|
■オープニング本文 ※このシナリオはIF世界を舞台としたマジカルハロウィンナイトシナリオです。 WTRPGの世界観には一切関係ありませんのでご注意ください。 後に朱藩国の王となる興志宗末はただ今、八歳。まだ双子の妹が生まれていない頃である。 当時、朱藩は鎖国政策を敷いており、一部を除いて他国との交流は行われていない。首都とはいえ安州は長閑な街であった。 ある晴れた日の早朝。 (「よし、誰もいねぇな」) 宗末は今日もこっそりと安州城を抜け出して城下へと出かけた。懇意の家に預けてあった釣り竿を途中で受け取って海岸へ。いつものように岩場に陣取って釣りを始める。 「おー、来たな!」 宗末が釣っているところへ友達が集まってきた。 何人かは宗末と同じように釣り糸を垂らす。流木を集めて焚き火を熾す者も。そしてみんなで釣った魚を焼いて空腹を満たした。ちなみに宗末は友達に王族だと自らの生い立ちを正直に告げていたが誰も信じてはいなかった。 誰かがこの後は何をして遊ぼうかと口にする。 「実はさ、飛空船が隠してある場所を知っているんだぜ。壊れているんだけど」 宗末がした飛空船の話に友達が興味を示す。全員で海岸から少し離れた場所に建つ蔵へと向かう。 宗末が鍵を開けて蔵の中に入る。薄暗闇の中で目を凝らしてみれば小型の飛空船が佇んでいた。この故障中の飛空船は興志王家所有のものである。 子供達は喜びつつ飛空船に乗り込んだ。 操船室に向かった子供達は空に飛ばす操船ごっこを始める。 「確かこうやって、こうだったかな?」 機関室の宗末は以前見学したときを思い出しながら制御用の桿をいじる。この時、宗末は知らなかった。操船席に飛空船の起動宝珠が取りつけられたままだったのを。 浮遊宝珠の出力がいきなり全開。飛空船が浮かび上がって蔵の天井へと衝突する。 その音と衝撃に驚いた操船席の子供が適当に操船桿を動かす。飛空船は土壁を突き破って大空に舞った。 「壊れてたんじゃなかったのかよ!」 宗末は柱に抱きついて叫ぶ。機関の宝珠を止めようとも考えたが、浮いている状態でそんなことをすれば死ぬだけだ。 高く高く、ひたすらに上昇を続けたあとで今度は降下。床と天井がわからない混乱状態だったが意を決した宗末は何とか操船室へと辿り着いた。子供とはいえ志体持ちによる身体能力の高さのおかげである。 「みんな、どこかに掴まれ!」 操船席に納まった宗末が姿勢を整えたものの落下は止まらなかった。飛空船は海面を滑りながら何度か跳ねつつ着水に成功する。 補助翼はもがれたものの、大きな破損を免れた飛空船は海面に漂い続けるのであった。 |
■参加者一覧
玉櫛 狭霧(ia0932)
23歳・男・志
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
フィーネ・オレアリス(ib0409)
20歳・女・騎
朽葉・生(ib2229)
19歳・女・魔
シンディア・エリコット(ic1045)
16歳・女・吟
サンシィヴル(ic1230)
15歳・女・吟 |
■リプレイ本文 ●遭難 「いたたたっ‥‥みんな大丈夫かぁ〜?」 操船板にぶつけた額を両手で押さえながら興志宗末が呼びかける。 「だ、大丈夫だけど、ここはどこなのかしら?」 サンシィヴル(ic1230)が抱きついていた補助席の背もたれから離れる。そして恐る恐る近くの船窓から外を眺めた。 広がっていたのは海。床が揺れている様子から察しはついていたものの、飛空船は海上を漂っていた。 「わたしも大丈夫‥‥ですわ」 シンディア・エリコット(ic1045)は足をじたばたさせつつ空の樽に入っていた上半身を抜いた。船内に散らばっていた者も操船室に集まり出す。 「まずみんないるかたしかめないとね」 フィーネ・オレアリス(ib0409)が点呼を始める。五名まで数えたところで朽葉・生(ib2229)が姿を現す。 「船倉に穴が空いていないか確かめてきました。大丈夫です」 朽葉生で点呼六人目。しかし蔵を訪ねたとき、全部で七人いたはずである。 「太吉がいないのか。たしか、みんなが飛空船で遊んでたとき、ひとりだけのってなかった‥‥よ、な?」 「たきちはくらにおもしろい道具があるとかいってたぜー」 「それなら多分蔵のなかにとり残されたんだろう」 「そうだ、おもいだしたー。