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■オープニング本文 ● 青年は木陰に隠れて、自分の何倍もあるだろうアヤカシを見つめていた。 そのアヤカシは、牛のような見た目なのだが二足歩行をしており、腕は大木のように太く、そのアヤカシほどの大きさのある金棒をふるい、木々をなぎ倒しながら、鼻息荒く何かを探すように目をぎょろぎょろと動かしている。探しているのは少年なんだろうか、みるとアヤカシの右目には一本の矢が突き刺さっている。 触らぬ神に祟りなしというが、何を思ったのだろうが、狩りをしていた少年は偶々見つけたアヤカシの右目に狙いを定め、矢を放ったのだ。若者だからこそ、アヤカシに勝ってみたかったのだろうか、それとも‥‥、理由はどうあれ今や追いかけられているのは青年。 ● 息をひそめている青年は目を疑った。もう一匹いたのだ、同じようなアヤカシがもう一匹、ただ色が違う、目に傷を受けているアヤカシは赤い色をしているが、今現れたアヤカシは青色をしている。 ここにいたら危ない、そう瞬時に感じ、ゆっくりと足を動かす。しかし、ポキリと小枝を踏んでしまう。振り向くアヤカシ、走り出す青年。逃げるのは、森を熟知している青年の方が上手だったのだが‥‥。 |
■参加者一覧
伊波 義虎(ia1060)
22歳・男・サ
鞘(ia9215)
19歳・女・弓
ハイネル(ia9965)
32歳・男・騎
ロゼオ・シンフォニー(ib4067)
17歳・男・魔
ウルグ・シュバルツ(ib5700)
29歳・男・砲
エレナ(ib6205)
22歳・女・騎
椿鬼 蜜鈴(ib6311)
21歳・女・魔
現見 司(ib6528)
19歳・男・サ |
■リプレイ本文 ● 森に入ってすぐ、開拓者たちはアヤカシの力と言うものを見せつけられた。 人の胴の太さの倍はあるであろう大木が、折られ、倒され、無残になぎ倒されていた。 だが、伊波 義虎(ia1060)は胸躍らせ、腕をぐるんぐるんと回しだした。 「アヤカシ退治に救出!腕が鳴るぜぇ〜」 この男にとっては、これが初依頼となるようで、この現状を見てやる気を出したようだ。 「俺も初依頼だ、まぁリラックスしていこうかな」 そして、こちらも初依頼となる、現見 司(ib6528)も胸を躍らせていた。 エレナ(ib6205)は、そんな二人に少しばかりの不快感を覚えた。 凛とした生き様を残したい彼女にとって、軽口をたたく彼らは許せないが、今はそんなことをしている暇はない。 「アヤカシを前に取り残された人がいる。私達だったら彼を、助けられる」 「把握。この道を行けばアヤカシに会えるだろう」 先程まで顎に指をつけて思案していたハイネル(ia9965)は、顔をあげ歩き出す、エレナもそれに続く。 「無事ならいいけど‥‥」 この有様を見つめながら、鞘(ia9215)は胸の前に手をつぶやく。 「平和が続かないってのも考えものですね」 ロゼオ・シンフォニー(ib4067)も同じようにつぶやいた。 「ほれ、なにを呆けておる。急いで救出せねばならんだろう?」 そう煙管を咥えながら椿鬼 蜜鈴(ib6311)が振り向いて二人に告げる。 「はい、行きましょう」 「そこの殿方も、早く行かないとおいていかれてしまうぞ?」 「おぅ、そうだな。早く助けないとな。さ、ウルグさん、現見さんいこう」 「あぁ、死なれると気分悪いしな」 「ん?ウルグさん、どうした。さっさと言ってしまおう」 「あ、あぁ。今行く」 ウルグ・シュバルツ(ib5700)は、自分の銃を握りしめ、歩き出す。 ● 鞘が弓の弦を弾き鏡弦を行った。 しんと静まり返った森、鞘がゆっくりと目を開ける 「こっちに二匹、走ってきてるわね」 そういうと倒れた木で躓かないように、一人の青年が走ってきた。 体には無数の擦り傷があり、手には折れた弓らしきものを持っていた。 すぐに依頼書にあった青年だと気付いた なぜなら、その後ろから二匹の牛が鼻息荒く追いかけているのだから、嫌でもあれがアヤカシで、追いかけられているのが青年だと気づく。 伊波とハイネルが駆け出し青年とアヤカシの間に割って入った。 「おぬしも随分な事をしよったの?」 扇を広げ、口元を隠しながら倒れている青年に近づく椿鬼。 「え?あなた方は?」 「開拓者の者です。お怪我はありませんか?」 「は、はい。かすり傷程度で」 エレナも青年の傍により、手を貸す。 かすり傷だと言うが、左腕を護るように抑えており、青く腫れあがっているようにエレナには見えた。 「あのアヤカシの目に刺さってるのはお前さんの矢だろ?すげぇ、腕前だな。なぁ名前なんて言うんだ?」 「近くの村に住んでる望月と言うものです。