|
■オープニング本文 前回のリプレイを見る 武天は天儀本島最大の版図を持つ国である。 王は赤褐色肌の巨勢宗禅。巨勢王の名で通っている巨漢の男には娘がいる。 その名は『綾』。普段は綾姫と呼ばれていた。 父親に似ず器量よし。亡くなった母親の紅楓に似たおかげだ。 紅楓は理穴国の王族、儀弐家の血筋。綾姫は親戚となる理穴国王の儀弐重音にどことなく面影が似ている。 綾姫は飛空船で編成された武天軍を統率した経験もある才女の綾姫だが、まだ十歳と若いどころか幼いといってよかった。 武天の都、此隅も正月の準備を思いだす年の瀬となる。加えてジルベリアから伝わってきたお祭り『クリスマス』が街の人々の恒例になりつつあった。 「父様、よいことを思いついたのじゃ♪」 「どうしたのだ? 綾よ」 城庭での龍騎乗の練習中、綾姫が父親の巨勢宗禅に相談を持ちかける。 「普段使っておらぬ飛び地の城庭があるじゃろ? あそこにクリスマス用のもみの木を植えて飾るのはどうじゃろうか? 期間限定で開放して喜んでもらうのじゃ♪」 「まだアヤカシはおるが徐々に平和になろうとしている。兼ねる形で民と一緒に祝うのもよいかも知れぬな」 この会話で綾姫と巨勢王の間に大きな齟齬が生まれた。 巨勢王は数メートル程度のもみの木を何本か植えて飾り、祝うのだと想像する。だが発案者の綾姫は違う。 「綾よ。何故、大型飛空船・不可思議の運用許可を求めたのだ? 不可思議の管理担当が慌てて確認にやってきたのだが」 巨勢王が自室で書の練習をしていた綾姫を訪ねる。 「それはもみの木を運ぶためじゃ。なんといっても大きいからのう。この間、よいと許してくれて嬉しかったのじゃ♪」 綾姫は山中に育つ二十メートル以上のもみの木を城庭に移植しようとしていたのである。 手配は怠っていなかった。運ぶために必要な大型飛空船『不可思議』の許可申請。枯らさないで移植するために城勤めの庭師にも同行の話は通してある。 「人手が足りぬと思うて開拓者ギルドにも依頼したのじゃ。懇意の開拓者に集まってもらえれば百人力じゃからな。運ぶだけじゃなく、飾り付けにも知恵を貸してもらおうと考えて‥‥、父様どうかしたのじゃ?」 「いや、なんでもない。わかった。綾の自由にせい。但し、安全を第一にな」 綾姫の頭を撫でた巨勢王が部屋から立ち去る。 「うむ〜。やはりキラキラさせたいが、どうしたらよいかのう〜」 書の練習が終わった後はお絵かきだ。どのようにもみの木を飾ろうかと悩む綾姫であった。 |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
九竜・鋼介(ia2192)
25歳・男・サ
宿奈 芳純(ia9695)
25歳・男・陰
パラーリア・ゲラー(ia9712)
18歳・女・弓
蒼井 御子(ib4444)
11歳・女・吟
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
神座真紀(ib6579)
19歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●大きなもみの木 真夜中に武天の此隅城を訪れた開拓者一行。朝食後、確かめたい疑問を綾姫に訊いてみた。 「その高さのもみの木に相違ないぞよ」 もみの木の移植と飾り付けはよいとして、二十メートル越えというのは誰かの勘違いか依頼書の誤植かも知れないと考えていたからだ。 本当だと知った開拓者達は驚きの表情を浮かべる。 「‥‥随分と派手なことを考えたもんだな」 「これが限界かと思うての。もっと大きい方がよかったかや?」 九竜・鋼介(ia2192)がもみの木を想定して天を見上げた。