新しい生き方
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/10/10 21:45



■オープニング本文

 天儀本島・理穴東部には未だ魔の森が広がっているものの、大アヤカシ『氷羅』『砂羅』の討伐によって形骸化する。
 これまでの経験則からいえば、残っている鬱蒼とした草木を焼き払えば瘴気が薄まって普通の土地となるはずである。しかしそのためには長い年月に渡る多大な労力が求められていた。

「どうしたの?」
 夕日の中、女性開拓者の奈奈は恋人の草次郎に声をかける。
 草次郎は赤く染まった理穴東部の魔の森を丘の上に座って眺めていた。
 二人はギルドを通じて理穴国からの依頼で元魔の森境界線周辺の警戒任務を手伝っていた。
 激しい戦いの末にアヤカシを殲滅したものの、わずかな生き残りが稀に現れる。こういう場合、兵力で圧倒するよりも一騎当千の開拓者の方が対処しやすかったからである。
「前々から考えていたんだが、ギルドを辞めて‥‥残りの人生をこの土地の復興に賭けたい。そう思っているんだが、あのだな‥‥俺についてきてもらえるか?」
 草次郎は理穴出身の弓術師だ。
「いつ言い出すのか、待っていたのよ」
 草次郎が先の急変の戦いにおいても並々ならぬ覚悟を持ってして参加したのを奈奈も知っていた。彼女は朱藩出身の砲術士だが妻として理穴に移住することを決意する。
 二人は結婚を契機にしてギルドを辞めることに。そして理穴東部の復興に力を貸す。
 極一部だがすでに理穴の一般兵によって魔の森を焼き払った土地がある。そこに元開拓者夫婦は入植した。
 まずは窪んだ土地を利用して用水路を引いてため池に変えた。次に取りかかったのは荒れ地の開墾である。
 雪が降る前に小麦の種を撒けば春には収穫出来るはずだが、用水路造りに時間をとられてしまったせいで畑が間に合いそうもない。
「大分寒くなってきたな」
「無理をしすぎて身体を壊したら大変よ」
 未だ畑予定地の黒こげの樹木の根を掘り起こし、石を拾っている最中だ。悩んだ夫婦は開拓者ギルドに開墾の応援を頼むのであった。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
明王院 浄炎(ib0347
45歳・男・泰
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
神座早紀(ib6735
15歳・女・巫
蛍火 仄(ic0601
20歳・女・弓


