小島の塩田 〜翼屋〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 普通
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/10/07 01:50



■オープニング本文

 飛空船。
 空に浮かぶ儀の上をさらに飛翔する乗り物。木材と鉄、そして動力となる宝珠によって形作られている。
 主に人や物資の輸送に使われており、人々にとってかけがえのない交通手段となっていた。
 誰もが欲しいと考えるところだが非常に高価であり、一般人で所有しているのはほんの一部の者である。
 しかし商人にとってはあって当たり前の一つ。
 地上にて荷を馬車やもふら車で運ぶ駆け出しの商人も、頭上を通り過ぎてゆく飛空船を見上げていつかは俺も私もと思うものだ。
 そんな飛空船だが、人が作りしものならば必ず壊れるものである。
 部品の損耗はある程度予測がつく。
 簡単なものならば自分で部品交換をして修理。また手に負えない状態になる前に造船所などの職人の元へと運び込んで直してもらう。しかし突然の故障ばかりはどうしようもない。
 朱藩安州には現地での緊急修理を請け負う職人集団が存在する。『翼屋』という屋号の集まりもその内の一つであった。


 翼屋の棟梁、榊亮蔵は齢六十七歳。
 指揮する立場故に外部への出張は基本部下任せである。
 翼屋は大きく六つの組に分かれていた。そのうちの五つが出張修理専門、残る一つが敷地内で補修部品の製造を任されている。
「依頼するだけで一週間もかかっているのか‥‥。大変だったろうに」
 榊亮蔵は顎の白髭をさすりながら風信器を介して届けられた依頼の文に目を通す。千代ヶ原諸島の小島からの救援要請であった。
 千代ヶ原諸島とは朱藩南方の海に連なる島々を指す。興志王直轄の南志島もこのうちの一つだ。
 依頼があったのは土地の者達が塩島と呼んでいる非常に小さな島。地図によっては描かれていないこともあるらしい。

『以前に何度かお世話になっています。塩島の砂山伝吉です。
 秋になりまして安州の海産祭のように各地で収穫祭が行われていますが、塩を納品するため、または売るための飛空船が壊れてしまって非常に難儀しております。
 塩島には風信器がありませんので、釣り船で南志島へと渡ってからこうしてお願いしている次第です。
 島を離れて翌日には南志島に到達出来ると考えていたのですが、実は嵐に遭いましてすでに一週間が経過してしまいました。
 このままですと夏の暑い最中に島のみんなで頑張って精製した海塩が大量に余ってしまいます。どうか飛空船を直して頂けないでしょうか。
 島所有の飛空船は商用の中型です。機能そのものには問題がないのですが、着水の失敗で岩礁に激突して大穴が空いてしまいました。素人判断ですが、船の基礎となる竜骨には損傷がないと思われます。
 うちの海塩で焼いた秋刀魚は絶品です。どうかよろしくお願いします』

「塩島か‥‥」
 榊亮蔵の趣味として料理がある。
 塩島の塩は知る人ぞ知る素晴らしい調味料で板前の間でも非常に人気があった。榊家で使っている塩は当然この島のものだ。
 どのように作っているのか知りたいと考えた榊亮蔵は自ら出向くことにする。
 但し、元組の部下達は納品間近の部品を造っているので連れてはいけない。そこで急遽、開拓者ギルドに人員の募集をかける榊亮蔵であった。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
十野間 修(ib3415
22歳・男・志
リンスガルト・ギーベリ(ib5184
10歳・女・泰
ファムニス・ピサレット(ib5896
10歳・女・巫


