新型銃と蜂 〜興志王外伝〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 9人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/05/28 16:51



■オープニング本文

 天儀から離れた希儀には拠点といえる場所が二カ所存在する。
 一つは宿泊地『明向』。そして南部の海岸に面した『羽流阿出州』だ。どちらにも精霊門は建設済みで開拓者達への便宜が図られている。
 土地の配分については朱藩の興志王と武天の巨勢王の間で話し合いが進行中だ。理穴と理穴も武天と交渉して土地を手に入れるのではとのもっぱらの噂である。
 興志王は希儀の開拓そのものに力を入れていた。
 飛空船で天儀と希儀を往来する商人達の税の減免。小規模な商売人からは今のところ徴収していない。
 そして開墾の奨励。移住者達は手に入れた土地に新たな作物の種や苗を植える。まだまだこれからだが希望が眠る土地こそが希儀である。
 だが不安定要素も。大きなものとしてはケモノとアヤカシだ。
 ケモノは必ずしも人の敵ではない。荒くれている故に退治を決断をしなければならないときもあるが、落としどころを探って話し合いで解決する場合もある。
 一番の問題は天儀と同じくアヤカシの存在といえた。人の流入によって活発化しつつあったからだ。
 移住者達は自警団を組織し、時には開拓者を雇ってアヤカシを排除していった。だがそれでも足りない時には陳情が行われる。
「これだけで一日仕事だな」
 朱藩安州の城にて興志王は陳情書のまとめを眺めていた。配下の者が整理したものであり、今は希儀の案件に目を通す。
 すべての陳情を聞いていたらきりがない。しかし捨ててはおけないものもある。
「希儀で蜂のアヤカシの発生か。脅威には違いないだろうが、それほどのものとは思えねぇ。ギルドに依頼すればよさそうなものだが」
 興志王は掴んだ鮨を口に放り込むのをやめて眉をひそめる。
「‥‥だが気になるな。陳情書そのものを見せてくれ」
 興志王が鮨を胃袋に落としている間に配下の者が当の陳情書を差し出す。
「巣を作り始めているのか!」
 頁を捲った興志王は呻ったあとで声を荒らげた。
 アヤカシは蜂そのものの生態を模しているようである。おそらく蜂の巣は瘴気の塊であり、中はアヤカシが発生しやすい状態が保たれるのであろう。
 今のところは甚大な被害はまだ。しかし今後の被害拡大を考えれば捨てておく訳にはいかない。
(「だが‥‥」)
 興志王は考え込んだ。
 派兵中の朱藩軍部隊は希儀内の巡回警備だけで手一杯。他が手薄になってしまう影響を考えれば、なるべく蜂アヤカシ退治に人員を割きたくはなかった。
「あれがあったか‥‥。蜂退治にはちょうどいいな」
 興志王は思い出す。
 つい先程完成し、ある程度の量産の目処がついた新型銃のことを。
 それは爆連銃。
 シュベリアジュウとも呼ばれるもので四発までの銃弾をまとめて装填出来る画期的なものだ。開拓者達の協力によって完成にこぎ着けたものである。
 志体持ちにしか扱えない弱点はあるものの、その連射能力はこれまでの銃と比較して驚異的といえた。
「アヤカシ蜂の大きさは男の手のひらぐらいか‥‥。地面に落ちた一匹を大人五人が囲んで叩き倒したとあるな。なら一匹一発で確実に倒せるだろう」
 蜂の巣が作られている大樹は川沿いの平原に聳えているという。畑を作るのにはもってこいの土地である。
