アヤカシたちの晩餐会
マスター名:秋月雅哉
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/10/31 12:02



■オープニング本文

●すべては飢えを満たす、ただそれだけのために
 そのアヤカシは他のアヤカシ同様、生まれた時から常に飢えていた。
 時折通りかかった人を食らう。一瞬だけ飢えは満たされる。けれどそのあとに襲い掛かってくるのは一時でも飢餓を忘れたことによる更なる飢えだった。
 アヤカシは飢えていた。ただひたすらに飢えていた。
 そして飢えを満たすために生まれ落ちた場所を抜け出し、五感を頼りに飢えを満たしてくれる存在――人が多く存在する場所へと駆けだしたのだった。

●アヤカシと人の攻防戦
「キマイラが集落を襲っているという情報が寄せられました。すでに片手を超す数の集落が犠牲になっています。もともと孤立傾向にあった集落が狙われたことと全滅だったことからアヤカシの察知が遅れてしまったようですね」
 いつになく厳しい顔つきで宮守 瑠李(iz0293)が言葉を紡ぐ。
「数は一体ですが他の個体に比べ全体的にスペックが上のようです。特に俊敏性と破壊力は侮れないものがあります。嗅覚を中心にアヤカシの本能か何かで村を察知しているようですね。残る集落は、問題の山には一つだけ。そちらの村に出向いてキマイラの討伐をお願いしたいと思います。
 その村以外は近隣に人の生存している村は存在せず、キマイラの襲撃した後の村を辿っていくと図らずも都から遠い場所から向かってきているようなんです」
 今どこにいるかわからない以上次善の策として次にもっとも襲撃の可能性の高い場所で討ち取ってください。
 そう告げた瑠李の表情は暗い。
「鋭い爪による切り裂きや尾の蛇の毒、機動性と膂力を持ち合わせた敵です。どうか油断なさいませんよう……」
 せめてこれ以上の犠牲が出る前に討伐をお願いします。そういっていつもより深めに頭を下げたのだった。


■参加者一覧
平野 譲治(ia5226
15歳・男・陰
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
ファムニス・ピサレット(ib5896
10歳・女・巫
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂
戸隠 菫(ib9794
19歳・女・武


