雪が見せた幻影
マスター名:秋月雅哉
シナリオ形態: ショート
EX :危険
難易度: やや易
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/12/10 10:56



■オープニング本文

●雪月花の想い
 遠い昔。或いはずっと先の夢だろうか。
 雪と花が舞う中、愛しい人と並んで月を見た気がする。
 夢か現かも分からない曖昧な記憶。
 景色がとても綺麗で、胸が痛くなるほど切なさがあふれて。
 隣で微笑む彼女に触れたいと手を伸ばしても届かない。
 すぐ隣にいるのに。
 吐息さえ感じられる距離。
 温もりさえ分かる距離なのに。
 どうしても、触れることだけができない。
 夜ごと日ごとに見る夢を確かめたくて初雪が降った日の翌朝、山に向かった。
 夜までにあの景色を見つけなければ。
 『彼女』はきっと其処にいる。
 私を待っているのだから。

●夢壊れ、傷跡残り
「雪幻灯の群れが人里近い山に姿を見せたそうです」
 集まったギルドのメンバーに情報が開示される。
「情報が寄せられたのが今日の昼なのですが……困ったことが一つ。
 夢に見たという美しい景色を求めて男性が一人その付近を目指していることが先ほど分かりました。
 雪幻灯はご存知のとおり見る人が好む幻を作り出す力をもっています。
 男性と雪幻灯が遭遇すれば男性は願いが叶ったと思い込んだまま殺されてしまうでしょう。
 男性の保護と雪幻灯の討伐をお願いいたします。
 今から件の山中へ行けばぎりぎり日没に間に合います。
 男性も雪幻灯もそれ程分け入った場所には行っていないはずですから探せば恐らく間に合うかと。
 夜間の戦闘になる可能性が高いので灯りの用意と防寒対策をしっかりなさってくださいね。
 ――男性は『雪と花が舞う中愛しい人が隣にいる』という夢……或いは昔の記憶を頼りに山を彷徨っているようです。
 朝から歩き続けてきっとお疲れでしょうし雪幻灯に遭遇したら怖い思いをされるでしょう。
 少々無用心ですからお説教もちょっとだけ必要かもしれませんが……出来たら労わってあげてくださいね」
 では準備をお願いします、そういって雪幻灯の目撃情報の寄せられた山への地図の写しを配って歩く。
「そうそう。雪幻灯の数は五体だそうです。お気をつけて」
 そろそろ本格的に冬ですね――……そう言って男は空模様を伺うように天を仰いだ。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
平野 譲治(ia5226
15歳・男・陰
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎
ネロ(ib9957
11歳・男・弓


■リプレイ本文

●夢壊す者、夢護る者
 そろそろ山を降りなければ山の中で夜を迎えることになる。
 深入りしては危険だ。
 自分は山に対して素人で、雪山の危険を漠然としか知らない。
「もう少しだけ……」
 雪が降り始めていた。その中で紅く輝く五対の……あれは、瞳?
「…いた! 駄目! それはアヤカシだよ! 下がって!」
「今はそこにおとなしく待っていろッ、話は後だ!」
 雪幻灯の瞳に魅入られたように立ち尽くす男性にリィムナ・ピサレット(ib5201)とラグナ・グラウシード(ib8459)が呼びかけ、振り返った男性をネロ(ib9957)が素早く後方に引きずる。
 突然現れた五人の男女に男性は戸惑っているようだったが開拓者であることとギルドの依頼で雪幻灯の退治及び救助に来たことを告げると大人しく邪魔にならない位置へと避難をする。
 男性の前にネロが立ちはだかり弓を構え、ラグナはそんな二人を庇うように前列へ。
 リィムナは後列へ移動すると敵からの攻撃に備えて味方全員に防御力が上昇するホーリースペルをかけた。
「記憶をなくした青年……。想いはそのまま、なりか。
 なればっ! 様々な道を示すがおいらの役目っ!
