【希儀】兄弟と新天地
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/11/13 21:35



■オープニング本文

 強風に押し流される飛空船が一隻。
 周囲に浮かぶ雲も留まることなく川の急流のように形を変えて近づき遠ざかってゆく。
「安心するのはまだだ! 北東からの風、正面で受けてくれ!」
「了解だよ、任せて」
 操縦室に響き渡るのは年子の兄弟の声。十五歳の七羽矢吉と十四歳の七羽的吉である。
 快活な兄の矢吉が指示を出し、冷静な瞳を称えた弟の的吉が操船を行う。
 中型飛空船・熊牙号は先頃発見されたばかりの希儀を目指していた。
 熊牙号は武天の商人であった親の形見。母親は存命だが父親は約三ヶ月前、アヤカシに襲われて命を落としていた。
 交易商人を名乗っていた父親だったが大したものではない。実際の商いは地元の野菜を此隅に届けるのみで生計を立てていた。
 それはそれで堅実といえたが、単に商売を受け継ぐだけでは先細りが見えていた。取り引きする相手が徐々に少なくなっていたからだ。
 そんな矢先、悩んでいた七羽兄弟の耳に一つの噂話が入ってきた。希儀発見についてである。
 これぞ天命と受け取った七羽兄弟は母親を説得した上で希儀と呼ばれる新天地を目指すことにする。何が待ち受けているかわからないが、新しい土地ならば商売の種が転がっているはずだと。
 さすがに兄弟二人だけで見知らぬ危険な土地に向かうのは難しいと考え、ギルドで開拓者達を雇う。おかげで飛空船の扱いに慣れた者が多く、とても助かっている現状だ。
 やがて嵐のような強風も収まり、天儀とは違う新たな浮遊大陸が視界に入る。風に流されたせいで現在地がわからなくなった熊牙号は適当に飛ぶしか方法はない。やがて浮遊大陸の海を越えて内陸部へ。ようやく見つけた町らしき人工の建築物が並ぶ遺跡へと着陸を果たす。
 建物はどれも石造り。太く頑丈な多数の白い石柱によって構成された建物が非常に多かった。天儀本島によくある木造建築物はまったくない。
 七羽兄弟は開拓者達と共に遺跡を探索してみた。しかし住人はまったくおらず、生活感も皆無である。
 敵になりそうな存在との遭遇も今のところない。異郷の地では完全なる無人の町が佇んでいた。
「探ってみれば何かありそうだな!」
「人がいないのは不気味だけどきっとあると僕も思うよ」
 七羽兄弟は張り切る。
 まもなく日が暮れて探索は一時中止。翌日に持ち越されるのであった。


■参加者一覧
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
海神 江流(ia0800
28歳・男・志
からす(ia6525
13歳・女・弓
クレア・エルスハイマー(ib6652
21歳・女・魔
緋乃宮 白月(ib9855
15歳・男・泰


■リプレイ本文

●町らしき遺跡
 一行は着陸した中型飛空船・熊牙号内で一夜を過ごす。
 昨日は地上からの偵察が主だった。大雑把なものだったがアヤカシとの遭遇はなく、危険はないと判断される。但し、油断は禁物である。
 二日目となる本日からは基本自由行動で気になる建物へ立ち入っての調査。その前に腹ごしらえとして朝食と弁当作りを兼ねた調理が始まった。
 柚乃(ia0638)だけは七羽兄弟に相談して別行動をとる。
「簡単だけど‥地図を作っておきますね」
「それがあると助かります」
 柚乃は的吉に見送られながら炎龍・ヒムカの背に乗った。大空へと飛び立ち、地図作りを開始する。
 さすがに本格的な地図を作製する時間はない。遺跡の外縁と幅が広い通りをのみを記す。炎龍・ヒムカが滑空を多用してなるべく揺れないように飛んでくれた。
「町ならば‥昔のお墓があってもよさそうなのですが‥」
 お墓らしき区画は遺跡らしき町中には見あたらなかった。
 遺跡外縁を飛行した際、それらしき場所を郊外で発見する。ただ非常に規模が小さかった。遺跡が町だとして人口を想定した場合、とても全員が埋葬されているとは考えにくい。
 熊牙号へと戻った柚乃は食事の際に報告する。食べ終わると仲間に地図を見せて描き写してもらう。
 準備が整ったところで探検開始。各自に気になるところを目指すのだった。