■リプレイ本文

●塩の島へ
 天儀本島の中でも千代ヶ原諸島は特に南部に位置している。さすがに真夏と同じとはいえないまでも、動けばすぐに汗をかくほどの暑さを残していた。
(「少し慣れてきた時が一番危ういか。気を引き締めていこう」)
 機関室で点検する羅喉丸(ia0347)は心の中で呟いた。
 片道半日にも満たない飛行になるが、だからといって気を抜くことは許されない。突発的な事故が起こりやすいのが空の旅だからだ。
「このまま安定したまま、よろしくお願いしますね」
 機関室にはもう一人、ファムニス・ピサレット(ib5896)の姿がある。時折、作動中の宝珠に祈りつつ機関を調節する。
 離着陸または離着水時、最大船速時、巡航時などその時々に応じて宝珠の特性を引き出してあげる必要がある。それを担うのが機関手だ。
「蓮華、また上を頼む」
『羅喉丸よ、安心して任せるがよい』
 羅喉丸に頼まれた上級人妖・蓮華は甲板側の展望室で周囲を見張った。窓枠に座り、腰にぶら下げていた瓢箪の水筒で喉の渇きを癒しつつ。
 高空を飛んでいるので海を棲息域としたアヤカシはそれほど気にしなくてよいが、空賊や飛翔型アヤカシには注意が必要である。雲の中に潜んでいた敵が突然に現れるのはよくあることだからだ。
 操船室にいたのは三名。船長の榊亮蔵。そして操船手を担う十野間 修(ib3415)とリンスガルト・ギーベリ(ib5184)がそれぞれの座席についていた。
「時間としてはそろそろなのだがな」
 榊亮蔵は塩島が見えてきてもよい頃だと白い顎髭をさすりながら呟いた。
「それならばKVよ。しばらく外を眺めておいて欲しいのじゃ。島があったら教えて欲しい。小さいから見逃すでないぞ」
 リンスガルトにこくりと頷いたもふら・KVは座席から跳んで床に降りる。そして窓近くの座席に上がって枠に前足をかけつつ、じっと外を観察してくれた。
「それにしても暑くもなく寒くもない、過ごしやすい気候ですね」
 十野間修は手にしていた眠気覚ましの珈琲カップを飲み干す。水平航行の殆どをリンスガルトに任せたので着水は十野間修の出番である。
 しばらくして、もふら・KVが遠くに島を発見して報告。地図を再確認して塩島に間違いと判断する。
 操船の役目がリンスガルトから十野間修に移行。十野間修は徐々に高度を下げてゆく。
 中型飛空船『山海』は塩島近くの海面へと無事着水を果たした。風宝珠による推進のみで普通の船のように海上を移動して入港する。
 港には迎えの者が駆けつけていた。
「助かります。連絡させて頂いた砂山伝吉です」
 翼屋一行を出迎えたのは依頼してきた塩島の青年『砂山伝吉』である。
 故障している島所有の商用飛空船は船底に大きな穴が空いているので海には浮かべられない。港ではなく陸上に置かれていた。場所は近くなので歩いて状態を確かめに向かう。伝吉の案内で開拓者達も同行する。
「リンスガルトお嬢様、あちらの砂浜が塩田でしょうか?」
「そのようじゃ。海水を汲んだ桶を天秤棒で担いで運んでいるようじゃの」
 通りがけにファムニスとリンスガルトが注目したのは塩田である。見学は後での楽しみするとして、島所有の飛空船が見えてきた。
「外装に大きな問題なさそうだ。肝心の底の穴は‥‥これは見事に空いているな」
 飛空船に近づいた羅喉丸が屈んで船底の大穴を発見。一同は外部だけでなく船倉内からも穴の状態を確認する。
「酷い有様ですが早く直せそうな気がしますね」
 十野間修は破損した部分の木板の状態に注目した。船底の板は派手に壊れているものの、接合部分の損傷はほんのわずかのようだ。
「そうだな。骨格が無事なら丁寧にやる必要はあるが、板の張り替えで済みそうだ」
 榊亮蔵が取れかけた木片を千切る。そしてどのような木材が使われているのかを確かめた。数年かけて慣らしてあっても木材は膨張収縮するもの。修理の素材はなるべく合わせたほうがよいからだ。
 港に戻った翼屋一行は『山海』を飛び立たせて塩島の飛空船の横に移動させる。
「ゆっくりねっ。頑張って、ぴゅん太!」
 ファムニスは駿龍・ぴゅん太を指揮して材木を引っ張ってもらう。
「そのまま降ろしてくれ」
 十野間修も駿龍・ルナで『山海』の船倉内から材木を外へと運び出すのであった。

