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■オープニング本文 朱藩の首都、安州。 海岸線に面するこの街には飛空船の駐屯基地がある。 開国と同時期に飛空船駐屯地が建設された事により、国外との往来が爆発的に増えた。それはまだ留まる事を知らず、日々多くの旅人が安州を訪れる。 そんな安州に、一階が飯処、二階が宿屋になっている『満腹屋』はあった。 昼の書き入れ時が終わって満腹屋は一旦暖簾を下ろす。給仕の智塚姉妹は遅い昼食を頂いていた。 「涼しくなって、めっきりかき氷を注文するお客さんが減ったのですよ〜。秋が長いのはとても嬉しいですけど。ついこないだ、南志島でこれでもかとかき氷を作っていたのが夢のようなのです〜」 妹の光奈が味噌汁に手を付ける。 「もう九月に入ったし、そうなっても不思議ではないわ。とはいえ、ぶり返して暑い日もあるでしょう。でも光奈さんのいう通り秋が長ければいいわね。秋もすぐに終わって冬がずっとだい嫌だわ」 姉の鏡子は箸で摘んだたくわんを静かに口へと運ぶ。 「秋から冬にかけては美味しい物がたくさんあるので大好きな季節なのです☆」 「光奈さんはいつもそれね。冬は好きではないのだけれど鍋はいいわ。今冬は武天の牛鍋をたくさん頂きたいと思っているの」 「お肉、美味しいのです〜♪ 海産物の鍋もいいな〜♪」 「そういえば海産祭がもうすぐだわね。質の良い乾物を買い込んでおかないと」 姉妹が鍋の話しに花を咲かせていると裏口の鐘が鳴る。板前達は仕込みで手が離せないので姉妹が出ることにした。 裏口には馴染みの交易商人・旅泰の呂が立っていた。 「呂さん、どうしたのです?」 「どうしたのはないアルよ。光奈ちゃんが欲しいと思って持ってきたアル」 光奈と話す呂の後ろにあった荷車にはたくさんの野菜が載っている。 「こんなにたくさんの白菜‥‥季節はまだ先なのに」 鏡子が野菜を確認。半分以上が『白菜』であった。 「理穴産アルよ。あっちは朱藩よりも寒いのでなんとかなったアル。それでもちょっと小振りなのは勘弁アルよ」 「勘弁ってとんでもないのです☆ ありがとなのですよ〜♪」 呂に感謝しながら光奈は思いついた。 さすがに店で料理として出すには量が少なすぎる。漬物にする手もあるのだが、ここはせっかくなので試作用の食材にしようと。 夕方から宵の口にかけての繁盛の後、光奈は開拓者ギルドへと向かった。そして冬に先駆けた鍋料理試作依頼の募集をかけるのであった。 |
■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
遊空 エミナ(ic0610)
12歳・女・シ
火麗(ic0614)
24歳・女・サ
紫上 真琴(ic0628)
16歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●つみれ鍋 日が落ちて宵の口。最後のお客様が帰ったところで満腹屋は本日の暖簾を下ろす。後かたづけが終わってようやく晩飯の時間となる。 「疲れた〜。でも頑張ったのでお腹が空いているのです〜♪」 一同は提灯をぶら下げる智塚光奈を先頭にして暗い階段を登った。 光奈が二階の自室襖を開けると、宙を舞う羽妖精のラヴィが出迎えてくれる。 一日目の鍋は先に仕事をあがった紫上 真琴(ic0628)が担当。ちなみに順番はあみだくじによってすでに決められていた。 薄暗い部屋の中、足下に注意しながら全員で囲炉裏を囲んだ。 「お鍋、ちょうど煮えたところよ♪」 すでに香りが漂っていた室内だが、紫上真琴が土鍋の蓋を開けることによって一気に広がった。