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■オープニング本文 朱藩の首都、安州。 海岸線に面するこの街には飛空船の駐屯基地がある。 開国と同時期に飛空船駐屯地が建設された事により、国外との往来が爆発的に増えた。それはまだ留まる事を知らず、日々多くの旅人が安州を訪れる。 そんな安州に、一階が飯処、二階が宿屋になっている『満腹屋』はあった。 満腹屋は昼食の書き入れ時が終わって一旦暖簾を下ろしていた。 「ふむふむ‥‥」 夕方用の仕込み手伝いも終わる。満腹屋の娘、給仕の智塚光奈は店内の椅子に腰掛けてかわら版に目を通す。 「お姉ちゃん、武天のお姫様は苺畑をもっているそうなのですよ。なんと今年は希儀産の苺の苗を手に入れて育てたとか。結構な評判みたいなのです〜」 「興味深いわね。それにしても希儀にも苺があったとは驚きだわ。他にもこちらと同じ野菜はあるのかしら?」 光奈と姉の鏡子はかわら版の話題で盛り上がる。 「希儀は天儀よりも温暖みたいです〜♪ どっちも広いので大まかにいっての話ですけれど」 「それなら今はこちらでいうところの初夏から夏って感じなのかしらね」 「初夏‥‥夏ですか‥‥」 「光奈さん、どうかしました?」 突然腕を組んで考え込む光奈に鏡子が首を傾げる。 (「‥‥ひょっとして希儀ならもう夏の野菜とか果物が手に入るんじゃ‥‥」) 光奈は頭の中で考えを巡らす。 今でも都市部ならば天儀よりも温暖な泰国南部で栽培された一部野菜を季節に先んじて手に入れられる。ただ多くの場合、旅泰などの商売人が需要の高いものを栽培してもらっている状況だ。値が張るのは当然である。 つい最近発見されるまで希儀は無人の地であったという。かつては人が住んでいたはずなので野菜も栽培されていたことだろう。ただ長く放置されていたのも事実で、一度自然に還ってしまっている。それが野菜や果実の質にどれだけ悪影響を与えているのかはわからなかった。 「よし! お姉ちゃん、わたしはやるのですよ〜♪」 「え? 何をですの?」 立ち上がった光奈は鏡子に決意を告げる。そして父親が仕事をしている二階への階段を駆け上った。 父親を説き伏せてから光奈が向かった先は開拓者ギルド。 希儀冒険の旅の手伝いを頼むためである。光奈は飛空船に乗り、夏の野菜や果物を手に入れて天儀へと持ち帰るつもりでいた。 朱藩安州はカブキ者の興志王が統治する土地だけあって初物には敏感。飛空船いっぱいに持ち帰れば商売になると踏んだのだ。宣伝も兼ねているので赤字にさえならなければそれでよかった。 「この欄に名前を‥‥っと♪」 うきうきしながらギルドで手続きを済ます光奈であった。 |
■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
フラウ・ノート(ib0009)
18歳・女・魔
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
十野間 月与(ib0343)
22歳・女・サ
三条院真尋(ib7824)
28歳・男・砂
遊空 エミナ(ic0610)
12歳・女・シ
火麗(ic0614)
24歳・女・サ
紫上 真琴(ic0628)
16歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●希儀の大地 青い空に白い雲。 いつも見ている景色のようでそうではない。 智塚光奈と開拓者八名は二隻の飛空船に分かれて希儀の上空を飛んでいた。人の姿に近い朋友達も操船を手伝っての往路である。 「んー。問題は年月の影響で、野菜とそれ以外の植物と見分けがつくか、なのよね‥‥」 「あの辺りが面白そうですね。あれなんか灌漑の跡じゃないですか?」 フラウ・ノート(ib0009)と雪切・透夜(ib0135)は一番見晴らしがよい甲板で地上の様子を観察していた。 ちなみにフラウの朋友、猫又・リッシーハットはぐだっと寝転がりながら猫心眼で探すふりの真っ最中である。何やら協力することで食事のおかずを増やしてもらう約束をフラウと交わしたようだ。 「ちょっと気になったんだけど――」 フラウが伝声管で操縦室の光奈へと意見を伝えた。 雪切透夜はそのまま地上を眺め続ける。そんな雪切透夜の肩をからくり・ヴァイスが後ろから軽く叩いた。 『時折、主は騎士よりも学者や絵師の方が向いているのではと思うのだが‥‥随分と楽しそうだ』 雪切透夜がヴァイスへとふり返って答える。 「これだけの場所だもの。それに、落ち着いて希儀にくるなんてなかったし。ふふ‥でも、そういうヴァイスも楽しそうだけど? わくわくしているんじゃないかな?」 『‥‥さて、な‥』 ヴァイスがぷいと横を向いた時、船外にも聞こえる大きなラッパ音が鳴り響いた。並行して飛び続ける一隻にも聞こえるように。 それは着陸準備の合図。依頼者である光奈はフラウと雪切透夜の意見を採り入れて、この辺りの探検を決めてくれたようである。 小高い空き地へと飛空船二隻が静かに着陸を果たす。複数の乗降口が開いて次々と下船。全員が希儀の大地を踏みしめた。 「行け行けぇ〜智塚探検隊なのです〜♪」 ちょっと浮かれ気分の光奈はジルベリア風の真っ白な服に着替えていた。担いでいる荷物の他に護身用の銃も忘れていない。 「光奈よ。何があるのかわからないから気を引き締めろよ」 「わかっているのですよ〜♪」 店で働いている銀政も同行している。彼は氷霊結が使える巫女でもあった。 「船倉の雪は少し溶けただけでまだまだ平気。安州に帰るまで十分に持つはずだわ」 「確認、助かるのです☆」 二隻の船倉を見回った三条院真尋(ib7824)が光奈に報告してくれる。 銀政の他にも氷霊結が使える仲間はいるものの、船倉全体を作った氷で冷やすとなれば負担が大きすぎる。そこで高山に立ち寄って多量の雪を積み込んだのである。根野菜の類ならともかく葉物は傷みやすいからだ。 「ちゃんと食べれるか、現地である程度味見の必要はあると思うんです」 「まゆちゃんの言うとおりだね。お腹壊すといけないし、お薬も少し持っていこうかな?」 礼野 真夢紀(ia1144)と十野間 月与(ib0343)は一緒に探検用の荷物点検をしていた。 今回乗ってきた一隻はどこからか光奈が借りたもの。 もう一隻は月与が用意したものだ。 月与曰く、救護活動や物資の補給活動等の後方支援向けの内装が施された商用小型船であるという。小隊『アルボル』と『縁生樹』で使われているらしい。 「二隻で来てよかったって思えるぐらいにたくさん採れるといいよね。どんな夏野菜があるのかなー。とうきびないかな、とうきび。あと、桃とかスイカ、ほうれんそうなんかもあるといいなあ」 「私は夏物で特に好きなのは枝豆とトウモロコシとモモかな。それにしても依頼人さんはよく夏先取りって考えたなあ、流石商人」 紫上 真琴(ic0628)と遊空 エミナ(ic0610)は二人して周囲の茂みを興味津々に覗き込んだ。 そこに広がっていたのが、ほうれん草の群生。まさかこんなに早く見つかるとは考えておらず、紫上真琴と遊空は目を丸くして驚いた。 「ほうれん草‥‥。糠漬け、それとも醤油漬けがいいのかしら‥‥」 火麗(ic0614)はさっそくほうれん草を漬物にしようと考える。光奈に頼んで飛空船には糠と塩、醤油や味噌を大量に積み込んである。 漬物は長く伝わる生活の知恵。火麗の他にも漬物作りに賛成の者は多かった。 