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■オープニング本文 ●凍りついた空穂 農作物の収穫も終わった畑に雪が降り積もる。 あぜ道に沿って数本の樹木がまばらに植えられた場所は冬の寒さも手伝って人気がない。 そんな中炭を買いに行った親子が街から帰ってきた。 「……あれ、何か……木が増えてないか?」 「そういえば……」 記憶にあった畑の光景と少しだけ違う。 そう、木が増えている。 朝通った時は一本寂しげに立っているだけだった木が、六本に。 「おかしいな……」 「道はあってるよね?」 沢山の氷柱が下がった若木だ。 「……ねぇ、もしかして」 「……あぁ。アヤカシかもしれない。急いで開拓者ギルドに退治を頼もう」 親子は慌ててきた道を引き返す。 アイスツリー――氷雪樹とも呼ばれる植物型のアヤカシだ。 アイスツリーはまるでその動きを察知したように子供に向かって氷柱を飛ばした。 「父ちゃん!」 「走れ!!」 父親が手を取って走り出す。 雪に足を取られながら折角買った炭を放り出す勢いで必死に走った。 そのままの勢いで開拓者ギルドに飛び込んできた親子を開拓者達は少し驚いたように見つめた。 「アヤカシが……アイスツリーが、村に向かう途中の畑に……!」 数は五体。 木は六本あったが一本は本物の木である事が分かっている。 「それと……最近近くでスノーサイズを見かけたって人もいて……」 スノーサイズは数匹から十匹程度の群れで行動する真っ白な毛皮に包まれたイタチやテンに似たアヤカシだ。 「凡その数は分かりますか?」 「はっきり見たのは四体だって聞いたけど……」 「分かりました。手の空いている方に退治をお願いしましょう。まずは汗をお拭きになって、体を暖めてください。 風邪を引いてしまいますよ」 その気遣いに親子は季節にそぐわぬ汗をかいた事に初めて気付き、助かったという安堵でその場に座り込むのだった。 「炭を、切らしてしまって。早く帰らないと家族が凍えてしまうんです……どうか退治をお願いします……」 父親の真剣な顔つきに子供も事態の重さを悟ったのかしゃんと背を伸ばして頭を下げたのだった。 |
■参加者一覧
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
アーディル(ib9697)
23歳・男・砂
墨雪(ic0031)
25歳・男・騎
ジン・デージー(ic0036)
16歳・女・武
白葉(ic0065)
15歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●真白き世界、樹木は雪の葉を戴いて アヤカシから逃げてきた親子をひとまずギルドに残して村への帰り道の途中にあるあぜ道を目指すのは五人の開拓者だ。 「……どう戦うべきか、難しいですね」 無表情で呟く白葉(ic0065)だがそれなりの数のアヤカシとの戦いを楽しみにしているようだ。 ギルドでもアイスツリーと普通の樹木の相違点を詳しく聞いていたほか、ことの発端となった親子にアイスツリーの様子や配置について細やかに聞いていたのは好戦的な性格と慎重さが同居しているからだろうか。 「寒い時期に寒いアヤカシですかー。 視覚的にも物理的にも寒くて辛そうですねー。 早いとこ片付けて、温かいお汁粉でも食べに行きましょうー」 ジン・デージー(ic0036)がのんびりした口調で続ける。 足元はかんじき。 ジンだけでなく全員がかんじき装備である。 『足元が悪いから』という理由でギルドから一時的に貸与されたものだ。 「……雪の日の寒さは別格だ。命にも関わる。 父子には一刻も早く家族のもとへ帰ってもらいたい」 冬の最中に炭を切らせば暖をとる手段はかなり限られてくるだろう。 墨雪(ic0031)は親子が街に来た理由を思い出しほんの僅か眉根を寄せた。 「街へ続く道にアヤカシか……。 村に被害が出る前に退治しないとな」 アーディル(ib9697)が雪を踏みしめながら周囲を警戒する。 そろそろ親子がアイスツリーと遭遇したという辺りのはずだ。 収穫を終えて雪帽子を被った農地にはさまれるように細い一本道があり、その道が村から街に出る唯一の道だった。 