いえ、その、前見なくていいのですか?」 「ん?おぅ、そうだなぁ。まぁ今は後ろに隠れときな」 「さ、こちらへ」 すぐに青年の状態に気付いた伊波は、青年に背を向けた。 青年さえ無事でいればいい、無事でいてほしかった、これは開拓者全員が思っていること。 青年を気遣いながら、エレナが彼に手を貸す。 青年は安心をおぼえたせいか、立つことすらできず、エレナは彼の疲れが直に伝わってきた。 「さぁて、かかって来やがれ!」 咆哮を上げ、アヤカシ二匹の視線が伊波に集まる。 「今度はちゃんと前を向いててくださいね」 後ろに控えている鞘が伊波に一言入れると、アヤカシの鼻息が荒くなり、こちらに二匹とも突っ込んできた。 「さてと、わしらもそろそろ行くかのぅ」 「はい、ですね」 青年を木陰に隠した三人は頷き、アヤカシに見つからないように息をひそめて後ろに回りだした。 「ふむ、やはり牛は動く布に反応するのか」 アヤカシの腕力から繰り出される棍棒の攻撃をかわしながらつぶやく伊波。 その横で、ハイネルが器用に盾で攻撃を受け流していた。 鞘は、目を傷つけているアヤカシを狙い、何度も弓を射る、なんども、なんども、できるだけこちらが狙われるように。 動き回る伊波に当たらないように、ウルグは狙いを定めて、ズドントと初弾を片方のアヤカシに打ち込む。 そのまま、目に傷を負っていないアヤカシを狙い、空気砲を撃つ、これが成功して一匹が転倒して、攻撃をかわす伊波やハイネルが少しばかり楽に立ちまわれるようになった。 「おやおや、背後が隙だらけだぞ」 一つの火球が、アヤカシの背中に向かって飛ぶ。 倒れていたアヤカシが、自分の見を呈してその火球を受け止める。 「さぁ、今度は我らがあそんでやろうて」 くすくすと、いつの間にやら後ろに回り込んだ椿鬼が扇子で口元隠しながら笑っていた。 「さて、死なないように、‥‥楽しむとするか」 現見は腰に下げた朱天の朱色の刀身を抜き、エレナとともに走り出した。 「せいやっ!」 エレナの掛け声とともに、力が入った攻撃が繰り出される。 これには、コンビネーションが取れず、先程の火球の痛みがあるのが合わさり、アヤカシは防戦を強いられた。 もう一匹のアヤカシはハイネルに向かって、渾身の一撃を放つが、ガンという、鉄と鉄がぶつかり合う音とともに、器用にその攻撃をハイネルが受け流す。 「牛のアヤカシ、我らの作戦は成功だ」 「さぁてと、次はこっちの番だぜ〜」 囮として回避を重視していた伊波は、腰に付けた剣を抜かずにしていたが、今はその柄にゆっくりと手を乗せる。 「我流の虎剣法受けて見なってな」 腰に付けた「朱雛」を抜き放つ。 それを見たアヤカシの怒りは頂点に、持っていた棍棒を強く地面にたたき、鼻息荒く伊波を睨む。 「うわ、すごい腕力だね、やっぱり。やっぱり牛だね」 そんなのんきなことを言って、掌から雷を穿つ。 それがアヤカシの全身を駆け巡り、ダメージが与えられずとも少しばかり動きを抑えることは出来た。 そこに鞘がもう一歩の目に向けて矢を放つと、それは風を切り裂き狙い通りアヤカシの目から光を亡くした。 チャンスとばかりに痛みに悶えるアヤカシの懐に入り、利き足で力強く踏み込むと、力を入れて渾身を突きを繰り出す。 「虎牙一閃!」 その一撃がアヤカシの急所を貫き、伊波が刀を抜くと同時に、アヤカシは大きく崩れ落ちた。 もう一方のアヤカシも怒りが限界に達したようで、遠吠えを上げ、斬りかかってきたエリナ達を棍棒で吹き飛ばした。 現見をそれをひらりとかわし、エリナを盾で受け止め、砂ぼこりを上げながら、足に力を入れ、踏みとどまった。 「ほほぅ、血気盛んじゃのぅ」 しかし、すぐさま椿鬼の掌から飛ばされた石礫が、アヤカシの胸に当たる。 先ほど火球が当たった所、痛みですこし後ろにたじろぐアヤカシ、現見がそこに追い打ちをかける。 なんども手や足に刀で切りつけるが、アヤカシは大きく振りかぶり棍棒を叩きつける。 現見は後ろに下がりこれを避けるが、勢いを殺されてしまう。 「せいやぁっ!」 しかし、先程飛ばされたエリナが大ぶりなアヤカシの懐に一瞬で入り込み、急所に向けて自らの刃を突き立てる。 そのまま勢いを殺さず、エリナはアヤカシを押し倒すように、深く剣を突き入れる。 アヤカシは大きな音を立て、後ろに倒れた。 砂埃が上がり、その中ですくりとエリナが立ち上がる、そしてアヤカシから剣を向き放った。 アヤカシはピクリとも動かず、凛としたエレナのみがその場に立っていた。 「さて、牛狩りは終わりじゃ。帰って酒でも飲むかの」 椿鬼が、依頼の終了の合図を言った。 少年は開拓者に運ばれ、近くの村まで運ばれた。 もちろん命に別条はない。 これで、本当の依頼達成であった。 |