●不思議な石扉
 鴇ノ宮 風葉(ia0799)と海神 江流(ia0800)はそれぞれの朋友を連れて一緒に行動していた。
「さて、と‥探索は苦手だけど、これも後々の為かぁ‥さーて、やりますよっと」
 歩く鴇ノ宮の頭の帽子の上では羽妖精の鴇ノ宮・瑞がくつろいでいる。まるで我が家のような気楽さで。
『ただでは動かないその精神、流石っ! じゃ、ボクは船に戻って寝てていーかな?』
「おい」
 飛び去ろうとした羽妖精・瑞の足をがっしりと掴む鴇ノ宮。すると飛んで帰るなんて面倒なことするわけがないじゃないと羽妖精・瑞が惚けてみせた。
 海神江流が連れていたのはからくりの波美である。
「明らかに人が居た痕跡があるのに人の気配がまるでしないな‥」
 海神江流は道ばたに設置されていた石作りの物体に触れてみる。雨風に耐えてきたそれはどうみても人が座るための長椅子にしか見えない。
『‥石の冷たい感じ‥命を感じない。私と同じ』
「変に悲観すんなよ」
 海神江流にいわれてからくり・波美が石の長椅子に座ってみた。
 あくまで印象としてだが、この地に住んでいた者達は自分達よりも一回り大きな身体をしていたようである。
 鴇ノ宮・海神一行はまず今晩の寝床となる建物を見繕った。
 今が二日目で仲間達との集合は四日目の夕方と決められていたので、今晩は飛空船の外での就寝になるからだ。
 鴇ノ宮の瘴索結界で周囲にアヤカシらしき存在が感じられない、しっかりとした屋根と壁がある建物を今夜の宿代わりとする。
 茣蓙を敷いて準備を整えると、海神江流はからくり・波美に留守番を頼んだ。
「風葉がまた、茶だのなんだの我儘言うだろうから用意頼む。聞こえるはずだから、とりあえずここ宜しくな」
 海神江流はからくり・波美を呼子笛を見せる。
 宿代わりとした建物を選んだ理由はもう一つ。鴇ノ宮が注目する神殿らしき建物がすぐ近くにあったからである。
 海神江流は昨日調べた地図と上空からの地図の両方から鑑みるに、神殿らしき建物は遺跡の中央に位置していた。
『いつでも休めるようにしておくから‥気を付けて』
 からくり・波美に見送られながら、鴇ノ宮、海神江流、羽妖精・瑞は神殿らしき建物へと向かう。石畳の広い通りから長い階段を登って内部へ踏み入れると、真っ先に屋根を支える石柱の並びが目に付いた。但し奥は暗くてすべてを見通すことは適わない。『瘴索結界』と『心眼「集」』では特にアヤカシらしき濃い瘴気は感じられなかった。
「奥を探るか」
 鴇ノ宮が呼び出した『夜光虫』は探検にはうってつけのとても便利な式である。術者に追従しながら辺りを照らしてくれた。
「彫刻? 調べてきて」
『えー?』
 鴇ノ宮は面倒くさがる羽妖精・瑞を飛ばして高くに設置されていた彫像を確認させる。瘴気が感じられないので安心だからと。
『まるでジルベリアの人みたいな石の作り物だね。だけどもっと顔のほりが深いしーなんだかハダカだし』
 戻ってきた羽妖精・瑞の話しに鴇ノ宮と海神江流が耳を傾ける。
 さらに歩を進めるとやがて暗闇の中に浮かび上がるものが。それは巨大な石扉であった。
「建物の石造りから見ると、どっちかっていうとジルベリア寄りなのかね」
 石扉に施された飾り彫りを確認してから海神江流は開けてみようとする。溝から推測するに左右に開く構造のようである。鴇ノ宮には左側を任せて海神江流は右側に力込めた。しかし微動だにもしない。
 お腹が空いたこともあり、一度宿代わりの建物へと戻る。
 からくり・波美が作った湯気立つ鍋をつつきながら石扉への攻略を再検討。からくり・波美も一緒に向かうことになる。
 鴇ノ宮は面倒がる羽妖精・瑞を飛ばして石扉の細部を確認させた。天井近くの隙間に入り込んだ羽妖精・瑞はからくり仕掛けを発見する。一部のからくりが欠損していて、それが開閉を邪魔しているようだ。
 直すことは適わないものの、邪魔なからくり部品を羽妖精・瑞が取り除いてくれる。鴇ノ宮、海神江流、からくり・波美が力を合わせることで巨大な石扉が開かれた。中に踏み入れるとすぐに祭壇を発見する。
「書物の形なら持ち帰るだけで簡単だったのに。ま、しょうがないか」
 集合のときまで、鴇ノ宮は祭壇の各部に刻まれた古代文字の解読。海神江流は神殿内の構造を詳しく調べることにした。
 からくり・波美は焚き火を切らさぬよう野外で枯れ木などの燃料を集めては神殿内に運び込んだ。とても広いので空気の汚れは心配ない。もちろん茶や料理も忘れなかった。
 羽妖精・瑞は億劫がりながらも天井付近の文字を音読する役目をこなす。それ以外は鴇ノ宮の帽子の上に座ったり寝転がったり。どこかに隠れていれば仕事をやらなくても済むのだが帽子の上がとても居心地がよいらしい。
 刻まれた文字の大半は季節に関するもの。精霊に感謝すると同時に農作物に対する記述が多かった。ここは豊饒の土地であり、少なくても飢饉による餓死で人がいなくなったのではないらしい。
「これだけ記述されているならどこかに精霊がいるはずだけど。いたら教えて」
「見かけませんね。隠れているのかね」
 鴇ノ宮と海神江流は神殿内で強い力を持つ精霊を探したものの、残念ながら発見は適わなかった。
 どこかに移動したのか、もしくは消されたのか。謎は残る。真実は描き写した文章の奥に秘められているようなそんな気がした鴇ノ宮であった。