■リプレイ本文

●荒れ地
 一隻の理穴国軍所属の飛空船が黒こげた跡が残る大地へと着陸体勢に入る。
 ここは理穴国東部のかつて魔の森であった一部。理穴兵によって焼き払われて、現在の瘴気は安全な程度まで減少している。但し、何もない荒れ野となり果てていた。
 開拓者一行は東部警戒巡回のついでに飛空船に同乗させてもらう。兵達に礼をいってから朋友を連れて次々と下船した。
 羅喉丸(ia0347)は鋼龍・頑鉄に乗って甲板から滑空しながら飛び降りる。着地と同時に東の遠方へとふり返った。
「当たり前だが、魔の森はすぐ近くなのだな」
 羅喉丸の視線の先には不気味な魔の森が佇んでいる。
「大アヤカシは倒れましたが理穴の復興にはまだまだ時間がかかりそうですね」
 鋼龍・おとめに龍騎した神座早紀(ib6735)が羅喉丸の隣りへと着陸して周囲を眺めつつ呟いた。
 北の端から南の端へ見渡しても理穴東部の魔の森は途切れることはない。これほどの広大な土地を綺麗に戻すにはどれほどの年月がかかるのか、はっきりとはわかっていなかった。瘴気そのものは数ヶ月で抜けるのが普通のようだが、自然の再生は長い年月を必要とする。ある学者の説によれば最低百年はかかるらしい。
「あのお二人が依頼された夫婦でしょうか?」
 駿龍・鬼灯から降りて大地の状態を確かめていた蛍火 仄(ic0601)は遠くから近づいてくる人影に気がついた。
 人影の向こう側の小高い土地には小屋が建っている。近づいてくる速さからいって二人が志体持ちなのは明らかだ。
「遠路遙々ようこそ。私は永町草次郎です」
「妻の奈奈です。来て頂いて助かります」
 現れた二人は予想通り元開拓者の依頼主夫婦であった。
(「故郷の復興の為に尽くすご夫婦か‥‥。先日の子らも、場所こそ違えど同じくこの理穴の地で生きる事を選んだのであったな」)
 甲龍・玄武の手綱を握る明王院 浄炎(ib0347)は永町夫婦の話しを耳を傾けながら、最近に復興中の村へと送り届けた孤児達のことを思い出す。
「それじゃ一週間後に立ち寄る。元気でな」
 兵士の一人が告げてから開閉扉を閉める。数十秒後、飛空船は浮かんで遠くの空へと消えていった。
 開拓者一行はしばらくの生活場所となる永町夫婦の小屋へと向かう。
「これが依頼書にも書かれてあったため池ですか」
 鈴木 透子(ia5664)は霊騎・蔵人でため池の横を駆け抜ける。蔵人があまりの速さだったのでほんの一瞬の出来事であったが、見たところ濁りもなくとても澄んでいた。
 荷物を小屋に置いたところでさっそく開墾の手伝いに取りかかる。まずは永町夫婦の手によって畑に仕上がった土地を見学した。
「綺麗なもんだなー。石も殆ど転がっていないし。こんな感じにすればいいんだよな?」
「そうです。周囲の土地もこのようにしてもらいたいのです。灌漑の水路がこのようになっていますので、将来はそのまま延長して――」
 羽喰 琥珀(ib3263)は連れてきた空龍・菫青の背中の上に立って気になった箇所を指さす。そしてどの辺りを開墾してもらいたいのか草次郎の考えを教えてもらった。それに沿って開墾予定地の区分けに手を付ける。
 朋友の背中に載せて運んでもらいつつ、全員で杭を打って縄を張った。基本は将来の灌漑の水路に沿う。
 一反ずつ十二に区分けするのにかかったのは約二時間。志体持ちの集まりだからこその早さである。
 神座早紀は瘴索結界を張りながら瘴気の濃さを確認した。
(「この辺りは他よりも濃そうですが、影響が出るほどではないはずです。あの生焼けの倒木を処理すれば大丈夫でしょう」)
 すべての開墾予定地を歩いて安全を確かめる神座早紀である。
 開墾済の一反を『壱』としてすべての区域に数字を振った。開拓者達は『弐』の区域へと取りかかるのであった。