 蜂の巣の大きさは直径十メートルにも及ぶようだ。まだ作っている途中で日に日に大きくなっているらしい。
 蜂アヤカシの数は推定で八十匹前後のようだが、これもまだまだ増える傾向にある。
 興志王は爆連銃で蜂と巣を掃討すべく開拓者ギルドに協力を求めるのであった。


■参加者一覧
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
メグレズ・ファウンテン(ia9696
25歳・女・サ
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
長渡 昴(ib0310
18歳・女・砲
ニクス・ソル(ib0444
21歳・男・騎
十 砂魚(ib5408
16歳・女・砲
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲
セフィール・アズブラウ(ib6196
16歳・女・砲
津田とも(ic0154
15歳・女・砲


■リプレイ本文

●丘
 ここは希儀の草原。ゆったりと流れる川面が続く大地。
 興志王と開拓者一行は飛空船を降りて、約一時間をかけて朋友と共にここまで徒歩でやって来た。
「ここがそうか」
 一番に丘を登った興志王は眼下に広がる景色を眺める。
 遠くに点々とする森は川の恵みによるものだろう。大地に残る洪水の跡が気になるものの、支流を含めた川の治水工事を行えばよい。その上で本格的に開墾すれば希儀における食料自給がかなり改善されるはずである。
「あれか‥‥」
 興志王が凝視したのは遠くに聳える一本の大樹。
「間違いありませんね。あれが依頼にあった蜂アヤカシの巣でしょうね」
 ジークリンデ(ib0258)が取りだした望遠鏡で確認した。大樹の枝と幹を取り込むように張り付いている歪な瘤のような巣がある。
 大きさについては距離があって比較物も少ないので非常にわかりにくい。
 飛び交う蜂アヤカシが成人男性の手のひら程度の大きさと仮定して大樹の幹の太さは四か五メートル。だとするならば巣の部分は事前の情報でいわれていた直径十メートルでは収まらない。二十メートルはありそうだ。陳情者の目撃からこれまでの間に育ってしまったのだろう。
「蜂が飛んできたぜ」
 ルオウ(ia2445)は仲間達に伏せるよう促しながら、迅鷹のヴァイス・シュベールトを高く飛び立たせた。
 囮となったヴァイスは蜂アヤカシの注意を引いてくれる。追いかけてくるようになると丘から離れるように誘導した。ヴァイスが本気になって上空まで羽ばたければ蜂アヤカシはついて来られないので簡単に逃げられる。
 丘から大樹までは百メートル前後の距離。
 全員に支給されている爆連銃の射程は五十メートルなので、さすがにここから直接は狙えない。まずは蜂アヤカシの全数を減らすべく狙撃の準備に取りかかった。
「ふむ‥‥」
 ニクス(ib0444)は爆連銃を手にしてあらためて眺めてみた。
 爆連銃そのものは羽流阿出州の精霊門近くへ集合した際に受け取っていたが、すぐに移動になってしまったため、じっくりと確かめる時間がなかったのである。
「ここまで出来ていれば量産も間近だと思うが‥‥これはコストがどれくらいかかるものなのだろうか‥?」
「それなりにはかかっているな。だが万商店にも少しは出回ると思うぜ。何せ、志体持ちしか扱えねぇ代物だからな」
 ニクスに答えながら興志王も爆連銃の各部点検を行う。一度に込められる弾数は四。弾倉でまとめて交換する構造のおかげで以前の銃砲よりも素早い射撃が可能になっていた。