眺められたのは天井だが、脳裏に薄らと聳え立つもみの木が浮かび上がる。 「ほえ〜。やっぱり飛空船を使ってもみの木を移植?」 「ここは一つ力を貸して欲しいのじゃ」 「綾ちゃんってば豪快なのにゃ〜♪」 「父様も誉めてくれたのじゃ♪」 綾姫は神仙猫・ぬこにゃんを膝の上に乗せながらパラーリア・ゲラー(ia9712)とお喋りを楽しんだ。 「巨体もみの木をツリーにとは、流石は綾姫。実に気宇壮大だ♪」 「おー、フランヴェル殿も誉めてくれるのかや♪」 フランヴェル・ギーベリ(ib5897)は綾姫と話しながら彼女の背が少し伸びたことに気がついた。 「流石に姫さんのやることはスケールがでかいな。こらきばらんといかんね」 「わらわもきばるのじゃ♪ 真紀殿の協力、頼むぞよ」 神座真紀(ib6579)と綾姫は互いににやりと笑う。 まもなく一同はもみの木を移植する予定地へと向かう。依頼書の通り、広大な城庭から切り離された飛び地であった。 「ここに、もみの木、かぁ。コレはさすがに見たことないカモ‥‥!」 蒼井 御子(ib4444)が周囲を確認する。 飛び地とはいえ此隅城は間近。ここにもみの木が聳えたのなら、さぞかし見応えがある。 「御子殿もそう思うかや!」 見回す蒼井御子の隣で綾姫が頷く。 「クリスマス、実は私にとっては見るのも聞くのも初めてなんです。とある救世主に纏わる祭りだとか‥‥」 「是非、一緒に楽しもうぞ♪」 三笠 三四郎(ia0163)は綾姫と一緒に飛び地の中央に立ってみた。足元がもみの木を植え替える予定地点だ。 「クリスマス、もうそんな時期なんですね‥‥」 「そうじゃぞよ、柚乃よ」 柚乃(ia0638)と綾姫はしみじみと一年を振り返る。このとき、二人の背後にあった茂みがカサカサとうごめく。 「ご希望は派手な飾り付けということですが、どういう風に飾りましょうか?」 「夜間でも見えるようにしてもらいたいぞよ」 宿奈 芳純(ia9695)は綾姫が話した希望を手帳に記す。 午後には此隅郊外で待機していた大型飛空船『不可思議』に乗船。一同はもみの木探しに向かうのであった。 ●もみの木 二時間後、不可思議は山脈を見据えながら上空旋回待機となる。もみの木を探す一同は龍や滑空艇で地上へと降り立つ。 「足元、気をつけて」 フランヴェルが綾姫に付きそう。 宿奈芳純が駆る空中停止の滑空艇改・黒羅から縄が垂らされた。その縄を地上の三笠が握って距離を確かめる。 「綾ちゃん、芳純お兄さんよりも高いもみの木がそうなのにゃ♪」 「助かるのお」 パラーリアが綾姫の前で上空の黒羅を指さす。地上から約二十メートルの高さを維持して飛んでいた。 「これもクリスマスツリー候補だな」 九竜鋼介は綾姫が選んだもみの木の枝に赤い紐を結んでいく。 「姫さん、このもみの木はええで。真上から見ても偏りはわずか、綺麗なもんや!」 「有力候補にあげておくのじゃ♪」 炎龍・ほむらを駆る神座真紀は上空からよさそうなもみの木を綾姫に教えた。 十五の候補が選ばれてそこから三つに絞られる。最後の選択は庭師頭領によって決められた。 「時間がかかりますがよろしいか? 綾姫様」 「掘り起こし、頼むのじゃ」 庭師頭領が弟子達を使って作業開始。城に戻ることを勧められたが綾姫は残ることにする。開拓者達も一緒である。 「ツキ、お願いだよ。あの飛び地で、待っている人に、渡してね」 蒼井御子は庭師頭領から預かった手紙を上級迅鷹・ツキの足に取りつけた。 移植に関する内容が認められている手紙が到着すれば城庭でも穴掘りが開始されることだろう。 蒼井御子と綾姫に見送られながらツキが大空に飛び立つ。夕方までには城庭の庭師から手紙を預かってツキが戻ってきた。 