海辺で過ごす一日
マスター名:秋月雅哉
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 3人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/08/18 22:34



■オープニング本文

●夏の風物詩
「そういえば皆さんを依頼以外で海にお誘いした事がなかった気がしますね」
 いつもサボってばかりのギルド職員、宮守・瑠李(iz0293)はポン、と手を叩いた。
「行きましょう。西瓜の用意は任せてください」
 あの、瑠李さん。仕事はいいんですか。
「あぁ、夏の海といえば海鮮を混ぜたバーベキューもいいですかね。そちらの手配もしなければ」
 ……はい。何を言っても無駄のようです。完全に遊びの方のスイッチ入りました。
「水質が綺麗な海水浴場を教わったんですよ。少し沖まで行って潜れば魚も見られますよ」
 後は西瓜割りにかき氷に手持ち花火ですかね。
 わっくわっくしているのが目の輝きで分かるもうすぐ三十路の職員に呆れた視線が何対か注がれる。
「……アヤカシ退治ばかりでは神経磨り減るじゃないですか、皆さんも。息抜きは必要ですよ」
 じゃあアヤカシ退治をしない貴方は必要ないんじゃ?
「資料の整理や雨が降らない日を見計らって本の虫干しや実家から押し寄せてくる縁談を捌くので私の神経も磨り減ってるんです。いいじゃないですか、息抜きぐらい」
 彼の場合は息抜きの割合が多すぎる気がしなくもないが。
 そろそろ海月が出て海へは入るのが躊躇われる季節も近付いてきた。
 最後の海を、存分に楽しむのもいいかもしれない。


■参加者一覧
/ 礼野 真夢紀(ia1144) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / 雁久良 霧依(ib9706