うきあがるときに蔵のはしらに掴まっていたっ!」 玉櫛 狭霧(ia0932)とルオウ(ia2445)が行方不明の太吉の安否を心配する。 もやもやは各自の心に残ったものの、浮かんでから振り落とされたのではないとわかって一同安心した。 一番見晴らしがよいはずの甲板上へ全員であがる。どちらの方角を眺めても海と空ばかり。陸はどこにも見あたらなかった。 「むねすえー、ふくぬいでどうするんだー?」 「中は朽葉がしらべてくれたけど、潜ってそとから船底をみておくんだ」 宗末にルオウがつき合うことに。二人して裸で海へと潜り、飛空船の船底を確認して戻ってきた。 船底の一部が歪んでいたものの亀裂はなく浸水の心配はなかった。但し、補助翼が破損して安定して浮上できないのも判明する。 「これは本格的な遭難ですね」 朽葉生の一言に誰もが凍りついた。 「そ、遭難って、ご本で読んだことがあるわ。おうちに帰れないかもしれないって事でしょ? 悪いのは誰なのかしら!」 普段は気丈なサンシィヴルだが瞳に涙を溜めつつ友達へとふり返る。 犯人探しが始まったもののすぐに収束した。誘った自分がすべて悪いと宗末が認めたからだ。 「宗末くんをせめてもなにもかいけつしないわ」 フィーネが床に座って目を瞑る宗末を庇う。 「太吉は頭がいいやつだから、大人に飛空船が飛んでいったのを知らせてくれているはずだ」 玉櫛狭霧は太吉が瓦礫の下敷きになっていないことを祈りつつ、楽観的な希望だけを口にした。これ以上、みんなを不安にさせても仕方がないと。 「ここはいきのこって助けがくるのをまちましょう」 サンシィヴルは年長の自分がみんなを『りぃど』しなければと頭を切り換える。 まずは飛空船の中に何が残っているのかを全員で確認した。 「ベットはそのままだな。それと掛け布団代わりの布もあったよ」 玉櫛狭霧が寝床を確認。 「釣り竿はぶじだったぜー。えさもほらっ!」 ルオウは自分達の釣り道具一式を見つけた。飛空船暴走の際、落としてなくて何よりである。 「宗末くん、お料理のどうぐがこんなところに。包丁にまな板、鍋もあるよ」 フィーネが木箱の中から調理道具を発見した。 「この樽には‥‥水が入ってそうだ」 朽葉生は並んでいた軽く叩いて水が入っている樽を確かめる。ほとんどが空だったが、大樽三つが水で満たされていた。 「何かないかしら‥‥。あっ!」 シンディアは船内の暗がりで何かを蹴り飛ばす。近寄って拾ってみれば木切れ。近くの扉を開いてみればたくさんの薪が積んであった。 「食べ物はなにも残っていないし‥‥困ったわ‥‥」 サンシィヴルの周りには空の木箱ばかり。すべての中身を確認してみたが、食べられるものは一つもなかった。 「砂糖があればよかったのに‥‥」 たまたま所持していた紅茶が入った小さな麻袋を眺めていると棚が目に入る。期待をせずに木箱を重ねて踏み台にして腕を伸ばす。指先に触るものがあって壺を見つけた。 「これってもしかして‥‥甘い」 サンシィヴルが封を解いて壺の中身を確認してみれば蜂蜜であった。 「提灯と篝火の道具はあったけど‥‥お、油もあるぜ!」 宗末は夜に役立つ照明を発見する。 全員が成果を持ち寄ってこれからを考えた。 「とおくからでも目立つように、旗をたてるのがいいな」 玉櫛狭霧の案でまずは救助を求める旗を立てることにする。 「あ! いいもんがあったぜっ!」 派手な色の布が見あたらなかったが宗末は思い出す。 今日、腰に締めていたのが赤褌であったことを。さっそく脱いで飛空船の一番高いところによじ登り、旗代わりにくくりつけた。 「ん? どこで見つけたんだ? この褌」 「‥‥いいから、早くうけとって!」 素肌でも構わないだが、顔が真っ赤なフィーネが探してきた褌を宗末は締め直すのであった。 「あやしい気がしますね」 「このまま飲むのはいやですわ。なんとなくですけれど」 朽葉生とサンシィヴルが大樽の水に顔を近づけて呟いた。続いて宗末も。 妙なにおいはなく、また蓋がしっかり閉められていたので虫なども湧いていない。このままでも飲めそうな気はするものの、かといって断言は難しかった。 「お母さまの料理をお手伝いする時に、水は一度沸かすといいのよっておそわったことがあるわ」 「父の教えですと一度腐った水は、沸騰させてもお腹をこわすかもしれないって」 フィーネとシンディアの意見はどちらももっともである。 