも‥‥」 「もしや私の顔に何かついていますか?」 ペケ(ia5365)も琴爪が儀弐王と似ていると感じた。そのことをペケは琴爪本人にも隠さなかった。 「御爺様‥‥篝は、驚きを隠せないよ」 九頭龍 篝(ic1343)は茶碗と箸を置きつつ誰にも聞こえないように呟いた。 菓子探しのために開拓者ギルドへ依頼する者がいたことにびっくり。さらにその依頼主が甘味好きで有名な理穴女王にそっくりとは、九頭龍篝の常識を逸脱した出来事の連続であった。 「似顔絵があるといいんだけどなあ。どんな顔だって覚えている?」 「わたしが描いたのでよければあるのですよ。記憶が曖昧なので自信はないのですけれど」 紫上 真琴(ic0628)の求めに光奈は引き出しから老夫婦の線画を取り出す。自ら描こうかと考えていた紫上真琴だが、これだけのものがあれば十分だと朝までゆっくりすることにした。 「光奈さん、絵がうまいのです。印象からするとお二人の年齢は六十ぐらい?」 畳の上に置かれた似顔絵を礼野 真夢紀(ia1144)がまじまじと見つめる。 「おそらくですけれど、それぐらいのお歳なのですよ。名前は金時の次郎さんと百里さんなのです☆」 礼野に答える光奈の言葉に全員が耳を傾けた。 鍋を食べ終わっても一同の話は尽きなかった。 「御待ちの間の慰みに、良かったらこちらでも召し上がっていて下さいね」 十野間 月与(ib0343)が差し入れてくれた薔薇の花びらの砂糖漬けと、御茶に花茶「茉莉仙桃」で喉を休める。 「実際に食べられた光奈さんが仰るには上品な甘みが喉奥に広がるとか」 「そんなに美味しくて有名なお菓子なら是非復活して欲しいわね。私は真琴ちゃんと一緒に回るつもりね」 三条院真尋(ib7824)も琴爪が語るサツマイモ菓子に興味津々である。 「菓子探しにこれほどの力添えが頂けるとは考えていませんでした」 「もう、琴爪さんたら大げさなのですよ〜♪」 真面目な琴爪の左肩を光奈が指先で軽く押す。 琴爪が本物の儀弐王だと考えている開拓者は冷や冷やの気分。光奈も最初は儀弐王だと疑っていたようだが今はそうでもないらしい。 呂に頼んだ琴爪が推薦する品種のサツマイモはまだ届いていない。明日か明後日の到着が望まれていた。 ●礼野 朝になって開拓者は安州の街中で金時屋に関する情報を探し求める。 光奈は満腹屋一階で給仕のお仕事。琴爪も独自に調べることがあると一人で外出した。 「この辺りのはず‥‥」 礼野はかつて金時屋があった場所を訪ねる。誰も住んでいる様子は感じられず、戸板の店子募集の張り紙が冬の寒風に揺られていた。 近所には様々なお店があったので買い物をしつつ金時屋についてを訊いてみた。 「お孫さんがいたのですね。引っ越し先はわかりますか?」 「引っ越し先ねぇ。ちょいと待ってくれ。あんたー、知ってるかい?」 礼野は情報をいくつか仕入れた。八から九年ぐらい前、正月に息子夫婦が孫を連れて老夫婦が住む金時屋を訪ねてきたことがある。 老夫婦と同年代の方に聞いてみたところ、一人息子は菓子職人として修行をするために長く安州を離れていたようだ。結婚と同時期に独立したようだがその店舗先は不明。しかし状況からいって今現在も菓子屋を営んでいる可能性は高かった。 「朱藩国内なのは間違いなさそうです。当時、近所にお裾分けされたお土産が魚の干物だから‥‥安州と同じ海岸線の町かな?」 夕暮れ時、礼野は長い自分の影を追うようにして満腹屋へ帰るのであった。 ●ペケ ペケもかつて金時屋があった周辺を調べる。訊ねる時の話題としてサツマイモを用いたのは金時屋の閉店理由だからである。 「美味かったねぇ。他じゃ食べられない菓子だったよ。ところが味が全然変わっちまってさ。職人の腕で埋められる差じゃなかったんだろうな。ま、素材選びも腕の一つだけどもよ」 「食べてみたかったですねーそのお菓子」 ペケは「夜春」を使って魅力を増しながら近所を訪ね歩いた。 聞けば聞くほど素晴らしいサツマイモだとわかったが、安州のお店では殆ど扱われていない。使っていた極少数の店も金時屋から譲ってもらっていた。つまり一般の市場には流れていなかった。 金時屋とサツマイモ農家の繋がりについてまでは調べきれない。ただ収穫時期になると金時屋を臨時休業して手伝いにいっていたことはわかる。それだけ懇意な間柄だったのであろう。 一番の収穫はかつてのサツマイモ畑が安州から五里程離れた土地だと判明したことだ。 