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■オープニング本文 ●咲き誇る色とりどりの、麗しき華 夏に咲く品種の薔薇からそろそろ秋薔薇へと移り変わろうかという時期。通年開かれていて人々の目を楽しませている薔薇園でジルベリア式の茶会を兼ねたイベントが開催される運びとなった。 迷路仕立ての薔薇園はそのまま解放し、広場を囲むように咲いている薔薇園の鑑賞スペースに椅子とテーブル、薔薇の花のお茶や薔薇をモチーフにしたり薔薇を使ったりした菓子が振舞われる。 香りを楽しむのもよし、舌鼓を打つのもよし。迷路で物語の世界に迷い込んだような感覚を楽しむのもいいだろう。 そんな風に開拓者を誘った宮守 瑠李はなぜかげっそりしていて。 「以前の薔薇園とは違った場所ですが……たぶん楽しめると思いますよ。圧力さえなければ」 彼にとって圧力とは大概の場合実家からの縁談攻撃である。 「赤い薔薇の花束を作ってもらってプレゼントをしたらどうだ、と薦められましてね。開拓者の方なら日頃から接する機会も多いだろうからこの機会に距離を詰めろとかなんとか。……花束を贈る相手はいませんが招待状は沢山送りつけられてきましたのでよければどうぞ。花を摘む事も出来るそうですよ」 意中の相手一人だけ招待するのはお前も気まずいだろうし相手も警戒するから、と言われましたが夢見すぎですよね。そもそも私、意中の人がいると話していませんし妄想もいい加減にしてほしいのですが、と流れるように愚痴をこぼしながら開拓者たちに半ば押し付けるように招待状を配っていく。 「必要なかったら知り合いの方にでも配ってください。形だけでも招待した人がいた事実を作っておかないとお説教の種が増えて拘束時間も増えてそのまま縁談に連行されそうなので」 どうやら夏バテから回復する間もなく青年の受難は続くようだがそれは関係なしに薔薇を楽しむ時間を作ってみては如何だろうか。 |
■参加者一覧 / 礼野 真夢紀(ia1144) / 叢雲・暁(ia5363) / シルフィリア・オーク(ib0350) / 三郷 幸久(ic1442) / 葛 香里(ic1461) |
■リプレイ本文 ●移りゆく季節は風に薔薇の香りを乗せて 爽やかに晴れ渡った晩夏のある日。広大な敷地を誇る薔薇園でジルベリア式の茶会が催されようとしていた。 盛夏に咲く品種から晩夏に咲く品種、そしてそろそろ初秋に咲く品種が蕾を膨らませようかという頃合。一年を通じて季節ごとの薔薇を楽しめるこの薔薇園は隠れた名所でもある。 縁談から逃げ回っているサボり癖のあるギルド職員、宮守 瑠李(iz0293)から流れるような愚痴とともにこの茶会への招待状を押し付けられた開拓者や押し付けられたものの処理に困って流れ出した招待状を受け取って訪れた者。経緯は様々、楽しむ目的も様々である。 礼野 真夢紀(ia1144)は時折そうしているようにからくりのしらさぎを連れて薔薇園にやってきていた。 『ミヤモリさん、キョウもエンダンからニゲてるの』 「そうみたい。偽装結婚するかご家族さんがそうそう来れないような思いっきり遠方のギルド出張所へ移転願い出したほうがいいんじゃないかしら」 『マユキ、ケッコンする?』 「あたしは無理よ。『あと十年早く生まれていれば』なんていわれちゃったしね」 因みに真夢紀と瑠李では外見年齢は十五歳近く離れている。仮に偽装とはいえ結婚でもしたら家族から別の攻撃が飛んできそうな上にギルド職員仲間から色々言われそうな年齢差であるのは間違いない。 そんな漫才めいた、冗談交じりのお茶会を楽しんでいた二人のもとに訪れたのは顔見知りのシルフィリア・オーク(ib0350)だった。 人見知りの人妖、小鈴が少しでも人に慣れるようにと同伴させていた彼女は折角なので真夢紀としらさぎのテーブルによらせてもらうことに。 薔薇園に似合いの黒と白を基調としたゴシックの雰囲気が漂うジルベリア風のドレスを身に纏ったシルフィリアと、こちらも盛装をしている小鈴は一般人の、主に男性から熱い視線を注がれていた。 人見知りしがちな性格から視線を集めることに緊張するのか小鈴は若干居心地が悪そうにも見える。 手土産に持参したワインをすれ違った開拓者仲間に渡したりしながら暫し歓談。 「素敵な薔薇園なのに意外と人少ないのね。あんまり人が多いと小鈴が萎縮しちゃうからあたいとしては人が少ないほうが助かるけど。 薔薇園で、素晴らしい薔薇の花々にかこまれて、薔薇のお菓子やお茶を打ち解けた人たちと過ごす、夢のような一時をこの子にも経験させてあげたかったの」 愛くるしい少女のような姿をした小鈴はシルフィリアをお姉ちゃん、と呼んで慕ってくるせいかシルフィリア自身も小鈴の母のように、姉のようにと愛情を注いでいる。 