■リプレイ本文

●夏の日差しと青い海と白い砂浜と
 潮の香りを風が運んでくる。海水浴にうってつけの良く晴れた空。遠くに見える入道雲。食べ物や飲み物、かき氷を売る屋台の呼び声。
「晴れてよかったねー♪ いっぱい遊ぶぞ♪」
 リィムナ・ピサレット(ib5201)はうーん、と伸びをしながら近くに迫った海に駆け寄った。
「こーら、リィムナちゃん。海に入るならちゃんと着替えと準備運動しないと。足攣ったら溺れちゃうわよ?」
 リィムナと泰大学文学科の寮で同室の雁久良 霧依(ib9706)はそのまま海とたわむれ始めそうなリィムナの首根っこを引っつかんで引き止める。
「あは♪ ついはしゃいじゃった。霧依さん、向こうに更衣室あるみたいだから着替えて泳ごうよ。それから鞠を投げあったり鬼ごっこしたり西瓜割りにバーベキューも!」
「ふふ、よっぽど楽しみにしてたのねぇ。今行くわ。……瑠李さんも一緒に着替える?」
「……いえ、私がご一緒するととんでもない騒ぎになりますし職を失いたくはないので大人しく男性用更衣室で着替えさせていただきます」
 どこまで本気か分からない霧依の言葉に眼鏡の位置を直しながら宮守 瑠李(iz0293)が慎重に答えを返す。
「残念。色っぽいお誘いは得意なんだけど仕事を採られちゃうかー。腕落ちたかしら」
「……首になったら皆さんとこうしてお出かけする機会もなくなるということで、一つ」
 はぐらかすように曖昧な笑みを浮かべて言葉を続ける瑠李にウィンクすると女性二人は女性用更衣室に、男性である瑠李は男性用更衣室にと向かったのだった。
 身体に水着の日焼け跡を残したリィムナは前掛ビキニに、霧依は艶やかな黒が大人の魅力を引き立てるビキニに着替えて海辺へ再び立っていた。
 霧依は上に白いシャツを羽織っている。
「あら、瑠李さんその格好……」
 普段は袍のような服装をしている瑠李だが更衣室にいったからには水着でくるだろう、という二人の予想を裏切って濃紺の作務衣だった。
「水着じゃないんだ?」
「えぇ。似合わないので」
「だったら最初からその格好でくればよかったのに」
「……それもそうですね」
「それにせめて甚平とか。裾濡れるわよ?」
「帰りはまた着替えますから大丈夫ですよ」
「瑠李さん、実は男装してて女の人ってことを隠してるからそんな格好を!?」
 霧依の一緒に着替えに行くか、にはある程度余裕を見せて断っていた瑠李だったがリィムナのこの叫びには流石に目を剥いた。
「こんなにゴツイ女性が何処にいるんですか……っ」
「ゴツくはないでしょう。背は高いけれど」
「縁談断り続けてるって聞くし……ねぇ?」
「男ですから!」
 げっそりした様子の瑠李の反応に女性陣は満足したらしく楽しげにくすくすと笑う。
「じゃあまずは鞠で遊びましょうか。三角形になれば全員参加できるわね」
 リィムナが霧依へ。霧依が瑠李へ。瑠李がリィムナへ。鞠が三人の間を行き交う。ゆっくりと投げているからか存外長い間落ちる事無く鞠は舞い続けた。
「次は鬼ごっこしよー?」
 半刻ほど鞠とたわむれた三人はリィムナの提案で鬼ごっこへ移行することに。
「私が鬼をやるわね。捕まえたらくすぐりの刑よ♪」
 霧依の言葉にリィムナと瑠李が逃げるために駆け出す。
 小柄なリィムナと女性にしては長身の霧依では歩幅に差が出て霧依は程なくリィムナを捕まえた。
「リィムナちゃん捕獲ー♪」
「ひゃあっ霧依さんくすぐったいい! 反撃だっ♪ あはは、柔らかーい♪」
 きゃっきゃとたわむれる二人を他の海水客がうらやましそうに眺めているのを見て危機感を感じた瑠李は二人から一定の距離を置いた。
「瑠李さーん、西瓜割りするよー。あ、その前にバーベキューか」
「分かりました」
 突き刺さるような男性客からの視線に間違っても自分の視線があうことのないよう気をつけながら開けていた距離を詰める。
「具材、色々用意してますからたくさん食べてくださいね」
「はーい♪」
「リィムナちゃん、ピーマンやニンジンもきちんと食べるのよ?」
 からかう調子で霧依がリィムナに挙げたのは子供が嫌いな傾向の多い野菜二つ。
「むー、子ども扱いしてー!」
「ふふ、だって悪戯とかオネショとか」
「わーっ! ストップ!」
 霧依の言葉を途中から大声でかき消そうとするが近くにいた人の耳にはしっかり届いただろう。
「心を鬼にしてお尻を叩いて躾けてあげてるのよね。お尻柔らかくて叩き心地は最高♪」
「霧依さん絶対楽しんでるでしょ!?」
 そんな話をしながら魚介や肉、野菜を焼いては食べる。瑠李はとばっちりを食わないようにひたすら焼く係に徹していた。
 西瓜割りでは大人二人が遠慮してリィムナに一番手を譲ると的確な指示を飛ばして見事一撃のもと割れた西瓜を仲良く車座になって食べる。
「はー。食べた食べた。おなか一杯だよー」
「海に入る前に少し休憩しましょうか」
「じゃあお二人が海に入ってる間私は片づけをしておきますので」
「遠慮しないで瑠李さんも入ればいいのに。折角海に来たんだから」
「そうだよ、片付けはみんなでしたほうが早いし」
「泳ぎがあまり得意ではないので……」
「そういわれると泳がせたくなるなー」
「……遠慮させてください」
 苦笑交じりに頭を下げた後拝む瑠李にリィムナはまだ少し不服そうに頷いた。
 その後なにかひらめいた様子でヴォ・ラ・ドールを使って霧依のビキニトップを奪うと同時に「夜」を発動させる。
 時間が止まっている間にビキニトップを瑠李に持たせて自分は元の位置へ。
「……あら?」
 シャツで隠れてはいるもののビキニトップがないことに気付いた霧依が首を傾げたあとゆっくり辺りを見渡す。
 今まで自分がつけていたはずの黒いビキニトップが瑠李の手の中に。
「瑠李さん、これはどういうことかしら? 言ってくれれば全部脱いであげたのに♪」
「は…え!? いえ、私は何も……!?」
 霧依の発言で自分の手の中身に初めて気付いて慌てふためく瑠李をここぞとばかりにからかう霧依とその騒ぎを楽しげに見届けるリィムナ。
 わたわたしながら瑠李が返したビキニトップを木陰でシャツを脱いで着用しなおした霧依がくすくすと笑う。
「大胆なまねをする割に反応が初心なのね」
「いえ! ですから私は無実で……!」
「ふふ、照れなくていいのよ。仕事を首になる覚悟でちょっかい出して貰えるなんて光栄だわ」
「霧依さん!」
 赤くなったり青くなったりと忙しい瑠李がそろそろ酸欠になりそうだ、とからかうのを止めると改めて海へ誘う。
 波打ち際で海水を掛け合ったり少し泳いだり砂の城を作ったり。
 盛夏の一日はあっという間にすぎていく。
「名残惜しいけれどそろそろ片付けして帰らないとね」
「あー、もうそんな時間かぁ。楽しいと過ぎてくのあっという間だねぇ」
「そうですね……では片づけを」
 食材がお腹に収まった分多少軽くなった荷物を抱えて着替えを終えた三人は帰り道を辿る。
「あの、霧依さん。水着ですが私は本当に……」
「ふふ、分かってるわ。本当の犯人はリィムナちゃんよ」
 当の本人に聞こえないように囁き返してからかってごめんなさいね、とウィンクする霧依。
「……できればその場で糾していただきたかったですが……濡れ衣だとわかっていただけているのでしたら、なによりです」
「リィムナちゃんには帰ってからお仕置きしておくから♪」
「はぁ……」
「二人ともどうしたのー?」
「なんでもないわよ。さ、部屋に戻りましょう」
 瑠李はギルドに顔を出してから自室に戻るというのでそこで別れ霧依とリィムナは泰大学文学科の寮の部屋へと戻ってきた。
「さて、リィムナちゃん。お仕置きタイムよ♪」
「へ!? 何もしてないよ!?」
「ビキニトップ盗んで瑠李さんに持たせたでしょう? 分かってるんだから」
「あーん、ばれてないと思ったのにー。ノリノリでからかってたじゃない!」
「あぁしないとますます瑠李さんが悩むと思ったしまぁ楽しかったから。でも手癖の悪い子にはお仕置きしないとね♪ お尻ぺんぺん百叩きよ」
 楽しげにリィムナを抱え込む霧依の笑い声と許しを乞うリィムナの叫び声が寮の部屋から外へと響き渡ったのだった。