「簡単な地図を描いてもらったんですけど‥‥えっと‥‥あった、これなんです」 「ありがとうであります!」 ペケはサツマイモ農家がどうしているのかを知りたいといっていた七塚に場所を教えてあげるのであった。 ●月与と九頭龍篝 「確かに金時屋さんに食材を卸していたのはうちだよ」 「金時屋さんが店を畳むときに連絡先などをお聞きしてませんでしょうか?」 月与はかつて金時屋と繋がりがあった仕入先の問屋にいた。問屋主人が話を聞いてくれることとなった。 「旦那ー、こちらの方も金時屋さんについて知りたいっていってますけどー」 問屋の丁稚が裏手に連れてきたのは九頭龍篝である。 「転居先はどこか知っていますか?」 九頭龍篝と月与の二人で老夫婦の行き先を訊ねることに。老夫婦は閉店後、挨拶回りをしたようだが連絡先は伝えていかなかったという。 理由は簡単。以前にもサツマイモ菓子の作り方を望む者が店に押し掛けてきて迷惑していたからだ。礼儀正しい者もいればそうでない者も当然いる。脅迫されたこともあり、そういった意味で関係を断ち切りたかったようである。 「すまないねぇ‥‥。そういや、何でうちの店が金時屋さんと繋がりがあるってお嬢さん達は知っていたんだ?」 「満腹屋の光奈さんに教えてもらいました」 問屋主人の質問に月与と九頭龍篝が同時に光奈の名を口にする。 「それを早くいってくれ」 「え?」 光奈にならば老夫婦の転居先を教えても構わないと問屋主人は答えた。 金時屋も問屋主人も光奈に恩があるそうだ。安州の食べ物関係で光奈の顔がどれだけ広いのか月与と九頭龍篝は感心した。 本人以外には教えないというので月与と九頭龍篝は満腹屋へ戻って光奈に事情を話す。 「恩‥‥‥‥? そんなものはないのですよ」 光奈は首を傾げてから頭を横に振る。光奈自身は全然覚えていなかった。 ●三条院と紫上 「餡蜜、美味しいわね」 「このお店ならきっと金時屋を知っているよね」 三条院と紫上真琴は甘味処へと立ち寄っていた。二人して給仕に金時屋のことを知らないかと訊ねてみれば店主を呼んでくれる。 「実はこの店でも金時屋のサツマイモ菓子を出させてもらっていた時期があるんですよ」 甘味処の店主は懐かしそうに語ってくれた。そして作り方についても知っているという。 「教えを請う方はたくさんいらっしゃったようですが、誰にでもそうしてあげた訳ではないようです。夫婦が気に入る菓子を作られた職人には教えてあげたようで。すみません、自慢話になってしまいましたね」 甘味処の店主は老夫婦がこの餡蜜を気に入ってくれたのだと懐かしげに語った。 「お二人は今どこにいるのか知っていらっしゃいますか?」 三条院の質問に老夫婦の行き先は知らないと甘味処の店主が答える。 「手に入らなくなったサツマイモと似たのってなかったのかなっ?」 「この近辺の殆どの土地で穫れたサツマイモを試してみましたが無理でしたね」 紫上真琴に甘味処の店主が残念そうな表情を浮かべる。やはり特別なサツマイモがなければ美味しくなかったらしい。 三条院と紫上真琴がお礼をいって甘味処を出ると、道ばたで九頭龍篝、月与、光奈と遭遇する。 「問屋さんが引っ越し先を教えてくれるそうなのですよ〜♪」 三条院と紫上真琴も一行に合流して問屋に向かう。約束通り、問屋主人は光奈に老夫婦の転居先を教えてくれるのであった。 ●七塚 「開墾しなおした畑が、また埋もれるのは悲しいでありますよ」 「私も興味がありますので一緒に参ります」 ペケから畑の場所を教えてもらった七塚は宿に戻っていた琴爪に相談。飛空船でかつてのサツマイモ畑を訪ねた。 崩れた土砂に畑が埋もれてから三回ほどサツマイモの栽培は行われていた。しかしかつての味は未だ戻っていなかった。 「遙々、安州からお越しになったとか」 「こちらの琴爪殿のおかげで空をひとっ飛びでありました。開墾しなおした畑が、また埋もれるのは悲しいでありますよ」 七塚は農家から許しを得て崖の点検を行う。現状において崩落の危険性は少なく、ひとまずの安心を得る。 「朱藩と理穴、掛け合わせれば新しい味が生まれるやもしれません」 七塚は理穴産のサツマイモと種芋を掛け合わせばどうかと農家の主人に持ちかける。 「じっさまがいっていたことを今思い出した‥‥。ここのサツマイモは元々理穴産だったんじゃった‥‥」 農家の主人は七塚がいうようにうまくいくのではないかと考え始めた。畑に余計な土が混じったせいで種芋が雑交配してしまったのかも知れないと。 