「もうちょっと人に慣れてくれればもっといろんなところへいけるんだけどね。まぁ焦らず気長に、かな」 「色んな場所知ってて仕事の息抜きです、とか言いながら教えてくれるんですよね、宮守さん。しらさぎはお手伝い系の依頼だと一人じゃ手が足りないことも多くて連れまわしてますね」 『マユキといっしょ、タノシイ』 「仲いいんだねぇ」 「シルフィリアさんと小鈴さんだって仲いいでしょう?」 「そうだね。かけがえのない家族だ」 ね、と小鈴に笑いかけるとうん、とあどけない笑顔ではにかむ姿が場をなごませたのだった。 ●饗宴は華やかに、そして艶やかに 三郷 幸久(ic1442)は恋人の葛 香里(ic1461)とまずはお茶を、と席を探しているときにすれ違った瑠李があまりにげっそりとやつれているので思わず「あとで薔薇園にいくからそれまで一緒にお茶でも」と声をかけていた。 「瑠李さん久しぶりだな。元気……ではなさそうだな。……会うたびにやつれていないか?」 心配そうな挨拶に大丈夫ですよ、と応える声はまったく大丈夫に聞こえない元気のなさである。 「招待状を配った成果を聞きにきた家族に薔薇は贈る本数にも意味があるのだとか萎れていては悪い花言葉になるだとか色にも気をつけろだとかほぼ徹夜で講習を受けさせられまして。結局招待状を押し付け……失礼、渡された時に言っていた『告白なら赤い薔薇の花束に限る』で演説は終わったのですが。……あぁ。太陽が黄色いですねぇ」 「まぁ、赤い薔薇の花束を贈られるのですか?でもお相手にあった花を瑠李様がお選びになる方がお相手の方もより喜ばれると思います」 「いえ、残念ながら愛の告白をするような相手はいませんよ。いたらここまで縁談攻撃がしつこくなることもないのでしょうが、中々」 香里の女性らしい目線のアドバイスを受けてすこし現実に戻ってきたらしい瑠李が肩をすくめる。 「……今ではないのですね。いずれ佳き方とご縁がありますように」 「有難うございます。今の生活環境ですと望みを持てるのは来世ですかね」 冗談なのか本気なのか分からない一言に幸久と香里は顔を合わせてそろって困ったように小首をかしげた。 運ばれてきた薔薇の花を使ったお茶や菓子を口に運ぶ三人。口の中に、園内に漂うのとはまた違った薔薇の香りが広がる。 「洋菓子を頂く機会も増えましたがこういった趣のお菓子は初めてですね。見た目も香りも華やかなのですね。美味しゅうございます」 にこりと笑う香里はどうやら気に入った模様。一方幸久はといえば。 「ん。美味いが口の中まで花の香りがするってなんだか不思議だな……。ああ、天儀にも桜茶はあるか。あれは桜餅っぽいから慣れ、なんだろうな。 でも瑠李さん、縁談を気にせず異性とお茶くらい楽しめたほうがいいよ。なぁ?香里さん」 「ガラスの茶器に塊のようなものを入れてお湯を注いで抽出時間を侍つ間花が開いていくのを眺めるという趣向の……工芸茶、でしたか。そういったものもあるそうですよ。蕾から開花までを見ているような気分になれるんだとか。 ……むしろ縁談を気にしなければ何方とでもお茶は楽しめるんですけれどね。交際や結婚と縁遠ければ縁遠いほど気が楽です」 「それもどうかと思うが……まぁあまりせっつくと余計追い詰めてしまうかな。恋は落ちるもの、というし」 緩やかに供されるお茶とお菓子を楽しんだ後二人は予定通り薔薇園を見に行くことに。 高い生垣が作られ、生垣自体が薔薇であったり生垣に蔦薔薇を這わせていたりと風景を変えながら広がっていく薔薇の迷路の入り口。白い薔薇が絡んだアーチを潜る時に幸久はそっと最愛の人の華奢な手を取った。 「迷路なんで逸れたら困るし……その、手を繋いでいかないか」 少し言い訳めいた言葉に頷きが返ってきたことに安堵して二人で薔薇の迷宮を散策する。 木陰になった場所で要所要所に休憩用のベンチやまるで小部屋のような広場があったりと見ていて飽きない造園技術が用いられていた。 「うん、流石にいい香りだ」 ベンチの一つに香里を導いたあと彼女に似合いの可憐な雰囲気を持つ白薔薇を一輪手折る。 棘の抜き方は手折っていいのかをこっそり聞きに言った時に教わっていたが指を傷つけて心配をかけないように慎重に。 「色とりどりの薔薇やその香りに夢中になると本当に迷子になってしまいそうですね……あら、幸久様? どうかなさいましたか?」 「これを、香里さんに」 髪にそっと薔薇を挿した後やっぱり白でよかった、と呟く。そのまま手は誘われるように淡く染まった頬へと伸びて。 「微かに染まった頬と同じ桃色もいいけれど香里さんには白が……ご、ごめ……っ」 頬に触れていたことに気付き慌てる幸久と、恥じらいながらも嫌ではない様子の香里。 初々しい二人の様子を咲き誇る薔薇達が見守っていた。 |