「なるほど‥‥これは面白い」
 長渡 昴(ib0310)は何度も弾倉を取り付けては外すのを繰り返す。
 次に立射、座射、腹射と構えてみた。朱藩銃を基礎にして改良されたと興志王がいっていたのは納得である。ジルベリアの工作技術もかなり使われていた。
「射程ぎりぎりから狙おう」
 津田とも(ic0154)は草の上へと俯せになり、腹射にて爆連銃を構えた。しばらく待つと一匹のみの蜂アヤカシが視界に入ってくる。
 巣にはどれだけの蜂アヤカシが潜んでいるのかわからない状態。手探りで様子をみる必要があった。
 興志王の目論み通り、津田ともが放った爆連銃の初撃のみで蜂アヤカシ一匹は完全消滅。一瞬で瘴気の塵と化す。
「蜂アヤカシを撃ちもらさなければ巣の仲間に気づかれることはないでしょうね」
「それだけは避けなければいけません」
 メグレズ・ファウンテン(ia9696)とセフィール・アズブラウ(ib6196)のやり取りに興志王が深く頷いた。
「そうだ。蜂の奴らが個をいちいち認識し合っているとは思えねぇが、何らかの方法で通じているのかも知れねぇ。ぎりぎりまで俺達の存在を蜂全体に悟らせねぇようにしねぇとな」
 興志王は出来るだけ複数名で同時に蜂アヤカシを狙うよう作戦を指示した。こうすることで確実に倒していこうと。
「苦労した甲斐がありましたですの。基本的に、この前の試作品と大きな違いは無いみたいですの。‥‥でも握りやすいし構えやすいし、改良もされているようですの」
 十 砂魚(ib5408)は丘に至るまでの道中で弾倉が空になる四発の試射を終えていた。その時の手応えは充分なものだ。
「そうなのか! この爆連銃で蜂アヤカシをやっつけるのだぜ!!」
 叢雲 怜(ib5488)は十砂魚と一緒に茂みに分け入る。
 丘全体に散開して背の高い雑草の中に隠れながら、巣から飛び立った蜂アヤカシの到来を待つ。
 自然に射程内へ入ればよし。そうでない場合には朋友の何体かが囮になってくれる手筈になっていた。
 やがて十砂魚と叢雲怜の射程内に蜂アヤカシ二匹が飛んできた。
 爆連銃の連射と火力の能力なら確実に倒しきれる。それぞれ一発ずつで二匹の蜂アヤカシを倒しきった。
 それから十分後。
「妙な動きをしていますの‥‥」
「本当だ」
 十砂魚と叢雲怜は蜂アヤカシ二匹を倒した周囲に別の個体が集ったのを確認する。おそらく瘴気回収をしているのだと思われた。
 瘴気回収の個体を倒すべきか悩んだ二人であったが、蜂アヤカシの生態を確かめるためにわざと見逃す。
 蜂アヤカシが集団で失踪の仲間を捜索するのではと待ち続けたが遠方の巣は静かなまま。瘴気がかつての仲間を象っていたものかどうかは判別出来ないようだ。
 十砂魚と叢雲怜は集合の際、仲間全員に伝えるのであった。

●少しずつ
 爆連銃の射程は五十メートル。射程内に入って蜂アヤカシを逃さずに仕留められると判断したのならば誰もが躊躇わずに引き金を絞る。
(「爆連銃、なかなかのものだな。んっ? 今度は一度に三匹か‥‥多いな」)
 ニクスは三十メートルの距離まで蜂アヤカシが接近すると照準で追いかけた。実際に撃つのは二十メートルにまで迫ってから。
 理由は簡単。発見の蜂アヤカシの周囲に殲滅仕切れない個体が潜んでいないかを心眼で確認してから倒すためだ。十メートル分の範囲はそのための安全圏である。
 ニクスが掲げた手の握り方で確認済の蜂アヤカシ数を合図する。離れた位置にいたメグレズとジークリンデは茂みからわずかに顔を出してそれを確認。逆にニクスへと共闘の合図を手の握りで示す。
(「東は私が」)
