温もりを知らず
マスター名:秋月雅哉
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/12/31 12:49



■オープニング本文

●雪抱く山で
「みなさん、ちょっとお時間宜しいですか?」
 穏やかな口調で開拓者たちに切り出したのはアヤカシの情報を整理するギルド関係者だった。
「氷鬼の出現情報が寄せられたのですよ。何人か被害にあっているので早急に対処をお願いしたく思いまして。
 数は四体。
 ただ……連携は取っていないようですね。
 ここに付け入る隙があると考えてよさそうです。
 ばらばらに襲ってくるのである意味では注意が要りますが……。
 今の時期氷鬼が出る山の近くに咲く『氷雪華』という花を求めて子供が山に行きたがっているのですよ。
 摘むと溶けてしまうそうですが滅多に見られない花なので幸運と春を呼んでくれる象徴として村人には親しまれているんだそうです。
 鬼を退治したと聞いたらすぐさま山に行ってしまいそうなので心配でしたら護衛の任もお願いしますね。
 氷鬼だけしか目撃情報は寄せられていませんがもしかするとアヤカシは他にもいるかもしれませんから。
 武器は瘴気で強度を増した氷の斧、だそうです。
 大振りなので攻撃の際には隙ができそうですが一撃受けると冷気と瘴気の影響でかなりのダメージになりそうですから注意してください。
 では……早めの解決を、お願いいたしますね」
 冬は長くても子供にとってはあっという間でしょうから、と付け加えて巻物を棚に戻す男性は穏やかに笑っていた。


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
天ヶ瀬 焔騎(ia8250
25歳・男・志
和奏(ia8807
17歳・男・志
茜ヶ原 ほとり(ia9204
19歳・女・弓
ベルナデット東條(ib5223
16歳・女・志
ネロ(ib9957
11歳・男・弓
ペコ(ic0037
22歳・女・サ
草薙 早矢(ic0072
21歳・女・弓


■リプレイ本文

●温もりを知らず、知るのはただ殺戮のみ
「幾ら私がある程度実力をつけたといっても……雪山はまだ怖いですね。
 それが普通の人ともなると何も出なくても厳しい場所ですから、万全の態勢で連れて行ってあげたいですね」
 三笠 三四郎(ia0163)はかんじきを用意したあとこの時期の山の天候を事前に聞き込みをすることで把握しようと努める。
 急変しそうな兆候が有るなら勿論、地吹雪に雪崩も危険ですから念の為です、とは本人の談である。
「人を襲ったアヤカシに対して容赦する気は一切ない。
 絶対に、殲滅する。これ以上やらせるものかよ」
 天ヶ瀬 焔騎(ia8250)はぐっと拳を握り締めた。
 赤い双眸が剣呑に煌いた。
 和奏(ia8807)は防寒対策と地理を再確認している。
「氷雪華見物も鬼退治も、迷子になると大変ですからね」
「ベルちゃん、天さん、頑張ろうね」
 淡々とした口調だが茜ヶ原 ほとり(ia9204)にとっては通常運転だ。
「幸運を招く華、さぞかし綺麗なんだろうね」
 ほとりの言葉に頷きながらベルナデット東條(ib5223)はまだ見ぬ氷雪華に思いを馳せる。
 義姉が贈ってくれたロングコートは防寒効果もばっちりで暖かい。
「鬼退治……困ってる人、助けないとね。
 それに、ボクも『氷雪華』って見てみたい……な」
 ネロ(ib9957)もまた氷雪華に興味を持つ一人のようだ。
 そのためには鬼退治をしっかりしなければ、と静かに情報を解析している。
「「いやぁ、辺り一面雪、雪、雪。絶景でござるなぁ……。
 旅は、好きでござる。
 その土地土地の空気に触れ、景色を望む事も、その土地土地の人々と交わる事も。
 氷雪花、でござるかぁ。楽しみでござるな!
 それを眺めながら食するのも、さぞ楽しかろう…!!」
 花より団子的な思想が駄々漏れになっているのはペコ(ic0037)だ。
 極端に燃費の悪い彼女にとっては食べることは全てに繋がっているのかもしれない。
「焔騎殿、耐寒性のあるロングコート、感謝する」
 篠崎早矢(ic0072)が律儀に深々と頭を下げると焔騎は緩く首を振る。
「……さて、鬼退治に参ろうか」