ほうれん草は元々アクが強く苦みが強いので質の良し悪しがわかりにくい。全員で採取して近くの川で綺麗に洗う。葉に虫食いの跡はあったものの、それは毒性がない証拠ともいえた。 まずは湯がいてお浸しにし、昼食として炊きたて御飯と一緒に頂いてみる。 「このほうれん草おいしいね♪」 さっそくの手応えに紫上真琴は笑顔でお浸しを頬張った。羽妖精・ラヴィにも食べさせてあげる。 「充分なお味ですの。バターと塩漬け肉があるので一緒にソテーにするのもいいかも」 礼野はさっそくほうれん草を使った料理を思い浮かべる。それを聞いていた光奈が涎を垂らしそうになるのもお約束だ。 天儀のものと遜色ないほうれん草の味に探検隊一行は成功の予感を感じる。お腹がふくれたところで飛空船の戸締まりをしっかりして出かける準備が整う。 何かあっても確実に戻れるよう飛空船の着地点から五キロメートル内を決まりにして探検が始まるのであった。 ●野菜続々 火麗は駿龍・早火に騎乗して低空からの探索を請け負う。彼女を除く全員は一緒に地上を歩いた。 「村や集落だった場所の近くに畑があったと思うんですよね」 「希儀は石造りの建物が多いから、きっと残っていると思うんだけど‥‥」 礼野と月与は草木を避けながら人工物を探す。この辺りは草原と森の中間といった感じの風景が広がっていた。 「にょ、にょ、にょろにょろ〜!」 「ん? 何だ?」 足下の蛇に驚いた光奈が銀政の背中に飛びついた。銀政は持っていた棒でささっと蛇を退かす。 猫又・リッシーハットは仕事のフリとして道すがらの樹木に登る。思わず出そうになった欠伸を押し殺しながら瞬きをしていると、何やら櫓らしき構造物が視界に入った。 「今、欠伸しようとしたでしょ」 『ふっ。真面目にしてない、と思ったら大間違いにゃ! あれを見るにゃ!』 フラウに突っ込まれたリッシーハットは猫招きのような格好で櫓らしき構造物を指さす。瓢箪から駒的な活躍ながら役に立った瞬間である。 近づくと確かに櫓のよう。探検隊一行はこの櫓を基点にして周囲を調べることに。 『主、これはなんだ? 地面を覆うように生えていたのだが』 「この葉は‥‥どこにありましたか?」 からくり・ヴァイスが見つけてきた葉を見て雪切透夜が激しく瞬きをする。 その場に向かい、葉の下を探ってみるとごつごつとした深緑の塊が。探し求めていた南瓜がたくさん転がる。 三条院が見つけた一角では雑草の中に太い茎が何十本も空へと伸びていた。 「大分、雑草が混ざっているけれど、これは‥‥きっと野菜だわね。茎ごと抜いたらわかるかしら」 『はい真尋さん』 葱の類だと考えた三条院はからくり・香流と一緒に茎を握って抜き始める。すると土の中から大きな玉がら現れた。どうやらこの辺りはかつて玉葱畑だったようである。 紫上真琴は羽妖精・ラヴィと一緒に茂みの中を歩いていた。 「ラヴィ、森とか緑が濃いところには何か獣が潜んでたりするかもしれないから警戒お願いね」 所々に廃墟が残っていることからいっても、かつては村か集落が存在した地域と思われた。 茂みは徐々に深くなり、二メートルを超える雑草が生える地帯へと突入する。こうなると紫上真琴の身長では少し先も見通せない状態。それでも分け入って先に進んでゆく。 「ふー‥‥」 途中、疲れて見つけた岩の上に座っていると戻ってきたラヴィが膝の上に降りる。 「そ、それ!」 紫上真琴はラヴィの顔を見て声を上擦らせた。 ラヴィは悪戯心で顎に白髭を蓄えていたのだが、肝心なのはその素材。どう見ても剥いていない前のトウモロコシについている白く長いあれである。 飛翔するラヴィを追いかけて辿り着いた先には薄緑の房に覆われた目的の物がたくさん並んでいた。 「とうきび、見つけたよー」 思わず声をあげる紫上真琴。