●修理
 塩島の飛空船は操船機関がすべて正常なので一度浮かび上がらせた。そして真横に組み立てた土台となる木枠の上に載せて作業しやすくする。これで船底の穴と地面との間に一メートル前後の隙間が空く。
「KVも荷車を引っ張っておるの。妾も頑張るのじゃ」
 リンスガルトは命綱を装備しつつ、塩島の飛空船外壁に張りついた。船底の大穴以外にも破損個所があったのでそれらを修理する。
 榊亮蔵に教えてもらった通り、酷い箇所は剥がして新たな板を取りつける。トンテンカンと玄翁で釘を打ち付けた。
 わずかな傷や凹み程度ならば厚めに目地止めを塗って平らに整えて乾かす。その後翼屋特製の防水防腐の液をさらに塗って乾燥させる。
「大丈夫かな‥‥リンスガルトお嬢様。お怪我をなさったら閃癒で治療を‥‥いえっ、怪我などしませんように」
 親友にして恋人のリィムナの双子の妹であるファムニスは気が気ではないようだ。野外で魚介鍋の中をお玉でかき混ぜつつ、何度もリンスガルトの修理作業の様子をふり返る。
「お、涼しい風じゃ。楽しいの♪」
 ファムニスの心配をよそにして当のリンスガルトは心地よい風に吹かれながら鼻歌を唄ってご機嫌である。
 羅喉丸は泰拳士の技を駆使しつつ、破損した船底の板を剥がしていた。力業でまずは大まかに取り除き、その後は丁寧に。
「蓮華、あの上にくっついている木片を千切り取ってもらえるか?」
『これを引っ張ればよいのだな。任せるがよい』
 羅喉丸では手が届きにくい高所については人妖・蓮華が手伝う。
 人妖の蓮華は普段から浮いているのだが、瘴翼を使えばさらなる高度にも到達出来る。立体的な構造の飛空船を直すのにとても役立ってくれた。
 羅喉丸と蓮華が綺麗にしてくれた穴の補修にも順次取りかかった。
「次の板はこれよりも一寸長めで頼む」
「わかりました。先程のは用意出来ています」
 十野間修は榊亮蔵の修理作業を直接手伝った。
 設計図から制作するのではないので基本は現物合わせとなる。甚平「匠」に手拭の捩り鉢巻きの作業着姿で時には鋸を挽いた。
 破損箇所の除去が終わった羅喉丸は十野間修と一緒に榊亮蔵を手伝いつつ、時に木材を曲げる作業を受け持つ。
『羅喉丸よ、湯加減は充分だ』
「よし、始めるか」
 人妖・蓮華が沸かしてくれた釜の湯に羅喉丸が木材を浸す。曲面に張る木板にはこのような加工も必要になってくる。少しぐらいの誤差ならば打ち付けてしまえば問題はない。羅喉丸は榊亮蔵の指定通りに作業を続けた。
「塗る作業は楽しいの♪」
「こちらに顔を向けてもらえますか?」
 目地止めの作業は主にリンスガルトとファムニスが担当する。たまにリンスガルトの頬についた目地止めの液をファムニスが拭ってあげた。
 数日間乾燥させてから万全かどうか確認しなければならないものの、修理作業そのものは終了する。
「目地の確認は、日の光が差し込まない船底側は、船内で灯した灯りの漏れが無いか、外から確認すればよいのですか」
「それをやって、さらに海に浮かべて確かめる必要があるな」
 十野間修と榊亮蔵は修理が終わった塩島の飛空船を一緒に眺める。夕日に佇む逆光の飛空船はとても綺麗であった。