 三四郎・焔騎・早矢・ネロで一斑、ペコ・ベルナデット・和奏・ほとりで一斑の四人編成で雪山を探索し始める。
 緊急時には呼子笛で呼び合う算段だ。
 先に氷鬼を発見したのは三四郎の班だった。
 珍しく晴れ間が覗く冬山で一体目がふらりふらりと歩いているのを見かけたのだ。
「……統率はとれてねぇって話だったが……血の匂いがすりゃおびき寄せられるかもしれねぇな」
 短刀で自分の左腕に浅い切り傷を作り、軽く包帯を巻く焔騎。
 これで集中的に自分が狙われても、自業自得だと割り切っての行動だった。
「まだ一体しか見つかってねぇが……全部見つけりゃ一安心だ……いくぜッ!」
 三四郎は咆哮を使って一槍打通で狩りを始める。
 咆哮と血の匂いに気付いた氷鬼が進路を変えてこちらへと向かってくる。
 早矢とネロは動きを阻害するために後方から弓を放つ。
「………鬼さん、こちら……」
 弓での攻撃を邪魔に思ったらしい氷鬼が二人のもとへ向かおうとするのを焔騎が防ぐ。
 注意が他三人にいったのを確認して三四郎はロングボウ「ウィリアム」を引き絞って頭部を射抜いた。
 動きがぎこちなく止まり、ゆっくりと瘴気へ変わっていく。
「まず一体。……それほど強くはないようだが油断は禁物だな」
 焔騎が心眼「集」を使用して辺りを探る。
「こっちに何かいるぜ」
 四人は奇襲に備えて一塊になって歩き出した。