とうきび、またはトウモロコシと呼ばれる野菜を発見した瞬間であった。 その時、礼野と月与も別所で喜びの声をあげていた。ピーマンとも呼ばれている甘唐辛子を発見したのである。 「これと、筍、牛肉の細切りを炒めて甘辛い味付けをすれば泰国風の料理に仕上がるはずなんです」 礼野は丁寧に甘唐辛子を枝からもぎとる。とても見事で自然繁殖のものとは思えない出来映えだ。 「まゆちゃん、よかったね。確か牛肉も在庫の中にあったはずだし、タケノコも水煮があったような‥‥」 「夕食に一品、作りますの♪」 月与は採った甘唐辛子を籠に仕舞う。 (「今はいいけど天儀に持って帰る時には潰れないよう木箱に並べないとね」) 安州に持ち帰るときのことを深く考える月与である。 礼野と月与が作業中、からくり・睡蓮は周辺警戒を担当。からくり・しらさぎは別の野菜がないかを探しに回った。 『これ、おぼえてる。だからもってきた』 しばらくして礼野と月与の元に戻ったしらさぎは緑色の小さな房を手のひらに載せていた。 「これってどう見ても枝豆よね‥‥」 「その通りですの。大豆の若マメ、つまり枝豆ですの」 「お酒の摘みにぴったり。夏の先取りにちょうどよさそうだね」 「少し分けてもらおうかな」 月与と礼野はしらさぎに案内してもらい、大豆の自生地へと足を運んだ。睡蓮はしらさぎと一緒に先を進んで歩きやすいように茂みを掻き分けてくれる。 茂みを抜けると枝豆として食べ頃の大豆の育った苗が一面に広がっていた。そういえば行きの船内で遊空が枝豆を食べたがっていたと二人は思い出す。 その頃、フラウと光奈、銀政も別の畑らしき場所へと辿り着いていた。 「な、なんだか宝の山に遭遇してしまった気分になっているのですよ!」 光奈がびびってしまったのも仕方がない。目の前には三種類の野菜がまとめて自生していたのである。形は歪ながらトマト、キュウリ、大根がたくさん育っていた。 「奇跡的だな。壊れていないなんて」 銀政は未だ水を豊富に流している灌漑に驚いた。 「こんなことってあるのね」 灌漑を覗き込んだフラウは杖代わりの『エンシャントスタッフ』を水の流れに刺し込んだ。灌漑の底では溜まった落ち葉が溶けかかっていた。自然の肥料である。 無人であるにも関わらず、この辺りの土地には肥料入りの水が供給され続けていた。 「うううっ‥‥」 何だか感動してしまった光奈はぽろぽろと涙を零すのであった。 ●空から 駿龍・早火を駆る火麗は出来るだけ低空を飛んで周辺地域を探っていた。 地上からでなければわからないものもあれば、逆に空中から俯瞰しなければわかりにくい場合もある。 「あそこなら根付いた魚がいるかも知れないわね‥‥鮎がいれば‥‥」 火麗は視界に入った滝壺を眺めながら夕食用に川魚の一品があればと思い浮かべる。 ふとすぐ近くに視線を移して別の何かを発見した。雑草に浸食されていたものの、地面低く緑広がる畑らしき土地をだ。 着陸して間近で確認すれば一目瞭然。ここはかつての西瓜畑。全体に小振りであったが、中にはちゃんと大きく育っている玉もある。 「初夏の西瓜なら高値がついてもおかしくはないよね」 さっそく中くらいの西瓜玉を割って一囓り。生ぬるいがちゃんと甘みがあって申し分ない。おそらくどの西瓜も美味しいはずである。 駿龍・早火にも食べさせてあげていた時、火麗の目の端で蜻蛉が横切った。 「蜻蛉?」 いくら温暖でも蜻蛉は早すぎるだろうと思い直した火麗は振り向いて目を凝らす。 蜻蛉の正体は遊空が連れている羽妖精のカントであった。 「エミナも近くにいるのかしら?」 火麗はカントにも西瓜を食べさせてあげながら訊ねた。遊空は疲れたせいで休憩しているらしい。その後、遊空の元へと案内してもらう。 