 メグレズが東側の蜂アヤカシに銃口を向けた。
(「中央は任せてください」)
 ジークリンデは中央の蜂アヤカシを的とする。
(「なら西は俺だな」)
 ニクスは西側に狙いを定めた。
 蜂アヤカシは本物のように空中を縦横無尽な飛び方をしていた。それ故に時には射撃を外すこともある。それでも焦らず、開拓者達はあらためて引き金を絞った。
 弾数の余裕は心の余裕ともいえる。余計な緊張を生まずに常に殲滅の結果が刻まれていった。
「女王蜂を倒すときにはリロードが重ならないようにすれば絶え間ない銃撃ができるのだ。どうだろうか、興志王よ」
「それはいいな。よし、砲術士はそれでいこうか」
 この時の叢雲怜は興志王と一緒に行動していた。
 時には急接近してきた蜂アヤカシを埋伏りでやり過ごしながら機会を狙う。そっと茂みから伸びる二つの銃口に閃光が纏う。蜂アヤカシを確実に散らしていった。
 それなりの数を倒し、自然に射程内へと入る蜂アヤカシが少なくなってきた頃から囮の出番となる。
「いいな? 蜂アヤカシが追いかけてきたらすぐもどってくるんだぞ」
 ルオウは迅鷹・ヴァイスに言い聞かせてから空へと放つ。しばらくして二十匹の蜂アヤカシを連れてきた。
「お願いします‥‥無理はしないよう」
 セフィールの朋友である猫又・クロさんも出陣。
 茂みに潜みながら針千本による輝く針を一匹の蜂へと放つ。飛び交う蜂アヤカシ二十匹のうち針を刺した個体を含む六匹の気をひいて草の間を駆け回る。出来るだけ巣から遠ざかるように。
 周囲には多数の仲間が爆連銃を手に待機していた。かといって一匹たりとも逃す訳にはいかない。ギリギリまで引きつけてから引き金を絞る。
(「一匹‥‥‥‥二匹‥‥三匹‥‥」)
 津田ともは硝煙を漂わせながら次々と蜂アヤカシを瘴気へと還元してゆく。
(「これなら容易い」)
 長渡昴が構える爆連銃の動きには無駄がなかった。
 一匹の蜂アヤカシに銃弾を叩き込むと、よどみなく次の標的へ銃口を移動させる。自分が倒すべきと感じた蜂アヤカシを逃さず仕留めていった。
「散らしてもらえたのはとても助かりますの」
 十砂魚はセフィールと共に囮となった猫又・クロを追いかける蜂アヤカシを標的とする。
 通常は縦横無尽な動きをする蜂アヤカシでも何かを追いかける時には最短距離を選ぶようだ。なだらかに等速で飛行する相手なら照準をつけやすい。
 十砂魚が撃つ度に蜂アヤカシが消しとんだ。セフィールも負けてはいなかった。蜂アヤカシが猫又・クロさんを傷つける前に二人は六匹を倒しきる。
 その頃、ルオウは『金剛の鎧』によって迅鷹・ヴァイスと同化していた。
「へへっ! 頼むぜぇ新型ぁ!」
 輝きを纏うルオウを蜂アヤカシが尻の針で狙う。しかし『隼人』での動きによって蜂アヤカシの体当たりをすり抜けながら射撃。四発を撃ち尽くして二匹を倒す。
 この時のルオウは結果的に囮となっていた。叢雲怜と興志王がルオウに迫る蜂アヤカシを粉々に。
 この時、興志王と開拓者一行が倒した蜂アヤカシは計十九匹。残り一匹は臆病なのか戦いの途中から茂みへと隠れる。
「あそこに!」
 長身のメグレズが発見した時、残り一匹の蜂アヤカシは一同がいた場所からすでに五十メートル以上遠くを飛んでいた。
「任せてください‥‥」
 セフィールが岩の上に立って長銃を構える。
 手にしていたのは爆連銃ではなく自前の『マスケット「シルバーバレット」』。射程が長いのが特徴の銃である。
 セフィールは蜂アヤカシが帰巣する前に叩き落とすのであった。

●女王蜂