一方その頃もう一斑も最初の戦闘を迎えていた。
「人を襲うのがアヤカシの性なのだと伺っております。
 人気のない雪山に住むアヤカシさんは、人の気配を感じればあちらから出向いてくださいそうです」
 和奏が呟く。
「そうなってくれれば楽ですなぁ!」
 遊山に来たような気楽さでペコが相槌を打つ。
 臆面もなくアヤカシを見つけるのはきっと、同行者が成してくれるでござろう!と断言した彼女に一同は毒気を抜かれたものだ。
 ここまであけっぴろげだといっそ清々しいというか怒る気になれないのかもしれない。
「のん気なんだから……大物なのかもしれないけど」
 心眼「集」を使いながらベルナデットがはぁ、とため息を吐く。
「まぁ……緊張でがちがちになって本番動けないよりはいいじゃない。
 開拓者なんだし、やる時はやるわよ」
 ほとりがいつもの淡々とした口調でなだめる。
「あ、足跡発見でござる」
「……ね?」
「……うん」
 明らかに人間のものではない足跡を追って山に分け入ると其処には一体の氷鬼が。
 和奏が武器に炎を纏わせ直線状にいる氷鬼に炎魂縛武の効果を上乗せした一撃を放つ。
 その後、距離を詰めて秋水で腕に裂傷を負わせる。
 紅蓮紅葉で攻撃と命中を上げたベルナデットも前線で奮闘する。
「さぁ、この紅蓮の炎に抱かれたいなら来るといい」
 炎の攻撃で氷鬼を怯ませ、仲間の攻撃の隙を作り出す作戦だ。
 ペコはじっと氷鬼を睨みつけ双方譲らず睨み合い……!
「……とばかりも、いかないでござるか!」
 剣気をあてて敵を怯ませ、手数に物を言わせた攻撃で氷鬼を翻弄する。
「ベルちゃん! 今よ!」
 遠距離から氷鬼を牽制していたほとりが義妹に呼びかける。
「うん、まかせて、お義姉ちゃん!」
 義理の姉妹での連携で氷鬼は瘴気へ還った。
「もう一斑のほうに三体いってるんでしょうか?」
「統率が取れていないのも良し悪しでござるな」
「どうする? いったん合流する?」
「そうね……もしかすると本当に向こうに三体いっているかもしれないし。
 氷雪華を子供たちに見せるならはやく片をつけてしまいたいわ」
 呼子笛で呼び合いながら合流した結果、あと二体残っていることが分かった。
「これからまた分散するのもあれですし……はぐれないよう気をつけながら全員で見て回りましょう」
 反対意見は出ず、心眼「集」や足跡を頼りに氷鬼を探す。
「しかし……統率が取れていないというのは本当だったな。
 数が少ないからまとまっていてもよさそうなものだが……」
「残り……二体は、何処かな……?」
「天気が崩れないといいのですが。山の天気は変わりやすいですし……」
「そうだなぁ。さっさと見つけて氷雪華? とやらを見に行くのの護衛をしてしまいたいところだ」
「退治に時間がかかるようだったら氷雪華見物は日を改めて……かな」
「拙者、空腹でござる……」
「……燃費悪いね」
「あ、足跡発見」
 慎重に足跡を追っていくと凍りついた沼地に氷鬼が二体。
「こいつら倒せばあとは楽しみが待ってるだけだね」
「ベルちゃん、慎重にね」
「分かってる、お義姉ちゃん」
 氷鬼二体がこちらを振り返る。
 瘴気で強度を増した氷の斧を振り上げて襲い掛かってきた。
「がら空きなんだよっ!」
「……手早く、済ませる……」
 焔騎の熟練刀匠の手による芸術品のような一振りの刀が振り下ろされ、援護するようにネロの雷の精霊の加護を受けた高い攻撃力を持つ弓から放たれた矢が一閃する。
「ベルちゃん、天さんを援護しよう」
「了解っ」
 飴色の弓身に一本の紅い彼岸花が描かれた華妖弓から矢が放たれ、天儀最高峰の刀工の一人「加賀清光」の手による刀が矢の刺さった箇所の傷を抉るようにして広げる。
「やれやれ、もう一働きでござるか……」
 ペコが咆哮を上げ敵の注意を引きながら味方が確実に倒せるように敵の勢いを殺ぐ。
 後方から流れ星のように飛んできた矢は早矢の一撃だ。
「負けませんよ……」
 炎の効果を付与した刀で切り裂くと一体は耐え切れずに瘴気へと戻る。
 もう一体も猛攻をしのぐことが出来ず三四郎の一撃で霧散した。
「後はお楽しみの氷雪華見物ですね」