「ここにいたのね。あたしはあれを見つけたよ」 火麗は駿龍・早火の背中に積んだ西瓜を指さす。 「私はこれだね。枝にたくさんなっていて嬉しくてこんなにたくさん」 遊空は足下の籠を傾けて中の桃を火麗に見せた。 遊空と火麗は果物を交換して互いに試食しながら休憩する。そして滝壺を見つけたので釣りをしていこうということに。 駿龍・早火に二人乗りして滝壺の水辺へと飛んだ。 「カント、上手く釣り上げられるようにフェアリーダストお願い」 遊空は羽妖精・カントの幸運の光粉を浴びながら釣り竿を掲げる。釣り糸の先には自分の毛を使った疑似餌がつけられていた。 さっと滝壺へと投げ込むとすぐにアタリがある。釣り上げると元気にしなる魚が。残念ながら鮎ではなかった。後でわかるがトラウトと呼ばれる魚だ。 「これはこれで美味しそう‥‥」 とはいえさすがに川魚を生で食べるのは控える。火麗は持ち帰って塩焼きにして食べることにした。 「あ、本当にお魚釣りしてるんだ!」 紫上真琴も滝壺の水辺に現れる。近くを飛んでいた羽妖精・ラヴィが釣りをしている遊空の姿に気づいたらしい。 全員分のトラウトを釣り上げると三人は朋友達と一緒に仲間の元へ戻るのであった。 ●舌鼓 「す、すごすぎるのですよ〜♪」 現地での探検一日目だというのに素晴らしい結果で光奈は大いに喜んでいた。 夕食には現地の食材で作られた料理が多く並ぶ。さすがに全部は食べきれないので日持ちするものは後日に回された。 得られた食材はほうれん草、玉葱、トウモロコシ、ピーマン、枝豆、トマト、キュウリ、大根、西瓜、桃。おまけでトラウト。 作られた料理は泰国風の筍、ピーマン、牛肉の炒めもの。ほうれん草と塩漬け肉のバター炒め。トラウトの塩焼き。塩ゆでの枝豆など。デザートに冷たく冷やさされた桃と西瓜が用意された。 火麗、遊空、紫上真琴はトラウトの塩焼きを前にして今か今かと待ちわびる。 「では頂きます〜♪」 光奈の食事の合図と共に火麗は串ごとトラウトを丸かじり。 「お酒と一緒に最高!」 火麗は豪快にトラウトの味を楽しんだ。 遊空も同じように囓ろうとしたところ羽妖精・カントに止められる。 「え、大ざっぱ過ぎだからもっときれいにって? カントお母さんみたい、火麗さんみたいに思い切りかじりついた方が絶対に美味しいって、ね?」 いくら反論しても首を横に振り続けるカント。根負けした遊空はお皿で身をほぐしながら食べることになった。 「はいはい、カントにも食べやすい大きさにするからちょっと待って」 どうであれ、仲が良い遊空とカントである。 「川辺で食べたかったけどこうして食べられるからいいよね。ラヴィ、お魚食べる?」 紫上真琴と羽妖精・ラヴィも一緒にトラウトの塩焼きを楽しんだ。一緒に口の中へトラウトの身を放り込み、もぐもぐと。 紫上真琴は調理前に一通りの食材を囓って毒味役をしていた。いざとなれば死毒の技で回復が容易だからである。本日手に入れたものの中に毒性のある食材はなかった。 「こうすると美味しいってご近所さんから教えてもらっちゃった」 遊空はパイ生地包みのトウモロコシと枝豆に挑戦する。どちらも茹でた中身を挟んで焼いたものだ。 「甘くて美味いね」 「甘いー。ラヴィ、すぐあげるからね」 火麗と紫上真琴にも好評。他の仲間達もたくさん食べてくれた。 礼野と月与はお喋りを楽しみながらすべての料理の味を確かめる。 「どれも味は大丈夫みたいですね。ちょっとクセがあるのもありますけど」 「どうやって持ち帰るかの方が心配かな」 「飛空船といえば行きはしらさぎと一緒に見学させてもらいましたけど、帰りは少し操縦させてもらえます?」 「まゆちゃんなら大丈夫♪ あたしが側にいるから安心してね」 泰国風の炒め物が極上の仕上がりになって礼野は大満足だ。