 戦いの合間、興志王は弾倉を交換しながら思考を巡らす。
 普通の蜂は日暮れ前には巣へと帰るもの。蜂アヤカシが似たような生態かどうかはわからないが、その可能性は非常に高い。
 問題はおそらく巣の中で鎮座しているはずの女王蜂アヤカシである。
 下っ端の働き蜂アヤカシよりも知能が高いのであれば、さすがに仲間の減少に気づくはず。
 怒り狂い、もしも衝動的な命令を配下に出したとしたら、こちらとしてはたまったものではない。負けはしないだろうが大量の数で捨て身で来られると無傷では済まされないからだ。
「蜂の残りの正確な数はわからねぇ。だが俺は当初目標の五十まで減らせたと考える。問題は時間だ。明日に持ち越しとなれば――」
 興志王は開拓者全員を一所に集めて意見を求めた。積極的な賛成と消極的な賛成がすべてを占めて反対はない。興志王は直接攻撃を決断する。
 今は暮れなずむ頃。時間はあまり残されていなかった。
 空中からの突撃を試みる班は四名。滑空艇のジークリンデ。炎龍・リョウゲンの長渡昴。炎龍・風月の十砂魚。叢雲怜の炎龍・姫鶴。
 地上の戦力も多彩である。
 興志王はそのまま。セフィールとルオウはそれぞれの朋友を引き連れて。メグレズは瞬に騎乗。ニクスと津田ともはアーマーを起動させる。
 立ち上がった興志王が爆連銃を高く掲げた。それを合図にして突撃が始まった。
 空からは龍と滑空艇。地上からはアーマー。どちらも目立つのを構わずに蜂アヤカシの巣を目指す。
 ルオウ、セフィール、メグレズ、そして興志王は五十メートルの射程に入ったところで援護射撃。弾倉四発を撃ち尽くしたところで即座に交換。いつでも撃てる状態にしてから巣まで走った。
 メグレズだけは霊騎・瞬の背に跨り、蛇行しながら進んだ。目立つことでまだ辺りを飛んでいるかも知れない蜂アヤカシの囮になってくれたのである。
 真っ先に巣の近くへ到達したのは空中班の者達だ。
 長渡昴は炎龍・リョウゲンの背に跨ったまま、巣穴から出入りする蜂アヤカシを狙い撃つ。
 十砂魚は巣と二十メートルの距離に置きながら炎龍・風月を着地させた。そして風月の背中から降りることなく飛び交う蜂アヤカシを仕留める。途中で武器を『マスケット「クルマルス」』に交換する。
 叢雲怜も炎龍・姫鶴の背中から降りずに射撃。爆連銃の四発を撃ちきったところで『マスケット「魔弾」』に切り替えた。
 ジークリンデは滑空艇から草むらへと飛び降りる。仲間の援護射撃の中、魔法の詠唱を開始。ブリザーストームの猛烈な吹雪が巻き起こった。巣の周囲を飛んでいた蜂アヤカシはこれで一掃される。
 吹雪の直後、アーマー二機が蜂アヤカシの巣に辿り着く。
 ニクスが駆るアーマー・エスポワールはアーマーソードを構えながら『迫激突』で巣を激しく揺らした。即座に『ポジションリセット』で立ち上がるとオーラーダッシュで距離をとる。
 その直後、機会を見計らっていた津田ともがアーマー・機構獣で火炎放射。ただし炎が大樹に燃え移らない程度で止めてアーマーから離脱。その後は興志王達射撃班と合流して射撃に専念する。
 巣の周囲から蜂アヤカシを一掃したからといって油断は出来なかった。遠方から巣へ戻ろうとする個体。巣から出ようとする個体がいたからである。
 寄ってくる蜂アヤカシを倒しながら巣の破壊は続いた。
 アーマー・エスポワールは西側から、龍騎の者達は東側から。銃撃や魔法による遠隔攻撃の者達は南から試みる。
 巣は間近で見るととても大きかった。予想の直径二十メートルよりも確実に大きく、また想定していたよりも頑丈な作りになっていた。練力を使い切る前にニクスはアーマー・エスポワールを降りて射撃班に回った。