醤油に出汁が加わったよい香りだ。 最初は紫上真琴が小鉢に全員分を取り分けてくれる。 それぞれに食べ物に感謝して晩飯が始まった。遊空 エミナ(ic0610)が手を合わせて『いただきます』といってから箸を手に取る。 「さてどんな鍋かな。カントは鍋に落ちないようにね」 遊空の言葉にそんなへましないと羽妖精・カントが両腕を掲げて回しながら抗議する。そんなカントをついからかいたくなる遊空である。 「ふふ、冗談だって」 ちゃんと羽精霊の分も取り分けられていた。食べ始めた途端、カントは静かになる。余程美味しいのだろう。 「このつみれの味は‥‥甘鯛?」 「エミナ、当たりよ。すりつぶしてつみれにしたらきっと美味しくなると思ったのは正解ね」 遊空の問いに紫上真琴が答える。 彼女の説明通り、土鍋には朱藩沖で獲れた甘鯛の白身をつみれにしたものがたくさん入っていた。羽妖精達も気に入ったようで、適度に崩したつみれをモグモグと頂いている。 「こういう鍋もいいわね。後で作り方教えてね」 甘鯛独特の甘みが詰まったつみれを遊空はとても喜ぶ。 光奈はお代わりをしながら紫上真琴に訊ねた。 「このお豆腐はどうやって切ったのです?」 「波になった薄い金属片を使ってみたよ。やわらかいお豆腐なら切るの簡単だから。味が染み込みやすくなるからね」 紫上真琴から小鉢を受け取りながら光奈がうんうんと頷く。 ラヴィに食べないのかと心配された紫上真琴は自分の箸が止まっていたことを思い出す。甘鯛のつみれはもちろんのこと、楽しみにしていた大根を頂いた。 「うーん、お鍋って最高」 よく味が染みた大根の味にうっとり。旨味たっぷりの大根は格別であった。 ふと我に返ってみれば、まるで鏡写しにしているような人物が正面に。鏡子も大根を気に入ったようでうっとりとした瞳をしながら頬を左手で押さえている。 白菜にも汁を介して旨味が移って芳醇な味である。紫上真琴がしいたけを味わったあたりで鍋の具はほとんどが食べ尽くされた。ここで御飯を投入。おじやにすることに。 「店で客に出すなら季節は先取りしていかないとね。早火も美味しいっていってるわ」 火麗(ic0614)はお酒を頂きながら駿龍・早火にもすでにお裾分け済である。紫上真琴が作ってくれた特大つみれを早火は瞬く間に完食していた。 「甘鯛のつみれはやさしい味ですね」 礼野 真夢紀(ia1144)は残ったつみれと一緒におじやを楽しむ。白菜の歯ごたえが味の強弱となって美味しくさらに際だたせていた。 食後、さっそく感想と作り方を手帖に書き込んだ。上級からくり・しらさぎもばっちりと記憶したようである。 「魚介を使った鍋は安州に初めて来たお客さんに好評の傾向があるのですよ〜♪ このお鍋もきっと大人気になるのです☆」 お腹いっぱいになった光奈は最後に御茶を飲んで紫上真琴へと微笑むのであった。 ●鳥のスキ焼き 二日目も満腹屋一階の飯処は忙しかった。ようやく店仕舞いになって暖簾を下ろす。遊空は食材の下拵えを終えると先にあがって二階で鍋の準備を始めた。 「カント、見てきてくる?」 遊空にお願いされた羽妖精・カントが窓から飛び出して一階の様子を戸板の隙間から覗き込む。 戻ってきたカントの報告を聞いた遊空は囲炉裏の鈎で吊されてる土鍋を炭火へと近づけて出来上がりを調節する。 やがて智塚姉妹と仲間達が部屋を訪れた。 「お鍋、ちょうどいい感じよ」 遊空が鍋の蓋を開けると全員が覗き込んだ。それはすき焼きだが使われている肉は鶏のもも肉であった。 「ラヴィも、もも肉のまるごと一本を食べたいのね。