後は茄子を手に入れてもう一つの泰国風料理を作りたいと考える。麻婆豆腐ならぬ麻婆茄子というらしい。 光奈が食べたがっていたので月与と二人してトウモロコシを七輪焼きする礼野であった。 雪切透夜と三条院は是非見つけたい食材についてを談義しながら夕食を頂いた。 「柑橘や葡萄、ナッツの類は見つからなかったから、明日はこれらを重点的に探してみますか」 「私はナス、胡瓜やズッキーニを探すつもりね。茗荷や生姜、大蒜辺りの味も夏にはかかせないわね」 二人が話す横でからくりのヴァイスと香流も試しに料理を少しずつ口にしていた。食べる必要はないものの、そういうことは可能である。 『まさかここで魚が食べられるとは‥‥うまいにゃ』 猫又・リッシーハットがトラウトの塩焼きにがっつく横で、フラウは光奈と一緒に料理を楽しんでいた。お腹一杯といいながらデザートタイムにはちゃっかり突入する。 「っとその前に♪」 光奈は礼野と月与が作ってくれたバター醤油味の焼きトウモロコシを一口頂いた。半分に割ってフラウにもお裾分け。 「これ大人気になると思うのですよ〜♪」 「途中で天儀産や泰国産のトウモロコシに切り替えたら、夏の終わりまで提供できそうですね」 光奈とフラウの意見は一致。 「とうきび、美味しそうー」 焦げた醤油の香りに惹かれて紫上真琴が光奈とフラウの卓に移ってくる。 「トウモロコシを見つけてくれてありがとなのです☆」 光奈は最後の焼きトウモロコシ一本を丸々紫上真琴に食べてもらう。しばらくトウモロコシの調理法の談義を楽しんだ三人だ。 焼きトウモロコシの後は冷やした西瓜と桃。 お腹を壊しはしないか心配しながらも食欲は抑えきれなかった。量は控えめにしたものの光奈はどちらも完食するのであった。 ●そして 二日目と三日目は成果が殆どなかった。 「皆のデザートにもう一品追加よ」 四日目。三条院が飛空船から見つけたオレンジを皮切りに一日目と同じような収穫の嵐となる。 気になっていたオレンジ、レモン、葡萄、ナッツ類、ナス、胡瓜、ズッキーニ、茗荷、生姜、大蒜がすべて手に入る。その他にも獅子唐やらっきょう、よくわからないが食べたら美味しかった葉物野菜も。香辛料の元もいくつか。 量的にすべてを天儀に持ち帰ることは適わず、選択を迫られる贅沢な状況となった。五、六、七日目はこれまでの発見場所を回り収穫することに費やされる。 保存が効くものは構わないとして、生鮮品に関しては凍らないよう注意しながら雪の冷気が利用された。短時間の輸送の際には銀政や礼野の氷霊結が活用される。 また礼野、三条院、火麗が率先して漬物が作られた。 樽に糠、塩、醤油、味噌などの準備は万端。 樽については月与が用意したヴォトカや酢で綺麗に拭かれる。こうすることでよい漬物が出来るようだ。 作業そのものは収穫と並行して行われ、復路の間も一日だけ費やされる。 釣られたトラウトは作りやすさからその殆どが甘露煮に加工された。 「何をしているのです?」 「装飾品のデザインにしようと思ってね。出来たら光奈にも見せてあげるね」 紙の束を手にした紫上真琴が野菜や果物をスケッチしていた。窓際に並べられた野菜達からはどこかかわいらしさが感じられる。 安州の地に戻って探検の旅は無事終了。 「これ夏に活用してもらいたいのです〜♪ 持っている方もいるはずですけど、大分傷んでいると思うので♪」 光奈は最後にかき氷削り器を開拓者達に贈った。その他にも希儀の食材や加工品をたくさん。但し、日持ちはしないのですぐに消費しなければならない。 楽しい思い出を胸にして開拓者達は精霊門で神楽の都への帰路に就いた。 翌日から満腹屋では希儀の食材を売りにした宣伝が行われる。満腹屋には多くの客が並んだという。 |