●試行錯誤
 『弐』での作業はどうすれば効率よく開墾できるのかの試行錯誤といってよかった。とはいえ最初にやらなければならないことは決まっている。巨大な岩と樹木の切り株や根の除去だ。
 特に大地に残った焦げた切り株や根は掘り起こさなければならない。瘴気云々というよりも畑として使うのに邪魔だといった理由からである。
 それらは開拓者達に任せて、永町夫婦は灌漑水路の延長に取りかかった。現在終わっているのが四反分。せっかくなら開墾分の土地をすべてを畑として利用したい。永町夫婦は頑張って汗水垂らす。
 浄炎はスコップで掘って切り株の地中がどうなっているかを確かめた。太めの根は後で掘り起こすとして途中で伐り離しておく。
「これぐらいならば玄武なら引き抜いてくれるはずだ」
 準備が整ったところで浄炎は甲龍・玄武の身体と切り株を頑丈な縄で結びつける。自らは移動させた岩を支点にして丸太の先を切り株の窪みへと差し込んだ。
「玄武、合図を出したら頼むぞ。必要なら強力を使ってくれ」
 浄炎と甲龍・玄武は呼吸を合わせる。
「よし、今だ!」
 すでに飛んでいた甲龍・玄武は浄炎の叫び声に合わせて垂直に上昇した。浄炎は補助すべく丸太の端を押し、梃子の要領で切り株を持ち上げる。
 土煙をまとわせながら空中を舞った根付きの切り株。周囲の仲間にぶつからないよう浄炎は転がる切り株を蹴って止めるのであった。
 羅喉丸と鋼龍・頑鉄も切り株を抜く作業を行う。次に大岩を退かそうとしていた。
「これだけ大きいのを運ぶのはさすがに苦労するな。よし、あれをやるか。相手が動かない分だけ楽なものだ」
 巨大な岩を前にして羅喉丸は周りに声をかけて注意を促す。そして両足を広げて低重心で構えた。
 素速い踏み込みで大岩との距離を縮めつつ勢いをつけたまま背中から体当たり。玄亀鉄山靠によって当たった箇所に蜘蛛の巣の如く割れ目が入った。止めの蹴りで大岩は手頃な大きさへと砕け散る。
「頑鉄、頼むぞ」
 岩を載せた荷車を鋼龍・頑鉄が牽いて羅喉丸は後ろから押す。
 岩や小石はため池への用水路に沿って捨てられた。小屋は一段高い土地に建てられていたものの、雨期の増水に用心するに越したことはない。岩や小石はもしものための防水提である。
 鋼龍・おとめが爪で掘り起こしてくれた木の根を神座早紀が蔓でまとめた。荷車に載せて決まった場所にまとめておく。
「薪に使えればよかったのですけれど」
 燃料にするにはまだ瘴気が濃い。乾燥させる意味も含めてしばらく放置させることにする。何ヶ月かすれば完全に瘴気は抜けるはずである。
 神座早紀が疲れた鋼龍・おとめを休ませて小石拾いだす。すると駿龍・鬼灯に騎乗した蛍火仄が戻ってきた。
 聞けば永町夫婦の生活圏を囲むように罠を仕掛けてきたのだという。
 永町夫婦がいくら強くても不意打ちされたら避けられないこともある。仕掛けが外れても大きな音がすれば危険を察知できる。加えて食料になりうる動物が引っかかったのなら儲けものといえた。
「小石拾いをお手伝いますね」
「では西側をお願いします」
 蛍火仄と神座早紀は協力して『弐』区域の小石を拾い集める。
「体つきからいって一番取りつけやすいはずです。まずはこれを――」
 鈴木透子はそれまで大岩運びを手伝ってくれた霊騎・蔵人に犂を取りつける。準備が整うと一見綺麗になった『弐』の区画へと足を踏み入れた。
「最初はゆっくりです」
 鈴木透子に誘導されながら霊騎・蔵人が進むたびに取りつけられた犂が土を掘り起こす。
 これまで畑として使われていない硬い土地だがそこは霊騎。易々と使いこなす。
 犂歯の酷使が心配になるものの、浄炎が機転を利かせて事前に交換品を持ち込んでくれたのでどうにか間に合いそうである。
 土を掘り返せば埋まっていた小石や根が表面に現れる。根気よく拾っては畑の外へと運び出す。
「どんなもんかなー」
 それまで根の掘り起こしをしていた羽喰琥珀は空龍・菫青に跨って飛び上がった。そして上空から『弐』の開墾状況を確認。腕を組んで見直しを考える。
 どの作業も最終的には頭数がものをいう。自分も含めて仲間達が力強い朋友を連れてきたので、その分かなり助かっている。そうでなければこれほどの早さで綺麗には出来なかったはずだ。
 それらを踏まえてどうすれば効率を上げられるのか。悩みどころはそこだ。
 土を耕すのを霊騎・蔵人だけに任せるのは得策ではない。龍でも使えるように犂の改良が急務といえた。理穴軍から借りてきた犂は幸いなことに四つある。取りつけの部位に改良を加えれば今晩中に何とかなるだろう。
 小石拾いについてはもっとよいやり方がありそうだが羽喰琥珀は思いつかった。そこで夕食時に解決案を求めてみる。
「仕事した後の飯はやっぱ格別だなー。あ、そうだ。小石拾いで大変なことってあるかな? そっちは手伝っていないんでわからなくてさ」
 羽喰琥珀は奈奈からお代わりをもらいつつ仲間達に話題を振った。
「あの‥‥どの作業も大変なのはわかっているのですけど、屈むので小石拾いはとても腰にきます。実は今も痛くて」
 神座早紀が箸を置いて自分の腰をさする仕草をした。
「ずっと一所に座っていれば大丈夫なのですけど移動しながら拾うので、どうしても中腰になりがちです」
「わたくしもそうです。立ったまま石を拾えればよいのですけれど」
 鈴木透子と蛍火仄も茶碗と箸を置いて意見を述べる。
 三人の話しを聞いて草次郎が口を開いた。
「農作業用のハサミの先端を工夫すれば、石も掴みやすいと思います。それと籠も用意しましょう。もっと早く気づけばよかったのですが」
 ハサミの改良については永町夫婦と神座早紀、鈴木透子、蛍火仄が担当することとなった。
 犂の取りつけ部分の改良は羽喰琥珀、浄炎、蛍火仄、羅喉丸が行う。初日は道具改良のために深夜まで作業が続いたのであった。