その手紙は蒼井御子から綾姫へ。さらに庭師頭領の手に渡った。 開拓者達は穴掘りを手伝う。日が暮れたら不可思議に戻って身体を休ませる。 「完成したらヒムカに被せてあげるつもりなの」 「真っ赤な三角帽子じゃな」 柚乃と綾姫が船倉室で龍達の世話をする。全員に餌をあげてから一息ついた。 「さっき食べたばかりなのに小腹が空いてしまったのう」 「給仕室ならば食べられるものがあるかも?」 二人が話していると柱の向こうから物音が聞こえる。やがてばつが悪そうな顔をしながら、もふらが姿を現した。 「八曜丸ではないかや?」 「こっそりとついてきたのね‥‥。もう」 お腹が空いていたところに食べ物の話しを聞かされて足を滑らせたようである。一緒に給仕室へ向かうと蒸かしたサツマイモがあった。 『もふ♪』 お茶と一緒にもらって一息をつく。八曜丸は咽せるほどに食べてようやく落ち着いた。 ●大樹大移動 三日目の午後。 もみの木の掘り返しと根元の処理が完了する。 安定性を第一にすれば甲板に載せたいところだが、そうするともみの木が傷んでしまう。さらに植える作業も難易度が上がるため吊り下げたまま運ぶこととなった。 不可思議から垂らされた鋼鉄製の縄にもみの木が繋げられる。ゆっくりと吊り上げられていった。 継続飛行が可能な開拓者は船首方向を北と仮定してもみの木を取り囲んだ。 北は三笠が駆る灼龍・さつな。北東は柚乃が駆る灼龍・ヒムカ。東は九竜鋼介が駆る鋼龍・鋼。南は滑空艇改・黒羅を駆る宿奈芳純。西はフランヴェルが駆る皇龍・LO。北西は神座真紀が駆る炎龍・ほむら。樹木と繋がれた縄を引っ張り合って均衡させていく。 パラーリアと蒼井御子は引っ張る方角の指示をだす。ゆっくり飛んでも風の影響で揺れが生じるからだ。 「おおおっ?!」 艦橋の綾姫が椅子に掴まるほどの強風が吹き荒んだ。真下にぶら下がっているもみの木が揺れて艦橋から見切れる。 振り子のように揺れるもみの木を開拓者達が少しずつ宥めていく。やがて収まって不可思議は航行を再開した。 城庭に到達してからが更なる腕の見せ所。掘られた大穴目がけて鋼鉄製の縄に吊されたもみの木が下ろされていく。開拓者達が中央に収まるよう微調整を施す。 完全に地面にはつけられずに状態維持。まとめられていた根が開放される。ようやくもみの木が穴の中に収まって一斉に土が被されていく。 倒木防止の支えも設置された。日が暮れても篝火の中で作業は続けられる。植え替え作業が一段落したのは深夜のことであった。 ●飾り付け もみの木の手入れは庭師達に任せて、綾姫と開拓者達は飾り付けに力を注いだ。 神座真紀が綾姫の紹介で訪問した先は城お抱えの魔術師の詰め所である。 「お忙しいとは思うけど、飾りつけに協力してもらえんやろか? ムザィヤフをつこうてもらえたら助かるんや」 「綾姫様が喜ばれるのであれば是非に力を貸しましょう」 魔術師三名から快諾を得られた神座真紀は次にムザィヤフの核とする卑金属を探す。 「使こうとらん鍋釜とかどこかにあらへん?」 「よいところを知っておるぞよ!」 綾姫に案内されたのは此隅郊外の宝珠砲の砲弾工房だ。ここなら鉄くずがたくさん転がっていた。重すぎるともみの木が傷むので空洞のものを選んだ。 神座真紀と綾姫は龍で三往復して鉄くずを運んでおく。魔術師三名がやってきたときには殆どの仲間が一緒に見学する。 「こりゃすごいで。ほむらも見てみい」 「綺麗なのじゃ〜〜♪」 神座真紀と綾姫が枝にぶら下がる鉄くずを見上げる。 疑わないようにして眺める限り、まるで宝石のようである。驚くというよりもため息がでるような輝きがもみの木を彩っていた。 「こうするのですね」 三笠はもみの木の世話を手伝う。 