正確には通ろうと思えば他を選ぶことも出来るが人の足によって踏み固められ、歩きやすいようになった雪道は此処だけなのだ。 遮蔽物のない田園光景が延々と続くため道を外して吹雪に吹かれるなどのアクシデントがあると途端に方向感覚が狂わされる。 遭難は決して雪山限定の恐怖ではないのだ。 「……アイスツリーはあれのようだな。スノーサイズも出るということだったか。 場所を特定しよう。少し待ってくれ」 心眼を使ってスノーサイズの潜んでいる場所を探るのは琥龍 蒼羅(ib0214)で、他の四人は彼の邪魔にならないよう足を止めた。 「……見つけた。おびき出す。分担して対応しよう」 一見何もないように見える雪原に足を踏み出すと真っ白な体毛に包まれたイタチやテンに似た姿を持つアヤカシが鋭い牙で切り裂こうと襲い掛かってきた。 雪折によるカウンターで迎撃する間にスノーサイズの群れが雪の中から飛び出してくる。 スノーサイズの動きに呼応するようにアイスツリーもまた得物を喰らおうと行動を始めた。 枝先の氷柱が意思を持つつぶてのように、あるいは刃物のように飛び交う。 アーディルが一番端に陣取っていたアイスツリーに向けて魔槍砲「アクケルテ」の砲撃を撃ちこむ。 命中率の高さを誇るその砲撃はあやまたずアイスツリーの幹にめり込み、氷柱の勢いが若干殺がれる。 その隙に敵の懐に潜り込み砲撃を受け止めた箇所に向かって槍を振り下ろす。 ダメージを同じ箇所に集中させ、損傷が激しくなったら切り倒すつもりだった。 近くでは墨雪が別のアイスツリーに大剣の尺を活かした突き技で打撃を与えている。 衝撃で枝に積もった雪が音も立てずに地表へ落ちる。 お返しとばかりに飛んできた氷柱をかわし敵の回避が困難になるほどの至近距離まで近接し、命中率が下がる代わりに威力が上昇するスマッシュを確実に当てる。 「……伐採、させてもらいます」 白葉は短く宣言すると最短で近づける位置にいたアイスツリーに自身の攻撃力を上昇させ、攻撃対象の受防を低下させた状態で霊斧「カムド」を振り下ろした。 緑青色の鈍く冷たい輝きを放つ斧頭が得物を屠る喜びに輝きを増したようにも見える。 氷柱が白葉の頬を切り裂き、その折に突風が生じて身体を飛ばされそうになるが白葉は枝を掴んで耐え、斧で斬れる間合いを維持する。 アーディル、墨雪、白葉の猛攻によってアイスツリーはほぼ同時に瘴気へ還った。 残り二本のアイスツリーのうち一本に白葉が、もう一本に墨雪が向かったのを確認してアーディルはスノーサイズの討伐へ助力に向かった。 「怪我してる方の治療しちゃいますねー。数が一気に減ったとはいえ油断は禁物ですからー」 ジンが浄境を使ってアイスツリーの氷柱で受けた裂傷やスノーサイズの牙や尾で出来た傷を癒す。 「助かった。礼を言う」 「どういたしましてー。さて、私も戦線復帰しますかねー」 大薙刀をスノーサイズに振りかざすジン。 「こんにゃろー、これでどうだー」 一見無造作に振るっているようだが長柄武器が味方に当たったり味方の行動を阻害したりしないように注意はしてあるため戦闘はスムーズだった。 アイスツリーの攻撃範囲からスノーサイズをおびき出すことに成功した蒼羅は攻撃した直後に武器を鞘へ収め、反撃の際に威力を増した状態で自分が負った手傷以上の傷をスノーサイズに負わせていた。 「足場は少々悪いが……、俺の戦い方なら動き回る必要は無い」 攻撃される時に半歩身を引く、あるいは半歩踏み出すことで受けるダメージを最小限にしながら自身は最大の威力で反撃する。 スノーサイズが二体同時に屠られ、辺りに一瞬瘴気が立ち込めた後すぐに消えうせる。 攻撃対象がアイスツリーからスノーサイズに変わったためアーディルは武器をアクケルテから小回りの効くフリントロックピストルに切り替えていた。 「スノーサイズは後二体、か」 飛び掛ってきたスノーサイズに照準をあわせると引き金を引く。 空中で痛みに身をよじるスノーサイズに更にもう一発。 冬空に銃声が響き、余韻が消えるころにはスノーサイズもまた存在を消していた。 「のこり一体……」 蒼羅の方を確認すれば武器を鞘に収め、飛び掛ってきたアヤカシを流れるような動作でかわした後斬竜刀「天墜」によって両断したところだった。 