●冬の時期にだけ花開く、孤独で儚い華の想いは
 氷鬼退治を終えたあと、まだ日が暮れるまでには時間がありそうだったので子供たちを集めて再び山登りをはじめる開拓者たち。
「うぅ……空腹でござるよ……」
「……氷雪華見ながら食べたほうが……きっと美味しい、よ……」
 行き倒れそうなペコをネロが励ます珍道中となった。
 慎重な性格の者は気候の変化や新手のアヤカシが出ないか気を配っている。
「わーいっ」
「にーちゃん待ってー!」
 ……一番大変なのは氷雪華見物を禁じられてくさくさしていたところに「護衛してあげるから一緒に行こう。アヤカシも倒したし」と朗報をもたらされ、はしゃぎまくっている子供たちの誘導かもしれないが。
 氷鬼の出る辺りで見られる、という事前情報だったが比較的その辺りが多い気がする、というだけで確実性はないらしい。
 毎年同じ木に咲くというわけでもないようだった。
 滅多に見られない、見られれば幸運を呼んでくれる花はそれ位気紛れなほうが「らしい」のかもしれない。
「どんな花なのかしらね……」
「子供がこれだけ好いているんだ。きっと綺麗な花なんだろう」
「皆さんと遊興にご一緒できるのはそれだけでなんだか楽しい気分になれますね」
「天さんとベルちゃんと一緒に珍しいもの見れるんだから、私も嬉しいわ」
「氷で、出来た……花?」
「そうだよー。とっても綺麗なんだけど触ると溶けちゃうからその場で見るだけなの」
「持って帰りたいけど……触っちゃ駄目なんだね。ん、残念。
 雪、見たいって行ってたし……あの子へのお土産欲しかったんだけどな」
「雪見せたいなら雪うさぎがいいよ!」
「雪うさぎ……?」
「雪でうさぎさん作るの。村に南天があるし今年は雪が多いからすぐ作れるよ!」
「作り方……あとで教えてくれる?」
「もっちろん! 氷雪華見にいけるようにしてくれたお礼!」
「お安いご用、よ!」
 はしゃぐ子供たちに囲まれて氷雪華や雪うさぎについて色々聞いているネロを三四郎は微笑ましそうに眺めていた。
「あ、あった!」
「にーちゃん、ねーちゃん運いいねぇ。普段はもっと見つかりにくいんだよ」
 開けた場所に一本だけ立つ雪化粧をした大樹。
 その枝先に氷と雪で出来た結晶が花のように咲いている。
「へぇ、これが……」
「綺麗でしょう?」
「そうだな。さて、雪見酒でもするか」
 焔騎が大量の酒類を取り出す。
「ちびっ子達には甘酒だ。飲みすぎるなよ」
「わーい! ありがとー!」
「ん、礼が言えて偉いな」
 他にも酒を持ってきた者やお菓子を持ってきたものがいて賑やかな時間が始まる。
 待ちに待った時間にペコはちびりちびりと酒を呑みながら甘味に手を伸ばす。
「よきかな、よきかな」
「クッキー食べる?」
「食べるー」
「本当は自分用に持ち歩いているものなのよねぇ……」
 微笑ましく思いながらボソッと呟く義姉の声が聞こえてベルナデットはギクリ、と身体を強張らせる。
「お義姉ちゃん、決して私が食べたかったから持ってきたわけじゃないからね!?」
 慌てる義妹に義姉は静かに笑みを返した。
「来年も、お義姉ちゃんと楽しく、そして無事に旅を行えますように……」
 話題をそらすようにベルナデットは氷雪華に祈りを捧げた。
 お酒が好きなほとりは焔騎に酒盃を満たして貰ってご機嫌だ。
 和奏も一緒になって飲んでいる。
 話すのは年末という時節柄もあってか今年一年あったことが多い。
「すこし早いが……来年も宜しくな」
「こちらこそ」
「えぇ。よろしくお願いします」
「皆さんあまり飲みすぎないで下さいね。帰りも自力で山を降りるんですから……」
 三四郎が釘を刺すと焔騎はひらり、と手を振って応えた。
 楽しい時間はあっという間にすぎてそろそろ山を降りる時間がやってくる。
「そろそろ帰らないと山で一夜を過ごすことになりますよ」
「はーい」
「今年も氷雪華見れてよかったー」
「来年もいい年になりますようにっ」
 子供たちがわらわらと集まってくる。
「ギルドに報告済ませたらまた飲むか……氷雪華が街中にないのは残念だが」
「そうですね。でも人知れず咲くからこそ、美しいのかもしれません」
「詩人だねぇ」
「甘味を補給した故、下山は頑張るでござるよ」
「行き倒れないでね……」
ペコとネロのやり取りに一同が苦笑する。
「さぁ、帰りましょう。身体は冷えていませんか?」
「大丈夫」
 そうして一行は来た時同様賑やかに下山した。
 一本残された木に咲いた氷雪華はその様子をひっそりと見守っていた。
 村にたどり着くと子供たちを迎えた村人たちが丁寧にお礼を言う。
 笑顔も炊事のための煙も暖かさを呼び起こすものだった。
 夕暮れ時。
 氷鬼の出た山に、陽が沈んでいく。
 きっとこの村なら迎える新年も、温かいものになるのだろう。
 温もりを知らずに山を荒らした氷鬼と違って誰もが温もりを知っているのだから。