「おれが飲んでみるよ」 悩んだ宗末は沸騰した水を自分が飲んで毒味をする。 その間にシンディアは海水からの真水の採取方法を知っているというので試すことに。海水を鍋で沸かしつつ、かざした布で水蒸気を集めるやり方だ。 フィーネが試しに鍋一杯分だけ樽の水を沸かす。シンディアと朽葉生が海水から水を作る。その他の者達は釣りで食料を確保することに。 「揺れが酷い‥‥錨は‥‥ないな」 玉櫛狭霧は釣りを始める前に錨があれば下ろそうかと考えていたが装備されていなかった。つまりこの飛空船は潮の流れに任せて海面を漂う他ない。 不安は募るものの仕方がなかった。玉櫛狭霧は友達と一緒に船縁で釣り竿を握る。 「できたけど‥‥わたしも飲む」 「いいからやめとけ。俺が飲むからさ」 沸かした水を運んできたフィーネはしばし宗末と言い合う。 しばくしてフィーネが説得されて宗末だけが器の水を飲み干した。味は大丈夫。あとはお腹を壊すかどうかだと宗末は笑う。 「クジラが釣れたら食べ切れないよなー♪」 ルオウは身体を左右に揺らしながら鼻歌を唄った。気にやんでも仕方なく、ルオウに倣って一同肩の力を抜いた。 「こんな棒っきれなんかで、ホントにお魚さんが釣れるのかしら?」 サンシィヴルは半信半疑で釣り糸を垂らし続けていた。 これまで友達の釣る様子は見てきたが、実際にやってみるのは始めてだ。アタリがあってあげたものの、餌を盗られてしまっていた。 (「なんでお魚さんはこんなのを食べるのかしら。信じられないわ。あたしだったらこんなものに引っかかろうなんて思わないわ」) 最初に餌を針につけるときは大騒ぎしたが、さすがに二度目からは静かにこなす。それでも気持ち悪いことには変わりがない。 遭難していなければサンシィヴルは釣りをしていなかったであろう。 「な、なんか引いているな」 手応えを感じた玉櫛狭霧が釣り竿をあげる。漂流してから初めて釣果はアジ。アジは群れで回遊しているので、みんなの釣り竿もしなりだす。 「お、重いですわ!」 力一杯に持ち上げるとサンシィヴルの針にもアジがかかっていた。こうなると釣りは俄然面白くなってくる。 「宗末くん、こうなったら釣り対決よ!」 「わかったぜ! その勝負受けたっ!」 フィーネの挑戦を宗末が受ける。どちらがたくさん釣れるかの勝負が始まった。 「すっげー♪」 ルオウはあっという間に桶一杯に釣り上げる。 釣りが盛り上がってきた頃、朽葉生とシンディアは柄杓一杯分の水を作り上げていた。 「おいしいです。知らないあいだにのどがかわいていたみたい」 「この水なら平気だな。問題なのは‥‥」 一口ずつ飲んでみて確かめた二人は薪の消費量が気になっていた。 薪はたくさんあったものの漂流がいつまで続くかわからない現在、無駄遣いは控えなければならない。そこで水だけではなく暖をとりながら作ることにする。少しずつになるが、それが一番効率的だと。 集まった水は幼い者が優先して飲むことに。一番目はルオウだ。 「うめぇ〜♪」 水は生ぬるかったが釣り途中のルオウは美味しく頂いた。その時、宗末の釣り竿に異変が起こる。 「な、なんかすごいのがかかったみたいだ!」 宗末は竿を折らないよう糸を切らないようにするだけで精一杯。海中に伸びている釣り糸が目まぐるしく動いていた。 「まかせてくれなー!」 それを見てルオウは海へと飛び込んだ。 アジでいっぱいの海中でルオウが見たのは、宗末の釣り糸にかかっていたマグロであった。どうやらアジを食べようと追いかけてきたマグロのようだ。 ルオウはすかさずマグロへと抱きつく。 まだ四歳だがルオウは志体持ち。暴れる拳の一撃でマグロをおとなしくさせる。そして海中から飛空船の甲板まで蹴りとばした。 「これはおいしそうだな」 釣り竿を横に置いた宗末がマグロに止めを刺す。マグロとしては小振りながら全員の腹を満たすには充分な量といえた。 アジは網の上で焼かれる。マグロは刺身に仕上げられた。 日が暮れた頃に食事が始まる。 「お腹、だいじょうぶかな?」 「そういえばへいきだ。わかせば樽の水は飲めるぞ」 フィーネにいわれて宗末は思い出すようにお腹をさすった。 樽の水は大丈夫そうである。念のため四歳のルオウと六歳のシンディアは蒸留の水だけを飲むことにする。