 全力で助けるなりよっ!」
 平野 譲治(ia5226)は持ってきていた毛布を男性に巻き付けてから戦線へ。
「記憶を失い、自らがよって立つものがないというのは不安なんだろうが、少し早まったな」
 羅喉丸(ia0347)がたしなめるように男性に告げた後雪幻灯へ視線を転じた。
 雪幻灯が狩りを邪魔した五人に向かって飛び掛ってくる。
 羅喉丸が松明を片手に先頭の一頭に鋭い蹴りを放つと大型の雪幻灯は吹き飛びこそしなかったものの迫る勢いを弱めた。
「雪幻灯が作り出す人が好む幻か。
 かつて、厳しくも優しかった師匠と修行に励んだ苦しくも楽しかった日々か、それとも、栄光の未来か。
 ……いや、いらないな。
 例えどれだけ辛かろうが、道に迷い、しばし休む時があろうが、信じて歩き続ける事にこそ意味がある。
 所詮、紛い物は紛い物、自らの手で掴まなければな」
 自分に言い聞かせるように小さく呟きながらも攻撃は止めない。
 最小の動きで最大の効果を発揮する蹴り技を繰り出すたび松明が作る明かりが僅かに揺れる。
 譲治の呪縛符によって生まれた小さな式が雪幻灯の四肢に組み付いて動きを束縛するとそこにオウガバトルによってオーラを全て放出することで鬼の如き戦闘力を発揮できるようになったラグナが斬りかかる。
「私の大剣の前には、貴様らなどただの紙切れだッ!」
 矢を引く際に精神統一を行い、射撃の寸前に周囲の気を自身に集中させることで攻撃力を高めたネロの弓術が雪幻灯の目を射抜いた。
 リィムナが弱っていた一体をアークブラストで射抜くと瘴気が立ち上ってアヤカシは消えた。
「食らえ雷の牙、ライトニングブラストー!」
 アークブラストを四連射するリィムナの必殺技に残り四体のうち一体の動きが明らかに鈍る。
 その一体の弱点に攻撃を打ち込んだのは羅喉丸だ。
 どう、と雪幻灯が雪を散らして倒れ、すぐに瘴気が立ち上る。
 これで残りは三体。
「これでも食らうなりっ!」
 陰陽師の術の行使を助ける篭手型の呪術武器陰陽甲「天一神」に埋め込まれた宝珠から青白い燐光が立ち上り雪幻灯を直撃する。
 三体目の雪幻灯は忌々しそうに赤い目で開拓者たちを睨みつけたがその姿が瘴気となって消えていく。
「消えろッ!」
 ラグナの操る二メートルを超える深紅に染まった両手剣がアヤカシを一刀両断にする。
 二つに別たれたアヤカシはその断面から瘴気に変わってこの世から消えた。
「あと……一体……」
 陽の光の下では仄かに黄色い輝きを見せる白銀の弓は月光の下では雪に似た輝きを放つ。
 ネロの神弓「ラアド」が放った矢の軌跡は一瞬、稲妻のように青白く光って雪幻灯の額に吸い込まれるように刺さり、最後の一体が大きくのけぞりながらその身体を維持できず瘴気へ還った。
 戦場の後は足跡でやや美しさを損なった雪原だった。
「終わったな……第一幕は」

●追い続ける限り『夢』は其処に。貴方と共に
『第一幕は』という言葉に男性が怯えたように辺りを見回す。
 自分には感知できていないだけで五人の開拓者には新たな敵が見えているのかと不安になったのだ。
 些か短慮でろくに用意も知識も持たないまま雪山に入り込み、アヤカシとの戦闘を目の当たりにして今更命の危険が身にしみたらしい。
「記憶を失っても……見たい、景色。
 ボクにはまだそんなもの、ないけど。
 それは……とっても大切な、もの……だから」
 一番男性の近くにいたネロがゆっくりと振り返る。
 黒猫の面に阻まれてその表情をうかがうことは出来ない。
「……行こう? きっと、見つかる……から」
「え……?」
「探し物をしているんだろう? 手伝ってやる」
 ラグナに促され男性は山を訪れた目的をポツリポツリと語りだす。
 十代半ばで記憶を失い、それから冬が来るたびにみる夢のことを。
 月光の中、花と雪が舞う美しい場所で愛しい人とその景色を見る、という現実だったのか単なる妄想なのかすら分からない光景。
「雪と、花が舞う……?何の花だろう」
 冬に咲く花といったら山茶花や椿だろうか、とラグナが首をかしげながら呟くとネロが地図を取り出した。
 何箇所かに赤い印がついている。
「これは?」
「月が綺麗に見える場所……あと、雪の中で咲く花がある場所。
 ギルドの人に頼んで……調べてもらった」
「ネロ、ナイス! 夜の雪山だし、しかもアヤカシがいるかも知れない場所に一人で行くなんて駄目だよ!