●塩田と秋刀魚
 翼屋一行は完全乾燥を待つ数日間に塩田の作業を見学する。大分日射しが弱まってきたためにそろそろ今年の塩作りも終わるようである。
「単に海水を釜に入れて煮込めばよいと考えがちですが、それでは燃料がいくらあっても足りなくなってしまいます。仕上げには使うとしても、その前段階で日光を利用してどれだけ塩を濃く出来るか。塩作りはそれが大切なのです」
 同行した伝吉が作業風景を説明をしてくれる。
 海水をまず砂浜に並べた大きな桶に汲んでしばらく放置。水分が蒸発して目減りしたところで塩田に撒く作業となる。こ
「ファムニスがやっていいですか?」
「妾もやるのじゃ。こうすればよいのか?」
 ファムニスとリンスガルトが試しにやってみるものの、なかなかうまく散らばらなかった。
 小さめの桶で撒けばよいのだが、出来るだけ乾燥しやすいように細かい飛沫でかつ早い作業が求められる。それでも二人はすぐに慣れて大桶一つずつを撒き終わった。
 塩田内の砂に塩が含まれたところで今度はそれを抽出する作業だ。塩田の砂を設置済の木枠の中へと移す。
 この木枠の底は海水が浸透する仕掛けになっている。上からかけられた海水が砂に含まれた塩を取り込みつつ底に溜まる。この作業は羅喉丸と十野間修が体験した。
「こうして取り出すのか」
「勉強になりますね」
 木枠の底に取りつけられた管から非常に濃い海水が取り出される。それを釜へと移し、薪を焚いて水分を完全に蒸発。積もるように底に残ったのが目的の海塩である。
 とても興味があった十野間修は真っ先に味見をさせてもらう。
「確かに、味に深みのある良い塩ですね。これなら、塩握りだけでも食が進んで仕方がないかもしれませんね」
 何度も瞬きをしつつ、舐めた人差し指を見つめながら十野間修は感想を言葉にした。
「これはいい塩だな。料理の味が引き立つだろうな」
『見事な味じゃな。いくらか買って帰ったらどうじゃ、羅喉丸』
 羅喉丸と人妖・蓮華も海塩の出来に感嘆していた。単にしょっぱいだけでなく、深い旨味が隠れている。まるで出汁の元のようだった。
「そういえば先程、漁船が出港していたのじゃ」
「秋刀魚漁だと聞きました。この塩で焼いたら美味しそうですね」
「そ、そうなのか! 今晩は秋刀魚の塩焼きじゃな。期待しておるぞ、妾も手伝おうかの」
「はい。そうなったら腕を振るってお料理しますねっ!」
 リンスガルトとファムニスが秋刀魚の塩焼きで会話を弾ませる。聞いていた榊亮蔵は思わず唾を呑み込んだ。
 帰港した漁船は大漁旗を掲げていた。
 九割の秋刀魚は味醂干しに加工されてから外に運ばれるという。もっとも飛空船が直ったらの話ではあるのだが。
 残りの秋刀魚は島の家々の食卓にのぼった。翼屋一行の元にも届けられて全員で手分けして塩焼きにする。
「さすが秋刀魚、煙がすさまじいのじゃ。ゴホッ」
「そ、それだけ脂が乗った美味しい秋刀魚なんですね。ゴホッ、ゴホッ」
 ファムニスとリンスガルトが煙にまかれながら網の上の秋刀魚をひっくり返す。
「御飯が炊けるのはもうすぐ、後は蒸らすだけです」
 十野間修は野外の釜で御飯を炊いてくれる。
『羅喉丸よ、二本分おろせばよいのか?』
「充分だ。それならきっと全員に行き渡るだろう」
 人妖・蓮華は秋刀魚の塩焼きに合わせる大根を下ろしてくれる。羅喉丸は卓の上に食器を用意した。
 まもなく焚き火の側で野外の食事が始まる。
「この塩加減にふっくらと焼けた身、最高じゃ。ほれ、ファムニスも早く食べるがよい」
「では‥‥‥‥。美味しいです♪ リンスガルトお嬢様!」
 リンスガルトとファムニスは秋刀魚の塩焼きの美味しさに満開の笑顔を浮かべた。
 しばらくしてもふら・KVが視界に入り、リンスガルトは箸を止める。
「ちゃんとKVの分もあるのじゃぞ。わ、忘れていたわけではないぞよ」
 リンスガルトは焦った様子でもふら・KVに秋刀魚の塩焼きをあげた。
「ぴゅん太、塩焼きもあるし、新鮮な生の秋刀魚もあるからたくさん食べてねっ」
 ファムニスも駿龍・ぴゅん太の前にたくさんの秋刀魚を並べる。
 二体とも特に気した様子も見せず嬉しそうに秋刀魚を食べ始めた。リンスガルトとファムニスも食事を再開する。
 羅喉丸と人妖・蓮華は並んで座りながら秋刀魚の塩焼きを賞味していた。
『どれ、大根下ろしはもっといらぬか?』
「たくさんもらっているから大丈夫だ。‥‥それにしてもうまいな。こんなにうまい秋刀魚は久しぶりだろうか」
 羅喉丸と人妖・蓮華は酒と一緒に楽しむ。これほどの酒の肴は滅多にあるものではない。この島の海塩が秋刀魚の味を最大限に引き立てていた。
 十野間修は駿龍・ルナが美味しそうに秋刀魚を食べているのを確かめた後で、榊亮蔵の杯に酒を注いだ。
「目地止めの乾燥はあとどれぐらいかかるんでしょうか?」
「天気次第だがもう一日は必要だな。二日待てば完璧だろうが――」
 秋刀魚を頂きながらの酒は格別。十野間修と榊亮蔵も飲み食いが進んだ。
 天儀南方とはいえ昼間は暑くても夜になると少し肌寒くなる。夜空に月が輝いていた。