●美味しいもの
「昨日、気になったのがこの建物です」
『えへへ〜、遺跡探索、楽しみです! でもマスター、建物壊れています』
 緋乃宮 白月(ib9855)と妖精・姫翠が足を踏み入れたのは地上部分が半壊している建物の地下である。庭の片隅に地下への階段が設置されていた。
「きゃあ!」
 緋乃宮が松明を片手に階段を下りてゆくと足先に冷たさを感じて跳びはねる。地下一階はくるぶしが隠れるほどに浸水していたのである。
『は〜い。これで大丈夫です!』
「い、行きます!」
 緋乃宮はちょっと怖くなってきたが、妖精・姫翠に幸運の光粉をかけてもらって勇気を取り戻す。水の冷たさを我慢しながら奥へと進んだ。
 さらに地下へと続く階段もあったが、完全に浸水しているので現状探るのは難しかった。そこで地下一階部分を隈無く探る。
「蛇の絵や彫刻はありますか?」
『それはないけど、ここに部屋があります〜』
 緋乃宮は妖精・姫翠が見つけた小部屋を松明の灯りで照らす。麦穂が扉に刻まれていたところから想像するに、どうやら倉庫として使われていたようである。がらんとしていたが隅に石棺らしき物が二つ転がっていた。
 中が気になったものの、もし木乃伊でも入っていたらとても怖い。緋乃宮と妖精・姫翠は顔を見合わせて相談し、仲間を呼んで一緒に開けることにする。
「あ、ちょうどよいところで会いました!」
 外に出て飛空船まで戻ろうとすると、たまたま七羽兄弟と出会う。再び地下へと降りて今度は七羽兄弟と一緒に石棺の前に立つ。
「これ、見えにくいところに宝珠が取り付けられてあるよ」
「ホントだ。ってことは‥‥お宝か?」
 屈んだ的吉が発見した宝珠に矢吉が目を輝かす。
「そ、それでは力を合わせて開けてみましょう。まずはこっちの方から‥‥」
 緋乃宮は猫耳をピクピク動かしながら石棺らしき物の蓋に手をかける。反対側には七羽兄弟が。
『せいのうでっ!』
 妖精・姫翠の音頭で石製の蓋を持ち上げて水浸しの床へと下ろす。蓋についていた宝珠が割れて輝きを失った。
 的吉が壁の割れ目に挟んでおいた松明を手にとってかざしてくれる。
『植物で編んだ袋みたいです〜』
 妖精・姫翠が石棺らしき中に入って掌で触る。古いもののはずなのに何故か真新しい。
「どの種類かわからないけれど、麦の種です」
 緋乃宮が中身を確かめる。袋は全部で三つあり、どうやら小麦、大麦、ライ麦のようだ。
 もう一つの石棺らしき物も開けてみるとやはり袋が。中には木の実がびっしりと入っていた。袋に書かれてあった文字はとても崩されていて読みにくかったが『ピスタチオ』と書かれてある。
「これ、うまいな!」
 畏れ知らずの矢吉が一粒殻を割って口に放り込んで叫んだ。悩んだ末に的吉も一粒。表情が美味しさを物語る。
 緋乃宮も恐る恐る殻を割った一粒を食べてみた。妖精・姫翠も欠片を一口。
「美味しいです!」
『美味しいです!』
 まったく同じ言葉を口にする緋乃宮と妖精・姫翠。顔から笑みがこぼれた。
 よく調べてみれば袋の中から宝珠が合計五つ発見される。後に植物の生育を促進させる宝珠だと判明するが、このときにはわからなかった。