■リプレイ本文

●飢えを満たす。ただそれだけに
 近隣の村がすべて壊滅状態に陥った、と残ったひとつの村ではパニック状態に陥っていた。
 距離的にも進路的にも次はこの村が狙われる可能性が高いという意味で仕方ないといえば仕方ないのだが少々厄介なことになりそうではある。
 立てこもるべきか、アヤカシが来る前に逃げ出すべきか。村人たちの意見は割れて村中がピリピリした空気で満たされていた。
「久方ぶりの依頼、なりね。……んっ! 全身全霊でっ! この地を守るのだっ!」
 そんなときに村を訪れたのは開拓者の一行。目的はもちろんアヤカシの殲滅だ。
 平野 譲治(ia5226)は混沌の坩堝となっている村を駆け回り、ギルドから開拓者が派遣されたこと、不安だろうが必ず守るからアヤカシに見つからないように村の外には出ないでほしいということを知らせて回る。
「ギルドから開拓者が……? 本当に?」
「私たち、助かるの……?」
 絶望から喧嘩沙汰に発展しかけていた村人たちがその言葉を聞いて徐々に沈静していく。
 村人の不安を取り除くと同時に走り回ったことで村の地形を把握した。
「あの、俺たちはどうしたら……」
「村の中央に集まって欲しいのだっ! アヤカシが攻め入ってくるかもしれないのだっ! 動けない人には手を貸してあげてほしいのだっ!」
「わ、わかった! 力に自信のあるやつら、足の不自由な奴を村の中央に連れていくのを手伝ってくれ!」
 リーダー格らしい青年の指揮によって村に統率力が戻り不安そうな面持ちではあったが暴動などはなりを潜めている。
「まずは村人たちの安全を確保、だな。これは譲治が手をまわしてくれたようだから大丈夫か」
 琥龍 蒼羅(ib0214)はそれでも念のため取り残された村人がいないか、混乱のあまり外に出てしまった村人はいないかとチェックして回る。
 ファムニス・ピサレット(ib5896)は人だけでなく家畜類の避難誘導も受け持った。
「アヤカシは必ず倒しますから少しだけ我慢してくださいね。大きな物音が聞こえてもできるだけ声は出さないで。大丈夫です、熟練者がそろってますから」
 にこりと笑って主に子供たちの不安を消そうと試みる。
 開拓者たちでアヤカシをひきつけていても悲鳴を聞いたアヤカシが突破して村人たちを襲わないとは限らない。
「付近の村がほぼ全滅かよ。ふざけやがって。
 後手に回っちまったようだな。だがこれ以上の被害を許すわけにはいかねえ!」
 やりたい放題に近隣の住民を食らい尽くしてくれたキマイラに対して純然な怒りをぶつけるのはクロウ・カルガギラ(ib6817)だった。
 犠牲になってしまった命は戻ってこない。だからこそ全力でこの村を守らなくてはいけない、そう開拓者たちは心に誓っている。
「村が壊滅、か……もう、これ以上犠牲は出させないよ。瘴気に帰してあげる。
 キマイラ、ね。魅了も毒も、あたしには、そう簡単に効かないもの」
 戸隠 菫(ib9794)は犠牲になった人々に対して黙祷を捧げるように目を閉じて祈りを捧げた後頭をあげた。
「絶対に、守ってみせるよ。アヤカシの好き勝手にはもうさせない」
 開拓者五人の目に宿るのは強い決意と怒りだった。
「アヤカシがいつでるか分からないから交代で見張りと休息の時間を取ろう。短期間で済むなら全員起きてても問題ないけど今日来るとは限らないし」
「早めに来てほしいところだがな。村の一か所に密集させられた村人たちの疲弊と集団でいることへの精神的な負担が気にかかる」
 蒼羅の言葉に全員が頷いた。ごく一般的な村人に籠城じみた真似をさせて長く何も問題が起きないと考えないほど楽天的ではない。
 アヤカシが活発に行動するのは夜。休息をとる面々も戦いが始まった時にすぐに合流できるように見張り番のすぐ近くで休むことにする。
 譲治は敵が攻めてきそうな場所に地縛霊を設置した。それから人を集めた建物の周辺にも同じように設置する。
「多分、この辺りから入ってくるなりから、ここと、ここと、ここ……あと、この周りにも置いて置いたのだっ!」
 できる限りの手は尽くして見回りをし終わったころに日が暮れ、最初の夜がやってきた。
 ――村人たちのためにも短期決戦で済むように。
 口には出さなかったが開拓者たちの共通の思いだった。