もみの木の根元には腐葉土がたくさん与えられている。三笠は樹木から離れたところに穴を掘って追加肥料を足していく。 急を要する移植だったので根回しの余裕がなかった。そこでなるべく根を残す方向で移植は行われた。崖に近い環境のおかげか、もみの木は元々根毛がとてもよく張っていたという。 「呼びましたら来てくださいね」 三笠は灼龍・さつなの背中から跳んでもみの木の太枝へと掴まる。 肥料の次はもみの木の負担を軽くするよう枝葉を伐っていく。クリスマスツリーとして見かけが悪くならないよう内側を重点的に。山中の間にも行ったのだが、更なる追い込みのためだ。 一通りの作業が終わるとさつなに乗って全体を俯瞰する。また枝へと移動して剪定作業を繰り返す。 「おかげで助かるよ。作業が進む進む」 「いえ、できるのはこれぐらいですので」 食事運びも三笠はやってくれた。城から離れた飛び地でも空を飛べばほんのわずかな時間で往復できるからだ。 庭師によって見栄えのよい形での支柱補強も終わる。 「飾りは遠慮させて頂きます。その代わり、お手伝いを頑張らせてもらおうかと」 庭師頭領の許可がでたところで本格的な飾り付けが始まる。三笠は荷運びを主に手伝うのであった。 「よしできた♪」 『もふ♪』 柚乃は八曜丸に手伝ってもらいながら竹籤と天儀紙を使って巨大な飾りを完成させる。 「おお、身体の半分が隠れてしまうぞよ♪」 目にした綾姫が大喜び。それは苺を模したものであった。全部で七個作って飾ることとなる。 お菓子でもオーナメントを作った。 「八曜丸、つまみ食いはダメよ」 「割れたのはあげるので我慢なのじゃ」 日持ちするクッキーを焼いて袋詰めにしていく。柚乃と綾姫のお菓子作りを八曜丸が見守る。今にも涎を垂らしそうな顔で。 「キラキラするかも」 「そうなれば嬉しいの」 柚乃は容器の水を凍らせるのを思いつく。 綾姫が高価な硝子大玉をいくつか用意してくれた。 飾り付けの際には『ナディエ』を最大活用。地表にいた柚乃が一瞬のうちに高い枝の上へと移動を果たす。色水で満たした硝子大玉をもみの木の枝に吊しておく。 柚乃が試しに氷霊結で凍らせてみたが、近くに光源がなかったので今一である。実際にどうなるかは後日の楽しみになった。 九竜鋼介が足を運んだ先は此隅郊外の硝子工房である。綾姫からの紹介状を見せると責任者に会うことができた。 「この宝珠の玉を中央に鎮座させて、硝子で取り囲むようなものは作れないか?」 「難しいことをさらりと仰りますな」 最初は渋っていた工房責任者だが計画を聞いているうちにその気になっていく。既存の色硝子なら使用可能のようだ。 「光が乱反射してキラキラと光るようにしたいのだが」 「わざと歪ませればできるだろう」 「星形はどうだ?」 「難しいな。その期間内だと一つだけなら」 検討の末、細めの金属枠を作って表面を硝子で覆うことにした。星形の他に正方形や三角も作られることとなる。 九竜鋼介は巨勢親子や仲間達の似顔絵を持って裁縫店も訪ねた。 「これらの人物と相棒のぬいぐるみを作れないか? この絵を参考にして全体に縮めて可愛く、服装は赤と白の衣装を頼みたい。正直、あまり日数はないんだがね」 「クマぬいぐるみのときはお世話になりましたからね。すごいのを作らせてもらいます」 ぬいぐるみに似たアヤカシ出没の影響は完全になくなったらしい。九竜鋼介の発注を店主は快く引き受けてくれる。 後日、ぬいぐるみを目の前にした綾姫は歓声をあげた。 「これがわらわで父様じゃな♪ 開拓者に朋友もめんこいのぉ〜♪」 綾姫はぬいぐるみを飾る前に一日借り受ける。一晩、一緒の布団で眠ったという。 宿奈芳純は飾り付け半ばといった時期に滑空艇改・黒羅でもみの木上空へと浮かび上がった。 (「南西側が空いていますね。それと北側も――」) 黒羅を空中停止させてから『言魂』で小鳥を出現させる。自分の背後へと飛ばして視界を共有。もみの木全体を俯瞰して飾りが足りていない部分を把握していく。 何度か繰り返し、手帳に記載してから地上へと着地した。 「よろしいですか、綾姫様」 「芳純殿、どうかしたのじゃ?」 手伝いに来ていた綾姫に飾り付けの現状を伝える。 「ふむ。確かにスキスキの個所があるのじゃ。今のうちになんとかせねばな」 「では飾りを追加しますね。足場を用意させて頂きます」 綾姫から許可をもらった宿奈芳純は『結界呪符「白」』の式を打つ。 もみの木の近くに高さ四・五メートルの白色の壁を出現させて足場を作り上げる。消えるまでの五分間に飾り付けを済ませていく。 「わらわが折った真鍮箔の折り紙なのじゃ♪」 「こちらにも飾っておきましょうか」 宿奈芳純が飾った中に綾姫が真鍮箔張りの紙での折り紙細工が含まれる。もみの木の装飾は徐々に完成へと近づいていった。 「綾ちゃん、ここだにゃ♪」 「どれもきれいじゃな♪」 パラーリアが綾姫を連れてやって来たのは硝子工房。表では硝子の商品を売り、裏では製造していた。 「ほんとに姫様を連れてくるとは、こいつは驚いたな」 「にゃ♪」 硝子工房の職人は綾姫を見て眼を見開いた。話しをつけたパラーリアが事前に伝えておいたのだが半信半疑だったようだ。 「すっとやるのにゃ」 「こうかや?」 パラーリアと綾姫は職人に教えてもらいながら硝子板を切っていく。星や苺などの形に切られた硝子片が次々とできあがった。 職人に渡すと裏面に銀の処理を施してくれる。さらに保護膜をつけて鏡が完成した。 「ピカピカじゃ!」 屈んだ綾姫が神仙猫・ぬこにゃんに見せて喜んだ。もみの木への飾り付けの際にはぬこにゃんが手伝う。 「そこの枝にもお願いなのじゃ〜」 パラーリアと一緒にぬこにゃんが枝から枝へと飛び移る。綾姫が願った枝に鏡の飾りを吊してくれるのであった。 綾姫はフランヴェルの飾り付けも手伝った。 制作に時間がかかり、飾り付けはもう終盤である。もみの木の近くに置かれた巨大な木箱の蓋が次々と開けられていく。 「おーかわいいのじゃ♪」 最初に開けた木箱にはぬいぐるみが入っていた。九竜鋼介のとは別でフランヴェルが作ったものだ。 「弓を構えた儀弐王、大きな袋を担いだ巨勢王、こっちはトナカイのひくソリに乗った綾姫のぬいぐるみだよ♪」 三人とサンタクロース服の格好。巨勢王が三頭身で綾姫と儀弐王は二頭身である。 「この弓、すごいのお」 「真鍮箔を張って作った黄金の弓だね」 各ぬいぐるみの小道具も素晴らしい。儀弐王には弓。巨勢王は自分の身長より大きな真鍮箔張りの袋を担いでいた。綾姫が乗るソリは真鍮箔張り、トナカイの角もだ。 表情はそれぞれだが三人とも笑顔を浮かべている。 「そしてこれは自信作だよ」 最後に分解された三つの木箱の中身を見て綾姫は絶句。瞬きもせずにじっと見つめた。 「‥‥すごいのじゃぞ!」 正三角形に切りだした色硝子を組み合わせて作られた二十面体が輝いている。どれも輝く宝珠が組み込まれてた。 「フラン殿よ。大変であっただろう」 「僕が勝手にやったことだからね」 目の下に隈を作りながらフランヴェルは綾姫に微笑んだ。 「んー、大丈夫かな? コレ‥‥ツキ、これ欲しくなる?」 もみの木の枝で取りつけ作業を行っていた蒼井御子が迅鷹・ツキに飾りを見せる。ツキはきょとんとした表情をしていた。 「烏じゃないんだから、欲しくなったりするワケ無いか」 飾り物は真鍮箔製。形を整えた木片に真鍮箔が貼られていた。 「これはよくできた、よね」 多くは雪の結晶をイメージしたものである。