●咲き乱れ
「天儀では見ない珍しい花が見つかったら、商売のタネにできます‥‥?」
「きっと植木職人や庭師になら売れると思うよ。珍しいものが好きなお客さんって必ずいるから」
 柚乃は的吉にしばらく相談してから二日目の探索を開始する。地図を作ったときと同じように炎龍・ヒムカに乗って郊外へと向かった。
「どんな花が咲くんだろ‥」
 草木が生い茂る場所をいくつか見繕った上で的吉を連れてゆく。そして鈴音を鳴らして華彩歌を奏でる。すると季節外れの花が一斉に咲き乱れた。
「綺麗な花が多いね!」
 的吉が目を大きく開けて辺りを眺めた。
 ただ残念なことに季節がら元気な草花そのものが少なくて検証とまではいかなかった。そこで草花については別の方法で探ることとなる。
「ここは‥もしかして‥」
 柚乃は龍背から町を見下ろしながら荘園らしき一角を発見する。水やり用と思われる水路が織りなす幾何学模様が特に目立つ場所である。
 そこには建物もあって七羽兄弟と一緒に探検する。カンテラで照らしながら探してみると石箱が多数見つかった。
 七羽兄弟によれば『麦』と『ピスタチオ』が仕舞われていた物とそっくりだという。但し一つの大きさは四分の一程度らしい。期待しながら開けてみれば中にはたくさんの球根が詰まっていた。
「ここが荘園だとすれば‥綺麗な花が咲く球根かな‥‥」
 柚乃は手にとって眺めてみる。
「きっとそうだね。これ、好事家が買ってくれるかも」
 的吉が嬉しそうに柚乃に頷く。
「‥‥食えないかな?」
 球根を囓ろうとする矢吉の腕を掴んで的吉が止めた。
「きれいな花が咲きますように‥」
 柚乃はひとまず蓋を閉じながら祈る。
 球根が詰まった石箱は全部で二十発見された。使われていない宝珠も三つ見つかる。
 去り際、柚乃が時の蜃気楼を奏でてみた。成功するかと思われたが精霊の記憶はまったく再現されなかった。
 柚乃はこれを精霊がこの場にいないのではなく、拒否されたと受け取る。
(「球根がどんなものかわかれば‥もしかして‥」)
 将来に期待をかけながら荘園を立ち去る柚乃と七羽兄弟であった。

●畑
「もうすぐ完成だ」
 からす(ia6525)は地図作りのために熊牙号内にあった薄板を持ち出して大きめの紙を貼り付けていた。上空からの地図に細かな道を加えて補完。目印とする建物の壁に白墨で数字を描き込んで地図にも記載する。
 忍犬・白銀を立たせておいて歩数で距離も測る。そうやって二日目は過ぎてゆく。
「ヒトはいないようだ」
 からすは現地人との接触を期待したが、まったくといってよい程気配は感じられなかった。忍犬・白銀の嗅覚識別、絶対嗅覚でも梨の礫である。
 空が茜色に染まりだすと熊牙号へと戻る。七羽兄弟と何人かの仲間達と一日の情報交換を行う。
 三日目はより詳しくなった地図を活用しての宝探しを開始する。
「こちらが怪しい」
 からすは『懐中時計「ド・マリニー」』を手にとって瘴気か精霊力をありそうな方角へ足を運んだ。
「白銀、頼む」
 加えて忍犬・白銀の鼻がとても役立つ。嗅覚識別でこれまでに嗅いだことのないにおいを手繰っていった。
「どうした、白銀」
 忍犬・白銀が真剣な瞳でからすを見上げながら小さく吠えた。駆けだした忍犬・白銀をからすが追いかける。
 角を曲がると奇妙な景色が広がる。地図で確かめると遺跡の敷地内からわずかに外れた地域だ。
「これはなんだ? 茶葉ならよいのだが、そうではないようだ」
 近づいて屈んでみると緑葉の丸い固まりが大地に転がっていた。よく調べてみれば自然繁殖したキャベツ畑である。
 葉に大きく囓った跡があったので、よくよく周囲を確かめてみると兎を発見する。忍犬・白銀は兎のにおいを追ってここを見つけたようである。
「ナイスだ白銀」
 からすは忍犬・白銀の頭を撫でてあげると綺麗なキャベツを選んで採取。近くに流れていた綺麗な水で葉を洗ってから食べてみると非常に甘かった。
 天儀でも一部で使われている食材だが、気候風土のおかげかこの土地でのキャベツの方が出来がとてもよい。
 休憩ついでにお腹も満たしたところで、キャベツをさらに二つ収穫してから熊牙号に戻った。
「これはうまいな!」
「売れるね、きっと」
 戻っていた一部の仲間にも塩茹でキャベツを振る舞ったところ、とても好評である。七羽兄弟はお代わりするほどに。
 翌日、クレア・エルスハイマー(ib6652)、柚乃、七羽兄弟とキャベツが繁殖している周辺を探ってみたところ石箱を発見する。
 箱内には種子がぎっしり。畑の中で見つけたサヤに収まる種と同じなので、キャベツのものだとすぐにわかるのであった。