 今回は間に合ったけど……毎回助けてもらえるかなんて分からないんだからね!」
 自分の半分も生きていないであろう少女のリィムナにたしなめられ、男性は気まずそうに頷く。
「でも折角だから探しに行こうよ。記憶、取り戻せた方がうれしいもんね」
「え……?」
「辛いことでも、楽しいことでも。記憶っていうのは自分が生きてきた証だから。
 取り戻せるなら取り戻したい。……違う?」
「……いいえ。違いません。私は記憶を取り戻したい」
「ならば急ごう。雪山で一夜を明かすのは避けたい」
 六人は月明かりと持参した照明を頼りに夜の雪山をアヤカシに警戒しながら歩き出した。
「記憶をなくすって、どういう感じなり? おいらにはちょっと想像がつかないのだっ!
 ……んと、そんなに過去の記憶が欲しいなり? 世の中には知らなくて良いこともあるなり。
 昔にしがみつくより、これからの何を成そうって考えた方が面白いなりよっ!」
 歩きながら譲治が男性に問いかける。
「……そうですね。未来は確かに大事です。
 後ろばかり振り返っていては駄目だということも、分かっているつもりです」
「それならどうしてこんな無茶をしたなり?」
「空白を、埋めて。自分のことを、きちんと知って。家族がいるならどうして離れ離れになったのかを知りたいですし今どうしているかも気がかりで。
 過去に向き合って、それで初めて未来に向かって歩き出せる。
 そんな気がするんです」
 上手く言えないのですけれど、と男性は困ったように眉を寄せて微かに笑う。
「記憶を失うか、俺も武術を忘却してしまったらどうなるんだろうな」
 羅喉丸の言葉にしばらく全員が自分の過去を振り返る。
 昨日までの自分が、ある日突然記憶から欠落してしまったら、と。
「……ところで、あの。一つ気になっていたことがあるのですが」
 しんみりした空気の中男性がおずおずと切り出す。
「なんだ?」
「ラグナさんのその格好は……」
「ふふっ、もふもふふわふわでかわいいだろう?」
 しろくまんとと雪うさぎの帽子というのだ、と胸を張って答えたラグナにはぁ、と男性が目を瞬かせながら答える。
 因みに彼が背負っているうさぎのぬいぐるみの名前はうさみたん。
 今日も一緒でぴょこん、と顔を出している。
 長身で精悍な顔つきのラグナだが身に着けているものはどこかファンシーだ。
 ……主に名前が。
「アヤカシに遭遇した後だというのに意外と豪胆というか……肝が据わっているな」
 羅喉丸が感心と呆れが半分半分といった調子で語りかけると男性は苦笑を返した。
「おいらの『まるごとくまさん』も暖かさでは負けていないなりよ!」
 熊の毛皮から作った全身をすっぽり覆うきぐるみを着て胸を張る譲治は対抗意識を燃やしているのだろうか。
「……動き難くないんですか?」
「大丈夫なりよ?」
 毛布でぐるぐる巻きにされた蓑虫状態の男性と。
 熊のきぐるみを着たそれなりに熊っぽい格好の少年と。
 白熊の毛皮がふんだんに使われた真っ白なマントを羽織り、雪うさぎを模した帽子を被ってうさぎのぬいぐるみを背負った大剣使いの青年が雪山での防寒対策について語り合いながら進むさまをみてリィムナは思わず額を押さえた。
「聞く限りとってもロマンチックな光景を探してるはずなんだけどなぁ……」