●修理完了の確認
「このような雰囲気だと怪談話でもしたくなるのじゃが」
「でもお昼ですよ、リンスガルトお嬢様」
「怪談といえばもう夏も終わりじゃの。そうじゃ! せっかく海に入るのだから、確認の後で一緒に遊ぶのじゃ♪」
「は、はい。持ってきた水着に早く着替えておかないといけませんねっ♪」
 リンスガルトとファムニスは暗い塩島の飛空船内で、それぞれに灯したランタンを掲げて歩いていた。その足取りは雑巾がけをするように丁寧に船倉の床全体を辿る。
 船外では十野間修、羅喉丸、榊亮蔵が船底の下に寝ころびながら光が洩れて見えるかどうかを確認する。
 乾燥の途中ですでに隙間が空いていないか数日前にも行ったので、実はこれで二度目である。
「この辺りは大丈夫だな」
「こちらも光は見えませんでした」
 羅喉丸と十野間修が榊亮蔵に報告。榊亮蔵が確認した分にも問題はなかった。目視による確認が終わったところで実際に海へと浮かべることに。
 全員で協力して塩島の飛空船を試運転。ゆっくりと砂浜近くの海面に着水させた。
「よし行くぞよ!」
「ファムニスも行ってきますっ」
 リンスガルトとファムニスが海に飛び込んだ。
 リンスガルトは白いワンピース型の水着、ファムニスは似たような形だが紺色である。二人は榊亮蔵から借りた呼吸器を口に銜えつつ、船底の修理箇所へ。
 リンスガルトとファムニスがコンコンと拳で軽く叩いた。その音を船倉内にいた羅喉丸と十野間修が確認する。
「海に浮かべても漏れはなさそうだな」
「二時間ぐらいは様子をみるそうです」
 羅喉丸と十野間修はしばらく船底に留まって監視することに。人妖・蓮華もつき合ってくれる。
 リンスガルトとファムニスは砂浜まで泳いで足が着くところまで戻り、しばし海水浴を楽しんだ。
「ほれほれどうじゃ!」
「きゃ!」
 リンスガルトが両腕で勢いよく海の水をかける。ファムニスは海水の飛沫を浴びつつも反撃を忘れていなかった。
「やりましたね、お嬢様っ!」
 すかさず海水の一部を氷霊結で凍らせるファムニス。小さな氷の欠片を手のひらで握って潜り姿を消す。
「ど、どこにいったのじゃ」
 きょろきょろ見回すリンスガルトの背後へと回り込んだファムニスはそっと浮かびありつつ腕を伸ばす。そしてリンスガルトの背中に氷の欠片を入れた。
「あにゃああああ! ちべたいのじゃー!」
 氷が水着の間から落ちるまでリンスガルトは遠浅の海を走り回ったという。
「うむ。これで問題はないな」
 二時間が過ぎて榊亮蔵が船倉内に水漏れがまったくないのを確認する。太鼓判を押し、これにて塩島の飛空船の修理完成である。
 翌日、翼屋一行は帰路に就いた。
「翼屋の棟梁、そして開拓者のみなさん、ありがとうございましたー!」
 塩島の人達に感謝されながら中型飛空船『山海』は空高く舞い上がるのであった。