●見直し後
 改良された三つの犂は甲龍・玄武、空龍・菫青、鋼龍・頑鉄に取りつけられる。さっそく三龍で『弐』の残り部分を掘り起す。
「いい感じだなー」
 羽喰琥珀も空龍・菫青と一緒に犂を牽いた。昨晩の改良中にその方がよりよいと判断して新たな取っ手を犂につけたのである。
「このまま真っ直ぐだ。いいぞ頑鉄」
「こいつは捗るな。思っていた通りだ」
 羅喉丸と浄炎もそれぞれの龍と一緒に畑の土を掘り返す。龍と開拓者の力があれば硬い土など造作もなかった。
 小石拾いは背中を伸ばしたまま長いハサミで摘んで浅めの籠に集められる。溜まったところで大きな籠に移し替えて荷車にまで運び込んだ。
「これなら大分楽ですね。腰が痛くなりません」
 蛍火仄が器用にハサミで小石を摘む。
「昨日よりも休憩を入れずに作業を続けられそうですね」
 神座早紀もにこやかに小石を籠へと放り込んだ。
「大分集まったので捨ててきます。蔵人、あちらで少し水浴びさせてあげますから」
 鈴木透子は荷車に繋がった霊騎・蔵人に声をかけて歩き出す。犂での掘り返しは三龍に任せて今日の蔵人は小石運びである。
 駿龍・鬼灯と鋼龍・おとめは蛍火仄と神座早紀の目が届く『参』の区画に先乗りして、大岩を砕いていた。予めこうしておけば後の作業が大分やりやすいからである。
 灌漑掘りの合間に永町夫妻が肥料の鰊粕を届けてくれる。
 小休憩をとった甲龍・玄武、空龍・菫青、鋼龍・頑鉄は主人達と一緒にもう一度土を掘り起こしつつ鰊粕を土に混ぜ込む。
 こうして二日目の正午過ぎに『弐』は畑として生まれ変わる。あとは種を撒くだけとなった。
 朝に作っておいた握り飯で遅めの昼食をとる。そして午後からは『参』への本格的な作業へと移行した。
 大岩はすでに砕けており、神座早紀、鈴木透子、蛍火仄はそれら小岩を取り除いた。羽喰琥珀、羅喉丸、浄炎は切り株や木の根を大地から抜き取る作業を担当する。
 もちろん各自朋友と一緒である。力を合わせて荒れ果てた大地を綺麗にしていった。
 永町夫婦の灌漑掘り作業も順調である。
 奈奈は早めに切り上げて夕食の準備と取りかかった。開拓者が提供してくれた食材のおかげで大分まともな食卓となるだろう。
 日が傾いて景色が赤く染まる頃、開墾作業はお終いとなる。
 『参』での作業で終わらなかったのは、土を掘り返しつつ鰊粕と一緒に土をかき混ぜる作業のみ。『弐』の時よりも全体的に大分早くなっていた。
 鈴木透子は頑張った霊騎・蔵人をため池から汲んだ水をかけて洗ってあげる。仲間達も同様に朋友を癒してあげていた。
「よく、がんばりました」
 霊騎・蔵人が美味しそうに水を飲む横で鈴木透子はため池の様子に注目する。
 作業中に立ち寄った時には気づかなかったものの、よく観察すれば小さな動物が棲息している。メダカが泳ぎ、カエルやザリガニの個体も確認出来た。
「水は西側から引いているので、流れてやってきたのでしょう。こうやって緑も元に戻っていくとよいのですが‥‥」
 通りすがった草次郎としばらく立ち話をする。
「きっと春には金色の麦の穂と一緒に緑が芽吹いている景色が観られると思います」
 鈴木透子は荒れ果てた大地を眺めながらそう呟いたのだった。