●夜に轟く咆哮
 夜の見張りのメンバー以外が昼に備えて休もうとしたころ、咆哮がとどろいた。複数の大型の獣に似たその方向はタイミング的に考えてキマイラのものだ。
「いくぞ」
 猛るような声が聞こえたのは村の出入り口の方だ。
 怯えて窓から様子をうかがう村人たちに「大丈夫だから絶対に外に出ないで」と駆け去り間際声をかける。
 三つの頭部、獅子の体、尾は毒蛇。今まで屠ってきた村人の血の匂いだろうか。吐く息は血生臭い。
「これ以上、犠牲を出す訳にはいきません……!」
 強い決意を宿したファムニスの双眸がキマイラをにらみつける。
 アヤカシの例にもれずいくら食らってもすぐに飢餓感に襲われるキマイラは獲物が現れたと慎重に距離を測った。
 この五人に阻まれた先にもっと大勢の食料の匂いがする。
 食らって食らって食らい尽くさなければならない。たとえ一瞬でもこの飢えから逃れるために。
 キマイラの鋭い爪を備えた太い足が驚異的なスピードで振り下ろされる中ファムニスは後ろ足と翼を狙って精霊を充填し敵めがけて放つ。
 爪で切り裂くつもりだったのか、体重をかけて踏み潰すつもりだったのかは不明だが後ろ足を狙われたことでキマイラの体勢が崩れた。
 クロウはその隙を逃さず接近すると錬力を込めた弾丸を炸裂させて閃光を発することでキマイラをかく乱する。
 菫は印を組んで瞑目することにより己の身中の精霊力を満たし、外部からの干渉を立つことで状態異常にかかりにくくしたうえでクロウとの相互支援を意識しつつ後衛の盾になるように動く。
「食べさせる気はないけど、食らい尽くしたいならまずこっちから、ってね」
 閃光で視力がまだ回復しきっていないキマイラが声を頼りに菫の方へと跳躍する。
 その巨体の背後へと回り込むとうねる毒蛇を白く豪壮な幅広の刃を持つ薙刀で切り払った。
 尻尾の代わりにもなっている毒蛇を切り捨てられキマイラが苦痛と怒りの雄たけびを上げる。
 砂迅騎の短銃術に泰拳術と忍術の動きを取り入れた新たな銃術で洗練された無駄の無い動きによって銃撃と同時に装填を繰り返して敵を圧倒するクロウ。計算されつくした動きは敵の攻撃を受けるのではなくさばくことに重点を置く。
 蒼羅は眼や鼻などの急所と思われる場所を狙い影縫での投擲で味方、特に後衛の援護に回る。
 キマイラが前衛陣へと向かえば斬馬刀より数段強力な野太刀、斬竜刀へと武器を切り替えてキマイラに切りかかる。
 柄だけで六十センチ近い長さのある巨大な刀は中央の頭をたたき割るように潰した。
 譲治は機動力を殺すためと地縛霊への誘導をするため黒い壁を何度も召喚していた。
 高さも幅もある壁に行く手を遮られ、仕方なく避けて進めば地縛霊の餌食になる。
 獲物とみなした開拓者たちの反抗ぶりに苛立ったようにキマイラが両脇二つの首から唸り声を轟かせ、龍に似た頭部から火炎が吐き出される。
「他にアヤカシが出ないのは幸いだったな。錬力消費で頭を悩ませる必要がないし温存させる理由もない。全力で取りかかれる」
 蒼羅が前に出ると攻撃を誘って蒼龍閃でのカウンターを食らわせる。
 カウンター自体は成功したが鋭い爪が蒼羅の腕を抉った。
 傷の回復を図ろうとファムニスが味方に声をかけ、傷を癒す光を周囲へ開放する。術を発動した瞬間、ファムニスの体が淡く輝いた。
「助かった。礼を言う。これでまた戦うことができる」
「いえ、お気をつけて」
 キマイラの膂力で後退していた蒼羅がファムニスに礼の言葉を投げかけると再び前線へ戻っていく。
 度重なる攻撃でキマイラの機動力が落ちてきたのを見て取るとファムニスは先ほど火炎を放った龍に似た頭部に向かって精霊砲を撃ちこんだ。
 断末魔の悲鳴を上げたのを最後に二つ目の頭が沈黙し、残りは頭が一つ。
「満たされる事のない飢えを抱えて生まれた事には哀れみを覚えないでもねえ。
 だからこそ、きっちり倒してやるぜ」
 その言葉を理解したかどうか。クロウの放った刀による一撃にどう、とキマイラが倒れ伏した。
 体を構成していた瘴気が風に流れて後に残ったのは戦いの爪痕と五人の開拓者だけ。
 激しい戦いだったことを物語るようにあちこちにキマイラが突き立てた牙や爪の跡が残り、開拓者たちも回復を挟んだとはいえ無傷では済まなかった。
 通常のキマイラより強い、という事前情報があったがそれを考えれば動けないほどの重傷者が出なかった分マシと言えるだろうか。
「キマイラが万が一村人が集まってる方に行ってしまって私たちが追い付く前に被害が出ないようにと入口の辺りに積み上げた大八車や大型の農耕具、資材のバリケードを撤去して村人の皆さんに危険が去ったことをお伝えしないといけませんね」
「最後の一働きってやつだね。これでこの村は無事に過ごせるといいんだけど。犠牲になった村の方はギルドを通じて弔いとかしてもらえるのかな」
 武僧である菫は死者の扱いが少々気になるようでそんなことをぽつりとつぶやく。
「報告するときに手の空いているものに協力を依頼して読経と墓づくり位してやらんと報われんだろう」
「……そうだね」
「目撃されたキマイラは一体って話だったけどおいらは今晩一晩宿泊代を払ってここに泊めてもらうつもりなりよ。一晩に二回も襲撃されるとは思わないけど念のためなりっ!」
「一人じゃアヤカシによっては対処が難しいだろう。それに夜道は迷いかねないしな。全員泊まれるならそれに越したことはないが……」
 バリケードを撤去し、念のために一晩様子見を兼ねて泊めさせてもらえないかという開拓者の申し出は思った以上に喜ばれた。
 やはり周囲の村が全滅するほどの脅威に行き当たった後では念のためでもその脅威を倒せる存在が傍にいるのは心強いらしい。
 飢えに任せて人々を食らい尽くそうとした脅威は消え、一か所だけではあるが脅威から村を守りきれた開拓者たちはそれぞれの思いを胸に寝床を提供してくれるという村人の先導に従って平和が戻った村を歩き始めたのだった。