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■オープニング本文 ●山は紅に燃え 「折角秋ですし紅葉狩りにでも行きませんか」 ずず、とお茶をすすってギルドから持ち掛けるにしては平穏すぎる話題を口にしたのは宮守 瑠李(iz0293)だ。 「今なら多分栗とか柿とか知識ある方ならキノコとかも取るのにいい季節だと思うんですよね。どんぐりも曳いて粉にして料理に使えるんでしたか。今回見つけた場所は紅葉が綺麗なのと近くに滝と小川があるので釣り道具を持っていけば渓流釣りも楽しめると思いますよ」 人混みが苦手な方は少し山登りすることになりますが頂上付近の、開けた場所で静かに過ごすのもいいかと。 「最近色々と物騒ですしね。少しは骨休めして……えぇと、命の洗濯はお風呂のことらしいですが……魂の洗濯、ですかね。リフレッシュするのもいいと思うんですよ。新米のおにぎりとか持って行って行楽、とか秋ならではじゃないですか」 紅葉の林を抜けて少し行った先にコスモス畑と曼珠沙華の群生地帯もあるみたいですよ。 そういった後サボり魔のギルド職員はにっこりと笑った。 「もうじき冬が来て厳しい寒さと戦いつつアヤカシとの戦いも氷系のアヤカシが増えたりで頻発しそうですからね。過ぎゆく秋を最後に楽しみに、いきませんか?」 |
■参加者一覧 / 礼野 真夢紀(ia1144) / アムルタート(ib6632) / 朧車 輪(ib7875) / ジョハル(ib9784) |
■リプレイ本文 ●山が燃えていると錯覚するほどの紅葉の中で ギルドのサボり魔職員、宮守・瑠李(iz0293)が見つけてきた紅葉狩りのスポットは今が盛りとばかりに美しく染まった紅葉が山をにぎわせている。 春に芽吹いた淡い緑の時期の山も、盛夏の生命力に満ちた濃い緑色の山も、冬の落葉樹の葉が落ちて雪の花が咲いた山も、それぞれに趣はあるが紅に染まった山も美しいことには変わりない。 すこし風は冷たいがその分日差しは秋にしては温かく、絶好の行楽日和といえた。 秋の花もあちこちで見られ、秋を満喫するにはいい一日になる事だろ。 礼野 真夢紀(ia1144)はオートマトンのしらさぎと一緒にそんな秋の山を散策していた。 『ドングリ、食べられる?』 開拓者ギルドでこの誘いを聞いた時に瑠李が曳いて粉にすれば食べられるのでしたか、と食の秋の楽しみ方の一つとして挙げたのを覚えていたのだろう。 「うん、あく抜きすればね」 食べることが好きであり自分自身の料理の腕もかなりのものの真夢紀が瑠李よりはるかに手順に詳しい様子でしらさぎにどんぐりを使った料理の作り方や調理法を教えている姿はなんだか微笑ましい。 『宮守サン、新米のおにぎりって言ってたね』 「折角だから作ってきては見たけど…いるかな」 『うめぼし、やきしゃけ、しょうがのつくだに……クリとキノコは?』 メジャーなものから通が好みそうなものまでしらさぎが指折り数える。 「今回は新米のおにぎりだからおかずにしたわ」 栗は渋皮煮とあとは鳥とサツマイモの煮ものにして。キノコは春雨と残りの甘唐辛子と人参と玉ねぎでオイスターソースで炒める。 焼き卵にはネギを入れて、牛肉は豆と人参とゴボウを巻いたおかずが今日のお弁当の献立だ。 「温かいスープもここで作ろうか。日差し暖かいけど気温はそんなに高くないし」 鶏がらスープを竹筒に入れて鍋と七輪を持っていき、具材は白菜と玉ねぎ、それから現地で調達したキノコ。 『マツタケ、見つかる?』 「マツタケは多分網焼きにしてちょっとお醤油落としたほうが美味しいわよ」 てきぱきと料理の支度を整えていると「美味しそうですね」と声がかかった。 『宮守サン』 「こんにちは、しらさぎさん。真夢紀さんは本当に料理が得意なんですねぇ」 「新米のおにぎりを食べたいようなことを言っていたので作ってきてみました」 真夢紀の言葉に瑠李は驚いたように目を見張った後嬉しそうに笑う。 「何気ない一言のつもりだったんですが覚えていてくださったんですか」 「よかったら一緒にどうですか?」 「そうですね……ではお言葉に甘えて。何か持って帰るものがあるなら探すのを手伝いますよ」 「えっと、キノコの知識はありますか?」 「専門ではないですが……あ、マツタケの生える場所なら知っていますよ。マイタケも」 「じゃあそこへの案内と収穫のお手伝いをお願いできますか?」 「はい、喜んで」 縁談攻撃が落ち着いたのかサボっている他は最初に会った頃の様な穏やかで落ち着いた様子の瑠李を交えて昼食会が始まった。 