●みるみるうちに
 作業は順調に続いた。
 三日目からさらに慣れが加わって効率があがる。疲労は溜まっていったものの、開拓者達は手を抜かずに開墾に力を注いだ。
 六日目の午後に『漆』まで終了。ここまでが時間的限界と判断して乾いた畑を潤すことに。永町夫妻の頑張りによって『漆』に一部分が到達するまで灌漑は完成していた。残りは雪が降るまでに夫妻だけの力で何とかなるだろう。
 主人を乗せて次々と龍が飛び立つ。それぞれの龍の両足には樽が取りつけられていた。ためで滑空しながら樽に水を汲んで上昇。上空から担当の区域へと水を撒いた。もちろん一回や二回では足りないので何度も繰り返される。
「東側がちょっと足りないかな?」
 神座早紀は鋼龍・おとめの滑空軌道を手綱で修正して畑の乾いている周辺に水を散らす。
「特に『肆』は乾いているからたくさん撒かないとなー!」
 空龍・菫青を駆る羽喰琥珀は大急ぎで畑上空とため池を行き来していた。
「あの案山子を目印にして撒いてくださいね」
 蛍火仄は自らが準備して立てた案山子を目印にして駿龍・鬼灯に水を撒いてもらう。
「綺麗になったものだ。よし行くぞ」
 浄炎は甲龍・玄武でなるべく高くを飛んで樽の水を広くに散らせた。畑へと霧状になって降り注いだ。
「春が楽しみだ」
 羅喉丸は鋼龍・頑鉄を大きく旋回させてし開墾し終わったすべての土地を見下ろす。それからため池へと水を汲みに戻る。
「それでは回ってきます」
 鈴木透子は霊騎・蔵人であぜ道を移動しつつ、灌漑の水を汲んで畑へと撒いた。こうすることでむらもなく畑が水で潤う。
 日暮れまでに水まきは完了するのであった。

●最終日 種まき
 最後の七日目は理穴軍の飛空船が立ち寄るまでの作業となる。
 一同協力して七反の畑に種麦をばらまいた。奈奈は食事の用意を主に担当したので開拓者達と草次郎の七人で一人一反ずつを担当した。
「これからここがどーいう風に変わってくのか、楽しみだよな。菫青」
 羽喰琥珀が種を撒くと空龍・菫青が嬉しそうに啼いた。
「今はつらくとも、いつか芽は出て、実り多き土地に代わるんだろうな」
 羅喉丸は心の中で祈った。この黒と茶色で覆われた大地が豊かな土地に戻ることを。
「この畑が一面麦の穂で黄金色になることを、心から祈っています」
 神座早紀はそう呟きながら種麦を畑にばらまいた。去り際に永町夫妻にも同じ言葉を贈る。
「この一粒一粒が麦畑に繋がるのです」
 鈴木透子は霊騎・蔵人に話しかけながら種麦を豆まきのように散らす。
「この地に繁栄が訪れることを願おうか」
 浄炎は大きな手のひらで景気良く種麦を撒いた。
(「罠にかかった肉の加工までは間に合いませんでしたが、喜んで頂けるでしょう」)
 種麦を撒く蛍火仄は昨晩のうちに罠にかかった猪の解体を終えていた。
 そのまま食べてもよいし、薫製にすれば冬の食料にもなるはず。朝になって贈ったところ、永町夫妻はとても喜んでくれた。
「五反あればと考えていましたのに、今年に全部で七反も種まきが出来るようになるなんて」
「ありがとうございました。それにいろいろな食料、助かりました」
 夕暮れ時、永町夫妻に見送られながら開拓者達は約束通りに現れた理穴軍飛空船に乗り込んだ。
 眼下の畑に後ろ髪を引かれつつ、神楽の都への帰路に就いたのであった。