サツマイモの原種があれば復活の可能性は高い。そうさせて頂ければと農家の主人が頭を下げる。 七塚は美味しいサツマイモが食べられるようになるのが何よりだと頭を上げてもらい、約束を交わすのであった。 ●菓子 翌日、理穴から戻ってきた呂から琴爪がサツマイモを受け取った。さっそく何本かを蒸かして全員で試食する。 「理穴東南部の極狭い範囲で収穫されているこちらの品種で間違いありません。理穴産ならばどれでもよい訳ではありませんので。これだけの量を短時間で手に入れてくれる手腕、さすが呂さんは光奈さんが見込んだ旅泰ですね」 琴爪の説明を聞きながら誰もがサツマイモの甘みに驚いていた。自然かつ強烈な甘みは確かに他のサツマイモとは比較にならないほどの美味さであった。 一同は老夫婦が暮らしているであろう息子夫婦の家がある町へと飛空船で向かう。 「こ、これが空を飛ぶんだね」 九頭龍篝は初めての飛空船のようで乗っている間は終始茫然としていた。 途中、サツマイモ農家に立ち寄って理穴産のサツマイモを提供する。やがて安州よりも西にある海辺の町へと到着した。 「おー、もしや光奈ちゃんか? 久しぶりやな」 「次郎さんと百里さん、お元気そうで何よりなのですよ〜♪ こちら開拓者のみなさんと琴爪さんなのです☆」 光奈は挨拶をそこそこに本題を切り出す。この理穴産のサツマイモを使って、かつての菓子を再現して欲しいと。 老夫婦は光奈のお願いならばと二つ返事で引き受けてくれた。 息子夫婦の家も菓子屋なので道具などはすべて揃っている。 「これはすっごいサツマイモやな。殆どそのまんまの味を再現出来たはずや。まあ、食べてみなされ」 数時間後、幻のサツマイモ菓子が一同の前に並べられた。 「‥‥美味しいっ! 光奈さんが残念に思うお菓子なら絶対美味しいと思っていたのですっ!」 「この味なのですよ〜♪」 一緒に食べた礼野と光奈の表情がぱっと明るくなる。 ようは蒸かしたサツマイモを丁寧に裏ごしして味を調えた上で丸めたもの。味の調整で一番大切なのは塩加減だという。千代が原諸島産を使っていると百里が答えてくれた。 「お塩?! お汁粉と同じかな。その方が甘みが増したりするからね」 菓子一つを三口で食べた月与がさらに手を伸ばす。 塩はわかるとして砂糖や樹糖、蜂蜜などの甘味が足されていないことが驚きである。つまりこの甘みはサツマイモ特有のものだ。 「も、もしもして山吹色の御菓子でございまするか!?」 「ふふふっ、この世にこれほど美味い菓子があろうはずもない。ささ、ずいっーと」 ペケのおふざけに光奈が乗ってくれた。袖の下を通す真似をしつつ菓子を頂く。 「凄く美味しいわ! レシピを是非教えて欲しいのだけど‥‥でも今回はあきらめるしかないわね」 三条院は安州の甘味処で調理法伝授についての事情を聞いている。老夫婦を唸らせる菓子を作らなければ教えてもらえない。そしてその時間は残されていなかった。 「あの餡蜜の旦那ならこのサツマイモがあれば作ってくれるだろうさ。それで勘弁してくろ」 次郎は三条院にすまないと頭を下げる。 「でもそれってあの甘味処にいけば食べられるってことだから、とても嬉しいな。こんな形のお菓子ならいいなって描いてきたんだけど」 紫上真琴は次郎と百里にサツマイモ菓子の想像図を見せる。ハート形や星形などいろいろ。特に二人が気に入ったのはハート形であった。 「琴爪、よかったね。幻の菓子が食べられて」 「はい。どうやらこれからも安州に赴けば頂けるようで二つの意味で嬉しいです」 九頭龍篝が運んできてくれたサツマイモ菓子を琴爪が爪楊枝で頂いた。琴爪の整った顔がほんのわずかだけ笑みを纏う。 「そうでありました。サツマイモ畑が復活するかも知れないのであります」 「そりゃよかった。近場で手に入るのが一番だからねぇ」 サツマイモ菓子の味に夢中で忘れていた七塚は老夫婦に畑のことを報告した。また農家の方々も元気であったと。 「孫が大分大きくなっていましてな。菓子職人を目指してがんばっておる。頃合いが来たらこの菓子の作り方を教えるつもりじゃて」 「そうなれば安州に金時屋が復活するかも知れんのう」 老夫婦は嬉しそうに孫の未来を語るのであった。 日が暮れる前に一同は安州の満腹屋に到着。夕食を一緒に頂いた後、開拓者達は精霊門で神楽の都へと帰った。 翌朝、光奈に感謝しつつ琴爪も理穴への帰路に就く。理穴の儀弐王が朱藩安州でサツマイモ菓子を探し回っていたといった噂を残して。 |