「新米って水加減難しくないですか?」 「慣れてしまえばそうでもないですよ」 「家事スキルが高いですね……自炊すると大概しばらくは失敗しますよ、私」 『宮守サン、不器用サン?』 「はは、そうかもしれません」 しらさぎにざっくり切られて瑠李が困ったように笑う。 「美味しいご飯を有難うございました。キノコ狩りに行くときはご案内しますので声をかけてくださいね。楽しい時間に感謝を」 片づけを手伝った後瑠李が一礼して立ち去る。 『宮守サン、今日は元気だったね。珍しい』 「ご実家が忙しいのかな。宿屋だったと思うけど……」 『宮守サンが元気だと、不思議な感じ』 「ちょっと否定はできないけどそれは流石に失礼だよ、しらさぎ」 苦笑交じりにしらさぎをたしなめる真夢紀だったが否定できないレベルで屍化している可能性が高いのが瑠李だった。 ●親子の団欒 朧車 輪(ib7875)とジョハル(ib9784)は義理の親子だった。 せっかくの誘いだし楽しもう、と二人で紅葉の見える渓谷にやってきている。 輪は義父を喜ばせようという一心で母にも手伝ってもらってお弁当を作ってきていた。 今回は焦げていないし、調味料も間違っていない。美味しくできたと思うのだが父は喜んでくれるだろうか。 輪と一緒に住むようになって料理を教えてきたのはジョハルだ。 「お弁当、お母さんと一緒に作ってるからちょっと待ってね……あ、内緒にして山でびっくりさせるつもりだったのに言っちゃった……」 朝からバタバタしていたので様子を見に行った時にかけられた言葉を思い出してジョハルの口元に注視しなければわからない程かすかな笑みが浮かぶ。 (美味しいものを作ろうと奥さんと頑張ってくれたんだな。可愛かったしこういうのは嬉しいものだよね) 血がつながっていないとはいえ大切な娘が自分のために作ってくれた料理だ。嬉しくないはずがない。 「ちょっと早いけどご飯にしようか? ずっと楽しみにしてたんだ」 「うん。手伝ってもらったし美味しくできたとは思うけど美味しくなくても笑わないでね?」 「笑うわけがないだろう。この世で一番の調味料を教えてあげようか」 「え? 何?」 「その人を思って作る心……愛情、かな。それに空腹」 「うん。愛情はたっぷりだよ!」 屈託なく笑う輪の頭をなでて日当たりのいい場所に生えた紅葉の木の下に茣蓙を敷いて弁当を広げる。 輪が緊張して見守る中ジョハルがおかずを一口。 「うん。美味しいよ。料理の腕が随分上達したんだね」 「ほんとう? 嬉しいな」 「飾り付けも綺麗にできてるしリンゴがウサギになっていて凝っているね」 「うん、あのね、この飾り付けも、リンゴをウサギさんにしたのも私なんだよ」 ちょっと自慢げに胸を張る輪にジョハルは一つずつ料理の褒め言葉を口にする。 お弁当を渡すまでドキドキしていた輪も本当に美味しいと思っていてくれるのだとわかって安心とうれしさで顔がゆるんでしまうのは止められなかった。 「おとうさんが好きなものも入っているし……上手にできたね」 娘の頭をもう一度撫でて完食すると二人そろってご馳走様をする。 「紅葉の下でお弁当も食べたし柿や栗拾いをするかい? 家へのお土産に。あとは……輪。コスモス畑に行ってもいいかな。おかあさんに贈り物がしたいな」 「家で待ってる家族のお土産に柿や栗を持って帰るの、いいと思う。コスモスもきれいね……お母さんにきっと似合うよ」 すこし離れた場所に花畑のようになっているコスモスの群生地帯を見つけて輪が目を輝かせる。 ジョハルは器用にコスモスで花冠を作って輪の頭にのせてやる。 一度頭に手をやって花冠を降ろし、改めてまじまじと見る。 色とりどりのコスモスで作られた世界にたった一つの花冠だ。 「とってもきれい。ありがと」 えへへ、と照れたように笑う娘に笑い返し、最愛の妻にはリボンで結んだ花束に仕上げる。 (……ああ。紅葉もコスモスもにじんできてしまった。見えなくなるときは……近いな) 自らの失明までに残された時間を思ってすこしだけジョハルの目が曇る。 それに気づいた輪は不安を心に閉じ込めて笑って見せた。 「お父さん、もう帰ろう?」 「もういいのか?」 「うん。だってコスモス、早く生けてあげないとしおれちゃうよ」 「……そうだね。帰ろうか」 完全に失明するまでの間、見えなくなってもどんな顔を家族がしているのか想像できるように。 今まで以上にもっとよく顔を見ておこう。 願わくばもう少しだけ。幼い娘が成長する過程を見ていきたい。 そう願いながらジョハルは輪と手をつないで帰路についたのだった。 |