「さすが……だな」 大剣「バーバリアン」を振るいアイスツリーと交戦しているのは墨雪だ。 アヤカシが瘴気と化すまで何度も剣を打ち込む。 その際弱々しい反撃があったが墨雪はアヤカシの排除に集中して負傷を無視した。 氷柱が操り手を失って地に落ち、アイスツリーが瘴気に還るとその手を止める。 「命は大事ーマジでー」 彼方此方に切り傷に似た怪我を負った墨雪にジンが浄境を使用して傷をふさぐ。 「すまない」 「いえいえー」 仲間たちがそれぞれ戦いを終え加勢しようと白葉の許へ向かうとこちらもちょうど片がついたところだった。 カムドを根に近い幹に振り下ろすとアイスツリーが傾いで倒れながら瘴気へ変貌していく。 交戦場所となった畑は収穫を終えたことが幸いだった、と言える程度には荒れているが雪が緩衝材となっていたため雪が溶ければ特に害はないだろう。 「スノーサイズが他に潜んでいないか、一応確認してくる」 蒼羅が心眼での探査を行っている間、アーディルは親子が落とした炭の束を探していた。 戦闘中誰かが踏みつけて大きく体勢を崩したという様子はなかったようなので探せばあるかもしれない、と思ったのだ。 貧しい農家の親子にとってもう一度炭を贖うのはそれなりに手痛い出費になるだろう。 「……あぁ、あった。これだ」 本格的に襲われる前に放り出して逃げたのがよかったのか、しっかりと包まれていて雪に湿気た様子もない。 残りの冬を暖かく過ごせるように大量に買い込んだ炭はそれなりに重量があった。 それはもしかすると炭本来の重さに加え、炭が熾す火によって護られる命の重さも感じ取ったからなのかもしれない。 「スノーサイズはいそうですかー?」 ジンが問いかけると蒼羅はゆっくりと確認するようにもう一度周囲を見渡し、首を振る。 「いや、此処にはいないようだ。群れる習性のあるアヤカシだからもしかしたら、と思ったのだが……」 「全て討伐できたと考えていいのでしょうか」 白葉の問いに全員が暫し黙考する。 「はっきり姿を見たのは四体という話だったな。その四体は退治できた。周りに隠れている様子もない。 群れで行動するアヤカシだ。全て討伐できたと考えたいが……」 「これ以上は確認のしようがない、かな。 取りあえず報告もあるし一度街へ戻らないか。 あの親子だって早く帰りたいだろうし」 炭を切らした家で家族が凍えていないか心配でもある。 「なんだったら親子が帰るときに護衛してもいい。送ったあと改めて探索すれば手がかりが見つかるかもしれないからな」 「お汁粉は後回しですかねー。引き受けた仕事はスノーサイズとアイスツリーの退治、ですから確証が持てませんとー」 お汁粉が遠ざかったことを少し残念そうにしながらジンが同意する。 「ギルドに駆け込んできたお父さんとお子さんと、その家族さんにも安心してぬくぬくして欲しいですからねー。 護衛と調査が終わったら皆さんも甘味処へご一緒しませんかー? 疲れたときは甘いもの、ですよー」 和やかな笑顔に戦いの緊張が一時緩み、同意を示した開拓者たちはまず親子の待つギルドへ向かった。 ●寒さ厳しく、笑顔暖かく 「あ、お帰りなさい!」 「お怪我はありませんか?」 開拓者ギルドに報告に戻ると真っ先に依頼人の親子が気付いた。 「全滅させることが出来たと思うがスノーサイズの群れが実際何匹いたのかが分からないから念のため護衛した後もう一度探査する予定だ」 護衛、ときいて恐縮する親子に気にするな、と開拓者たちは告げる。 「それと、これ。湿気てないからすぐ使えると思いますよ」 アーディルが包まれた炭を掲げると親子は何度もお礼を言った。 「有難うございます。何から何までお世話になってしまって……」 「これも仕事ですから。さぁ、村へ行きましょう。 ご家族がお待ちなんでしょう?」 「は、はい……」 「よかったね、父ちゃん」 「あぁ……」 アヤカシから逃げて助けを求めるために駆け込んできたときとは別の汗が父親の顔に浮かびかける。 「冬は寒いですからねー。あったかいもの食べて家族仲良く過ごしてくださいねー」 「は、はい」 開拓者たちの朗らかな笑みに親子もようやく緊張が解けたのか笑顔の花が咲いた。 |