はい、どうぞ」 紫上真琴は羽妖精・ラヴィのを先によそってから自分の分をとる。肉の他にはゴボウに椎茸、エノキ、白滝、春菊、葱、そしてお麩と豆腐も。なるべく万遍なく小鉢へと入れる。 「美味しい。お鍋って最高ー」 頂きますの挨拶をして紫上真琴が肉を頬張った。 鶏のもも肉は単に煮たのではなく塩味をつけて下拵えとして表面が焼かれていた。そのおかげかくさみもまったくなく、とても引き締まったよい味である。噛んだ瞬間に閉じこめられた肉汁と外側に染み込んだ醤油たれが口の中で混じり合う。 「ラヴィ?」 紫上真琴が自分の羽妖精に目をやってみれば、すでに一本を食べ終わっていた。もう一本食べると訊ねるとラヴィが羽根を軽く動かして喜んだ。 「さてわたしも頂くわね」 みんなが食べ始めたところで遊空も手を合わせて頂きますとお辞儀をする。卓の上に座る羽妖精・カントも遊空の真似をしてから食べ始めた。 味見はしたもののお腹はとても空いている。白滝、葱と続いて本命の鶏のもも肉を口に運ぶ。 (「うん、おいしい」) 遊空は生卵を使わないですき焼きを食べる派である。濃い味をそのまま味わいたいからがその理由だ。ちなみに光奈も使っておらず、鏡子は卵を絡めて食べていた。 いつの間にか羽妖精・カントがお腹いっぱいでバタンキュー。卓の上、紫上真琴の羽妖精・ラヴィと背中合わせで互いに寄りかかって腰を降ろす。 「まだ締めにうどんがあるからね」 うどん麺を鍋に入れる遊空の一言にカントとラヴィが絶望的な表情を浮かべる。 そんなに落ち込まなくてもといって羽妖精達をなぐさめる遊空。隣りの紫上真琴が飛び回ってお腹を減らしてきたらと助言する。 果たして羽妖精が運動すればお腹が減るのかは不明だが、同時に浮かんで窓へと飛び出す。カントとラヴィが戻ってきた頃、うどんはじっくりと煮込まれてきつね色に染まっていた。 ちゃんとカントとラヴィもうどんを一本ずつ食べて満足げである。 「鶏肉はあたしも使うつもりなんです。美味しいですよね」 どこでこの鶏肉を購入したのか礼野は遊空に教えてもらう。基本朝引きで、受け取る時間に合わせても用意してくれるようだ。 「もも肉には骨がついているわ。丸飲みしても大丈夫だろうけど気をつけてね」 火麗はすき焼きを駿龍・早火に食べさせる。もも肉以外の肉を足してあるのは、お腹いっぱいになってもらいたいからである。 火麗自身も締めのうどんを頂きながら、締めの天儀酒を口にする。 「美味しかったわ。鶏もいいわね。牛肉と迷ってしまうぐらい。今晩眠れなさそう」 鏡子の感想で場は笑いに包まれるのであった。 ●二つの鍋 三日目は火麗が晩飯の鍋を担当する。 「来たようだね」 階段を登る音で火麗は仲間達がやって来るのを知る。食器を並べ終わったところで襖が開いた。真っ先に入ってきたのはいつもの如く光奈であった。 「お腹が空いたのです〜♪ お、鍋が二つもあるのですよ♪」 「その通り。提案したい鍋は二種あるわね」 火麗はまず光奈が注目していた鍋の蓋を開ける。 「こちらは白菜の常夜鍋ね。豚肉を使っているわ」 火麗はすかさずもう一つの鍋の蓋も取った。 「もう一品は辛みそ鍋ね。白身のお魚をたくさん使っているよ」 辛みそ鍋の中身はとても色が濃かった。常夜鍋は対照的に薄い。同時に楽しんでもらうための配慮として鍋用の小鉢は一人につき二つ用意されていた。 「常夜鍋はやさしい味ですけれと、飽きない旨味がすばらしいです。辛みそ鍋は特に寒い冬の日にぴったりのような」 礼野は間に水を飲んで口の中を流しつつ、二つの鍋を味比べする。 多人数が集まったのなら趣向が違う鍋を二つ用意するのは賢い方法といえる。