●精巧なる物
『おっしゃあ! うちにど〜んと任しときぃっ♪ あの建物が怪しさ満点や。ほな、いってくるでっ〜』
「今のところ危険はないようですけど、油断は禁物ですわ。気をつけてくださいね」
 胸をぽむっと叩いた羽妖精のイフェリア・アイランズがクレアの肩から飛び立った。ポニーテールを揺らしながら壊れた建物の瓦礫の隙間へと入ってゆく。
 二十分ほどして帰ってきた羽妖精・イフェリアの顔は真っ黒。クレアは顔を拭いてあげながら報告を聞いた。
『次や次っ。ええもん見つけたるでぇ!』
 羽妖精・イフェリアが見つけてきたのは陶器の欠片。元の完全な形ならば好事家が高値で買ってくれそうなのがとても残念である。
「今度は私も調べますわ。入れる建物を選びましょう」
 次にクレアが指さしたのは公共の場らしき大きめの建物。
 中には彫像が並んでいたが、神殿らしき雰囲気は感じられない。彫像はどれも鎧を着た兵士を象ったものばかりだ。
 後で何体かを熊牙号に運びいれるとして他の物品も探す。
『クレアはんっ、こういう時は狭いとこも見とくもんやで? 色々おもろいモンが転がっとるもんやさかいな〜』
 羽妖精・イフェリアがごそごそと建物の隙間を探る。すると突然に地響きが。
「な、なんですの?」
『なんやっ?』
 床の一部が崩れて地下への階段が現れた。
 羽妖精・イフェリアは悩むことなく羽ばたいて地下へ突入する。クレアは大急ぎで七羽兄弟からもらった松明に火を点けてから追いかけた。
 クレアが追いつくと羽妖精・イフェリアは石製の棚に座っていた。
『これ、ええんやないか?』
 羽妖精・イフェリアが触ている陶器にクレアが目を凝らす。非常に細かな幾何学模様と彫刻を思わせる図案が壺に施されている。
「これは‥‥学術的な価値もあるかも知れなくてよ」
『やったな、クレアはん!』
 羽妖精・イフェリアが掲げた手にクレアが右の人差し指で軽く叩き合う。地下の石棚では全部で十二の陶器が見つかった。どれも埃こそ被っていたが傷一つない美品だ。
 壊れやすいだけに一つだけを丁寧に持ち帰る。残りの回収は仲間達に応援を頼むのであった。

●そして
 ピスタチオに関しては自生していた樹木も見つかって全員で木の実を収穫した。キャベツなどの野菜も一部収穫し、種と一緒に熊牙号へと積み込んだ。
 これは市場ですぐに売れることだろう。但し、種に関しては将来を考えてとっておくべきか悩む七羽兄弟だ。
 球根については育てて正体が判明してからでないと売りにくい。武天の土地に植えてみて春先まで様子見である。
 神殿らしき場所から得た情報と陶器類に関しては緋乃宮の意見を参考にしてギルドか、または相応しき集団への持ち込もうと考えていた。もしかすると一見しただけではわからない大発見に繋がる何かが隠れているかも知れなかった。
 船倉内を満載にして熊牙号が帰路に就く。
 数日後、空の危険を乗り越えて無事に武天の都、此隅へと戻った一行であった。