 空が茜色に染まる頃、ようやく巣の半分を削り取り終わる。
 その時、突然に亀裂が走った。
 割れ目から顔を覗かせたのはまさに女王蜂アヤカシの風格を漂わせる。人よりも確実に大きな肢体を震わせていた。
「何か来るぞ!」
 興志王の一言で全員が身構えた。百の毒針が飛び散り、同時に花粉のようなものを辺り一面にまき散らす。
 空中班は一旦上昇して回避。
 その他の者達は動かなくなったアーマー二機の後ろに隠れてやり過ごす。盾になると考えた津田ともとニクスが置いてくれたのが役に立つ。
「中に潜ろうとしていますね。そうはさせません」
 立射で構えたセフィールはブレイクショットを放って女王蜂アヤカシが巣の中に戻れないよう周囲を破壊してしまう。
「ここまで巣の除去に手間取るとは」
「倒しきる!」
 ニクスと津田ともはアーマーの背後から身を乗り出して爆連銃による銃弾を女王蜂アヤカシか周囲の巣へと叩き込んだ。
「次なのだ! 倒すのだぜ〜!」
「よし! いくぜぇ!」
 ニクスと津田ともが撃ちきる前に叢雲怜と興志王が交代。常に銃弾に女王蜂アヤカシが晒されるよう隙を与えなかった。
 ルオウとメグレズも連続射撃に参加したが、もうすぐ倒せると手応えを感じたところで別の動きをみせる。
「今のうちだな。よし! 来い!」
 ルオウはここぞと迅鷹・ヴァイスと同化して『金剛の鎧』を纏う。
「それがいいですね。瞬、お願いします」
 メグレズは霊騎・瞬と人馬一体となる。
「冷たさの次は熱さです。これでどうでしょうか!」
 ジークリンデのメテオストライクで完全に巣が崩れ落ちる。凄まじい騒音を撒き散らしながら女王蜂アヤカシが空中へと羽ばたいた。
「いいから落ちろ!」
「しぶといですね」
 ルオウとメグレズは女王蜂アヤカシの攻撃にものともせず銃弾を撃ち続ける。
「今度こそ」
 セフィールは二度目のブレイクショットを女王蜂アヤカシに叩き込んだ。胴の一部が大きく削がれる。
「一撃必殺なのだぜ!!」
 叢雲怜はここぞとばかりに『「嵬」祇々季鬼穿弾』による銃弾を女王蜂アヤカシの額に命中させた。全身に激痛が走る。
「くっ‥‥!」
 撃ち終わったあとで地面につきそうになる膝を必死に抑え込みながら、叢雲怜は空を見上げた。
 頭の三分の二が吹き飛んだ女王蜂アヤカシだが、それでもまだ飛び続けていた。ただ瀕死の様子でふらふらと川の向こう側に輝く夕日へ向かって。
「逃げましたの。風月、追いかけますの」
「これでお終いです」
 龍の背に乗ったままの十砂魚と長渡昴が飛んで女王蜂アヤカシを追跡する。
 狙いを定めて二人同時に放った銃弾が羽根の付け根へと命中。女王蜂アヤカシは草原の茂みへと墜落する。もう動くことはなく辺りに黒い瘴気をまき散らしながら消滅するのであった。

●そして
 蜂アヤカシをすべて倒した興志王と開拓者一行は一晩を巣があった大樹の近くで過ごす。
 疲れてしまったせいもあるが、蜂アヤカシの生き残りがいないかを確かめる意味もある。幸いなことに新たな蜂アヤカシが現れることはなかった。
 ジークリンデが用意した蜂蜜酒で祝う。そして開拓者達は爆連銃の使い心地を興志王に話す。
「そりゃよかったぜ! みんなにも苦労かけたからなぁー」
 弾数を増やすなどの向上案も出たが全体的には好評である。気をよくした興志王はそのまま各自に爆連銃を譲り渡したという。
 翌朝、興志王は狼煙銃を上空に撃ち、遠方で待機中の飛空船を呼び寄せる。しばらくして帰路に就く一行であった。