「まぁそういうな。防寒対策を怠って凍傷を起こしたり凍死したりするよりはいいだろう」
「……ロマンと現実の間には……深い深い溝が、あるもの、だよ……」
「……そうかもしれないけどなんというか……。あ、地図の印、この辺りじゃない?」
 少し先に開けた場所があるのだろう。
 月明かりが差し込んでいるのが見える。
 それまで和やかに談笑していた男性の顔が微かに緊張を帯びる。
「大丈夫だよ」
「大丈夫だ」
「勇気を出すなり」
「私たちがついている」
「……大丈夫、だよ」
 共に歩いてきた開拓者に励まされ、男性が一歩踏み出す。
 山茶花の花が風に揺れていた。
 月光の中、木に降り積もっていた粉雪が風に乗って舞う。
「あ……」
 立ち止まった青年をそっと追い越すと両手に薄桃色の薔薇の花を持ち、恋人の前ではしゃぐ少女の様にくるくると踊ってみせるリィムナ。
 笑顔を立ち尽くした青年に向けながら。
 男性は食い入るようにその景色を眺め、リィムナ以外の開拓者はそんな男性の背中をそっと見守っていた。
 やがて踊り疲れたリィムナが男性に寄り添う。
「……有難うございます」
「役に立てた?」
「えぇ」
 記憶が戻った、とも戻らなかった、とも男性は言わなかった。
 ただ懐かしそうに月に照らされた中、花と雪が舞う景色を眺めていた。
「……『夢は追い続ける限り叶う可能性を秘めている』」
 恐らく無意識にだろう、男性が呟いた。
「昔言われたことです。……だから私はこれからも夢を追いかけ続けようと思います」
 それが叶えたい夢、なのか。
 それとも眠った時にみる泡沫の夢、なのかは告げず。
 一度目を閉じてその景色を脳裏に焼き付けると男性は振り返って、笑う。
「有難うございました。下山、しましょう。色々とご面倒をおかけしました」
「満足……できた?」
 ネロの問いに男性は深く頷く。
「もう焦がれるのは終わりです。これからは前を向いて歩いていける」
「答えがみつかったなら何より、なり」
「身体が冷えているだろう。強張った身体ではいざというときの対応が遅れる。気をつけて山を降りるぞ」
「新たな一歩を踏み出すための一助とならんことを」
「さ、帰ろう? 皆心配してるよ。朝から山歩きしてたんでしょう?」
「はい」
 帰り道は言葉少なくただ歩いた。
「綺麗な景色だったね」
「はい」
「でもまた見たいからって一人で山の中に入っちゃ駄目だからね?」
「分かっています。……安心してください。幻影に惑わされることは、もうありませんから」
 男性の家まで送るともう二度と危険な真似はしないようリィムナが釘を刺す。
「今日は本当に有難うございました」
「まぁ、綺麗な景色を見れたし人助けも出来たし構わないさ」
 羅喉丸の言葉に全員が頷く。
「じゃあ、ギルドに報告に行くか」
「皆さん、お気をつけて」
「風邪、引かないように……ね」
 開拓者の五人が去った後男性は一度だけ空を見上げて家の中に入る。
 満月が星を従えて夜の村をひっそりと照らしていた。
 六人が月と雪と花を見た空き地にも、月の光は等しく降り注いでいることだろう。
 幻影を追いかけ続けた男性に、一つの答えを与えて。
 その答えは、男性の胸の中に刻まれ、語られることは恐らくない。
「……有難う。呪縛を、解いてくれて」
 火をおこしながら男性は一人そっと呟いた。