調理に使うのは半々といったところだ。 正直にいえばマグロの刺身は誰もあまりうまくなかった。 不味いのは新鮮すぎるのともう一つ、血抜きが不十分だった。 沖に出た漁師は獲った魚の血を飲んで喉の渇きを癒すことがある。結果として血が残っているマグロの刺身を食べることによって子供達の水分がかなり補充された。 味はともかくお腹がいっぱいになれば気分は楽になる。 「ポットに葉っぱを入れて、お湯を注いで、しばらく待って‥‥出来上がり! ‥‥あ、みんなも一杯いかが?」 サンシィヴルがとっておきの茶葉で淹れてくれた紅茶もみんなの安らぎに繋がった。船内で発見した蜂蜜をたっぷりと入れて甘めの味である。 「おいしい‥‥早く帰って、お父さまと一緒にお紅茶が飲みたいわ‥」 サンシィヴルは紅茶を飲みながら夜空を見上げた。 「きっと大丈夫さ。冷えるからこれ、肩にかけておいたらいいよ」 玉櫛狭霧は気をつかってサンシィヴルの背中に毛布をかけてあげる。 そんな玉櫛狭霧だが、口にこそしなかったものの実は不安で仕方がなかった。ふと夜の海を見つけていると吸い込まれそうな気分になる。 「うわっ!」 突然誰かに肩を掴まれて玉櫛狭霧は大声を出す。振り向けば犯人は宗末であった。 「なんだ、宗末か」 「おどろかすつもりはなかったんだ」 眠るまで玉櫛狭霧と宗末は救助について話し合う。 篝火を燃やし続けているのは暗闇に灯す救難目印の意味が大きい。ただ真夜中の捜索は二重遭難の危険性があるので望みは薄かった。 「おれたちを探してくれるのはあしたの朝ぐらいからかな?」 「それぐらいだろうな」 二人で話しているうちに瞼が重くなってくる。 疲れていたのか殆どの者が就寝中。起きていた者もうつらうつら。玉櫛狭霧と宗末も床に寝転がっているうちに眠ってしまうのであった。 ●救助 「たいようだー。海でみるとなんかちがうよなー」 「きれいよね。‥‥早く助かるといいわね」 「この水、うまいよな」 「ほめてくれてありがと♪」 ルオウとシンディアは朝日を眺めつつ、蒸留の水をごくりと飲んだ。目覚めの水は脱水状態の身体に染み込む。そして空腹を促してくれる。 「涼しいので一晩ぐらいならアジは大丈夫です」 「ゆっくりちゃんと焼いたから、食べてみて」 朽葉生と玉櫛狭霧が焼いてくれたアジが朝食に並んだ。水を作る際に出来た塩が振りかけられていてとても美味しく仕上がっていた。 「うすめた海水で煮ただけだけど、初めに焼いた骨で出汁をとってみたの。マグロの頭も食べてね」 「骨と頭を焼いたのはあたしよ。とくに頭を焼くのはとても大変だったんだから、心して食べるといいわ」 そしてもう一品。フィーネとサンシィヴルが協力して作ったマグロ鍋である。 「なんかゴーセーだなっ。頂きます! うん、うまい!!」 宗末はアジを囓り、皿にとったマグロ肉も頂いた。 味付けは質素だが素材がよいのか陸で食べたときよりもうまく感じられる。時間が経過してマグロの身から自然に血が抜けたのも幸いしたようだ。 「あれって?」 全員が満腹になったところでどうしようか話し合い始めた矢先、シンディアが遠くの空に飛空船を発見する。 急いで料理用の釜に薪を足して煙を増やす。 そして十数分後、漂流中の飛空船近くに飛んでいた飛空船が着水した。風宝珠の推進のみでゆっくりと近づいてくる。 「おーい、全員無事か?」 声をかけてきた男性は事情を知っている様子。詳しく話してみれば、やはり救助の人達であった。 「たきちはどうしましたか?」 救助される際、玉櫛狭霧は真っ先に取り残された友達のことを訊ねる。 「太吉っていうのは知らせにきた子のことだな。大丈夫、陸で元気にしている」 救助の男性の答えに一同安心した。 漂流中の飛空船は後で回収するとして、先に子供達が陸へと運ばれる。 「ごめんなさーい‥‥」 それから子供達は何度頭を下げたかわからないほど謝った。 宗末が一人で罪を背負おうとしたが、それは違うと全員で罰を受ける。しばらくの間、海岸に流れてくる流木の清掃が子供達に義務づけられた。 城の妃の計らいで宗末の正体が友達に知られずに済んだ。つまりこれからも城下に遊びに出かけられることとなる。 「せっかくだから、この間あつめたリューボクで釣ったこの魚焼こうぜ。もうかわいているはずだからさ」 懲りない宗末。そして友達も元気いっぱいであった。 |