うまいまずいは好みなので、よく出来ているからといって万人に受けるとは限らないからだ。 「常夜鍋の汁は白菜の水分とお酒から出来ているわ。白菜からじっくり水分を出しながらちょっとずつ火を強くしていって酒分を飛ばしたのね。辛みそ鍋は朱藩産の味噌の他に泰国製の豆板醤を加えて食欲増進をはかっているわ」 火麗の説明を受けながら鏡子も味比べをする。 「‥‥これ、小さ目の土鍋で二つにして、両方を団体のお客様に提供したら喜ばれると思うわ」 「お姉ちゃん、それいい案なのです☆」 「四人‥‥いえ、五人以上の団体のお客様用で考えてみますわ」 「もちろん単品のお品書きも欲しいところなのです☆」 智塚姉妹は二つの鍋の味に商いの可能性を見つける。これだけ方向性の違う鍋ならば、余程偏食でない限りはどちらかを食べられるだろうと。 火麗は評判の良さに機嫌良くお酒をあおりつつ、駿龍・早火にも窓から味見させる。美味しいようで二階の洗濯干し場でおとなしくしていた早火が小さく啼いた。 「結構こいつグルメだからね。美味しくなかったら、横を向いて無反応だったりするからね」 「わたしが昨日のお昼に作った鮭鍋も食べてくれてよかったのですよ〜♪」 火麗は窓から乗りだして駿龍・早火の頭を撫でる光奈を眺める。 常夜鍋の作り方はこうだ。 出汁昆布を鍋に敷き詰めて白菜と豚肉を交互に重ねる。そしてお酒をたっぷりとかけて弱火から徐々に強めてゆく。 タレにはポン酢と大根おろしを合わせたものが用意されていた。最後は御飯を足して雑炊にされる。 辛みそ鍋の具は白身の魚以外に、エリンギ、えのきなどのキノコ類、そして春菊などである。出汁は昆布だ。こちらの締めはうどんである。 「うどんに絡まってちょうどいい辛さね。カントは雑炊が気に入ったみたい」 遊空はほくほくと小鉢に移したうどんを頂いた。 「今日は肌寒いし、冬に鍋はいいわね」 紫上真琴は羽妖精・ラヴィがうどんを食べて喉を詰まらせているのを知り、軽く背中を叩いてあげた。 ラヴィはつかえがとれると水を一口飲んで再び食べ始める。それだけ美味しいのだろうと紫上真琴は思わず笑ってしまうのであった。 ●からくりの鍋と白い鍋 そして四日目。 鍋当番は礼野であったが、今はからくり・しらさぎと一緒に一階を手伝っていた。 『ちゅうもん、ぶたたまおこのみやきいちまい。かいせんおこのみやきにまい。そぅ〜すやきそばににんまえ』 「あいよー」 からくり・しらさぎは受けた注文を板前へと伝える。料理が出来れば卓までちゃんと運んだ。礼野との約束通りに仕事をこなした四日間である。 宵の口になって暖簾を下ろした後、礼野とからくり・しらさぎは後かたづけを仲間達に任せて鍋の用意を始める。とはいえ下拵えは仕事の合間に少しずつ進めてあった。 やがて智塚姉妹と開拓者仲間が二階へとやって来る。 「お待ちしていました。もう少しだけ煮込ませてくださいね」 礼野が作る鍋はもう少しかかるとして、先にからくり・しらさぎの鍋を頂くことに。 『しらさぎ、つくったの♪』 からくり・しらさぎによって蓋がとられる。それは白菜と豚肉の鍋であった。 火麗の常夜鍋とよく似ていたが、こちらはより素直な作り。白菜の隙間に豚ばら肉を詰めるようにして鍋に並べて、水を入れて煮て出来上がりである。 『ぽんず、あります』 からくり・しらさぎは卓のポン酢を手に取った。 「お手軽って点では一番ですよね。そのままなら天儀風、胡麻油を入れれば泰風とちょっと足すだけで味も替えられますし。一番便利なのは、タレや薬味が無くても美味しく食べられるって点ですよね」 礼野はぽんずとは別に胡麻油の容器を指し示す。 