鼻歌を唄いながら作業を続けていると眼下に綾姫と九竜鋼介を見つけた。 蒼井御子はもみの木から下りて二人に近づく。 「もみの木の頂にはこれが似合うと思ったもんでな」 「おー!」 九竜鋼介が蓋を開けた木箱を綾姫が覗き込んだ。収まっていたのは硝子製の星形飾り。光る宝珠が仕込まれていて色硝子を通して黄色く輝いていた。 「これすごいね。綾姫様? 取りつけ、チャレンジしてみる?」 「わ、わらわがか??」 蒼井御子が綾姫に詳しく説明する。 星形飾りはそれぞれ龍騎する九竜鋼介と綾姫が運び上げた。もみの木の頂まで近づいたところで綾姫はツキと『他者同化』を果たす。 「これなら楽ちんなのじゃ♪」 『友なる翼』で空中を自在に飛んで星形飾りを固定する。 「綾姫様、もうちょっと北側、だよ!」 蒼井御子は『貴女の声の届く距離』で星形飾りの傾きを伝える。おかげで片寄ることなく星形飾りが光り輝くのであった。 ●夜の輝き 「皆の衆、よくぞここまで仕上げたものぞ」 飾り付けが一通り済んだ日の宵の口。夜間での見栄えを確認するために関係者全員が集まる。その中には巨勢王の姿もあった。 「どうじゃ、父様よ。皆、頑張ってくれたのじゃ♪」 綾姫が巨勢王へと抱きつく。 「よい感じだな」 九竜鋼介は自分が手を掛けた部分を確認。枝からぶら下がる各人形はどれも近くの光源によって照らされている。 硝子の飾りはどれも周囲の光源となり、なにより頂の星形飾りがとても目立つ。 「ほら、ぬこにゃん、鈴もきれいなのにゃ♪」 パラーリアはぬこにゃんを抱きかかえた。 大きめの鈴を紐に通した連なりもパラーリアが取りつけたものだ。綾姫と作った鏡の飾りと一緒に光を反射してキラキラと輝いている。 パラーリアは目が合った綾姫と手を振り合う。 「クリスマスまで二週間程か。ホンマは一月くらい寝かせた方がええんやけど。ま、どんな感じになるかは当日のお楽しみやね」 「クリスマスプディング、どんな味になっているかの〜」 神座真紀と綾姫は数日前に作ったクリスマスプディングを話題にした。今は冷所で保存中である。ムザィヤフで変化した宝珠や宝石はとても美しかった。 「うまくいったかも」 柚乃は硝子大玉の水を夕方頃に氷霊結で凍らせておいた。適度に溶けているおかげか光を散らして幻想的に輝いている。 そしてもう一つ。三角帽子を被った灼龍・ヒムカで飛んで、上空に向けてブリザーストームを放った。 「きれいなのじゃ〜♪」 夜空に四散した雪がちらほらと舞い落ちる。だがいつまで経っても止むことがなかった。途中から本当の雪だと気がつくのに暫しの時間を要す。 「‥‥これは見事な。綾姫、ツリーの前で踊るのはどうかな? 勿論エスコートするよ♪」 フランヴェルに誘われた綾姫は手を取ってもみの木の近くへと歩みだす。気を利かせた蒼井御子が詩聖の竪琴で『精霊の聖歌』を奏でてくれる。 「ここは私も協力しましょうか」 滑空艇改・黒羅に乗った宿奈芳純は上空で照明弾を撃つ。五つの光の輝きがもみの木を彩る。 (「‥‥綾姫様は何を思い、この樹を見上げているのでしょうかね‥‥。私にできるのはこうすることだけですね」) 雪舞い散る中、躍る綾姫を見守る三笠の瞳は優しげだがどこか寂しげでもあった。 踊り終わった綾姫に柚乃は声をかける。それは誓句の謡。最初の声は周囲の音に紛れて綾姫の耳には届かなかった。 「――だけど。遠くからでも、綾姫様のことを見守っています」 「どうしたのじゃ? ともあれわらわも御子殿のことが大好きなのじゃ♪」 綾姫は蒼井御子と正月のことを談笑する。 暗闇に浮かび上がった光のクリスマスツリーは翌日、此隅の界隈で話題となる。雪がちらつく中、多くの見学者が訪れたという。 |