「熱いからカントは気をつけてね」 遊空は羽妖精・カントに一声をかけてから食べ始める。カントはいうとおりにフーフーしながら頬張っていた。 「これはお酒が好な方が好きそうなのです☆」 「あら、そうでなくても美味しいわよ」 智塚姉妹は小鉢二杯目を頂き、三杯目をもらおうとして我に返った。礼野の鍋がまだであったと。 礼野の鍋が完成して蓋が開けられる。 「白い、白いわ‥‥」 「真っ白なのです」 智塚姉妹の呟き通り、礼野が作った鍋の中身は白で埋め尽くされていた。 「ジルベリア風の牛乳味鍋です」 礼野はこの鍋の作り方を説明してくれる。 小麦粉に少しずつ冷たい牛乳を入れて伸ばして味の素を作る。焼き目をつけた鳥肉、薩摩芋、馬鈴薯、人参、玉葱、蕪をすべて一口大に。薩摩芋の茎も皮を剥いてアクを抜いて使用する。 光奈にお願いして手に入れたベーコンも加えた。当然、白菜は芯も含めてたくさん使う。玉蜀黍の粒は手に入れにくいので自前で用意したものだ。 「茸を入れても美味しいと思いますよ。濃い緑があった方が綺麗なんですけど、今は青梗菜も緑花椰菜もないので、夏場野菜の緑の野菜代わりの芋の茎を入れました」 「朝に牛乳が欲しいっていわれたのでお菓子を作るのかと思っていたのですけど、まさか鍋に使うとは!」 礼野と話す光奈は味を知りたくてわくわくが止まらない。鏡子の瞳も同じ輝きを宿していた。 さっそく賞味。智塚姉妹は言葉なく食べ続ける。 「これは面白い鍋だわね。でもお酒には合うかしら?」 火麗は駿龍・早火に食べさせる。鳴き方からいってとても美味しいようだ。 「牛乳が印象深いですけれど、実は玉蜀黍の味がかなり利いているのです〜♪ こんなに牛乳と玉蜀黍が合うとは‥‥。玉蜀黍といえば焼いてみるしか知らなかったですけど、奥深いのです‥‥」 光奈は小鉢の汁をすべて飲み干してから腕組みをして考え込む。 隣の鏡子はこれでもかと食べていた。ジルベリア風が好みの鏡子にとってこれ以上ない至福の時間であった。 ●そして 「美味しい物一杯食べたら体動かさないと大変なことになりそうだからね。はい、では行きましょう」 五日目の朝、遊空を先頭にして全員が安州の砂浜を走り込んだ。 遊空は毎朝運動していたのだが最終日は全員で行う。その中にはもちろん智塚姉妹も含まれていた。 「そんなに大声で応援しなくても大丈夫だから。ね?」 羽妖精・カントは飛びながら遊空を励ます。どうやら指導役のつもりのようである。 「ほっぺた、プニプニになってきたら注意なのです‥‥。実は今プニプニなのです‥‥」 「光奈さんはまだいいじゃない。私なんて‥‥いえいえ、とにかく走り込みますわ!」 智塚姉妹の体重はすでに危険域に達しているようだ。 「こういうのも楽しいです。しらさぎもそう思う?」 『みんなとはしる。たのしい』 身軽な格好の礼野はからくり・しらさぎと並んで一番後ろを走る。 「早火も元気だわね」 火麗が沖に目をやると駿龍・早火が上空高くを飛んでいた。 「こういうのも‥‥大切よね。ところでラヴィ、疲れない?」 走る紫上真琴の周りを羽妖精・ラヴィが飛び続けている。どうやら元気が有り余っている様子だ。 全員がよい汗をかいて行水で洗い流す。そして満腹屋滞在最後の手伝いへと取りかかった。 しかし、この朝の走り込みは実質的に無意味なものとなる。何故ならば、最後の晩飯に出されたのは呂が差し入れてくれた高級牛肉を使った牛鍋であったからだ。 美食の魔力に抗うのは難しい。それが秋ならなおのこと。 開拓者の何人かは体重を気にしつつ精霊門を潜って神楽の都へと帰るのであった。 |